説明

レーダ装置および類似装置

【課題】この発明の目的は、自船近傍であっても航跡記憶・表示の禁止を必要な領域でのみ行い、それ以外の領域では、レーダ映像と航跡とを同時に記憶・表示することができるレーダ装置および類似装置を提供することにある。
【解決手段】スイープ毎に受信データXのレベルに基づいて物標の有無を示す航跡用データWを生成する航跡用データ生成手段と、前記受信データXのレベルに基づいて航跡記憶禁止領域を設定する航跡記憶禁止領域設定手段と、前記航跡記憶禁止領域外で且つ物標有りの航跡用データWを検出した場合にのみ所定レベルからなる航跡記憶用データYを生成する航跡記憶用データ生成手段と、前記航跡記憶用データYを前記スイープの少なくとも一回転毎に更新記憶した航跡画像データを生成する航跡画像データ生成手段と、前記航跡画像データを読み出して表示する表示手段と、を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、極座標系の受信データを直交座標系の画像データに変換して表示するレーダ装置および類似装置、特に航跡表示を行うレーダ装置および類似装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自船の全方位の物標を検知するためのレーダ装置では、レーダアンテナを所定周期で回転させながら極座標系の受信データを取得する。レーダ装置は、この極座標系の受信データを直交座標系の画像データに変換して画像メモリに書き込む。レーダ装置は、所定タイミングで画像メモリに記憶された各画像データを読み出して表示する。
【0003】
また、このようなレーダ装置は、検出した物標の軌跡、例えば、船であれば航跡を表示する機能を有するものも存在する。レーダ装置は、物標を検出すると、物標有りを示す航跡用データを生成して、直交座標系の航跡画像データに変換して航跡画像メモリに書き込む。レーダ装置は、前記画像メモリの各画像データとともに、航跡画像メモリに記憶された各航跡画像データを読み出して表示する。
【0004】
ところで、レーダにより自船周囲の検知を行う場合、レーダアンテナから送信した電磁波が直接受信回路に回り込んで受信されるメインバングや、海況により強弱する海面反射や、自船の移動により船尾からできる航走波による反射等により、比較的レベルの高い不要信号を受信してしまうことがある。これらの不要信号は、海岸や他船、ブイ等の真の物標からのものでないので、表示されることが望まれない。
【0005】
これらの不要信号は、常に自船近傍に現れるので、自船に対する相対位置は変化しない。しかしながら、自船の絶対位置変化に伴い、自船近傍に現れる不要信号の絶対位置は変化する。このため、絶対位置を基準として物標等の軌跡を表示する方式では、自船の絶対位置変化に伴って、不要信号の軌跡は広がってしまう。したがって、自船近傍の領域では、不要信号の軌跡により他の物標(例えば、他船)の航跡が埋もれてしまい、識別することができなくなってしまう。
【0006】
これを解決する方法として、自船に近いほど受信感度を低くする調整方法や、送信終了後からの所定時間に亘り受信感度を抑圧する方法がある。また、特許文献1では、送信終了後からの所定時間に亘り、全周囲方向に対して航跡記憶を行わない方法を用いている。
【特許文献1】特許第3711204号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、自船に近いほど受信感度を低くする調整方法や、送信終了後からの所定時間に亘り受信感度を抑圧する方法では、自船近傍に存在する必要な物標のエコーも取得することができなくなってしまい、航行上の安全性を保持することが難しくなる。
【0008】
また、特許文献1の方法では、自船を中心とする全方位に対して等距離の円形領域にて航跡記憶および航跡表示を行わないものであるが、現実に全方位において不要信号が、常に同様に存在するとは限らない。すなわち、特許文献1の方法では、航跡記憶および航跡表示を禁止する必要のない領域まで、記憶・表示を禁止している。
【0009】
したがって、この発明の目的は、自船近傍であっても航跡記憶・表示の禁止を必要な領域でのみ行い、それ以外の領域では、レーダ映像と航跡とを同時に記憶・表示することができるレーダ装置および類似装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明のレーダ装置および類似装置は、受信データ記憶手段、航跡用データ生成手段、禁止領域検出データ生成手段、航跡記憶禁止領域設定手段、航跡記憶用データ生成手段、航跡画像データ生成手段、および表示手段を備えることを特徴としている。
【0011】
受信データ記憶手段は、スイープを回転させて得られる極座標系の受信データを該スイープ毎に順次取得し、少なくとも1スイープ分の受信データを記憶する。航跡用データ生成手段は、受信データのレベルに基づいて物標の有無を示す航跡用データを生成する。
【0012】
禁止領域検出データ生成手段は、受信データのレベルに基づいて航跡記憶禁止領域の設定に用いられる禁止領域検出データを生成する。
【0013】
航跡記憶禁止領域設定手段は、各スイープの受信開始タイミングを航跡記憶禁止領域の開始タイミングとし、受信開始タイミングから順に取得した禁止領域検出データに基づいて航跡記憶禁止領域の終了タイミングを設定することで、スイープ毎の航跡記憶禁止領域を設定する。
【0014】
航跡記憶用データ生成手段は、航跡記憶禁止領域外で且つ物標有りの航跡用データを検出した場合にのみ所定レベルからなる航跡記憶用データを生成する。
【0015】
航跡画像データ生成手段は、初期状態で全ての航跡画像データが0レベルに設定されており、該航跡記憶用データ生成手段から航跡記憶用データを取得すると、直交座標系の航跡画像データに変換して、スイープの一回転毎に更新記憶した各航跡画像データを生成する。
【0016】
表示手段は、航跡画像データを読み出して表示する。
【0017】
この構成では、受信データに基づいて、スイープの1回転前までの物標の状況を示す航跡画像データが生成される。この航跡画像データの生成は、次のように行われる。
【0018】
まず、航跡用データ生成手段で、物標が検出されると、物標有りを示す航跡用データが生成される。また、この処理と並行して、航跡記憶禁止領域設定手段で、探知波の受信開始タイミングが航跡記憶禁止領域の開始タイミングに設定される。不要信号が発生する方位のスイープでは、受信開始直後から不要信号による受信データのレベルが高い状態が続き、不要信号が発生していない方位のスイープでは、受信開始後から不要信号による受信データレベルが高い状態が続くとは限らない。これを利用し、航跡記憶禁止領域設定手段では、各スイープに対して、受信データレベルが低い状態となるタイミングを検出して、航跡記憶禁止領域の終了タイミングが設定される。
【0019】
航跡記憶用データ生成手段では、航跡画像データ記憶手段に記憶されたスイープ一回転前の航跡画像データと、スイープ毎に生成される航跡記憶禁止領域と、航跡用データとに基づいて、航跡記憶禁止領域内で新規に発生した信号は不要信号と、航跡記憶禁止領域外で発生した信号は物標とみなされ、航跡記憶用データが生成される。また、航跡記憶用データ生成手段では、スイープの一回転前に物標があり且つ今回は物標無しの航跡用データが検出された場合や、スイープの一回転前に物標があり且つ今回は自船の移動等により相対的に航跡記憶禁止領域内に物標が入った場合に対しては、別途設定された周期からなる減算タイミングに従ってレベルを低下させたデータが生成される。この減算タイミングは、予め設定された周期で発生され、スイープ一回転分の期間に亘り出力される。
【0020】
これにより、新規に物標を検出して航跡記憶できる領域は、スイープ単位で設定される。また、航跡記憶禁止領域外から航跡記憶禁止領域内に自船の移動等により相対的に航跡が入ってきても、減算タイミングに基づいて設定される所定時間までは、航跡記憶禁止領域内であっても該当する航跡画像データが引き続き生成される。
【0021】
このように生成された航跡画像データが表示手段で表示されることで、自船からの方位毎に設定された航跡記憶禁止領域内で、不必要な航跡が表示されず、航跡記憶禁止領域外で必要な物標の航跡が表示される。さらに、航跡記憶禁止領域内であっても、元々相対的に航跡記憶禁止領域外に存在した物標の航跡は引き続き表示される。
【0022】
また、この発明のレーダ装置および類似装置の航跡記憶禁止領域設定手段は、各スイープの受信開始タイミングにおいて所定レベルの航跡禁止設定データを生成する。そして、禁止領域検出データのレベルが禁止検出閾値未満であることを検出すると、前記航跡禁止設定データを所定値減算し、前記航跡禁止設定データのレベルが0レベル以外の時に、前記禁止領域検出データのレベルが禁止検出閾値以上であることを検出すると、所定レベルVmの航跡禁止設定データを生成し、前記航跡禁止設定データのレベルが0レベルになるタイミングを終了タイミングとすることを特徴としている。
【0023】
この構成では、具体的な航跡記憶禁止領域の終了タイミングの設定方法として、物標の検出時に所定レベルの航跡禁止設定データを設定し、物標が検出されなければ航跡禁止設定データのレベルを低下させていく。これにより、所定時間に亘り物標が検出されないことで終了タイミングが設定される。
【0024】
また、この発明のレーダ装置および類似装置の禁止領域検出データ生成手段は、前記受信データXが物標検知閾値以上であれば、所定レベルからなる禁止領域検出データZ(n)を生成し、前記受信データXが前記物標検知閾値未満であれば、前記スイープの一回転前に対応する禁止領域検出データZ(n−1)を所定値減算させた禁止領域検出データZ(n)を生成することを特徴としている。
【0025】
この構成では、生成された禁止領域検出データをフィードバックして利用することで、取得した受信データだけでなく、スイープの一回転前に対応した受信データをも考慮した禁止領域検出データが生成される。
【発明の効果】
【0026】
この発明によれば、自船近傍を中心とする全方位に等距離な領域で新規航跡記憶を禁止することがなく、新規航跡記憶を禁止すべき領域に対してのみ航跡記憶を行わないことができる。これにより、自船近傍においても、不要信号が発生する方位、領域を除く全領域でレーダ映像および航跡を記憶・表示することができる。この結果、従来よりも高い安全性を与えられるレーダ映像および航跡表示を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の第1の実施形態のレーダ装置について図を参照して説明する。なお、本実施形態では、レーダ装置を例に説明するが、ソナー等、物標を検知して表示する装置であれば、本実施形態は適用することができる。
【0028】
図1は本実施形態のレーダ装置の主要構成を示すブロック図である。
図2(A)は図1に示した禁止領域検出部12の主要構成を示すブロック図であり、図2(B)は航跡記憶禁止データNRの生成方法を説明するためのタイミングチャート図である。
図3(A)は自船500の走航状況を示す図であり、図3(B)は特許文献1に示した従来の航跡記憶禁止領域701の設定概念を示す図であり、図3(C)は本実施形態のレーダ装置による航跡記憶禁止領域700の設定概念を示す図である。
【0029】
図4はスイープ毎の航跡記憶禁止領域を示した図であり、(A)は画像で見た場合を示し、(B)はタイミングチャートで見た場合を示す。
図5は表示器に表示される表示画像の一例を示す図であり、(A)は従来の航跡記憶禁止領域を設定しない場合を示し、(B)は従来の特許文献1に記載の方法を用いた場合を示し、(C)は本実施形態の方法を用いた場合を示す。
【0030】
本実施形態のレーダ装置のレーダアンテナ1は、所定回転周期で水平面を回転しながら、回転周期とは異なる送受信周期で、パルス状電波を放射するとともに、自装置周囲にいる物標からの反射波を極座標系で受信する。レーダアンテナ1は、受信信号を受信部2に出力するとともに、スイープ角度データを描画アドレス発生部5に出力する。
【0031】
受信部2は、レーダアンテナ1からの受信信号を検波して増幅し、AD変換部3に出力する。AD変換部3は、このアナログ形式の受信信号を複数ビットからなるデジタルデータ(受信データ)に変換する。
【0032】
スイープメモリ4は、デジタル変換された1スイープ分の受信データを実時間で記憶し、次の送信により得られる受信データが再び書き込まれるまでに、この1スイープ分の受信データX(n)を、探知画像表示メモリ6に出力する。この際、スイープメモリ4は、1スイープ分の受信データX(n)を、航跡用データ生成部7と禁止領域検出データ生成部11とにも出力する。
【0033】
描画アドレス発生部5は、スイープ回転の中心を開始番地として、中心から周囲に向かって、所定方向(例えば船首方向)を基準としたアンテナ角度θとスイープメモリ4の読み出し位置rとから、対応する直交座標系で配列された探知画像表示メモリ6の画素を指定する番地を作成する。描画アドレス発生部5は、具体的には次式を実現するハードウェアにより構成される。
【0034】
X=Xs+r・sinθ
Y=Ys+r・cosθ
ただし、X,Yは探知画像表示メモリ6の画素を指定する番地であり、Xs,Ysはスイープの中心番地であり、rは中心からの距離であり、θはスイープ(アンテナ)の角度である。
【0035】
探知画像表示メモリ6は、アンテナ1の一回転分(1スキャン)の探知画像データを記憶する容量を有するメモリであり、スイープメモリ4から順次入力される極座標系の受信データX(n)を、描画アドレス発生部5で生成した番地に基づく直交座標系の探知画像データに変換して記憶する。これにより、探知画像表示メモリ6には、最新の受信データによる画像が記憶される。
【0036】
航跡用データ生成部7は、スイープメモリ4から入力された受信データX(n)に基づいて物標の有無を示す航跡用データW(n)を生成し、表示航跡データ生成部9に出力する。より具体的には、航跡用データ生成部7は、予め所定レベルからなる物標検知用閾値を記憶しており、当該物標検知用閾値と受信データX(n)とを比較する。航跡用データ生成部7は、受信データX(n)が物標検知用閾値以上のレベルであることを検出すると、「1」(Hi)の航跡用データW(n)を出力する。一方、航跡用データ生成部7は、受信データが物標検知用閾値未満のレベルであることを検出すると、「0」(Low)の航跡用データW(n)を出力する。
【0037】
禁止領域検出データ生成部11は、スイープメモリ4から入力された受信データX(n)に基づいて物標の有無を示す禁止領域検出データZ(n)を生成し、禁止領域検出部12に出力する。ここで、禁止領域検出データZ(n)は、航跡用データW(n)と同様の方法で生成される。すなわち、禁止領域検出データ生成部11は、予め所定レベルからなる物標検知用閾値を記憶しており、当該物標検知用閾値と受信データX(n)とを比較する。禁止領域検出データ生成部11は、受信データX(n)が物標検知用閾値以上のレベルであることを検出すると、「1」(Hi)の禁止領域検出データZ(n)を出力する。一方、禁止領域検出データ生成部11は、受信データX(n)が物標検知用閾値未満のレベルであることを検出すると、「0」(Low)の禁止領域検出データZ(n)を出力する。なお、禁止領域検出データ生成部11で利用される物標検知用閾値と、航跡用データ生成部7で利用される物標検知用閾値とは、異なる値を設定しても良い。
【0038】
禁止領域検出部12は、図2(A)に示すように、禁止判定用データ生成部121、航跡記憶禁止データ生成部122を備える。
【0039】
禁止判定用データ生成部121は、スイープ受信開始信号SS、航跡記憶禁止データNR、禁止領域検出データZ(n)に基づいて、禁止判定用データLOADを生成し、航跡記憶禁止データ生成部122に出力する。具体的に、航跡記憶禁止データNRの生成方法を、図2(B)を参照して説明する。
【0040】
スイープ受信開始信号SS(図2(B)最上段)は、各スイープの受信開始タイミングから所定時間を示す信号であり、スイープの受信開始タイミングを受信部2から受けて、「1」(Hi)となり、予め設定した時間の経過後に、「0」(Low)となる。
航跡記憶禁止データNR(図2(B)の上から五段目)の初期値は、「1」(Hi)である。
【0041】
禁止判定用データ生成部121は、禁止領域検出データZ(n)(図2(B)の上から二段目)と、航跡記憶禁止データNRとがともに「1」であれば、「1」(Hi)の中間判定用データ(図示せず)を生成し、それ以外の場合は、「0」(Low)の中間判定用データ(図示せず)を生成する。禁止判定用データ生成部121は、スイープ受信開始信号SSと中間判定用データとのいずれか一方が「1」(Hi)であるときには、「1」(Hi)の禁止判定用データLOAD(図2(B)の上から三段目)を生成し、それ以外の場合は、「0」(Low)の禁止判定用データLOADを生成する。
【0042】
航跡記憶禁止データ生成部122は、禁止判定用データLOADが「1」(Hi)の場合、Valueデータ(図2(B)の上から四段目)のレベルを予め設定した所定レベルVmで記憶する。例えば、Valueデータが4ビットの場合、Valueデータはレベル0〜15で表され、禁止判定用データLOADが「1」(Hi)であれば、レベル「15」のValueデータが記憶される。
【0043】
一方、航跡記憶禁止データ生成部122は、禁止判定用データLOADが「0」(Low)の場合、記憶されているValueデータのレベルを一段階減算して再記憶する。例えば、記憶されているValueデータのレベルが「15」であれば、「1」減算して、レベル「14」のValueデータが再記憶される。この際、航跡記憶禁止データ生成部122は、すでにValueデータのレベルが「0」の場合には減算を行わず、そのまま保持する。これにより、航跡記憶禁止データ生成部122は、禁止判定用データLOADが所定期間に亘り連続して「0」レベルでなければ、「0」でないValueデータを生成する。すなわち、受信開始タイミングから経時的に、物標有りの受信データX(n)が頻繁に検出され続ける限りは、「0」でないValueデータを生成する。この際、Valueデータが「0」にならないための物標有りの受信データX(n)が検出される頻度は、Valueデータの最大値に依存する。例えば、前述の4ビットでValueデータを表す場合には、禁止領域検出データZ(n)が、15個以上連続して「0」にならないかぎり、「0」でないValueデータを生成する。
【0044】
航跡記憶禁止データ生成部122は、記憶しているValueデータが「0」であれば、「0」(Low)の航跡記憶禁止データNRを出力し、Valueデータが「0」でなければ、「1」(Hi)の航跡記憶禁止データNRを出力する。出力された航跡記憶禁止データNRは、表示航跡データ生成部9に入力される。これにより、禁止領域検出部12は、受信開始タイミングから経時的に物標が頻繁に検出される期間に亘り、「1」の航跡記憶禁止データNRを出力し、一度、「0」の航跡記憶禁止データNRを出力すると、これ以降は、「0」の航跡記憶禁止データNRを出力する。
【0045】
表示航跡データ生成部9は、スイープ毎に、航跡データ生成部7から入力された航跡用データW(n)と、禁止領域検出部12から出力された航跡記憶禁止データNRと、航跡画像表示メモリ10に記憶されているスイープ一回転前の航跡画像データY(n−1)と、減算タイミング発生部8からの減算信号Cとに基づいて、今回の航跡画像データY(n)を生成して、航跡画像表示メモリ10に出力する。この際、減算タイミング発生部8は、予め設定した減算周期に準じて、「1」(Hi)の減算信号Cを、スイープ1回転分の時間長で生成し、表示航跡データ生成部9に与える。
【0046】
具体的に、表示航跡データ生成部9は、航跡用データW(n)が「1」(Hi)であり、且つ航跡記憶禁止データNRが「0」(Low)であれば、今回の航跡画像データY(n)を、予め設定した最大レベルVYmaxに設定する。例えば、航跡画像データY(n)が4ビットで記憶する場合、VYmaxは「15」となる。表示航跡データ生成部9は、航跡用データW(n)が「0」(Low)の場合、または航跡記憶禁止データNRが「1」(Hi)の場合で、且つ減算タイミング(減算信号C=1)の場合に、スイープ一回転前の航跡画像データY(n−1)から一段階減算したレベルを、今回の航跡画像データY(n)=Y(n−1)−1として出力する。一方、表示航跡データ生成部9は、航跡用データW(n)が「0」(Low)の場合、または航跡記憶禁止データNRが「1」(Hi)の場合で、且つ減算タイミングでない(減算信号C=0)の場合には、スイープ一回転前の航跡画像データY(n−1)をそのまま今回の航跡画像データY(n)として出力する。
【0047】
これにより、航跡画像表示メモリ10には、スイープ毎に設定された航跡記憶禁止領域より外方では、物標有りの航跡用データW(n)=「1」が検出されると、新たに最大レベルとなる航跡画像データY(n)が入力される。また、航跡画像表示メモリ10には、すでに、航跡記憶禁止領域外で航跡が記憶・表示されていた物標の航跡が、自船の移動等により航跡記憶禁止領域内に入ったとしても、減算タイミングに準じた時間長に亘り、徐々に低レベル化する航跡画像データY(n)が入力される。
【0048】
航跡画像表示メモリ10は、アンテナ1の一回転分(1スキャン)の航跡画像データを記憶する容量を有するメモリであり、表示航跡データ生成部9からスイープ毎に順次入力される極座標系の航跡画像データY(n)を、描画アドレス発生部5で生成した番地に基づく直交座標系の探知画像データに変換して記憶する。これにより航跡画像表示メモリ10には、最新の航跡画像データによる画像が記憶される。なお、航跡画像表示メモリ10の各航跡画像データの初期値は「0」に設定されており、表示航跡データ生成部9から順次入力される航跡画像データY(n)により順次上書きされていく。
【0049】
表示出力合成部13は、表示器14から与えられた表示タイミングに従い、探知画像表示メモリ6の各画素の探知画像データと、航跡画像表示メモリ10の各画素の航跡画像データとを順次読み出す。表示出力合成部13は、取得した探知画像データおよび航跡画像データのレベルに応じた発光強度情報や色情報を表示器14に与える。
表示器14は、CRTやLCDからなり、与えられた発光強度情報や色情報に準じて、発光、発色を行う。
【0050】
このような構成および処理を行うことで、スイープ毎すなわち方位毎に航跡記憶禁止領域が設定される。そして、この航跡記憶禁止領域では、探知画像は表示されるが、新たに記憶開始される航跡は発生せず、表示されない。この際、既に航跡記憶禁止領域外から連続する航跡は引き続き表示される。一方、航跡記憶禁止領域外では、探知画像が表示されるとともに、新たに記憶開始される航跡も発生する。これにより、メインバングや航走波のような自船近傍に発生するエコーに対する航跡を表示させず、これらよりも遠方に発生する他船等の航跡のみを表示させることができる。この際、航跡記憶禁止領域は、スイープ毎すなわち方位毎に設定されるので、航走波等の不要信号が発生する方位には、長い航跡記憶禁止領域が設定され、不要信号が発生しない方位には、短い航跡記憶禁止領域が設定される。より具体的に、図3〜図5を例に説明する。
【0051】
自船500に対して、本実施形態の構成および処理を行うと、図3(C)に示すように、航走波600の発生する方位、すなわち、自船500の側方から後方にかける領域では、航走波600の長さに応じて、他の方位よりも長い航跡記憶禁止領域700が設定される。これを、図4を用いて説明すると、航走波600等の不要信号が殆ど発生していないスイープ方位SWθ1に対して、航走波600の発生するスイープ方位SWθ2,SWθ3の方が、航跡記憶禁止領域が長く設定される。さらには、スイープ方位SWθ2,SWθ3のなかでも、より航走波600の影響が大きいスイープ方位SWθ3の方が、さらに航跡記憶禁止領域が長く設定される。
【0052】
一方で、従来文献の構成および処理を行うと、図3(B)に示すように、自船500を中心に、全方位で同じ距離からなる航跡記憶禁止領域701が設定される。
【0053】
このようにスイープ方位毎に航跡記憶禁止領域を設定することで、図5(C)に示すような表示画面を得ることができる。具体的に、本実施形態の構成および処理を用いることで、航跡記憶表示禁止領域700内では、航走波エコー610のみが表示され、航跡記憶表示禁止領域700外では、他船501のエコー511および航跡521と、他船502のエコー512および航跡522とが表示される。すなわち、当該レーダ装置は、自船500近傍の航走波エコー610の航跡を表示させないが、航走波600の最遠部よりも近傍で航走波600の影響のない方位にある他船501の航跡521を表示させることができる。
【0054】
一方、従来の航跡記憶表示禁止領域を設定しない場合には、自船近傍に航走波600のエコー610と航跡620とが表示され非常に見にくい画面となる。また、従来の航跡記憶表示禁止領域を円形に設定する場合には、航走波600の航跡620は表示されないが、自船500から同じような距離にある他船501の航跡521が表示されない。この場合、自船近傍の観測必要物標の航跡が得られないので、安全性のための情報量が少なくなってしまう。
【0055】
以上のように、本実施形態の構成および処理を用いることで、航走波等の不要信号の影響を受けない方位に対しては、自船の近傍から航跡を表示し、より安全性に寄与する情報量が多い表示画像を、オペレータに提供することができる。
【0056】
また、本実施形態の構成および処理を用いることで、航跡記憶禁止領域外で検出・記憶した物標の航跡を、後の自船の移動により当該物標の航跡が航跡記憶禁止領域内に含まれるようになったとしても、所定時間に亘り引き続き航跡を表示することができる。これにより、さらに安全性に寄与する情報をオペレータに提供することができる。
【0057】
次に、第2の実施形態に係るレーダ装置の構成を、図を参照して説明する。なお、本実施形態は、第1の実施形態と異なり、禁止領域検出データ生成部11’により生成される禁止領域検出データZ(n)が4bitのデータである。しかし、禁止領域検出部12以降における処理は、禁止領域検出データZ(n)が「0」であるか否かで判断されることにより、第1の実施形態と同様の構成と考えることができる。以下、禁止領域検出データ生成部11’についてのみ説明し、他の構成については説明を省略する。
【0058】
図6は、禁止領域検出データ生成部11’及び禁止領域検出データ蓄積メモリ15の構成を示すブロック図である。
【0059】
禁止領域検出データ生成部11’は、受信データX(n)が物標検知閾値以上であれば、予め設定した所定値の禁止領域検出データZ(n)を生成する。この際、設定する所定値は、設定されるビット数で表現可能な最大値が与えられる。例えば、4ビット(0〜15)であれば、「15」が与えられる。一方、受信データX(n)が物標検知閾値未満であれば、禁止領域検出データ蓄積メモリ15から読み出したスイープ1回転前の禁止領域検出データZ(n−1)を一段階減算して、今回の禁止領域検出データZ(n)を生成する。このように生成された禁止領域検出データZ(n)は、禁止領域検出データ蓄積メモリ15に更新記憶されるとともに、禁止領域検出部12に与えられる。
【0060】
禁止領域検出データ蓄積メモリ15は、スイープ1回転(1スキャン分)の禁止領域検出データZ(n)を記憶する容量を備える。禁止領域検出データ蓄積メモリ15は、与えられた禁止領域検出データZ(n)を該当するメモリ番地に更新記憶するとともに、禁止領域検出データ生成部11’により指定されたメモリ番地に記憶されているスイープ一回転前の禁止領域検出データZ(n−1)を、禁止領域検出データ生成部11’に返す。
【0061】
このような航跡および処理を行うことで、該当する位置に過去のアンテナ数回転分に亘り物標が一度も存在しなかった場合のみ、禁止領域検出データZ(n)が「0」となる。つまり、該当する位置のスイープ数回転前において不要信号が一度でも検出されていた場合、航跡記憶禁止領域が設定される。これにより、航走波や海面反射のように、ちらつきを伴う不要信号が発生する場合であっても、より精度良く十分な範囲の航跡記憶表示禁止領域を設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の第1の実施形態のレーダ装置の主要構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示した禁止領域検出部12の主要構成を示すブロック図、および、航跡記憶禁止データNRの生成方法を説明するためのタイミングチャート図である。
【図3】自船500の走航状況を示す図、特許文献1に示した従来の航跡記憶禁止領域701の設定概念を示す図、および、本実施形態のレーダ装置による航跡記憶禁止領域700の設定概念を示す図である。
【図4】スイープ毎の航跡記憶禁止領域を示した図である。
【図5】表示器に表示される表示画像の一例を示す図である。
【図6】第2の実施形態に係る禁止領域検出データ生成部11’及び禁止領域検出データ蓄積メモリ15の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0063】
1−レーダアンテナ、2−受信部、3−AD変換部、4−スイープメモリ、5−描画アドレス発生部、6−探知画像表示メモリ、7−航跡用データ生成部、8−減算タイミング発生部、9−表示航跡データ生成部、10−航跡画像表示メモリ、11,11’−禁止領域検出データ生成部、12−禁止領域検出部、13−表示出力合成部、14−表示器、15−禁止領域検出データ蓄積メモリ、121−禁止判定用データ生成部、122−航跡記憶禁止データ生成部、500−自船、501,502−他船、600−航走波、610−航走波エコー、700,701−航跡記憶禁止領域、511、512−エコー、521,522,620−航跡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物標及び該物標の航跡を表示するレーダ装置および類似装置において、
少なくとも1スイープ分の受信データXを記憶する受信データ記憶手段と、
スイープ毎に前記受信データXのレベルに基づいて物標の有無を示す航跡用データWを生成する航跡用データ生成手段と、
前記受信データXのレベルに基づいて航跡記憶禁止領域を設定する航跡記憶禁止領域設定手段と、
前記航跡記憶禁止領域外で且つ物標有りの航跡用データWを検出した場合にのみ所定レベルからなる航跡記憶用データYを生成する航跡記憶用データ生成手段と、
前記航跡記憶用データYを前記スイープの少なくとも一回転毎に更新記憶した航跡画像データを生成する航跡画像データ生成手段と、
前記航跡画像データを読み出して表示する表示手段と、
を備えたレーダ装置および類似装置。
【請求項2】
請求項1に記載のレーダ装置および類似装置において、
前記受信データXのレベルに基づいて禁止領域検出データZを生成する禁止領域検出データ生成手段をさらに備え、
前記航跡記憶禁止領域設定手段は、
前記禁止領域検出データZのレベルが所定時間に亘り禁止検出閾値未満となるタイミングを終了タイミングとし、前記スイープにおける受信開始タイミングから該終了タイミングまでを前記航跡記憶禁止領域とする、
レーダ装置および類似装置。
【請求項3】
請求項2に記載のレーダ装置および類似装置において、
前記航跡記憶禁止領域設定手段は、
前記受信開始タイミングにおいて所定レベルVmの航跡禁止設定データValueを生成し、
前記禁止領域検出データZのレベルが前記禁止検出閾値未満であることを検出すると、前記航跡禁止設定データValueを所定値減算し、
前記航跡禁止設定データのレベルが0レベル以外の時に、前記禁止領域検出データZのレベルが前記禁止検出閾値以上であることを検出すると、所定レベルVmの航跡禁止設定データValueを生成し、
前記航跡禁止設定データのレベルが0レベルになるタイミングを前記終了タイミングとする、
レーダ装置および類似装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載のレーダ装置および類似装置において、
前記禁止領域検出データ生成手段は、
前記受信データXが物標検知閾値以上であれば、所定レベルからなる禁止領域検出データZ(n)を生成し、
前記受信データXが前記物標検知閾値未満であれば、前記スイープの一回転前に対応する禁止領域検出データZ(n−1)を所定値減算させた禁止領域検出データZ(n)を生成する、
レーダ装置および類似装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−209199(P2008−209199A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−45421(P2007−45421)
【出願日】平成19年2月26日(2007.2.26)
【出願人】(000166247)古野電気株式会社 (441)
【Fターム(参考)】