説明

レーザ加工方法

【課題】 加工手順として必要なピアッシング孔の穿孔は残しながら、単位加工時間に対して占めるピアッシング孔穿孔時間の割合を減少させ、全加工時間を短縮する。
【解決手段】 1枚の原板2に対して複数の部材からなるネスティングデータ1を生成し、このネスティングデータ1に従ったレーザ加工の切断により、前記複数の部材を材料取りするに際し、ネスティングデータ1におけるピアッシング孔穿孔データを複数の部材切断データ13,15で共通に設け、前記ピアッシング孔穿孔データに基づいて穿孔したピアッシング孔21からこのピアッシング孔穿孔データを共通にする各部材に向けて助走線12を形成するレーザ加工方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1枚の原板に対して複数の部材からなるネスティングデータを生成し、このネスティングデータに従ったレーザ加工の切断により、前記複数の部材を材料取りするレーザ加工方法に関する。
【0002】
本発明において、ネスティングデータは「ピアッシング孔穿孔データ」、「助走線形成データ」及び「部材切断データ」からなり、前記各データに基づいて穿孔又は切断されたものを「ピアッシング孔」、「助走線」及び「部材」と呼ぶ。
【背景技術】
【0003】
レーザ加工により、1枚の原板から複数の部材を材料取りする場合、各部材のCADデータを基礎として原板に対するネスティングデータを生成し、このネスティングデータから作成したNCデータに基づいてレーザ加工機を制御する。従来は、各部材が独立していることから、特許文献1掲載の図5に見られるように、各部材切断データ毎にピアッシング孔穿孔データを設け、穿孔した各ピアッシング孔からそれぞれの部材に向け、助走線形成データに従って助走線を形成していた。すなわち、原板に対するネスティングデータは、前記部材単位のネスティングデータの単純な組み合せであった。
【0004】
【特許文献1】特開2000-079488号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
1枚の原板から各部材を材料取りする際に要する単位加工時間は、原板にピアッシング孔を穿孔する時間(ピアッシング孔穿孔時間)、前記ピアッシング孔から各部材に向けて助走線を形成する時間(助走線形成時間)、そして各部材の外形を切断する時間(部材切断時間)の合計からなる。また、1枚の原板から全部材を材料取りする全加工時間は、前記各部材に要する単位加工時間の合計からなる。
【0006】
材料取りに要する全加工時間が短ければ、レーザ加工を施す原板の数を増やすことができる。この点、部材切断時間は部材の形状によって決定されてしまうため、時間短縮することができない。また、助走線形成時間は、単位加工時間に占める割合も少ないため、あまり時間短縮に貢献しない。これに対し、ピアッシング孔穿孔時間は、板厚に比例して長くなる傾向にあり、単位加工時間に締める割合が大きく、問題となる。
【0007】
しかし、レーザ加工による溶融物(以下、「ドロス」と呼ぶ。)の付着を抑制して良質な部材を材料取りするには、穿孔したピアッシング孔から各部材に向けた助走線を形成する手順は欠かせない。そこで、加工手順として必要なピアッシング孔の穿孔は残しながら、単位加工時間に対して占めるピアッシング孔穿孔時間の割合を減少させ、全加工時間を短縮するため、検討した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
検討の結果開発したものが、1枚の原板に対して複数の部材からなるネスティングデータを生成し、このネスティングデータに従ったレーザ加工の切断により、前記複数の部材を材料取りするに際し、ネスティングデータにおけるピアッシング孔穿孔データを複数の部材切断データで共通に設け、前記ピアッシング孔穿孔データに基づいて穿孔したピアッシング孔からこのピアッシング孔穿孔データを共通にする各部材に向けて助走線を形成するレーザ加工方法である。
【0009】
本発明のレーザ加工方法は、まず最初の部材を材料取りする際に、前記最初の部材を含む複数の部材に共通なピアッシング孔を穿孔し、続く2つ目の部材を材料取りする際は新たにピアッシング孔を穿孔することなく、先に穿孔したピアッシング孔に戻ってレーザを発射し、前記2つ目の部材に向けて助走線を形成していく。これにより、2つ目以降の部材にピアッシング孔穿孔時間が不要となり、それだけ単位加工時間、更には全加工時間を短縮できる。
【0010】
ここで、本発明に言う「ピアッシング孔」は、レーザ加工機のレーザにより穿孔される狭義のピアッシング孔はもちろん、このピアッシング孔を中心として開孔され、助走線の始端を形成する開始端孔を含む。各部材は、ピアッシング孔(狭義のピアッシング孔又は前記開始端孔)から各助走線だけ離れているため、先に穿孔したピアッシング孔に戻ってレーザを発射した際にドロスが発生しても、このピアッシング孔を共通にする複数の部材が影響を受ける虞はない。
【0011】
ネスティングデータにおけるピアッシング孔穿孔データは、隣り合う2つの部材切断データの中間線上に設けるとよい。ピアッシング孔穿孔データを隣り合う2つの部材切断データで共通にするだけでも、単位加工時間、更には全加工時間を約半分に短縮できる。また、ピアッシング孔穿孔データを隣り合う2つの部材切断データの中間線上に設けることで、各部材に向けた助走線が略等しくなり、ピアッシング孔を共通にすることによる助走線形成時間の増加を抑制又は防止できる。これから、ネスティングデータにおけるピアッシング孔穿孔データを、隣り合う3以上の部材切断データそれぞれから略等距離となる中間点に設けるとよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、1つのピアッシング孔に割り当てる部材数が増えるほど必要なピアッシング孔を減らす、すなわちピアッシング孔穿孔時間が単位加工時間に占める割合を減らして、結果全加工時間を短縮する効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図を参照しながら説明する。図1は本発明に従って生成されたネスティングデータ1を当て嵌めた原板の例を表す斜視図、図2〜図7はピアッシング孔穿孔データ11を隣り合う2つの部材切断データ13,15の中間線上に設けたネスティングデータ1に従ってレーザ加工により材料取りする手順を表した図1中部分斜視図であり、図2はピアッシング孔21の穿孔手順、図3は最初の部材23に向けた助走線22の形成手順、図4は最初の部材23の切断手順、図5はピアッシング孔21上へレーザノズル3を戻す復帰手順、図6はピアッシング孔21へレーザ31を発射する再開手順、図7は2つ目の部材25に向けた助走線形成手順をそれぞれ表している。各図における部材切断データ13,15は、説明の便宜上、間隔を大きくあけている。
【0014】
図2〜図7中、原板2とレーザノズル3とを離隔し、発射するレーザ31が見えるように図示しているが、これは説明の便宜上のものであり、実際にはレーザ31が見えないほどレーザノズル3は原板2に近接している。また、各図中、ピアッシング孔穿孔データ11、助走線形成データ12,14及び部材切断データ13,15からなるネスティングデータ1を破線で表示し、ピアッシング孔21、助走線22,24及び部材23,25を実線で表示している。
【0015】
原板2に対するネスティングデータ1は、図1に見られるように、各部材のCADデータを基礎として効率よく材料取りできるように生成される。本例では、同種の部材を2つずつ組にしてピアッシング孔を共通にするため、ピアッシング孔穿孔データ11を中心に点対称の位置関係で2つずつ部材切断データ13,15を配置している。これから、ネスティングデータ1におけるピアッシング孔穿孔データ11は、組とした2つの部材切断データ13,15の中間線M上に設けられることになり、各部材切断データ13,15の同じ位置に向けた助走線形成データ12,14は等しい長さになる。
【0016】
このネスティングデータ1に従った材料取りは、次の手順に従う。まず、図2に見られるように、最初にピアッシング孔穿孔データ11に従って、レーザノズル3からレーザ31を発射し、原板2にピアッシング孔21を穿孔する。例えば、出力4kWのレーザを用いてステンレス鋼からなる原板2にピアッシング孔21を穿孔する場合、板厚が1mmであればピアッシング孔穿孔時間は1秒程度であるが、板厚が9mmであればピアッシング孔穿孔時間は7秒程度となる。これから、本発明は、原板2の板厚が増すほどに効果が高くなることが理解される。
【0017】
ピアッシング孔21の穿孔が終われば、最初の部材23についての材料取りは従来同様で、図3に見られるようにピアッシング孔21から助走線形成データ12に従ってレーザノズル3を移動させて助走線22を形成してから、図4に見られるように、部材切断データ13に従ってレーザノズル3を移動させて部材23を切断していく。
【0018】
本発明の特徴は、最初の部材23の材料取りを終えた後、図5に見られるように、レーザの発射を一時中断してレーザノズル3を先に穿孔したピアッシング孔21上に移動させ、このピアッシング孔21を利用して2つ目の部材25の材料取りを実施する点にある。移動させたレーザノズル3は、図6に見られるように、既に穿孔されているピアッシング孔21に対してレーザ31の発射を再開し、続いて図7に見られるように、2つ目の部材(図7中は未だ部材切断データ15のまま)に向けてレーザノズル3を移動させて助走線24を形成していく。2つ目の部材の材料取りに際し、既に穿孔しているピアッシング孔21を利用することで、この2つ目の部材の単位加工時間におけるピアッシング孔穿孔時間が省略できることになり、全加工時間も短縮される。
【0019】
図8は本発明に従って生成されたネスティングデータ1を当て嵌めた原板2の別例を表す斜視図である。より多くの部材に対してピアッシング孔を共通にする場合、図8に見られるように、ネスティングデータ1におけるピアッシング孔穿孔データ11を中心として点対称及び線対称の位置関係に、隣り合う4つの部材切断データ13,15,17,19を配し、前記ピアッシング孔穿孔データ11から各部材切断データ13,15,17,19に向けて略等しい助走線形成データ12,14,16,17を設けるとよい。
【0020】
ピアッシング孔穿孔データに割り当てる部材切断データの数は、各部材の形状や大きさ等を勘案して決定する。ピアッシング孔穿孔データ、助走線形成データ及び部材切断データからなるネスティングデータは、部材のCADデータを基礎として、ソフトウェア的に自由に生成できるため、ピアッシング孔穿孔データに割り当てる部材切断データの数も自由に変更できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に従って生成されたネスティングデータを当て嵌めた原板の例を表す斜視図である。
【図2】ピアッシング孔の穿孔手順を表した図1中部分斜視図である。
【図3】最初の部材に向けた助走線の形成手順を表した図1中部分斜視図である。
【図4】最初の部材の切断手順を表した図1中部分斜視図である。
【図5】ピアッシング孔上へレーザノズルを戻す復帰手順を表した図1中部分斜視図である。
【図6】ピアッシング孔へレーザを発射する再開手順を表した図1中部分斜視図である。
【図7】2つ目の部材に向けた助走線形成手順を表した図1中部分斜視図である。
【図8】本発明に従って生成されたネスティングデータを当て嵌めた原板の別例を表す斜視図である。
【符号の説明】
【0022】
1 ネスティングデータ
11 ピアッシング孔穿孔データ
12 最初の部材の助走線形成データ
13 最初の部材の部材切断データ
14 2つ目の部材の助走線形成データ
15 2つ目の部材の部材切断データ
16 3つ目の部材の助走線形成データ
17 3つ目の部材の部材切断データ
18 4つ目の部材の助走線形成データ
19 4つ目の部材の部材切断データ
2 原板
21 ピアッシング孔
22 最初の部材の助走線
23 最初の部材
24 2つ目の部材の助走線
3 レーザノズル
31 レーザ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1枚の原板に対して複数の部材からなるネスティングデータを生成し、該ネスティングデータに従ったレーザ加工の切断により、前記複数の部材を材料取りするに際し、ネスティングデータにおけるピアッシング孔穿孔データを複数の部材切断データで共通に設け、前記ピアッシング孔穿孔データに基づいて穿孔したピアッシング孔から該ピアッシング孔穿孔データを共通にする各部材に向けて助走線を形成することを特徴とするレーザ加工方法。
【請求項2】
ネスティングデータにおけるピアッシング孔穿孔データは、隣り合う2つの部材切断データの中間線上に設ける請求項1記載のレーザ加工方法。
【請求項3】
ネスティングデータにおけるピアッシング孔穿孔データは、隣り合う3以上の部材切断データそれぞれから略等距離となる中間点に設ける請求項1記載のレーザ加工方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate