説明

レーダー装置

【要 約】
【課 題】本発明は、簡易な構成で対象物までの距離及び方向を検出することを目的とする。
【解決手段】送信波を送信し対象物で反射された受信波を受信する第1及び第2の送受信回路を有し、前記第1の送受信回路は第1の送受信回路の送信した送信波が対象物で反射された受信波を受信すると共に前記第2の送受信回路が送信した送信波が対象物で反射された受信波を受信し、第2の送受信回路は当該第2の送受信回路の送信した送信波が対象物で反射された受信波を受信することを特徴とする。前記第1及び第2の送受信回路を用いて前記第1及び第2の送受信回路から対象物までの距離を算出し、算出した対象物までの距離に余弦定理を適用することで、送受信回路及び対象物を結ぶ直線と、2つの送受信回路を相互に結ぶ直線との成す角度を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送信波が送信されて受信波が受信されるまでの伝搬遅延時間に基づいて前記対象物までの距離と方向とを算出するレーダー装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電磁波やレーザ等によるレーダー装置で、物体までの距離だけでなく、その物体がどの方位(角度)にあるかを検知する方法としていくつかの方法が提案されている。
【0003】
例えば、送信信号を左右に掃引し、受信波を受信するタイミングから物体の距離と角度の情報を得ている(例えば、特許文献1参照。)また、複数の異なる方向にレーダービームを送信し、物体から反射してきた各レーダービームが受信されるタイミングを計測することで距離と角度の情報を得るものもある(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開平3−6473号公報
【特許文献2】特開平3−57429号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1及び特許文献2が示す発明では、送信信号の左右への掃引や複数ビームの送信には、機械的又は電気的な方法によってそのシステムを構成する必要があり、これらはシステムの複雑化や高価格化を招いていた。本発明では、上記問題点を鑑み、簡易な構成で対象物までの距離及び方向を検出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るレーダー装置は、送信波を送信し対象物で反射された受信波を受信する第1及び第2の送受信回路を有し、前記第1の送受信回路は第1の送受信回路の送信した送信波が対象物で反射された受信波を受信すると共に前記第2の送受信回路が送信した送信波が対象物で反射された受信波を受信し、第2の送受信回路は当該第2の送受信回路の送信した送信波が対象物で反射された受信波を受信することを特徴とする。前記第1及び第2の送受信回路を用いて前記第1及び第2の送受信回路から対象物までの距離を算出し、算出した対象物までの距離と前記2つの送受信回路の距離とで形成される三角形に三角関数を適用することで、送受信回路及び対象物を結ぶ直線と、2つの送受信回路を相互に結ぶ直線との成す角度を算出する。距離を用いて方向を算出するので、簡易な構成で対象物までの距離及び方向を検出することが可能になる。
【0006】
図1は、本発明に係るレーダー装置が対象物の距離及び方向を測定する模式図である。図1では、距離dをおいて分離して配置された2つの送受信回路11及び12が、放射状に送信波を送信し、対象物A及びBで反射された受信波を受信している様子を示す。送受信回路11及び12から送信波が送信されて対象物A及びBで反射され、その反射された受信波が送受信回路11及び12で受信されるまでの伝搬遅延時間に基づいて送受信回路11から対象物A及びBまでの距離a1、b1と、送受信回路12から対象物A及びBまでの距離a2、b2と、が算出される。
【0007】
このとき、送受信回路11及び12が、対象物A及びBで反射された受信波のすべてを受信した場合、距離d、a1、b1、a2、b2の関係は、例えば余弦定理を用いて次のように表される。
【数1】

但し、∠A12とは、送受信回路11及び12と対象物Aで形成される三角形の頂点のうち、送受信回路11を頂点とする角度を表す。∠A21は送受信回路11及び12と対象物Aで形成される三角形の頂点のうちの送受信回路12を頂点とする角度、∠B12は送受信回路11及び12と対象物Bで形成される三角形の頂点のうちの送受信回路11を頂点とする角度、∠B21は送受信回路11及び12と対象物Bで形成される三角形の頂点のうちの送受信回路12を頂点とする角度である。
【0008】
また、距離d、a1、b1、a2、b2の関係からは、式(5)及び式(6)によって表される点C並びに式(7)及び式(8)によって表される点Dも算出される。すなわち、本来実在しない点C、点Dも検出候補として算出されてしまう。そこで、本発明に係るレーダー装置では、本来実在しない点C、点Dについての式(5)、式(6)、式(7)及び式(8)を排除している。
【0009】
まず、送受信回路11は、自ら送信した送信波が対象物A、Bで反射された受信波を受信して、信号処理回路は、距離a1、b1を算出する。次に、送受信回路12は、自ら送信した送信波が対象物A、Bで反射された受信波を受信して、信号処理回路は、距離a2、b2を算出する。このとき、送受信回路11でも送受信回路12の送信した送信波が対象物A、Bで反射された受信波を受信する。送受信回路11は送受信回路12からの受信波であると認識し、信号処理回路は送受信回路12の送信したタイミングから距離(a2+a1)及び距離(b2+b1)を算出する。距離(a2+a1)を算出することで、送受信回路11で算出された距離a1が送受信回路12で算出された距離a2と同一の対象物Aで反射されたものであることが識別できる。距離(b2+b1)からも同様に、送受信回路11で算出された距離b1が送受信回路12で算出された距離b2と同一の対象物Bで反射されたものであることが識別できる。
【0010】
上記のように、本発明のレーダー装置は、図1の例では、距離a1、b1、a2、b2、a2+a1、b2+b1を算出する。このように、距離(a2+a1)及び距離(b2+b1)を検出することで、距離(a2+b1)及び距離(a1+b2)に相当する点C及び点Dを排除できる。すなわち、対象物の候補を点A及び点Bに絞り込み、式(5)、式(6)、式(7)及び式(8)を排除することができる。これにより、式(1)、式(2)、式(3)、式(4)を用いて、角度∠A12、角度∠A21、角度∠B12、角度∠B21を算出し、対象物A及びBの方向を算出することができる。なお、上では、余弦定理の例で説明したが、正弦定理を用いて角度を算出してもよい。また、上記では対象物が2つの例について示したが、3つ以上でもよい。以上説明したように、距離を用いて方向を算出することができる。
【0011】
具体的には、本発明に係るレーダー装置は、放射状に送信波を送信し、前記送信波が対象物で反射された受信波を受信する分離して配置された2つの送受信回路と、前記送信波が送信されて受信波が受信されるまでの伝搬遅延時間を算出し、算出した前記伝搬遅延時間に基づいて前記対象物までの距離及び前記対象物の方向を算出する信号処理回路とを備え、前記2つの送受信回路のうちの一方は、自ら送信した送信波が前記対象物で反射された受信波を受信し、前記2つの送受信回路のうちの他方は、前記2つの送受信回路の送信した送信波がそれぞれ前記対象物で反射された受信波を受信し、前記信号処理回路は、前記一方の送受信回路で受信した受信波の伝搬遅延時間を算出し、算出した前記伝搬遅延時間に基づいて前記一方の送受信回路と前記対象物との距離を算出し、前記他方の送受信回路で受信した受信波の伝搬遅延時間を算出し、算出した前記伝搬遅延時間に基づいて前記他方の送受信回路と前記対象物との距離及び前記一方の送受信回路から前記対象物を経た前記他方の送受信回路までの距離を算出し、前記2つの送受信回路の距離、算出した前記一方の送受信回路と前記対象物との距離、算出した前記他方の送受信回路と前記対象物との距離及び算出した前記一方の送受信回路から前記対象物を経た前記他方の送受信回路までの距離から、前記一方の送受信回路又は前記他方の送受信回路からの前記対象物の方向を算出することを特徴とするレーダー装置。
【0012】
この発明は、前記一方の送受信回路から前記対象物を経た前記他方の送受信回路までの距離を求めることにより、複数の対象物がある場合でも、僅か2つの送受信回路を用いるだけの簡易な構成で対象物までの距離と方向を算出することができる。
【0013】
本発明に係るレーダー装置では、前記2つの送受信回路は、前記一方の送受信回路と前記他方の送受信回路とで異なるタイミングの前記送信波を送信することが好ましい。
【0014】
この発明は、前記一方の送受信回路の送信した送信波が対象物で反射された受信波と前記他方の送受信回路の送信した送信波が対象物で反射された受信波とを、タイミングの差異を用いて識別することができる。前記一方の送受信回路と前記他方の送受信回路が異なるタイミングで送信波を送信すれば、各送受信回路で前記一方の送受信回路からの受信波と前記他方の送受信回路からの受信波とフィルタなどの手段を用いることなく識別できるので、本発明に係るレーダー装置を簡易に構成できる。
【0015】
本発明に係るレーダー装置では、前記2つの送受信回路は、前記一方の送受信回路と前記他方の送受信回路とで異なる変調周波数の前記送信波を送信することが好ましい。
【0016】
この発明は、前記一方の送受信回路の送信した送信波が対象物で反射された受信波と前記他方の送受信回路の送信した送信波が対象物で反射された受信波とを、変調周波数の差異を用いて識別することができる。前記一方の送受信回路の送信波からの受信波と前記他方の送受信回路の送信波からの受信波とを変調周波数で識別すれば、前記一方の送受信回路及び前記他方の送受信回路が同時に送信できる。2つの送受信回路が同時に送信波を送信することで、レーダー装置が移動する場合でも、送信波を送信する際の送受信回路同士の相対的な位置が固定されるので、信号処理回路が算出する対象物までの距離及び方向の精度を向上することができる。
【0017】
本発明に係るレーダー装置では、前記2つの送受信回路は、前記一方の送受信回路と前記他方の送受信回路とで異なる符号列の送信波を送信することが好ましい。
【0018】
この発明は、前記一方の送受信回路の送信した送信波が対象物で反射された受信波と前記他方の送受信回路の送信した送信波が対象物で反射された受信波とを、送信波に含まれる符号列の差異を用いて識別することができる。前記一方の送受信回路からの受信波と他方の送受信回路からの受信波とを符号列で識別することにより、同一変調周波数の送信波を同時に送信する2つの送受信回路を用いることができる。
【0019】
前記他方の送受信回路は、前記2つの送受信回路の送信した送信波のうち前記一方の送受信回路の送信した送信波を直接受信し、前記信号処理回路は、前記直接受信した前記送信波の直接受信タイミングと既知である前記2つの送受信回路の距離とに基づいて前記一方の送受信回路から送信波が送信された送信タイミングを算出し、前記他方の送受信回路で受信した受信波の伝搬遅延時間のうちの前記一方の送受信回路から前記対象物を経た前記他方の送受信回路までの伝搬遅延時間を前記送信タイミングに基づいて算出するようにしてもよい。
【0020】
この発明は、信号処理回路は、レーダー装置内での信号処理時間を補正することなく送受信回路から送信されたタイミングを取得することができるので、より正確な伝搬遅延時間が算出できる。
【0021】
前記信号処理回路は、前記一方の送受信回路から前記対象物を経た前記他方の送受信回路までの距離に基づいて方向を算出可能な対象物のうちの実際には存在しない対象物を排除し、前記2つの送受信回路の距離と、前記一方の送受信回路と前記対象物との距離と、前記他方の送受信回路と前記対象物との距離とから、余弦定理を用いて前記一方の送受信回路又は前記他方の送受信回路からの前記対象物の方向を算出することが好ましい。
【0022】
この発明は、送受信回路及び対象物を結ぶ直線と、2つの送受信回路を結ぶ直線との成す角度を、それぞれの対象物までの距離に余弦定理を適用することで算出することができる。
【0023】
本発明に係るレーダー装置では、前記信号処理回路の算出した前記距離と方向を直交座標系に変換する変換回路をさらに備えることが好ましい。
【0024】
この発明は、信号処理回路で算出された距離と角度を、X−Y座標に変換することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、距離を用いて方向を算出するので、簡易な構成で対象物までの距離及び方向を検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
添付の図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。以下に説明する実施の形態は本発明の構成の例であり、本発明は、以下の実施の形態に制限されるものではない。
【0027】
(実施形態1)
図2は、本実施形態に係るレーダー装置の一例を示す回路図である。本実施形態に係るレーダー装置は、放射状に送信波104及び204を送信し、送信波104及び204が対象物A及びBで反射された受信波105及び205を受信する分離して配置された2つの送受信回路11及び12と、送信波104及び204が送信されて受信波105及び205が受信されるまでの伝搬遅延時間を算出し、算出した前記伝搬遅延時間に基づいて対象物A及びBまでの距離と当該距離から対象物A及びBの方向を算出する信号処理回路13と、を備えるレーダー装置であって、2つの送受信回路11及び12のうちの一方の送受信回路12は、自ら送信した送信波204が対象物A及びBで反射された受信波205を受信し、2つの送受信回路11及び12のうちの他方の送受信回路11は、2つの送受信回路11及び12の送信した送信波104及び204がそれぞれ対象物A及びBで反射された受信波105及び205を受信し、信号処理回路13は、一方の送受信回路12で受信した受信波205の伝搬遅延時間を算出し、算出した前記伝搬遅延時間に基づいて一方の送受信回路12と対象物A及びBとの距離を算出し、他方の送受信回路11で受信した受信波105及び205の伝搬遅延時間を算出し、算出した前記伝搬遅延時間に基づいて他方の送受信回路11と対象物A及びBとの距離及び一方の送受信回路12から対象物A及びBを経た他方の送受信回路11までの距離を算出し、2つの送受信回路11及び12の距離、算出した一方の送受信回路12と対象物A及びBとの距離、算出した他方の送受信回路11と対象物A及びBとの距離並びに算出した一方の送受信回路12から対象物A及びBを経た他方の送受信回路11までの距離から、一方の送受信回路12又は他方の送受信回路11からの対象物A及びBの方向を算出する。
【0028】
送受信回路12は、パルス信号202を出力するパルス発生回路41と、発振波209を出力する発振器42と、発振波209を分配する分配器43と、パルス発生回路41からのパルス信号202の有無で分配器43からの発振波209の通過と遮断とを切替えて変調パルス信号203を出力するパルス変調器44と、パルス変調器44から出力された変調パルス信号203を増幅する増幅器45と、変調パルス信号203を送信波204として放射状に送信する送信アンテナ46と、送信波204が対象物A、Bで反射された受信波205を受信して変調パルス信号206を出力する受信アンテナ47と、受信アンテナ47が出力した変調パルス信号206を増幅する増幅器48と、分配器42で分配された発振波209で変調パルス信号206を復調してパルス信号207を出力する復調器49と、復調器49から出力されたパルス信号207を増幅する増幅器50と、パルス信号207を検知して信号処理回路13に出力する比較器51と、を含む。
【0029】
送受信回路11は、パルス信号102を出力するパルス発生回路21と、発振波109を出力する発振器22と、発振器22の発振波109を分配する分配器23と、パルス発生回路21からのパルス信号102の有無で分配器23からの発振波109の通過と遮断とを切替えて変調パルス信号103を出力するパルス変調器24と、パルス変調器24から出力された変調パルス信号103を増幅する増幅器25と、変調パルス信号103を送信波104として放射状に送信する送信アンテナ26と、送信波104が対象物で反射された受信波105及び受信波205を受信して変調パルス信号106及び206を出力する受信アンテナ27と、受信アンテナ27が出力した変調パルス信号106及び206を増幅する増幅器28と、分配器23で分配された発振波109で変調パルス信号106及び206を復調してパルス信号107及び207を出力する復調器29と、復調器29から出力されたパルス信号107及び207を増幅する増幅器30と、パルス信号107及び207を検知して信号処理回路13に出力する比較器31と、を含む。
【0030】
信号処理回路13は、送信波104及び204が送信されて受信波105及び205が受信されるまでの伝搬遅延時間に基づいて対象物A及びBまでの距離と当該距離から対象物A及びBの方向を算出するものである。パルス発生回路21又は41が出力するパルス信号102又は202と、信号処理回路13に入力するパルス信号107又は207との間には時間差Toが生じている。これは、時間差Toに相当する距離に対象物が存在することを示す。対象物までの往復距離は(9)式から算出することができる。
【数2】

但し、Lは距離(m)、Toはレーダー装置が送信波を送信してから受信波を受信するまでの時間(sec)、cは光速(m/sec)である。なお、予めレーダー装置内の各回路での伝搬遅延時間を測定しておき、検出した時間をレーダー装置が送信波を送信してから、受信波を受信するまでの時間に換算することで、対象物までの伝搬遅延時間を算出することが好ましい。
【0031】
信号処理回路13に含まれる時間を算出する回路には、パルスカウント方式やフリップフロップ回路方式等が適用できる。パルスカウント方式は、パルス発生回路21又は41でパルス信号102又は202を出力したときをスタートタイミングとし、信号処理回路13にパルス信号107又は207が入力したときをストップタインミングとして、その間にカウントされたパルス数から、時間を算出するものである。
【0032】
図3は、信号処理回路に含まれる時間を算出する回路の一例を示す回路図である。図3に示す回路はセットリセット型のフリップフロップ方式を用いている。図2に示した比較器31及び51のパルス信号107及び207は入力端子61に入力され、増幅器62で増幅された後、波形整形回路63で波形整形される。RZ符号変換回路(不図示)からの信号が入力端子64からフリップフロップ回路65のセット端子に入力される。波形整形回路63からの信号はフリップフロップ回路65のリセット端子に入力される。送信波が送信されて受信波が受信されるまでの時間が短いと、フリップフロップ回路65のセットからリセットまでの時間が短く、送信波が送信されて受信波が受信されるまでの時間が長いと、フリップフロップ回路65のセットからリセットまでの時間が長くなり、このフリップフロップ回路65の出力を低域通過フィルタ66で平滑化すると、出力端子67には対象物までの伝搬遅延時間に対応した直流レベルが出力される。
【0033】
ここで、対象物が2つのときは、図2に示す信号処理回路13に入力するパルス信号107又は207が1つのフレーム内に2つとなる。フリップフロップ回路方式の場合は、フリップフロップ回路65のリセット端子に2度入力されるが、2度目のリセット入力でフリップフロップ回路65が動作することはない。このため、1つのセット端子に対して複数個のリセット端子を用意し、パルス信号107又は207が新たに入力される度に異なるリセット端子に入力される分岐回路をリセット端子の入力側に設けることが好ましい。フリップフロップ回路を複数個用意してもよい。このような構成にすることで、2つの送受信回路で受信した複数の対象物からの受信波の伝搬遅延時間をそれぞれ算出することができる。パルスカウント方式でも、ストップタイミングが2度存在することになるが、フリップフロップ回路と同様に複数個備えるなどして複数の受信波を受信できるような構成にすることが好ましい。
【0034】
送信波104及び204のクロック周期は10MHz以下が望ましい。レーダー装置から対象物までの最大検知距離を16mとすると、1の送信波が送信されて距離16mのところにある対象物で反射されて戻ってくるまでに、次の送信波が送信されると最大検知距離での対象物を検知できなくなる。最大検知距離16mに対象物が存在すると、対象物までの送信波の往復時間が106nsecとなる。106nsecを1周期とするクロック周波数は、9.4MHzである。従って、送信波のクロック周期が10MHz以下であれば、最大検知距離は16m以上を確保することができる。
【0035】
送信波すなわちパルス信号102又は202のパルス幅は2nsec以下が望ましい。レーダー装置から対象物までの最小検知距離を30cmとすると、1の送信波が送信されて距離30cmのところにある対象物で反射されて戻ってくるまでに、1の送信波の送信が完了しないと最小検知距離での対象物を検知できなくなる。最小検知距離30cmでは、送信波の往復時間が2nsecとなる。従って、パルス信号102又は202のパルス幅が2nsec以下であれば、最小検知距離は30cm以下を確保することができる。
【0036】
次に、送信波104及び204が送信されて受信波105及び205が受信されるまでの伝搬遅延時間から対象物A及びBとの距離を算出する方法について図4、図1及び図2を用いて説明する。図4は、本実施形態に係るレーダー装置が送受信する信号の第一例であり、(a)及び(b)はトリガー信号、(c)及び(d)は送信したパルス信号、(e)及び(f)は受信したパルス信号を示す。図4に示すレーダー装置は、2つの送受信回路11及び12は、一方の送受信回路12と他方の送受信回路11とで異なるタイミングの送信波104及び204を送信する。(a)ではトリガー信号101が示されており、時刻t1に出力されている。(b)ではトリガー信号201が示されており、時刻t5に出力されている。(c)ではパルス信号102が時刻t1から時間差Ttの後の時刻t2に出力されている。(d)ではパルス信号202が時刻t5から時間差Ttの後の時刻t6に出力されている。なお、パルス信号102、202が出力されるまでに時間差Ttを要しているが、これは送受信回路11、12がそれぞれトリガー信号を受けてパルス信号を出力するため、処理に遅延が生じるからである。この遅延によって生じる時間差Ttは固定的なものであり、後述するように、信号処理回路13によって把握されている。
【0037】
(e)では、(c)に示したパルス信号102が対象物Aで反射されたパルス信号107が時刻t3で受信されており、(c)に示したパルス信号102が対象物Bで反射されたパルス信号107が時刻t4で受信されている。このとき、時刻t2から時刻t3までの時間差Ta11が、送信波104が対象物Aで反射された受信波105を送受信回路11で受信するまでの伝搬遅延時間である。信号処理回路13は、トリガー信号101のタイミング及びパルス信号107のタイミングが分かると共に、上述の時間差Ttを事前に把握しているので、時間差Ta11を算出することができ、そして算出した時間差Ta11に基づいて距離a1の往復である距離(2×a1)を算出できる。また、時刻t2から時刻t4までの時間差Tb11が、送信波104が対象物Bで反射された受信波105を送受信回路11で受信するまでの伝搬遅延時間であり、信号処理回路13は、同様にして時間差Tb11を求め、当該時間差Tb11に基づいて距離b1の往復である距離(2×b1)を算出できる。
【0038】
さらに(e)では、(d)に示したパルス信号202が対象物Aで反射されたパルス信号207が時刻t9で、(d)に示したパルス信号202が対象物Bで反射されたパルス信号207が時刻t10で受信されている。このとき、時刻t6から時刻t9までの時間差Ta21が、送信波204が対象物Aで反射された受信波205を送受信回路11で受信するまでの伝搬遅延時間である。信号処理回路13は、トリガー信号201のタイミング及びパルス信号207のタイミングが分かると共に、上述の時間差Ttを把握しているので、時間差Ta21を算出することができ、そして算出した時間差Ta21に基づいて図1に示した距離(a2+a1)を算出できる。また、時刻t6から時刻t10までの時間差Tb21が、送信波204が対象物Bで反射された受信波205を送受信回路11で受信するまでの伝搬遅延時間である。信号処理回路13は、同様にして時間差Tb21を求め、当該時間差Tb21に基づいて図1に示した距離(b2+b1)を算出できる。
【0039】
(f)では、(d)に示したパルス信号202が対象物Aで反射されたパルス信号207が時刻t7で受信されており、(d)に示したパルス信号202が対象物Bで反射されたパルス信号207が時刻t8で受信されている。このとき、時刻t6から時刻t7までの時間差Ta22が、送信波204が対象物Aで反射された受信波205を送受信回路12で受信するまでの伝搬遅延時間である。信号処理回路13は、トリガー信号201のタイミング及びパルス信号207のタイミングが分かると共に、上述の時間差Ttを把握しているので、時間差Ta22を算出することができ、そして算出した時間差Ta22に基づいて図1に示した距離a2の往復である距離(2×a2)を算出できる。また、時刻t6から時刻t8までの時間差Tb22が、送信波204が対象物Bで反射された受信波205を送受信回路12で受信するまでの伝搬遅延時間であり、信号処理回路13は、同様にして時間差Tb22を求め、当該時間差Tb22に基づいて図1に示した距離b2の往復である距離(2×b2)を算出できる。
【0040】
図4に示すように、時刻t5は、時刻t4よりも遅い時刻となっており、かつ時刻t7、t8、t9、t10は、次に送信される送信波の送受信回路11のトリガー信号(不図示)よりも早い。すなわち、各送受信回路が受信波を受信した後に、次の送信波を送信している。このように、2つの送受信回路11及び12が一方の送受信回路12と他方の送受信回路と11とで異なるタイミングの送信波を送信することで、送受信回路11が受信したパルス信号107及び207を信号処理回路13で識別することができる。異なるタイミングの送信波は、トリガー信号101及び201を出力するタイミングで制御できるので、他の回路を用いることなく信号処理回路13のみでパルス信号107及び207が識別できる。
【0041】
さらに、送信波104及び204が送信されて受信波105及び205が受信されるまでの伝搬遅延時間から対象物A及びBまでの距離の関係を算出する方法について図5、図1及び図2を用いて説明する。図5は、本実施形態に係るレーダー装置が送受信する信号の第二例であり、(a)及び(b)はトリガー信号、(c)及び(d)は送信したパルス信号、(e)及び(f)は受信したパルス信号を示す。図5に示すレーダー装置は、2つの送受信回路11及び12は、一方の送受信回路12と他方の送受信回路11とで異なる変調周波数の送信波104及び204を送信する。図5に示すレーダー装置は前述の図4とほぼ同様であるが、図5(b)では、トリガー信号201がトリガー信号101と同時刻の時刻t1に出力されており、図5(d)ではパルス信号102と同時刻の時刻t2にパルス信号202が出力されている。さらに図5(e)では、時刻t2から時刻t3までが時間差Ta11、時刻t2から時刻t4までが時間差Tb11、時刻t2から時刻t9までが時間差Ta21、時刻t2から時刻t10までが時間差Tb21となっている。また、図5(f)では、時刻t2から時刻t7までが時間差Ta22、時刻t2から時刻t8までが時間差Tb22となっている。図4で説明したように、上記時間差に基づいて各距離を算出することができる。
【0042】
送信波104及び204の変調周波数が異なれば、変調パルス信号106及び206を変調周波数ごとに分離することにより、パルス信号107とパルス信号207とを識別することができる。変調パルス信号106及び206の分離は、例えば、周波数分離フィルタを用いることができる。この場合は、変調パルス信号106及び206のそれぞれを復調するための復調器29及び発振器22が必要になる。また、変調パルス信号106及び206のそれぞれを復調して、パルス信号107とパルス信号207とを分離して出力する復調器29を用いてもよい。この場合も変調パルス信号106を復調することのできる発振器が必要になる。このように、変調周波数ごとに分離して、信号処理回路13にパルス信号107及び207を別々に入力することができる。
【0043】
以上説明したように、前記一方の送受信回路12からの受信波205と他方の送受信回路11からの受信波105とを変調周波数で識別することにより、送信波を同時に送信する送受信回路11及び12を用いることができる。同時に送信波を送信することで、レーダー装置が移動する場合でも、送信波104及び204を送信する際の送受信回路同士の相対的な位置が固定されるので、信号処理回路13が算出する対象物までの距離及び方向の精度を向上することができる。
【0044】
なお、送受信回路11及び12から送信波を送信するタイミングは異なってもよい。変調周波数及びタイミングが異なることで、送受信回路11及び12から送信波を送信するタイミングに合わせて発振器22の発信波を出力するタイミングを変えれば、異なる変調周波数の受信波を、1つの発振器22、1つの復調器29及び1つの比較器31でそれぞれ処理することができる。
【0045】
さらに、図5に示すレーダー装置は、2つの送受信回路11及び12は、一方の送受信回路12と他方の送受信回路11とで異なる符号列の送信波を送信してもよい。例えば、信号処理回路13の出力するトリガー信号101を「11010100」とし、トリガー信号201を「11010101」としてもよい。また、パルス発生回路21及び41から出力するパルス信号102又は202を符号列とすることもできる。信号処理回路13は、符号列「1101010」に続く信号が0であるか1であるかを識別することによって、パルス信号107とパルス信号207とを識別することができる。識別は、比較器31で行なってもよく、この場合は、パルス信号107とパルス信号207とを分離して信号処理回路13に入力すればよい。なお、符号列「11010101」及び「11010100」は任意の桁でよく、符号列のいずれで識別してもよい。ただし、他の無線信号を受信した場合に備えて、送受信回路を識別する符号列である旨を示す例えば「1101010」のような特定の符号列の後を識別用の符号列とすることが好ましい。さらに、M系列又はGold系列等の周期性のある疑似ランダム系列であってもよく、疑似ランダム系列を用いることによって復調が容易になる。
【0046】
このように送信波104及び204の符号列が異なれば、送受信のタイミングや変調周波数に関係なくパルス信号107とパルス信号207とを信号処理回路13で識別することができる。送受信回路11及び12に同一の送受信回路を用いることもできるので、部品を共有して回路構成を単純化することができる。
【0047】
なお、図4及び図5に示したパルス信号を出力する時刻t2は、送信アンテナ26及び46の送信したタイミングであってもよい。また、トリガー信号101及び201を出力するタイミングでもよい。さらに、パルス信号107及び207を受信する各時刻は、受信アンテナ27又は47が受信波を受信するタイミングでもよい。また、比較器31又は51でパルス信号107又は207を検知するタイミングでもよい。
【0048】
さらに、信号処理回路13は、一方の送受信回路12と他方の送受信回路11との距離と、一方の送受信回路12と対象物との距離と、他方の送受信回路11と対象物との距離と、一方の送受信回路12から対象物を経た他方の送受信回路11までの距離とから、余弦定理を用いて一方の送受信回路12又は他方の送受信回路11からの対象物A、Bの方向を算出することが好ましい。信号処理回路13は、前述の図1に示されるように、送受信回路12から対象物を経た他方の送受信回路11までの距離がそれぞれ距離(a2+a1)及び距離(b2+b1)であることから、方向を算出可能な対象物のうちの実際には存在しない対象物を排除し、対象物の候補を点A、Bに絞り込み、算出した距離(2×a1)、距離(2×b1)、距離(2×a2)、距離(2×b2)、距離(a2+a1)及び距離(b2+b1)に基づいて、距離d、a1、b1、a2及びb2を前述の式(1)〜式(4)(すなわち点A、点Bについての余弦定理の式)に適用し、角度∠A12、角度∠A21、角度∠B12、角度∠B21を算出し、対象物A及びBの方向を算出することができる。
【0049】
本発明に係るレーダー装置において、前記信号処理回路は、前記一方の送受信回路から前記対象物を経た前記他方の送受信回路までの距離に略等しくなる前記一方の送受信回路と前記対象物との距離及び前記他方の送受信回路と前記対象物との距離の組み合わせを特定して、方向を算出可能な対象物のうちの実際には存在しない対象物を排除し、前記2つの送受信回路の距離と、前記一方の送受信回路と前記対象物との距離と、前記他方の送受信回路と前記対象物との距離とから、余弦定理を用いて前記一方の送受信回路又は前記他方の送受信回路からの前記対象物の方向を算出することを特徴とする。
【0050】
信号処理回路13は、前述の図1に示されるように、送受信回路12から対象物を経た他方の送受信回路11までの距離がそれぞれ距離(a2+a1)及び距離(b2+b1)であることから、算出した距離(a2+a1)と略等しくなる距離a1及び距離a2の組み合わせを特定し、算出した距離(b2+b1)と略等しくなる距離b1及び距離b2の組み合わせを特定して、対象物の候補を点A、Bに絞り込み、算出した距離(2×a1)、距離(2×b1)、距離(2×a2)、距離(2×b2)、距離(a2+a1)及び距離(b2+b1)に基づいて、距離d、a1、b1、a2及びb2を前述の式(1)〜式(4)(すなわち点A、点Bについての余弦定理の式)に適用し、角度∠A12、角度∠A21、角度∠B12、角度∠B21を算出し、対象物A及びBの方向を算出することができる。
【0051】
さらに、信号処理回路13は、算出した距離と方向を直交座標系に変換する座標変換回路をさらに備えてもよい。座標変換回路を備えることにより、上記例のようにして算出された距離a1、b1、a2及びb2、角度∠A12、角度∠A21、角度∠B12及び角度∠B21を、X−Y座標に変換することができる。
【0052】
(実施形態2)
図6は、実施形態2に係るレーダー装置の一例を示す回路図である。本実施形態に係るレーダー装置は、図2に示したレーダー装置と以下の点が異なる。まず図2に示した信号処理回路13に代えて、信号変換回路300、301及び距離算出回路302を含む信号処理回路15が設けられている。また図2のレーダー装置では、信号処理回路13がトリガー信号101、201を出力していたが、本実施形態では、トリガー信号101、201を出力する独立したタイミング発生回路14が設けられている。
【0053】
タイミング発生回路14は、図2の場合と同様に、パルス発生回路21、41に対するトリガー信号101、201を発生して出力する。タイミング発生回路14は、この場合、送受信回路11又は送受信回路12の近傍に設けられており、距離算出回路302とは離れた位置に設けられている。
【0054】
信号変換回路300、301はそれぞれ、送受信回路11、12との入出力インターフェイスとして各送受信回路11、12の付近に配置されている。信号変換回路300、301はそれぞれ、送信波104及び204が送信されて受信波105及び205が受信されるまでの伝搬遅延時間に基づいて対象物までの距離と対象物の方向を算出する距離算出回路302と接続されている。距離算出回路302は、送受信回路11、12とは離れた位置に設けられており、例えば検出された対象物の距離や方向を示す表示装置の近傍に設けられている。
【0055】
送受信回路11は、信号変換回路300を介してトリガー信号101を受けると、図2の場合と同様に、パルス信号102を発生して送信波104を送出すると共に、対象物から反射された受信波105を受信する。受信された受信波105は、復調器29によって復調処理された後、パルス信号107として比較器31から出力される。また送受信回路11は、後述するように、送受信回路12が送出した送信波204を直接波210として直接受信すると共に、当該送信波204が対象物によって反射された受信波205を受信する。受信されたこれらの信号210、205も、同様にして、復調器29によって復調処理された後、パルス信号207として比較器31から出力される。
【0056】
信号変換回路300は、トリガー信号101とパルス信号107に基づいて、送信波104を送出してから受信波105を受信するまでの伝搬遅延時間を求め、求められた伝搬遅延時間をディジタル信号310に変換して距離算出回路302に送出する。同様に、信号変換回路300は、送受信回路12から直接受信した直接波210のパルス信号207及び送受信回路12の送信波204に対する受信波205のパルス信号207に基づいて、送受信回路12が送信波204を送出してから受信波205を受信するまでの伝搬遅延時間を求め、求められた伝搬遅延時間をディジタル信号311に変換して距離算出回路302に送出する。
【0057】
送受信回路12は、信号変換回路301を介してトリガー信号201を受けると、図2の場合と同様に、パルス波202を発生して送信波204を送出すると共に、対象物から反射された受信波205を受信する。受信された受信波205は、復調器49によって復調処理された後、パルス信号207として比較器51から出力される。
【0058】
信号変換回路301は、トリガー信号201とパルス信号207に基づいて、送信波204を送出してから受信波205を受信するまでの伝搬遅延時間を求め、求められた伝搬遅延時間をディジタル信号312に変換して距離算出回路302に送出する。
【0059】
このようにして本実施形態においては、各送受信回路11、12の付近に設けられた信号変換回路300、301によって伝搬遅延時間を求め、その伝搬遅延時間をディジタル信号310、311、312として距離算出回路302に出力するようにしたことにより、距離算出回路302と送受信回路11、12との距離がはなれている場合でも、ノイズ耐久性に強いレーダー装置を実現することができる。
【0060】
次に、図7及び図6を参照して、信号変換回路300、301における伝搬遅延時間の算出手順を詳述する。図7は、実施形態2に係るレーダー装置が送受信する信号の一例であり、(a)及び(b)はトリガー信号、(c)及び(d)は送信したパルス信号、(e)及び(f)は受信したパルス信号を示す。この例においても、図4の場合と同様に、レーダー装置は一方の送受信回路12と他方の送受信回路11とで異なるタイミングの送信波104及び204を送信する。
【0061】
図7(a)、(c)及び(e)に示すように、トリガー信号101に対して時間差Ttだけ遅れた時刻t2で送受信回路11から送信波104が送信され、その送信波104の受信波105が時刻t3、t4でパルス信号107として信号変換回路300により受信されている。信号変換回路300は、トリガー信号101のタイミングを把握していると共に、時間差Ttを予め把握しているので、送信したパルス信号102と受信したパルス信号107との時間差Ta11、Tb11を算出することができ、この算出した時間差Ta11、Tb11を伝搬遅延時間としてディジタル信号310に変換して距離算出回路302へ出力する。
【0062】
図7(b)、(d)及び(f)に示すように、トリガー信号201に対して時間差Ttだけ遅れた時刻t6で送受信回路12から送信波204が送信され、その送信波204の受信波205が時刻t7、t8でパルス信号207として信号変換回路301により受信されている。信号変換回路301は、トリガー信号201のタイミングを把握していると共に、時間差Ttを予め把握しているので、送信したパルス信号202と受信したパルス信号207との時間差Ta22、Tb22を算出することができ、この算出した時間差Ta22、Tb22を伝搬遅延時間としてディジタル信号312に変換して距離算出回路302へ出力する。
【0063】
図7(e)に示すように、時刻t6で送受信回路12から送信されたパルス信号202は、時刻t11で直接波210がパルス信号207として受信され、また送受信回路12から送信されたパルス信号202の対象物A、Bによる受信波205がパルス信号207として信号変換回路300で時刻t9、t10で受信されている。信号変換回路300は、送受信回路12に対するトリガー信号201を受信していないので、送受信回路12の送信波204が送信された時刻である送信タイミングt6をこのままでは把握することはできない。しかしながら、信号変換回路300は、送受信回路11、12間の距離dを事前に把握しており、その距離dを直接波210が伝搬するのに要する時間差Tdを把握している。この時間差Tdは、図7(e)から分かるように、送信タイミングt6と直接波210を直接受信した時刻である直接受信タイミングt11との時間差である。従って、直接受信したパルス信号の直接受信タイミングt11からこの時間差Tdを引くことにより送受信回路12のパルス信号を送信した送信タイミングt6を算出することができる。
【0064】
信号変換回路300は、このようにして求めた送受信回路12の送信タイミングt6と受信波205の受信タイミングt9、t10との時間差を求めることにより、一方の送受信回路12から送信された送信波204が対象物で反射され、他方の送受信回路11で受信されるまでの伝搬遅延時間Ta21、Tb21を算出する。信号変換回路300は、この伝搬遅延時間Ta21、Tb21をディジタル信号311に変換して距離算出回路302へ出力する。
【0065】
このように、直接受信した直接波210のタイミング(すなわち直接受信タイミングt11)を用いて一方の送受信回路12の送信タイミング(時刻t6)を算出することで、図6に示したように、信号処理回路15とタイミング発生回路14とを分離することができる。さらに、信号処理回路15は、レーダー装置内での信号処理時間を補正することなく送信アンテナ46から送信されたタイミングを取得することができるので、より正確な伝搬遅延時間が算出できる。
【0066】
なお、上記実施形態1及び実施形態2において、送受信回路11のみが送受信回路12から送信された送信波が対象物で反射された受信波を受信しているが、送受信回路12も送受信回路11から送信された送信波が対象物で反射された受信波を受信してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本願発明のレーダー装置は、車両の衝突防止やオートクルーズを目的とした車載用装置に適用することができるほか、固定のレーダー装置としても使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明に係るレーダー装置が対象物の距離及び方向を測定する模式図である。
【図2】実施形態1に係るレーダー装置の一例を示す回路図である。
【図3】信号処理回路に含まれる時間を算出する回路の一例を示す回路図である。
【図4】実施形態1に係るレーダー装置が送受信する信号の第一例であり、(a)及び(b)はトリガー信号、(c)及び(d)は送信したパルス信号、(e)及び(f)は受信したパルス信号を示す。
【図5】実施形態1に係るレーダー装置が送受信する信号の第二例であり、(a)及び(b)はトリガー信号、(c)及び(d)は送信したパルス信号、(e)及び(f)は受信したパルス信号を示す。
【図6】実施形態2に係るレーダー装置の一例を示す回路図である。
【図7】実施形態2に係るレーダー装置が送受信する信号の一例であり、(a)及び(b)はトリガー信号、(c)及び(d)は送信したパルス信号、(e)及び(f)は受信したパルス信号を示す。
【符号の説明】
【0069】
11、12:送受信回路、13、15:信号処理回路、14:タイミング発生回路、21、41:パルス発生回路、22、42:発振器、23、43:分岐器、24、44:変調器、25、45、28、48、30、50:増幅器、27、47:受信アンテナ、29、49:復調器、31、51:比較器、61:入力端子、62:増幅器、63:波形整形回路、64:入力端子、65:フリップフロップ回路、66:低域通過フィルタ、67:出力端子、101、201:トリガー信号、102、202、107、207:パルス信号、103、203、106、206:変調パルス信号、105、204:送信波、105、205:受信波、300、301:信号変換回路、302:距離算出回路、310、311、312:ディジタル信号、t1〜t11:時刻、To、Tt、Td、Ta11、Tb11、Ta21、Tb21、Ta22、Tb22:時間差



【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射状に送信波を送信し、前記送信波が対象物で反射された受信波を受信する分離して配置された2つの送受信回路と、
前記送信波が送信されて受信波が受信されるまでの伝搬遅延時間を算出し、算出した前記伝搬遅延時間に基づいて前記対象物までの距離及び前記対象物の方向を算出する信号処理回路と、を備えるレーダー装置であって、
前記2つの送受信回路のうちの一方は、自ら送信した送信波が前記対象物で反射された受信波を受信し、
前記2つの送受信回路のうちの他方は、前記2つの送受信回路の送信した送信波がそれぞれ前記対象物で反射された受信波を受信し、
前記信号処理回路は、前記一方の送受信回路で受信した受信波の伝搬遅延時間を算出し、算出した前記伝搬遅延時間に基づいて前記一方の送受信回路と前記対象物との距離を算出し、前記他方の送受信回路で受信した受信波の伝搬遅延時間を算出し、算出した前記伝搬遅延時間に基づいて前記他方の送受信回路と前記対象物との距離及び前記一方の送受信回路から前記対象物を経た前記他方の送受信回路までの距離を算出し、前記2つの送受信回路の距離、算出した前記一方の送受信回路と前記対象物との距離、算出した前記他方の送受信回路と前記対象物との距離及び算出した前記一方の送受信回路から前記対象物を経た前記他方の送受信回路までの距離から、前記一方の送受信回路又は前記他方の送受信回路からの前記対象物の方向を算出することを特徴とするレーダー装置。
【請求項2】
前記2つの送受信回路は、前記一方の送受信回路と前記他方の送受信回路とで異なるタイミングの前記送信波を送信することを特徴とする請求項1に記載のレーダー装置。
【請求項3】
前記2つの送受信回路は、前記一方の送受信回路と前記他方の送受信回路とで異なる変調周波数の前記送信波を送信することを特徴とする請求項1に記載のレーダー装置。
【請求項4】
前記2つの送受信回路は、前記一方の送受信回路と前記他方の送受信回路とで異なる符号列の送信波を送信することを特徴とする請求項1に記載のレーダー装置。
【請求項5】
前記他方の送受信回路は、前記2つの送受信回路の送信した送信波のうち前記一方の送受信回路の送信した送信波を直接受信し、
前記信号処理回路は、前記直接受信した前記送信波の直接受信タイミングと既知である前記2つの送受信回路の距離とに基づいて前記一方の送受信回路から送信波が送信された送信タイミングを算出し、前記他方の送受信回路で受信した受信波の伝搬遅延時間のうちの前記一方の送受信回路から前記対象物を経た前記他方の送受信回路までの伝搬遅延時間を前記送信タイミングに基づいて算出することを特徴とする請求項1から4に記載のいずれかのレーダー装置。
【請求項6】
前記信号処理回路は、前記一方の送受信回路から前記対象物を経た前記他方の送受信回路までの距離に基づいて方向を算出可能な対象物のうちの実際には存在しない対象物を排除し、前記2つの送受信回路の距離と、前記一方の送受信回路と前記対象物との距離と、前記他方の送受信回路と前記対象物との距離とから、余弦定理を用いて前記一方の送受信回路又は前記他方の送受信回路からの前記対象物の方向を算出することを特徴とする請求項1から5に記載のいずれかのレーダー装置。
【請求項7】
前記信号処理回路の算出した前記距離と方向を直交座標系に変換する変換回路をさらに備えることを特徴とする請求項1から6に記載のいずれかのレーダー装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−125947(P2006−125947A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−313120(P2004−313120)
【出願日】平成16年10月27日(2004.10.27)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】