説明

レーダ装置およびそのレーダ信号処理方法

【課題】距離と相対距離の大小関係に係わらず、距離と相対速度とを取り違えることのないレーダ装置を得る。
【解決手段】複数の算出式によりターゲットの距離Rまたは相対速度Vを算出する距離・速度算出手段303と、算出された距離または相対速度から次回観測時点における予測距離算出式を求める予測手段304と、現観測時点の距離算出式が予測距離算出式と等しいか否かを判定する相関判定手段305と、予測距離算出式と等しい場合のみに算出結果を出力するターゲット選択手段306とを備えている。予測手段304が次回観測時点における距離および相対速度と距離算出式を予測して、相関判定手段305が現観測時点の結果と予測手段304の結果について相関を判定し、ターゲット選択手段306が相関判定手段305の判定結果を受けて相関がある現時点の算出結果のみを出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、たとえば車両などの移動体に搭載されるレーダ装置であって、検知対象となる物体(以下、「ターゲット」と記す)を検知して、ターゲットの距離や相対速度を測定するためのレーダ装置およびそのレーダ信号処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両などの移動体に搭載されるこの種のレーダ装置においては、ターゲットの検知距離範囲が数m〜数百m程度であることから、FMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)方式でターゲットの距離・相対速度を測定している。
【0003】
従来のレーダ装置およびそのレーダ信号処理方法によれば、送信信号として、時間経過につれて周波数が高くなるアップ変調期間と、時間経過につれて周波数が低くなるダウン変調期間とからなる連続波(FMCW)信号を使用し、ターゲットの距離Rおよび相対速度Vを、以下の式(1)、(2)により算出している(たとえば、特許文献1参照)。
【0004】
R=(fU+fD)/(2×Kr) ・・・(1)
V=(fU−fD)/(2×Kv) ・・・(2)
【0005】
ただし、式(1)、(2)において、fUはアップ変調期間に観測されるビート周波数、fDはダウン変調期間に観測されるビート周波数である。
また、Krは距離から周波数への換算係数であり、Kvは相対速度から周波数への換算係数である。
【0006】
なお、上記特許文献1においては、ターゲットの検知性能を向上させるために、或る観測時点(現観測時点)で算出されたターゲットの距離Rおよび相対速度Vから、次回観測時点における距離Rおよび相対速度Vを予測するとともに、上記式(1)、(2)に基づいて次回観測時点におけるビート周波数fU、fDを予測し、次回観測時点で得られる複数のビート周波数fU、fDのうち、予測値に近いビート周波数fU、fDを選択して距離Rおよび相対速度Vを算出している。
【0007】
【特許文献1】特開平11−271429号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来のレーダ装置およびそのレーダ信号処理方法では、FMCW方式の原理上、ターゲットの距離Rおよび相対速度Vに関する大小関係から、常に上記式(1)、(2)から距離Rおよび相対速度Vが算出されるとは限らないので、特に距離Rおよび相対速度Vの算出値が近似している場合には、距離Rと相対速度Vとを取り違えてしまう可能性があるという課題があった。
【0009】
この発明は、この発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、或る観測時点で算出された距離および相対速度から、次回観測時点での予測距離算出式を求めて、次回観測時点では、予測距離算出式と同じ式による距離の算出結果を選択することにより、距離および相対速度の大小関係に関わらず距離と相対速度とを取り違えることなく、正確にターゲットを検知することのできるレーダ装置およびそのレーダ信号処理方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明によるレーダ装置は、アップ変調期間およびダウン変調期間からなる周波数変調された送信信号に基づく送信波をターゲットに照射して、ターゲットからの反射波を受信信号として受信し、送信信号および受信信号をミキシングして生成されるビート信号を観測することによりターゲットを検知し、ターゲットとの距離または相対速度を測定するためのレーダ装置であって、現観測時点における1つのターゲットに対する候補として、複数の算出式により1つのターゲットとの距離または相対速度を算出する距離・相対速度算出手段と、現観測時点で算出された距離または相対速度から、次回観測時点における予測距離算出式を求める予測手段と、現観測時点の距離算出式が、前回観測時点から予測された現観測時点における予測距離算出式と等しいか否かを判定する相関判定手段と、現観測時点の距離算出式が前回観測時点から予測された予測距離算出式と等しい場合のみに距離・相対速度算出手段の算出結果を出力するターゲット選定手段とを備えたものである。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、距離および相対速度の大小関係に関わらず、距離と相対速度とを取り違えることなく正確にターゲットを検知することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
実施の形態1.
以下、図面を参照しながら、この発明の実施の形態1について説明する。
図1はこの発明の実施の形態1に係るレーダ装置を示すブロック構成図である。
図1において、ターゲット100を検知するためのレーダ装置は、制御部101と、電圧発生回路102と、電圧制御発振器(VCO:Voltage Controlled Oscillator)103と、分配回路104と、サーキュレータ105と、送受信兼用のアンテナ106と、ミキサ107と、アンプ108と、バンドパスフィルタ(BPF:Band Pass Filter)109と、AD(Analog to Digital)変換器110と、メモリ111と、信号処理部112とにより構成されている。
【0013】
電圧発生回路102は、制御部101の制御下で制御電圧aを発生し、VCO103は、制御電圧aに応じて、アップ変調期間Tuおよびダウン変調期間Tdからなる周波数変調されたFMCW信号bを出力する。
分配回路104は、VCO103からのFMCW信号bに基づく送信信号W1をサーキュレータ105およびミキサ107に分配する。
サーキュレータ105は、送信時においては、送信信号W1をアンテナ106に送出し、受信時においては、アンテナ106から受信される受信信号W1をミキサ107に入力する。
【0014】
アンテナ106は、サーキュレータ105からの送信信号W1に基づく送信波X1をターゲット100に照射するとともに、ターゲット100からの反射波X2を受信信号W2として受信する。
受信信号W2は、サーキュレータ105を介してミキサ107に入力され、ミキサ107において、送信信号W1(ローカル信号)とミキシングされる。
ミキサ107は、送信信号W1および受信信号W2をミキシングして、アップ変調期間Tuおよびダウン変調期間Tdに応じたビート周波数fcを有するビート信号cを生成する。ビート信号cは、アンプ108、BPF109、AD変換器110およびメモリ111を介して信号処理部112に入力される。
【0015】
信号処理部112は、ビート信号cを観測することにより、ターゲット100を検知してターゲット100との距離Rまたは相対速度Vを測定し、測定結果を外部装置(移動体の運動制御装置や表示装置など)に出力する。
信号処理部112は、CPU(Central Processing Unit)、または、CPUおよびDSP(Digital Signal Processor)により構成されており、後述するように、距離・相対速度算出手段と、予測手段と、相関判定手段と、ターゲット選定手段とを備えている。
【0016】
信号処理部112内において、距離・相対速度算出手段は、現観測時点における1つのターゲット100に対する候補として、複数の算出式により1つのターゲット100との距離Rまたは相対速度Vを算出する。
予測手段は、現観測時点で算出された距離Rまたは相対速度Vから、次回観測時点における予測距離算出式を求める。
相関判定手段は、現観測時点の距離算出式が、前回観測時点から予測された現観測時点における予測距離算出式と等しいか否かを判定する。
ターゲット選定手段は、現観測時点の距離算出式が前回観測時点から予測された予測距離算出式と等しい場合のみに距離・相対速度算出手段の算出結果(距離R、相対速度V)を出力する。
【0017】
次に、図2を参照しながら、図1に示したこの発明の実施の形態1による回路動作について説明する。
図2は図1内の各信号の電圧波形および周波数波形を示す説明図である。
図2において、まず、電圧発生回路102は、制御部101の制御下で動作タイミングなどが制御されることにより、アップ変調期間Tuおよびダウン変調期間Tdからなる時間的に三角波状に変化する制御電圧aを生成してVCO103に印加する。
【0018】
VCO103は、印加された制御電圧aに応じて、周波数が時間的に変化する周波数変調連続波(FMCW)からなるFMCW信号bを生成し、分配回路104に入力する。
分配回路104は、FMCW信号bを送信信号W1としてサーキュレータ105およびミキサ107に分配する。
FMCW信号bの周波数fbの時間変化は、図2内の実線(送信信号W1に相当)で示すように、アップ変調期間Tuおよびダウン変調期間Tdに対応した波形となる。
【0019】
分配回路104は、VCO103から入力されたFMCW信号bの一部を、送信信号W1としてサーキュレータ105を介してアンテナ106に送出し、残りのFMCW信号b(送信信号W1)をローカル信号としてミキサ107に送出する。
アンテナ106は、サーキュレータ105を介して入力された送信信号W1を送信波X1として空間に放射する。
このとき、送信波X1の照射方向にターゲット100などの電波反射物が存在すれば、放射された送信波X1の一部がターゲット100などで反射して反射波X2となり、再び空間を伝播してアンテナ106に到達し、図2内の破線で示すように、受信信号W2となって受信される。
【0020】
アンテナ106から受信された受信信号W2は、サーキュレータ105を介してミキサ107に入力される。
ミキサ107は、受信信号W2(図2内の破線参照)と、分配回路104からの送信信号W1(図2内の実線参照)のローカル信号とのミキシングを行い、ビート信号cを生成する。
ビート信号cの時間に対する周波数変化は、図2においてビート周波数fcとして示されている。
【0021】
ミキサ107で生成されたビート信号cは、アンプ108で増幅され、BPF109で不要な周波数成分を除去された後、AD変換器110に入力される。
AD変換器110は、制御部101の制御下で、制御電圧aのアップ変調期間Tuおよびダウン変調期間Tdの両方の観測期間に同期して、ビート信号cを取り込み、デジタル電圧値Dcに変換してメモリ111に入力する。
【0022】
メモリ111は、制御部101の制御下で、制御電圧aのアップ変調期間Tuおよびダウン変調期間Tdの両方の観測期間に同期して書き込み状態となり、AD変換器110から入力されるビート信号cのデジタル電圧値Dcを記録する。
また、メモリ111は、制御部101の制御下で、制御電圧aのアップ変調期間Tuおよびダウン変調期間Tdの両方の観測期間が終了すると、記録したデジタル電圧値Dcの読み出しが可能な状態となる。
【0023】
信号処理部112は、制御部101の制御下で、制御電圧aのアップ変調期間Tuおよびダウン変調期間Tdの両方の観測期間が終了した時点で、アップ変調におけるビート信号cのデジタル電圧値Dcuと、ダウン変調におけるビート信号cのデジタル電圧値Dcdとを取り込み、ターゲット100の距離Rおよび相対速度Vを算出し、その算出結果を外部装置に出力する。
【0024】
次に、図3を参照しながら、図1内の信号処理部112の機能構成について具体的に説明する。
図3は信号処理部112の機能構成を示すブロック図である。
図3において、信号処理部112は、制御部101の制御下で機能する信号処理制御部300と、信号処理制御部300を介して制御される周波数分析手段301、周波数抽出手段302、距離・速度算出手段303、予測手段304、相関判定手段305およびターゲット選択手段306とを備えている。
【0025】
周波数分析手段301は、メモリ111内のデジタル電圧値Dcを読み取って周波数を分析する。
周波数抽出手段302は、周波数分析手段301の分析結果に基づくビート周波数fCを抽出する。
距離・速度算出手段303は、距離Rまたは相対速度Vを算出して予測手段304に入力する。
【0026】
予測手段304は、今回の算出結果(距離R、相対速度V)に基づく次回観測時点での予測結果(距離算出式)をメモリ111に入力する。
相関判定手段305は、メモリ111内の距離算出式を参照して、現観測時点の距離算出式が、前回観測時点から予測された現観測時点における予測距離算出式と等しいか否かを判定する。
ターゲット選択手段306は、相関判定手段305の判定結果とメモリ111の内容とから、検知対象となるターゲット100を選択する。
【0027】
次に、図1および図2とともに、図4のフローチャートを参照しながら、図3に示したこの発明の実施の形態1に係る信号処理部112の信号処理動作について説明する。
まず、制御部101は、アップ変調期間Tuでビート信号cのデジタル電圧値Dcをメモリ111に記録させ、ダウン変調期間Tdでビート信号cのデジタル電圧値Dcをメモリ111に記録させる(ステップS1)。
【0028】
続いて、信号処理制御部300は、ステップS1によるビート信号cの記録処理が終了した時点で、制御部101の制御下で、信号処理部112内の全体の制御を開始する。
まず、周波数分析手段301は、信号処理制御部300の制御下で、メモリ111からビート信号のデジタル電圧値Dcを読出し、ビート信号cを周波数スペクトルに変換する(ステップS2)。
このとき、たとえばフーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)処理などを行うことにより、アップ変調期間Tuにおけるビート信号cの周波数スペクトルと、ダウン変調期間Tdにおけるビート信号cの周波数スペクトルとを取得する。
【0029】
また、周波数抽出手段302は、信号処理制御部300の制御下で、ステップS2で取得した周波数スペクトルから、たとえば、あらかじめ設定されたしきい値よりも大きなスペクトル振幅値に対して最大ピーク検知を行うなどにより、ターゲット100に対応すると思われるビート周波数fCを抽出し、距離・速度算出手段303に入力する(ステップS3)。
【0030】
すなわち、ステップS2、S3において、ターゲット100に対応するアップ変調期間Tuのビート周波数fU(i){i=1〜I}と、ターゲット100に対応するダウン変調期間Tdのビート周波数fD(j){j=1〜J}とが、周波数分析手段301から、周波数抽出手段302を介して距離・速度算出手段303に入力される。
【0031】
ここで、予測手段304、相関判定手段305およびターゲット選択手段306で使用されるターゲット候補データセットについて説明する。
ターゲット候補データセットは、データ要素として、或る観測時点kにおける距離Ro(k)、相対速度Vo(k)および距離算出式Eo(k)と、検知判定フラグD(k)、距離R(k)および相対速度V(k)から予測された次回観測時点k+1における予測距離R1(k)、予測相対速度V1(k)および予測距離算出式E1(k)とを有する。
【0032】
また、ターゲット候補データセットは複数存在しており、たとえば、n番目のターゲット候補データセットTCDS(k)[n]は、以下の式のように表現されて、メモリ111に確保される。ただし、以下の式において、n=1〜Nである。
【0033】
TCDS(k)[n]={Ro(k)[n]、Vo(k)[n]、Eo(k)[n]、D(k)[n]、R1(k)[n]、V1(k)[n]、E1(k)[n]}
【0034】
次に、FMCW方式のレーダ装置における距離Rおよび相対速度Vの測定原理について説明する。
なお、以下の説明において、相対速度Vは、接近する場合に負(<0)の値を示すものと定義する。
FMCW方式のレーダ装置においては、距離R、相対速度Vのターゲット100に対して、アップ変調期間Tuでのビート周波数fuおよびダウン変調期間Tdでのビート周波数fdは、距離から周波数への換算係数Krと、速度から周波数への換算係数Kvとを用いて、それぞれ、以下の式(3)、(4)で表わされる。
【0035】
fu=−Kr×R−Kv×V ・・・(3)
fd=Kr×R−Kv×V ・・・(4)
【0036】
ただし、式(3)、(4)が成立するのは、ビート信号cが複素信号として観測される場合である。
したがって、式(3)、(4)を成立させるためには、複素信号の実部に相当する信号と、複素信号の虚部に相当する信号との両方の信号を生成して記録する必要があり、これを実現するためには、2系統の受信回路が必要となる。
【0037】
しかし、装置の小型化が望まれる車両などへの搭載用レーダにおいては、1系統の受信回路を用いて、複素信号の実部に相当する信号のみを生成して記録することが多い。
この場合、距離R、相対速度Vのターゲット100に対して、アップ変調期間Tuのビート周波数fUおよびダウン変調期間Tdのビート周波数fDは、以下の式(5)、(6)で表わされる。
【0038】
fU=|fu|=|−Kr×R−Kv×V| ・・・(5)
fD=|fd|=|Kr×R−Kv×V| ・・・(6)
【0039】
ただし、式(5)、(6)において、Kr>0、R>0、Kv>0である。
また、アップ/ダウン変調期間Tu、Tdのビート周波数fU、fDの関係が、fU>fDであれば、V>0となり、fU<fDであれば、V<0となる性質がある。
したがって、Kr×R>|Kv×V|の場合には、上記式(1)、(2)の関係が成立するが、Kr×R<|Kv×V|の場合には、以下の式(7)、(8a)、(8b)が成立する。
【0040】
R=|fU−fD|/(2×Kr) ・・・(7)
V=(fU+fD)/(2×Kv) (fU>fDの場合)・・・(8a)
V=−(fU+fD)/(2×Kv) (fU<fDの場合)・・・(8b)
【0041】
すなわち、Kr×Rの値と|Kv×V|の値との大小関係によって、上記式(1)、(2)によって距離Rおよび相対速度Vが算出される場合と、式(7)、(8a)、(8b)によって距離Rおよび相対速度Vが算出される場合が存在することになる。
【0042】
上記性質を踏まえて、信号処理部112内の距離・速度算出手段303は、信号処理制御部300の制御下で、周波数抽出手段302から入力されたビート周波数fCから距離および相対速度を算出し、予測手段304に入力する(ステップS4)。
【0043】
すなわち、ステップS4において、距離・速度算出手段303は、アップ/ダウン変調期間Tu、Tdでのビート周波数fU(i){i=1〜I}およびfD(j){j=1〜J}に基づき、現観測時点kにおける距離として、上記式(1)による距離Radd(k)を算出し、現観測時点kにおける相対速度として、上記式(2)による相対速度Vsub(k)を算出し、次回観測時点における予測演算を行うための予測手段304に入力する。
【0044】
また、ステップS4において、距離・速度算出手段303は、現観測時点kにおける距離として、上記式(7)による距離Rsub(k)を算出し、現観測時点kにおける相対速度として、上記式(8a)または(8b)による相対速度Vadd(k)を算出し、予測手段304に入力する。
【0045】
予測手段304は、信号処理制御部300の制御下で、距離・速度算出手段303で算出された現観測時点kにおける距離Radd(k)および相対速度Vsub(k)から、たとえば、公知の予測フィルタ技術(α−βフィルタやカルマンフィルタなど)を利用して、次回観測時点k+1における予測距離R1add(k)および予測相対速度V1sub(k)を算出する。
また、予測手段304は、Kr×R1add(k)の値と|Kv×V1sub(k)|の値との大小関係から、次回観測時点k+1における距離算出式が、上記式(1)と同一であるか、上記式(7)と同一であるかを予測する(ステップS5)。
【0046】
そして、以下の式(9)〜(13)、(14a)、(14b)で表されるデータ、すなわち、距離Radd(k)、相対速度Vsub(k)、距離算出式が足し算(addとする)、予測距離R1add(k)、予測相対速度V1sub(k)、予測距離算出式(足し算、または引き算)を、ターゲット候補データセットに加える。
【0047】
Ro(k)[n]=Radd(k) ・・・(9)
Vo(k)[n]=Vsub(k) ・・・(10)
Eo(k)[n]=add ・・・(11)
R1(k)[n]=R1add(k) ・・・(12)
V1(k)[n]=V1sub(k) ・・・(13)
E1(k)[n]=add (距離算出式が式(1)と予測された場合)・・・(14a)
E1(k)[n]=sub (距離算出式が式(7)と予測された場合)・・・(14b)
【0048】
また、予測手段304は、信号処理制御部300の制御下で、距離・速度算出手段303で算出された現観測時点kにおける距離Rsub(k)および相対速度Vadd(k)から、次回観測時点k+1における予測距離R1sub(k)および予測相対速度V1add(k)を、予測距離R1add(k)および予測相対速度V1sub(k)と同様にして算出する。
【0049】
さらに、予測手段304は、Kr×R1sub(k)の値と|Kv×V1add(k)|の値との大小関係から次回観測時点k+1における距離算出式が、式(1)であるか、または、式(7)であるかを予測する。
そして、得られた以下の式(15)〜(19)、(20a)、(20b)で表されるデータ、すなわち、距離Rsub(k)、相対速度Vadd(k)、距離算出式が引き算(subとする)、予測距離R1sub(k)、予測相対速度V1add(k)、予測距離算出式(足し算、または引き算)を、ターゲット候補データセットに加える。
【0050】
Ro(k)[n+1]=Rsub(k) ・・・(15)
Vo(k)[n+1]=Vadd(k) ・・・(16)
Eo(k)[n+1]=sub ・・・(17)
R1(k)[n+1]=R1sub(k) ・・・(18)
V1(k)[n+1]=V1add(k) ・・・(19)
E1(k)[n+1]=add(距離算出式が式(1)と予測された場合)・・・(20a) E1(k)[n+1]=sub(距離算出式が式(7)と予測された場合)・・・(20b)
【0051】
次に、相関判定手段305は、信号処理制御部300の制御下で、前回観測時点k−1のターゲット候補データセットが存在する場合に、p番目のターゲット候補データセットTCDS(k−1)[p]にある予測距離R1(k−1)[p]、予測相対速度V1(k−1)[p]および予測距離算出式E1(k−1)[p]と、現観測時点kにおける距離Ro(k)[q]、相対速度Vo(k)[q]および距離算出式Eo(k)[q]とについて、以下の式(21)〜(23)で表される条件を満足するか否かを判定する(ステップS6)。
【0052】
E1(k)[p]=Eo(k−1)[q] ・・・(21)
|Ro(k)[q]−R1(k−1)[p]|≦Δr ・・・(22)
|Vo(k)[q]−V1(k−1)[p]|≦Δv ・・・(23)
【0053】
ただし、条件式(21)〜(23)において、Δrはあらかじめ設定された距離差許容値であり、Δvはあらかじめ設定された速度差許容値であり、それぞれ、条件判定用のしきい値となる。
また、p=1〜N、q=1〜Nであり、ステップS6の判定処理は、p、qについて総当りで実行されるものとする。
【0054】
もし、現観測時点の結果が前回観測時点での予測結果と相関しており、ステップS6において、上記条件式(21)〜(23)を満足する(すなわち、YES)と判定されれば、ターゲット候補データセットTCDS(k)[q]において、検知判定フラグD(k)[q]=1とし、現観測時点の算出結果(距離R、相対速度V)を出力し(ステップS7)、ステップS8に移行する。
【0055】
一方、現観測時点の結果が前回観測時点での予測結果と相関しておらず、ステップS6において、上記条件式(21)〜(23)を満足しない(すなわち、NO)と判定されれば、D(k)[q]=0として、直ちにステップS8に移行する。
【0056】
ステップS7において、ターゲット選択手段306は、信号処理制御部300の制御下で、ターゲット候補データセットTCDS(k)[q](q=1〜N)について、検知判定フラグD(k)[q]の値を参照し、D(k)[q]=1であれば、ターゲット100と見なして、距離Ro(k)[q]および相対速度Vo(k)[q]を出力する。
一方、D(k)[q]=0であれば、何も出力しない。
【0057】
最後に、信号処理制御部300は、現観測時点の処理が終了したか否かを判定し(ステップS8)、現観測時点の処理が終了した(すなわち、YES)と判定されれば、現観測時点の処理が終了したことを制御部101に伝える。
これを受けて、制御部101は、動作終了を判定して、図4の処理動作を終了する。
一方、ステップS8において、現観測時点の処理が終了していない(すなわち、NO)と判定されれば、ステップS1に戻って次の観測を開始し、上記ステップS1〜S8を繰り返し実行する。
【0058】
以上のように、この発明の実施の形態1によれば、アップ変調期間Tuとダウン変調期間Tdからなる周波数変調された送信信号W1と受信信号W2とをミキシングして生成されるビート信号cを観測し、対象物体となるターゲット100を検知して、ターゲット100との距離Rや相対速度Vを測定するために、距離・速度算出手段303と、予測手段304と、相関判定手段305と、ターゲット選択手段306とを備えている。
【0059】
距離・速度算出手段303は、現観測時点における1つのターゲット100に対する候補として、複数の算出式により距離Rおよび相対速度Vを算出する。
予測手段304は、前回観測時点で算出された距離Rおよび相対速度Vから1回後(現時点)の観測時点における距離算出式を予測するとともに、現観測時点で算出された距離および相対速度から次回観測時点における距離算出式を求める。
また、相関判定手段305は、現観測時点の距離算出式が前回観測時点から予測された現観測時点における距離算出式と等しいか否かを判定し、ターゲット選択手段306は、前回観測時点で予測した距離算出式と等しい式で距離Rが算出された現観測時点の結果のみを選択する。
これにより、距離Rおよび相対速度Vの大小関係に関わらず、距離Rと相関速度Vとを取り違えることなく、ターゲット100を正確に検知することができる。
【0060】
また、前回観測時点における1つのターゲット100に対する候補として、アップ変調期間Tuに観測されるビート周波数fUと、ダウン変調期間Tdに観測されるビート周波数fDと、距離から周波数への換算係数Krと、速度から周波数への換算係数Kvとを用いて、第1の算出式(上記式(1)、(2)からなる)と、第2の算出式(上記式(7)、(8a)、(8b)からなる)との2通りの算出式により、距離Rおよび相対速度Vを算出するようにしたので、距離Rおよび相対速度Vの大小関係に関わらず、距離Rと相対速度Vとを取り違えることなく、ターゲット100を正確に検知することができる。
【0061】
また、相関判定手段305は、前回観測時点k−1における予測距離R1(k−1)、予測相対速度V1(k−1)および予測距離算出式E1(k−1)と、現観測時点kにおける距離Ro(k)、相対速度Vo(k)および距離算出式Eo(k)とについて、あらかじめ設定された距離差許容値Δrおよび速度差許容値Δvをしきい値として、上記3つの条件式(21)〜(23)を用いて、現観測時点の結果が前回観測時点で予測された現観測時点の結果と等しいか否か(現観測時点kの距離算出式Eo(k)が予測距離算出式E1(k−1)と等しいか否か)を判定する。
これにより、距離Rおよび相対速度Vの大小関係に関わらず、距離Rと相対速度Vとを取り違えることなく、ターゲット100を正確に検知することができる。
【0062】
また、この発明の実施の形態1よるレーダ信号処置方法によれば、前回観測時点における1つのターゲット100に対する候補として、複数の算出式により距離Rおよび相対速度Vを算出し(ステップS4)、前回観測時点で算出された距離および相対速度から1回後(現時点)の観測における距離算出式を予測し(ステップS5)、現観測時点の距離算出式が前回観測時点から予測された現観測時点における距離算出式と等しいか否かを判定し(ステップS6)、前回観測時点で予測した距離算出式と等しい式で距離が算出された現観測時点の結果のみを選択して出力する(ステップS7)ようにしたので、距離Rおよび相対速度Vの大小関係に関わらず、距離Rと相対速度Vとを取り違えることなく、ターゲット100を正確に検知することができる。
【0063】
また、前回観測時点における1つのターゲット100に対する候補として、2通りの算出式により距離Rおよび相対速度Vを算出するようにし、また、3つの条件式(21)〜(23)により現観測時点の結果が前回観測時点で予測された現観測時点の結果と等しいかを判定するようにしたので、距離Rおよび相対速度Vの大小関係に関わらず、距離Rと相対速度Vとを取り違えることなく、ターゲット100を正確に検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】この発明の実施の形態1に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図2】図1内の各信号の電圧および周波数の時間変化を示す波形図である。
【図3】図1内の信号処理部の機能構成を具体的に示すブロック図である。
【図4】この発明の実施の形態1に係る信号処理手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0065】
101 制御部、103 電圧制御発振器(VCO)、104 分配回路、106 アンテナ、107 ミキサ、112 信号処理部、300 信号処理制御部、303 距離・速度算出手段、304 予測手段、305 相関判定手段、306 ターゲット選択手段、a 制御電圧、b FMCW信号、c ビート信号、R 距離、V 相対速度。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アップ変調期間およびダウン変調期間からなる周波数変調された送信信号に基づく送信波をターゲットに照射して、前記ターゲットからの反射波を受信信号として受信し、
前記送信信号および前記受信信号をミキシングして生成されるビート信号を観測することにより前記ターゲットを検知し、
前記ターゲットとの距離または相対速度を測定するためのレーダ装置であって、
現観測時点における1つのターゲットに対する候補として、複数の算出式により前記1つのターゲットとの距離または相対速度を算出する距離・相対速度算出手段と、
前記現観測時点で算出された距離または相対速度から、次回観測時点における予測距離算出式を求める予測手段と、
前記現観測時点の距離算出式が、前回観測時点から予測された現観測時点における予測距離算出式と等しいか否かを判定する相関判定手段と、
前記現観測時点の距離算出式が前記前回観測時点から予測された予測距離算出式と等しい場合のみに前記距離・相対速度算出手段の算出結果を出力するターゲット選定手段と
を備えたことを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記距離・相対速度算出手段は、
前記アップ変調期間に観測されるビート周波数fUと、前記ダウン変調期間に観測されるビート周波数fDと、前記距離から周波数への換算係数Krと、前記相対速度から周波数への換算係数Kvとを用いて、前記ターゲットの距離Rおよび相対速度Vを、
以下の式(1)、(2)からなる第1の算出式と、
R=(fU+fD)/(2×Kr) ・・・(1)
V=(fU−fD)/(2×Kv) ・・・(2)
以下の式(3)〜(5)からなる第2の算出式と、
R=|fU−fD|/(2×Kr) ・・・(3)
V=(fU+fD)/(2×Kv) (fU>fDの場合) ・・・(4)
V=−(fU+fD)/(2×Kv) (fU<fDの場合) ・・・(5)
により算出することを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記相関判定手段は、
前記前回観測時点k−1における予測距離R1(k−1)、予測相対速度V1(k−1)および予測距離算出式E1(k−1)と、
前記現観測時点kにおける距離Ro(k)、相対速度Vo(k)および距離算出式Eo(k)とについて、
あらかじめ設定された距離差許容値Δrおよび速度差許容値Δvをしきい値として、以下の条件式(6)〜(8)
E1(k)[p]=Eo(k−1)[q] ・・・(6)
|Ro(k)[q]−R1(k−1)[p]|≦Δr ・・・(7)
|Vo(k)[q]−V1(k−1)[p]|≦Δv ・・・(8)
を用いて、前記現観測時点kの距離算出式Eo(k)が前記予測距離算出式E1(k−1)と等しいか否かを判定することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のレーダ装置。
【請求項4】
アップ変調期間およびダウン変調期間からなる周波数変調された送信信号をターゲットに照射して、前記ターゲットからの反射信号を受信信号とし、
前記送信信号および前記受信信号をミキシングして生成されるビート信号を観測することにより前記ターゲットを検知し、
前記ターゲットとの距離または相対速度を測定するためのレーダ装置のレーダ信号処理方法であって、
現観測時点における1つのターゲットに対する候補として、複数の算出式により前記1つのターゲットとの距離または相対速度を算出する第1のステップと、
前記現観測時点で算出された距離または相対速度から、次回観測時点における予測距離算出式を求める第2のステップと、
前記現観測時点の距離算出式が、前回観測時点から予測された現観測時点における予測距離算出式と等しいか否かを判定する第3のステップと、
前記現観測時点の距離算出式が前記前回観測時点から予測された予測距離算出式と等しい場合のみに前記距離・相対速度算出手段の算出結果を出力する第4のステップと
を備えたことを特徴とするレーダ装置のレーダ信号処理方法。
【請求項5】
前記第1のステップは、
前記アップ変調期間に観測されるビート周波数fUと、前記ダウン変調期間に観測されるビート周波数fDと、前記距離から周波数への換算係数Krと、前記相対速度から周波数への換算係数Kvとを用いて、前記ターゲットの距離Rおよび相対速度Vを、
以下の式(1)、(2)からなる第1の算出式と、
R=(fU+fD)/(2×Kr) ・・・(1)
V=(fU−fD)/(2×Kv) ・・・(2)
以下の式(3)〜(5)からなる第2の算出式と、
R=|fU−fD|/(2×Kr) ・・・(3)
V=(fU+fD)/(2×Kv) (fU>fDの場合) ・・・(4)
V=−(fU+fD)/(2×Kv) (fU<fDの場合) ・・・(5)
により算出することを特徴とする請求項4に記載のレーダ装置のレーダ信号処理方法。
【請求項6】
前記第3のステップは、
前記前回観測時点k−1における予測距離R1(k−1)、予測相対速度V1(k−1)および予測距離算出式E1(k−1)と、
前記現観測時点kにおける距離Ro(k)、相対速度Vo(k)および距離算出式Eo(k)とについて、
あらかじめ設定された距離差許容値Δrおよび速度差許容値Δvをしきい値として、以下の条件式(6)〜(8)
E1(k)[p]=Eo(k−1)[q] ・・・(6)
|Ro(k)[q]−R1(k−1)[p]|≦Δr ・・・(7)
|Vo(k)[q]−V1(k−1)[p]|≦Δv ・・・(8)
を用いて、前記現観測時点kの距離算出式Eo(k)が前記予測距離算出式E1(k−1)と等しいか否かを判定することを特徴とする請求項4または請求項5に記載のレーダ装置のレーダ信号処理方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−266907(P2006−266907A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−86171(P2005−86171)
【出願日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】