レーザ加工方法
【課題】加工対象物とは異なる屈折率を有する部材を介して照射されたレーザ光であっても、加工対象物の内部に改質領域を形成する。
【解決手段】加工対象物1と、加工対象物1とは屈折率が異なるエキスパンドテープ20と、を積層する。加工対象物1の内部でレーザ光Lが集光するように、エキスパンドテープ20を介して加工対象物1にレーザ光Lを照射する。すなわち、レーザ光Lは、エキスパンドテープ20を透過し、加工対象物1の内部で集光する。これにより、レーザ光Lが集光する加工対象物1の内部において改質領域7が形成される。
【解決手段】加工対象物1と、加工対象物1とは屈折率が異なるエキスパンドテープ20と、を積層する。加工対象物1の内部でレーザ光Lが集光するように、エキスパンドテープ20を介して加工対象物1にレーザ光Lを照射する。すなわち、レーザ光Lは、エキスパンドテープ20を透過し、加工対象物1の内部で集光する。これにより、レーザ光Lが集光する加工対象物1の内部において改質領域7が形成される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工対象物に改質領域を形成するためのレーザ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来における上記技術分野のレーザ加工方法として、例えば波長1300nmのレーザ光を板状の加工対象物に照射することにより、加工対象物の切断予定ラインに沿って、切断の起点となる改質領域を加工対象物に形成するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−108459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、加工対象物に直接レーザ光を照射するのではなく、加工対象物とは異なる屈折率を有する部材を介して加工対象物にレーザ光を照射し、加工対象物の内部に改質領域を形成したいという要望がある。
【0005】
そこで本発明は、加工対象物とは異なる屈折率を有する部材を介して照射されたレーザ光であっても、加工対象物の内部に改質領域を形成することができるレーザ加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そのため本発明に係るレーザ加工方法は、屈折率が互いに異なる第1の部材及び第2の部材が積層された状態において、第2の部材の内部の所定の位置に集光するように、第1の部材が配置された側から第2の部材の切断予定ラインに沿ってレーザ光を照射することにより、切断予定ラインに沿って切断の起点となる改質領域を第2の部材の内部に形成する工程を備え、レーザ光を照射する際には、所定の位置においてレーザ光が集光するように、レーザ光の収差を補正することを特徴とする。
【0007】
このレーザ加工方法においては、屈折率が互いに異なる第1の部材及び第2の部材が積層されている場合であっても、レーザ光は第1の部材を透過して第2の部材の内部で集光する。これにより、第2の部材とは異なる屈折率を有する第1の部材を介して照射されたレーザ光であっても、レーザ光が集光する第2の部材の内部において改質領域を形成することができる。
【0008】
また、レーザ光の収差の補正は、レーザ光が第1の部材のみを透過する状態で、第1の部材におけるレーザ光の出射面の位置又はレーザ光が第1の部材を透過した位置においてレーザ光が集光するようにレーザ光の収差を補正する第1の補正パターンと、レーザ光が第2の部材のみを透過する状態で、第2の部材の内部の改質領域を形成する所定の位置においてレーザ光が集光するようにレーザ光の収差を補正する第2の補正パターンと、に基づいてレーザ光の収差を補正することが好ましい。この場合には、第1の補正パターン及び第2の補正パターンに基づいてレーザ光の収差が補正され、レーザ光が集光ボケすることなく、第2の部材の内部におけるレーザ光を集光させたい所定の位置に確実にレーザ光を集光させることができる。これにより、所定の位置に確実に改質領域を形成することができる。
【0009】
この、第1の補正パターンは、第1の部材の屈折率と、第1の部材におけるレーザ光の入射面から出射面までの距離と、に基づいて算出し、第2の補正パターンは、第2の部材の屈折率と、第2の部材におけるレーザ光の入射面から改質領域を形成する所定の位置までの距離と、に基づいて算出することができる。
【0010】
また、レーザ光の収差の補正は、第1の補正パターンと、第2の補正パターンと、を合成して得られる第3の補正パターンに基づいて行う、ことが好ましい。このように、第1の補正パターンと第2の補正パターンとを合成して得られる第3の補正パターンを用いてレーザ光の収差を補正することで、レーザ光の集光ボケを簡易に抑制することができる。
【0011】
また、レーザ光の収差の補正は、レーザ光の収差を補正する空間光変調器によって行う、ことが好ましい。この場合には、空間光変調器によって、レーザ光の収差を容易に補正することができる。
【0012】
また、第1の部材は、基材と粘着層とを有すると共に、レーザ光に対して透過率が90%以上の粘着テープであり、第2の部材に貼り付けられている、ことが好ましい。この場合には、粘着テープを透過したレーザ光を第2の部材の内部に集光させて第2の部材の内部に改質領域を形成することができる。また、粘着テープは、レーザ光に対する透過率が90%以上であるため、レーザ光のパワーの減衰を抑制しながら第2の部材の内部に改質領域を形成することができる。
【0013】
また、レーザ光による改質領域の形成後、第1の部材を拡張させることで、改質領域を起点とした割れを第2の部材に生じさせて第2の部材を切断する、ことが好ましい。この場合には、第1の部材を拡張させることで、改質領域を起点とした割れを生じさせて第2の部材を容易に切断することができる。
【0014】
また、第1の部材は、レーザ光の軸方向に沿って積層された互いに屈折率が異なる複数の部材より構成されている、ことが好ましい。このように、第1の部材を構成する複数の部材を透過したレーザ光が第2の部材に照射された場合であっても、第2の部材の内部に改質領域を形成することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、加工対象物とは異なる屈折率を有する部材を介して照射されたレーザ光であっても、加工対象物の内部に改質領域を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】改質領域の形成に用いられるレーザ加工装置の構成図である。
【図2】改質領域の形成対象となる加工対象物の平面図である。
【図3】図2のIII−III線に沿っての断面図である。
【図4】改質領域の形成後の加工対象物の平面図である。
【図5】図4のV−V線に沿っての断面図である。
【図6】図4のVI−VI線に沿っての断面図である。
【図7】本発明に係るレーザ加工方法の一実施形態の実施対象となる加工対象物を示す図である。
【図8】本発明に係るレーザ加工方法の一実施形態の実施に用いられるレーザ加工装置の構成図である。
【図9】図8のレーザ加工装置の反射型空間光変調器の部分断面図である。
【図10】レーザ光の球面収差を補正する補正パターンを説明するための図である。
【図11】本実施形態に係る他のレーザ加工装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0018】
本発明に係るレーザ加工方法の実施形態の説明に先立って、加工対象物に対する改質領域の形成について、図1〜6を参照して説明する。図1に示されるように、レーザ加工装置100は、レーザ光Lをパルス発振するレーザ光源101と、レーザ光Lの光軸(光路)の向きを90°変えるように配置されたダイクロイックミラー103と、レーザ光Lを集光するための集光用レンズ105と、を備えている。また、レーザ加工装置100は、集光用レンズ105で集光されたレーザ光Lが照射される加工対象物(第2の部材)1を支持するための支持台107と、支持台107を移動させるためのステージ111と、レーザ光Lの出力やパルス幅等を調節するためにレーザ光源101を制御するレーザ光源制御部102と、ステージ111の移動を制御するステージ制御部115と、を備えている。
【0019】
このレーザ加工装置100においては、レーザ光源101から出射されたレーザ光Lは、ダイクロイックミラー103によってその光軸の向きを90°変えられ、支持台107上に載置された加工対象物1の内部に集光用レンズ105によって集光される。これと共に、ステージ111が移動させられ、加工対象物1がレーザ光Lに対して切断予定ライン5に沿って相対移動させられる。これにより、切断予定ライン5に沿った改質領域が加工対象物1に形成されることとなる。
【0020】
加工対象物1の材料としては、半導体材料や圧電材料等が用いられ、図2に示されるように、加工対象物1には、加工対象物1を切断するための切断予定ライン5が設定されている。切断予定ライン5は、直線状に延びた仮想線である。加工対象物1の内部に改質領域を形成する場合、図3に示されるように、加工対象物1の内部に集光点(集光位置)Pを合わせた状態で、レーザ光Lを切断予定ライン5に沿って(すなわち、図2の矢印A方向に)相対的に移動させる。これにより、図4〜6に示されるように、改質領域7が切断予定ライン5に沿って加工対象物1の内部に形成され、切断予定ライン5に沿って形成された改質領域7が切断起点領域8となる。
【0021】
なお、集光点Pとは、レーザ光Lが集光する箇所のことである。また、切断予定ライン5は、直線状に限らず曲線状であってもよいし、仮想線に限らず加工対象物1のレーザ光入射面3に実際に引かれた線であってもよい。また、改質領域7は、連続的に形成される場合もあるし、断続的に形成される場合もある。また、改質領域7は列状でも点状でもよく、改質領域7は少なくとも加工対象物1の内部に形成されていればよい。また、改質領域7を起点に亀裂が形成される場合があり、亀裂及び改質領域7は、加工対象物1の外表面(表面、裏面若しくは外周面)に露出していてもよい。
【0022】
ここで、レーザ光Lは、加工対象物1を透過すると共に加工対象物1の内部の集光点近傍にて特に吸収され、これにより、加工対象物1に改質領域7が形成される(すなわち、内部吸収型レーザ加工)。よって、加工対象物1のレーザ光入射面3ではレーザ光Lが殆ど吸収されないので、加工対象物1のレーザ光入射面3が溶融することはない。一般的に、レーザ光入射面3から溶融され除去されて穴や溝等の除去部が形成される(表面吸収型レーザ加工)場合、加工領域はレーザ光入射面3側から徐々に反対側の面に向かって進行する。
【0023】
ところで、改質領域とは、密度、屈折率、機械的強度やその他の物理的特性が周囲とは異なる状態になった領域をいう。改質領域としては、例えば、溶融処理領域、クラック領域、絶縁破壊領域、屈折率変化領域等があり、これらが混在した領域もある。更に、改質領域としては、加工対象物の材料において改質領域の密度が非改質領域の密度と比較して変化した領域や、格子欠陥が形成された領域がある(これらをまとめて高密転移領域ともいう)。
【0024】
また、溶融処理領域や屈折率変化領域、改質領域の密度が非改質領域の密度と比較して変化した領域、格子欠陥が形成された領域は、更に、それら領域の内部や改質領域と非改質領域との界面に亀裂(割れ、マイクロクラック)を内包している場合がある。内包される亀裂は改質領域の全面に渡る場合や一部分のみや複数部分に形成される場合がある。加工対象物1としては、例えばシリコン、ガラス、LiTaO3若しくはサファイア(Al2O3)を含むもの、又はこれらからなるものが挙げられる。
【0025】
また、ここでは、切断予定ライン5に沿って改質スポット(加工痕)を複数形成することによって、改質領域7を形成している。改質スポットとは、パルスレーザ光の1パルスのショット(つまり1パルスのレーザ照射:レーザショット)で形成される改質部分であり、改質スポットが集まることにより改質領域7となる。改質スポットとしては、クラックスポット、溶融処理スポット若しくは屈折率変化スポット、又はこれらの少なくとも1つが混在するもの等が挙げられる。この改質スポットについては、要求される切断精度、要求される切断面の平坦性、加工対象物の厚さ、種類、結晶方位等を考慮して、その大きさや発生する亀裂の長さを適宜制御することが好ましい。
【0026】
次に、本発明に係るレーザ加工方法の実施形態について説明する。図7(a)は、本発明に係るレーザ加工方法の一実施形態の実施対象となる加工対象物の平面図であり、図7(b)は、図7(a)におけるVIIb−VIIb線に沿っての断面図である。なお、図7(b)では断面を示すハッチングは省略している。図7(a)及び図7(b)に示されるように、板状の加工対象物1は、シリコン基板11と、シリコン基板11の表面11a上に形成された機能素子層16と、を備えている。また、加工対象物1の裏面11bには、エキスパンドテープ(粘着テープ)20が貼り付けられ、加工対象物1とエキスパンドテープ20とが積層されている。本実施形態では、加工対象物1の裏面11b側から加工対象物1にレーザ光が照射される。すなわち、加工対象物1には、エキスパンドテープ20を透過したレーザ光が照射される。
【0027】
このエキスパンドテープ20は、基材20a(図10(a)参照)と、粘着層20b(図10(a)参照)と、を有するステルスダイシング用のテープである。エキスパンドテープ20として、例えば、リンテック社 Adwill Dシリーズのテープを用いることができる。また、このエキスパンドテープ20として、レーザ光の透過率が例えば90%以上のものを用いることが好ましい。また、エキスパンドテープ20と加工対象物1とは、屈折率が異なっている。
【0028】
機能素子層16は、シリコン基板11のオリエンテーションフラット6に平行な方向及び垂直な方向にマトリックス状に複数形成された機能素子15を含んでいる。機能素子15は、例えば、結晶成長により形成された半導体動作層、フォトダイオード等の受光素子、レーザダイオード等の発光素子、或いは回路として形成された回路素子等である。
【0029】
加工対象物1には、隣り合う機能素子15,15間を通るように切断予定ライン5が格子状に設定される。加工対象物1は、切断予定ライン5に沿って切断され、切断された個々のチップは、1個の機能素子15を有する半導体装置となる。
【0030】
図8は、本発明に係るレーザ加工方法の一実施形態の実施に用いられるレーザ加工装置の構成図である。図8に示すように、レーザ加工装置200は、板状の加工対象物1を支持する支持台201と、レーザ光Lを出射するレーザ光源202と、レーザ光源202から出射されたレーザ光Lを変調する反射型空間光変調器203と、支持台201によって支持された加工対象物1の内部に、反射型空間光変調器203によって変調されたレーザ光Lを集光する集光光学系204と、反射型空間光変調器203を制御する制御部205と、を備えている。レーザ加工装置200は、加工対象物1の内部に集光点Pを合わせてレーザ光Lを照射することにより、加工対象物1の切断予定ライン5に沿って、切断の起点となる改質領域7を形成するものである。
【0031】
加工対象物1は、加工対象物1の裏面11bが集光光学系204側を向くようにして支持台201上に載置される。すなわち、エキスパンドテープ20を透過したレーザ光Lが加工対象物1に照射される。
【0032】
反射型空間光変調器203は筐体231内に設置されており、レーザ光源202は筐体231の天板に設置されている。また、集光光学系204は、複数のレンズを含んで構成されており、圧電素子等を含んで構成された駆動ユニット232を介して筐体231の底板に設置されている。そして、筐体231に設置された部品によってレーザエンジン230が構成されている。なお、制御部205は、レーザエンジン230の筐体231内に設置されてもよい。
【0033】
筐体231には、筐体231を加工対象物1の厚さ方向に移動させる移動機構が設置されている(図示せず)。これにより、加工対象物1の深さに応じてレーザエンジン230を上下に移動させることができるため、集光光学系204の位置を変化させて、レーザ光Lを加工対象物1の所望の深さ位置に集光することが可能となる。なお、筐体231に移動機構を設置する代わりに、支持台201に、支持台201を加工対象物1の厚さ方向に移動させる移動機構を設けてもよい。また、後述するAFユニット212を利用して集光光学系204を加工対象物1の厚さ方向に移動させてもよい。そして、これらを組み合わせることも可能である。
【0034】
制御部205は、反射型空間光変調器203を制御する他、レーザ加工装置200の全体を制御する。例えば、制御部205は、改質領域7を形成する際に、レーザ光Lの集光点Pが加工対象物1の裏面11bから所定の距離に位置し且つレーザ光Lの集光点Pが切断予定ライン5に沿って相対的に移動するように集光光学系204を含むレーザエンジン230を制御する。なお、制御部205は、加工対象物1に対してレーザ光Lの集光点Pを相対的に移動させるために、集光光学系204を含むレーザエンジン230ではなく支持台201を制御してもよいし、或いは集光光学系204を含むレーザエンジン230及び支持台201の両方を制御してもよい。
【0035】
レーザ光源202から出射されたレーザ光Lは、筐体231内において、ミラー206,207によって順次反射された後、プリズム等の反射部材208によって反射されて反射型空間光変調器203に入射する。反射型空間光変調器203に入射したレーザ光Lは、反射型空間光変調器203によって変調されて反射型空間光変調器203から出射される。反射型空間光変調器203から出射されたレーザ光Lは、筐体231内において、集光光学系204の光軸に沿うように反射部材208によって反射され、ビームスプリッタ209,210を順次透過して集光光学系204に入射する。集光光学系204に入射したレーザ光Lは、支持台201上に載置された加工対象物1の内部に集光光学系204によって集光される。
【0036】
また、レーザ加工装置200は、加工対象物1の裏面11b側を観察するための観察ユニット211を筐体231内に備えている。観察ユニット211は、ビームスプリッタ209で反射され且つビームスプリッタ210を透過する可視光VLを出射し、集光光学系204によって集光されて加工対象物1の裏面11b側で反射された可視光VLを検出することで、加工対象物1の裏面11b側の像を取得する。
【0037】
更に、レーザ加工装置200は、加工対象物1の裏面11bにうねりが存在するような場合にも、裏面11bから所定の距離の位置にレーザ光Lの集光点Pを精度良く合わせるためのAF(autofocus)ユニット212を筐体231内に備えている。AFユニット212は、ビームスプリッタ210で反射されるAF用レーザ光LBを出射し、集光光学系204によって集光されて加工対象物1の裏面11bで反射されたAF用レーザ光LBを検出することで、例えば非点収差法を用いて、切断予定ライン5に沿った裏面11bの変位データを取得する。そして、AFユニット212は、改質領域7を形成する際に、取得した変位データに基づいて駆動ユニット232を駆動させることで、加工対象物1の裏面11bのうねりに沿うように集光光学系204をその光軸方向に往復移動させ、集光光学系204と加工対象物1との距離を微調整する。
【0038】
ここで、反射型空間光変調器203について説明する。図9は、図8のレーザ加工装置の反射型空間光変調器の部分断面図である。図9に示すように、反射型空間光変調器203は、シリコン基板213、駆動回路層914、複数の画素電極214、誘電体多層膜ミラー等の反射膜215、配向膜999a、液晶層216、配向膜999b、透明導電膜217、及びガラス基板等の透明基板218を備え、これらがこの順に積層されている。
【0039】
透明基板218は、XY平面に沿った表面218aを有しており、該表面218aは反射型空間光変調器203の表面を構成する。透明基板218は、例えばガラス等の光透過性材料を主に含んでおり、反射型空間光変調器203の表面218aから入射した所定波長のレーザ光Lを、反射型空間光変調器203の内部へ透過する。透明導電膜217は、透明基板218の裏面218b上に形成されており、レーザ光Lを透過する導電性材料(例えばITO)を主に含んで構成されている。
【0040】
複数の画素電極214は、複数の画素の配列に従って二次元状に配列されており、透明導電膜217に沿ってシリコン基板213上に配列されている。各画素電極214は、例えばアルミニウム等の金属材料からなり、これらの表面214aは、平坦且つ滑らかに加工されている。複数の画素電極214は、駆動回路層914に設けられたアクティブ・マトリクス回路によって駆動される。
【0041】
アクティブ・マトリクス回路は、複数の画素電極214とシリコン基板213との間に設けられ、反射型空間光変調器203から出力しようとする光像に応じて各画素電極214への印加電圧を制御する。このようなアクティブ・マトリクス回路は、例えば図示しないX軸方向に並んだ各画素列の印加電圧を制御する第1のドライバ回路と、Y軸方向に並んだ各画素列の印加電圧を制御する第2のドライバ回路とを有しており、制御部250によって双方のドライバ回路で指定された画素の画素電極214に所定電圧が印加されるよう構成されている。
【0042】
なお、配向膜999a,999bは、液晶層216の両端面に配置されており、液晶分子群を一定方向に配列させる。配向膜999a,999bは、例えばポリイミドといった高分子材料からなり、液晶層216との接触面にラビング処理等が施されたものが適用される。
【0043】
液晶層216は、複数の画素電極214と透明導電膜217との間に配置されており、各画素電極214と透明導電膜217とにより形成される電界に応じてレーザ光Lを変調する。すなわち、アクティブ・マトリクス回路によって或る画素電極214に電圧が印加されると、透明導電膜217と該画素電極214との間に電界が形成される。
【0044】
この電界は、反射膜215及び液晶層216のそれぞれに対し、各々の厚さに応じた割合で印加される。そして、液晶層216に印加された電界の大きさに応じて液晶分子216aの配列方向が変化する。レーザ光Lが透明基板218及び透明導電膜217を透過して液晶層216に入射すると、このレーザ光Lは液晶層216を通過する間に液晶分子216aによって変調され、反射膜215において反射した後、再び液晶層216により変調されてから取り出されることとなる。
【0045】
これにより、レーザ光Lを構成する複数の光線のそれぞれにおいて、各光線の進行方向と直交する所定の方向の成分の位相にずれが生じ、レーザ光Lが整形(位相変調)されることになる。
【0046】
図8に戻り、制御部205は、改質領域7を形成する際に、加工対象物1の内部の改質領域7を形成する位置でレーザ光Lが集光するように、互いに対向する1対の電極部214a,217a毎に電圧を印加することで、反射型空間光変調器203を制御する。具体的には、制御部205は、レーザ光Lがエキスパンドテープ20及び加工対象物1を透過する状態で、加工対象物1の内部の改質領域7を形成する所定の位置においてレーザ光Lが集光するようにレーザ光Lの球面収差を補正する補正パターンを反射型空間光変調器203に入力する。以下、反射型空間光変調器203に入力される球面収差を補正するための補正パターン(以下「第3の補正パターン」という)について説明する。
【0047】
制御部205が反射型空間光変調器203を制御する際に用いる第3の補正パターンは、レーザ光Lがエキスパンドテープ20のみを透過する場合に生じる球面収差を補正する第1の補正パターンと、レーザ光Lが加工対象物1のみを透過する場合に球面収差を補正する第2の補正パターンと、を合成することによって得られる。
【0048】
図10(a)は、レーザ光がエキスパンドテープのみを透過する場合に生じる球面収差を補正する第1の補正パターンを説明するための図であり、図10(b)は、レーザ光が加工対象物のみを透過する場合に生じる球面収差を補正する第2の補正パターンを説明するための図であり、図10(c)は、第3の補正パターンを説明するための図である。
【0049】
第1の補正パターンは、図10(a)に示すように、レーザ光Lがエキスパンドテープ20のみを透過する状態(加工対象物1を通らない状態)において、エキスパンドテープ20の裏面(レーザ光Lの出射面20d)の位置にレーザ光Lが集光するようにレーザ光Lの球面収差を補正するものである。なお、エキスパンドテープ20の裏面の位置ではなく、エキスパンドテープ20を透過した空気中の一点に集光するようにレーザ光Lの球面収差を補正してもよい。この第1の補正パターンは、エキスパンドテープ20の厚み(エキスパンドテープ20におけるレーザ光の入射面20cから出射面20dまでの距離)と、エキスパンドテープ20の屈折率と、によって算出することができる。なお、図10(a)において、左側の図が補正パターンを適用する前のレーザ光Lの軌跡を示し、右側の図が補正パターンを適用した後のレーザ光Lの軌跡を示している(図10(b)及び図10(c)についても、図10(a)と同様とする)。
【0050】
第2の補正パターンは、図10(b)に示すように、レーザ光Lが加工対象物1のみを透過する状態(エキスパンドテープ20を通らない状態)において、加工対象物1の内部の改質領域7を形成する所定の位置にレーザ光Lが集光するようにレーザ光Lの球面収差を補正するものである。この第2の補正パターンは、加工対象物1におけるレーザ光Lが入射する面(裏面11b)から改質領域7を形成する所定の位置までの距離と、加工対象物1の屈折率と、によって算出することができる。
【0051】
上述のようにして求められた第1の補正パターンと第2の補正パターンとを合成することで得られる第3の補正パターンを用いて、制御部205が反射型空間光変調器203を制御する。これにより、図10(c)に示すように、加工対象物1にエキスパンドテープ20が貼り付けられた状態において、エキスパンドテープ20を介して加工対象物1にレーザ光Lを照射すると、改質領域7を形成する所定の位置にレーザ光Lが集光する。
【0052】
ところで、厳密に言えば、反射型空間光変調器203で変調(補正)されたレーザ光Lは、空間を伝播することにより波面形状が変化してしまう。特に、反射型空間光変調器203から出射されたレーザ光Lや集光光学系204に入射するレーザ光Lが所定の拡がりを有する光(すなわち、平行光以外の光)である場合には、反射型空間光変調器203での波面形状と集光光学系204での波面形状とが一致せず、結果的に、目的とする精密な内部加工を妨げるおそれがある。そこで、反射型空間光変調器203での波面形状と集光光学系204での波面形状とを一致させることが重要となる。そのためには、レーザ光Lが反射型空間光変調器203から集光光学系204に伝播したときの波面形状の変化を計測等により求め、その波面形状の変化を考慮した波面整形(収差補正)パターン情報を反射型空間光変調器203に入力することがより望ましい。
【0053】
或いは、反射型空間光変調器203での波面形状と集光光学系204での波面形状とを一致させるために、図11に示すように、反射型空間光変調器203と集光光学系204との間を進行するレーザ光Lの光路上に、調整光学系240を設けてもよい。これにより、正確に波面整形を実現することが可能となる。
【0054】
調整光学系240は、少なくとも2つのレンズ241a及びレンズ241bを有している。レンズ241a,241bは、反射型空間光変調器203での波面形状と集光光学系204での波面形状とを相似的に一致させるためのものである。レンズ241a,241bは、反射型空間光変調器203とレンズ241aとの距離がレンズ241aの焦点距離f1となり、集光光学系204とレンズ241bとの距離がレンズ241bの焦点距離f2となり、レンズ241aとレンズ241bとの距離がf1+f2となり、且つレンズ241aとレンズ241bとが両側テレセントリック光学系となるように、反射型空間光変調器203と反射部材208との間に配置されている。
【0055】
このように配置することで、1°以下程度の小さな拡がり角を有するレーザ光Lであっても、反射型空間光変調器203での波面と集光光学系204での波面とを合わせることができる。なお、より正確さを求める場合には、反射型空間光変調器203と液晶層216とレンズ241aの主点との距離をf1とすることが望ましい。しかしながら、反射型空間光変調器203は非常に薄く、液晶層216と透明基板218との距離も極めて小さいため、液晶層216と透明基板218との間での波面形状の変化の程度も極めて小さい。従って、簡易的に、反射型空間光変調器203の構成上、焦点距離を設定し易い位置(例えば、反射型空間光変調器203の表面(表面近傍)等)とレンズ241aとの距離をf1に設定してもよく、このようにすることで調整が容易となる。また、より正確さを求める場合には、集光光学系204の主点とレンズ241bの主点との距離をf2とすることが望ましい。しかしながら、集光光学系204は複数のレンズを含んで構成され、主点での位置合わせが困難となる場合がある。その場合には、簡易的に、集光光学系204の構成上、焦点距離を設定し易い位置(例えば、集光光学系204の表面(表面近傍)等)とレンズ241bとの距離をf2に設定してもよく、このようにすることで調整が容易となる。
【0056】
また、レーザ光Lのビーム径は、f1とf2との比で決まる(集光光学系204に入射するレーザ光Lのビーム径は、反射型空間光変調器203から出射されるレーザ光Lのビーム径のf2/f1倍となる)。従って、レーザ光Lが平行光、或いは小さな拡がりを有する光のいずれの場合であっても、反射型空間光変調器203から出射される角度を保ったまま、集光光学系204に入射するレーザ光Lにおいて所望のビーム径を得ることができる。
【0057】
ここで、レーザ加工装置200を用いて加工対象物1を加工する場合について説明する。一例として、板状の加工対象物1の内部に集光点Pを合わせてレーザ光Lを照射することにより、切断予定ライン5に沿って、切断の起点となる改質領域7を加工対象物1の内部に形成する場合について説明する。
【0058】
まず、加工対象物1の裏面11bにエキスパンドテープ20を貼り付け、該加工対象物1を支持台201上に載置する。このとき、加工対象物1の裏面11bが集光光学系204側を向くように加工対象物1を支持台201上に載置する。続いて、加工対象物1の裏面11bをレーザ光照射面として加工対象物1にレーザ光Lをパルス照射しながら、加工対象物1とレーザ光Lとを切断予定ライン5に沿って相対移動(スキャン)させる。その結果、加工対象物1内の厚さ方向の所定深さに、改質領域7が形成される。
【0059】
そして、改質領域7の形成後、エキスパンドテープ20を拡張することで、改質領域7を切断の起点として加工対象物1を切断予定ライン5に沿って切断し、切断された複数のチップを半導体装置(例えばメモリ、IC、発光素子、受光素子等)として得る。
【0060】
本実施形態は以上のように構成され、屈折率が互いに異なる加工対象物1とエキスパンドテープ20とが積層されている場合であっても、レーザ光Lはエキスパンドテープ20を透過して加工対象物1の内部で集光する。これにより、加工対象物1とは異なる屈折率を有するエキスパンドテープ20を介して照射されたレーザ光Lであっても、レーザ光Lが集光する加工対象物1の内部において改質領域7を形成することができる。
【0061】
また、レーザ光Lがエキスパンドテープ20を透過する状態で生じている球面収差を補正する第1の補正パターンと、レーザ光Lが加工対象物1を透過する状態で生じている球面収差を補正する第2の補正パターンと、に基づいてレーザ光Lの球面収差を補正する。これにより、レーザ光Lが集光ボケすることなく、加工対象物1の内部におけるレーザ光Lを集光させたい所定の位置に確実にレーザ光Lを集光させることができる。したがって、改質領域7を形成したい所定の位置に確実に改質領域7を形成することができる。
【0062】
また、第1の補正パターンと第2の補正パターンとを合成して得られる第3の補正パターンを用いてレーザ光Lの球面収差を補正することで、レーザ光Lの集光ボケを簡易に抑制することができる。
【0063】
また、レーザ光Lの収差の補正を反射型空間光変調器203によって行うことで、レーザ光Lの収差の補正を容易に行うことができる。
【0064】
また、エキスパンドテープ20は、レーザ光に対する透過率が90%以上であるため、レーザ光Lのパワーの減衰を抑制しながら加工対象物1の内部に改質領域7を形成することができる。
【0065】
また、エキスパンドテープ20を加工対象物1に貼り付けた状態で改質領域7を形成することができるので、エキスパンドテープ20を拡張させることで加工対象物1を切断予定ライン5に沿って容易に切断することができる。
【0066】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、加工対象物1に積層されるエキスパンドテープ20に代えて、エキスパンドテープ20とは異なる部材(シリコン基板等)を用いてもよい。この場合であっても、加工対象物1に積層される部材を介して加工対象物1の内部に改質領域7を形成することができる。また、加工対象物1に積層される部材(上記実施形態ではエキスパンドテープ20に相当)は、加工対象物1に当接していてもよく、加工対象物1と所定の隙間を設けて配置されていてもよい。また、加工対象物1に積層される部材は、1つの部材に限られず、レーザ光Lの軸方向に沿って積層された互いに屈折率が異なる複数の部材であってもよい。
【符号の説明】
【0067】
1…加工対象物(第1の部材)、7…改質領域、11b…裏面(レーザ光の入射面)、20…エキスパンドテープ(第2の部材、粘着テープ)、20a…基材、20b…粘着層、20c…入射面、20d出射面、L…レーザ光、200…レーザ加工装置。203…反射型空間光変調器(空間光変調器)。
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工対象物に改質領域を形成するためのレーザ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来における上記技術分野のレーザ加工方法として、例えば波長1300nmのレーザ光を板状の加工対象物に照射することにより、加工対象物の切断予定ラインに沿って、切断の起点となる改質領域を加工対象物に形成するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−108459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、加工対象物に直接レーザ光を照射するのではなく、加工対象物とは異なる屈折率を有する部材を介して加工対象物にレーザ光を照射し、加工対象物の内部に改質領域を形成したいという要望がある。
【0005】
そこで本発明は、加工対象物とは異なる屈折率を有する部材を介して照射されたレーザ光であっても、加工対象物の内部に改質領域を形成することができるレーザ加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そのため本発明に係るレーザ加工方法は、屈折率が互いに異なる第1の部材及び第2の部材が積層された状態において、第2の部材の内部の所定の位置に集光するように、第1の部材が配置された側から第2の部材の切断予定ラインに沿ってレーザ光を照射することにより、切断予定ラインに沿って切断の起点となる改質領域を第2の部材の内部に形成する工程を備え、レーザ光を照射する際には、所定の位置においてレーザ光が集光するように、レーザ光の収差を補正することを特徴とする。
【0007】
このレーザ加工方法においては、屈折率が互いに異なる第1の部材及び第2の部材が積層されている場合であっても、レーザ光は第1の部材を透過して第2の部材の内部で集光する。これにより、第2の部材とは異なる屈折率を有する第1の部材を介して照射されたレーザ光であっても、レーザ光が集光する第2の部材の内部において改質領域を形成することができる。
【0008】
また、レーザ光の収差の補正は、レーザ光が第1の部材のみを透過する状態で、第1の部材におけるレーザ光の出射面の位置又はレーザ光が第1の部材を透過した位置においてレーザ光が集光するようにレーザ光の収差を補正する第1の補正パターンと、レーザ光が第2の部材のみを透過する状態で、第2の部材の内部の改質領域を形成する所定の位置においてレーザ光が集光するようにレーザ光の収差を補正する第2の補正パターンと、に基づいてレーザ光の収差を補正することが好ましい。この場合には、第1の補正パターン及び第2の補正パターンに基づいてレーザ光の収差が補正され、レーザ光が集光ボケすることなく、第2の部材の内部におけるレーザ光を集光させたい所定の位置に確実にレーザ光を集光させることができる。これにより、所定の位置に確実に改質領域を形成することができる。
【0009】
この、第1の補正パターンは、第1の部材の屈折率と、第1の部材におけるレーザ光の入射面から出射面までの距離と、に基づいて算出し、第2の補正パターンは、第2の部材の屈折率と、第2の部材におけるレーザ光の入射面から改質領域を形成する所定の位置までの距離と、に基づいて算出することができる。
【0010】
また、レーザ光の収差の補正は、第1の補正パターンと、第2の補正パターンと、を合成して得られる第3の補正パターンに基づいて行う、ことが好ましい。このように、第1の補正パターンと第2の補正パターンとを合成して得られる第3の補正パターンを用いてレーザ光の収差を補正することで、レーザ光の集光ボケを簡易に抑制することができる。
【0011】
また、レーザ光の収差の補正は、レーザ光の収差を補正する空間光変調器によって行う、ことが好ましい。この場合には、空間光変調器によって、レーザ光の収差を容易に補正することができる。
【0012】
また、第1の部材は、基材と粘着層とを有すると共に、レーザ光に対して透過率が90%以上の粘着テープであり、第2の部材に貼り付けられている、ことが好ましい。この場合には、粘着テープを透過したレーザ光を第2の部材の内部に集光させて第2の部材の内部に改質領域を形成することができる。また、粘着テープは、レーザ光に対する透過率が90%以上であるため、レーザ光のパワーの減衰を抑制しながら第2の部材の内部に改質領域を形成することができる。
【0013】
また、レーザ光による改質領域の形成後、第1の部材を拡張させることで、改質領域を起点とした割れを第2の部材に生じさせて第2の部材を切断する、ことが好ましい。この場合には、第1の部材を拡張させることで、改質領域を起点とした割れを生じさせて第2の部材を容易に切断することができる。
【0014】
また、第1の部材は、レーザ光の軸方向に沿って積層された互いに屈折率が異なる複数の部材より構成されている、ことが好ましい。このように、第1の部材を構成する複数の部材を透過したレーザ光が第2の部材に照射された場合であっても、第2の部材の内部に改質領域を形成することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、加工対象物とは異なる屈折率を有する部材を介して照射されたレーザ光であっても、加工対象物の内部に改質領域を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】改質領域の形成に用いられるレーザ加工装置の構成図である。
【図2】改質領域の形成対象となる加工対象物の平面図である。
【図3】図2のIII−III線に沿っての断面図である。
【図4】改質領域の形成後の加工対象物の平面図である。
【図5】図4のV−V線に沿っての断面図である。
【図6】図4のVI−VI線に沿っての断面図である。
【図7】本発明に係るレーザ加工方法の一実施形態の実施対象となる加工対象物を示す図である。
【図8】本発明に係るレーザ加工方法の一実施形態の実施に用いられるレーザ加工装置の構成図である。
【図9】図8のレーザ加工装置の反射型空間光変調器の部分断面図である。
【図10】レーザ光の球面収差を補正する補正パターンを説明するための図である。
【図11】本実施形態に係る他のレーザ加工装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0018】
本発明に係るレーザ加工方法の実施形態の説明に先立って、加工対象物に対する改質領域の形成について、図1〜6を参照して説明する。図1に示されるように、レーザ加工装置100は、レーザ光Lをパルス発振するレーザ光源101と、レーザ光Lの光軸(光路)の向きを90°変えるように配置されたダイクロイックミラー103と、レーザ光Lを集光するための集光用レンズ105と、を備えている。また、レーザ加工装置100は、集光用レンズ105で集光されたレーザ光Lが照射される加工対象物(第2の部材)1を支持するための支持台107と、支持台107を移動させるためのステージ111と、レーザ光Lの出力やパルス幅等を調節するためにレーザ光源101を制御するレーザ光源制御部102と、ステージ111の移動を制御するステージ制御部115と、を備えている。
【0019】
このレーザ加工装置100においては、レーザ光源101から出射されたレーザ光Lは、ダイクロイックミラー103によってその光軸の向きを90°変えられ、支持台107上に載置された加工対象物1の内部に集光用レンズ105によって集光される。これと共に、ステージ111が移動させられ、加工対象物1がレーザ光Lに対して切断予定ライン5に沿って相対移動させられる。これにより、切断予定ライン5に沿った改質領域が加工対象物1に形成されることとなる。
【0020】
加工対象物1の材料としては、半導体材料や圧電材料等が用いられ、図2に示されるように、加工対象物1には、加工対象物1を切断するための切断予定ライン5が設定されている。切断予定ライン5は、直線状に延びた仮想線である。加工対象物1の内部に改質領域を形成する場合、図3に示されるように、加工対象物1の内部に集光点(集光位置)Pを合わせた状態で、レーザ光Lを切断予定ライン5に沿って(すなわち、図2の矢印A方向に)相対的に移動させる。これにより、図4〜6に示されるように、改質領域7が切断予定ライン5に沿って加工対象物1の内部に形成され、切断予定ライン5に沿って形成された改質領域7が切断起点領域8となる。
【0021】
なお、集光点Pとは、レーザ光Lが集光する箇所のことである。また、切断予定ライン5は、直線状に限らず曲線状であってもよいし、仮想線に限らず加工対象物1のレーザ光入射面3に実際に引かれた線であってもよい。また、改質領域7は、連続的に形成される場合もあるし、断続的に形成される場合もある。また、改質領域7は列状でも点状でもよく、改質領域7は少なくとも加工対象物1の内部に形成されていればよい。また、改質領域7を起点に亀裂が形成される場合があり、亀裂及び改質領域7は、加工対象物1の外表面(表面、裏面若しくは外周面)に露出していてもよい。
【0022】
ここで、レーザ光Lは、加工対象物1を透過すると共に加工対象物1の内部の集光点近傍にて特に吸収され、これにより、加工対象物1に改質領域7が形成される(すなわち、内部吸収型レーザ加工)。よって、加工対象物1のレーザ光入射面3ではレーザ光Lが殆ど吸収されないので、加工対象物1のレーザ光入射面3が溶融することはない。一般的に、レーザ光入射面3から溶融され除去されて穴や溝等の除去部が形成される(表面吸収型レーザ加工)場合、加工領域はレーザ光入射面3側から徐々に反対側の面に向かって進行する。
【0023】
ところで、改質領域とは、密度、屈折率、機械的強度やその他の物理的特性が周囲とは異なる状態になった領域をいう。改質領域としては、例えば、溶融処理領域、クラック領域、絶縁破壊領域、屈折率変化領域等があり、これらが混在した領域もある。更に、改質領域としては、加工対象物の材料において改質領域の密度が非改質領域の密度と比較して変化した領域や、格子欠陥が形成された領域がある(これらをまとめて高密転移領域ともいう)。
【0024】
また、溶融処理領域や屈折率変化領域、改質領域の密度が非改質領域の密度と比較して変化した領域、格子欠陥が形成された領域は、更に、それら領域の内部や改質領域と非改質領域との界面に亀裂(割れ、マイクロクラック)を内包している場合がある。内包される亀裂は改質領域の全面に渡る場合や一部分のみや複数部分に形成される場合がある。加工対象物1としては、例えばシリコン、ガラス、LiTaO3若しくはサファイア(Al2O3)を含むもの、又はこれらからなるものが挙げられる。
【0025】
また、ここでは、切断予定ライン5に沿って改質スポット(加工痕)を複数形成することによって、改質領域7を形成している。改質スポットとは、パルスレーザ光の1パルスのショット(つまり1パルスのレーザ照射:レーザショット)で形成される改質部分であり、改質スポットが集まることにより改質領域7となる。改質スポットとしては、クラックスポット、溶融処理スポット若しくは屈折率変化スポット、又はこれらの少なくとも1つが混在するもの等が挙げられる。この改質スポットについては、要求される切断精度、要求される切断面の平坦性、加工対象物の厚さ、種類、結晶方位等を考慮して、その大きさや発生する亀裂の長さを適宜制御することが好ましい。
【0026】
次に、本発明に係るレーザ加工方法の実施形態について説明する。図7(a)は、本発明に係るレーザ加工方法の一実施形態の実施対象となる加工対象物の平面図であり、図7(b)は、図7(a)におけるVIIb−VIIb線に沿っての断面図である。なお、図7(b)では断面を示すハッチングは省略している。図7(a)及び図7(b)に示されるように、板状の加工対象物1は、シリコン基板11と、シリコン基板11の表面11a上に形成された機能素子層16と、を備えている。また、加工対象物1の裏面11bには、エキスパンドテープ(粘着テープ)20が貼り付けられ、加工対象物1とエキスパンドテープ20とが積層されている。本実施形態では、加工対象物1の裏面11b側から加工対象物1にレーザ光が照射される。すなわち、加工対象物1には、エキスパンドテープ20を透過したレーザ光が照射される。
【0027】
このエキスパンドテープ20は、基材20a(図10(a)参照)と、粘着層20b(図10(a)参照)と、を有するステルスダイシング用のテープである。エキスパンドテープ20として、例えば、リンテック社 Adwill Dシリーズのテープを用いることができる。また、このエキスパンドテープ20として、レーザ光の透過率が例えば90%以上のものを用いることが好ましい。また、エキスパンドテープ20と加工対象物1とは、屈折率が異なっている。
【0028】
機能素子層16は、シリコン基板11のオリエンテーションフラット6に平行な方向及び垂直な方向にマトリックス状に複数形成された機能素子15を含んでいる。機能素子15は、例えば、結晶成長により形成された半導体動作層、フォトダイオード等の受光素子、レーザダイオード等の発光素子、或いは回路として形成された回路素子等である。
【0029】
加工対象物1には、隣り合う機能素子15,15間を通るように切断予定ライン5が格子状に設定される。加工対象物1は、切断予定ライン5に沿って切断され、切断された個々のチップは、1個の機能素子15を有する半導体装置となる。
【0030】
図8は、本発明に係るレーザ加工方法の一実施形態の実施に用いられるレーザ加工装置の構成図である。図8に示すように、レーザ加工装置200は、板状の加工対象物1を支持する支持台201と、レーザ光Lを出射するレーザ光源202と、レーザ光源202から出射されたレーザ光Lを変調する反射型空間光変調器203と、支持台201によって支持された加工対象物1の内部に、反射型空間光変調器203によって変調されたレーザ光Lを集光する集光光学系204と、反射型空間光変調器203を制御する制御部205と、を備えている。レーザ加工装置200は、加工対象物1の内部に集光点Pを合わせてレーザ光Lを照射することにより、加工対象物1の切断予定ライン5に沿って、切断の起点となる改質領域7を形成するものである。
【0031】
加工対象物1は、加工対象物1の裏面11bが集光光学系204側を向くようにして支持台201上に載置される。すなわち、エキスパンドテープ20を透過したレーザ光Lが加工対象物1に照射される。
【0032】
反射型空間光変調器203は筐体231内に設置されており、レーザ光源202は筐体231の天板に設置されている。また、集光光学系204は、複数のレンズを含んで構成されており、圧電素子等を含んで構成された駆動ユニット232を介して筐体231の底板に設置されている。そして、筐体231に設置された部品によってレーザエンジン230が構成されている。なお、制御部205は、レーザエンジン230の筐体231内に設置されてもよい。
【0033】
筐体231には、筐体231を加工対象物1の厚さ方向に移動させる移動機構が設置されている(図示せず)。これにより、加工対象物1の深さに応じてレーザエンジン230を上下に移動させることができるため、集光光学系204の位置を変化させて、レーザ光Lを加工対象物1の所望の深さ位置に集光することが可能となる。なお、筐体231に移動機構を設置する代わりに、支持台201に、支持台201を加工対象物1の厚さ方向に移動させる移動機構を設けてもよい。また、後述するAFユニット212を利用して集光光学系204を加工対象物1の厚さ方向に移動させてもよい。そして、これらを組み合わせることも可能である。
【0034】
制御部205は、反射型空間光変調器203を制御する他、レーザ加工装置200の全体を制御する。例えば、制御部205は、改質領域7を形成する際に、レーザ光Lの集光点Pが加工対象物1の裏面11bから所定の距離に位置し且つレーザ光Lの集光点Pが切断予定ライン5に沿って相対的に移動するように集光光学系204を含むレーザエンジン230を制御する。なお、制御部205は、加工対象物1に対してレーザ光Lの集光点Pを相対的に移動させるために、集光光学系204を含むレーザエンジン230ではなく支持台201を制御してもよいし、或いは集光光学系204を含むレーザエンジン230及び支持台201の両方を制御してもよい。
【0035】
レーザ光源202から出射されたレーザ光Lは、筐体231内において、ミラー206,207によって順次反射された後、プリズム等の反射部材208によって反射されて反射型空間光変調器203に入射する。反射型空間光変調器203に入射したレーザ光Lは、反射型空間光変調器203によって変調されて反射型空間光変調器203から出射される。反射型空間光変調器203から出射されたレーザ光Lは、筐体231内において、集光光学系204の光軸に沿うように反射部材208によって反射され、ビームスプリッタ209,210を順次透過して集光光学系204に入射する。集光光学系204に入射したレーザ光Lは、支持台201上に載置された加工対象物1の内部に集光光学系204によって集光される。
【0036】
また、レーザ加工装置200は、加工対象物1の裏面11b側を観察するための観察ユニット211を筐体231内に備えている。観察ユニット211は、ビームスプリッタ209で反射され且つビームスプリッタ210を透過する可視光VLを出射し、集光光学系204によって集光されて加工対象物1の裏面11b側で反射された可視光VLを検出することで、加工対象物1の裏面11b側の像を取得する。
【0037】
更に、レーザ加工装置200は、加工対象物1の裏面11bにうねりが存在するような場合にも、裏面11bから所定の距離の位置にレーザ光Lの集光点Pを精度良く合わせるためのAF(autofocus)ユニット212を筐体231内に備えている。AFユニット212は、ビームスプリッタ210で反射されるAF用レーザ光LBを出射し、集光光学系204によって集光されて加工対象物1の裏面11bで反射されたAF用レーザ光LBを検出することで、例えば非点収差法を用いて、切断予定ライン5に沿った裏面11bの変位データを取得する。そして、AFユニット212は、改質領域7を形成する際に、取得した変位データに基づいて駆動ユニット232を駆動させることで、加工対象物1の裏面11bのうねりに沿うように集光光学系204をその光軸方向に往復移動させ、集光光学系204と加工対象物1との距離を微調整する。
【0038】
ここで、反射型空間光変調器203について説明する。図9は、図8のレーザ加工装置の反射型空間光変調器の部分断面図である。図9に示すように、反射型空間光変調器203は、シリコン基板213、駆動回路層914、複数の画素電極214、誘電体多層膜ミラー等の反射膜215、配向膜999a、液晶層216、配向膜999b、透明導電膜217、及びガラス基板等の透明基板218を備え、これらがこの順に積層されている。
【0039】
透明基板218は、XY平面に沿った表面218aを有しており、該表面218aは反射型空間光変調器203の表面を構成する。透明基板218は、例えばガラス等の光透過性材料を主に含んでおり、反射型空間光変調器203の表面218aから入射した所定波長のレーザ光Lを、反射型空間光変調器203の内部へ透過する。透明導電膜217は、透明基板218の裏面218b上に形成されており、レーザ光Lを透過する導電性材料(例えばITO)を主に含んで構成されている。
【0040】
複数の画素電極214は、複数の画素の配列に従って二次元状に配列されており、透明導電膜217に沿ってシリコン基板213上に配列されている。各画素電極214は、例えばアルミニウム等の金属材料からなり、これらの表面214aは、平坦且つ滑らかに加工されている。複数の画素電極214は、駆動回路層914に設けられたアクティブ・マトリクス回路によって駆動される。
【0041】
アクティブ・マトリクス回路は、複数の画素電極214とシリコン基板213との間に設けられ、反射型空間光変調器203から出力しようとする光像に応じて各画素電極214への印加電圧を制御する。このようなアクティブ・マトリクス回路は、例えば図示しないX軸方向に並んだ各画素列の印加電圧を制御する第1のドライバ回路と、Y軸方向に並んだ各画素列の印加電圧を制御する第2のドライバ回路とを有しており、制御部250によって双方のドライバ回路で指定された画素の画素電極214に所定電圧が印加されるよう構成されている。
【0042】
なお、配向膜999a,999bは、液晶層216の両端面に配置されており、液晶分子群を一定方向に配列させる。配向膜999a,999bは、例えばポリイミドといった高分子材料からなり、液晶層216との接触面にラビング処理等が施されたものが適用される。
【0043】
液晶層216は、複数の画素電極214と透明導電膜217との間に配置されており、各画素電極214と透明導電膜217とにより形成される電界に応じてレーザ光Lを変調する。すなわち、アクティブ・マトリクス回路によって或る画素電極214に電圧が印加されると、透明導電膜217と該画素電極214との間に電界が形成される。
【0044】
この電界は、反射膜215及び液晶層216のそれぞれに対し、各々の厚さに応じた割合で印加される。そして、液晶層216に印加された電界の大きさに応じて液晶分子216aの配列方向が変化する。レーザ光Lが透明基板218及び透明導電膜217を透過して液晶層216に入射すると、このレーザ光Lは液晶層216を通過する間に液晶分子216aによって変調され、反射膜215において反射した後、再び液晶層216により変調されてから取り出されることとなる。
【0045】
これにより、レーザ光Lを構成する複数の光線のそれぞれにおいて、各光線の進行方向と直交する所定の方向の成分の位相にずれが生じ、レーザ光Lが整形(位相変調)されることになる。
【0046】
図8に戻り、制御部205は、改質領域7を形成する際に、加工対象物1の内部の改質領域7を形成する位置でレーザ光Lが集光するように、互いに対向する1対の電極部214a,217a毎に電圧を印加することで、反射型空間光変調器203を制御する。具体的には、制御部205は、レーザ光Lがエキスパンドテープ20及び加工対象物1を透過する状態で、加工対象物1の内部の改質領域7を形成する所定の位置においてレーザ光Lが集光するようにレーザ光Lの球面収差を補正する補正パターンを反射型空間光変調器203に入力する。以下、反射型空間光変調器203に入力される球面収差を補正するための補正パターン(以下「第3の補正パターン」という)について説明する。
【0047】
制御部205が反射型空間光変調器203を制御する際に用いる第3の補正パターンは、レーザ光Lがエキスパンドテープ20のみを透過する場合に生じる球面収差を補正する第1の補正パターンと、レーザ光Lが加工対象物1のみを透過する場合に球面収差を補正する第2の補正パターンと、を合成することによって得られる。
【0048】
図10(a)は、レーザ光がエキスパンドテープのみを透過する場合に生じる球面収差を補正する第1の補正パターンを説明するための図であり、図10(b)は、レーザ光が加工対象物のみを透過する場合に生じる球面収差を補正する第2の補正パターンを説明するための図であり、図10(c)は、第3の補正パターンを説明するための図である。
【0049】
第1の補正パターンは、図10(a)に示すように、レーザ光Lがエキスパンドテープ20のみを透過する状態(加工対象物1を通らない状態)において、エキスパンドテープ20の裏面(レーザ光Lの出射面20d)の位置にレーザ光Lが集光するようにレーザ光Lの球面収差を補正するものである。なお、エキスパンドテープ20の裏面の位置ではなく、エキスパンドテープ20を透過した空気中の一点に集光するようにレーザ光Lの球面収差を補正してもよい。この第1の補正パターンは、エキスパンドテープ20の厚み(エキスパンドテープ20におけるレーザ光の入射面20cから出射面20dまでの距離)と、エキスパンドテープ20の屈折率と、によって算出することができる。なお、図10(a)において、左側の図が補正パターンを適用する前のレーザ光Lの軌跡を示し、右側の図が補正パターンを適用した後のレーザ光Lの軌跡を示している(図10(b)及び図10(c)についても、図10(a)と同様とする)。
【0050】
第2の補正パターンは、図10(b)に示すように、レーザ光Lが加工対象物1のみを透過する状態(エキスパンドテープ20を通らない状態)において、加工対象物1の内部の改質領域7を形成する所定の位置にレーザ光Lが集光するようにレーザ光Lの球面収差を補正するものである。この第2の補正パターンは、加工対象物1におけるレーザ光Lが入射する面(裏面11b)から改質領域7を形成する所定の位置までの距離と、加工対象物1の屈折率と、によって算出することができる。
【0051】
上述のようにして求められた第1の補正パターンと第2の補正パターンとを合成することで得られる第3の補正パターンを用いて、制御部205が反射型空間光変調器203を制御する。これにより、図10(c)に示すように、加工対象物1にエキスパンドテープ20が貼り付けられた状態において、エキスパンドテープ20を介して加工対象物1にレーザ光Lを照射すると、改質領域7を形成する所定の位置にレーザ光Lが集光する。
【0052】
ところで、厳密に言えば、反射型空間光変調器203で変調(補正)されたレーザ光Lは、空間を伝播することにより波面形状が変化してしまう。特に、反射型空間光変調器203から出射されたレーザ光Lや集光光学系204に入射するレーザ光Lが所定の拡がりを有する光(すなわち、平行光以外の光)である場合には、反射型空間光変調器203での波面形状と集光光学系204での波面形状とが一致せず、結果的に、目的とする精密な内部加工を妨げるおそれがある。そこで、反射型空間光変調器203での波面形状と集光光学系204での波面形状とを一致させることが重要となる。そのためには、レーザ光Lが反射型空間光変調器203から集光光学系204に伝播したときの波面形状の変化を計測等により求め、その波面形状の変化を考慮した波面整形(収差補正)パターン情報を反射型空間光変調器203に入力することがより望ましい。
【0053】
或いは、反射型空間光変調器203での波面形状と集光光学系204での波面形状とを一致させるために、図11に示すように、反射型空間光変調器203と集光光学系204との間を進行するレーザ光Lの光路上に、調整光学系240を設けてもよい。これにより、正確に波面整形を実現することが可能となる。
【0054】
調整光学系240は、少なくとも2つのレンズ241a及びレンズ241bを有している。レンズ241a,241bは、反射型空間光変調器203での波面形状と集光光学系204での波面形状とを相似的に一致させるためのものである。レンズ241a,241bは、反射型空間光変調器203とレンズ241aとの距離がレンズ241aの焦点距離f1となり、集光光学系204とレンズ241bとの距離がレンズ241bの焦点距離f2となり、レンズ241aとレンズ241bとの距離がf1+f2となり、且つレンズ241aとレンズ241bとが両側テレセントリック光学系となるように、反射型空間光変調器203と反射部材208との間に配置されている。
【0055】
このように配置することで、1°以下程度の小さな拡がり角を有するレーザ光Lであっても、反射型空間光変調器203での波面と集光光学系204での波面とを合わせることができる。なお、より正確さを求める場合には、反射型空間光変調器203と液晶層216とレンズ241aの主点との距離をf1とすることが望ましい。しかしながら、反射型空間光変調器203は非常に薄く、液晶層216と透明基板218との距離も極めて小さいため、液晶層216と透明基板218との間での波面形状の変化の程度も極めて小さい。従って、簡易的に、反射型空間光変調器203の構成上、焦点距離を設定し易い位置(例えば、反射型空間光変調器203の表面(表面近傍)等)とレンズ241aとの距離をf1に設定してもよく、このようにすることで調整が容易となる。また、より正確さを求める場合には、集光光学系204の主点とレンズ241bの主点との距離をf2とすることが望ましい。しかしながら、集光光学系204は複数のレンズを含んで構成され、主点での位置合わせが困難となる場合がある。その場合には、簡易的に、集光光学系204の構成上、焦点距離を設定し易い位置(例えば、集光光学系204の表面(表面近傍)等)とレンズ241bとの距離をf2に設定してもよく、このようにすることで調整が容易となる。
【0056】
また、レーザ光Lのビーム径は、f1とf2との比で決まる(集光光学系204に入射するレーザ光Lのビーム径は、反射型空間光変調器203から出射されるレーザ光Lのビーム径のf2/f1倍となる)。従って、レーザ光Lが平行光、或いは小さな拡がりを有する光のいずれの場合であっても、反射型空間光変調器203から出射される角度を保ったまま、集光光学系204に入射するレーザ光Lにおいて所望のビーム径を得ることができる。
【0057】
ここで、レーザ加工装置200を用いて加工対象物1を加工する場合について説明する。一例として、板状の加工対象物1の内部に集光点Pを合わせてレーザ光Lを照射することにより、切断予定ライン5に沿って、切断の起点となる改質領域7を加工対象物1の内部に形成する場合について説明する。
【0058】
まず、加工対象物1の裏面11bにエキスパンドテープ20を貼り付け、該加工対象物1を支持台201上に載置する。このとき、加工対象物1の裏面11bが集光光学系204側を向くように加工対象物1を支持台201上に載置する。続いて、加工対象物1の裏面11bをレーザ光照射面として加工対象物1にレーザ光Lをパルス照射しながら、加工対象物1とレーザ光Lとを切断予定ライン5に沿って相対移動(スキャン)させる。その結果、加工対象物1内の厚さ方向の所定深さに、改質領域7が形成される。
【0059】
そして、改質領域7の形成後、エキスパンドテープ20を拡張することで、改質領域7を切断の起点として加工対象物1を切断予定ライン5に沿って切断し、切断された複数のチップを半導体装置(例えばメモリ、IC、発光素子、受光素子等)として得る。
【0060】
本実施形態は以上のように構成され、屈折率が互いに異なる加工対象物1とエキスパンドテープ20とが積層されている場合であっても、レーザ光Lはエキスパンドテープ20を透過して加工対象物1の内部で集光する。これにより、加工対象物1とは異なる屈折率を有するエキスパンドテープ20を介して照射されたレーザ光Lであっても、レーザ光Lが集光する加工対象物1の内部において改質領域7を形成することができる。
【0061】
また、レーザ光Lがエキスパンドテープ20を透過する状態で生じている球面収差を補正する第1の補正パターンと、レーザ光Lが加工対象物1を透過する状態で生じている球面収差を補正する第2の補正パターンと、に基づいてレーザ光Lの球面収差を補正する。これにより、レーザ光Lが集光ボケすることなく、加工対象物1の内部におけるレーザ光Lを集光させたい所定の位置に確実にレーザ光Lを集光させることができる。したがって、改質領域7を形成したい所定の位置に確実に改質領域7を形成することができる。
【0062】
また、第1の補正パターンと第2の補正パターンとを合成して得られる第3の補正パターンを用いてレーザ光Lの球面収差を補正することで、レーザ光Lの集光ボケを簡易に抑制することができる。
【0063】
また、レーザ光Lの収差の補正を反射型空間光変調器203によって行うことで、レーザ光Lの収差の補正を容易に行うことができる。
【0064】
また、エキスパンドテープ20は、レーザ光に対する透過率が90%以上であるため、レーザ光Lのパワーの減衰を抑制しながら加工対象物1の内部に改質領域7を形成することができる。
【0065】
また、エキスパンドテープ20を加工対象物1に貼り付けた状態で改質領域7を形成することができるので、エキスパンドテープ20を拡張させることで加工対象物1を切断予定ライン5に沿って容易に切断することができる。
【0066】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、加工対象物1に積層されるエキスパンドテープ20に代えて、エキスパンドテープ20とは異なる部材(シリコン基板等)を用いてもよい。この場合であっても、加工対象物1に積層される部材を介して加工対象物1の内部に改質領域7を形成することができる。また、加工対象物1に積層される部材(上記実施形態ではエキスパンドテープ20に相当)は、加工対象物1に当接していてもよく、加工対象物1と所定の隙間を設けて配置されていてもよい。また、加工対象物1に積層される部材は、1つの部材に限られず、レーザ光Lの軸方向に沿って積層された互いに屈折率が異なる複数の部材であってもよい。
【符号の説明】
【0067】
1…加工対象物(第1の部材)、7…改質領域、11b…裏面(レーザ光の入射面)、20…エキスパンドテープ(第2の部材、粘着テープ)、20a…基材、20b…粘着層、20c…入射面、20d出射面、L…レーザ光、200…レーザ加工装置。203…反射型空間光変調器(空間光変調器)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
屈折率が互いに異なる第1の部材及び第2の部材が積層された状態において、前記第2の部材の内部の所定の位置に集光するように、前記第1の部材が配置された側から前記第2の部材の切断予定ラインに沿ってレーザ光を照射することにより、前記切断予定ラインに沿って切断の起点となる改質領域を前記第2の部材の内部に形成する工程を備え、
前記レーザ光を照射する際には、前記所定の位置において前記レーザ光が集光するように、前記レーザ光の収差を補正することを特徴とするレーザ加工方法。
【請求項2】
前記レーザ光の収差の補正は、前記レーザ光が前記第1の部材のみを透過する状態で、前記第1の部材における前記レーザ光の出射面の位置又は前記レーザ光が前記第1の部材を透過した位置において前記レーザ光が集光するように前記レーザ光の収差を補正する第1の補正パターンと、前記レーザ光が前記第2の部材のみを透過する状態で、前記第2の部材の内部の改質領域を形成する前記所定の位置において前記レーザ光が集光するように前記レーザ光の収差を補正する第2の補正パターンと、に基づいて前記レーザ光の収差を補正することを特徴とする請求項1に記載のレーザ加工方法。
【請求項3】
前記第1の補正パターンは、前記第1の部材の屈折率と、前記第1の部材における前記レーザ光の入射面から出射面までの距離と、に基づいて算出され、
前記第2の補正パターンは、前記第2の部材の屈折率と、前記第2の部材における前記レーザ光の入射面から前記改質領域を形成する前記所定の位置までの距離と、に基づいて算出される、
ことを特徴とする請求項2に記載のレーザ加工方法。
【請求項4】
前記レーザ光の収差の補正は、前記第1の補正パターンと、前記第2の補正パターンと、を合成して得られる第3の補正パターンに基づいて行う、ことを特徴とする請求項2又は3に記載のレーザ加工方法。
【請求項5】
前記レーザ光の収差の補正は、前記レーザ光の収差を補正する空間光変調器によって行う、ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のレーザ加工方法。
【請求項6】
前記第1の部材は、基材と粘着層とを有すると共に、前記レーザ光に対して透過率が90%以上の粘着テープであり、前記第2の部材に貼り付けられている、ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のレーザ加工方法。
【請求項7】
前記レーザ光による前記改質領域の形成後、前記第1の部材を拡張させることで、前記改質領域を起点とした割れを前記第2の部材に生じさせて前記第2の部材を切断する、ことを特徴とする請求項6に記載のレーザ加工方法。
【請求項8】
前記第1の部材は、前記レーザ光の軸方向に沿って積層された互いに屈折率が異なる複数の部材より構成されている、ことを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のレーザ加工方法。
【請求項1】
屈折率が互いに異なる第1の部材及び第2の部材が積層された状態において、前記第2の部材の内部の所定の位置に集光するように、前記第1の部材が配置された側から前記第2の部材の切断予定ラインに沿ってレーザ光を照射することにより、前記切断予定ラインに沿って切断の起点となる改質領域を前記第2の部材の内部に形成する工程を備え、
前記レーザ光を照射する際には、前記所定の位置において前記レーザ光が集光するように、前記レーザ光の収差を補正することを特徴とするレーザ加工方法。
【請求項2】
前記レーザ光の収差の補正は、前記レーザ光が前記第1の部材のみを透過する状態で、前記第1の部材における前記レーザ光の出射面の位置又は前記レーザ光が前記第1の部材を透過した位置において前記レーザ光が集光するように前記レーザ光の収差を補正する第1の補正パターンと、前記レーザ光が前記第2の部材のみを透過する状態で、前記第2の部材の内部の改質領域を形成する前記所定の位置において前記レーザ光が集光するように前記レーザ光の収差を補正する第2の補正パターンと、に基づいて前記レーザ光の収差を補正することを特徴とする請求項1に記載のレーザ加工方法。
【請求項3】
前記第1の補正パターンは、前記第1の部材の屈折率と、前記第1の部材における前記レーザ光の入射面から出射面までの距離と、に基づいて算出され、
前記第2の補正パターンは、前記第2の部材の屈折率と、前記第2の部材における前記レーザ光の入射面から前記改質領域を形成する前記所定の位置までの距離と、に基づいて算出される、
ことを特徴とする請求項2に記載のレーザ加工方法。
【請求項4】
前記レーザ光の収差の補正は、前記第1の補正パターンと、前記第2の補正パターンと、を合成して得られる第3の補正パターンに基づいて行う、ことを特徴とする請求項2又は3に記載のレーザ加工方法。
【請求項5】
前記レーザ光の収差の補正は、前記レーザ光の収差を補正する空間光変調器によって行う、ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のレーザ加工方法。
【請求項6】
前記第1の部材は、基材と粘着層とを有すると共に、前記レーザ光に対して透過率が90%以上の粘着テープであり、前記第2の部材に貼り付けられている、ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のレーザ加工方法。
【請求項7】
前記レーザ光による前記改質領域の形成後、前記第1の部材を拡張させることで、前記改質領域を起点とした割れを前記第2の部材に生じさせて前記第2の部材を切断する、ことを特徴とする請求項6に記載のレーザ加工方法。
【請求項8】
前記第1の部材は、前記レーザ光の軸方向に沿って積層された互いに屈折率が異なる複数の部材より構成されている、ことを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のレーザ加工方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−43204(P2013−43204A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182984(P2011−182984)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】
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