説明

レーザ加工方法

【課題】水晶で形成された加工対象物を寸法精度よく切断することができるレーザ加工方法を提供する。
【解決手段】水晶で形成された加工対象物1にレーザ光Lを集光させることにより、切断予定ライン5に沿って、複数の改質スポットSを含む改質領域7を加工対象物1に形成する。このとき、加工対象物1に対しレーザ光Lを照射しながら切断予定ライン5に沿って相対移動させ、加工対象物1の内部に位置する複数の改質スポットS1を切断予定ライン5に沿って形成した後、加工対象物1に対しレーザ光Lを照射しながら切断予定ライン5に沿って相対移動させ、加工対象物1の表面3に露出する複数の改質スポットS2を、表面3に露出する亀裂が形成されないように切断予定ライン5に沿って形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工対象物を切断するためのレーザ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のレーザ加工方法としては、加工対象物にレーザ光を集光させ、加工対象物に改質領域を切断予定ラインに沿って形成し、加工対象物を切断予定ラインに沿って切断するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。このようなレーザ加工方法では、切断予定ラインに沿って複数の改質スポットを形成し、これら複数の改質スポットによって改質領域を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−108459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上述したようなレーザ加工方法においては、水晶で形成された加工対象物を切断する場合、例えば大きい亀裂が発生し易いことから、当該亀裂を制御して切断後の加工対象物の寸法精度(加工品質)を制御することは容易でなく、寸法精度を向上させることが困難とされている。
【0005】
そこで、本発明は、水晶で形成された加工対象物を寸法精度よく切断することができるレーザ加工方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係るレーザ加工方法は、水晶で形成された加工対象物を切断予定ラインに沿って切断するためのレーザ加工方法であって、加工対象物にレーザ光を集光させることにより、切断予定ラインに沿って、複数の改質スポットを含む改質領域を加工対象物に形成する改質領域形成工程を備え、改質領域形成工程は、加工対象物に対しレーザ光を照射しながら切断予定ラインに沿って相対移動させ、加工対象物の内部に位置する複数の第1改質スポットを切断予定ラインに沿って形成する工程と、加工対象物に対しレーザ光を照射しながら切断予定ラインに沿って相対移動させ、加工対象物のレーザ光入射面に露出する複数の第2改質スポットを、レーザ光入射面に露出する亀裂が形成されないように切断予定ラインに沿って形成する工程と、を含むことを特徴とする。
【0007】
このレーザ加工方法により加工された加工対象物を切断する場合、内部に形成された複数の第1改質スポットにより切断予定ラインに沿って容易に切断されると共に、レーザ光入射面に露出する複数の第2改質スポットがいわゆる切取り線となるように作用し、かかる切断が当該複数の第2改質スポットによりアシストされることとなる。従って、加工対象物を寸法精度よく切断することが可能となる。
【0008】
また、切断予定ラインに沿って外部から加工対象物に力を印加することにより、改質領域を切断の起点として加工対象物を切断する切断工程をさらに備えたことが好ましい。これにより、加工対象物を確実に切断予定ラインに沿って切断することが可能となる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、水晶で形成された加工対象物を寸法精度よく切断することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】改質領域の形成に用いられるレーザ加工装置の概略構成図である。
【図2】改質領域の形成の対象となる加工対象物の平面図である。
【図3】図2の加工対象物のIII−III線に沿っての断面図である。
【図4】レーザ加工後の加工対象物の平面図である。
【図5】図4の加工対象物のV−V線に沿っての断面図である。
【図6】図4の加工対象物のVI−VI線に沿っての断面図である。
【図7】本実施形態に係るレーザ加工装置の概略構成図である。
【図8】図7のレーザ加工装置の反射型空間光変調器の部分断面図である。
【図9】本実施形態に係る他のレーザ加工装置の概略構成図である。
【図10】本実施形態に係る水晶振動子の製造工程を示すフロー図である。
【図11】加工対象物を水晶チップに切断する工程を説明するための概略図である。
【図13】(a)は本実施形態に係る第2改質スポットが形成された加工対象物の表面を示す写真図、(b)は図13(a)のb−b線に沿った断面に対応する写真図である。
【図14】比較例に係る第2改質スポットが形成された加工対象物の表面を示す写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明において同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0012】
本実施形態に係るレーザ加工方法では、加工対象物にレーザ光を集光させ、複数の改質スポットを含む改質領域を切断予定ラインに沿って形成する。そこで、まず、改質領域の形成について、図1〜図6を参照して説明する。
【0013】
図1に示すように、レーザ加工装置100は、レーザ光Lをパルス発振するレーザ光源101と、レーザ光Lの光軸(光路)の向きを90°変えるように配置されたダイクロイックミラー103と、レーザ光Lを集光するための集光用レンズ(集光光学系)105と、を備えている。また、レーザ加工装置100は、集光用レンズ105で集光されたレーザ光Lが照射される加工対象物1を支持するための支持台107と、支持台107を移動させるためのステージ111と、レーザ光Lの出力やパルス幅、パルス波形等を調節するためにレーザ光源101を制御するレーザ光源制御部102と、ステージ111の移動を制御するステージ制御部115と、を備えている。
【0014】
このレーザ加工装置100においては、レーザ光源101から出射されたレーザ光Lは、ダイクロイックミラー103によってその光軸の向きを90°変えられ、支持台107上に載置された加工対象物1の内部に集光用レンズ105によって集光される。これと共に、ステージ111が移動させられ、加工対象物1がレーザ光Lに対して切断予定ライン5に沿って相対移動させられる。これにより、切断予定ライン5に沿った改質領域が加工対象物1に形成されることとなる。なお、ここでは、レーザ光Lを相対的に移動させるためにステージ111を移動させたが、集光用レンズ105を移動させてもよいし、或いはこれらの両方を移動させてもよい。
【0015】
加工対象物1は、水晶で形成されており、図2に示すように、加工対象物1には、加工対象物1を切断するための切断予定ライン5が設定されている。切断予定ライン5は、直線状に延びた仮想線である。加工対象物1の内部に改質領域を形成する場合、図3に示すように、加工対象物1の内部に集光点(集光位置)Pを合わせた状態で、レーザ光Lを切断予定ライン5に沿って(すなわち、図2の矢印A方向に)相対的に移動させる。これにより、図4〜図6に示すように、改質領域7が切断予定ライン5に沿って加工対象物1の内部に形成され、切断予定ライン5に沿って形成された改質領域7が切断起点領域8となる。
【0016】
なお、集光点Pとは、レーザ光Lが集光する箇所のことである。また、切断予定ライン5は、直線状に限らず曲線状であってもよいし、これらが組み合わされた3次元状であってもよいし、座標指定されたものであってもよい。また、切断予定ライン5は、仮想線に限らず加工対象物1の表面3に実際に引かれた線であってもよい。改質領域7は、連続的に形成される場合もあるし、断続的に形成される場合もある。また、改質領域7は列状でも点状でもよく、要は、改質領域7は少なくとも加工対象物1の内部に形成されていればよい。また、改質領域7を起点に亀裂が形成される場合があり、亀裂及び改質領域7は、加工対象物1の外表面(表面3、裏面21、若しくは外周面)に露出していてもよい。また、改質領域7を形成する際のレーザ光入射面は、加工対象物1の表面3に限定されるものではなく、加工対象物1の裏面21であってもよい。
【0017】
ちなみに、ここでのレーザ光Lは、加工対象物1を透過すると共に加工対象物1の内部の集光点近傍にて特に吸収され、これにより、加工対象物1に改質領域7が形成される(すなわち、内部吸収型レーザ加工)。よって、加工対象物1の表面3ではレーザ光Lが殆ど吸収されないので、加工対象物1の表面3が溶融することはない。一般的に、表面3から溶融され除去されて穴や溝等の除去部が形成される(表面吸収型レーザ加工)場合、加工領域は表面3側から徐々に裏面側に進行する。
【0018】
ところで、本実施形態で形成される改質領域は、密度、屈折率、機械的強度やその他の物理的特性が周囲とは異なる状態になった領域をいう。改質領域としては、例えば、溶融処理領域(一旦溶融後再固化した領域、溶融状態中の領域及び溶融から再固化する状態中の領域のうち少なくともいずれか一つを意味する)、クラック領域、絶縁破壊領域、屈折率変化領域等があり、これらが混在した領域もある。さらに、改質領域としては、加工対象物の材料において改質領域の密度が非改質領域の密度と比較して変化した領域や、格子欠陥が形成された領域がある(これらをまとめて高密転移領域ともいう)。
【0019】
また、溶融処理領域や屈折率変化領域、改質領域の密度が非改質領域の密度と比較して変化した領域、格子欠陥が形成された領域は、さらに、それら領域の内部や改質領域と非改質領域との界面に亀裂(割れ、マイクロクラック)を内包している場合がある。内包される亀裂は改質領域の全面に渡る場合や一部分のみや複数部分に形成される場合がある。加工対象物1としては、水晶(SiO)又は水晶を含む材料が用いられている。
【0020】
また、本実施形態においては、切断予定ライン5に沿って改質スポット(加工痕)を複数形成することによって、改質領域7を形成している。改質スポットとは、パルスレーザ光の1パルスのショット(つまり1パルスのレーザ照射:レーザショット)で形成される改質部分であり、改質スポットが集まることにより改質領域7となる。改質スポットとしては、クラックスポット、溶融処理スポット若しくは屈折率変化スポット、又はこれらの少なくとも1つが混在するもの等が挙げられる。
【0021】
この改質スポットについては、要求される切断精度、要求される切断面の平坦性、加工対象物の厚さ、種類、結晶方位等を考慮して、その大きさや発生する亀裂の長さを適宜制御することが好ましい。
【0022】
次に、本実施形態に係るレーザ加工装置について説明する。
【0023】
図7に示すように、レーザ加工装置200は、板状の加工対象物1を支持する支持台201と、レーザ光Lを出射するレーザ光源202と、レーザ光源202から出射されたレーザ光Lの収差を補正するための反射型空間光変調器203と、支持台201によって支持された加工対象物1の内部に、反射型空間光変調器203によって収差補正されたレーザ光Lを集光する集光光学系204と、反射型空間光変調器203を少なくとも制御する制御部(制御手段)205と、を備えている。レーザ加工装置200は、加工対象物1にレーザ光Lを照射することにより、加工対象物1の切断予定ライン5に沿って、複数の改質スポットを含む改質領域7を形成する。
【0024】
反射型空間光変調器203は筐体231内に設置されており、レーザ光源202は筐体231の天板に設置されている。また、集光光学系204は、複数のレンズを含んで構成されており、圧電素子等を含んで構成された駆動ユニット232を介して筐体231の底板に設置されている。そして、筐体231に設置された部品によってレーザエンジン230が構成されている。なお、制御部205は、レーザエンジン230の筐体231内に設置されてもよい。
【0025】
筐体231には、筐体231を加工対象物1の厚さ方向に移動させる移動機構が設置されている(図示せず)。これにより、加工対象物1の深さに応じてレーザエンジン230を上下に移動させることができるため、集光光学系204の位置を変化させて、レーザ光Lを加工対象物1の所望の深さ位置に集光することが可能となる。なお、筐体231に移動機構を設置する代わりに、支持台201に、支持台201を加工対象物1の厚さ方向に移動させる移動機構を設けてもよい。また、後述するAFユニット212を利用して集光光学系204を加工対象物1の厚さ方向に移動させてもよい。そして、これらを組み合わせることも可能である。
【0026】
制御部205は、反射型空間光変調器203を制御する他、レーザ加工装置200の全体を制御する。例えば、制御部205は、改質領域7を形成する際に、レーザ光Lの集光点Pが加工対象物1の表面(レーザ光入射面)3から所定の距離に位置し且つレーザ光Lの集光点Pが切断予定ライン5に沿って相対的に移動するように集光光学系204を含むレーザエンジン230を制御する。なお、制御部205は、加工対象物1に対してレーザ光Lの集光点Pを相対的に移動させるために、集光光学系204を含むレーザエンジン230ではなく支持台201を制御してもよいし、或いは集光光学系204を含むレーザエンジン230及び支持台201の両方を制御してもよい。
【0027】
レーザ光源202から出射されたレーザ光Lは、筐体231内において、ミラー206,207によって順次反射された後、プリズム等の反射部材208によって反射されて反射型空間光変調器203に入射する。反射型空間光変調器203に入射したレーザ光Lは、反射型空間光変調器203によって変調されて反射型空間光変調器203から出射される。反射型空間光変調器203から出射されたレーザ光Lは、筐体231内において、集光光学系204の光軸に沿うように反射部材208によって反射され、ビームスプリッタ209,210を順次透過して集光光学系204に入射する。集光光学系204に入射したレーザ光Lは、支持台201上に載置された加工対象物1の内部に集光光学系204によって集光される。
【0028】
また、レーザ加工装置200は、加工対象物1の表面3を観察するための表面観察ユニット211を筐体231内に備えている。表面観察ユニット211は、ビームスプリッタ209で反射され且つビームスプリッタ210を透過する可視光VLを出射し、集光光学系204によって集光されて加工対象物1の表面3で反射された可視光VLを検出することで、加工対象物1の表面3の像を取得する。
【0029】
さらに、レーザ加工装置200は、加工対象物1の表面3にうねりが存在するような場合にも、表面3から所定の距離の位置にレーザ光Lの集光点Pを精度良く合わせるためのAF(autofocus)ユニット212を筐体231内に備えている。AFユニット212は、ビームスプリッタ210で反射されるAF用レーザ光LBを出射し、集光光学系204によって集光されて加工対象物1の表面3で反射されたAF用レーザ光LBを検出することで、例えば非点収差法を用いて、切断予定ライン5に沿った表面3の変位データを取得する。そして、AFユニット212は、改質領域7を形成する際に、取得した変位データに基づいて駆動ユニット232を駆動させることで、加工対象物1の表面3のうねりに沿うように集光光学系204をその光軸方向に往復移動させ、集光光学系204と加工対象物1との距離を微調整する。
【0030】
ここで、反射型空間光変調器203について説明する。反射型空間光変調器203は、レーザ光源202から出射されたレーザ光Lの収差を補正するものであり、例えば反射型液晶(LCOS:Liquid Crystal on Silicon)の空間光変調器(SLM:Spatial Light Modulator)が用いられている。図8は、図7のレーザ加工装置の反射型空間光変調器の部分断面図である。図8に示すように、反射型空間光変調器203は、シリコン基板213、駆動回路層914、複数の画素電極214、誘電体多層膜ミラー等の反射膜215、配向膜999a、液晶層216、配向膜999b、透明導電膜217、及びガラス基板等の透明基板218を備え、これらがこの順に積層されている。
【0031】
透明基板218は、XY平面に沿った表面218aを有しており、該表面218aは反射型空間光変調器203の表面を構成する。透明基板218は、例えばガラス等の光透過性材料を主に含んでおり、反射型空間光変調器203の表面218aから入射した所定波長のレーザ光Lを、反射型空間光変調器203の内部へ透過する。透明導電膜217は、透明基板218の裏面218b上に形成されており、レーザ光Lを透過する導電性材料(例えばITO)を主に含んで構成されている。
【0032】
複数の画素電極214は、複数の画素の配列に従って二次元状に配列されており、透明導電膜217に沿ってシリコン基板213上に配列されている。各画素電極214は、例えばアルミニウム等の金属材料からなり、これらの表面214aは、平坦且つ滑らかに加工されている。複数の画素電極214は、駆動回路層914に設けられたアクティブ・マトリクス回路によって駆動される。
【0033】
アクティブ・マトリクス回路は、複数の画素電極214とシリコン基板213との間に設けられ、反射型空間光変調器203から出力しようとする光像に応じて各画素電極214への印加電圧を制御する。このようなアクティブ・マトリクス回路は、例えば図示しないX軸方向に並んだ各画素列の印加電圧を制御する第1のドライバ回路と、Y軸方向に並んだ各画素列の印加電圧を制御する第2のドライバ回路とを有しており、制御部250によって双方のドライバ回路で指定された画素の画素電極214に所定電圧が印加されるよう構成されている。
【0034】
なお、配向膜999a,999bは、液晶層216の両端面に配置されており、液晶分子群を一定方向に配列させる。配向膜999a,999bは、例えばポリイミドといった高分子材料からなり、液晶層216との接触面にラビング処理等が施されたものが適用される。
【0035】
液晶層216は、複数の画素電極214と透明導電膜217との間に配置されており、各画素電極214と透明導電膜217とにより形成される電界に応じてレーザ光Lを変調する。すなわち、アクティブ・マトリクス回路によって或る画素電極214に電圧が印加されると、透明導電膜217と該画素電極214との間に電界が形成される。
【0036】
この電界は、反射膜215及び液晶層216のそれぞれに対し、各々の厚さに応じた割合で印加される。そして、液晶層216に印加された電界の大きさに応じて液晶分子216aの配列方向が変化する。レーザ光Lが透明基板218及び透明導電膜217を透過して液晶層216に入射すると、このレーザ光Lは液晶層216を通過する間に液晶分子216aによって変調され、反射膜215において反射した後、再び液晶層216により変調されてから取り出されることとなる。そして、レーザ光Lのビーム波面を整形(変調)させるための収差補正(波面整形)パターンが液晶層216に表示され、これにより、液晶層216の収差補正パターンを透過したレーザ光Lは、当該収差補正パターンに応じて位相変調され収差が補正される。
【0037】
制御部205は、改質領域7を形成する際、収差補正パターンに関するパターン情報を反射型空間光変調器203に入力し、液晶層216上に所定の収差補正パターンを表示させることで、反射型空間光変調器203から出射されるレーザ光Lの収差を制御する。なお、反射型空間光変調器203に入力するパターン情報は逐次入力するようにしてもよいし、予め記憶されたパターン情報を選択して入力するようにしてもよい。
【0038】
ところで、厳密に言えば、反射型空間光変調器203で収差補正されたレーザ光Lは、空間を伝播することにより波面形状が変化してしまう。特に、反射型空間光変調器203から出射されたレーザ光Lや集光光学系204に入射するレーザ光Lが所定の拡がりを有する光(すなわち、平行光以外の光)である場合、反射型空間光変調器203での波面形状と集光光学系204での波面形状とが一致せず、結果的に、目的とする精密な内部加工を妨げるおそれがある。そこで、反射型空間光変調器203での波面形状と集光光学系204での波面形状とを一致させることが重要となる。そのためには、レーザ光Lが反射型空間光変調器203から集光光学系204に伝播したときの波面形状の変化を計測等により求め、その波面形状の変化を考慮した収差補正パターンのパターン情報を反射型空間光変調器203に入力することがより望ましい。
【0039】
或いは、反射型空間光変調器203での波面形状と集光光学系204での波面形状とを一致させるために、図9に示すように、反射型空間光変調器203と集光光学系204との間を進行するレーザ光Lの光路上に、調整光学系240を設けてもよい。これにより、正確に波面整形を実現することが可能となる。
【0040】
調整光学系240は、少なくとも2つのレンズ241a及びレンズ241bを有している。レンズ241a,241bは、反射型空間光変調器203での波面形状と集光光学系204での波面形状とを相似的に一致させるためのものである。レンズ241a,241bは、反射型空間光変調器203とレンズ241aとの距離がレンズ241aの焦点距離f1となり、集光光学系204とレンズ241bとの距離がレンズ241bの焦点距離f2となり、レンズ241aとレンズ241bとの距離がf1+f2となり、且つレンズ241aとレンズ241bとが両側テレセントリック光学系となるように、反射型空間光変調器203と反射部材208との間に配置されている。
【0041】
このように配置することで、1°以下程度の小さな拡がり角を有するレーザ光Lであっても、反射型空間光変調器203での波面と集光光学系204での波面とを合わせることができる。また、レーザ光Lのビーム径は、f1とf2との比で決まる(集光光学系204に入射するレーザ光Lのビーム径は、反射型空間光変調器203から出射されるレーザ光Lのビーム径のf2/f1倍となる)。従って、レーザ光Lが平行光、或いは小さな拡がりを有する光のいずれの場合であっても、反射型空間光変調器203から出射される角度を保ったまま、集光光学系204に入射するレーザ光Lにおいて所望のビーム径を得ることができる。
【0042】
なお、調整光学系240は、レンズ241a,241bのそれぞれの位置を独立して微調整する機構を備えることが望ましい。また、反射型空間光変調器203の有効エリアを有効に使用するために、反射型空間光変調器203とレーザ光源202との間のレーザ光Lの光路上にビームエキスパンダを設けてもよい。
【0043】
次に、本実施形態に係るレーザ加工方法について説明する。
【0044】
本実施形態のレーザ加工方法は、例えば水晶振動子を製造するための水晶振動子の製造方法として用いられるものであって、六方柱状の結晶である水晶で形成された加工対象物1をレーザ加工装置200により複数の水晶チップに切断する。そこで、まず、図10を参照しつつ水晶振動子の全体の製造工程フローを概略説明する。
【0045】
初めに、人工水晶原石を例えばダイヤモンド研削によって切り出し、所定サイズの棒状体(ランバード)に加工する(S1)。続いて、水晶振動子の温度特性要求に応じた切断角度をX線により測定し、この切断角度に基づいてランバードをワイヤーソー加工によって複数のウェハ状の加工対象物1に切断する(S2)。ここでの加工対象物1は、10mm×10mmの矩形板状を呈し、厚さ方向に対し35.15°傾斜した結晶軸を有している。
【0046】
続いて、ラッピング加工を加工対象物1の表面3及び裏面21に施し、その厚さを所定厚さとする(S3)。続いて、微小角度レベルで切断角度をX線により測定し、加工対象物1の選別及び分類を行った後、上記S3と同様なラッピング加工を加工対象物1の表面3及び裏面21に再度施し、加工対象物1の厚さを例えば100μm程度に微調整する(S4,S5)。
【0047】
そして、切断加工及び外形加工として、加工対象物1に改質領域7を形成し当該改質領域7を切断の起点として加工対象物1を切断予定ライン5に沿って切断する(S6:詳しくは、後述)。これにより、±数μm以下の寸法精度の外形寸法を有する複数の水晶チップを得る。本実施形態では、表面3視において切断予定ライン5が格子状に加工対象物1に設定されており、1mm×0.5mmの矩形板状の水晶チップとして加工対象物1を切断する。
【0048】
続いて、所定周波数となるように水晶チップに面取り加工(コンベックス加工)を施す共に、所定周波数となるようにエッチング加工により水晶チップの厚さを調整する(S7,S8)。その後、この水晶チップを水晶振動子として組み立てる(S9)。具体的には、水晶チップ上にスパッタリングにより電極を形成し、この水晶チップをマウンタ内に搭載し、真空雰囲気中で熱処理した後、イオンエッチングで水晶チップの電極を削り周波数を調整し、マウンタ内をシーム封止する。これにより、水晶振動子の製造が完了する。
【0049】
図8は、加工対象物を水晶チップに切断する工程を説明するための概略図である。図中においては、説明の便宜上、1つの切断予定ライン5に沿った切断を例示して示している。加工対象物1を水晶チップへ切断する上記S6においては、まず、加工対象物1の裏面21にエキスパンドテープ31を貼り付けて加工対象物1を支持台201(図7参照)上に載置する。
【0050】
続いて、制御部205によりレーザエンジン230及び反射型空間光変調器203を制御し、切断予定ライン5に沿って、加工対象物1にレーザ光Lを適宜集光させて複数の改質スポットSを含む改質領域7を形成する(改質領域形成工程)。
【0051】
具体的には、図11(a)に示すように、例えば出力0.03W、繰返し周波数15kHz及びパルス幅500ピコ秒ないし640ピコ秒でレーザ光Lを表面3側から照射しながら、このレーザ光Lを切断予定ライン5に沿って相対移動させ、加工対象物1の内部のみに位置する複数の第1改質スポットSを切断予定ライン5に沿って一列形成する(第1スキャン)。
【0052】
続いて、図11(b)に示すように、例えば出力0.03W、繰返し周波数15kHz及びパルス幅500ピコ秒〜640ピコ秒でレーザ光Lを表面3側から照射しながら、このレーザ光Lを切断予定ライン5に沿って相対移動させ、加工対象物1の表面3に露出する複数の第2改質スポットSを切断予定ライン5に沿って一列形成する(第2スキャン)。
【0053】
ここで、レーザ光入射面としての表面3に露出する第2改質スポットSを形成する上記第2スキャンの際、単に加工対象物1の表面3にレーザ光Lを集光させるのではなく、このレーザ光Lの収差を加工対象物1内の表面3近傍に集光点が位置するよう補正すると、いわゆる空振り現象(レーザ光Lを加工対象物1に集光させても改質スポットSが形成されない現象)の発生を抑制し得ることが見出される。
【0054】
そこで、上記第2スキャンにおいては、レーザ光Lの集光点が加工対象物1内の表面3近傍に位置するようレーザ光Lの収差を補正する所定の収差補正パターンを、反射型空間光変調器203の液晶層216に表示させる。これと共に、集光光学系204の焦点を加工対象物1の表面3に位置させる。この状態で、レーザ光Lを表面3側から照射する、すなわち、加工対象物1内の表面3近傍に集光点が位置するように収差補正したレーザ光Lを、レーザ光入射面としての表面3に集光させる。
【0055】
特に、本実施形態の上記第2スキャンでは、加工対象物1内の表面3から1μm〜2μm内側の位置に集光点を位置させる所定の収差補正パターンを液晶層216に表示させており、これにより、加工対象物1内の表面3から1μm〜2μm内側の位置に集光点が位置するよう収差補正したレーザ光Lを表面3に集光させる。
【0056】
これにより、図13に示すように、いわゆる空振り現象の発生を抑制することができる共に、表面3に露出する亀裂であるハーフカットを形成せずに、表面3に露出する複数の第2改質スポットS(つまり、断続的に表面3から露出する改質領域7)のみを綺麗に切断予定ライン5に沿って継続的に形成することが可能となる。
【0057】
続いて、上記第1及び第2スキャンを全ての切断予定ライン5について実施した後、図12(a)に示すように、加工対象物1に対し裏面21側から、エキスパンドテープ31を介して切断予定ライン5に沿うようにナイフエッジ32を押し当て、切断予定ライン5に沿って外部から加工対象物1に力を印加する(切断工程)。
【0058】
これにより、複数の第1改質スポットSが切断に主として寄与する改質スポットとして働くと共に、複数の第2改質スポットSが切断をアシストする断続的な表面打痕としての改質スポットとして働くことになり、改質領域7を切断の起点として加工対象物1が複数の水晶チップに切断される。そして、図12(b)に示すように、エキスパンドテープ31を拡張させ、チップ間隔を確保する。以上により、加工対象物1が複数の水晶チップ10として切断される。
【0059】
以上、本実施形態においては、加工対象物1の内部に位置する複数の第1改質スポットSが切断予定ライン5に沿って形成されると共に、表面3に露出する複数の第2改質スポットSが切断予定ライン5に沿って形成される。よって、複数の第1改質スポットSにより切断予定ライン5に沿って加工対象物1が容易に切断されると共に、表面3に露出する複数の第2改質スポットSがいわゆる切取り線となるように作用し、かかる切断が当該複数の第2改質スポットSによりアシストされることとなる。従って、加工対象物1を寸法精度よく切断することができ、加工品質を向上させることが可能となる。
【0060】
特に、水晶で形成された加工対象物1においてハーフカットを生じさせると、このハーフカットは例えば水晶が有する加工特性のために蛇行し易いことから、切断後の加工対象物1の寸法精度を制御することは容易でない。この点、本実施形態では、上述したように、ハーフカットが第2改質スポットSから形成されないようレーザ加工できるため、加工対象物1を一層寸法精度よく切断することが可能となる。
【0061】
また、本実施形態では、上述したように、ナイフエッジ32を用いて加工対象物1に切断予定ライン5に沿って外部応力を印加し、改質領域7を切断の起点として加工対象物1をしている。これにより、切断し難い水晶で形成された加工対象物1であっても、加工対象物1を確実に切断予定ライン5に沿って精度切断することが可能となる。
【0062】
なお、表面3に露出する第2改質スポットSを形成する際、加工対象物1内における表面3から1μm未満の位置に集光点が位置するよう収差補正したレーザ光Lを表面3に集光させる場合、及び、表面3から2μmよりも離れた位置に集光点が位置するよう収差補正したレーザ光Lを表面3に集光させる場合、いわゆる空振り現象が発生し易い。よってこれらの場合、加工品質が低下してしまうことになる。
【0063】
図14は、比較例に係る第2改質スポットが形成された加工対象物の表面を示す写真図である。図中では、加工対象物1内の表面3から3〜6μm内側の位置に集光点が位置するよう収差補正したレーザ光Lを、表面3に集光させて第2改質スポットSを形成している。図14に示すように、表面3に露出する第2改質スポットSを形成する際、表面3から深い位置に集光点が位置するよう収差補正をしてレーザ光Lを表面3に集光させた場合には、空振り現象が発生しているのがわかる(図中の枠内参照)。
【0064】
ちなみに、水晶振動子は水晶の材料そのものの特性を利用するデバイスであることから、水晶振動子用の水晶チップは寸法精度が温度特性や振動子特性に大きく影響を与える。この点において、水晶チップとして寸法精度よく加工対象物1を切断可能な本実施形態は、特に有効なものである。また、表面3に第2改質スポットSが残存(露出)した場合でも、水晶チップの温度特性や振動子特性に与える影響は少ない。また、レーザ光Lの加工点出力を単に上げても、いわゆる空振り現象の発生を抑制するのは困難であるだけでなく、表面3に焦げや傷が発生し易くなるために好ましくない。
【0065】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で変形し、又は他のものに適用してもよい。
【0066】
例えば、上記実施形態では、反射型空間光変調器203としてLCOS−SLMを用いたが、MEMS(メムス)−SLM、又はDMD(デフォーマブルミラーデバイス)等を用いてもよい。上記実施形態の反射型空間光変調器203は誘電体多層膜ミラーを備えていたが、シリコン基板の画素電極の反射を利用してもよい。さらに、上記実施形態では、反射型空間光変調器203を用いたが、透過型の空間光変調器でもよい。空間光変調器としては、液晶セルタイプ、LCDタイプのものが挙げられる。
【0067】
また、上記実施形態では、加工対象物1内の表面3近傍に集光点が位置するようにレーザ光Lの収差を補正した状態で当該レーザ光L表面3に集光させることにより、第2改質スポットSを形成したが、これに限定されず、要は、レーザ光入射面に露出する第2改質スポットをハーフカットが発生しないよう形成できればよい。例えば、制御部205でレーザ加工装置200を適宜制御することによって第2改質スポットSを形成してもよい。
【0068】
また、上記実施形態では、第1改質スポットSを形成した後に第2改質スポットSを形成しているが、第2改質スポットSを形成した後に第1改質スポットSを形成してもよい。厚さ方向の位置が互いに異なる複数列の改質領域7を加工対象物1に形成する場合、これら改質領域7の形成順序は順不同である。
【0069】
上記において、収差補正に関する各数値は、加工上、製造上及び設計上等の誤差を許容するものである。なお、本発明は、上記レーザ加工方法により水晶振動子を製造する水晶振動子の製造方法又は製造装置として捉えることもできる一方、水晶振動子を製造するものに限定されず、水晶で形成された加工対象物を切断するための種々の方法又は装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0070】
1…加工対象物、5…切断予定ライン、7…改質領域、L…レーザ光、S…改質スポット、S…第1改質スポット、S…第2改質スポット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水晶で形成された加工対象物を切断予定ラインに沿って切断するためのレーザ加工方法であって、
前記加工対象物にレーザ光を集光させることにより、前記切断予定ラインに沿って、複数の改質スポットを含む改質領域を前記加工対象物に形成する改質領域形成工程を備え、
前記改質領域形成工程は、
前記加工対象物に対し前記レーザ光を照射しながら前記切断予定ラインに沿って相対移動させ、前記加工対象物の内部に位置する複数の第1改質スポットを前記切断予定ラインに沿って形成する工程と、
前記加工対象物に対し前記レーザ光を照射しながら前記切断予定ラインに沿って相対移動させ、前記加工対象物のレーザ光入射面に露出する複数の第2改質スポットを、前記レーザ光入射面に露出する亀裂が形成されないように前記切断予定ラインに沿って形成する工程と、を含むことを特徴とするレーザ加工方法。
【請求項2】
前記切断予定ラインに沿って外部から前記加工対象物に力を印加することにより、前記改質領域を切断の起点として前記加工対象物を切断する切断工程をさらに備えたことを特徴とする請求項1記載のレーザ加工方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2013−63455(P2013−63455A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−203400(P2011−203400)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】