説明

レーザ装置

【課題】波長変換光学素子の交換直後に稼働できるレーザ装置を提供する。
【解決手段】昇温状態で使用される波長変換光学素子がヒータとともにケースに収容されて一体の素子ユニットが形成される。制御ラックには、ユニット保管部80が設けられ予備の素子ユニット50´が保管される。制御部70は、レーザヘッド10で使用中の素子ユニットの使用時間が交換推奨時間に到達する以前に、予備の素子ユニット50´に対するN2ガスの供給および波長変換光学素子の温度調整を開始させ、使用時間が交換推奨時間に到達したときに、予備の素子ユニット50´の波長変換光学素子が、予め設定された準備時間N2ガスの供給下で所定温度に保持された状態となるように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定温度に加熱された昇温状態で使用される波長変換光学素子を含みレーザ光発生部から出射されたレーザ光を紫外光に波長変換する波長変換部を備えたレーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のような波長変換部を備え紫外光を出力するレーザ装置は、例えば、レチクルのパターンを基板に転写する露光装置や、各種光学式検査装置、レーザ治療装置などの光源として用いられており、例えば、半導体レーザにより生成され光増幅器により増幅された赤外波長領域のレーザ光を、複数の波長変換光学素子からなる波長変換部において順次波長変換し、最終的にArFエキシマレーザの発振波長と同じ波長λ=193nmの紫外光として出力するような構成が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
波長変換部の構成、具体的には波長変換部に用いる非線形光学結晶等の波長変換光学素子の種別や組み合わせには種々の形態があるが、非線形光学結晶に入射する光の位相整合として温度位相整合を利用する場合には、非線形光学結晶をその結晶種別及び整合条件に応じた所定温度に加熱した昇温状態で温度制御する必要がある。また、波長変換光学素子として、CsLiB610(CLBO)結晶のような潮解性を有する光学素子を用いる場合には、大気中に含まれる水分吸収を防止する必要があり、150℃程度に加熱した昇温状態に保持することが求められる(例えば、特許文献2を参照)。そのため、このような波長変換光学素子を用いるレーザ装置では、昇温状態で使用される波長変換光学素子を加熱するヒータが設けられ、常時所定温度に加熱された状態で保持されるように構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−200747号公報
【特許文献2】特開2006−47559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
波長変換光学素子には、投入されるレーザ光の波長やパワーに応じた寿命があり、高品質の紫外光出力を安定的に得るためには、各波長変換光学素子について規定された所定の交換推奨時間ごとに新品に交換することが求められる。昇温状態で使用される波長変換光学素子については、レーザ光を投入するときに当該素子が所定温度に安定保持されている必要があり、波長変換光学素子の交換後、素子温度が安定するまでヒータに通電した状態で待機する必要があるという課題があった。
【0006】
さらに、交換対象の波長変換光学素子が、前述したCLBO(CsLiB610)結晶のような潮解性を有する光学素子の場合には、使用を開始する前に、素子表面に吸着した水分や素子内部に吸蔵された水分を放出させるベーキング(Baking)を行っておく必要がある。例えば、紫外領域の光を波長変換するCLBO結晶のベーキングは、窒素ガスをパージした雰囲気中において150℃程度に加熱した状態で10日程度保持することが求められる。このため、レーザ装置に休止期間を生じさせることなく交換後直ちに稼働できるように、別途ベーキング装置を設け、推定される交換時期よりも数日程度前からベーキングを開始するような運用がなされており、波長変換光学素子の管理が煩雑であるとともに、長期間の昇温保存は非効率的な電力消費に繋がるという課題があった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、波長変換光学素子の交換直後に稼働でき、効率的な運用が可能なレーザ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明のレーザ装置は、レーザヘッドと制御ラックとからなり、レーザヘッドは、レーザ光を出射するレーザ光発生部、およびヒータにより所定温度に加熱された昇温状態で使用される波長変換光学素子を含み、レーザ光発生部から出射されたレーザ光を紫外光に波長変換する波長変換部を備えて構成され、制御ラックは、波長変換部に不活性気体を供給するガス供給部、およびレーザヘッドによる紫外光の出射を制御する制御部が設けられて構成される。前記昇温状態で使用される波長変換光学素子(例えば、実施形態における波長変換光学素子25,26)およびヒータがケースに収容されて素子ユニットが形成され、素子ユニットがレーザヘッドに着脱可能に構成される。前記制御ラックには、予備の素子ユニットである予備ユニットを保管するユニット保管部が設けられるとともに、ユニット保管部に保管された予備ユニットに不活性気体を供給するガス供給手段(例えば、実施形態におけるガス供給部72、庫内ガスチューブ66)、および予備ユニットの波長変換光学素子を所定温度に調整する温度調整手段(例えば、実施形態における温度調整部71、庫内電気ケーブル65)が設けられる。そして、前記制御部は、レーザヘッドに取り付けられた素子ユニットの使用時間に基づいて、素子ユニットについて予め設定された交換推奨時間に到達する以前に、ユニット保管部に保管された予備ユニットに対するガス供給手段による不活性気体の供給および温度調整手段による波長変換光学素子の温度調整を開始させ、使用時間が交換推奨時間に到達したときに、予備ユニットの波長変換光学素子が、予め設定された所定の準備時間不活性気体の供給下で所定温度に保持された状態となるように構成される。なお、本明細書にいう「不活性気体」とは、希ガスを含めて反応性に乏しい乾燥気体をいい、例えば、窒素ガスなどを含む概念である。
【0009】
本発明において、前記ユニット保管部に保管された予備ユニットを除湿する除湿手段(例えば、実施形態における除湿器85)を有し、前記ガス供給手段による不活性気体の供給および前記温度調整手段による波長変換光学素子の温度調整を開始する以前は、ユニット保管部に保管された予備ユニットが、除湿手段により除湿された状態で保管されるように構成することが好ましい。前記昇温状態で使用される波長変換光学素子が潮解性を有する光学素子であることは本発明の好ましい構成態様である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、昇温状態で使用される波長変換光学素子が組み込まれた素子ユニットについて、制御装置は、使用中の素子ユニットが交換推奨時間に到達する以前に、素子ユニットの使用時間に基づいて、予備ユニットに対する不活性気体の供給および波長変換光学素子の温度調整を開始させ、使用時間が交換推奨時間に到達したときに、予備ユニットの波長変換光学素子が所定の準備時間不活性気体の供給下で所定温度に保持された状態となるように構成される。すなわち、使用中の素子ユニットが交換推奨時間になったときに、予備の素子ユニットのベーキングが完了するように構成される。このため、本発明によれば、波長変換光学素子(素子ユニット)の交換後ただちに稼働することができるとともに、電力消費を抑制して効率的な運用が可能なレーザ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係るレーザ装置の概要構成図である。
【図2】上記レーザ装置におけるレーザヘッドの概要構成である。
【図3】上記レーザ装置における波長変換部の構成図である。
【図4】上記レーザ装置に用いられる素子ユニットの外観斜視図である。
【図5】上記素子ユニットにおける入射口の開閉構造を模式的に示す側断面図であり、 (a)は素子ユニットがレーザヘッドに取り付けられて入射口が開放された状態、(b)は素子ユニットがレーザヘッドから取り外されて入射口が閉止された状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら説明する。本発明を適用したレーザ装置の代表例として、レチクルのパターンを基板に転写する露光装置の光源装置として用いられるレーザ装置1の概要構成を図1に示すとともに、このレーザ装置1におけるレーザヘッド2の概要構成を図2に示しており、まずこれらの図面を参照しながら、レーザ装置1について概要説明する。
【0013】
レーザ装置1は、この装置を光源装置として利用するレーザシステムへの適用上の便宜から、紫外光を出力する出力機能を有しレーザシステムへの組み込みを容易化した小型箱状のレーザヘッド2と、レーザヘッド2の制御機能を備えレーザヘッド2と別置される大型筺体状の制御ラック3とからなり、レーザヘッド2と制御ラック3とが、種々の電気ケーブルや、励起光伝送用の光ファイバー、パージガス供給用のガスチューブ、冷却水配管等のインターフェース4により相互接続されて構成される。
【0014】
レーザヘッド2は、レーザ光を出射するレーザ光発生部10と、レーザ光発生部10から出射された基本波のレーザ光を紫外光に波長変換する波長変換部20とを備えて構成される。
【0015】
レーザ光発生部10は、種光となるレーザ光(シード光)Lsを発生するレーザ光源11と、レーザ光源11により発生されたシード光Lsを増幅する光増幅器12,13とから構成される。レーザ光源11および光増幅器12,13は、このレーザ装置1を用いるレーザシステムの用途および機能に応じ、適宜な発振波長、増幅率のものが用いられる。このようなレーザ光源11として、波長λ=1.547[μm]の単一波長のレーザ光を発生する分布帰還型半導体レーザ(DFB半導体レーザ)を用い、第1段目の光増幅器12として半導体レーザ励起のエルビウム(Er)・ドープ・ファイバー光増幅器(EDFA)、第2段目の光増幅器13として、ラマン・レーザ励起のEDFAを用いた構成が例示される。
【0016】
波長変換部20は、レーザ光発生部10から出射されたレーザ光(光増幅器により増幅された基本波レーザ光)Lrを、所定波長の紫外光に波長変換する。レーザ装置1においては、レーザ光発生部10から出射された波長λ=1.547[μm]の基本波レーザ光を、複数の波長変換光学素子によって順次波長変換し、最終的に基本波の8倍波(第8次高調波)でArFエキシマレーザと同一波長である波長λ=193[nm]の紫外光を出力する。
【0017】
このように、赤外領域(あるいは可視領域)の基本波レーザ光を紫外光に波長変換する波長変換部の構成(波長変換光学素子の種別や組み合わせ)には、種々の公知の形態がある。本発明はヒータにより所定温度に加熱された昇温状態で使用される波長変換光学素子を含むものであればいずれの形態の波長変換部にも適用可能である。実施形態では、波長変換部の一例として、レーザ光発生部10において、1つのレーザ光源11から出射された基本波レーザ光を3つに分岐して各々2段の光増幅器12、13により増幅し、増幅された3つの基本波レーザ光Lr(Lr1,Lr2,Lr3)を波長変換部20に入射させて、基本波、2倍波(λ=774[nm])および5倍波(λ=309[nm])を生成し、これらの和周波発生により7倍波(λ=221[nm])、8倍波(λ=193[nm])を発生させる構成例を図3に示しており、この7倍波生成用の波長変換光学素子、および8倍波生成用の波長変換光学素子に、CLBO(CsLiB610)結晶を用いた波長変換部の構成について説明する。
【0018】
まず、P偏光で入射される第1の基本波レーザ光Lr1は、レンズ31により波長変換光学素子21に集光入射させ、第2高調波発生(SHG)により周波数が基本波(ω)の2倍(2ω)、波長λが半分の2倍波を発生させる。波長変換光学素子31により発生されたP偏光の2倍波、および波長変換光学素子31を透過したP偏光の基本波は、レンズ32により波長変換光学素子22に集光入射させ、和周波発生(ω+2ω)により周波数が基本波の3倍(3ω)の倍波を発生させる。これらの波長変換光学素子21,22は、例えば、2倍波発生用の波長変換光学素子21としてPPLN結晶、3倍波発生用の波長変換光学素子22としてLBO結晶が用いられる。なお、波長変換光学素子21として、PPKTP結晶、PPSLT結晶、LBO結晶等を用いることもできる。
【0019】
波長変換光学素子22により発生されたS偏光の3倍波と、波長変換光学素子22を透過したP偏光の基本波および2倍波は、2波長波長板41を透過させて2倍波だけをS偏光に変換する。2波長波長板として、例えば、結晶の光学軸と平行にカットした一軸性の結晶の平板からなる波長板が用いられる。この波長板は、一方の波長の光(2倍波)に対して偏光を回転させ、他方の波長の光に対しては、偏光が回転しないように、波長板(結晶)の厚さを一方の波長の光に対してλ/2の整数倍で、他方の波長の光に対しては、λの整数倍になるようにカットすることにより構成される。
【0020】
ともにS偏光になった2倍波および3倍波は、レンズ33により波長変換光学素子23に集光入射させ、和周波発生(2ω+3ω)により5倍波(5ω)を発生させる。波長変換光学素子23からは、この波長変換光学素子23により発生されたP偏光の5倍波と、波長変換光学素子23を透過したS偏光の2倍波および3倍波、並びにP偏光の基本波が出射される。なお、5倍波を発生させる波長変換光学素子23として、例えばLBO結晶が用いられるが、BBO結晶、CBO結晶を用いることも可能である。ここで、波長変換光学素子23から出射される5倍波は、ウォークオフのため断面が楕円形になっている。そこで、2枚のシリンドリカルレンズ34v,34hにより、楕円形の断面形状を円形に整形し、ダイクロイックミラー44に入射させる。
【0021】
一方、P偏光で入射される第2の基本波レーザ光Lr2は、レンズ35により波長変換光学素子24に集光入射させ、第2高調波発生により2倍波を発生させる。波長変換光学素子24からは、この波長変換光学素子24により発生されたP偏光の2倍波と基本波が出射され、レンズ36,37を介してダイクロイックミラー45に入射される。なお、波長変換光学素子24として、PPLN結晶を用いることができるほか、PPKTP結晶、PPSLT結晶、LBO結晶等を用いてもよい。
【0022】
また、S偏光で入射される第3の基本波レーザ光Lr3は、レンズ38を介してダイクロイックミラー45に入射させる。ダイクロイックミラー45は、基本波の波長帯域の光を透過し、2倍波の波長帯域の光を反射するように構成されており、このダイクロイックミラー45に入射するS偏光の基本波と、波長変換光学素子24により発生されたP偏光の2倍波とが同軸上に合成される。
【0023】
合成したS偏光の基本波およびP偏光の2倍波は、ダイクロイックミラー44に入射させる。ダイクロイックミラー44は、基本波および2倍波の波長帯域の光を透過し、5倍波の波長帯域の光を反射するように構成されており、このダイクロイックミラー44に入射したS偏光の基本波およびP偏光の2倍波と、波長変換光学素子23により発生されたP偏光の5倍波とが同軸上に合成される。
【0024】
このように同軸上に合成したS偏光の基本波、P偏光の2倍波、P偏光の5倍波を、波長変換光学素子25に入射させる。ここで、基本波、2倍波、5倍波の各光路には各々レンズ(34v,34h,36,37,38)が設けられており、同軸上に合成された各波長の光が波長変換光学素子25に集光入射するようになっている。波長変換光学素子25では、P偏光の2倍波とP偏光の5倍波による和周波発生(2ω+5ω)が行われ7倍波(7ω)が発生される。波長変換光学素子25からは、この波長変換光学素子25により発生されたS偏光の7倍波とともに、波長変換光学素子23を透過した上記各波長の光が出射される。7倍波を発生させる波長変換光学素子25として、CLBO結晶が用いられる。
【0025】
これらの光は、波長変換光学素子26に入射し、ここでS偏光の基本波とS偏光の7倍波が和周波発生(ω+7ω)により合成され、P偏光の8倍波(8ω)が発生される。8倍波を発生させる波長変換光学素子26として、CLBO結晶が用いられる。なお、波長変換光学素子26からは、この波長変換光学素子26により発生された8倍波以外に、波長変換光学素子26を透過した基本波、2倍波等の他の波長成分の光が出射されるが、波長変換部20(レーザ装置1)から8倍波のみを出力させる場合には、ダイクロイックミラーや偏光ビームスプリッタ、プリズムを使用することにより、これらを分離すればよい。
【0026】
このように構成される波長変換部20にあって、7倍波発生用の波長変換光学素子25、および8倍波発生用の波長変換光学素子26は、いずれもCLBO結晶であり潮解性を有している。このため、波長変換光学素子25,26については、ヒータで150℃程度に加熱した昇温状態に保持する必要がある。レーザ装置1では、このような昇温状態を安定的に保持するとともに、波長変換光学素子25,26の交換作業を容易化するため、波長変換光学素子25,26と、波長変換光学素子25,26を加熱するヒータとをケースに収容して一体の素子ユニット50を形成し、ユニット単位でレーザヘッド2に着脱可能に構成している。
【0027】
素子ユニット50は、その外観斜視図を図4に示すように、全体として矩形箱状をなし、外周を覆うケース51の内部に、波長変換光学素子25,26を含み、図3において二点鎖線で囲む符号50で示す部分が、このユニットの基体となるベースプレート(不図示)にアライメントされた状態で配設されている。
【0028】
素子ユニット内部の構成については詳細図示を省略するが、波長変換光学素子25,26は、それぞれレーザ光の入出射面を除く外周全体を覆う金属材料性の素子ホルダに装着され、この素子ホルダを光軸に直行する二軸方向に移動させるステージを介してベースプレートに取り付けられている。素子ホルダには、加熱用のヒータおよび温度検出用の温度センサが設けられており、後述する温度調整部71により、波長変換光学素子25,26が予め設定された150℃程度の所定温度に保持されるようになっている。
【0029】
ケース51には、図4における正面側に、素子ユニット50の内部にレーザ光(同軸上に合成された基本波、2倍波、5倍波)を導入する入射口52、図4における後面側に、波長変換された紫外レーザ光Lvを導出する出射口53(図3を参照)が設けられ、レーザヘッド2への素子ユニット50の着脱に応じて開閉部材54により入射口52および出射口53をそれぞれ開閉する開閉構造55が設けられている。
【0030】
図5(a)(b)に、入射口側の開閉構造55の側断面図を模式的に示すように、ケース51の前面側には、上下貫通する角筒状のゲート収容部56が設けられ、このゲート収容部56の前後の壁面に同一軸上に開口形成された入射開口52a,52bにより入射口52が形成される。開閉部材54は、上端にストッパブロック54aその下側に柱状部54bを有する角柱状に形成され、柱状部54bの下部領域には入射開口52a,52bと略同一径の挿通開口57が柱状部54bを前後貫通して開口形成されている。
【0031】
開閉部材54は、ゲート収容部56に上下に摺動可能に嵌挿されるとともに図示省略するバネにより常時下方に付勢されており、外力が作用しない状態では、図5(b)に示すように、ストッパブロック54aがゲート収容部56の上端に当接し、柱状部54bの下面が素子ユニット50の下面と略同の一となる高さ位置(閉止位置という)に保持される。挿通開口57は、この閉止位置において、入射開口52a,52bよりも開口の直径程度分下方に位置し、柱状部54bが前後の入射開口52a,52bを遮断するような高さ位置に形成されており、入射口52が開閉部材54によって閉止された閉止状態に保持される。出射口53側についても同様に構成されており、開閉部材54に外力が作用しない状態では、出射口53が開閉部材54により閉止された閉止状態に保持される。なお、柱状部54bを自重で降下するようにゲート収容部を加工することでバネを省略することも可能である。
【0032】
一方、レーザヘッド2側には、取り付け状態において素子ユニット50の入射口、出射口の各開閉構造55と整合する位置に、平面視においてゲート収容部56よりも小さく、閉止部材54の下端部と係脱可能な凸部58が上方に突出して設けられている。凸部58の突出高さは、閉止位置における入射開口52a,52bと挿通開口57との上下方向のずれ量に合わせて形成されている。そのため、素子ユニット50をレーザヘッド2に取り付けると、入射口、出射口の各開閉構造55に対応する凸部58がそれぞれ閉止部材54の下端部と係合してばねの付勢力に抗して閉止部材54を上方に移動させ、素子ユニット50が取り付けられた状態では、図5(a)に示すように、入射開口52a,52bと挿通開口57とが同一軸上に連通して、入射口52、出射口53が開放される。
【0033】
なお、レーザヘッド2の素子ユニット取付部には、素子ユニット50を位置決めするための複数の位置決めピンが設けられ、素子ユニット50のベースプレートには、これらの位置決めピンと嵌脱自在な複数の位置決め穴が設けられており、素子ユニット50をレーザヘッド2に取り付けたときに、上記凸部58により入射口52、出射口53が開放されるとともに、素子ユニット内の波長変換光学素子25,26が波長変換部20の光軸上に位置決めされた状態で配設されるようになっている。
【0034】
ケース51の上部には、波長変換光学素子25,26を加熱するヒータや素子温度を検出する温度センサ、波長変換光学素子を光軸と直行方向に移動させるステージなどの制御信号を入出力するための電気コネクタ61が設けられるとともに、大気との接触を遮断して波長変換光学素子25,26を常に乾燥状態に維持するため、N2ガス等の不活性気体をケース51内に供給するためのガスコネクタ62が設けられている。レーザヘッド2には、電気コネクタ61と嵌脱自在なコネクタを有する電気ケーブル63、および、ガスコネクタ62と嵌脱自在なコネクタを有するガスチューブ64が設けられ、インターフェース4を通る電気ケーブル63およびガスチューブ64を介して上記制御信号等、およびN2ガスが制御ラック3側から供給されるようになっている。
【0035】
制御ラック3には、レーザ装置1を構成する各部の作動を統括的に制御してレーザヘッド2による紫外光Lvの出射を制御する制御部70、素子ユニット50の波長変換光学素子25,26をはじめとし、昇温状態で使用する光学素子(例えば、温度位相整合で使用する波長変換光学素子21,22等)の温度を調整する温度調整部71、ガスコネクタ62により接続される上記素子ユニット50のほか、レーザ装置1の各部にN2ガスを供給するガス供給部72、第2段目の光増幅器13を励起するラマン・レーザ(不図示)などが設けられる(図1を参照)。
【0036】
また、制御ラック3には、レーザヘッド2に取り付けられた素子ユニット(使用中の素子ユニット)50と同一構成の素子ユニットであって、波長変換光学素子25,26の使用時間が所定の推奨交換時間になったときに、交換して使用するための予備の素子ユニット(予備ユニットという)50´を保管するユニット保管庫80が設けられている。
【0037】
ユニット保管庫80は、予備ユニット(予備の素子ユニット)50´を収容する収容空間81、およびこの収容空間81の前方を覆って開閉可能に設けられた開閉扉82を有し、収容した予備ユニット50´を外気と遮断した状態で保持可能に形成される。ユニット保管庫80には除湿器85が併設されており、この保管庫内が常に所定の低湿度(例えば相対湿度10%未満の低湿度)に維持されるようになっている。なお、除湿器に変えてエアドライヤを設け、ユニット保管庫80の収容空間81にドライエアを供給して、庫内湿度が上記所定の低湿度になるように構成してもよい。
【0038】
ユニット保管庫80の内部には、端部に電気コネクタ61と嵌脱自在なコネクタを有し基端側が温度調整部71に接続された庫内電気ケーブル65、および、端部にガスコネクタ62と嵌脱自在なコネクタを有し基端側がガス供給部72に接続された庫内ガスチューブ66が配設されている。このため、これらを予備ユニット50´の各コネクタ61,62に接続することにより、予備ユニット50´のケース内にN2ガスを供給してパージし、予備ユニット内の波長変換光学素子25,26を加熱して所定温度の昇温状態にすることができる。
【0039】
制御部70には、制御部内のメモリに素子ユニット50の推奨交換時間Tc、予備ユニットについて使用を開始する前に波長変換光学素子25,26を加熱乾燥させる時間として規定されたベーキング時間Tbなどが予め設定されるとともに、レーザヘッド2に取り付けられた素子ユニット50の使用時間Tu、すなわち、使用中の素子ユニット50が波長変換に用いられた時間がレーザ装置1の稼働に伴って順次積算されて記憶されている。制御部70は、予め設定された制御プログラムに基づいて、ユニット保管庫80に収容された予備ユニット50´について、以下のような環境制御を実行する。なお、ベーキング時間Tbには150℃程度の所定温度に上昇させるまでの時間を加味して設定することができる。
【0040】
制御部70は、素子ユニット50の推奨交換時間Tcから、使用中の素子ユニット50の使用時間Tuを減算して残余の使用可能時間Txを求め、この残余の使用可能時間Txとベーキング時間Tbとを比較する。そして、残余の使用可能時間Txがベーキング時間Tbよりも大きいとき(Tx>Tbのとき)には、予備ユニット50´について、ガス供給部72によるN2ガスの供給、および温度調整部71による波長変換光学素子25,26の温度制御(ヒータ加熱)を行わない。
【0041】
例えば、素子ユニット50の推奨交換時間TcをTc=5000[Hr]、波長変換光学素子25,26のベーキング時間TbをTb=250[Hr]としたときに、現在使用中の素子ユニット50の使用時間TuがTu=3500[Hr]の場合には、残余の使用時間Tx=5000−3500=1500[Hr]となり、ベーキング時間Tbよりも大である。よって、この場合には、予備ユニット50´について、N2ガスの供給、および波長変換光学素子25,26の温度制御は行われない。
【0042】
既述したように、ユニット保管庫80の収容空間81は、除湿器85により所定の低湿度に維持され、素子ユニット50´は、この低湿度状態の収容空間81に収容保持されている。このため、波長変換光学素子25,26は、ユニット保管庫80に、常温(室温)・低湿度状態で保管される。
【0043】
レーザヘッド2に取り付けられた素子ユニット50の使用時間Tuが増加し、推奨交換時間Tcから実使用時間Tuを差し引いた残余の使用可能時間Txがベーキング時間Tbに等しくなったとき(Tx=Tbのとき)、制御部70は、ガス供給部72からガスコネクタ62を介して予備ユニット50´へのN2ガスの供給を開始させるとともに、温度調整部73から電気コネクタ61を介してヒータに電力を供給し、波長変換光学素子25,26を150℃程度の所定温度まで上昇させる。
【0044】
例えば、上記具体例において、素子ユニット50の使用時間TuがTu=4750[Hr]になったときに、残余の使用時間Tx=5000−4750=250[Hr]となり、残余の使用可能時間Txとベーキング時間Tbとが等しくなる。このとき、予備ユニット50´にN2ガスの供給が開始され、ヒータによる波長変換光学素子25,26の加熱が開始される。
【0045】
残余の使用可能時間Txがベーキング時間Tb以下となった状態では、ガス供給部72によるN2ガスの供給下において、波長変換光学素子25,26が温度調整部73により所定温度(例えば前述した150℃)の昇温状態で温度保持され、波長変換光学素子25,26のベーキング(Baking)が実施される。なお、収容空間81は、逆止弁を有する排気ラインを介して外部に開放されており、ベーキングにより波長変換光学素子から放出された水分は、N2ガスとともに庫外に排出される。
【0046】
波長変換光学素子25,26のベーキングを開始すると、制御部70は、レーザ装置1の作動操作を行う操作パネル(あるいはレーザ装置1が光源として用いられる露光装置等の操作パネル)の液晶画面等に、逐次状況を表示させる。例えば、予備ユニット50´について「ベーキングを実施中」である旨表示するとともに、残余の使用時間Txを「推奨交換時間まであと**時間」のように表示する。これにより、オペレータは予備ユニット50´についてベーキングが開始されたこと、どのくらいの時間経過後に素子ユニット50の交換を実施する必要があるかを正確に認識することができる。
【0047】
また、制御部70は、オペレータが新たな加工プログラム(例えば露光プログラム)を実行しようとしたとき(例えば加工プログラムのスタートボタンが操作されたとき)に、この加工プログラムを終了するまでに使用される素子ユニット50の予定使用時間を算出する。そして、予定使用時間が残余の使用時間Txを超えている場合には、加工プログラムの制御フローを一時停止させ、「加工プログラムを実行すると、素子ユニット50の使用時間が推奨交換時間を超える」旨のワーニングを表示させて、加工プログラムを実行するか否かを確認する。なお、推奨交換時間には、一般的に、ある程度のマージンが設けられており、超過時間がそのマージンの範囲内であれば、実行指令に基づいて当該加工プログラムを実行させる。
【0048】
残余の使用時間Txがゼロになり、素子ユニット50の実使用時間Tuが推奨交換時間Tcに到達したとき、あるいは推奨交換時間を超えたときには、制御部70は、素子ユニット50について「推奨交換時間に達した」旨の表示を行い、素子ユニット50の交換を促す。このとき、ユニット保管庫内の予備ユニット50´については、N2ガスの供給下において、予め設定された所定温度、所定ベーキング時間Tbのベーキングが完了した状態になっている。
【0049】
オペレータは、レーザヘッド2に取り付けられていた素子ユニット50を取り外し、ユニット保管庫80においてベーキングが終了した予備ユニット50´をレーザヘッド2に取り付ける。このとき、予備ユニット50´のガスコネクタ62に接続されていた庫内ガスチューブ66を取り外すが、入射口52および出射口53が開閉部材54により閉止されているため、ケース内にN2ガスが充満された状態で保持される。
【0050】
また、制御ラック2には、端部に電気コネクタ61と嵌脱自在なコネクタを有し基端側が温度調整部71に接続された移設用電気ケーブル67が設けられている。この移設用電気ケーブル67は、レーザヘッド2と制御ラック3との間隔に応じた長さに設定されており、移設用電気ケーブル67のコネクタを電気コネクタ61に接続した状態で、レーザヘッド2と制御ラックとの間を搬送可能になっている。
【0051】
そのため、庫内電気ケーブル65を移設用電気ケーブル67につなぎ換え、庫内ガスチューブ66を取り外して予備ユニット50´をユニット保管庫80から取り出すことにより、ケース内部がN2ガスで満たされ外気との接触を遮断した状態で、波長変換光学素子25,26を所定温度(150℃)の昇温状態に保持したまま、予備ユニット50´をレーザヘッド2に移動させることができる。そして、レーザヘッド側において、予備ユニット50´を取り付け、ガスコネクタ62にガスチューブ64を接続し、移設用電気ケーブル67を電気ケーブル63につなぎ換えることでより、N2ガスの供給下で波長変換光学素子25,26が所定温度の昇温状態に保持される。
【0052】
レーザヘッドに新たに取り付けられた素子ユニット(予備ユニット50´)は、すでに所定時間、所定温度のベーキングが完了し、かつ、移動中にも温度が保持されているため、交換後ただちにレーザ光を投入して波長変換を行わせることができる。
【0053】
このように、レーザ装置1においては、使用中の素子ユニット50が交換推奨時間になったときに、予備ユニット50´のベーキングが完了するように構成されるため、レーザ装置1に休止期間を生じさせたり、これを回避するために煩雑な管理を要したりすることがなく、波長変換光学素子25,26の交換後ただちにレーザ装置1を稼働することができる。従って、以上説明したレーザ装置1によれば、無駄な電力消費や管理工数を削減して効率的な運用を実現することができる。
【0054】
以上では、ヒータにより所定温度に加熱された昇温状態で使用される波長変換光学素子のうち、特に効果的な例として、潮解性を有し長時間のベーキングが必要とされるCLBO結晶を例示したが、潮解性を有する他種の波長変換光学素子についても同様に適用し同様の効果を得ることができる。また、潮解性を有しないが所定温度に加熱された状態で使用される波長変換光学素子、例えば、温度位相整合を利用して使用される波長変換光学素子(本実施形態における波長変換光学素子21,22)に適用してもよく、これにより波長変換光学素子を所定温度で安定させるまでの時間を短縮して、波長変換光学素子交換後のレーザ装置の立ち上げ時間を短縮することができる。
【0055】
また、実施形態では、ベーキングが必要な波長変換光学素子25,26(図3において二点鎖線で囲み符号50で示す部分)を一つの単位として素子ユニットを構成する形態を示したが、各波長変換光学素子25,26を各々一つの単位として素子ユニットを構成し、あるいは波長変換光学素子25,26を含む波長変換部20全体を一つの単位として素子ユニットを構成してもよい。前者によれば、推奨交換時間が波長変換光学素子ごとに異なるような場合に合理的であり、後者によれば、波長変換部を構成する波長変換光学素子の推奨交換時間が略同一であるような場合に交換作業を容易化、迅速化することができる。
【0056】
なお、レーザ光発生部10において、レーザ光源11により発生されたレーザ光(シード光)Lsを、直列接続した2段の光増幅器12,13によって増幅し、増幅されたレーザ光Lrを波長変換部20に入射させる構成を例示したが、レーザ光源11の出力や増幅率に応じて光増幅器を1段もしくは3段以上とし、または光増幅器を設けることなく波長変換部20に直接入射させるように構成してもよく、波長変換部20の構成に応じて、レーザ光源11から出射されるレーザ光を複数に分割し並列に設けた複数の光増幅器で増幅することなく、短列の光増幅器で構成してもよい。また、説明簡明化のため記載を省略したが、レーザ光源11と光増幅器12との間、光増幅器12と波長変換部20との間に、光パルスを切り出すEOM等の光変調器や、単色性を高める狭帯域機フィルタ等が適宜設けられる。
【符号の説明】
【0057】
1 レーザ装置
2 レーザヘッド
3 制御ラック
10 レーザ光発生部
20 波長変換部
21〜26 波長変換光学素子
50 素子ユニット
50´ 予備ユニット(予備の素子ユニット)
52 入射口
53 出射口
54 開閉部材
61 電気コネクタ
62 ガスコネクタ
65 庫内電気ケーブル
66 庫内ガスチューブ
70 制御部
71 温度調整部
72 ガス供給部
80 ユニット保管庫
85 除湿器


【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を出射するレーザ光発生部、およびヒータにより所定温度に加熱された昇温状態で使用される波長変換光学素子を含み前記レーザ光発生部から出射されたレーザ光を紫外光に波長変換する波長変換部を備えたレーザヘッドと、
前記波長変換部に不活性気体を供給するガス供給部、および前記レーザヘッドによる前記紫外光の出射を制御する制御部が設けられた制御ラックと
からなるレーザ装置において、
前記昇温状態で使用される波長変換光学素子および前記ヒータがケースに収容されて素子ユニットが形成され、前記素子ユニットが前記レーザヘッドに着脱可能に構成され、
前記制御ラックには、予備の前記素子ユニットである予備ユニットを保管するユニット保管部が設けられるとともに、前記ユニット保管部に保管された前記予備ユニットに前記不活性気体を供給するガス供給手段、および前記予備ユニットの前記波長変換光学素子を前記所定温度に調整する温度調整手段が設けられ、
前記制御部は、前記レーザヘッドに取り付けられた前記素子ユニットの使用時間に基づいて、前記素子ユニットについて予め設定された交換推奨時間に到達する以前に、前記ユニット保管部に保管された前記予備ユニットに対する前記ガス供給手段による前記不活性気体の供給および前記温度調整手段による前記波長変換光学素子の温度調整を開始させ、前記使用時間が前記交換推奨時間に到達したときに、前記予備ユニットの前記波長変換光学素子が、予め設定された所定の準備時間前記不活性気体の供給下で前記所定温度に保持された状態となるように構成したことを特徴とするレーザ装置。
【請求項2】
前記ユニット保管部に保管された前記予備ユニットを除湿する除湿手段を有し、
前記ガス供給手段による前記不活性気体の供給および前記温度調整手段による前記波長変換光学素子の温度調整を開始する以前は、前記ユニット保管部に保管された前記予備ユニットが、前記除湿手段により除湿された状態で保管されるように構成したことを特徴とする請求項1に記載のレーザ装置。
【請求項3】
前記昇温状態で使用される波長変換光学素子が、潮解性を有する光学素子であることを特徴とする請求項1または2に記載のレーザ装置。
【請求項4】
前記ケースに、レーザ光を導入する入射口および波長変換されたレーザ光を導出する出射口が開口形成されるとともに、前記入射口を開閉する入射口開閉部材および前記出射口を開閉する出射口開閉部材が設けられ、
入射口開閉部材および出射口開閉部材は、前記素子ユニットが前記レーザヘッドに取り付けられたときに前記入射口および前記出射口を各々開放し、前記素子ユニットが前記レーザヘッドから取り外されたときに前記入射口および前記出射口を各々閉止するように構成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のレーザ装置。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−204176(P2010−204176A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−46775(P2009−46775)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】