説明

レーザ加工装置

【課題】 施工対象物からの反射光によって装置が損傷することを抑制できるレーザ加工装置を提供する。
【解決手段】 レーザ光源と、レーザ光を集光するための集光レンズを搭載し、レーザ光を被加工物に照射するためのレーザ照射ヘッドと、レーザ光源からのレーザ光をレーザ照射ヘッドに伝送するためのレーザ光伝送手段と、レーザ光の照射による被加工物の酸化を防止するための酸化防止ガスを供給する酸化防止ガス供給装置と、レーザ照射ヘッドと被加工物との間に介在するとともに、被加工物のレーザ光の照射部位の周囲を囲むようにレーザ照射ヘッドに配設され、かつ、レーザ照射ヘッドと被加工物との間の距離の変動に応じて変形可能とされ、金属、セラミックス、カーボンのいずれかからなる遮光体とを具備している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、レーザ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ光をエネルギー源として用いる施工プロセスは、溶接、切断、表面材料改質、応力改善など多用途に利用されており、いずれにおいてもレーザ光をレンズなどの光学素子で集光するなどして施工対象物に対して空間的エネルギー密度を高めて照射されることで共通している。溶接、切断、表面材料改質など加熱プロセスの熱源としてレーザ光を用いる場合、照射されたレーザ光のエネルギーの何割かが材料に吸収されることによって施工対象となる材料がその表面から加熱・溶融し、所望の施工プロセスを実現する。材料表面でのレーザ光の吸収率はその材質、使用するレーザの波長、エネルギー密度、照射角度などに依存することから、目的とする施工プロセスにおいて適切な施工結果を得るために、これらのパラメータに応じて適宜照射するレーザ光源およびその出力を調整している。
【0003】
材料に吸収されないレーザ光は、反射(もしくは散乱)されるが、そのエネルギーは材料に吸収されるレーザ光に比して2倍以上になる場合もある。高エネルギーの反射光がエンドエフェクターであるレーザ照射ヘッド内に戻ってきた場合、内部の光学素子を固定する金具などが加熱・損傷し、その結果として光学素子そのものにダメージが及ぶことがある。
【0004】
また近年においてレーザ光伝送手段の主流となっている光ファイバーは非常に細く、また樹脂製のバッファ層や被覆層は熱に弱いため、反射光によるダメージに対しては無防備である。このため反射光による装置のダメージを予防するため、レーザ光を射出するためのレーザ照射ヘッドの鏡筒内の光路にピンホール状の部品を配置することによって光学系の有効径より外に反射光が入射しないよう対策する方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
また、例えば、レーザ光の照射角度を傾斜させることによって反射光方向が射出するレーザ光の軸と一致しないように設置し、反射光をレーザ照射ヘッドの外に逃がすように対策する方法が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4155489号公報
【特許文献2】特開2000−56070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、ピンホール状の部品を光路に配置した場合、ピンホール径は部品公差や光学系の調整誤差のために余裕のある大きさにしなければビームを伝送する役割を果たさない。したがって光ファイバーの被覆材料や光学素子固定金具の損傷を完全に防止することはできない。
【0008】
また、レーザ光の照射角度を傾斜させた場合、反射光はレーザ照射ヘッドに戻らず損傷リスクを下げることが可能である。しかし、レーザ光を射出するレーザ照射ヘッドの先端部と施工対象物との間には、施工対象面の凹凸や開先加工された形状に追従するためにある程度の距離を保った間隙が必要である。このため、レーザ照射ヘッドの内の導光路へ戻らなかった反射光は、ノズル等に遮られることなく周囲に漏洩し、例えば装置に付随する電線や不活性ガス供給チューブなどを損傷させる原因となる。特に装置を小型化した遠隔溶接装置のような応用例では機器が狭い空間に高密度に配置されており、損傷対策の必要な部品が多くなる。
【0009】
本発明は、上記従来の事情に対処してなされたもので、施工対象物からの反射光によって装置が損傷することを抑制できるレーザ加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
実施形態のレーザ加工装置は、レーザ光を発生させるレーザ光源と、前記レーザ光を集光するための集光レンズを搭載し、前記レーザ光を被加工物に照射するためのレーザ照射ヘッドと、前記レーザ光源からの前記レーザ光を前記レーザ照射ヘッドに伝送するためのレーザ光伝送手段と、前記レーザ光の照射による前記被加工物の酸化を防止するための酸化防止ガスを供給する酸化防止ガス供給装置と、前記レーザ照射ヘッドと前記被加工物との間に介在するとともに、前記被加工物の前記レーザ光の照射部位の周囲を囲むように前記レーザ照射ヘッドに配設され、かつ、前記レーザ照射ヘッドと前記被加工物との間の距離の変動に応じて変形可能とされ、金属、セラミックス、カーボンのいずれかからなる遮光体とを具備したことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第1実施形態に係るレーザ加工装置の概略構成を示す図。
【図2】図1のレーザ加工装置の要部概略構成を示す図。
【図3】図2のレーザ照射ヘッドの要部概略構成を拡大して示す図。
【図4】図2のレーザ照射ヘッドの吸収板の概略構成を示す図。
【図5】図2のレーザ照射ヘッドの遮光ワイヤの構成を拡大して示す図。
【図6】第2実施形態に係るレーザ加工装置の要部概略構成を示す図。
【図7】図6のレーザ照射ヘッドの吸収板の概略構成を示す図。
【図8】第3実施形態に係るレーザ加工装置の要部概略構成を示す図。
【図9】図8のレーザ照射ヘッドの吸収板の概略構成を示す図。
【図10】第4実施形態に係るレーザ加工装置の概略構成を示す図。
【図11】図10のレーザ加工装置の要部概略構成を示す図。
【図12】図10のレーザ加工装置の使用状態を説明するための図。
【図13】変形例の要部構成を示す図。
【図14】変形例の要部構成を示す図。
【図15】溝形状の例を示す図。
【図16】溝形状の例を示す図。
【図17】変形例の要部構成を示す図。
【図18】溝形状の例を示す図。
【図19】溝形状の例を示す図。
【図20】レーザ光の照射角度を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、レーザ加工装置の実施形態について図面を参照して説明する。
【0013】
図1、図2は、第1実施形態に係るレーザ加工装置の概略構成を示す図であり、このレーザ加工装置は、配管内面のクラッド溶接を遠隔で実施するのに好適なレーザ加工装置である。
【0014】
図1に示すように、施工装置100は、レーザ照射ヘッド1を搭載しており、配管8内に挿入され、固定機構105によって配管8内に固定される。施工装置100は、レーザ照射ヘッド1を配管8の軸方向へ移動するためのZ軸駆動装置101、周方向へ移動するためのθ軸駆動装置102、半径方向へ移動するためのR軸駆動装置103を搭載している。また、施工装置100は、ψ軸駆動装置104を搭載している。このψ軸駆動装置104は、レーザ照射ヘッド1のレーザ照射角度ψ(チルト方向)を調整するための装置である。
【0015】
各駆動装置は、電磁モータや超音波モータ、油圧モータなどのアクチュエータと、エンコーダやレゾルバ、リミットスイッチなどの回転/位置検出センサと、歯車やラック/ピニオン、プーリー、ベルトなどの動力伝達部品と、リニアガイドやベアリングなどの摺動・軸受け部品などによって構成されている。また、施工装置100には、図示しないフィラーワイヤー供給機構が搭載されており、図示しないフィラーワイヤードラムからアクチュエータによってフィラーワイヤーが供給されるようになっている。これらのアクチュエータやセンサなどの電装品のために施工装置100には制御電線6が接続されている。
【0016】
レーザ照射ヘッド1には、レーザ光を伝送する光ファイバー5と、溶接時の酸化を防止するために溶融池201(図2参照。)近傍に吹きつける酸化防止ガスを供給するためのガス供給チューブ7が接続されている。光ファイバー5、制御電線6、ガス供給チューブ7は、配管8から離れたプラットホーム9上に設置したレーザ発振器2、ロボット制御盤3および酸化防止ガス供給装置4に接続されており、これによって遠隔でのクラッド溶接が可能となっている。
【0017】
図2は、図1に示した第1実施形態におけるレーザ照射ヘッド1の概略構成を模式的に示すものである。図2に示すように、レーザ照射ヘッド1は、鏡筒20を具備している。鏡筒20の後端側(図2中上側)には、レーザ光を伝送する光ファイバー5が、取り付け/取り外しが容易なようにファイバーコネクター23を介して接続されている。
【0018】
鏡筒20の先端側には、ノズル22が配設されている。また、鏡筒20内には、後端側から順に、コリメートレンズ25、集光レンズ26、ウインドウ27が配設されている。ウインドウ27は、溶融池201からのスパッタ等により、集光レンズ26などの光学系が損傷することを防止するためのものである。
【0019】
光ファイバー5から照射されるレーザ光は、コリメートレンズ25によって平行光とされ、集光レンズ26によって集光された後、ウインドウ27、ノズル22を通り、集光ビーム202として被施工面10に照射される。被施工面10と集光ビーム202が射出されるノズル22との間には、一定の間隔が形成されるようになっており、これによって、被施工面10の凹凸や開先加工された形状に追従できるようになっている。集光ビーム202はノズル22内で焦点を結んだ後に被施工面10に照射されることによって、ノズル22内で焦点を結ばずに同じビーム径で被施工面10に照射する場合に比べてノズル22の内径を小さくすることができる。
【0020】
鏡筒20の側壁部分には、取り付け/取り外し自在のガスチューブコネクター24を介して酸化防止ガスを供給するためのガス供給チューブ7が接続されている。ガス供給チューブ7から鏡筒20内に供給された酸化防止ガスは、ノズル22とウインドウ27の取り付け部に設けられた酸化防止ガスのガス流路28を通り、ノズル22を通って被施工面10の集光ビーム202の照射部位の近傍に供給される。
【0021】
クラッド溶接においては、集光ビーム202が被施工面10に照射されると配管8の材料が溶融して溶融池201となり、ここに図示しないフィラーワイヤーを供給して溶接肉盛りを形成する。この溶接肉盛りの酸化を防止するために酸化防止ガスがノズル22から供給される。
【0022】
ノズル22の先端部分には、レーザ光を吸収する吸収材からなる板状の吸収板21が取り付けられている。この吸収板21としては、反射光205の吸収率を向上させるべく表面にコーティングを施したもの、例えば、タングステンカーバイドやシリコンカーバイドなどの耐熱セラミックスを溶射したもの等を使用することができる。
【0023】
このように、吸収板21を配設することによって、被施工面10に照射されたレーザ光の反射光205をエネルギー密度の高い位置で吸収することにより、そのエネルギーの大部分を吸収することが可能となり、反射光205によるレーザ照射ヘッド1の内外の機器の損傷を防止することができる。なお、反射光205のエネルギーは、吸収板21に吸収されて熱となる。このため熱を回収するための冷媒を循環させる冷媒流路などを吸収板21に配設してもよい。
【0024】
また、吸収板21の周縁部には、遮光体30が配設されている。この遮光体30は、レーザ照射ヘッド1(吸収板21)と被加工物の被施工面10との間に介在するように配設されており、かつ、被加工物の被施工面10のレーザ光の照射部位の周囲を囲むように配設されている。
【0025】
また、遮光体30は、レーザ照射ヘッド1と被加工物の被施工面10との間の距離の変動に応じて変形可能とされている。被施工面10からは反射光205が発生するのみでなく、金属が溶融した溶融池201の表面からの散乱光206も発生する。また吸収板21に吸収されなかった反射光205のエネルギーが2重反射光207となる。遮光体30は、これらのエネルギーを吸収し、外部に漏洩しないようにするために配設されている。このため、遮光体30は、耐熱性を有する必要があり、金属、セラミックス、カーボン、金属繊維、セラミック繊維、カーボン繊維のいずれかから構成される。なお、図2において、203は、被施工面10における施工部法線軸を示しており、ψ1は、この施工部法線軸203とビーム照射軸204とがなす角を示している。
【0026】
図3〜5は、図2の遮光体30の構成を拡大して示す図である。これらのうち図3はノズル22より先端側を拡大して示す図である。図3に示すように、本第1実施形態における遮光体30は、遮光ワイヤ51から構成されている。
【0027】
図4は、吸収板21を底面側から見た状態を模式的に示す図である。図4に示すように、複数の遮光ワイヤ51が吸収板21の面と角度φ1をもつブラシ状の列をなして取り付けられており、この角度φ1は、根元から先端に向かって吸収板21の外縁方向から中央方向に向かう90°以下の鋭角となっている。
【0028】
遮光ワイヤ51は、散乱光206と2重反射光207の漏洩を防止するため、図1に示したR軸駆動装置103によって被施工面10に接するように押し付けられ、レーザ照射ヘッド1の溶接動作に併せて被施工面10を擦動する。このため遮光ワイヤ51としては、柔軟性のある材料を用いることが好ましい。この場合、金属製の単線を用いる場合にはその外径を1.5mm以下とすることが望ましく、金属素線を撚り合わせたロープ状のものを用いる場合にはロープの外径を2.0mm以下とすることが望ましい。
【0029】
本第1実施形態では、遮光ワイヤ51は、腐食性の高いステンレスを用い、図5に示すように、ワイヤ素線53を撚り合わせた外径1mmのロープ状となっており、外径の同じ単線ワイヤよりもより柔軟性に富んでいる。遮光ワイヤ51は、ブラシ状に並べて吸収板21に取り付けられており、ワイヤ先端部52は球状に加工されている。なお、図4では、遮光ワイヤ51の一部のみが図示されているが、実際は吸収板21の周縁部全周に沿って環状に遮光ワイヤ51が配設されている。
【0030】
このように構成された遮光ワイヤ51では、その柔軟性に加え、ワイヤ先端部52が球状であることによって、被施工面10の凹凸等に引っかかることを抑制することができ、被施工面10の凹凸等に引っかかることによって装置動作を阻害したり、遮光ワイヤ51自体が破損することを抑制することができる。
【0031】
また、上記した角度φ1を設けて遮光ワイヤ51を配設することにより、押し付けられて遮光ワイヤ51の変形する方向が吸収板21の中央方向に定められるため、遮光ワイヤ51同士が分散することなくまとまり、遮光効果を高めることができる。また、角度φ1を90°以上の鈍角としないことにより、遮光ワイヤ51のワイヤ先端部52が吸収板21より外側に飛び出すことなく、装置寸法を小型に抑えることができる。
【0032】
図3,4に示すように、吸収板21は、ノズル22の周囲全体を囲む板状とされており、その中央部にはノズル22と繋がっているビーム照射口29が配設されている。このビーム照射口29を中心にその周囲を囲むように、吸収板21内に冷却ガス流路46が配設されている。
【0033】
図3に示すように、吸収板21には、冷却ガス流路46に連通して複数の冷却ガスノズル47が配設されており、図示しない冷却ガス供給装置から酸化防止ガスと同じ成分である冷却ガス208が、冷却ガスチューブコネクター45によって吸収板21に接続された冷却ガスチューブ44から供給され、遮光ワイヤ51に向かって噴射され、遮光ワイヤ51が冷却される。
【0034】
遮光ワイヤ51の材料には、金属、例えば、熱伝導性の高い銅、金、銀、融点の高いタングステン等、または、セラミックス、例えば、融点の高いアルミナ、酸化ケイ素、ガラス等、あるいはカーボンを用いることができる。融点の高い材料を用いることにより、長時間強い散乱光206等に曝された場合においても遮光ワイヤ51自身が破損することを抑制することができる。また、熱伝導性の高い材料を使用することにより、熱が吸収板21に伝導し易くなると共に、冷却ガス208による強制冷却の効果が上がり、やはり長時間強い散乱光206等に曝された場合においても遮光ワイヤ51自身が破損することを抑制することができる。
【0035】
以上のように構成された第1実施形態によれば、被施工面10の形状変化による乱反射のような散乱光206や、吸収板21からの2重反射光207等を、遮光体30が吸収して外部に漏洩することを防止することができるため、レーザ照射ヘッド1の外部の機器が損傷を受けることを防止することができる。
【0036】
次に、図6,7を参照して第2実施形態について説明する。なお第2実施形態において、第1実施形態と対応する部分には同一の符号を付して、重複した説明は省略する。
【0037】
図6は、第2実施形態のノズル22から先端側を拡大して示すものであり、図7は、吸収板21を底面側から見た状態を示すものである。図6,7に示すように、この第2実施形態では、前述した遮光体30として、複数の遮光ピン54を用いている。
【0038】
遮光ピン54は、吸収板21に形成されたピン穴57に挿入されて係止されており、吸収板21の上面側には、ピン穴57に対応して夫々コイルバネ55が収納されたシリンダー56が配設されている。そして、遮光ピン54は、コイルバネ55によって被施工面10側に付勢された状態となっている。
【0039】
遮光ピン57の先端部は、球面形状とされており、この球面形状の先端部が、コイルバネ55によって付勢された状態で、被施工面10に接触する。これによって、遮光ピン54をある程度被施工面10に押圧した状態で接触させることにより、被施工面10の凹凸によらずコイルバネ55の伸縮によって常に遮光ピン54が被施工面10に接した状態に維持できる構成となっている。また、被施工面10の形状との追従性を向上するために遮光ピン54の径を小さくし、その代わりに配列を3列以上にしても良い。
【0040】
図7に示すように、遮光ピン54は、ビーム照射口29の位置を中心に同心円状に2列配列されている。また、散乱光206が外側に漏れないように、内側の遮光ピン54同士の間の部分に外側の遮光ピン54が位置するように配列されている。なお、遮光ピン54は、レーザ照射スポット200の位置を中心に同心円状に2列配列してもよい。
【0041】
また、内側の遮光ピン54のさらに内側の部分に位置するように、吸収板21内に環状の冷却ガス流路46が形成されている。そして、図6に示すように、このガス流路46とピン穴57を連通するように、吸収板21に冷却ガスノズル47が形成されている。これにより、各遮光ピン54に向けて酸化防止ガスと同じ成分である冷却ガスが噴射され、遮光ピン54が冷却される。
【0042】
遮光ピン54の材質は、熱伝導率の高い金属、例えば、銅、金、銀、融点の高いタングステン等を用いてもよく、被施工面10に接する球面状の先端部のみ耐磨耗性の高いステンレスを用いてもよい。また、セラミックス、例えば、融点の高いアルミナ、酸化ケイ素、ガラス等、あるいはカーボンを用いることができる。
【0043】
以上のように構成された第2実施形態によれば、被施工面10の形状変化による乱反射のような散乱光206や、吸収板21からの2重反射光207等を、遮光体30が吸収して外部に漏洩することを防止することができるため、レーザ照射ヘッド1の外部の機器が損傷を受けることを防止することができる。
【0044】
次に、図8,9を参照して第3実施形態について説明する。なお第3実施形態において、第1実施形態と対応する部分には同一の符号を付して、重複した説明は省略する。
【0045】
図8は、第3実施形態のノズル22から先端側を拡大して示すものであり、図9は、吸収板21を底面側から見た状態を示すものである。図8,9に示すように、第3実施形態では、遮光体30として、遮光シート58を用いている。
【0046】
吸収板21には、半円状に湾曲した複数の板バネ59によって、張力をかけられた状態で帆のように張られた遮光シート58が取り付けられている。遮光シート58は、板バネ59が弾性変形した状態となるように、ある程度被施工面10に押し付けられた状態とされ、これによって、被施工面10の凹凸に追従して常に遮光シート58が被施工面10に接触した状態が維持されるようになっている。同様の機能を果たすためには板バネ59の代わりに、例えばコイルバネを用いることもできる。なお、図9では、遮光シート58の一部のみが図示されているが、実際は吸収板21の周縁部全周に沿って環状に遮光シート58が配設されている。
【0047】
遮光シート58の材質としては、耐熱性を考慮して、例えば、融点の高いアルミナや酸化ケイ素、ガラスなどのセラミック繊維、また熱伝導性に優れたカーボン繊維や、タングステンや銅などの金属細線などを、織物もしくは不織シート状にしたものも用いることができる。
【0048】
以上のように構成された第3実施形態によれば、被施工面10の形状変化による乱反射のような散乱光206や、吸収板21からの2重反射光207等を、遮光体30が吸収して外部に漏洩することを防止することができるため、レーザ照射ヘッド1の外部の機器が損傷を受けることを防止することができる。
【0049】
次に、図10,11を参照して第4実施形態について説明する。なお第4実施形態において、第1実施形態と対応する部分には同一の符号を付して、重複した説明は省略する。
【0050】
図10は、第4実施形態の全体構成を示すものであり、図11は、レーザ照射ヘッド1の構成を示すものである。図10,11に示すように、第4実施形態は、水中の配管内面のクラッド溶接を遠隔で実施するものである。
【0051】
図10に示すように、第4実施形態では、水12で満たされた水槽11に接続された配管8にレーザ照射ヘッド1を搭載した施工装置100を挿入し固定する。レーザ発振器2、ロボット制御盤3および酸化防止ガス供給装置4は、水槽11外のプラットホーム9上に設置され、光ファイバー5、制御電線6、ガス供給チューブ7によってレーザ照射ヘッド1と接続されている。
【0052】
図11に示す光ファイバー5を鏡筒20に接続するためのファイバーコネクター23及びガス供給チューブ7を鏡筒20に接続するためのガスチューブコネクター24は、水密構造とされている。また、遮光体30の外側に位置するように、環状の封止スカート60が配設されている。
【0053】
封止スカート60は、柔軟性を有する材料、例えば、シリコンゴム、ポリウレタン、ネオブチルゴムなどの樹脂から構成されている。この封止スカート60は、吸収板21と被施工面10との間に水密空間13を形成するためのものであり、封止スカート60の先端側は、配管8の内面に密着させるように押し付けられる。また、封止スカート60の後端側は、吸収板21に図示しないベルト等で締め付けて取り付けられ、吸収板21との間を水密状態に保つようになっている。
【0054】
水密空間13には、冷却ガスチューブ44から供給される冷却ガス208が蓄えられる。図示しない冷却ガス供給装置の機能により、封止スカート60内は、外の水圧以上の静圧となるよう保持され、内外の差圧分は排出ガス209として排出される。水密空間13内の水排除には、ガス供給チューブ7から供給される酸化防止ガスを用い、酸化防止ガス供給装置4に水密空間13内の圧力保持機能を持たせてもよい。
【0055】
第1実施形態と同様に、遮光体30は、吸収板21の面との成す角φ1(図4参照。)が鋭角となるようブラシ状の列をなして取り付けられている遮光ワイヤ51によって構成されている。また、遮光ワイヤ51は、ワイヤ素線53(図5参照。)を撚り合わせたロープからなり、ワイヤ先端部52が球状とされている。
【0056】
以上のように構成された第4実施形態によれば、被施工面10の形状変化による乱反射のような散乱光206や、吸収板21からの2重反射光207等を、遮光体30が吸収して外部に漏洩することを防止することができるため、レーザ照射ヘッド1の外部の機器が損傷を受けることを防止することができる。
【0057】
また、第4実施形態では、遮光ワイヤ51が被施工面10に接するように押し付けられることによって、散乱光206、2重反射光207等を遮蔽することができ、封止スカート60に散乱光206、2重反射光207等が照射されることを抑制することができる。これによって、封止スカート60の健全性を保つことができ、水密空間13内の気層空間を安定的に作りだすことができる。その結果、水槽11内の水中でも、安定的にクラッド溶接を行うことが可能となる。なお、図12に、第4実施形態のノズル22より先端側の使用状態を示す。
【0058】
次に、図13〜19を参照して、変形例について説明する。これらの変形例は、第1実施形態における吸収板21の表面に、線状溝48、または点状溝49を配設したものである。
【0059】
図13に示す変形例は、ビーム照射口29の周りに溝同士が同心円となるような溝加工を施して同心円状の線状溝48を形成したものである。また、図14に示す例は、ビーム照射口29を中心とした放射状の溝加工を施して放射状の線状溝48を形成したものである。これらの線状溝48の断面形状は、例えば図15に示すような半円状や、図16に示すような三角状等とすることができる。
【0060】
図17に示す変形例は、吸収板21の表面に一面に点状溝49を形成したものである。点状溝49の形状は、例えば図18に示すような半球状や、図19に示すような四角錐状等とすることができる。
【0061】
上記の各変形例のように、吸収板21の表面に線状溝48、または点状溝49を形成すると、吸収板21の表面積を大きくすることができ、反射光205等の吸収量を増大させて、2重反射光207の発生を抑制することができる。これによって、さらに確実に、レーザ照射ヘッド1の外の機器が損傷を受けることを抑制することができる。
【0062】
また、同様の効果を得るために、吸収板21の表面を、表面粗さの大きな梨地面として表面積を大きくすることもできる。さらに、吸収板21の表面に、赤外光の吸収率が高く、耐熱性の高いSiC(シリコンカーバイド)やWC(タングステンカーバイド)等のセラミックを溶射などによりコーティングしてもよい。
【0063】
ところで、上述した各実施形態では、図1等に示したψ軸駆動装置104により、図2に示した被施工面10の施工部法線軸203に対してビーム照射軸204のなす角ψ1が0°以上、90°以下の範囲となるように、レーザ照射ヘッド1の姿勢を調整することができる。この場合、図20に示すように、レーザ照射スポットの径をd、ノズル22先端部の径をD、吸収板21と被施工面10との距離をL、ビーム照射軸204から吸収板21の外周までの距離をWとした場合、ψ1は以下の2式を満たす値となるよう調整することが好ましい。
2Ltan(ψ1)−d/2>D/(2cos(ψ1)) (式1)
2Ltan(ψ1)+d/2<W (式2)
【0064】
例えば同じ光学系を用いてレーザ照射スポットの径dを小さくした条件を用いる場合、R軸駆動装置103を調整してレーザ照射ヘッド1を被施工面10に近づけるので、距離Lが小さくなる。このとき反射光205は、吸収板21に照射されずにノズル22に照射される割合が高くなる。これを避けるためにψ軸駆動装置104を調整してψ1をより大きくする。
【0065】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は,例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0066】
1……レーザ照射ヘッド、5……光ファイバー、20……鏡筒、21……吸収板、22……ノズル、25……コリメートレンズ、26……集光レンズ、30……遮光体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を発生させるレーザ光源と、
前記レーザ光を集光するための集光レンズを搭載し、前記レーザ光を被加工物に照射するためのレーザ照射ヘッドと、
前記レーザ光源からの前記レーザ光を前記レーザ照射ヘッドに伝送するためのレーザ光伝送手段と、
前記レーザ光の照射による前記被加工物の酸化を防止するための酸化防止ガスを供給する酸化防止ガス供給装置と、
前記レーザ照射ヘッドと前記被加工物との間に介在するとともに、前記被加工物の前記レーザ光の照射部位の周囲を囲むように前記レーザ照射ヘッドに配設され、かつ、前記レーザ照射ヘッドと前記被加工物との間の距離の変動に応じて変形可能とされ、金属、セラミックス、カーボンのいずれかからなる遮光体と
を具備したことを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項2】
請求項1記載のレーザ加工装置であって、
前記遮光体が、金属繊維、セラミック繊維、カーボン繊維のいずれかであることを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載のレーザ加工装置であって、
前記レーザ照射ヘッドの前記被加工物との対向面に、前記レーザ光を吸収するための吸収体が配設され、当該吸収体の周囲に前記遮光体が配設されている
ことを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項4】
請求項3項記載のレーザ加工装置であって、
前記吸収材の、前記被加工物に対向する面に、複数の溝が形成されていることを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか1項記載のレーザ加工装置であって、
前記レーザ光伝送手段が光ファイバーであり、前記レーザ照射ヘッドは、前記光ファイバーから照射される前記レーザ光を平行光にするコリメートレンズを具備した
ことを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか1項記載のレーザ加工装置であって、
前記被加工物表面における前記レーザ光の光軸が、前記被加工物表面の法線軸に対して傾斜するよう前記レーザ照射ヘッドが構成されている
ことを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項7】
請求項1〜6いずれか1項記載のレーザ加工装置であって、
前記遮光体が、柔軟性を有する単線ワイヤまたは複数の素線を撚り合わせたワイヤーロープのいずれかから構成されている
ことを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項8】
請求項7記載のレーザ加工装置であって、
前記単線ワイヤまたは複数の素線を撚り合わせたワイヤーロープが金属製である
ことを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項9】
請求項7又は8記載のレーザ加工装置であって、
前記単線ワイヤまたは複数の素線を撚り合わせたワイヤーロープが、前記レーザ照射ヘッドの取り付け面に対して、先端が中央方向に向くように傾斜して配設されている
ことを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項10】
請求項7〜9いずれか1項記載のレーザ加工装置であって、
前記単線ワイヤまたは複数の素線を撚り合わせたワイヤーロープの先端が半球状の曲面とされている
ことを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項11】
請求項1〜6いずれか1項記載のレーザ加工装置であって、
前記遮光体が、前記レーザ照射ヘッドに配設された複数の円柱状部材から構成され、
前記被加工物の表面形状に応じて前記円柱状部材が弾性的に軸方向に移動可能とされている
ことを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項12】
請求項11項記載のレーザ加工装置であって、
前記円柱状部材の先端部が半球状とされている
ことを特徴とするレーザ加工装置
【請求項13】
請求項1〜6いずれか1項記載のレーザ加工装置であって、
前記遮光体が、耐熱性繊維織物または耐熱性不織繊維シートのいずれかから構成されている
ことを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項14】
請求項1〜13いずれか1項記載のレーザ加工装置であって、
前記遮光体にガスを吹き付けて冷却する冷却機構を有する
ことを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項15】
請求項1〜14いずれか1項記載のレーザ加工装置であって、
前記レーザ照射ヘッドと前記被加工物の間に介在するとともに、前記遮光体の周囲を囲むように配設され、内部にガスが充満された空間を形成するための封止スカートを具備した
ことを特徴とするレーザ加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2012−110945(P2012−110945A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−263178(P2010−263178)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】