説明

レーザ反射体

【課題】反射光を常に入射光と平行な方向へ効率よく戻すことができるレーザ反射体を提供すること。
【解決手段】レーザ光の光軸(P軸)上に設けられるレンズ5および球体4と、球体4の表面を覆いレーザ光を反射する被覆体12と、これらを収納する筺体7を備えており、レーザ光をレンズ5と球体4で1点に集光させ、被覆体12で反射させる。レンズ5の中心と焦点FをP軸上に配置して、球体4の中心を、レンズ5の中心と焦点Fを結ぶ線上に配置する。被覆体12は、焦点Fに近い方の半球面上の領域で、半球面とP軸との交点Qを少なくとも含む領域を覆う。レンズ5と球体4の中心間距離S、球体4の屈折率n1を、レンズ5により焦点Fに向けて集光されるレーザ光が球体4で屈折して被覆体12で覆われた交点Qに集光するように設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、照射手段からのレーザ光を同じ照射手段に向けて反射するレーザ反射体に関し、特に、レーザ干渉測長機に用いるレーザ反射体の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被測定物の寸法を高分解、非接触に測定することができるマイケルソン干渉計を利用したレーザ干渉測長機が知られている(例えば特許文献1)。特許文献1記載のレーザ干渉測長機は、図11に示すように、レーザ光源15、干渉計本体2、および被測定物を載せる移動台(不図示)を有し、レーザ光源15からのレーザ光をビームスプリッタ21で参照光と測定光とに分割し、移動台に取り付けられた移動鏡(レーザ反射体)16で測定光を反射し、再びビームスプリッタ21で固定鏡(固定平面反射体)22からの測定光と合成させ、生じた干渉光を検出器23で受光する。移動台を測定光の光軸方向に移動させると、移動台がレーザ光の波長の半分(λ/2)移動する毎に測定光と参照光の光路差がλとなり、λ/2を周期とする正弦的な光強度変化が検出器で検出される。つまり、移動台の移動量に応じて干渉縞が動くので、干渉縞の変化を計数することにより、移動台の移動量が得られる。移動台を被測定物の長さ寸法に応じて移動させれば、被測定物の長さ寸法をナノメートルレベルで読み取ることができる。
【0003】
レーザ干渉測長機で長さを測る場合、移動鏡16で反射した測定光をビームスプリッタ21へ正確に戻すため、従来、移動鏡16には平面反射体ではなく再帰反射体が用いられていた。再帰反射体としては、例えば直角三面鏡やコーナキューブプリズムがある。
移動台に取り付けられた移動鏡16の移動量、つまり被測定物の測長距離が長くなるにつれて、移動鏡16の姿勢が変化することがある。それは、移動台にピッチング(pitching)、ヨウイング(yawing)、ローリング(rolling)が発生するためである。移動鏡16として再帰反射体を用いれば、移動台の姿勢が変化しても測定光の反射方向が変わらず、反射光を常に入射光と平行な方向へ戻すことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2−115701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
再帰反射体として用いられてきた直角三面鏡やコーナキューブプリズムは、図12に示すように、直交する3平面A〜Cによって構成され、3つのエッジ(交線)D〜F、およびコーナーポイントGと呼ばれる3平面の交点を有する。直角三面鏡やコーナキューブプリズムの加工上および使用上の観点から、エッジD〜FとコーナーポイントGは、図のように有限の寸法で削り落とされている。これは、直角三面鏡やコーナキューブプリズムの加工を容易にして、安全に取り扱えるようにするためである。
【0006】
しかし、移動鏡16の3つのエッジD〜Fとその虚像によってレーザ光の反射光が6分割されて干渉計本体2へ戻され、反射光の断面に6分割の割れが発生してしまう。また、入射するレーザ光が削り落とされたエッジD〜FおよびコーナーポイントGで拡散するため、入射光に対する反射光の強度が常に10%〜20%の割合で減衰してしまう。従来の直角三面鏡やコーナキューブプリズムをレーザ干渉測長機の移動鏡(レーザ反射体)16に用いた場合、以上のような課題を伴っていた。レーザ干渉測長機に限らず、レーザ光を使用する精密測定装置や精密加工装置においても、装置に設けられる照射手段からのレーザ光を再帰反射させるレーザ反射体に共通する課題であった。
【0007】
本発明は、前記従来技術に鑑みなされたものであり、その解決すべき課題は、第一に、レーザ光の照射手段に対してレーザ反射体の姿勢が相対的に変化しても、反射光を常に入射光と平行な方向へ戻すことができるレーザ反射体を提供することにある。
第二に、直角三面鏡やコーナキューブプリズムをレーザ反射体として用いた場合のような反射光の断面の6分割の割れが生じず、かつ、反射光の強度の減衰を低減できるレーザ反射体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために本発明の請求項1に係るレーザ反射体は、
照射手段からのレーザ光の光軸(P軸)上に設けられるレンズおよび球体と、
前記球体の表面を覆いレーザ光を反射する被覆体と、
前記レンズと前記球体の位置関係を保持する支持部材と、
を備え、前記照射手段からのレーザ光を前記レンズと前記球体で1点に集光させ、前記被覆体で反射させることによって、前記光軸(P軸)と平行に前記照射手段に向けて反射させる。
前記レンズの中心および焦点は、前記光軸(P軸)上に配置される。
前記球体の中心は、前記レンズの中心と当該レンズよりも前記照射手段から遠い方の焦点(F)とを結ぶ線上で、かつ、前記レンズの焦点(F)が当該球体の外となるように配置される。
前記被覆体は、前記レンズの焦点(F)に近い方の前記球体の半球面上の領域で、この半球面と前記光軸(P軸)との交点(Q)を少なくとも含む領域を覆う。
前記レンズの中心と前記球体の中心との距離(S)、および、前記球体の屈折率(n1)は、前記レンズによって前記焦点(F)に向けて集光されるレーザ光を、前記球体で屈折させて、かつ当該球体の内部を通って前記被覆体で覆われた前記交点(Q)に集光させるように設定される。
前記交点(Q)に集光されたレーザ光を、前記被覆体で反射させることで、前記光軸(P軸)と平行な反射光として前記照射手段に戻すとともに、前記支持部材の姿勢が変化して、前記レンズおよび前記球体の各中心を結ぶ線が前記光軸(P軸)に対して傾斜した状態では、入射されるレーザ光を、前記レンズと前記球体によって前記交点(Q)から外れた前記球体の表面上の点に集光させて、前記被覆体で反射させることで、前記光軸(P軸)と平行な反射光として前記照射手段に戻すことを特徴とする。
なお、照射手段は、例えばレーザ干渉測長機に本発明のレーザ反射体を用いる場合であれば、レーザ反射体に測定光を入射させる干渉計本体(ビームスプリッタ)に相当する。そして、レーザ反射体は、レーザ干渉測長機に設けられた移動台に取り付けられ、移動台の移動方向に移動自在に設けられる。
【0009】
本発明の請求項2に係るレーザ反射体は、
照射手段からのレーザ光の光軸(P軸)上に設けられるレンズおよび球体と、
前記球体の表面を覆いレーザ光を反射する被覆体と、
前記レンズと前記球体の位置関係を保持する支持部材と、
を備え、前記照射手段からのレーザ光を前記レンズで前記球体の内部の1点に集光させ、前記被覆体で反射させることによって、前記光軸(P軸)と平行に前記照射手段に向けて反射させる。
前記レンズの中心および焦点は、前記光軸(P軸)上に配置される。
前記球体の中心は、前記レンズよりも前記照射手段から遠い方の焦点(F)に一致する。
前記被覆体は、前記レンズから遠い方の前記球体の半球面上の領域で、この半球面と前記光軸(P軸)との交点(A)を中心に、前記レーザ光が前記球体を照射する面積と略同じ面積を少なくとも含む領域を覆う。
前記レンズによって前記球体の内部の前記焦点(F)に集光されるレーザ光を、前記焦点(F)から所定の領域まで広がった状態で前記被覆体により反射させることで、前記光軸(P軸)と平行な反射光として前記照射手段に戻す。これとともに、前記支持部材の姿勢が変化して、前記レンズおよび前記球体の各中心を結ぶ線が前記光軸(P軸)に対して傾斜した状態では、入射されるレーザ光を、前記レンズと前記球体によって前記焦点(F)から外れた焦点面上の点(Q2’)に集光させて、さらに所定の領域まで広がった状態にして前記被覆体により反射させることで、前記光軸(P軸)と平行な反射光として前記照射手段に戻すことを特徴とする。
【0010】
また、前記支持部材には、前記照射手段からのレーザ光の直径を制限する円形の窓が形成されていることが好ましい。さらに、前記支持部材は、前記光軸(P軸)に略平行な方向に移動自在な移動台に取付け可能に設けられ、当該支持部材には、前記球体の中心と前記レーザ光を集光させる点と前記被覆体の位置とに相当する位置にそれぞれ取付け用の孔が形成され、かつ、前記球体の中心と前記レーザ光を集光させる点と前記被覆体の位置とをそれぞれ表示する表示手段が設けられていてもよい。また、前記被覆体は、銀の反射膜と、この反射膜を外部から覆う保護膜とを有することが好ましい。
【0011】
また、本発明のレーザ反射体としては、前記レンズおよび前記球体の代わりに、照射手段からのレーザ光の光軸(P軸)上に設けられる球体を備え、前記支持部材は、前記球体を保持し、前記被覆体は、前記照射手段から遠い方の前記球体の半球面上の領域で、この半球面と前記光軸(P軸)との交点(Q)を少なくとも含む領域を覆ってもよい。ここで、前記球体の屈折率(n3)はn3=2に設定され、前記球体に入射されるレーザ光を、屈折率n3=2で屈折させて当該球体の内部を通って前記被覆体で覆われた前記交点(Q)に集光させて、前記被覆体で反射させることで、前記光軸(P軸)と平行な反射光として前記照射手段に戻すようにしてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の請求項1に係るレーザ反射体の構成によれば、レンズと球体の各中心を結ぶ線と、レーザ光のP軸とが平行な状態を維持されていれば、入射光は常に球体とP軸との交点(Q)の一点に集光される。すると、交点(Q)にて被覆体を反射した反射光は、球体の中心と焦点(F)とを結ぶ線に対して線対象となる光路を通って、レンズから出射する。従って、レーザ反射体からの反射光はP軸と平行になる。
一方、レンズおよび球体を保持する支持部材の姿勢が変化して、レンズと球体の各中心を結ぶ線と、レーザ光のP軸とが平行でなくなり傾きΔθが生じる場合、入射光はレンズによって軸外焦点(F1a)に向かって集光される。このような場合には、球体にて屈折した入射光が、交点(Q)から外れた球体表面上の交点(Q1a)に集光される。すると、交点(Q1a)にて被覆体を反射した反射光は、球体の中心と軸外焦点(F1a)とを結ぶ線に対して線対象となる光路を通って、レンズから出射する。従って、レーザ反射体からの反射光はP軸と平行になる。以上の説明で反射光がP軸に平行になることが言えるが、レーザ反射体の傾きΔθが大きければ、球体からの反射光の一部がレンズに戻らず反射光の強度が低減してしまうことも生じ得る。従って、傾きΔθの範囲が上記の強度低減が生じない範囲で使用することが好ましい。また、レーザ反射計に用いる場合であれば、充分なS/N比の干渉信号さえ検出できればよいので、僅かな強度低減であれば無視できる。
【0013】
このように、レーザ光の照射手段に対してレーザ反射体の姿勢が相対的に変化しても、反射光を常に入射光のP軸と平行な方向へ戻すことができ、いわゆる再帰反射が可能となる。また、直角三面鏡やコーナキューブプリズムが有するようなエッジがないため、反射光の断面の6分割の割れが生じない。さらに、直角三面鏡やコーナキューブプリズムが有するようなコーナーポイントがないため、コーナーポイントによる反射光の強度の減衰を低減させることができる。
【0014】
本発明の請求項2に係るレーザ反射体の構成によれば、レーザ光を球体の内部の1点に集光するので、球体の表面の部分的な傷などの測定への影響を軽減できる。
また、支持部材に照射手段からのレーザ光の直径を制限する円形の窓を設けたことで、レーザ光が円形の窓を通る際、レーザ光のビーム径が制限され、反射光の球面収差を低減できる。
さらに、支持部材に取付け用の孔を形成し、かつ、球体中心、集光点、被覆体の位置をそれぞれ表示する表示手段を設けたので、球体の位置や集光点の位置を確認しながら、レーザ反射体を移動台に容易に取り付けることができる。
また、銀の反射膜およびその保護膜によって被覆体を構成したので、反射による光強度の低下がほとんど生じなくなり、外部からの不注意による傷などを防ぐことができる。
また、レンズと球体との組み合わせの代わりに、屈折率n3=2の球体を用いてレーザ反射体を構成すれば、前述の発明のレンズが不要となる。従って、レーザ反射体の部品点数が少なくて済み、かつ、球体とレンズとの間の微妙な距離調整作業が要らなくなり、単純に組み立てることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施形態に係るレーザ干渉測長機を示す概略構成図である。
【図2】第1実施形態に係るレーザ反射体を示す断面図である。
【図3】前記レーザ反射体がΔθだけ傾斜した場合の入射光と反射光の関係を示 す図であり、入射光の上端部分の光路を説明する図である。
【図4】図3において、入射光の中央部分の光路を説明する図である。
【図5】図3において、入射光の下端部分の光路を説明する図である。
【図6】第2実施形態に係るレーザ反射体を示す断面図である。
【図7】前記レーザ反射体がΔθだけ傾斜した状態を説明するための図である。
【図8】前記レーザ反射体が傾斜した場合の入射光と反射光の関係を示す図である。
【図9】第3実施形態に係るレーザ反射体を示す断面図である。
【図10】本発明の一実施例を示す図である。
【図11】従来のレーザ干渉測長機の概略構成の説明図である。
【図12】従来のコーナキューブプリズムのコーナーポイントを拡大した斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<レーザ干渉測長機の構造>
図1は、本発明の第1実施形態に係るレーザ干渉測長機を示す概略構成図である。
本実施形態のレーザ干渉測長機1は、本体ベース19、レーザ光源15、干渉計本体2、被測定物Wを載せる移動台17、移動台17の駆動機構18、および、移動台17に取り付けられたレーザ反射体3を有して構成されている。なお、干渉計本体2は本発明の照射手段として機能する。
【0017】
レーザ光源15は、干渉計本体2とは別体で設けられ、所定の波長(λ)のレーザ光を干渉計本体2に供給する。
干渉計本体2は、本体ベース19上に固定され、図11で説明した従来の干渉計と同様に、ビームスプリッタ、固定鏡、検出器などの各種光学部材を有して測長に用いる干渉計を構成している。干渉計本体2は、ビームスプリッタで分割した測定光を、図中のZ軸方向に平行にレーザ反射体3に向けて照射する。この測定光の光軸をP軸と呼ぶ。そして、レーザ反射体3で反射して戻ってきた測定光と、図示しない固定鏡を反射した参照光とを合成して生じる干渉光の光強度を検出器で検出する。
【0018】
移動台17は、本体ベース19上の駆動機構18により水平方向(図中のZ軸方向)に移動自在に設けられている。
レーザ反射体3は、移動台17の端部に取り付けられ、移動台17の移動とともにZ軸方向に移動する。また、干渉計本体2からの測定光を反射して、干渉計本体に戻す。
レーザ干渉測長機1が被測定物WのZ軸方向の長さ寸法を測定する場合、その長さ寸法に対応する距離だけ移動台17を移動させる。すると検出される干渉縞が変化するので、干渉縞の変化を光強度のピーク値の累積回数として計数する。これによって移動台17の移動量、すなわち移動台上の被測定物Wの長さ寸法が測定される。
ここで、レーザ反射体3に求められる重要な性能として、干渉計本体2からの測定光を反射して、測定光と平行な反射光を干渉計本体に戻す再帰反射性がある。
例えば、移動台17が駆動機構18に設けられたレール上を連続移動する場合、その移動距離が長いほど、移動台17の姿勢が変化してしまう。この姿勢の変化は、通常、図1に示すように、移動台のピッチング、ヨウイング、ローリングとして説明できる。図1にて、水平なZ軸と直交するもう一つの水平軸をY軸とし、X軸を垂直な軸とすると、ピッチングはY軸周りの移動台17の揺れ(縦揺れ)を示し、その振れ量をθで示す。ヨウイングはX軸周りの揺れを示し、振れ量をθで示す。ローリングはZ軸周りの揺れ(横揺れ)を示し、振れ量をθで示す。
【0019】
<レーザ反射体の構造>
レーザ反射体3は、図2に示すように、焦点距離fを持つレンズ5と、屈折率n1の材料で作製された球体4と、レンズ5および球体4を収納する筺体7と、を備える。本発明において球体4などの光学部材の屈折率は、空気(屈折率=1)に対する比である。
球体4の中心からレンズ5の中心を通る線の延長上には、導光用の窓(開口部)6が形成され、筺体外部からのレーザ光8が窓6を通ってレンズ5に照射されるようになっている。しかも窓6は円形に形成されているので、外部からのレーザ光8が通る際、ビームの直径が制限され、反射光の球面収差を低減できるようになっている。レンズ5と球体4の各中心を結ぶ線を筺体7の収納空間の中心線とすると、レンズ5は、両焦点がこの中心線上となるように筺体7に保持されている。なおレンズ5の両焦点位置は、図2のように筺体7の外側となっても構わない。
【0020】
球体4の中心は、レンズ5の中心と、窓6側とは反対側の焦点Fとを結ぶ線上に配置されている。球体4の大きさは、レンズ5の焦点Fを内部に含まない程度の大きさである。レンズ5と球体4の位置関係は、筺体7によって保持されている。筺体7は本発明の支持部材として機能する。
球体4には、その表面を覆いレーザ光を反射する被覆体12が形成されている。
被覆体12は、レンズ5の焦点Fに近い方の球体5の半球面上の領域で、この半球面と収納空間の中心線との交点Qを含む領域を覆っている。
【0021】
ここで、任意の屈折率で製作された球体4を用いる場合には、レンズ5と球体4の中心間距離Sを適宜設定することによってレーザ反射体3を構成することができる。つまり、レンズ5によって焦点Fに集光されるレーザ光8aを、球体4で屈折させて、被覆体12で覆われた交点Qに集光させるように、中心間距離Sを設定すればよい。
一方、筺体7の大きさなどの制約を受けて、予めレンズ5と球体4の中心間距離Sが決まっている場合には、球体4の屈折率n1を中心間距離Sに合わせて設定すればよい。この場合でも、球体4に照射されるレーザ光8aが交点Qに集光されるようにすることができる。球体4の内部を通って交点Qに集光されるレーザ光8bは、この交点Qを覆う被覆体12で反射する。
【0022】
被覆体12は、球体5の球面のうち、集光点である交点Qを中心とする所定領域を覆う銀の反射膜と、この反射膜を保護する保護膜によって構成されている。反射膜として銀の薄膜を用いることで、集光点での反射による光強度の低下がほとんど生じなくなる。また、反射膜の外面を塗装することで保護膜を容易に形成することができる。反射膜を保護膜で覆うことで、外部からの不注意による傷などを防ぐことができる。
【0023】
<レーザ反射体を反射するレーザ光の光路>
以下、レーザ反射体3が、移動台17(図1参照)に取り付けられて、干渉計本体2からのレーザ光8を反射する場合について図2に基づいて詳しく説明する。
レーザ反射体3は、収納空間の中心線がレーザ光8の光軸(P軸)と一致するように移動台17に取り付けられている。図2に示すように、干渉計本体2からのレーザ光8のP軸とレーザ反射体3の中心線との平行状態が維持されていれば、レーザ光8は、窓6を通ってレンズ5に入射し、屈折によって焦点Fに向かって集光する(図中のレーザ光8a参照)。そしてレーザ光8aは、球体4の表面にて屈折率n1で屈折し、球体4の内部を通って交点Qに集光する(レーザ光8b参照)。交点Qがレンズ5と球体4の中心線上にあるため、被覆体12を反射した反射光は、レーザ光8c、8dの光路を通って、レンズ5に再入射する。ここで、レーザ光8c、8dの光路は、レーザ反射体3の中心線に対してレーザ光8a、8bの光路と線対象となる。そして、レーザ光8dはレンズ5にてP軸と平行なレーザ光になって干渉計本体2に戻される。
【0024】
次に、移動台3の姿勢の変化により集光点である交点Qの位置がずれた場合について説明する。具体例として図1に示す移動台17がY軸周りに振れた場合について、図3〜5を用いて詳しく説明する。図3〜5では、縦揺れによりレーザ反射体3がレーザ光のP軸に対して傾き、レーザ反射体3の中心線とP軸とが所定の角度Δθで交差しているとする。
【0025】
図3は、レーザ光の図中の上端部分を進むレーザ光8の光路を示す。
干渉計本体2からのレーザ光8は、レンズ5で屈折したあと、軸外焦点F1aに向かって集光する(図中のレーザ光8e参照)。軸外焦点F1aは、焦点を含む焦点面上の点である。そしてレーザ光8eは、球体4の表面にて屈折率n1で屈折してレーザ光8fとなり、球体4の内部を通って交点Q1aに集光する。交点Q1aは、交点Qから外れた球面上の点であり、被覆体12に覆われている。交点Q1aで被覆体12を反射した反射光は、レーザ光8g、8hの光路を通って、レンズ5に再入射する。ここで、レーザ光8g、8hは、球体4の中心と軸外焦点F1aを結ぶ線に対してレーザ光8e、8fと線対象となる。レーザ光8hはレンズ5にてP軸と平行なレーザ光になって干渉計本体2に戻される。
図4、図5は、レーザ光の図中の中央部分および下端部分を進むレーザ光8の光路をそれぞれ示す。図3と同様に、レーザ光8はレンズ5により軸外焦点F1aに向かって集光し、球体4の表面にて屈折して、交点Q1aに収束する。被覆体12で反射したのち、球体4の表面とレンズ5にて屈折して、P軸と平行なレーザ光になって干渉計本体2に戻される。
【0026】
以上のように、図3〜図5には、レーザ反射体3全体がΔθ傾いたときの入射光の上端側、中心線上、下端側の各光線が対物レンズ5のどの位置に戻ってくるか、の違いを説明している。図3では上端側から入射する光線の反射光が、対物レンズ5の最も下側から戻り、図4では中心線上から入射する光線の反射光が、光軸(P軸)よりも下側から戻り、図5では下端側から入射する光線の反射光が、P軸より上側から戻ることを表わす。
レーザ反射体3が対物レンズ5を中心にΔθだけ傾くことによって、対物レンズ5が傾くとともに、球体4の中心がP軸上から外れる。例えば図3では球体4が対物レンズ5より相対的に下方に移動する。この場合、集光点は図2に示す点Qより上方の交点Q1aに位置するが、傾き(Δθ)が小さいため、傾く前とほとんど同じ位置となる。従って、図3のように反射光が対物レンズ5の中心から大きく外れて、反射光強度が減少してしまうということはない。仮に、傾きによって反射光の一部が対物レンズ5からはみ出て反射光強度が減少することがあっても、実用上、光束全体の戻り光が干渉計本体2で充分なS/N比の干渉信号を検出できさえすればよいので、僅かな強度減少であれば無視できる。
また、図3では、移動する集光点である交点Q1aが球体4の表面上となると説明したが、正確には次のような説明となる。仮にレーザ光が理想の焦点位置(F、F1a)において最小の集光面積となって集光するならば、レーザ反射体3の傾斜によって、交点Q1aは球体4の表面上ではない。しかし、レーザ光は厳密には一焦点に集光することはなく、所定の焦点深度を有している。よって、レーザ反射体3が傾斜したとしても、Δθが焦点深度内から球体4の表面が外れない程度の微小な傾斜量であれば、交点Q1aは依然として球体4の表面上になると言える。
【0027】
このようにレーザ反射体3は、レーザ光をレンズ5と球体4で1点に絞るように工夫されているので、移動台の姿勢の変化に関わらず、入射光のP軸と平行な反射光を干渉計本体2に戻すことができる。丁度、レーザ反射体3が再帰反射体として三次元的なキャッツアイの役割を果たす。
このような機能を発揮させる上で重要なパラメータは、球体4とレンズ5との距離Sである。距離Sは、球体4の屈折率n1、レンズ5の焦点距離f、および使用するレーザ光の波長λの3つの関係で決定される。しかし、実際には戻ってきた反射光がP軸と平行になるように微調整を行った上で、距離Sを最終的に決定する。
【0028】
なお、筺体7には、図2に示すように、球体4の中心を通る面で、かつレーザ反射体3の中心線に直交する面上に、レーザ反射体3を移動台へ取付けるためのねじ穴9を予め加工しておくとよい。また、同じ面上に球体4の中心位置を示すマーク13を施しておくとよい。また同様に、筺体7には球体4の集光点Qに相当する位置にねじ穴11およびマーク14も施しておくとよい。これらのマーク13、14は、本発明の表示手段に相当する。さらにレーザ反射体3の中心線上にねじ穴10を施しておくとよい。筺体7に予め設けられたねじ穴9〜11やマーク13、14の位置によって、レーザ干渉測長の際、レーザ反射体3の正確な回転中心(ピッチングやヨウイングなどの振れの中心)の位置や、反射点(集光点Q)の位置を容易に知ることができる。
なお、被覆体12は、十分な領域を覆っている。十分な領域とは、前述のように移動台17の振れによって集光点である交点Qの位置がずれた場合にも、レーザ光を反射できる程度の領域を示す。
【0029】
本実施形態の構成によれば、直角三面鏡やコーナキューブプリズムのように、反射光の断面に6分割の割れが発生することや、入射光に比べて反射光の強度が常に10%〜20%減衰するということがなくなる。
また、レーザ反射体3を構成する部品の入手を容易にすることができる。すなわち、球体4は、基本的に任意の屈折率n1を有する材料で製作されたものであればよく、光学ガラス製の汎用品として廉価に入手が可能である。また、球体4の入射側とは反対側の球面上の1点にレーザ光を集光させるので、少なくともその部分が無傷の表面となるように形成されていれば、均一な反射光を得ることができる。さらに、球体4の真球度が高精度に仕上げられていなくても、レンズ5と球体4との組み合わせによって、三次元的なキャッツアイの機能を果たすことができる。
【0030】
<第2実施形態>
図6は、本発明の第2実施形態に係るレーザ反射体を示す断面図である。レーザ干渉測長機1は前述と略同じ構成であるが、レーザ反射体の構成が異なっている。ここでは、前述と異なる部材の符号に100番を加えた符号を用いて説明する。レーザ反射体103は、焦点距離fを持つレンズ105と、屈折率n2の球体104と、筺体107を備えている。レンズ105と球体104の中心間距離Sと、レンズ105の焦点距離fとが一致するように、焦点距離fまたは中心間距離Sが設定されている。球体104の表面を覆う被覆体12は、レンズ105から遠い方の球体104の半球面上の領域で、この半球面と光軸(P軸)との交点(A)を中心に形成されている。被覆体12は、レーザ反射体103が傾斜していない状態でレーザ光が球体104を照射する面積と略同じ面積を少なくとも覆っている。
【0031】
窓6を通ってレーザ光8がレンズ105に照射されると、レンズ105によって焦点Fに集光される(レーザ光8a参照)。そして球体104の中心と焦点Fとが一致しているため、レーザ光8aが球体104の内部に入る際、屈折されずに直進し、レーザ光8bとなって集光点Q(焦点F)に集光する。集光点Qを過ぎたレーザ光8cは所定の領域まで広がって、被覆体12で反射する。ここで、レーザ光8cが所定の領域まで広がるとは、レーザ光8aが球体104を照射する面積と同じ面積までレーザ光8cが広がることを示す。被覆体12を反射したレーザ光8cは、再び球体104の中心に集光し、そのあとレーザ光8b、8aと同じ光路を通って、レンズ105に再入射する。そして、レンズ105によって入射光の光軸(P軸)に平行なレーザ光になって干渉計本体2に戻される。
本実施形態の反射光学系を実現するには、前述の球体4の屈折率n1よりも大きい屈折率n2の材料で、球体104を製作するか、または、焦点距離fよりも短い焦点距離fのレンズを使用すればよい。
【0032】
移動台17の姿勢の変化により集光点Qの位置が、球体104の中心位置から外れたとしても、反射光は、入射光のP軸に平行なレーザ光となって干渉計本体2に戻される。丁度、集光点Qが球面状のキャッツアイの役割を果たす。
移動台3の姿勢の変化により集光点Qの位置がずれた場合について図7、図8を用いて説明する。図8は、図7(A)、(B)に示すようにレーザ反射体103を傾けるのではなく、入射するレーザ光の光軸がΔθだけ傾いた状態で対物レンズ105に入射した場合を示す。レンズ105により絞られた入射光を光線K1、K2とすると、光線K1、K2の球体104内部での挙動は以下のようになる。図8では球体104の被覆体12は、図中のF1〜F2で示す球体表面の領域に形成されている。
【0033】
まず、光線K1は、傾斜によって本来の球体中心Q(焦点F)から外れた焦点面上の集光点Q2’(F2’)に集光する。そして、集光点Q2’を通過した光線K1は、球体表面では本来のF1aではなくF1bで反射し、光線K1’の反射光となってレンズ105に戻る。光線K2は、集光点Q2’(F2’)に集光し、本来のF2aではなくF2bで反射し、光線K2’となって戻る。傾斜がなければ、球体104の中心で焦点を結び、図中のF1a〜F2aで示す球体の内部表面の領域で反射する。しかし、対物レンズ105で絞られた光線全体(K1〜K2で示す略円錐状の光線)が傾いて球体104に入射した場合、図中のF1b〜F2aで表される球体の内部表面において有効な反射光が得られる。しかし、F2a〜F2bの領域に入射する光線は、被覆体12があっても反射光は球体104からほとんど拡散し、対物レンズ105へ戻らない。また、F1a〜F1bの内部表面の領域には、もともと光線が入射しない。
このように本実施形態の場合、入射光の一部が反射しない、もしくは反射光がレンズ105に戻らないため、反射光強度の減衰が生じる。しかし、前記実施形態と同様に、傾斜角度が微小である限り、その影響は小さくなる。見方を変えれば、従来のコーナキューブプリズムが入射光強度を約10%〜20%あるいはそれ以上の割合で減衰した状態でしか反射光を作り出せないのに対し、本実施形態の場合、移動台3の傾きが生じたときだけ、その傾きに比例した強度減衰にとどめることができる。
【0034】
このような機能を発揮させる上で重要なパラメータは、球体104とレンズ105の中心間距離S(焦点距離f)である。中心間距離Sは、レンズの焦点距離f、および使用するレーザ光の波長λの2つの関係で決定される。しかし、実際には戻ってきた反射光がP軸に平行となるように微調整した上で、距離Sを最終的に決定する。
【0035】
本実施形態によれば、レーザ光が球体104の内部の1点(集光点Q、Q2’)に集光されるので、前記実施形態の交点Q、Q1aのようにレーザ光が球体4の表面上の1点に集光されない。従って、球体104の表面の部分的な傷を前記実施形態の球体4ほど気にする必要がない。
また、前述の球体4では、球体の真球度の形状偏差を球体表面の1点毎に評価して、1点毎の形状偏差が許容範囲内となる必要がある。しかし、本実施形態では、球体104の中心に一度集光したレーザ光8bが所定の領域まで広がったレーザ光8cとなってから被覆体12で反射するので、真球度の形状偏差の平均値を評価に用いることができる。すなわち、真球度の形状偏差を球体表面の所定の領域で平均し、その平均値を評価するので、前記実施形態の球体4ほど高い加工精度が要求されず、球体104を低コストで製作できる。
【0036】
<第3実施形態>
図9は、本発明の第3実施形態に係るレーザ反射体を示す断面図である。レーザ干渉測長機1は前述と略同じ構成であるが、レーザ反射体の構成が異なっている。ここでは、前述と異なる部材の符号に200番を加えた符号を用いて説明する。
レーザ反射体203は、屈折率n3の球体204と、これを保持する筺体207を備える。筺体207には、前述と同様に円形の窓6が形成されている。また、球体204は前述と同様に被覆体12で覆われている。
球体204は屈折率n3が略2(n3≒2)である特殊な材料で製作されている。従って、球体204にレーザ光8が入射すると、屈折率の関係から入射側とは反対側の球体表面の1点である点Qに集光する。点Qは、レーザ光の光軸(P軸)と入射側とは反対側の球体表面との交点である。レーザ光8aは被覆体12で反射したのち、レーザ光8bとなって再び球体204の内部を通り、球体204から出るとP軸に平行なレーザ光となって干渉計本体2へ戻る。
【0037】
移動台17(図1参照)の姿勢の変化により集光点Qの位置が多少ずれても、球体204が屈折率n3≒2を有する以上、反射光は、入射光に平行なレーザ光となって干渉計本体2に戻される。丁度、集光点Qが球面状のキャッツアイの役割を果たす。
本実施形態によれば、前述の実施形態のようなレンズ5、105が不要となる。従って、レーザ反射体203の部品点数が少なくて済み、かつ、球体4、104とレンズ5、105との間の微妙な距離調整作業が要らなくなり、単純に組み立てることができる。さらに、筺体207の長さを前記実施形態よりも短くすることができるので、レーザ反射体203のコンパクト化が図れる。
【0038】
前記各実施形態では、レーザ反射体がY軸周りにピッチング(図1のθ)した場合について説明したが、レーザ反射体がZ軸周りにローリング(同図のθ)した場合であっても、レーザ反射体がX軸周りにヨウイング(同図のθ)した場合であっても、同じ効果が得られる。
また、前記各実施形態では、本発明のレーザ反射体をレーザ干渉測長機に用いる場合について説明したが、これに限らず、精密測定装置や精密加工装置においてレーザ光によるワークあるいは工具の位置決めを行う場合にも、本発明のレーザ反射体を効果的に用いることができる。
【0039】
<実施例>
1軸方向のレーザ干渉測長システムを用いて、三次元測定機や工作機械のテーブルの移動量を測る場合に、本発明のレーザ反射体を用いる例を図10に基づいて説明する。
具体的なレーザ反射体の仕様を以下に示す。
球体4の直径 : 20 mm、
レーザ光の直径 : 5 mm、
レーザ光の波長 : 0.633 μm、
開口数(N.A.)に相当する値 : N.A.=n×sinθ=0.125
(nは空気の屈折率でn= 1 )。
三次元測定機や工作機械では通常、移動するテーブルがピッチングやヨーイングなどの姿勢変化を起こすとしても、その傾斜角度(Δθ)は 10 秒以下である。干渉計本体2に対するテーブルの移動範囲が 10 mである場合(多くの場合、移動範囲は 5 m以内である。)、傾斜角度 10 秒(( 1 / 360 )度)に対する光軸(P軸)からの球体4の位置ずれは、 0.5 mmとなる。ここで、測長範囲を 10 mとして計算すると、集光位置である交点Q1aはP軸に沿って 12.5 μmずれる。一方、開口数(N.A.)に対応する焦点深度dを次式により計算すると、d=約 40 μmとなり、交点Qがずれる量より大きい。従って、測長範囲が 10 mであっても、傾斜時の集光位置である交点Q1aは依然として球体表面上になることが説明できる。なお、図10では球体表面上の被覆体12の図示を省いている。
【数1】

【0040】
また、比較例として、レーザ干渉測長機用の一般的なマイケルソン干渉計の参照側反射体として平面鏡またはコーナキューブプリズムを用いた場合の反射光の強度について説明する。まず、平面鏡による干渉縞信号のリサージュ波形を描き、その直径を100%と評価する。次に、直交する3稜線を安全のため 0.2 mm幅で面取りした直径が 12.7 mmのコーナキューブプリズムを、平面鏡に代えて設置し、同様のリサージュ波形を評価した。この直交する三面には、いずれも銀のコーティングが施されている。評価の結果、コーナキューブプリズムに代えた場合、リサージュ波形の直径が65%〜70%に縮減した。
ここで、干渉現象を発生させたとき、干渉縞強度 I は次式で表わされる。 a は移動側の光の振幅であり、 b は参照側の光の振幅である。
【数2】

【0041】
上式に示すように、干渉縞強度 I は時間 t と共に、4ab で示される大きさの強度変化を起こす。この強度変化がリサージュ波形の振幅となる。比較例において b1 を平面鏡使用時の参照側の光の振幅とし、 b2 をコーナキューブプリズム使用時の参照側の光の振幅とすれば、4ab2 / 4ab1 =( 65 〜 70 )%/ 100 %となる。各参照側の光の強度比は、次のようになる。
【数3】

【0042】
すなわち、干渉現象を起こす前の参照側の光強度がコーナキューブプリズムを用いることによって半分以下に低下する。
次に、本発明のレーザ反射体の効果の推定値について説明する。比較例のコーナキューブプリズムを本発明のレーザ反射体に代えた場合、上記リサージュ波形の振幅は、コーナキューブプリズムの場合の中間あたり、つまり、少なくとも80%〜85%になると推定できる。その理由は、本発明のレーザ反射体の場合、対物レンズの表面や球体の表面反射や球体内部での吸収による減衰があるものの、コーナキューブプリズムを使う場合のように、レーザ光が3稜線で蹴られたり、6分割されたりしないからである。平面鏡使用時の参照側の光に対する本発明のレーザ反射体使用時の参照側の光の強度比は、4ab2 / 4ab1 =( 80 〜 85 )%/ 100 %より、次のようになる。
【数4】

【0043】
以上から、本発明のレーザ反射体によれば28%〜36%の反射光強度の減衰にとどまるものと予想できる。つまり、コーナキューブプリズムの51%〜58%という50%以上の強度の減衰に比べて、減衰を40%以下に抑える効果があると言える。
【符号の説明】
【0044】
2 :干渉計本体(照射手段)
3、103、203 :レーザ反射体
4、104、204 :球体
5、105 :レンズ
7、107、207 :筺体(支持部材)
12 :被覆体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
照射手段からのレーザ光の光軸(P軸)上に設けられるレンズおよび球体と、
前記球体の表面を覆いレーザ光を反射する被覆体と、
前記レンズと前記球体の位置関係を保持する支持部材と、
を備え、前記照射手段からのレーザ光を前記レンズと前記球体で1点に集光させ、前記被覆体で反射させることによって、前記光軸(P軸)と平行に前記照射手段に向けて反射させるレーザ反射体であって、
前記レンズの中心および焦点は、前記光軸(P軸)上に配置され、
前記球体の中心は、前記レンズの中心と当該レンズよりも前記照射手段から遠い方の焦点(F)とを結ぶ線上で、かつ、前記レンズの焦点(F)が当該球体の外となるように配置され、
前記被覆体は、前記レンズの焦点(F)に近い方の前記球体の半球面上の領域で、この半球面と前記光軸(P軸)との交点(Q)を少なくとも含む領域を覆い、
前記レンズの中心と前記球体の中心との距離(S)、および、前記球体の屈折率(n1)は、前記レンズによって前記焦点(F)に向けて集光されるレーザ光を、前記球体で屈折させて、かつ当該球体の内部を通って前記被覆体で覆われた前記交点(Q)に集光させるように設定され、
前記交点(Q)に集光されたレーザ光を、前記被覆体で反射させることで、前記光軸(P軸)と平行な反射光として前記照射手段に戻すとともに、
前記支持部材の姿勢が変化して、前記レンズおよび前記球体の各中心を結ぶ線が前記光軸(P軸)に対して傾斜した状態では、入射されるレーザ光を、前記レンズと前記球体によって前記交点(Q)から外れた前記球体の表面上の点に集光させて、前記被覆体で反射させることで、前記光軸(P軸)と平行な反射光として前記照射手段に戻すことを特徴とするレーザ反射体。
【請求項2】
照射手段からのレーザ光の光軸(P軸)上に設けられるレンズおよび球体と、
前記球体の表面を覆いレーザ光を反射する被覆体と、
前記レンズと前記球体の位置関係を保持する支持部材と、
を備え、前記照射手段からのレーザ光を前記レンズで前記球体の内部の1点に集光させ、前記被覆体で反射させることによって、前記光軸(P軸)と平行に前記照射手段に向けて反射させるレーザ反射体であって、
前記レンズの中心および焦点は、前記光軸(P軸)上に配置され、
前記球体の中心は、前記レンズよりも前記照射手段から遠い方の焦点(F)に一致し、
前記被覆体は、前記レンズから遠い方の前記球体の半球面上の領域で、この半球面と前記光軸(P軸)との交点(A)を中心に、前記レーザ光が前記球体を照射する面積と略同じ面積を少なくとも含む領域を覆い、
前記レンズによって前記球体の内部の前記焦点(F)に集光されるレーザ光を、前記焦点(F)から所定の領域まで広がった状態で前記被覆体により反射させることで、前記光軸(P軸)と平行な反射光として前記照射手段に戻すとともに、
前記支持部材の姿勢が変化して、前記レンズおよび前記球体の各中心を結ぶ線が前記光軸(P軸)に対して傾斜した状態では、入射されるレーザ光を、前記レンズと前記球体によって前記焦点(F)から外れた焦点面上の点(Q2’)に集光させて、さらに所定の領域まで広がった状態にして前記被覆体により反射させることで、前記光軸(P軸)と平行な反射光として前記照射手段に戻すことを特徴とするレーザ反射体。
【請求項3】
請求項1または2記載のレーザ反射体において、
前記支持部材には、前記照射手段からのレーザ光の直径を制限する円形の窓が形成されていることを特徴とするレーザ反射体。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載のレーザ反射体において、
前記支持部材は、前記光軸(P軸)に略平行な方向に移動自在な移動台に取付け可能に設けられ、当該支持部材には、前記球体の中心と前記レーザ光を集光させる点と前記被覆体の位置とに相当する位置にそれぞれ取付け用の孔が形成され、かつ、前記球体の中心と前記レーザ光を集光させる点と前記被覆体の位置とをそれぞれ表示する表示手段が設けられていることを特徴とするレーザ反射体。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載のレーザ反射体において、
前記被覆体は、銀の反射膜と、この反射膜を外部から覆う保護膜とを有することを特徴とするレーザ反射体。
【請求項6】
請求項3から5のいずれかに記載のレーザ反射体において、
前記レンズおよび前記球体の代わりに、照射手段からのレーザ光の光軸(P軸)上に設けられる球体を備え、
前記支持部材は、前記球体を保持し、
前記被覆体は、前記照射手段から遠い方の前記球体の半球面上の領域で、この半球面と前記光軸(P軸)との交点(Q)を少なくとも含む領域を覆い、
前記球体の屈折率(n3)はn3=2に設定され、
前記球体に入射されるレーザ光を、屈折率n3=2で屈折させて当該球体の内部を通って前記被覆体で覆われた前記交点(Q)に集光させて、前記被覆体で反射させることで、前記光軸(P軸)と平行な反射光として前記照射手段に戻すことを特徴とするレーザ反射体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−191175(P2011−191175A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−57455(P2010−57455)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(000137694)株式会社ミツトヨ (979)
【Fターム(参考)】