説明

レーザ加工方法

【課題】加工プログラムを変えることなく、レーザ加工機側で、ワークに適切なミクロジョイント条件を設定できるようにする。
【解決手段】
入力されたNC加工プログラムを実行するレーザ加工機1側に、ミクロジョイント設定プログラムを組み込んでおき、レーザ加工機1側で、ミクロジョイント設定の有無の選択およびミクロジョイント条件を入力することで、ミクロジョイント設定有りのときに、レーザ加工機1によってミクロジョイント設定プログラムを実行し、前記NC加工プログラムによる切断輪郭線の一部にミクロジョイント条件を設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工機によるレーザ加工方法、特に、板状のワークに微小な距離の切り残しによりミクロジョイントを形成するための条件設定に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、ワークのレーザ切断時に切り抜き部分の跳ね上がりや切断後の落下を防止するために、ミクロジョイントの条件設定に関する技術を開示している。特許文献1などに記載されているように、従来、ミクロジョイントの条件設定には、通常、加工プログラムを変更する必要があり、CAM作業者(NC加工プログラムの作成者)の負担が大きくなる。
【0003】
また、NC加工プログラムにミクロジョイントの設定が組み込まれていたとしても、レーザ加工機のオペレータは、ミクロジョイントの設定の有無を自由に選択できず、しかもミクロジョイントの設定条件もワークの加工状況に合わせて、実際の加工現場では変更できない。
【0004】
一方、NC加工プログラムの作成段階で、ミクロジョイントの形成のために、すべてのワークに共通となるように、ミクロジョイントの距離を大きく設定すると、ワークの取り外しが非常に困難となり、作業者の負担が大きくなってしまう。このため、ミクロジョイントの距離は、できるだけ小さく、加工条件に適合する一定の値であることが重要となるが、加工対象のワークの種類やその板厚によっては、適正なミクロジョイントの距離が不安定になってしまうことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−190576公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の課題は、NC加工プログラムを変えることなく、レーザ加工機側でワークの加工状況に応じて適切なミクロジョイント条件を設定できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題のもとに、本発明は、レーザ加工機側のミクロジョイント設定プログラムによってミクロジョイント設定の有無の選択およびミクロジョイント条件を入力することで、ミクロジョイント設定有りのときに、NC加工プログラムによる切断輪郭線の一部に通常の切断加工条件に代えてミクロジョイント条件を設定できるようにしている。
【0008】
具体的に記載すると、本発明に係るレーザ加工方法は、入力されたNC加工プログラムを実行するレーザ加工機側に、ミクロジョイント設定プログラムを組み込んでおき、レーザ加工機側で、ミクロジョイント設定の有無の選択およびミクロジョイント条件を入力することで、ミクロジョイント設定有りのときに、レーザ加工機によってミクロジョイント設定プログラムを実行し、前記NC加工プログラムによる切断輪郭線の一部にミクロジョイント条件を設定するようにしている(請求項1)。
【0009】
前記レーザ加工方法において、ミクロジョイント条件は、前段の実行距離および後段のビームオフ距離により設定される(請求項2)。
【0010】
前記レーザ加工方法において、ミクロジョイント条件は、連続した切断輪郭線の最終ブロックの終点に設定される(請求項3)。
【0011】
前記レーザ加工方法において、ミクロジョイント条件は、連続した切断輪郭線の中間ブロックの終点に設定される(請求項4)。
【0012】
前記レーザ加工方法において、ミクロジョイント条件は、前段の実行距離および後段のビームオフ距離のほかに、ビーム出力、ビームのデューティ、出力周波数、アシストガス種、アシストガス圧、ギャップ量および加工ヘッドの送り速度から1または2以上の条件を設定可能とされている(請求項5)。
【0013】
前記レーザ加工方法において、ミクロジョイント条件は、ワークの材質、板厚毎に設定可能とされている(請求項6)。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るレーザ加工方法によると、NC加工プログラムを変えることなく、レーザ加工機側の条件設定によりミクロジョイントの形成が可能となり、しかもミクロジョイント設定の有無がレーザ加工機のオペレータ側で加工状況に応じて自由に選択できる(請求項1)。
【0015】
前記レーザ加工方法において、ミクロジョイント条件として前段の実行距離と後段のビームオフ距離とが設定されると、レーザオフとしてミクロジョイントを形成する前に、ミクロジョイント条件を適正な値に切り換えられるため、ワークに理想的な寸法や形状のミクロジョイントの形成が可能となる(請求項2)。
【0016】
前記レーザ加工方法において、ミクロジョイントが切断輪郭線の最終ブロックの終点に設定されると、ミクロジョイントの形成のためのレーザオフがそのまま加工終了のレーザオフにつながるため、レーザの発振のオンオフ回数が少なくなり、制御が簡単になる(請求項3)。
【0017】
前記レーザ加工方法において、ミクロジョイント条件が切断輪郭線の中間ブロックの終点に設定されると、切り出し部分の反り返りや落下が確実に防止でき、安定な切断が可能となる(請求項4)。
【0018】
前記レーザ加工方法において、ミクロジョイント条件として前段の実行距離および後段のビームオフ距離のほかに、ビーム出力、ビームのデューティ、出力周波数、アシストガス種、アシストガス圧、ギャップ量および加工ヘッドの送り速度から1または2以上の条件が設定可能とされておれば、これらの条件からも、適切な条件設定が可能となる(請求項5)。
【0019】
前記レーザ加工方法において、ミクロジョイント条件がワークの材質、板厚毎に設定可能とされていると、最も適切なミクロジョイント条件が材質、板厚に適切な値として設定できる(請求項6)。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係るレーザ加工方法を適用するレーザ加工機のシステムのブロック線図である。
【図2】本発明に係るレーザ加工による切断輪郭線(加工経路)の説明図である。
【図3】本発明に係るレーザ加工方法による加工状況の説明図である。
【図4】本発明に係るレーザ加工方法の設定画面の説明図である。
【図5】本発明に係るレーザ加工方法による動作のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、本発明に係るレーザ加工方法を適用するレーザ加工機1のレーザ加工システムを示している。図1において、レーザ加工機1の加工ヘッド2は、例えば5軸制御可能な駆動装置3によって、NC装置4からの指令やNCデータにもとづいて運動経路、姿勢、送り速度などを制御され、加工対象のワーク5にレーザビームをあて、ワーク5を所定の切断経路にそって溶断により切断する。
【0022】
加工ヘッド2のレーザビームは、レーザ発振器6から出力される。レーザ発振器6の出力は、レーザ制御装置7によって制御され、通常の切断加工およびミクロジョイントの形成に際して、NC装置4からの指令やNCデータ、入力操作器8からの設定データを参照して、加工位置に適切な値に調節される。
【0023】
NC装置4およびレーザ制御装置7は、NC加工プログラムやオペレータによる対話式の入力操作器8からの指令および設定データにもとづいて作動する。なお、入力内容や設定内容は、入力操作器8のディスプレイ9の画面によって視覚的に確認できるようになっている。
【0024】
制御装置10は、NC装置4を動作させるために、自動プログラミング装置11からのプログラム指令を参照しながら、NC加工プログラムの作成者によって入力されるNCデータにもとづいて、NC加工プログラムを作成し、作成したNC加工プログラムをNC装置4に送り込んでいる。
【0025】
図2は、連続的な切断経路の切断輪郭線12を示している。切断輪郭線12は、各種の自由曲線や、1または2以上の自由曲線と直線との組み合わせからなる完全に閉じた形状であるが、図2は、その一例として4本の直線を組み合わせた長方形の四隅の点P1、P2、P3、P4からなる切断輪郭線12を示している。
【0026】
加工ヘッド2のレーザビームは、切断開始のために、例えば辺P1・P2の延長線上の開始点P0でピアシング加工(孔明け加工)を行い、その後に、辺P0・P1、辺P1・P2、辺P2・P3、辺P3・P4、辺P4・P1の移動順序でそれらの和の距離Aにわたって連続的に切断加工を行う。
【0027】
この切断加工のために、NC加工プログラムの作成者は、自動プログラミング装置11からのプログラム指令を参照しながら、ピアシング加工の開始点P0から点P1の経路、および切断輪郭線12(長方形の点P1、P2、P3、P4の切断加工経路)のXYZ座標のデータおよび各種加工条件のデータをNCデータとしてNC加工プログラムに設定する。
【0028】
図3は、ワーク5の上でミクロジョイント13の形成位置を示している。ミクロジョイント13は、一般に、閉じた連続的な加工輪郭線12の最終ブロック(辺P4・P1のブロック)の終点に形成される。その設定は、ビームオフ距離C(点P1と点p2との間の距離)として設定されるが、そのときの加工方向の前段に実行距離B(点p1と点p2との間の距離)も設定される。このため、ミクロジョイント13の設定条件は、少なくとも距離Aの最終ブロックの終点位置において、前段の実行距離Bおよび後段のビームオフ距離Cにより設定される。このように、ミクロジョイント13は、加工輪郭線12の上に形成されるから、NC加工プログラムのNCデータは、ミクロジョイント設定の有無にかかわらず変わらない。
【0029】
ミクロジョイント条件としの前段の実行距離Bは、ミクロジョイント13の形成のための前準備のために必要な距離であり、ビームオフ距離Cは、レーザビームをオフとしてワーク5を溶断しないための距離つまりミクロジョイント13の形成長さに対応している。これらの実行距離Bおよびビームオフ距離Cは、ワーク4の材質、板厚毎に適切な値として設定可能となっている。
【0030】
そして、本発明に係るレーザ加工方法は、制御装置10から入力されたNC加工プログラムを実行するレーザ加工機1の側、例えばレーザ制御装置7の内部に、ミクロジョイント設定プログラムを組み込んでおき、レーザ加工機1の側で、入力操作器8によってミクロジョイント設定の有無を選択し、ミクロジョイント条件の設定を行えるようになっている。
【0031】
ミクロジョイント設定プログラムは、NC加工プログラムにミクロジョイント条件を設定するために、NC加工プログラムの実行距離Bおよびビームオフ距離Cに対応する区間のブロック、図3の例によると、最終ブロックとしての辺P4・P1の終点ブロックにおいてNC加工プログラムのXYZ座標のデータを変更しないまま、前段の実行距離Bおよび後段のビームオフ距離Cの区間で、加工ヘッド2のレーザビームについて通常の切断加工条件に代えてミクロジョイント条件を設定する。
【0032】
ミクロジョイント条件は、前記の実行距離Bおよびビームオフ距離Cのほかに、ワーク4の材質、板厚に応じて、ビーム出力、ビームのデューティ比、出力周波数、アシストガス種、アシストガス圧、ギャップ量および加工ヘッドの送り速度から1または2以上の必要な条件を設定可能となっている。
【0033】
図4は、入力操作器8のディスプレイ9による表示画面14の一例を示している。表示画面14上で、ワーク5の材質、板厚などは、表示欄15、16に表示できるようになっており、通常の切断加工条件(アプローチNo.、ノズル種およびアシストガス種)は、表示欄20のエッジNo.(加工経路のNo.)に対応させて表示欄17に表示できるようになっている。
【0034】
オペレータは、表示画面14において、ミクロジョイント条件を入力するとき、エッジNo.毎に、実行距離B、ビームオフ距離C、および条件No.(ビーム出力、ビームのデューティ比、出力周波数、アシストガス種、アシストガス圧、ギャップ量および加工ヘッドの送り速度)を入力欄18に、番号(パラメータNo.)として設定するか、または入力操作器8のテンキーにより、または表示画面14にポップアップ操作により表示したテンキーにより実際の数値として設定し、また、有効/無効(ミクロジョイント設定の有無)をタッチキー19により選択する。パラメータNo.に対応するデータは、データテーブルとして記憶されており、図示しないが、必要に応じて表示画面14の切り換えによってディスプレイ9上で確認できるようになっている。
【0035】
図5は、加工動作の順序を示している。オペレータが入力操作器8を操作して、レーザ加工機1を運転スタートの状態にすると、NC装置4は、NC加工プログラムを開始し、ステップS1で、制御装置10からNCデータを取り込み、ステップS2で、ミクロジョイント条件としてのミクロジョイント設定の有無(有効無効)を判断する。
【0036】
ステップS2での判断の結果、ミクロジョイント設定が無し(N)のときに、NC装置4は、ステップS4で、NC加工プログラムを実行し、設定されているピアス条件にもとづいてピアシングを行い、つぎに切断加工条件にもとづいて切断輪郭線12にそってワーク4を距離Aにわたって切断し、切断輪郭線12の内部をワーク4から切り抜き、加工を終了する。
【0037】
ステップS2での判断の結果、ミクロジョイント設定が有り(Y)のときに、レーザ加工機1は、NC加工プログラムに、予め入力されているミクロジョイント条件を設定してから、ステップS4でNC加工プログラムを実行し、ピアシングを行い、次に切断輪郭線12の加工経路にそって辺P1・P2、辺P2・P3、辺P3・P4、辺P4・P1の順にワーク5を切断して行く。
【0038】
そして、最終ブロックの辺P4・P1の切断中に、加工ヘッド2が点p1の位置に到達した時点で、レーザ加工機1は、今までの切断加工条件に代えて、予め設定されているミクロジョイント条件にもとづいて、実行距離Bの区間で適正なミクロジョイント条件を調整した後、加工ヘッド2が点p2の位置に到達した時点で、レーザビームオフ(レーザ発振器6の発振出力オフ)として、ビームオフ距離Cの区間に安定な大きさの切り残しによりミクロジョイント13を正確に形成する。なお、レーザビームオフのときに、加工ヘッド2のシャッタは開、アシストガスオンのままでもよい。
【0039】
このようにミクロジョイント13は、NC加工プログラムやNC加工データを変更することなく、換言すると切断輪郭線12の加工経路を変更しないまま、加工状況に応じてレーザ加工機1側のミクロジョイント条件の設定により切断輪郭線12の一部にミクロジョイント13の形成を可能とする。
【産業上の利用可能性】
【0040】
以上の例は、直線経路の切断輪郭線であるが、既述のように、切断輪郭線は、各種の曲線や直線の組み合わせとして設定することもできる。また、ミクロジョイント13の形成は、最終ブロックの終点のほかに、必要に応じて、中間ブロックの終点に設定することもできる。
【符号の説明】
【0041】
1 レーザ加工機
2 加工ヘッド
3 駆動装置
4 NC装置
5 ワーク
6 レーザ発振器
7 レーザ制御装置
8 入力操作器
9 ディスプレイ
10 制御装置
11 自動プログラミング装置
12 切断輪郭線
13 ミクロジョイント
14 表示画面
15 表示欄
16 表示欄
17 表示欄
18 入力欄
19 タッチキー
20 表示欄
A 距離
B 実行距離
C ビームオフ距離
P0 開始点
P1、P2、P3、P4、p1、p2 点
S1、S2、S3、S4 ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力されたNC加工プログラムを実行するレーザ加工機側に、ミクロジョイント設定プログラムを組み込んでおき、レーザ加工機側で、ミクロジョイント設定の有無の選択およびミクロジョイント条件を入力することで、ミクロジョイント設定の有りのときに、レーザ加工機によってミクロジョイント設定プログラムを実行し、前記NC加工プログラムによる切断輪郭線の一部に前記ミクロジョイント条件を設定する、ことを特徴とするレーザ加工方法。
【請求項2】
ミクロジョイント条件を前段の実行距離および後段のビームオフ距離により設定する、ことを特徴とする請求項1記載のレーザ加工方法。
【請求項3】
ミクロジョイント条件を連続した切断輪郭線の最終ブロックの終点に設定する、ことを特徴とする請求項1または請求項2記載のレーザ加工方法。
【請求項4】
ミクロジョイント条件を連続した切断輪郭線の中間ブロックの終点に設定する、ことを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載のレーザ加工方法。
【請求項5】
ミクロジョイント条件として前段の実行距離および後段のビームオフ距離の他に、ビーム出力、ビームのデューティ、出力周波数、アシストガス種、アシストガス圧、ギャップ量および加工ヘッドの送り速度から1または2以上の条件を設定可能とする、ことを特徴とする請求項2記載のレーザ加工方法。
【請求項6】
ミクロジョイント条件をワークの材質、板厚毎に設定可能とする、ことを特徴とする請求項2または請求項5記載のレーザ加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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