説明

レーザ発振装置およびレーザ加工機

【課題】放電時のノイズで過電流と誤判断し、高電圧電源4を構成するスイッチング素子のゲート信号などを誤って停止させ、レーザ発振装置およびレーザ加工機の継続使用を阻害するという課題を有していた。
【解決手段】放電電流比較器11の比較結果において放電電流検出器9の検出値Cが放電電流下限設定器10の設定値D以下の場合で、かつ出力電流比較器7の比較結果において出力電流検出器5の検出値Aが出力電流上限値設定器6の設定値B以上の場合に、高電圧電源の出力を停止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレーザガスを放電してレーザを出力するレーザ発振装置およびレーザ加工機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、レーザ発振装置およびレーザ加工機は加工対象物を非接触でかつ熱影響が少なく加工できるという特徴から多様な材質や形状の切断や溶接等に多用されている。
【0003】
そして、従来のレーザ加工機では、故障時間の短縮および故障範囲の拡大を防ぐため、高電圧電源を構成するスイッチング素子の過負荷破壊を防止する保護機能を有したレーザ発振装置を用いることが一般的であった(例えば特許文献1参照)。
【0004】
従来、図3に示すような高電圧電源保護機能を有するレーザ発振装置が用いられていた。以下、図3を参照しながら説明する。
【0005】
図に示すように従来のレーザ発振装置は、内部にレーザガスを配置した誘電体からなる放電管1と、この放電管1の両端に反射鏡2aと部分反射鏡2bを配置して構成した光共振器2と、放電管1内のレーザガスに放電を行うために放電管1に設けた電極3と、電極3に接続して電力を供給する高電圧電源4を備えていた。
【0006】
この高電圧電源4は商用200V電圧などから放電励起に必要な数10kVの高電圧を得るもので、一般的にトランジスタなどのスイッチング素子を用いたインバータと昇圧トランスから構成される。
【0007】
さらに、従来のレーザ発振装置は、高電圧電源4の出力電流を検出するため例えばホール効果を利用した電流―電圧変換器などからなる出力電流検出器5と、定電圧電源と抵抗分圧を組み合わせた可変型の低電圧設定回路から構成した高電圧電源4の出力電流上限値を設定する出力電流上限設定器6を設けていた。
【0008】
これら出力電流検出器5の検出値と出力電流上限設定器6の設定値を比較する出力電流比較器7は、出力電流検出器5の検出値が出力電流上限設定器6の設定値以上の場合に、高電圧電源4を構成するスイッチング素子のゲート信号などを停止させ、スイッチング素子の過負荷破壊を防止する保護機能を有していた。
【特許文献1】特開平5−67834号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記従来のレーザ発振装置やレーザ加工機において、レーザガスを放電励起するために高電圧電源4から電極3に数10kVの高電圧を加えた際にノイズが発生し、出力電流検出器5の検出値に重畳して、出力電流比較器7の比較結果として、誤判断する可能性があり、この場合には高電圧電源4を構成するスイッチング素子のゲート信号などを誤って停止させ、レーザ発振装置およびレーザ加工機の継続使用を阻害するという課題を有していた。
【0010】
本発明は、上記誤判断を防止することで信頼性の高いレーザ発振装置およびレーザ加工機装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記問題点を解決するために本発明は、内部にレーザガスを配置した放電管と、前記放電管に設けた電極と、前記電極に電力を供給する高電圧電源と、前記高電圧電源の出力電流を検出する出力電流検出器と、前記放電管内の放電電流を検出する放電電流検出器と、前記高電圧電源の出力電流上限値を設定する出力電流上限値設定器と、前記出力電流検出器の検出値と前記出力電流上限値設定器の設定値を比較する出力電流比較器と、前記放電電流下限値を設定する放電電流下限値設定器と、前記放電電流検出器の検出値と前記放電電流下限設定器の設定値を比較する放電電流比較器を備え、前記放電電流比較器の比較結果において前記放電電流検出器の検出値が前記放電電流下限設定器の設定値以下の場合で、かつ前記出力電流比較器の比較結果において前記出力電流検出器の検出値が前記出力電流上限値設定器の設定値以上の場合に、前記高電圧電源の出力を停止するものである。
【0012】
この構成により、前記放電電流比較器の比較結果において前記放電電流検出器の検出値が前記放電電流下限設定器の設定値以下の場合、すなわち、電極間での放電がなされていない場合に、出力電流検出器の検出値が前記出力電流上限値設定器の設定値以上の場合に高電圧電源を構成するスイッチング素子の過負荷破壊に至ると判断して良く、一方、放電電流検出器の検出値が正常である場合にはノイズによる誤動作と判断して良く、誤判断を防止することができる。
【発明の効果】
【0013】
以上の構成により、本発明は、高電圧電源を構成するスイッチング素子の過負荷破壊を防止する保護機能のノイズによる誤判断を防止でき、レーザ発振装置およびレーザ加工機の安定した継続使用ができ、故障時間の短縮および故障範囲の拡大を防ぐ信頼性の高い装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(実施の形態)
以下に本発明の実施の形態を図面によって説明する。図1は本発明の実施の形態におけるレーザ発振装置の概略の構成を示す図である。
【0015】
なお、放電管1、光共振器2、電極3、高電圧電源4、出力電流検出器5、出力電流上限設定器6、出力電流比較器7の構成は、従来のものと同じ構成のため、同一符号を付し、その説明を省略する。
【0016】
本実施の形態の特徴とする点は、電極3から放電管1に流れる放電電流を検出する放電電流検出器9と、放電電流の下限値を設定する放電電流下限設定器10と、放電電流検出器9の検出値Cと放電電流下限設定器10の設定値Dを入力して比較する放電電流比較器11を設け、放電電流比較器11の信号を高電圧電源4に入力する点である。
【0017】
なお、放電電流検出器9は出力電流検出器5と同様にホール効果を利用した電流―電圧変換器などを使用している。また、放電電流下限値設定器10も出力電流上限設定器6と同様に定電圧電源と抵抗分圧を組み合わせた回路を用いる。
【0018】
以上のように構成されたレーザ発振装置について、その動作を説明する。
【0019】
まず、レーザ発振装置における高電圧電源4を構成するスイッチング素子の過負荷破壊について説明する。
【0020】
光共振器2の放電管1の電極3間で放電する場合には、放電電流はレーザガスの組成と密度、および流速や電極3間距離などで決定される放電インピーダンスで放電電流は過大となることはなく、高電圧電源4を構成するスイッチング素子の過負荷破壊は発生しない。
【0021】
しかし、レーザガスを封入した放電管1の電極3間以外での放電、例えば光共振器2周辺の雰囲気が絶縁耐圧の低いアルゴンなどで満たされた場合に発生する電極3周辺に配置された電極3以外の低インピーダンス部分との間の放電、あるいは光共振器2内などに導電性粉塵などが混入した場合に導電性粉塵によってインピーダンスが下がり発生する電極3以外の低インピーダンス部分への放電などでは、上記の電極3間での放電インピーダンスより低くなっており、放電電流が増加して最悪、高電圧電源4を構成するスイッチング素子の過負荷破壊に至る。
【0022】
また、高電圧電源4を構成する昇圧トランスの内部短絡が発生した場合にはレーザ媒質ガスを封入した構造物に具備された電極3間に高電圧が加わることはなく、スイッチング素子の過負荷破壊に至る。
【0023】
従って、放電管1の電極3間での放電がなされていない、つまり放電電流検出器9の検出値が零の場合に高電圧電源4を構成するスイッチング素子の過負荷破壊に至ると判断して良く、放電電流検出器9の検出値が正常である場合にスイッチング素子の過負荷破壊保護が機能した場合にはノイズによる誤動作と判断して良い。
【0024】
したがって、放電電流比較器11で比較結果が、放電電流検出器9の検出値Cが放電電流下限設定器10の設定値D以下の場合であり、かつ前記出力電流比較器7の比較結果において出力電流検出器5の検出値Aが出力電流上限設定器6の設定値B以上の場合に、上記の判断を満足することができ、前記高電圧電源4の出力をノイズによる誤動作なく停止させる機能が実現できる。
【0025】
本実施の形態では、高電圧電源4の内部にこの高電圧電源4を制御する制御部(図示せず)を設けて、この制御部に出力電流比較器7からの信号と放電電流比較器11からの信号を入力して、高電圧電源4の制御を行うように構成している。
【0026】
なお、この制御部と連動する警報機12を設け、外部に音や光で通知するようにしている。
【0027】
また、制御部と連動してレーザ発振装置本体の運転を停止させるインターロック操作機13でインターロック動作を行わせるように構成する。
【0028】
なお、放電電流下限設定器10の設定値Dを零とはせず、放電維持可能な放電電流値未満と設定することは、放電電流比較器11の比較結果へのノイズの影響を排除するのに有効である。
【0029】
なお、放電電流比較器11において比較結果が一定時間以上であった場合に比較結果を出力する、および、放電電流比較器11において比較結果をカウントし、カウント回数が任意に設定されたカウント値以上の場合に比較結果を出力するように構成すればノイズをフィルタで除去する場合と同様の効果が得られ、放電電流比較器11の比較結果へのノイズの影響を排除するのに有効である。
【0030】
なお、出力電流比較器7において比較結果が一定時間以上の場合に比較結果を出力する、および、出力電流比較器7において比較結果をカウントし、カウント回数が任意に設定されたカウント値以上の場合に比較結果を出力するように構成すればノイズをフィルタで除去する場合と同様の効果が得られ、出力電流比較器7の比較結果へのノイズの影響を低減するのに有効である。
【0031】
次に本発明のレーザ加工機の実施の形態について説明する。
【0032】
図2に示した本実施の形態のレーザ加工機は、従来のレーザ加工機のレーザ発振装置の部分が上述した本実施の形態のものを用いている点が特徴である。
【0033】
図において、本実施の形態のレーザ加工機は、ワーク16を乗せる加工テーブル19と、加工テーブル19の移動とレーザ加工トーチ17の少なくとも一方を移動するX軸モータ20やY軸モータ21などの駆動手段と、この駆動手段を制御する数値制御装置(図示せず)と、レーザ光8を反射鏡15で反射して集光レンズ18を通過させてレーザを発生するレーザ加工機に、上述した実施の形態におけるレーザ発振装置を用いることにより、安定して継続使用ができ、故障時間の短縮および故障範囲の拡大を防ぐ信頼性の高いレーザ加工機が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明のレーザ発振装置およびレーザ加工機は、安定して継続使用ができ、故障時間の短縮および故障範囲の拡大を防ぐ信頼性の高いレーザ発振装置およびレーザ加工機として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施の形態におけるレーザ発振装置の説明図
【図2】本発明の実施の形態におけるレーザ加工機の説明図
【図3】従来のレーザ発振装置の説明図
【符号の説明】
【0036】
1 放電管
2 光共振器
3 電極
4 高電圧電源
5 出力電流検出器
6 出力電流上限設定器
7 出力電流比較器
8 レーザビーム
9 放電電流検出器
10 放電電流下限設定器
11 放電電流比較器
12 警報機
13 インターロック操作機
15 反射鏡
16 ワーク
17 トーチ
18 集光レンズ
19 加工テーブル
20 X軸モータ
21 Y軸モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部にレーザガスを配置した放電管と、前記放電管に設けた電極と、前記電極に電力を供給する高電圧電源と、前記高電圧電源の出力電流を検出する出力電流検出器と、前記放電管内の放電電流を検出する放電電流検出器と、前記高電圧電源の出力電流上限値を設定する出力電流上限値設定器と、前記出力電流検出器の検出値と前記出力電流上限値設定器の設定値を比較する出力電流比較器と、前記放電電流下限値を設定する放電電流下限値設定器と、前記放電電流検出器の検出値と前記放電電流下限設定器の設定値を比較する放電電流比較器を設け、前記放電電流比較器の比較結果において前記放電電流検出器の検出値が前記放電電流下限設定器の設定値以下の場合で、かつ前記出力電流比較器の比較結果において前記出力電流検出器の検出値が前記出力電流上限値設定器の設定値以上の場合に、前記高電圧電源の出力を停止するレーザ発振装置。
【請求項2】
放電電流下限設定器の設定値が零ではない請求項1記載のレーザ発振装置。
【請求項3】
前記放電電流比較器において比較結果が一定時間以上継続した場合に比較結果を出力する請求項1または2記載のレーザ発振装置。
【請求項4】
前記放電電流比較器において比較結果をカウントし、カウント回数が任意に設定されたカウント値以上になった場合に比較結果を出力する請求項1または2記載のレーザ発振装置。
【請求項5】
前記出力電流比較器において比較結果が一定時間以上継続した場合に比較結果を出力する請求項1から4のいずれかに記載のレーザ発振装置。
【請求項6】
前記出力電流比較器において比較結果をカウントし、カウント回数が任意に設定されたカウント値以上になった場合に比較結果を出力する請求項1から4記載のいずれかに記載のレーザ発振装置。
【請求項7】
前記放電電流比較器の比較結果において前記放電電流検出器の検出値が前記放電電流下限設定器の設定値以下の場合で、かつ前記出力電流比較器の比較結果において前記出力電流検出器の検出値が前記出力電流上限設定器の設定値以上の場合に、高電圧電源の出力を停止するとともに、警報を発生させる警報機を備えた請求項1から6の何れかに記載のレーザ発振装置。
【請求項8】
前記放電電流比較器の比較結果において前記放電電流検出器の検出値が前記放電電流下限設定器の設定値以下の場合で、かつ前記出力電流比較器の比較結果において前記出力電流検出器の検出値が前記出力電流上限設定器の設定値以上の場合に、前記高電圧電源の出力を停止するとともに、レーザ発振装置本体の運転を停止させるインターロック動作を行うインターロック操作機を備えた請求項1から7の何れかに記載のレーザ発振装置。
【請求項9】
加工ワークを乗せる加工テーブルと、前記加工テーブルの移動とレーザ加工トーチの少なくとも一方を移動する駆動手段と、前記駆動手段を制御する数値制御装置と、請求項1から8のいずれかに記載のレーザ発振装置とを備えたレーザ加工機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−212560(P2010−212560A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−59097(P2009−59097)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】