説明

レーダ装置

【課題】 中心周波数が0ドップラー以外のクラッタや妨害の存在する環境下でも、クラッタ及び妨害の両者を十分抑圧する。
【解決手段】 主アンテナ11及び補助アンテナ21から出力される主CH信号、補助CH信号はそれぞれMTI処理部12,22に入力され、周波数軸上のノッチ形成によるMTIによってクラッタ成分が抑圧される。ノッチ位置制御部40は、上記MTI処理部12,22のそれぞれに対してノッチ位置をP通りに変化させ、各ノッチ位置での主/補助CH信号それぞれのP通りのMTI処理結果を出力させる。SLC処理部30は、P通りのMTI処理結果それぞれに妨害除去処理を行って、順次、出力選定部50に出力する。この出力選定部50は、P個の入力信号の中から電力が最小となる信号を選択してビーム出力とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メインローブ及び妨害環境下でクラッタ及び妨害を抑圧するSLC(Sidelobe Cancellation;サイドローブ・キャンセラ)搭載のレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のレーダ装置に搭載されるSLCでは、主アンテナのサイドローブよりも利得の高い補助アンテナからの信号を使って、妨害到来方向のアンテナ感度を0とする、いわゆるヌル点(ノッチ)を形成するようにしている(例えば非特許文献1参照)。しかしながら、実際には、メインローブ及び妨害環境下で、ビーム出力に妨害レベルよりも大きなクラッタが含まれる場合にSLCを動作させると、メインローブクラッタを低減するようにSLCが動作してしまい、妨害を抑圧することができない。
【0003】
この対策として、MTI(Moving Target Indicator;移動目標指示装置)によりクラッタを抑圧した後に、SLC動作する方法がある(非特許文献2参照)。この方法は、複数のパルスヒットのPRI(Pulse Repetition Interval;パルス繰返し間隔)間のデータを用いて周波数軸上にドップラー中心周波数が0となる位置にノッチを形成するMTI(Moving Target Indicator;移動目標指示装置)処理を利用し、主アンテナで得られる主CH(Channel;チャンネル)信号と補助アンテナで得られる補助CH信号それぞれについて、MTIによりメインローブクラッタを抑圧した後にSLC処理を施すことで、メインローブクラッタ及び妨害環境下における妨害を抑圧するようにしている。
【0004】
この方法によれば、ドップラー中心周波数が0のクラッタの場合には、MTIによりクラッタが抑圧されるため、その後段のSLCにより妨害が抑圧される。しかしながら、ドップラー中心周波数が0ドップラーと異なるクラッタが入力された場合には、0ドップラーに対してノッチ(ヌル)を持つMTIでは抑圧しきれず、クラッタが残留し、その結果クラッタも妨害も十分抑圧しきれないという問題があった。
【非特許文献1】電子情報通信学会、“改訂レーダ技術”、pp.295−296
【非特許文献2】Alfonso Farina,”Antenna-Based Signal Processing Techniques for Radar Systems”, Artech House,pp.170-176(1992)
【非特許文献3】菊間信良、“アレーアンテナによる適応信号処理”、科学技術出版(1999)、pp.67−86
【非特許文献4】菊間信良、“アレーアンテナによる適応信号処理”、科学技術出版(1999)、pp.35−37,98−99
【特許文献1】特許登録番号P1816548:アダプティブアンテナ装置
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上述べたように、従来のSLC搭載のレーダ装置では、ドップラー中心周波数が0ドップラーと異なるクラッタが入力された場合には、0ドップラーに対してノッチ(ヌル)を持つMTIでは抑圧しきれずクラッタが残留し、その結果クラッタも妨害も十分抑圧しきれないという問題があった。
【0006】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたもので、中心周波数が0ドップラー以外のクラッタや妨害の存在する環境下でも、クラッタ及び妨害の両者を十分抑圧することのできるレーダ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題を解決するために、本発明に係るレーダ装置は以下のように構成される。
【0008】
(1)PRI(Pulse Repetition Interval;パルス繰り返し周期)間隔で送信されるパルスの反射パルスを受信する主アンテナ及び補助アンテナと、主アンテナから出力される主チャンネル信号、補助アンテナから出力される補助アンテナ信号それぞれに、PRI間の複数のパルスヒットのデータを用いて周波数軸上にノッチを形成することでクラッタ成分を除去するMTI(Moving Target Indicator;移動目標指示装置)処理を施すMTI処理手段と、前記MTI処理手段に対して前記ノッチ位置を複数通りに変化させ、各ノッチ位置での前記主チャンネル信号、補助チャンネル信号それぞれのMTI処理結果を出力させるノッチ位置制御手段と、前記複数通りのノッチ位置での前記MTI処理後の主チャンネル信号及び補助チャンネル信号間でSLC(Sidelobe Cancellation;サイドローブ・キャンセラ)処理を施して妨害信号を抑圧するSLC処理手段と、前記複数通りのノッチ位置それぞれで得られる前記SLC処理出力の中から少なくとも最小の残留電力となる信号を選択的に出力する出力選択手段とを具備することを特徴とする。
【0009】
(1)の構成によるレーダ装置では、ノッチの中にはクラッタを周波数軸上で抑圧できるものがあり、その出力においてはSLC動作により妨害成分も抑圧することができることに着目し、主チャンネル信号及び補助チャンネル信号それぞれについて、ノッチ位置の異なる複数のMTI処理を施した後、それぞれのMTI出力についてSLC処理を実行し、その処理結果の中から最小の残留電力となるものを選択するようにしている。
【0010】
(2)PRI(Pulse Repetition Interval;パルス繰り返し周期)間隔で送信されるパルスの反射パルスを受信する主アンテナ及び補助アンテナと、主アンテナから出力される主チャンネル信号、補助アンテナから出力される補助アンテナ信号それぞれに、PRI間の複数のパルスヒットのデータを用いて周波数軸上にノッチを形成することでクラッタ成分を除去するMTI(Moving Target Indicator;移動目標指示装置)処理を施すMTI処理手段と、前記MTI処理後の主チャンネル信号及び補助チャンネル信号間でSLC(Sidelobe Cancellation;サイドローブ・キャンセラ)処理を施して妨害信号を抑圧するSLC処理手段と、前記MTI処理手段に対して前記SLC処理出力が予め決められた閾値を下回るように前記ノッチ位置を変化させるノッチ位置制御手段とを具備することを特徴とする。
【0011】
(2)の構成によるレーダ装置では、主チャンネル信号及び補助チャンネル信号それぞれについて、ノッチ位置をフィードバックループにより制御したMTI処理によってクラッタ成分を除去した後にSLC動作させることで、クラッタ、妨害成分を共に抑圧するようにしている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、中心周波数が0ドップラー以外のクラッタや妨害の存在する環境下でも、クラッタ及び妨害の両者を十分抑圧することのできるレーダ装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0014】
(第1の実施形態)
図1は本発明の第1の実施形態に係るSLC搭載レーダ装置の構成を示すブロック図である。図1において、11,21はそれぞれフェーズド・アレイによる主アンテナと補助アンテナであり、PRI(Pulse Repetition Interval;パルス繰り返し周期)間隔で送信されるパルスの反射パルスを受信する。各アンテナ11,21から出力される主CH信号Xb 、補助CH信号Xa はそれぞれMTI処理部12,22に入力され、PRI間の複数のパルスヒットのデータを用いて周波数軸上にノッチを形成することでクラッタ成分を除去するMTIによってクラッタ成分が抑圧される。各MTI処理部12,22の出力Xbmti ,Xamti はSLC処理部30に入力される。
【0015】
上記SLC処理部30は、遅延回路A1、増幅器A2,A3、加算器A4による帯域フィルタと、乗算器A5,A6及び減算器A7による重み付け回路で構成され、入力信号帯域において、主アンテナ11のサイドローブ方向から入力される妨害信号を補助アンテナ21に入力される妨害信号で打ち消し、これによって入力信号帯域の妨害信号を角度方向のフィルタで抑圧する。
【0016】
本実施形態のレーダ装置は、さらにノッチ位置制御部40、出力選定部50を備える。ノッチ位置制御部40は、上記MTI12,22のそれぞれに対して、PRI間の複数のパルスヒットのデータを用いて周波数軸上に形成されるノッチ位置をP(Pは2以上の自然数で任意に決定される)通りに変化させ、各ノッチ位置での前記主チャンネル信号、補助チャンネル信号それぞれのP通りのMTI処理結果を出力させる。SLC処理部30は、P通りのMTI処理結果それぞれに妨害除去処理を行って、順次、出力選定部50に出力する。この出力選定部50は、P個の入力信号の中から電力が最小となる信号を選択してビーム出力とする。
【0017】
上記構成において、以下、図2及び図3を参照して第1の実施形態の処理動作を説明する。
【0018】
図2(a)は主アンテナ11及び補助アンテナ21から出力されるNパルスの主CH信号、補助CH信号で、これらの主CH信号、補助CH信号は、それぞれMTI処理部12,22によって、図2(b)に示すようにL個のPRIのレンジセル毎にMTI処理される。この様子を次式に示す。
【数1】

【0019】
周波数軸上のノッチ位置はMTIのウェイト制御により実現される。そこで、例えば2パルスMTI(L=2)の場合には、次式によりP通りのノッチ位置を制御(40)する。
【数2】

【0020】
ノッチ位置は、PRF内で均等に選択してもよいし、クラッタがありそうなドップラー周波数付近に集中して配置してもよい。また、ノッチの幅を制御した係数を設定してもよいのは言うまでもない。P通りのノッチ位置における各MTI出力を図2(c)に示す。
【0021】
このP通りのMTI信号を用いて、次式によりSLC(非特許文献2参照)(30)を実施する。SLCの動作原理図を図3示す。今、図3(a)に示すように、主アンテナ11に対して目標信号と共にサイドローブ方向から妨害信号が到来したとする。このとき、SLC処理部30は、図3(b)に示すように、主アンテナ11のサイドローブ方向から入力される妨害信号を補助アンテナ21に入力される妨害信号で打ち消す、すなわち図3(c)に示すようにヌル点を形成するものである。これにより、妨害信号を角度方向のフィルタで抑圧することができる。このSLC処理の様子を次式に示すと共に、図2(d)に示す。
【数3】

【0022】
この出力Yout(p,itr) の収束後の電力を比較し、図2(e)に示すように、電力が最小となるpminの出力を選定(50)して、以降のレーダ処理を実施する。
【0023】
ここで、図4に、入力信号とMTI周波数応答との関係を示す。図4(a)は、PRF帯域内にグランドクラッタ、ウェザクラッタ、妨害が存在する入力信号を示している。このようなクラッタ及び妨害が含まれる入力信号に対し、同図(b),(c),(d),…に示すようにMTIのフィルタ帯域を切り替えてノッチ位置を変化させていく。すると、同図(d)に示すように、0ドップラー以外のクラッタを抑圧できる場合がある(図ではウェザクラッタ)。
【0024】
以上のように、本実施形態では、P通りのMTIによりそれぞれ周波数軸上でクラッタを抑圧し、SLCにより空間軸上(角度軸)でアンテナパターンのヌルを形成し、妨害を抑圧する。その出力のうち、残留電力が最小のSLC出力を選定するようにしているので、中心周波数が0ドップラー以外のクラッタや妨害の存在する環境下でも、クラッタ及び妨害の両者を十分抑圧することができる。
【0025】
尚、図4では、0ドップラー周波数とそれ以外のドップラー周波数にヌルを同時に形成する場合を示しているが、ヌルの位置を制御する主旨であれば、単一のヌルの場合や、複数のヌルを同時に形成する場合でも同様に実施可能であることは言うまでもない。
【0026】
また、SLC出力のうち、最小の残留電力のものを選定する代わりに、小さいほうから数番目の出力まで選定して、以降のレーダ信号処理を実施するようにしてもよい。
【0027】
尚、本実施形態では、補助アンテナが1CHの場合で説明したが、妨害数が複数の場合には、補助アンテナを複数CHにして、補助アンテナ〜SLCの系統を複数並列に並べればよい。補助CHがmチャンネルの場合の系統を図5に示す。この場合、補助CHの各SLC系統B11,B12,…,B1mの出力を加算器B2で加算し、減算器B3にて主CHの信号から減算することで、妨害数分のヌルを形成することができる。尚、図5では、複数ループのMSN方式(非特許文献3参照)の場合を示しているが、縦続接続するグラムシュミット方式(特許文献1参照)や直接解方式(非特許文献4参照)等、他の方式でよいのは言うまでもない。
【0028】
(第2の実施形態)
図6は本発明の第2の実施形態に係るSLC搭載レーダ装置の構成を示すブロック図である。但し、図6において、図1と同一部分には同一符号を付して示し、ここでは異なる部分について説明する。
【0029】
本実施形態は、主アンテナ11及び補助アンテナ21で得られる主CH信号と補助CH信号において、MTI処理部12,22によって周波数軸上のノッチ位置を設定したMTIを行い、さらにSLC処理部30により妨害を抑圧する。そして、ノッチ位置制御部60において、SLC出力と所定のスレショルドを比較し、スレショルド以上であれば、MTIのノッチ位置を変化させて、再度、MTI及びSLCの処理結果がスレショルド以下になるまで繰り返すフィードバックループを備えるものである。
【0030】
すなわち、上記構成によるSLC搭載レーダ装置では、主CH信号及び補助CH信号それぞれについて、ノッチ位置をフィードバックループにより制御したMTI処理によってクラッタ成分を除去した後にSLC動作させるようにしているので、先に説明した第1の実施形態と同様に、クラッタ、妨害成分を共に抑圧することができる。
【0031】
尚、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るSLC搭載レーダ装置の構成を示すブロック図。
【図2】図1に示すレーダ装置の処理動作を説明するためのタイミング波形図。
【図3】本発明に適用されるSLC処理の概要を説明するための図。
【図4】図1に示すレーダ装置で複数通りのMTI処理を行った場合の効果を説明するための図。
【図5】第1の実施形態において、補助CHが複数の場合の系統構成を示すブロック図。
【図6】本発明の第2の実施形態に係るレーダ装置の構成を示すブロック図。
【符号の説明】
【0033】
11…主アンテナ、
21…補助アンテナ、
12,22…MTI処理部、
30…SLC処理部、
40,60…ノッチ位置制御部
50…出力選定部、
A1…遅延回路、
A2,A3…増幅器、
A4…加算器、
A5,A6…乗算器、
A7…減算器、
B11〜B1m…SLC処理回路、
B1…加算器、
B2…減算器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PRI(Pulse Repetition Interval;パルス繰り返し周期)間隔で送信されるパルスの反射パルスを受信する主アンテナ及び補助アンテナと、
主アンテナから出力される主チャンネル信号、補助アンテナから出力される補助アンテナ信号それぞれに、PRI間の複数のパルスヒットのデータを用いて周波数軸上にノッチを形成することでクラッタ成分を除去するMTI(Moving Target Indicator;移動目標指示装置)処理を施すMTI処理手段と、
前記MTI処理手段に対して前記ノッチ位置を複数通りに変化させ、各ノッチ位置での前記主チャンネル信号、補助チャンネル信号それぞれのMTI処理結果を出力させるノッチ位置制御手段と、
前記複数通りのノッチ位置での前記MTI処理後の主チャンネル信号及び補助チャンネル信号間でSLC(Sidelobe Cancellation;サイドローブ・キャンセラ)処理を施して妨害信号を抑圧するSLC処理手段と、
前記複数通りのノッチ位置それぞれで得られる前記SLC処理出力の中から少なくとも最小の残留電力となる信号を選択的に出力する出力選択手段と、
を具備することを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
PRI(Pulse Repetition Interval;パルス繰り返し周期)間隔で送信されるパルスの反射パルスを受信する主アンテナ及び補助アンテナと、
主アンテナから出力される主チャンネル信号、補助アンテナから出力される補助アンテナ信号それぞれに、PRI間の複数のパルスヒットのデータを用いて周波数軸上にノッチを形成することでクラッタ成分を除去するMTI(Moving Target Indicator;移動目標指示装置)処理を施すMTI処理手段と、
前記MTI処理後の主チャンネル信号及び補助チャンネル信号間でSLC(Sidelobe Cancellation;サイドローブ・キャンセラ)処理を施して妨害信号を抑圧するSLC処理手段と、
前記MTI処理手段に対して前記SLC処理出力が予め決められた閾値を下回るように前記ノッチ位置を変化させるノッチ位置制御手段と、
を具備することを特徴とするレーダ装置。
【請求項3】
前記ノッチ位置制御手段は、前記ノッチ位置を前記PRI内で均等に変化させることを特徴とする請求項1または2記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記ノッチ位置制御手段は、前記ノッチ位置を前記MTI処理でクラッタの存在が予想されるドップラー周波数付近に集中して配置することを特徴とする請求項1または2記載のレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−226897(P2006−226897A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−42324(P2005−42324)
【出願日】平成17年2月18日(2005.2.18)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】