説明

レーザ溶接方法および溶接接合体

【課題】ポロシティの発生を防止して、溶接接合体の溶接品質を確保することができるレーザ溶接方法。
【解決手段】表面処理により表面層が形成された板材を含む複数の板材を重ね合わせたレーザ溶接方法であって、ガス排出孔55を形成する工程と、板材51,52を接合する工程とを有し、ガス排出孔55を形成する工程は、表面層が形成された板材51と他の板材52との合わせ面から外方に連通して、レーザ光60の照射により気化する表面層の気化ガスを排出するガス排出孔55を、合わせ面の少なくとも一方の側に重ねられる板材51に形成するとともに、当該ガス排出孔55に表面層の気化ガスを誘導する空間をなす突出部58を最外部の板材に形成する。板材51,52を接合する工程は、ガス排出孔55の近傍にレーザ光60を照射して、重ね合わされた複数の板材51,52を接合し、突出部58に沿ってレーザ光を移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ溶接方法および溶接接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の組立工程において、スポット溶接に代わりレーザ溶接が採用されている。レーザ溶接では、たとえば、防錆処理により亜鉛メッキ層が形成された鋼板同士が接合される。
【0003】
亜鉛メッキ層が形成された鋼板同士をレーザ溶接する技術としては、下記の特許文献1に示すレーザ溶接方法が知られている。特許文献1のレーザ溶接方法は、重ね合わされる2枚の鋼板間にガス抜用の隙間を確保しつつ、当該2枚の鋼板にレーザ光を照射するものである。このような構成にすると、レーザ光の熱により蒸発する亜鉛メッキ層の気化ガスがガス抜用の隙間から外部に排出されるため、亜鉛メッキ層の気化ガスにより溶接ビードにポロシティが発生することを防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−283835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記レーザ溶接方法では、溶接接合体の溶接品質を確保するために、2枚の鋼板間の隙間の調整が煩雑で、作業性が悪いという問題がある。特に、気化ガスの排出性を良好にするために、隙間を大きくし過ぎると、溶接不良が起こるおそれがあり、逆に隙間を小さくし過ぎると、亜鉛メッキ層の気化ガスを十分に排出することができず、ポロシティが発生するおそれがある。
【0006】
本発明は、上述した問題を解決するためになされたものである。したがって、本発明の目的は、ポロシティの発生を防止して、溶接接合体の溶接品質を確保することができるレーザ溶接方法を提供することである。
【0007】
また、本発明の他の目的は、上記レーザ溶接方法によってレーザ溶接される溶接接合体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は、下記の手段によって達成される。
【0009】
本発明のレーザ溶接方法は、表面処理により表面層が形成された板材を含む複数の板材を重ね合わせてレーザ溶接するレーザ溶接方法であって、ガス排出孔を形成する工程と、板材を接合する工程と、を有する。前記ガス排出孔を形成する工程は、表面層が形成された板材と他の板材との合わせ面から外方に連通して、レーザ光の照射により気化する前記表面層の気化ガスを排出するガス排出孔を、前記合わせ面の少なくとも一方の側に重ねられる板材に形成する。前記板材を接合する工程は、前記ガス排出孔の近傍にレーザ光を照射して、重ね合わされた複数の板材を接合する。また、前記ガス排出孔を形成する工程は、前記ガス排出孔を形成するとともに、当該ガス排出孔に前記表面層の気化ガスを誘導する空間をなす突出部を最外部の板材に形成し、前記板材を接合する工程は、前記突出部に沿って前記レーザ光を移動させる工程を有する。
【0010】
本発明の溶接接合体は、表面処理により表面層が形成された板材を含む複数の板材を重ね合わせてレーザ溶接することによりなる溶接接合体である。本発明の溶接接合体は、最外部の前記板材に表面層の気化ガスを誘導する空間をなす突出部を有し、表面層が形成された板材と他の板材との合わせ面から外方に連通して、レーザ光の照射により気化する前記表面層の気化ガスを排出するガス排出孔の近傍に、前記突出部に沿って溶接ビードが形成されている。
【発明の効果】
【0011】
本発明のレーザ溶接方法によれば、表面層の気化ガスがガス排出孔を通じて外部に排出されるため、表面層の気化ガスによるポロシティの発生が防止される。したがって、溶接接合体の溶接品質を確保することができる。
【0012】
また、本発明の溶接接合体によれば、その溶接品質が確保される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1の実施の形態におけるレーザ溶接方法が適用されるレーザ溶接装置の概略構成を示す図である。
【図2】図1に示すレーザ溶接装置における加工ヘッドを説明するための図である。
【図3】図1に示すレーザ溶接装置によるレーザ溶接処理を示すフローチャートである。
【図4】図3のフローチャートにおける重ね合わせ処理を説明するための図である。
【図5】図3のフローチャートにおけるレーザ光の照射開始処理を説明するための図である。
【図6】図3のフローチャートにおけるレーザ光の移動処理を説明するための図である。
【図7】図6のVII−VII線に沿った断面図である。
【図8】一般的なレーザ溶接方法における場合を比較例として示す図である。
【図9】図9(A)は、本発明の第2の実施の形態におけるレーザ溶接方法を説明するための図であり、図9(B)は、図9(A)のIX−IX線に沿った断面図である。
【図10】図10(A)は、本発明の第3の実施の形態におけるレーザ溶接方法の変形例を説明するための図であり、図10(B)は、図10(A)のX−X線に沿った断面図である。
【図11】図11(A)は、本発明の第3の実施の形態におけるレーザ溶接方法の変形例を説明するための図であり、図11(B)は、図11(A)のXI−XI線に沿った断面図である。
【図12】本発明の第4の実施の形態におけるレーザ溶接方法を説明するための図である。
【図13】図12に示すレーザ溶接方法に対応する実施例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を説明する。なお、以下に示す実施の形態では、防錆処理により亜鉛メッキ層が形成されている2枚の鋼板(以下、板材と称する)をレーザ溶接する場合を例に挙げて説明する。また、図中、同様の部材には同一の符号を用いた。
【0015】
(第1の実施の形態)
まず、図1および図2を参照して、本発明の第1の実施の形態におけるレーザ溶接方法が適用されるレーザ溶接装置について説明する。図1は、本実施の形態におけるレーザ溶接方法が適用されるレーザ溶接装置の概略構成を示す図である。
【0016】
図1に示すとおり、本実施の形態のレーザ溶接装置100は、加工ヘッド10、ロボット20、レーザ発振器30、および制御装置40を備える。
【0017】
加工ヘッド10は、重ね合わされる2枚の板材51,52にレーザ光60を照射するものである。加工ヘッド10は、複数のレンズおよびミラーを含む光学系を内部に備えており、レーザ光60の焦点を調整しつつ、レーザ光60を移動させることができる。
【0018】
ロボット20は、加工ヘッド10を多軸方向に移動させるものである。本実施の形態のロボット20は、多関節型のアームロボットであって、加工ヘッド10がアーム先端部に取り付けられている。ロボット20は、加工ヘッド10を移動させることにより、レーザ光60を移動させることができる。
【0019】
レーザ発振器30は、加工ヘッド10にレーザ光を供給するものである。レーザ発振器30は、たとえば、YAGレーザ発振器であって、光ファイバケーブル35を介して加工ヘッド10にレーザ光60を供給する。
【0020】
制御装置40は、加工ヘッド10、ロボット20、およびレーザ発振器30を制御するものである。
【0021】
図2は、図1に示すレーザ溶接装置における加工ヘッドを説明するための図である。
【0022】
図2に示すとおり、本実施の形態の加工ヘッド10は、光ファイバケーブル35から入射されるレーザ光を透過する複数のレンズ11a〜11dと、レーザ光を反射するミラー12a〜12cと、を備える。
【0023】
複数のレンズ11a〜11dのうち一のレンズ11bは、駆動モータ13aによって駆動され、光軸方向に移動する。レンズ11bが移動することによって、レーザ光60の焦点距離が調整される。駆動モータ13aは、制御装置40によって制御される。
【0024】
複数のミラー12a〜12cのうち第1および第2ミラー12b,12cは、駆動モータ13b,13cによって駆動され、それぞれ異なる軸を中心に回動する。第1および第2ミラー12b,12cが回動することによって、レーザ光60の射出方向が自在に振り分けられる。ミラー12b,12cは、制御装置40によって制御される。
【0025】
以上のとおり構成されるレーザ溶接装置100では、加工ヘッド10内部のミラー12b,12cの動作を制御することにより、板材51,52上でレーザ光60を自在に移動させることができる。以下、図3〜図8を参照して、上記レーザ溶接装置100を用いた本実施の形態のレーザ溶接方法について説明する。
【0026】
図3は、図1に示すレーザ溶接装置によるレーザ溶接処理を示すフローチャートである。本実施の形態のレーザ溶接方法は、板材表面の亜鉛メッキ層の気化ガスによるポロシティの発生を防止するために、板材51,52の合わせ面から外方に連通するガス排出孔55を板材51に形成し、ガス排出孔55の近傍にレーザ光60を照射するものである。
【0027】
図3に示すとおり、本実施の形態のレーザ溶接方法では、まず、板材にガス排出孔が形成される(ステップS101)。本実施の形態では、重ね合わされる2枚の板材51,52のうち、レーザ光60が照射される側に位置する上側の板材51にガス排出孔55が形成される。本実施の形態のガス排出孔55は、円形状であって、板材51を貫通している。ガス排出孔55は、板材51のプレス成形時に、プレス加工により形成される。
【0028】
次に、ガス排出孔が形成された板材が重ね合わされる(ステップS102)。本実施の形態では、図4に示すとおり、ステップS101に示す処理でガス排出孔55が形成された上側の板材51が、下側の板材52と重ね合わされる。重ね合わされた板材51,52は、レーザ溶接装置100にセットされる。
【0029】
次に、重ね合わされた板材にレーザ光が照射される(ステップS103)。本実施の形態では、図5に示すとおり、ステップS102に示す処理で重ね合わされた板材51,52の上方からレーザ光60が照射される。より具体的には、レーザ溶接装置100の加工ヘッド10から、上側の板材51のガス排出孔55の近傍にレーザ光60が照射される。
【0030】
次に、レーザ光が移動される(ステップS104)。本実施の形態では、図6に示すとおり、上側の板材51のガス排出孔55近傍に照射されるレーザ光60が、ガス排出孔55を取り囲むように移動される。より具体的には、加工ヘッド10内部のミラー12b,12cの動作が制御されて、レーザ光60がガス排出孔55を取り囲むように移動される。このとき、レーザ光60の熱により板材51,52が溶融するとともに、板材51,52の表面を覆う亜鉛メッキ層が蒸発する。蒸発した亜鉛メッキ層の気化ガスは、板材51,52の合わせ面から外方に連通するガス排出孔55を通じて外部に排出される。
【0031】
そして、レーザ光の照射が停止され(ステップS105)、処理が終了される。レーザ溶接された溶接接合体は、ガス排出孔55を取り囲むようにC字状の溶接ビード56が形成されている。このような形状の溶接ビード56によれば、溶接ビード56の外周部に応力が作用する場合であっても、溶接ビード56が応力を受けて溶接ビード56内側のガス排出孔55への応力伝達を防止するため、ガス排出孔55には外部応力が作用しない。
【0032】
以上のとおり、図3に示すフローチャートの処理によれば、まず、レーザ溶接される一の板材51に、2枚の板材51,52の合わせ面から外方に連通するガス排出孔55が形成される。そして、ガス排出孔55を取り囲むようにレーザ光60が照射され、重ね合わされた2枚の板材51,52が接合される。このとき、レーザ光の熱によって気化する亜鉛メッキ層の気化ガスは、レーザ光の照射部位近傍に設けられたガス排出孔を通じて外部に排出される。したがって、亜鉛メッキ層の気化ガスにより溶接ビードにポロシティが発生することが防止される。
【0033】
次に、図7および図8を参照しつつ、本実施の形態のレーザ溶接方法における作用効果について説明する。
【0034】
図7は、図6のVII−VII線に沿った断面図であり、図8は、一般的なレーザ溶接方法における場合を比較例として示す図である。
【0035】
図8に示す一般的なレーザ溶接方法では、ガス排出孔を形成することなく板材にレーザ光が照射され、板材が接合される(図8(B)参照)。亜鉛メッキ層53’,54’が形成されている板材51’,52’にレーザ光60が照射される場合、レーザ光60の熱により板材51’,52’が溶融するとともに、亜鉛メッキ層53’,54’が蒸発する。したがって、一般的なレーザ溶接方法によれば、亜鉛メッキ層53’,54’の気化ガス57が板材の溶融池を通過して外部に放出されるため、溶接ビード56’にはポロシティ59と呼ばれる微細孔が生じる(図8(A)参照)。このようなポロシティ59は、溶接接合体の外観品質を低下させるのみならず、溶接強度も低下させる。
【0036】
一方、図7に示すとおり、本実施の形態のレーザ溶接方法によれば、レーザ光60の熱により亜鉛メッキ層53,54が蒸発しても、レーザ光の照射部位近傍に設けられたガス排出孔55を通じて、亜鉛メッキ層53,54の気化ガス57が外部に排出される。したがって、亜鉛メッキ層53,54の気化ガス57が溶融池を通過することなく外部に排出されるため、亜鉛メッキ層53,54の気化ガスによるポロシティの発生が防止される。
【0037】
以上のとおり、説明した本実施の形態は、以下の効果を奏する。
【0038】
(a)本実施の形態のレーザ溶接方法は、防錆処理により亜鉛メッキ層が形成された2枚の板材を重ね合わせてレーザ溶接するレーザ溶接方法であって、ガス排出孔を形成する工程と、板材を接合する工程と、を有する。ガス排出孔を形成する工程は、亜鉛メッキ層が形成された2枚の板材の合わせ面から外方に連通して、レーザ光の照射により気化する亜鉛メッキ層の気化ガスを排出するガス排出孔を、合わせ面の上側の板材に形成する。板材を接合する工程は、ガス排出孔の近傍にレーザ光を照射して、重ね合わされた2枚の板材を接合する。したがって、亜鉛メッキ層の気化ガスがガス排出孔を通じて外部に排出されるため、亜鉛メッキ層の気化ガスによるポロシティの発生が防止される。その結果、溶接接合体の溶接品質が確保される。また、ガス排出孔の形状を変更することによって、様々な形状の溶接ビードに対応することができる。
【0039】
(b)ガス排出孔を形成する工程は、円形状のガス排出孔を形成し、板材を接合する工程は、円形状のガス排出孔を取り囲むようにレーザ光を移動させる工程を有する。したがって、溶接ビードの外周部に応力が作用する場合であっても、溶接ビードが応力を受けて溶接ビード内側のガス排出孔への応力伝達を防止するため、ガス排出孔には外部応力が作用しない。その結果、ガス排出孔の形成による接合強度の低下をともなうことなく、ガス排出孔の形成により溶接接合体の軽量化を実現することができる。また、溶接ビードの特定の箇所に過度の応力が集中することを防止することができる。
【0040】
(c)本実施の形態の溶接接合体は、亜鉛メッキ層が形成された2枚の板材の合わせ面から外方に連通して、レーザ光の照射により気化する亜鉛メッキ層の気化ガスを排出するガス排出孔の近傍に、溶接ビードが形成されている。したがって、ガス排出孔を通じて亜鉛メッキ層の気化ガスが外部に排出されるため、亜鉛メッキ層の気化ガスによるポロシティの発生が防止される。その結果、溶接品質が確保される。
【0041】
(第2の実施の形態)
第1の実施の形態では、円形状のガス排出孔を板材に形成する場合について述べた。本実施の形態では、矩形状のガス排出孔を板材に形成する場合について述べる。
【0042】
図9(A)は、本発明の第2の実施の形態におけるレーザ溶接方法を説明するための図であり、図9(B)は、図9(A)のIX−IX線に沿った断面図である。本実施の形態のレーザ溶接方法では、まず、板材51に矩形状のガス排出孔55が形成される。そして、図9(A)に示すとおり、矩形状のガス排出孔55を取り囲むように、レーザ光60が直線的に移動される。なお、板材51に矩形状のガス排出孔55を形成することを除いては、本実施の形態のレーザ溶接方法は、第1の実施の形態と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0043】
このような構成とすると、図9(B)に示すとおり、レーザ光60の熱により蒸発する亜鉛メッキ層53,54の気化ガス57が、レーザ光の照射部位近傍に設けられた矩形状のガス排出孔55を通じて外部に排出される。したがって、亜鉛メッキ層の気化ガスにより溶接ビードにポロシティが発生することが防止される。
【0044】
以上のとおり、説明した本実施の形態は、第1の実施の形態における効果に加えて、以下の効果を奏する。
【0045】
(d)ガス排出孔を形成する工程は、矩形状のガス排出孔を形成し、板材を接合する工程は、矩形状のガス排出孔に沿ってレーザ光を直線的に移動させる工程を有する。したがって、加工ヘッド内部のミラーの動作を制御することなく、加工ヘッドが取り付けられたロボットの動作を制御してレーザ光を移動させることができる。
【0046】
(第3の実施の形態)
次に、図10を参照しつつ、本発明の第3の実施の形態について説明する。本実施の形態は、ガス排出孔を形成するとともに、ガス排出孔に亜鉛メッキ層の気化ガスを誘導する空間をなす突出部を形成する実施の形態である。
【0047】
図10(A)は、本発明の第3の実施の形態におけるレーザ溶接方法を説明するための図であり、図10(B)は、図10(A)のX−X線に沿った断面図である。
【0048】
本実施の形態のレーザ溶接方法では、板材にガス排出孔が形成されるとともに、ガス排出孔に亜鉛メッキ層の気化ガスを誘導する空間をなす突出部が形成される。より具体的には、上側の板材51に、上方に突出する突出部58が形成されるとともに、突出部58の先端にガス排出孔55が形成される。突出部58は、ガス排出孔55とともにプレス成形によって形成される。
【0049】
次に、上側の板材51と下側の板材52とが重ね合わされることにより、突出部58の内面と下側の板材52の上面とによって空間が形成される。そして、図10(A)に示すとおり、上側の板材51の突出部58を取り囲むようにレーザ光60が移動されて、板材51,52が接合される。なお、板材51に突出部58が形成されることを除いては、本実施の形態のレーザ溶接方法は、第1の実施の形態と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0050】
このような構成とすると、図10(B)に示すとおり、レーザ光の熱によって蒸発する亜鉛メッキ層53,54の気化ガス57が、突出部58と下側の板材52とによって画定される空間を通じてガス排出孔55に確実に誘導される。したがって、亜鉛メッキ層53,54の気化ガス57がガス排出孔55を通じて確実に排出される。
【0051】
(変形例)
図11(A)は、本発明の第3の実施の形態におけるレーザ溶接方法の変形例を説明するための図であり、図11(B)は、図11(A)のXI−XI線に沿った断面図である。本変形例では、突出部58が複数のガス排出孔55を横切るように形成される。
【0052】
図11(A)に示すとおり、本変形例では、ガス排出孔55が形成されるとともに、複数のガス排出孔55を横切る突出部58が形成され、突出部58の側部に沿ってレーザ光60が直線的に移動される。
【0053】
このような構成とすると、図11(B)に示すとおり、レーザ光60の熱によって蒸発する亜鉛メッキ層53,54の気化ガス57が、突出部58と下側の板材52とが画定する空間を通じてガス排出孔55に確実に誘導される。
【0054】
以上のとおり、説明した本実施の形態は、第1および第2の実施の形態における効果に加えて、以下の効果を奏する。
【0055】
(e)ガス排出孔を形成する工程は、ガス排出孔を形成するとともに、ガス排出孔に亜鉛メッキ層の気化ガスを誘導する空間をなす突出部を上側の板材に形成し、板材を接合する工程は、突出部に沿ってレーザ光を移動させる工程を有する。したがって、亜鉛メッキ層の気化ガスは、突出部により画定される空間を通じてガス排出孔に確実に誘導されるため、亜鉛メッキ層の気化ガスが、ガス排出孔を通じて確実に排出される。
【0056】
(第4の実施の形態)
第1〜第3の実施の形態では、プレス成形によって板材にガス排出孔を形成した。しかしながら、レーザ光を照射することによって板材にガス排出孔を形成してもよい。
【0057】
図12は、本発明の第4の実施の形態におけるレーザ溶接方法を説明するための図である。本実施の形態では、レーザ溶接装置100から照射されるレーザ光により、板材にガス排出孔が形成される。
【0058】
具体的には、図12(A)に示すとおり、レーザ溶接装置100からレーザ光60が照射されて、板材51にガス排出孔55が形成される。本実施の形態では、マグネットなどの溶接冶具70によって保持される板材51の上方から、高出力のレーザ光が照射される。このとき、レーザ光60は、板材をレーザ溶接するときよりも20〜30%高い出力で照射される。なお、本実施の形態とは異なり、レーザ光60の照射部位に酸素ガスを供給することによって、ガス排出孔55を形成してもよい。
【0059】
次に、ガス排出孔が形成された板材が重ね合わされる。本実施の形態では、図12(B)に示すとおり、レーザ光60の照射によりガス排出孔55が形成された上側の板材51の位置を維持した状態で、上側の板材51の下部に下側の板材52が押し当てられる。
【0060】
そして、ガス排出孔55の近傍にレーザ光60が照射されて、板材51,52が接合される。本実施の形態では、図12(C)に示すとおり、レーザ光60の照射により形成されるガス排出孔55を取り囲むようにレーザ光60が移動される。このとき、ガス排出孔55が形成された上側の板材51の位置が維持されているため、ガス排出孔55を形成したときに利用したレーザ溶接装置100の位置座標を基準として、レーザ光60を板材51,52に精度よく照射することができる。
【0061】
このような構成とすると、レーザ溶接に用いられるレーザ溶接装置100を利用して、ガス排出孔55を形成することができる。したがって、同一の装置内でガス排出孔の形成と板材の接合とを実現することができる。
【0062】
以上のとおり、説明した本実施の形態は、第1〜第3の実施の形態における効果に加えて、以下の効果を奏する。
【0063】
(f)ガス排出孔を形成する工程は、レーザ光を照射して板材にガス排出孔を形成する。したがって、ガス排出孔を形成するためのプレス工程を省略することができる。
【0064】
(g)ガス排出孔を形成するレーザ光と板材を接合するレーザ光とは、同一のレーザ発振器から照射される。したがって、同一の装置内でガス排出孔の形成と板材の接合とを実現することができるため、ガス排出孔の位置と溶接位置とを同一の座標で管理することができる。その結果、溶接位置の位置ズレが防止され、精度よく板材を接合することができる。
【0065】
(実施例)
以下、実施例を用いて本発明の実施の形態を詳細に説明する。しかしながら、本発明は、本実施例によって何ら限定されるものではない。
【0066】
まず、実施例1として、第1の実施の形態におけるレーザ溶接方法を用いて、亜鉛メッキ層が形成された2枚の鋼板(パネル)を接合した。具体的には、まず、プレス加工によって上側の鋼板に直径6mmの円形状のガス排出孔を形成した。そして、2枚の鋼板を重ね合わせ、レーザ光をガス排出孔の近傍に照射しつつ、その軌跡が直径6.5mmのC字状を描くように移動させた。このようにレーザ溶接された溶接接合体では、亜鉛メッキ層が形成されている鋼板間の間隔が0mmであっても、ポロシティが発生しないことが確認された。
【0067】
次に、実施例2として、第4の実施の形態におけるレーザ溶接方法を用いて、亜鉛メッキ層が形成された鋼板上に2枚の鋼板を接合した。
【0068】
具体的には、図13に示すとおり、まず、上側の2枚の鋼板のうち、一の鋼板に2つ、他の鋼板に1つのガス排出孔をレーザ溶断により形成した。次に、上側および下側の鋼板を重ね合わせた。そして、3つのガス排出孔のそれぞれについて、ガス排出孔の近傍にレーザ光を照射しつつ、その軌跡がC字状を描くように移動させた。このようにレーザ溶接された溶接接合体では、ガス排出孔の位置と溶接位置との位置ずれが生じることなく、さらに、ポロシティが発生しないことが確認された。
【0069】
以上のとおり、第1〜第4の実施の形態において、本発明のレーザ溶接方法および溶接接合体を説明した。しかしながら、本発明は、その技術思想の範囲内において当業者が適宜に追加、変形、および省略することができることはいうまでもない。
【0070】
たとえば、第1〜第4の実施の形態では、2枚の板材同士がレーザ溶接された。しかしながら、レーザ溶接される板材の枚数は2枚に限定されるものではなく、板材が3層以上に重ね合わされてレーザ溶接されてもよい。
【0071】
また、第1〜第4の実施の形態では、上側の板材にのみガス排出孔が形成された。しかしながら、ガス排出孔が形成される板材は、上側の板材のみに限定されず、下側の板材に形成されてもよく、あるいは、両方の板材に形成されてもよい。
【0072】
また、第1〜第4の実施の形態では、亜鉛メッキ層が形成された鋼板同士がレーザ溶接された。しかしながら、接合対象は、鋼板に限定されず、他の金属製の板材または樹脂製の板材であってもよい。あるいは、2枚の板材のうち1枚が防錆処理されていない裸材であってもよい。さらに、板材表面を覆う表面層も亜鉛メッキ層に限定されず、アルミニウムメッキ層またはクロムメッキ層であってもよく、板材表面を覆う種々のコーティング層であることができる。
【符号の説明】
【0073】
51,52 板材、
53,54 亜鉛メッキ層(表面層)、
55 ガス排出孔、
56 溶接ビード、
57 気化ガス、
58 突出部、
60 レーザ光。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面処理により表面層が形成された板材を含む複数の板材を重ね合わせてレーザ溶接するレーザ溶接方法であって、
表面層が形成された板材と他の板材との合わせ面から外方に連通して、レーザ光の照射により気化する前記表面層の気化ガスを排出するガス排出孔を、前記合わせ面の少なくとも一方の側に重ねられる板材に形成する工程と、
前記ガス排出孔の近傍にレーザ光を照射して、重ね合わされた複数の板材を接合する工程と、を有し、
前記ガス排出孔を形成する工程は、前記ガス排出孔を形成するとともに、当該ガス排出孔に前記表面層の気化ガスを誘導する空間をなす突出部を最外部の板材に形成し、
前記板材を接合する工程は、前記突出部に沿って前記レーザ光を移動させる工程を有することを特徴とするレーザ溶接方法。
【請求項2】
前記ガス排出孔を形成する工程は、レーザ光を照射して前記板材にガス排出孔を形成することを特徴とする請求項1に記載のレーザ溶接方法。
【請求項3】
前記ガス排出孔を形成するレーザ光と前記板材を接合するレーザ光とは、同一のレーザ発振器から照射されることを特徴とする請求項2に記載のレーザ溶接方法。
【請求項4】
表面処理により表面層が形成された板材を含む複数の板材を重ね合わせてレーザ溶接することによりなる溶接接合体であって、
最外部の前記板材に表面層の気化ガスを誘導する空間をなす突出部を有し、
表面層が形成された板材と他の板材との合わせ面から外方に連通して、レーザ光の照射により気化する前記表面層の気化ガスを排出するガス排出孔の近傍に、前記突出部に沿って溶接ビードが形成されていることを特徴とする溶接接合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−254481(P2012−254481A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−168959(P2012−168959)
【出願日】平成24年7月30日(2012.7.30)
【分割の表示】特願2007−334794(P2007−334794)の分割
【原出願日】平成19年12月26日(2007.12.26)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】