説明

レーザ顕微鏡装置

【課題】複雑な干渉膜の構成を要することなく、多光子励起効果を効率的に発生させて明るく鮮明な多光子蛍光画像による観察を行う。
【解決手段】第1の光路12を導光されてきた可視レーザ光を反射し、第2の光路22を導光されてきたIRパルスレーザ光を透過させて、第1の光路12と第2の光路22とを合成する第1のダイクロイックミラー23と、第1のダイクロイックミラー23からのレーザ光を標本上で走査するXYガルバノミラー24と、走査されたレーザ光を標本Aに照射する一方、標本Aにおいて発生した蛍光を集光する対物レンズ5と、可視レーザ光を反射するとともに、標本Aからの蛍光を透過させる第2のダイクロイックミラー18と、第2のダイクロイックミラー18を透過してきた蛍光を検出する検出ユニット25とを備えるレーザ顕微鏡装置1を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ顕微鏡装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、異なる周波数帯域のレーザ光を導光する2つの光路と、一方の光路のレーザ光を反射し、他方の光路のレーザ光を透過させて2つの光路を合成するダイクロックミラーとを備えるレーザ顕微鏡装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。このレーザ顕微鏡装置では、一方の光路を導光されるレーザ光として近赤外パルスレーザ光を用いており、これを標本に照射して、多光子励起効果により発生した蛍光を観察する。合成されたレーザ光の光路には、レーザ波長を反射し標本からの蛍光を透過する励起ダイクロイックミラーが設けられている。
【特許文献1】特開2004−86009号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記のようなレーザ顕微鏡装置において、通常、励起ダイクロイックミラーは、レーザ光を反射するとともに標本からの蛍光を透過させるように設計される。このようにすることで、ダイクロイックミラーの反射面に用いる干渉膜の反射率特性が、波長幅の狭いレーザ光だけを反射させて蛍光を含む他の帯域は透過させるようになるため、干渉膜の設計を容易なものとすることができるためである。
【0004】
しかしながら、ダイクロイックミラーの干渉膜は多層膜で構成されているため、その反射光路では、特定の波長域のみにおいて群速度分散が大きくなる。これは、多層膜の各層における反射によって波長毎の光路長が大きく変化することが影響している。多光子蛍光観察に用いるパルス幅が100フェムト秒程度の極短パルスレーザ光は、通常10nm程度の波長幅を有するので、その波長幅の範囲に群速度分散の大きい波長域が含まれてしまうと、この多層膜で反射された極短パルスレーザ光はチャープが大きくなってパルス幅が広がってしまう。しかも、このチャープは非線形チャープであるため、例えばプリズムペアを用いた線形的なチャープ調節方法では補正することができない。したがってパルス幅の広がりを補正できないので、多光子励起効果を効率的に発生させることができないという不都合があった。
【0005】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、複雑な干渉膜の構成を要することなく、多光子励起効果を効率的に発生させて明るく鮮明な多光子蛍光画像による観察を行うことができるレーザ顕微鏡装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、可視レーザ光を導光する第1の光路と、極短パルスレーザ光を導光する第2の光路と、前記第1の光路を導光されてきた可視レーザ光を反射し、前記第2の光路を導光されてきた極短パルスレーザ光を透過させて、前記第1の光路と前記第2の光路とを合成する第1のダイクロイックミラーと、該第1のダイクロイックミラーからのレーザ光を標本上で2次元走査する走査手段と、該走査手段により走査されたレーザ光を前記標本に照射する一方、前記標本において発生した蛍光を集光する観察光学系と、前記可視レーザ光を反射するとともに、前記標本からの蛍光を透過させる第2のダイクロイックミラーと、該第2のダイクロイックミラーを透過してきた蛍光を検出する検出手段とを備え、前記第1のダイクロイックミラーが、前記走査手段と前記第2のダイクロイックミラーとの間に設けられ、前記標本からの蛍光を前記第2のダイクロイックミラーに向けて反射するレーザ顕微鏡装置を採用する。
【0007】
本発明によれば、第1の光路を導光されてきた可視レーザ光は、第1のダイクロイックミラーおよび第2のダイクロイックミラーにより反射され、走査手段により走査されて観察光学系により標本に照射される。一方、第2の光路を導光されてきた極短パルスレーザ光は、第1のダイクロイックミラーを透過して、走査手段により走査されて観察光学系により標本に照射される。可視レーザ光および極短パルスレーザ光の照射により、標本において発生した蛍光は、観察光学系により集光され、第2のダイクロイックミラーを透過して検出手段により検出される。
【0008】
この場合に極短パルスレーザ光は、多層膜により構成された各ダイクロイックミラーにおける反射を伴うことなく標本に照射されるので、反射による波長毎の光路長変動を防止して、極短パルスレーザ光の群速度分散によるパルス幅の広がりを防止することができる。その結果、標本における多光子励起効果を効率的に発生させて明るく鮮明な多光子蛍光画像による観察を行うことが可能となる。
【0009】
また、第2のダイクロイックミラーにより、可視レーザ光を反射するとともに標本からの蛍光を透過させることで、波長幅の狭い可視レーザ光の反射帯域を狭くするとともに、蛍光の透過帯域を広くすることができ、第2のダイクロイックミラーの干渉膜の設計を容易なものとすることができる。特に、多重染色を行った標本からの蛍光を観察する場合には、各蛍光物質を励起させるために複数の波長域を有する可視レーザ光を使用する必要がある。この場合、第2のダイクロイックミラーは、可視レーザ光の波長のみを反射させ、その他の蛍光波長領域を透過させるように設計すればよいので、その干渉膜の設計を容易なものとすることができる。
【0010】
上記発明において、前記第2のダイクロイックミラーが、異なる分光透過率特性を有する複数のダイクロイックミラー部と、該複数のダイクロイックミラー部を切り替える切り替え手段とを備えることとしてもよい。
このようにすることで、切り替え手段により、可視レーザ光の波長に応じて異なる分光透過率特性を有する複数のダイクロイックミラー部を切り替えて、観察対象に応じて可視レーザ光の波長を変更し、様々な観察対象を観察することが可能となる。
【0011】
本発明は、可視レーザ光を導光する第1の光路と、極短パルス励起レーザ光を導光する第2の光路と、前記第1の光路を導光されてきた可視レーザ光を反射し、前記第2の光路を導光されてきた極短パルスレーザ光を透過させて、前記第1の光路と前記第2の光路とを合成する第1のダイクロイックミラーと、該第1のダイクロイックミラーからのレーザ光を標本上で2次元走査する走査手段と、該走査手段により走査されたレーザ光を前記標本に照射する一方、前記標本において発生した蛍光を集光する観察光学系と、前記標本からの蛍光を反射するとともに、前記極短パルスレーザ光を透過させる第2のダイクロイックミラーと、該第2のダイクロイックミラーにより反射された蛍光を検出する検出手段とを備え、前記第1のダイクロイックミラーが、前記走査手段と前記第2のダイクロイックミラーとの間に設けられ、前記標本からの蛍光を透過させるレーザ顕微鏡装置を採用する。
【0012】
本発明によれば、第1の光路を導光されてきた可視レーザ光は、第1のダイクロイックミラーにより反射され、走査手段により走査されて観察光学系により標本に照射される。一方、第2の光路を導光されてきた極短パルスレーザ光は、第1のダイクロイックミラーおよび第2のダイクロイックミラーを透過して、走査手段により走査されて観察光学系により標本に照射される。可視レーザ光および極短パルスレーザ光の照射により、標本において発生した蛍光は、第1のダイクロイックミラーを透過して、第2のダイクロイックミラーにより反射されて検出手段により検出される。
【0013】
この場合に極短パルスレーザ光は、多層膜により構成された各ダイクロイックミラーにおける反射を伴うことなく標本に照射されるので、反射による波長毎の光路長変動を防止して、極短パルスレーザ光の群速度分散によるパルス幅の広がりを防止することができる。その結果、標本における多光子励起効果を効率的に発生させて明るく鮮明な多光子蛍光画像による観察を行うことが可能となる。
また、第1のダイクロイックミラーにより、可視レーザ光を反射するとともに標本からの蛍光を透過させることで、波長幅の狭い可視レーザ光の反射帯域を狭くするとともに、蛍光の透過帯域を広くすることができ、第1のダイクロイックミラーの干渉膜の設計を容易なものとすることができる。
【0014】
上記発明において、前記第1のダイクロイックミラーが、異なる分光透過率特性を有する複数のダイクロイックミラー部と、該複数のダイクロイックミラー部を切り替える切り替え手段とを備えることとしてもよい。
このようにすることで、切り替え手段により、可視レーザ光の波長に応じて異なる分光透過率特性を有する複数のダイクロイックミラー部を切り替えて、観察対象に応じて可視レーザ光の波長を変更し、様々な観察対象を観察することが可能となる。
【0015】
上記発明において、前記第2の光路の直線状の光路部分に前記第1のダイクロイックミラーおよび前記走査手段が設けられていることとしてもよい。
このようにすることで、第2の光路を導光されてきた極短パルスレーザ光の走査手段に対する光軸調整を容易なものとすることができる。
【0016】
上記発明において、前記走査手段と前記標本との間に挿脱可能に設けられ、前記標本からの蛍光を反射する一方、前記極短パルスレーザ光を透過させる第3のダイクロイックミラーと、該第3のダイクロイックミラーにより反射された蛍光を検出するノンディスキャン検出部とを備えることとしてもよい。
【0017】
このようにすることで、極短パルスレーザ光を照射することにより標本において発生した蛍光を走査手段に戻すことなく第3のダイクロイックミラーによって反射してノンディスキャン検出部により検出することができる。この際、第3のダイクロイックミラーにおいて、極短パルスレーザ光を反射させずに標本に照射することで、特定の波長域における極短パルスレーザ光のパルス幅が広がりを防止することができ、多光子励起効果をさらに効率的に発生させることが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、複雑な干渉膜の構成を要することなく、多光子励起効果を効率的に発生させて明るく鮮明な多光子蛍光画像による観察を行うことができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
〔第1の実施形態〕
本発明の第1の実施形態に係るレーザ顕微鏡装置1について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係るレーザ顕微鏡装置1は、図1に示されるように、入力されたレーザ光を走査するスキャンユニット2と、複数のレンズを有しスキャンユニット2からのレーザ光を導光する鏡筒3と、鏡筒3により導光されたレーザ光を標本Aに照射し標本Aにおいて発生した蛍光を集光する対物レンズ(観察光学系)5と、鏡筒3と対物レンズ5との間に設けられたノンディスキャン検出部4とを備えている。
【0020】
スキャンユニット2は、可視レーザ光が入力されるVISポート11と、VISポート11に入力された可視レーザ光を導光する第1の光路12と、IRパルスレーザ光(近赤外超短パルスレーザ光)が入力されるIRポート21と、IRポート21に入力されたIRパルスレーザ光を導光する第2の光路22とを備えている。ここで、IRパルスレーザ光は、パルス幅が100フェムト秒程度のパルス光であり、蛍光物質の種類に応じて、例えば700nmから1000nmの範囲で波長変更が可能である。
【0021】
また、スキャンユニット2は、第1の光路12を導光されてきた可視レーザ光を反射し、第2の光路22を導光されてきたIRパルスレーザ光を透過させて、第1の光路12と第2の光路22とを合成する第1のダイクロイックミラー23と、第1のダイクロイックミラー23からのレーザ光を標本A上で2次元走査するXYガルバノミラー(走査手段)24とを備えている。
【0022】
また、スキャンユニット2は、第1の光路12上に設けられ、第1の光路12を導光されてきた可視レーザ光を第1のダイクロイックミラー23に向けて反射するとともに、標本Aからの蛍光を透過させる第2のダイクロイックミラー18と、第2のダイクロイックミラー18を透過してきた蛍光を検出する検出ユニット(検出手段)25とを備えている。
【0023】
第1のダイクロイックミラー23およびXYガルバノミラー24は、第2の光路22の直線状の光路部分に設けられている。このようにすることで、第2の光路22を導光されるIRパルスレーザ光のXYガルバノミラー24に対する光軸調整を容易なものとすることができる。
【0024】
第1のダイクロイックミラー23は、第2のダイクロイックミラー18とXYガルバノミラー24との間に設けられ、標本Aからの蛍光を第2のダイクロイックミラー18に向けて反射するようになっている。
【0025】
XYガルバノミラー24は、例えば銀コートされた一対のガルバノミラー(図示略)を有しており、該一対のガルバノミラーの揺動角度を変化させ、ラスタスキャン方式で駆動されるようになっている。これにより、第1のダイクロイックミラー23からの可視レーザ光またはIRパルスレーザ光を標本A上において2次元的に走査させることができるようになっている。
【0026】
第2のダイクロイックミラー18は、ターレット28と、ターレット28に固定され異なる透過率特性を有する複数のダイクロイックミラー部27a,27bと、ターレット28を回転させる未図示の回転機構(切り替え手段)とを備えている。回転機構の駆動により、第2のダイクロイックミラー18は、第1の光路12を導光されてきた可視レーザ光の波長に応じて複数のダイクロイックミラー部27a,27bを切り替えることができるようになっている。
【0027】
検出ユニット25は、第2のダイクロイックミラー18を透過してきた蛍光を集光する共焦点レンズ17と、標本Aの焦点面において発生した蛍光のみを通過させるピンホール16と、ピンホール16を通過した光を分光する分光ダイクロックミラー15と、分光ダイクロイックミラー15により分光された蛍光から不要な光を遮断する第1のバリアフィルタ14と、第1のバリアフィルタ14を透過した蛍光を検出する第1の光検出器13とを備えている。符号19は第2のバリアフィルタ、符号20は第2の光検出器である。第1の光検出器13、第2の光検出器20は、例えば、光電子増倍管により構成されている。
【0028】
鏡筒3は、対物レンズ5により集光された蛍光を結像させる結像レンズ33と、結像レンズ33により結像された蛍光を略平行光にする瞳投影レンズ31と、結像レンズ33と瞳投影レンズ31との間に設けられ、標本Aからの蛍光を偏向する反射ミラー32とを備えている。
【0029】
ノンディスキャン検出部4は、対物レンズ5と鏡筒3との間に挿脱可能に設けられた第3のダイクロイックミラー41と、第3のダイクロイックミラー41により反射された蛍光を検出する第3の光検出器45と、第3のダイクロイックミラー41と第3の光検出器45との間に設けられた投影レンズ42,44およびバリアフィルタ43とを備えている。ここで、第3のダイクロイックミラー41は、標本Aからの蛍光を反射する一方で、IRパルスレーザ光を透過させるようになっている。
【0030】
上記のように構成された本実施形態に係るレーザ顕微鏡装置1の作用について以下に説明する。
まず、本実施形態に係るレーザ顕微鏡装置1を用いて、検出ユニット25により標本Aの多光子蛍光観察を行う場合について説明する。
この場合には、図示しないレーザ光源を作動させ、IRポート21にIRパルスレーザ光を入射させる。IRポート21から第2の光路22に導光されたIRパルスレーザ光は、第1のダイクロイックミラー23を透過してXYガルバノミラー24に導光される。XYガルバノミラー24では、IRパルスレーザ光を標本A上において2次元的に走査させる。このように走査されたIRパルスレーザ光は、瞳投影レンズ31を透過して反射ミラー32により偏向され、結像レンズ33を透過した後に、対物レンズ5により標本A上に照射される。
【0031】
標本A上の対物レンズ5の焦点面においては、IRパルスレーザ光の光子密度が高くなり、多光子励起効果が発生して標本A内の蛍光物質が励起され、多光子蛍光が発生する。発生した多光子蛍光は、対物レンズ5により集光され、結像レンズ33により結像されて反射ミラー32により偏向される。偏向された多光子蛍光は、瞳投影レンズ31により略平行光にされ、XYガルバノミラー24に導光される。XYガルバノミラー24を透過した多光子蛍光は、第1のダイクロイックミラー23により反射され、第2のダイクロイックミラー18を透過して検出ユニット25に導光される。
【0032】
検出ユニット25に導光された多光子蛍光は、共焦点レンズ17により集光され、標本Aの焦点面において発生した多光子蛍光のみがピンホール16を通過する。ピンホール16を通過した多光子蛍光は、分光ダイクロックミラー15および第1のバリアフィルタ14を透過することにより、不要な光が遮断され、第1の光検出器13により蛍光強度情報として検出される。
【0033】
このように第1の光検出器13により検出された多光子蛍光の強度情報とXYガルバノミラー24によるIRパルスレーザ光の照射位置とを対応づけて記憶することにより、2次元的な多光子蛍光画像を構築することが可能となる。
なお、標本Aからの多光子蛍光を分光ダイクロイックミラー15により反射して、第2の検出器20により検出することとしてもよい。
【0034】
また、上記の多光子蛍光観察において、第3の光検出器45を用いてノンディスキャン検出を行うことも可能である。この場合には、ノンディスキャン検出部4を作動させ、第3のダイクロイックミラー41をIRパルスレーザ光および標本Aからの蛍光の光路上に移動させる。
【0035】
鏡筒3を導光されて第3のダイクロイックミラー41を透過したIRパルスレーザ光は、対物レンズ5により標本A上に集光される。これにより標本Aにおいて発生した多光子蛍光は、対物レンズ5により集光され、第3のダイクロイックミラー41により第3の光検出器45に向けて反射される。反射された多光子蛍光は、投影レンズ42,44およびバリアフィルタ43を透過した後に第3の光検出器45により検出される。
【0036】
上記のように、標本Aから発生した蛍光をXYガルバノミラー24に戻さずに第3の光検出器45により検出することで、各光学部品における信号の減衰を最小限に抑え、多光子蛍光のS/N比を向上させることができる。ここで、ノンディスキャン検出では共焦点ピンホールにより標本Aの焦点面において発生した多光子蛍光のみを切り出すことはできないが、多光子励起による蛍光はIRパルスレーザ光の集光位置(ピント位置)のごく近傍でしか生じないので、共焦点ピンホールがなくても標本Aの光学的断面画像を取得することができる。
【0037】
次に、本実施形態に係るレーザ顕微鏡装置1を用いて標本Aの可視光観察を行う場合について説明する。
この場合には、図示しないレーザ光源を作動させ、VISポート11に可視レーザ光を入射させる。VISポート11から第1の光路12に導光された可視レーザ光は、第2のダイクロイックミラー18により第1のダイクロイックミラー23に向けて反射される。反射された可視レーザ光は、第1のダイクロイックミラー23によりXYガルバノミラー24に向けて反射され、XYガルバノミラー24に導光される。XYガルバノミラー24では、可視レーザ光を標本A上において2次元的に走査させる。このように走査された可視レーザ光は、瞳投影レンズ31を透過して反射ミラー32により偏向され、結像レンズ33を透過した後に、対物レンズ5により標本A上に照射される。
【0038】
標本A上の対物レンズ5の焦点面においては、標本A内の蛍光物質が励起され、蛍光が発生する。発生した蛍光は、対物レンズ5により集光され、結像レンズ33により結像されて反射ミラー32により偏向される。偏向された蛍光は、瞳投影レンズ31により略平行光にされ、XYガルバノミラー24に導光される。XYガルバノミラー24を透過した蛍光は、第1のダイクロイックミラー23により反射され、第2のダイクロイックミラー18を透過して検出ユニット25に導光される。
【0039】
検出ユニット25に導光された蛍光は、共焦点レンズ17により集光され、標本Aの焦点面において発生した蛍光のみがピンホール16を透過する。ピンホール16を透過した蛍光は、分光ダイクロックミラー15および第1のバリアフィルタ14を透過することにより、不要な光が遮断され、第1の光検出器13により蛍光強度情報として検出される。
【0040】
このように第1の光検出器13により検出された蛍光の強度情報とXYガルバノミラー24による可視レーザ光の照射位置とを対応づけて記憶することにより、2次元的な蛍光画像を構築することが可能となる。
なお、標本Aからの蛍光を分光ダイクロイックミラー15により反射して、第2の検出器20により検出することとしてもよい。
【0041】
以上のように、本実施形態に係るレーザ顕微鏡装置1によれば、多光子蛍光観察を行う際、IRパルスレーザ光は、多層膜により構成された各ダイクロイックミラーにおいて反射を伴うことなく標本Aに照射される。これにより、反射による波長毎の光路長変動を防止して、IRパルスレーザ光の群速度分散によるパルス幅の広がりを防止することができる、その結果、標本Aにおける多光子励起効果を効率的に発生させて明るく鮮明な多光子蛍光画像による観察を行うことが可能となる。
【0042】
また、可視光観察を行う際、第2のダイクロイックミラー18により、可視レーザ光を反射するとともに標本Aからの蛍光を透過させることで、波長幅の狭い可視レーザ光の反射帯域を狭くするとともに蛍光の透過帯域を広くすることができ、第2のダイクロイックミラーの干渉膜の設計を容易なものとすることができる。特に、多重染色を行った標本Aからの蛍光を観察する場合には、各蛍光物質を励起させるために複数の波長域を有する可視レーザ光を使用する必要がある。この場合、第2のダイクロイックミラー18は、使用する可視レーザ光の波長のみを反射させて、標本Aからの蛍光は透過させるように設計すればよいので、その干渉膜の設計を容易なものとすることができる。
【0043】
また、第2のダイクロイックミラー18を、異なる透過率特性を有する複数のダイクロイックミラー部27a,27bを切り替え可能な構成とすることで、可視レーザ光の波長に応じて、異なる透過率特性を有する複数のダイクロイックミラー部27a,27bを切り替えることができる。これにより、観察対象に応じて可視レーザ光の波長を変更し、該可視レーザ光を標本Aに照射して蛍光を発生させることができ、様々な観察対象を観察することが可能となる。
【0044】
〔第2の実施形態〕
次に、本発明の第2の実施形態に係るレーザ顕微鏡装置について図面を参照して説明する。
本実施形態に係るレーザ顕微鏡装置51が第1の実施形態と異なる点は、可視レーザ光とIRパルスレーザ光の光路を合成するダイクロイックミラーにおいて、標本Aからの蛍光を透過させる点である。以下、本実施形態のレーザ顕微鏡装置51について、第1の実施形態と共通する点については説明を省略し、異なる点について主に説明する。
【0045】
本実施形態に係るレーザ顕微鏡装置51は、図2に示されるように、入力されたレーザ光を走査するスキャンユニット52と、複数のレンズを有しスキャンユニット52からのレーザ光を導光する鏡筒3と、鏡筒3により導光されたレーザ光を標本Aに照射し標本Aにおいて発生した蛍光を集光する対物レンズ(観察光学系)5と、鏡筒3と対物レンズ5との間に設けられたノンディスキャン検出部4とを備えている。
【0046】
スキャンユニット52は、第1の光路12上に設けられ、第1の光路12を導光されてきた可視レーザ光を第1のダイクロイックミラー56に向けて反射する反射ミラー58と、第2の光路22に設けられ、第2の光路22を導光されてきたIRパルスレーザ光を透過させる第2のダイクロイックミラー53とを備えている。
【0047】
また、スキャンユニット52は、第1の光路12を導光されてきた可視レーザ光を反射し、第2の光路22を導光されてきたIRパルスレーザ光を透過させて、第1の光路12と第2の光路22とを合成する第1のダイクロイックミラー56と、第1のダイクロイックミラー56からのレーザ光を標本A上で2次元走査するXYガルバノミラー(走査手段)24とを備えている。
【0048】
第1のダイクロイックミラー56は、第2のダイクロイックミラー53とXYガルバノミラー24との間に設けられ、標本Aからの蛍光を透過させるようになっている。第2のダイクロイックミラー53は、第1のダイクロイックミラー56を透過してきた蛍光を検出ユニット(検出手段)25に向けて反射するようになっている。
【0049】
第1のダイクロイックミラー56は、ターレット54と、ターレット54に固定され異なる透過率特性を有する複数のダイクロイックミラー部55a,55bと、ターレット54を回転させる未図示の回転機構(切り替え手段)とを備えている。回転機構の駆動により、第1のダイクロイックミラー56は、第1の光路12を導光されてきた可視レーザ光の波長に応じて複数のダイクロイックミラー部55a,55bを切り替えることができるようになっている。
【0050】
上記のように構成された本実施形態に係るレーザ顕微鏡装置51の作用について以下に説明する。
まず、本実施形態に係るレーザ顕微鏡装置51を用いて、検出ユニット25により標本Aの多光子蛍光観察を行う場合について説明する。
この場合には、図示しないレーザ光源を作動させ、IRポート21にIRパルスレーザ光を入射させる。IRポート21から第2の光路22に導光されたIRパルスレーザ光は、第2のダイクロイックミラー53および第1のダイクロイックミラー56を透過してXYガルバノミラー24に導光される。XYガルバノミラー24では、IRパルスレーザ光を標本A上において2次元的に走査させる。このように走査されたIRパルスレーザ光は、瞳投影レンズ31を透過して反射ミラー32により偏向され、結像レンズ33を透過した後に、対物レンズ5により標本A上に照射される。
【0051】
標本A上の対物レンズ5の焦点面においては、IRパルスレーザ光の光子密度が高くなり、多光子励起効果が発生して標本A内の蛍光物質が励起され、多光子蛍光が発生する。発生した多光子蛍光は、対物レンズ5により集光され、結像レンズ33により結像されて反射ミラー32により偏向される。偏向された多光子蛍光は、瞳投影レンズ31により略平行光にされ、XYガルバノミラー24に導光される。XYガルバノミラー24を透過した多光子蛍光は、第1のダイクロイックミラー56を透過して第2のダイクロイックミラー53により検出ユニット25に向けて反射される。
【0052】
検出ユニット25に導光された多光子蛍光は、共焦点レンズ17により集光され、標本Aの焦点面において発生した多光子蛍光のみがピンホール16を通過する。ピンホール16を通過した多光子蛍光は、分光ダイクロックミラー15および第1のバリアフィルタ14を透過することにより、不要な光が遮断され、第1の光検出器13により蛍光強度情報として検出される。
【0053】
このように第1の光検出器13により検出された多光子蛍光の強度情報とXYガルバノミラー24によるIRパルスレーザ光の照射位置とを対応づけて記憶することにより、2次元的な多光子蛍光画像を構築することが可能となる。
また、上記の多光子蛍光観察において、第3の光検出器45を用いてノンディスキャン検出を行うことも可能である。この場合には、ノンディスキャン検出部4を作動させ、第3のダイクロイックミラー41をIRパルスレーザ光および標本Aからの蛍光の光路上に移動させる。
【0054】
次に、本実施形態に係るレーザ顕微鏡装置51を用いて標本Aの可視光観察を行う場合について説明する。
この場合には、図示しないレーザ光源を作動させ、VISポート11に可視レーザ光を入射させる。VISポート11から第1の光路12に導光された可視レーザ光は、反射ミラー58により第1のダイクロイックミラー56に向けて反射される。反射された可視レーザ光は、第1のダイクロイックミラー56によりXYガルバノミラー24に向けて反射され、XYガルバノミラー24に導光される。XYガルバノミラー24では、可視レーザ光を標本A上において2次元的に走査させる。このように走査された可視レーザ光は、瞳投影レンズ31を透過して反射ミラー32により偏向され、結像レンズ33を透過した後に、対物レンズ5により標本A上に照射される。
【0055】
標本A上の対物レンズ5の焦点面においては、標本A内の蛍光物質が励起され、蛍光が発生する。発生した蛍光は、対物レンズ5により集光され、結像レンズ33により結像されて反射ミラー32により偏向される。偏向された蛍光は、瞳投影レンズ31により略平行光にされ、XYガルバノミラー24に導光される。XYガルバノミラー24を透過した蛍光は、第1のダイクロイックミラー56を透過して第2のダイクロイックミラー53により検出ユニット25に向けて反射される。
【0056】
検出ユニット25に導光された蛍光は、共焦点レンズ17により集光され、標本Aの焦点面において発生した蛍光のみがピンホール16を通過する。ピンホール16を通過した蛍光は、分光ダイクロックミラー15および第1のバリアフィルタ14を透過することにより、不要な光が遮断され、第1の光検出器13により蛍光強度情報として検出される。
【0057】
このように第1の光検出器13により検出された蛍光の強度情報とXYガルバノミラー24による可視レーザ光の照射位置とを対応づけて記憶することにより、2次元的な蛍光画像を構築することが可能となる。
【0058】
以上のように、本実施形態に係るレーザ顕微鏡装置51によれば、第1の実施形態と同様に、多光子蛍光観察を行う際、IRパルスレーザ光は、多層膜により構成された各ダイクロイックミラーにおいて反射を伴うことなく標本Aに照射されるので、反射による波長毎の光路長変動を防止して、IRパルスレーザ光の群速度分散によるパルス幅の広がりを防止することができる、その結果、標本Aにおける多光子励起効果を効率的に発生させて明るく鮮明な多光子蛍光画像による観察を行うことが可能となる。
【0059】
また、第1のダイクロイックミラー56を、異なる透過率特性を有する複数のダイクロイックミラー部55a,55bを切り替え可能な構成とすることで、可視レーザ光の波長に応じて、異なる透過率特性を有する複数のダイクロイックミラー部55a,55bを切り替えることができる。これにより、観察対象に応じて可視レーザ光の波長を変更し、該可視レーザ光を標本Aに照射して蛍光を発生させることができ、様々な観察対象を観察することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るレーザ顕微鏡装置の全体構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に係るレーザ顕微鏡装置の全体構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0061】
A 標本
1,51 レーザ顕微鏡装置
2,52 スキャンユニット
3 鏡筒
4 ノンディスキャン検出部
5 対物レンズ
12 第1の光路
13,20,45 光検出器
18,53 第2のダイクロイックミラー
22 第2の光路
23,54 第1のダイクロイックミラー
24 XYガルバノミラー
25 検出ユニット
27a,27b ダイクロイックミラー部
41 第3のダイクロイックミラー
55a,55b ダイクロイックミラー部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可視レーザ光を導光する第1の光路と、
極短パルスレーザ光を導光する第2の光路と、
前記第1の光路を導光されてきた可視レーザ光を反射し、前記第2の光路を導光されてきた極短パルスレーザ光を透過させて、前記第1の光路と前記第2の光路とを合成する第1のダイクロイックミラーと、
該第1のダイクロイックミラーからのレーザ光を標本上で走査する走査手段と、
該走査手段により走査されたレーザ光を前記標本に照射する一方、前記標本において発生した蛍光を集光する観察光学系と、
前記可視レーザ光を反射するとともに、前記標本からの蛍光を透過させる第2のダイクロイックミラーと、
該第2のダイクロイックミラーを透過してきた蛍光を検出する検出手段とを備え、
前記第1のダイクロイックミラーが、前記走査手段と前記第2のダイクロイックミラーとの間に設けられ、前記標本からの蛍光を前記第2のダイクロイックミラーに向けて反射するレーザ顕微鏡装置。
【請求項2】
前記第2のダイクロイックミラーが、
異なる分光透過率特性を有する複数のダイクロイックミラー部と、
該複数のダイクロイックミラー部を切り替える切り替え手段とを備える請求項1に記載のレーザ顕微鏡装置。
【請求項3】
可視レーザ光を導光する第1の光路と、
極短パルス励起レーザ光を導光する第2の光路と、
前記第1の光路を導光されてきた可視レーザ光を反射し、前記第2の光路を導光されてきた極短パルスレーザ光を透過させて、前記第1の光路と前記第2の光路とを合成する第1のダイクロイックミラーと、
該第1のダイクロイックミラーからのレーザ光を標本上で走査する走査手段と、
該走査手段により走査されたレーザ光を前記標本に照射する一方、前記標本において発生した蛍光を集光する観察光学系と、
前記標本からの蛍光を反射するとともに、前記極短パルスレーザ光を透過させる第2のダイクロイックミラーと、
該第2のダイクロイックミラーにより反射された蛍光を検出する検出手段とを備え、
前記第1のダイクロイックミラーが、前記走査手段と前記第2のダイクロイックミラーとの間に設けられ、前記標本からの蛍光を透過させるレーザ顕微鏡装置。
【請求項4】
前記第1のダイクロイックミラーが、
異なる分光透過率特性を有する複数のダイクロイックミラー部と、
該複数のダイクロイックミラー部を切り替える切り替え手段とを備える請求項3に記載のレーザ顕微鏡装置。
【請求項5】
前記第2の光路の直線状の光路部分に前記第1のダイクロイックミラーおよび前記走査手段が設けられている請求項1から請求項4のいずれかに記載のレーザ顕微鏡装置。
【請求項6】
前記走査手段と前記標本との間に挿脱可能に設けられ、前記標本からの蛍光を反射する一方、前記極短パルスレーザ光を透過させる第3のダイクロイックミラーと、
該第3のダイクロイックミラーにより反射された蛍光を検出するノンディスキャン検出部と
を備える請求項1から請求項5のいずれかに記載のレーザ顕微鏡装置。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−85826(P2010−85826A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−256253(P2008−256253)
【出願日】平成20年10月1日(2008.10.1)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】