説明

レーザ装置

【課題】増幅光の出力を安定化させることのできるレーザ装置を提供する。
【解決手段】このレーザ装置は、希土類ドープ光ファイバ21を高励起状態に励起させることの可能な基準レーザ出力を有する第1励起用半導体レーザ22と、第1励起用半導体レーザ22よりも低いレーザ出力を有する第2励起用半導体レーザ23とを備える。そして、信号用半導体レーザ10からレーザ光をパルス発振する前に、第2励起用半導体レーザ23から出射されるレーザ光によって希土類ドープ光ファイバ21を予備励起させる。また、信号用半導体レーザ10からレーザ光を出射する際に、第1励起用半導体レーザ22から出射されるレーザ光によって希土類ドープ光ファイバ21を励起させる。ここでは、第1励起用半導体レーザ22からのレーザ光の出射開始時に、そのレーザ出力を基準レーザ出力よりも高い高レーザ出力に設定した後、基準レーザ出力まで低下させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号用レーザ光源から出射されたレーザ光を光増幅部を通じて増幅し、増幅光として出射するレーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のレーザ装置としては、例えばレーザ光の照射により加工対象物にマーキングを行うレーザ加工装置が実用されている。この装置では、信号用半導体レーザからレーザ光がパルス発振されるとともに、このレーザ光が、光増幅部として機能する希土類ドープ光ファイバに入射される。希土類ドープ光ファイバは、励起用半導体レーザから出射されるレーザ光により高励起状態に励起されている。よって、信号用半導体レーザから希土類ドープ光ファイバに入射されたレーザ光は、希土類ドープ光ファイバを通過する際に増幅されるとともに、その出射端面から増幅光として出射される。この増幅光は、収束レンズを介してワーク上に集光され、この集光された増幅光がワークの表面上を走査することにより所望のマーキングが行われる。
【0003】
ところで、このようなレーザ加工装置では、マーキング開始時に希土類ドープ光ファイバを高励起状態に励起させようとすると、実際に高励起状態に励起されるまでにある程度の時間を要する。したがって、マーキング開始時にレーザ加工装置から出射される増幅光の第1パルスで十分な出力を得られない場合があり、マーキングの品質が低下するおそれがある。
【0004】
そこで、従来のレーザ加工装置では、例えば特許文献1に見られるように、希土類ドープ光ファイバを高励起状態に励起させることの可能なレーザ出力(基準レーザ出力)を有する第1励起用半導体レーザと、同第1励起用半導体レーザよりも低いレーザ出力を有する第2励起用半導体レーザとを設けるようにしている。そして、図7に示すように、時刻t10でレーザ加工装置に設けられたスイッチがオン操作されたとすると、図7(b)に示すように、その時点で第2励起用半導体レーザのみが低レーザ出力Leでレーザ光を連続発振する。これにより、第2励起用半導体レーザから出射されるレーザ光によって希土類ドープ光ファイバがマーキングの不可能な状態にて予備励起される。その後、図7(a)に示すように、時刻t11で第1励起用半導体レーザが基準レーザ出力Ldでレーザ光を連続発振するとともに、図7(d)に示すように、同時刻t11で信号用半導体レーザがレーザ光をパルス発振する。このとき、既に予備励起されている希土類ドープ光ファイバは、第1励起用半導体レーザから出射されるレーザ光によって高励起状態まで即座に励起される。よって、図7(e)に示すように、増幅光の第1パルスP20で十分な出力Lfを確保することができるため、マーキングの品質を高めることが可能となる。なお、図7(c)は、希土類ドープ光ファイバの励起に利用されるレーザ光源の総レーザ出力を示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開3411852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、信号用半導体レーザからレーザ光が出射される前に希土類ドープ光ファイバを予め予備励起させておくこととすれば、増幅光の第1パルスP20で十分な出力Lfを確保することができるようにはなる。ただし、発明者による増幅光の出力計測実験では、図7(e)に示すように、第2パルス21以降の数パルスの出力が所定出力Lfよりも低下することが確認されている。このような増幅光の出力低下は、主に、以下のような原因によるものと考えられている。
【0007】
・予備励起の際に希土類ドープ光ファイバに蓄積されたエネルギの多くは、信号用半導体レーザから出射されるレーザ光の第1パルスを増幅する際に消費されるため、第2パルス以降の初期パルスを十分に増幅することができないこと。
【0008】
・希土類ドープ光ファイバの蛍光寿命により、第1励起用半導体レーザから出射されるレーザ光によって希土類ドープ光ファイバを予備励起状態から高励起状態まで遷移させるまでにある程度の時間を要すること。
【0009】
・信号用半導体レーザにおいて高繰り返しパルス動作を行う場合、希土類ドープ光ファイバに極めて短い周期でパルス光が入射されるため、希土類ドープ光ファイバに蓄積されたエネルギが消費され易くなる。このため、特に予備励起状態から高励起状態への励起過渡段階では、希土類ドープ光ファイバに蓄積されているエネルギが不足気味となり易いこと。
【0010】
このように、こうしたレーザ加工装置では、増幅光の出力を安定化させるといった点で、なお改良の余地を残すものとなっている。
なお、このような課題は、レーザ光の照射により加工対象物にマーキング、穴あけ、切断及び溶接等の加工を行うレーザ加工装置に限らず、希土類ドープ光ファイバ等の光増幅部を通じてレーザ光を増幅して出射する各種レーザ装置に共通する課題である。
【0011】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、増幅光の出力を安定化させることのできるレーザ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、信号用レーザ光源からパルス発振されるレーザ光を光増幅部を通じて増幅し、増幅光として出射するに際し、前記光増幅部を励起させる励起用レーザ光源として、基準レーザ出力を有する第1励起用レーザ光源と、該第1励起用レーザ光源よりも低いレーザ出力を有する第2励起用レーザ光源とを備えて、前記信号用レーザ光源からレーザ光をパルス発振する前に、前記第2励起用レーザ光源から出射されるレーザ光によって前記光増幅部を予備励起させるとともに、前記信号用レーザ光源からレーザ光を出射する際に、前記第1励起用レーザ光源から出射されるレーザ光によって前記光増幅部を励起させるレーザ装置において、前記第1励起用レーザ光源がレーザ光の出射を開始することを条件に、同第1励起用レーザ光源のレーザ出力を前記基準レーザ出力よりも高い高レーザ出力に設定した後、前記基準レーザ出力まで低下させるようにしたことを要旨とする。
【0013】
同構成によれば、第1励起用レーザ光源からのレーザ光の出射開始に伴って第1励起用レーザ光源のレーザ出力が高レーザ出力に設定されるため、光増幅部は高励起状態への励起開始に伴って強く励起される。これにより、信号用レーザ光源から出射されるレーザ光の初期パルスがより大きく増幅されるため、増幅光の初期パルスで十分な出力を確保することが可能となる。よって、増幅光の出力を安定化させることができるようになる。
【0014】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のレーザ装置において、前記第1励起用レーザ光源における前記高レーザ出力への設定が、前記第1励起用レーザ光源からのレーザ光の出射開始時に行われることを要旨とする。
【0015】
同構成によれば、第1励起用レーザ光源においてレーザ光の出射が開始されるときに、そのレーザ出力が高レーザ出力に設定されるため、光増幅部の高励起状態への励起が開始される際に光増幅部が強く励起される。これにより、信号用レーザ光源から出射されるレーザ光の初期パルスをより効果的に増幅することができるため、増幅光の初期パルスで十分な出力を確保する上で有効となる。
【0016】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載のレーザ装置において、前記第1励起用レーザ光源のレーザ出力の前記高レーザ出力から前記基準レーザ出力までの低下が、同レーザ出力の漸減処理として行われることを要旨とする。
【0017】
同構成によれば、先の図7(e)に例示した増幅光の出力の低下分を補うかたちで光増幅部を励起させることができるため、増幅光の出力をより安定化させることができるようになる。
【0018】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載のレーザ装置において、前記信号用レーザ光源からのレーザ光の出射を開始するに際して、その第1パルスの出射が、前記第1励起用レーザ光源からレーザ光が出射されるよりも前に行われることを要旨とする。
【0019】
同構成によるように、信号用レーザ光源からのレーザ光の第1パルスの出射を、第1励起用レーザ光源からレーザ光が出射されるよりも前に行うようにした場合、信号用レーザ光源から出射されたレーザ光の第1パルスは、予備励起の際に光増幅部に蓄積されたエネルギによって増幅されるため、増幅光の第1パルスで十分な出力を確保することが可能である。これにより、十分な出力を有する増幅光をより早く出射することができるため、ユーザの待機時間を短縮することができるようになる。
【発明の効果】
【0020】
本発明にかかるレーザ装置によれば、増幅光の出力を安定化させることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明にかかるレーザ装置を適用したレーザ加工装置の一実施形態についてその概略構成を示すブロック図。
【図2】同実施形態のレーザ加工装置によるマーキング処理の手順を示すフローチャート。
【図3】(a)〜(e)は、同実施形態のレーザ加工装置についてその動作例を示すタイミングチャート。
【図4】(a)〜(e)は、本発明にかかるレーザ装置を適用したレーザ加工装置の他の例についてその動作例を示すタイミングチャート。
【図5】(a)〜(e)は、本発明にかかるレーザ装置を適用したレーザ加工装置の他の例についてその動作例を示すタイミングチャート。
【図6】(a)〜(e)は、本発明にかかるレーザ装置を適用したレーザ加工装置の他の例についてその動作例を示すタイミングチャート。
【図7】(a)〜(e)は、従来のレーザ加工装置についてその動作例を示すタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明にかかるレーザ装置を適用したレーザ加工装置の一実施形態について図1〜図3を参照して説明する。なお、本実施形態にかかるレーザ加工装置は、レーザ光の照射によりワークに文字や図形等をマーキングするものである。はじめに、図1を参照して、本実施形態にかかるレーザ加工装置の概要について説明する。
【0023】
図1に示すように、このレーザ加工装置では、ユーザが入力部3に文字や図形等を入力すると、レーザ生成部1において生成されたレーザ光がヘッド部2を介してワークWに照射されて、文字や図形等がワークWにマーキングされる。
【0024】
レーザ生成部1は、赤外線レーザをパルス発振する信号用レーザ光源としての信号用半導体レーザ10と、同半導体レーザ10から出射されたレーザ光を増幅する増幅器20とを備えている。信号用半導体レーザ10から出射されたレーザ光は、光ファイバ26aを介して増幅器20に入力されて増幅された後、同増幅器20の後端に設けられた光ファイバ26dを介して増幅光としてヘッド部2に入射される。
【0025】
増幅器20は、例えば希土類元素であるイットリビウム(Yb)を含むガラスファイバからなる希土類ドープ光ファイバ21と、該光ファイバ21をマーキングの可能な高励起状態に励起させるレーザ出力を有する第1励起用半導体レーザ22とを備えている。また、増幅器20は、第1励起用半導体レーザ22よりも低いレーザ出力を有する第2励起用半導体レーザ23を備えている。なお、本実施形態では、希土類ドープ光ファイバ21が光増幅部となっている。また、第1及び第2の励起用半導体レーザ22,23が第1及び第2の励起用レーザ光源となっている。
【0026】
第1励起用半導体レーザ22は、光ファイバ26cを介して希土類ドープ光ファイバ21にレーザ光を入射する。また、第2励起用半導体レーザ23は、光ファイバ26bを介して希土類ドープ光ファイバ21にレーザ光を入射する。
【0027】
一方、希土類ドープ光ファイバ21は、図示しないボビンに多数回巻回されることにより所要長の光路が確保された構造を有している。なお、同図では、希土類ドープ光ファイバ21において入射端21aから出射端21bに向かう方向を矢印aで示している。希土類ドープ光ファイバ21の入射端21a及び出射端21bには、第1及び第2の光結合部24,25がそれぞれ設けられている。
【0028】
第1光結合部24には、信号用半導体レーザ10から出射されたレーザ光が光ファイバ26aを介して入射されるとともに、第2励起用半導体レーザ23から出射されたレーザ光が光ファイバ26bを介して入射される。第1光結合部24は、信号用半導体レーザ10から出射されたレーザ光、及び第2励起用半導体レーザ23から出射されたレーザ光を希土類ドープ光ファイバ21の入射端21aに矢印aで示す方向にそれぞれ入射させる。そして、第2励起用半導体レーザ23から出射されたレーザ光が第1光結合部24を介して希土類ドープ光ファイバ21に入射されることにより、希土類ドープ光ファイバ21がマーキングの不可能な低励起状態にて予備励起される。
【0029】
一方、第2光結合部25には、希土類ドープ光ファイバ21の出射端21bから出射されたレーザ光が入射されるとともに、第1励起用半導体レーザ22から出射されたレーザ光が光ファイバ26cを介して入射される。第2光結合部25は、第1励起用半導体レーザ22から出射されたレーザ光を希土類ドープ光ファイバ21の出射端21bに矢印aで示す方向と逆の方向に入射させる。これにより、希土類ドープ光ファイバ21がマーキング可能な高励起状態に励起される。また、第2光結合部25は、希土類ドープ光ファイバ21の出射端21bから出射されたレーザ光(増幅光)を光ファイバ26dを介してヘッド部2に出射する。
【0030】
なお、光ファイバ26aには、レーザ光を矢印aで示す方向にのみ通過させる光アイソレータ27が設けられている。すなわち、この光アイソレータ27によって、光ファイバの接合部分やレーザ反射面で反射された光が信号用半導体レーザ10に逆流して同半導体レーザ10が損傷することが防止されている。
【0031】
一方、ヘッド部2は、レーザ生成部1の光ファイバ26dから出射される増幅光を平行光あるいは収束光に絞るコリメータレンズ40を備えている。コリメータレンズ40を通じて絞られた増幅光は、ヘッド部2に設けられた光走査機構41によって所要の方向に反射される。光走査機構41は、増幅光を反射する2つのガルバノミラーを有して構成されるものであって、各ガルバノミラーの傾斜角度を変化させることにより、コリメータレンズ40を通じて絞られた増幅光を所要の方向に走査させるものである。光走査機構41にて反射された増幅光は、集光レンズ42によりスポットレーザ光に絞り込まれる。そして、絞り込まれた増幅光がワークWの表面上を走査することにより所望のマーキングが行われる。
【0032】
また、入力部3は、上述のように、ワークWに印字する文字や図形等が入力される部分であるとともに、ユーザによってマーキングの開始及び停止などの操作が行われる部分でもある。入力部3は、文字や図形などが入力されると、その入力情報を出力する。また、入力部3は、マーキング開始操作及び停止操作が行われると、そのことを示す操作信号を出力する。そして、これら入力部3の出力は、マイクロコンピュータを中心に構成された制御部5に取り込まれる。
【0033】
制御部5は、入力部3の出力に基づきドライバ30〜32を通じて半導体レーザ10,22,23の供給電流量をそれぞれ制御することで、各半導体レーザ10,22,23の駆動、停止、並びにレーザ出力を制御する。また、制御部5は、光走査機構41の駆動も制御する。具体的には、制御部5は、ワークWに印字する文字や図形等の入力情報が入力部3から送信されると、これを内蔵するメモリ5aに記憶させる。その後、入力部3から出力される操作信号に基づきマーキング開始操作が行われたことを検知すると、まず、ドライバ32を介して第2励起用半導体レーザ23を駆動させることにより、希土類ドープ光ファイバ21を所定時間だけ予備励起させる。その後、メモリ5aに記憶された入力情報に基づき、ドライバ30,31を介して信号用半導体レーザ10及び第1励起用半導体レーザ22を駆動させるとともに、光走査機構41を駆動させることにより、文字や図形等をワークWにマーキングする。
【0034】
次に、図2を参照して、マーキングを行う処理の手順について説明する。なお、図2に示す処理は、入力部3から出力される操作信号に基づきマーキング開始操作が行われたことを検知したときに実行される。なお、基準レーザ出力La1は、増幅光の出力に基づき設定されるものであって、希土類ドープ光ファイバ21をマーキングの可能な高励起状態に励起させることの可能なレーザ出力を示す。
【0035】
同図2に示すように、この処理では、まず、ドライバ32を介して第2励起用半導体レーザ23から低レーザ出力Lbでレーザ光を連続発振させるとともに(ステップS1)、第1所定時間Taが経過したか否かが監視される(ステップS2)。なお、低レーザ出力Lbは、基準レーザ出力La1よりも低い値であって、希土類ドープ光ファイバ21をマーキングの不可能な低励起状態に励起させることの可能な値に設定されている。また、第1所定時間Taは、上記基準レーザ出力La1の大きさに依存して決定されるものであって、増幅光の第1パルスで十分な出力を確保することができるように予めの実験などを通じて設定されている。そして、第1所定時間Taが経過した場合には(ステップS2:YES)、信号用半導体レーザ10からレーザ光をパルス発振させた後(ステップS3)、信号用半導体レーザ10においてレーザ光の第1パルスが出射されてから第2所定時間Tbが経過したか否かが監視される(ステップS4)。なお、第2所定時間Tbは、信号用半導体レーザ10においてレーザ光の第1パルスが出射されてから第2パルスが出射されるまでの期間よりも短い時間に設定されている。そして、信号用半導体レーザ10においてレーザ光の第1パルスが出射されてから第2所定時間Tbが経過した場合には(ステップS4:YES)、第1励起用半導体レーザ22から高レーザ出力La2でレーザ光を連続発振させる(ステップS5)。また、続くステップS6の処理として、第1励起用半導体レーザ22のレーザ出力を第3所定時間Tcかけて基準レーザ出力La1まで漸次低下させる(ステップS6)。その後、マーキングが完了したか否かが監視されて(ステップS7)、マーキングが完了した場合には(ステップS7:YES)、各半導体レーザ10,22,23の発振が停止される(ステップS8)。
【0036】
次に、図3を参照して、本実施形態にかかるレーザ加工装置の動作例(作用)について説明する。
図3に示すように、例えば時刻t1でユーザが入力部3に対してマーキング開始操作を行ったとすると、図3(b)に示すように、第2励起用半導体レーザ23が低レーザ出力Lbでレーザ光を連続発振する。これにより、希土類ドープ光ファイバ21がマーキング不可能な低励起状態に励起される。そして、時刻t1から第1所定時間Taが経過した時刻t2の時点で、増幅光の第1パルスで十分な出力Lcを確保することが可能なレベルまで希土類ドープ光ファイバ21が励起される。そして、本実施形態のレーザ加工装置では、図3(d)に示すように、時刻t2で信号用半導体レーザ10がレーザ光のパルス発振を開始する。このとき、信号用半導体レーザ10から出射されるレーザ光の第1パルスP10は、予備励起の際に希土類ドープ光ファイバ21に蓄積されたエネルギによって増幅されるため、図3(e)に示すように、増幅光の第1パルスP1で十分な出力Lcを確保することができる。
【0037】
また、信号用半導体レーザ10からレーザ光の第1パルスP10が出射された時点から第2所定時間Tbが経過した時刻t3の時点で、すなわち同半導体レーザ10の第1パルスP10の出射から第2パルスP11の出射までの間に、図3(a)に示すように、第1励起用半導体レーザ22が高レーザ出力La2でレーザ光を連続発振する。これにより、時刻t3から希土類ドープ光ファイバ21が高励起状態に励起される。そして、時刻t3から第3所定時間Tcが経過したt4までの期間、第1励起用半導体レーザ22のレーザ出力が高レーザ出力La2から基準レーザ出力La1まで漸次低下した後、基準レーザ出力La1で保持される。このとき、図3(c)に示すように、時刻t3で励起光源の総レーザ出力が特に強くなるため、希土類ドープ光ファイバ21が高励起状態への励起開始時に特に強く励起されることとなる。このため、信号用半導体レーザ10から出射されるレーザ光の第2パルスP11以降の初期パルスをより大きく増幅することができる。また、第1励起用半導体レーザ22のレーザ出力を高レーザ出力La2から基準レーザ出力La1まで漸次低下させることとすれば、先の図7(e)に例示した増幅光の出力の低下分を補うかたちで希土類ドープ光ファイバ21を励起させることもできる。よって、図3(e)に示すように、増幅光の第2パルスP2以降の初期パルスでも十分な出力Lcを確保することができるため、増幅光の出力を安定化させることができる。
【0038】
なお、その後、時刻t5でマーキングが完了したとすると、図3(a),(b),(d)に示すように、その時点で各半導体レーザ10,22,23の発振が停止される。
以上説明したように、本実施形態にかかるレーザ加工装置によれば、以下のような効果が得られるようになる。
【0039】
(1)第1励起用半導体レーザ22からのレーザ光の出射開始時に、そのレーザ出力を基準レーザ出力La1よりも高い高レーザ出力La2に設定した後、基準レーザ出力La1まで低下させることとした。これにより、増幅光の初期パルスで十分な出力を確保することができるため、増幅光の出力を安定化させることができるようになる。
【0040】
(2)第1励起用半導体レーザ22のレーザ出力を高レーザ出力La2から基準レーザ出力La1まで低下させるにあたり、同レーザ出力を漸次低下させることとした。これにより、先の図7(e)に励起した増幅光の出力の低下分を補うかたちで希土類ドープ光ファイバ21を励起させることができるため、増幅光の出力をより安定化させることができるようになる。
【0041】
(3)信号用半導体レーザ10からのレーザ光の出射を開始するに際して、その第1パルスの出射を、第1励起用半導体レーザ22からレーザ光が出射されるよりも前に行うこととした。これにより、十分なレーザ出力を有する増幅光をより早く出射することができるため、ユーザの待機時間を短縮することができるようになる。
【0042】
なお、上記実施形態は、これを適宜変更した以下の形態にて実施することもできる。
・第1励起用半導体レーザ22のレーザ出力を高レーザ出力La2から基準レーザ出力La1まで低下させる方法として、例えば図4及び図5に示すような方法を採用してもよい。すなわち、図4(a)に示すように、第1励起用半導体レーザ22のレーザ出力をパルス状に変化させてもよい。また、図5(a)に示すように、第1励起用半導体レーザ22のレーザ出力を階段状に変化させてもよい。このような構成であっても、信号用レーザ光源から出射されるレーザ光の初期パルスをより大きく増幅することができるため、増幅高の出力を安定化させることが可能である。
【0043】
・また、第1励起用半導体レーザ22のレーザ出力を高レーザ出力La2から基準レーザ出力La1まで低下させる方法として、例えば図6に示すような方法を採用してもよい。すなわち、図6(a)に示すように、時刻t3で第1励起用半導体レーザ22からのレーザ光の出射を開始したとき、そのレーザ出力を基準レーザ出力La1に一旦設定する。そして、時刻t3から所定時間Tdが経過した時刻t6の時点で、第1励起用半導体レーザ22のレーザ出力を高レーザ出力La2に設定するとともに、その時点から基準レーザ出力La1まで漸次低下させる。このような構成は、上記実施形態の方法、すなわち第1励起用半導体レーザ22からのレーザ光の出射開始時にそのレーザ出力を高レーザ出力La2に設定するといった方法を採用したときに、増幅光の第1パルスや第2パルスの出力が大きくなり過ぎる場合に有効である。
【0044】
・信号用半導体レーザ10からレーザ光の出射を開始する時期を、第1励起用半導体レーザ22から高レーザ出力La2でレーザ光が出射されたとき、あるいはそれ以降に設定してもよい。
【0045】
・上記実施形態では、本発明にかかるレーザ加工装置を、2つの励起用半導体レーザを備えるレーザ加工装置に適用することとしたが、例えば3つ以上の励起用半導体レーザを備えるレーザ加工装置に適用することも可能である。
【0046】
・上記実施形態では、本発明にかかるレーザ装置を、ワークにマーキングを行うレーザ加工装置(レーザマーカー)に適用することとしたが、例えばワークに穴あけ、切断、及び溶接等の加工を行うレーザ加工装置に適用することも可能である。また、レーザ加工装置に限らず、希土類ドープ光ファイバ21等の光増幅部を通じてレーザ光を増幅して出射する各種レーザ装置に適用することも可能である。
【0047】
<付記>
次に、上記実施形態及びその変形例から把握できる技術的思想について追記する。
(イ)加工対象物にレーザ光を照射することにより前記加工対象物の加工を行うレーザ加工装置において、前記加工対象物に前記レーザ光を照射する装置として、請求項1〜4のいずれか一項に記載のレーザ装置が用いられていることを特徴とするレーザ加工装置。上述のように、レーザ加工装置では、加工精度を高める上で、増幅光の出力の安定化が強く望まれることから、こうしたレーザ加工装置に上述したレーザ装置を用いることの意義は大きい。
【符号の説明】
【0048】
W…ワーク、1…レーザ生成部、2…ヘッド部、3…入力部、5…制御部、5a…メモリ、10…信号用半導体レーザ、20…増幅器、21…希土類ドープ光ファイバ、21a…入射端、21b…出射端、22…第1励起用半導体レーザ、23…第2励起用半導体レーザ、24…第1光結合部、25…第2光結合部、26a〜26d…光ファイバ、27…光アイソレータ、30〜32…ドライバ、40…コリメータレンズ、41…光走査機構、42…集光レンズ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号用レーザ光源からパルス発振されるレーザ光を光増幅部を通じて増幅し、増幅光として出射するに際し、前記光増幅部を励起させる励起用レーザ光源として、基準レーザ出力を有する第1励起用レーザ光源と、該第1励起用レーザ光源よりも低いレーザ出力を有する第2励起用レーザ光源とを備えて、前記信号用レーザ光源からレーザ光をパルス発振する前に、前記第2励起用レーザ光源から出射されるレーザ光によって前記光増幅部を予備励起させるとともに、前記信号用レーザ光源からレーザ光を出射する際に、前記第1励起用レーザ光源から出射されるレーザ光によって前記光増幅部を励起させるレーザ装置において、
前記第1励起用レーザ光源がレーザ光の出射を開始することを条件に、同第1励起用レーザ光源のレーザ出力を前記基準レーザ出力よりも高い高レーザ出力に設定した後、前記基準レーザ出力まで低下させるようにした
ことを特徴とするレーザ装置。
【請求項2】
前記第1励起用レーザ光源における前記高レーザ出力への設定が、前記第1励起用レーザ光源からのレーザ光の出射開始時に行われる
請求項1に記載のレーザ装置。
【請求項3】
前記第1励起用レーザ光源のレーザ出力の前記高レーザ出力から前記基準レーザ出力までの低下が、同レーザ出力の漸減処理として行われる
請求項1又は2に記載のレーザ装置。
【請求項4】
前記信号用レーザ光源からのレーザ光の出射を開始するに際して、その第1パルスの出射が、前記第1励起用レーザ光源からレーザ光が出射されるよりも前に行われる
請求項1〜3のいずれか一項に記載のレーザ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−253099(P2012−253099A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−122847(P2011−122847)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000106221)パナソニック デバイスSUNX株式会社 (578)
【Fターム(参考)】