レーダ装置
【課題】レーダ装置の受信局部発振器とDC−DCコンバータ(電源部)との同期が取れていないことを検出する。
【解決手段】ターゲットに対して送信波を発射する送信部と、ターゲットからの反射波を受信するヘテロダイン方式の受信部と、受信部に電力を供給する電源部とを有するレーダ装置であって、受信部の局部発振周波数と電源部のスイッチング周波数とが同期して動作するものにおいて、送信部の送信状態の変化に対し、受信部の出力信号に同一のピーク周波数が存在する場合、局部発振周波数とスイッチング周波数の同期がはずれていると判断する。
【解決手段】ターゲットに対して送信波を発射する送信部と、ターゲットからの反射波を受信するヘテロダイン方式の受信部と、受信部に電力を供給する電源部とを有するレーダ装置であって、受信部の局部発振周波数と電源部のスイッチング周波数とが同期して動作するものにおいて、送信部の送信状態の変化に対し、受信部の出力信号に同一のピーク周波数が存在する場合、局部発振周波数とスイッチング周波数の同期がはずれていると判断する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレーダ装置に係わり、特に駆動電力を供給する電源に起因するノイズの影響を抑制できるとともに、正常に動作していることを確認することの可能なレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年自動車走行時の安全性を向上するために、当該自動車の前方を走行する車両までの距離及び前方を走行する車両の相対速度を検出可能なFM−CWレーダを装備する自動車が多くなってきている。FM−CWレーダは、周波数変調された連続波を前方に送信し、被検出車両で反射された反射波を受信し、送信波と受信波を混合して得られるビート波に基づいて前方を走行する車両までの距離及び前方を走行する車両の相対速度を検出している。
【0003】
上記のような車載用のレーダは電源としてバッテリを使用しているため、レーダで必要な各種電圧の電力を得るためにいわゆるDC−DCコンバータが電源に設けられるのが一般的である。ここで、DC−DCコンバータは、バッテリから供給される所定電圧の直流電力をインバータによっていったん交流電力に変換し変圧器によって変圧した後コンバータによって必要な電圧の直流電力に再変換するものであり、インバータのスイッチング素子を制御するためにスイッチング信号を発生する発振器が必要となるが、スイッチング信号の基本波又は高調波が1MHz帯域に存在する場合が多い。
【0004】
しかし、レーダの受信部の中間周波回路の信号も1MHz帯域であることが普通であるため、DC−DCコンバータのスイッチング信号の基本波あるいはn次高調波が中間周波信号にノイズが重畳するおそれがある。図1は従来のレーダの構成図であって、レーダ部1、DC−DCコンバータ15及びスイッチング信号発振器16を具備する。
【0005】
レーダ部1は送信波を生成する送信部10、受信波からベースバンド信号を抽出をするへテロダイン方式の受信部11、ベースバンド信号から情報を抽出するデータ処理部12、および送信部10から出力される送信波を放射し、被検出対象で反射された反射波を受信するアンテナ13で構成される。そして、受信部11はアンテナ13で受信された反射波を増幅する高周波増幅部110、中間周波に変換するための局部発振器112、高周波増幅部110の出力と局部発振器112の出力とを混合して中間周波信号を生成する中間周波信号生成部113、中間周波信号を増幅する中間周波信号増幅部114、およびベースバンド信号を抽出する検波部115から構成される。
【0006】
図2は信号のスペクトル図(その1)であって、(イ)は中間周波生成部の入力信号のスペクトルを、(ロ)は中間周波生成部の出力信号のスペクトルを表す。即ち、中間周波生成部の入力信号のスペクトルは局部発振器112の発振周波数fSWを中心として、レーダの検出範囲の上限に基づいて定まる周波数fSW±ft の帯域に雑音であるDC−DCコンバータのスイッチング信号の基本波あるいは高調波であるfDD×n(n=1,2・・・)のスペクトルが存在する。
【0007】
ここで、周波数ft は検波部115から出力されるベースバンド信号をデータ処理部12に取り込む際のサンプリング周波数の(1/2)倍の周波数として決定されるが、レーダ装置の検出範囲の上限に基づいて決定される。これに対応して、中間周波生成部の出力信号のスペクトルは、周波数帯域DC〜ft の間に雑音のスペクトルである(fDD×n−fSW)が存在する。
【0008】
この場合、レーダは雑音成分の周波数を実際には存在しない検出対象と認識して、使用者に対して誤った情報を与えることを回避できない。
【0009】
そこで、本願出願人は、上記課題を解決するために、DC−DCコンバータに起因した誤情報が出力されることのないレーダ装置、及び正常に動作していることを確認することのレーダ装置に関する出願を行った(特許文献1)。
【0010】
すなわち、下記特許文献1にかかるレーダ装置は、DC−DCコンバータ15を局部発振器112の出力信号(局部発振周波数)によって励磁することによって、DC−DCコンバータ15のスイッチング周波数fDDのn次の高調波の周波数fDD×n(n=1,2・・・)を局部発振器112の局部発振周波数fSWと一致させ、それにより、DC−DCコンバータ15のスイッチング周波数のn次高調波に起因する雑音(ノイズ)を発生させないようにするものである。
【特許文献1】特開2001−91631号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記特許文献1にかかるレーダ装置は、上述したように、局部発振器112の出力信号を駆動信号としてDC−DCコンバータ15に入力する構成であるが、この局部発振器112とDC−DCコンバータ間の信号線が断線した場合、局部発振器112の出力信号がDC−DCコンバータ15に入力されず、局部発振器112の局部発振周波数とDC−DCコンバータのスイッチング周波数の同期が外れる。このように、局部発振器112とDC−DCコンバータ15の同期が取れなくなると、DC−DCコンバータ15は、フリーラン(あらかじめ設定した周波数であって、局部発振器112の局部発振周波数と異なる周波数)で動作してしまい、雑音(ノイズ)が発生してしまう。また、DC−DCコンバータに何らかの異常が発生し、そのスイッチング周波数が局部発振器112の局部発振周波数と異なってしまうような場合も同様に、DC−DCコンバータ15と局部発振器112の同期が取れていない状態となり、DC−DCコンバータ15は、フリーランで動作し、ノイズが発生する。
【0012】
そこで、本発明の目的は、何らかの原因でDC−DCコンバータと局部発振器の同期が取れなくなった場合、これを検知することができるレーダ装置を提供することにある。
【0013】
また、本発明の目的は、DC−DCコンバータと局部発振器の同期が取れなくなった場合であっても、誤情報の出力を防止することができるレーダ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するための本発明のレーダ装置の第一の構成は、ターゲットに対して送信波を発射する送信部と、前記ターゲットからの反射波を受信するヘテロダイン方式の受信部と、前記受信部に電力を供給する電源部とを有するレーダ装置であって、前記受信部の局部発振周波数と前記電源部のスイッチング周波数とが同期して動作するものにおいて、前記送信部の送信状態の変化に対し、前記受信部の出力信号に同一のピーク周波数が存在する場合、局部発振周波数とスイッチング周波数の同期が外れていると判断する検出部を有することを特徴とする。
【0015】
例えば、前記送信状態の変化は、送信波の変調周波数の変更、又は送信波の変調の切り換え、または送信波の停止である。
【0016】
本発明のレーダ装置の第二の構成は、ターゲットからの反射波を受信するヘテロダイン
方式の受信部と、前記受信部に電力を供給する電源部とを有するレーダ装置であって、前記受信部の局部発振周波数と前記電源部のスイッチング周波数とが同期して動作するものにおいて、局部発振周波数の変化または停止に対し、前記受信部の出力信号に同一のピーク周波数が存在する場合、局部発振周波数とスイッチング周波数の同期が外れていると判断する検出部を有することを特徴とする。
【0017】
また、本発明のレーダ装置の第三の構成は、ターゲットからの反射波を受信するヘテロダイン方式の受信部と、前記受信部に電力を供給する電源部とを有するレーダ装置であって、前記受信部の局部発振周波数と前記電源部のスイッチング周波数とが同期して動作するものにおいて、前記受信部の出力信号に同一のピーク周波数が存在する場合、局部発振周波数とスイッチング周波数の同期が外れていると判断する検出部を有することを特徴とする。
【0018】
好ましくは、局部発振周波数とスイッチング周波数の同期が外れていると判断された場合、前記同一のピーク周波数のキャンセルしてターゲットの検出を行う。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、電源部(DC−DCコンバータ)と局部発振器の同期が取れなくなった状態を検出することができる。これにより、雑音スペクトルの存在を認識することができ、誤情報の出力を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。しかしながら、かかる実施の形態例が、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0021】
図3は、本発明の実施の形態におけるレーダ装置の構成図であって、従来のレーダ装置と同じくレーダ部1及びDC−DCコンバータ(電源)15を具備するものの、スイッチング信号発振器16は具備しない。レーダ部1は、FM変調された連続波を生成し、送信する送信部10、その反射波である受信波からベースバンド信号を抽出をするへテロダイン方式の受信部11、ベースバンド信号から情報を抽出するデータ処理部12、送信部10から出力される送信波を放射し、被検出対象で反射された反射波を受信するアンテナ13、本実施の形態例に特徴的な異常検出部18を有して構成される。異常検出部18は、データ処理部12に含まれる構成でもよいし、独立して構成されてもよい。
【0022】
そして、受信部11はアンテナ13で受信された反射波を増幅する高周波増幅部110、中間周波に変換するための変換信号を発生する局部発振器112、高周波増幅部110の出力と局部発振器112の出力を混合して中間周波信号を生成する中間周波信号生成部113、中間周波信号を増幅する中間周波信号増幅部114、およびベースバンド信号を抽出する検波部115から構成される。
【0023】
そして、DC−DCコンバータ15は局部発振器112の出力によって励磁される。なお、DC−DCコンバータ15のスイッチング周波数fDDおよび局部発振器112の発振周波数fSWによっては、局部発振器112とDC−DCコンバータ15の間に局部発振器112の発振周波数fSWを1/n分周する分周部(図示せず)を挿入してもよい。
【0024】
本実施形態によれば、fDD×n=fSWが成立し、図4の信号のスペクトル図(その2)に示すようにDC−DCコンバータ15のスイッチング周波数fDDのn次高調波の周波数(fDD×n)が局部発振器112の発振周波数fSWと一致するので、中間周波信号生成113の出力信号の周波数帯域零〜ft (ここで、ft はレーダ装置の最大探知距離に対応して定まる周波数)の間にDC−DCコンバータ15のスイッチング周波数のn次高調波
に起因する雑音は発生ぜず、DC−DCコンバータに起因した誤情報が出力されることが防止される。
【0025】
なお、別の実施形態として、従来のレーダ装置と同様に、DC−DCコンバータ15を専用のスイッチング信号発振器16で励磁し、専用のスイッチング信号発振器16の発振周波数fDDを、fDD×n=fSW又は、fDD > fSW+ftが成立するように設定すること
としてもよい。
【0026】
前者の場合はDC−DCコンバータ15のスイッチング周波数fDDのn次高調波(fDD×n)が局部発振器112の発振周波数fSWと一致するので、又後者の場合は図5の信号のスペクトル図(その3)に示すようにDC−DCコンバータ15のスイッチング周波数fDDのn次高調波(fDD×n)から局部発振器112の発振周波数fSWを差し引いた差分周波数(fDD×n−fSW)はレーダ装置の検出範囲の上限に基づいて決定される周波数ft 以上となるため、誤情報が出力されることが防止される。
【0027】
ここで、局部発振器112とDC−DCコンバータ15とを接続する信号線が断線するなどすると、局部発振器112の局部発振周波数とDC−DCコンバータ15のスイッチング周波数の同期が外れる。このような非同期状態の場合、DC−DCコンバータ15は、あらかじめ設定された周波数でフリーラン動作を行うため、図2で示したような雑音スペクトル(差分周波数fDD×n−fSW)が発生してしまう。
【0028】
しかし、レーダ装置は、この非同期状態の存在を検知していなければ、これを雑音スペクトルと認識することはできず、さらに、対象物からの反射波に基づく情報信号との識別もできない。
【0029】
フリーラン動作が行われる周波数はあらかじめ設定されているが、温度などの環境の相違、又は部品の特性のばらつきなどにより、雑音スペクトルの位置に100kHzオーダー程度のずれが生じるので、あらかじめ雑音スペクトルの位置を特定することはできない。また、雑音スペクトルの位置にたまたま情報信号が存在する可能性もあるので、あらかじめ雑音スペクトルの位置を特定し、その位置のスペクトルはすべて雑音であると断定することもできない。
【0030】
そこで、本実施の形態例では、以下に説明する異常検出方法のうちの少なくとも一つを用いて、異常検出部18が局部発振器112とDC−DCコンバータ15の同期が取れていない状態(異常状態)を検出し、雑音スペクトルの存在を特定する。異常状態の検出は、通常モードとは異なる故障検出モードに切り換えて行われる。具体的には、通常モードで運用中に、定期的又はランダムに故障検出モードが挿入され、異常の有無が確認される。異常検出部18は、例えば、本実施の形態例の異常検出方法を実施するためのプログラムを実行するCPUなどで実現される。
【0031】
図6は、本実施の形態における第一の異常検出方法の処理フローチャートである。第一の異常検出方法では、FM変調周波数を変化させ、異なるFM変調周波数で変調された複数の連続波を送信した場合でも、中間周波信号の信号スペクトルに同じ周波数のピークが存在すれば、異常と認識し、そのピーク周波数を雑音スペクトル(DC−DCコンバータ15のフリーラン動作によるピーク周波数)と認識する。
【0032】
具体的には、あらかじめ設定された第一のFM変調周波数で変調された第一の連続波を送信し、その反射波に基づく中間周波信号の信号スペクトルのピーク周波数を抽出する(S10)。ピーク周波数は、複数存在してもよい。
【0033】
続いて、第一のFM変調周波数と異なる第二のFM変調周波数で変調された第二の連続波を送信し、その反射波に基づく中間周波信号の信号スペクトルのピーク周波数を抽出する(S11)。
【0034】
そして、第一のFM変調周波数に基づくピーク周波数と第二のFM変調周波数に基づくピーク周波数とを比較し、同じ周波数にピークが存在するかどうかを判定する(S12)。
【0035】
FM変調周波数を異ならせることにより、対象物からの反射波に基づくピークの周波数も変化するが、DC−DCコンバータのフリーラン動作によるピーク周波数は、FM変調周波数に依存しないので、FM変調周波数を変化させても、フリーラン動作によるピーク周波数の位置は変化しない。
【0036】
従って、ステップS12において、同じ周波数にピークが存在すれば、そのピークはフリーラン動作によるピーク周波数であるので、異常ありと判定し(S13)、同じ周波数にピークがなければ、異常なしと判定する(S14)。
【0037】
図7は、本実施の形態における第二の異常検出方法の処理フローチャートである。第二の異常検出方法では、例えば、FM−CWモードでの連続波の送信からCWモードなど変調を行わないモードでの連続波の送信に変化させた場合でも、中間周波数信号の信号スペクトルに同じ周波数のピークが存在すれば、異常と認識し、そのピーク周波数を雑音スペクトル(DC−DCコンバータ15のフリーラン動作によるピーク周波数)と認識する。
【0038】
具体的には、あらかじめ設定された第一のFM変調周波数で変調された第一の連続波を送信し、その反射波に基づく中間周波信号の信号スペクトルのピーク周波数を抽出する(S20)。ピーク周波数は、複数存在してもよい。
【0039】
続いて、第一のFM変調周波数による変調を止め、変調を行わないCWモードで変調されていない連続波を送信し、その反射波に基づく中間周波信号の信号スペクトルのピーク周波数を抽出する(S21)。
【0040】
そして、変調された連続波に基づくピーク周波数と変調されていない連続波に基づくピーク周波数とを比較し、同じ周波数にピークが存在するかどうかを判定する(S22)。
【0041】
連続波を変調する場合と変調しない場合とにより、対象物からの反射波に基づくピークの周波数も変化するが、DC−DCコンバータのフリーラン動作によるピーク周波数は、変調するかしないかに依存しないので、連続波の変調を止めても、フリーラン動作によるピーク周波数の位置は変化しない。
【0042】
従って、ステップS22において、同じ周波数にピークが存在すれば、そのピークはフリーラン動作によるピーク周波数であるので、異常ありと判定し(S23)、同じ周波数にピークがなければ、異常なしと判定する(S24)。
【0043】
図8は、本実施の形態における第三の異常検出方法の処理フローチャートである。第三の異常検出方法では、例えば、連続波の送信を止めた場合でも、中間周波数信号の信号スペクトルに同じ周波数のピークが存在すれば、異常と認識し、そのピーク周波数を雑音スペクトル(DC−DCコンバータ15のフリーラン動作によるピーク周波数)と認識する。
【0044】
具体的には、あらかじめ設定された第一のFM変調周波数で変調された第一の連続波を
送信し、その反射波に基づく中間周波信号の信号スペクトルのピーク周波数を抽出する(S30)。ピーク周波数は、複数存在してもよい。
【0045】
続いて、連続波の送信を停止し、その状態における中間周波信号の信号スペクトルのピーク周波数を抽出する(S31)。
【0046】
そして、連続波の送信に基づくピーク周波数と連続波の送信を停止した場合におけるピーク周波数とを比較し、同じ周波数にピークが存在するかどうかを判定する(S32)。
【0047】
連続波の送信を停止すれば、対象物からの反射波に基づくピーク周波数は存在しないが、DC−DCコンバータのフリーラン動作によるピーク周波数は、連続波の送信及び送信停止に依存しないので、連続波の送信を止めても、フリーラン動作によるピーク周波数は存在し、その位置は変化しない。
【0048】
従って、ステップS32において、同じ周波数にピークが存在すれば、そのピークはフリーラン動作によるピーク周波数であるので、異常ありと判定し(S33)、同じ周波数にピークがなければ、異常なしと判定する(S34)。
【0049】
上記第一、第二及び第三の異常検出方法を組み合わせて実施してもよい。例えば、第一の変調周波数で変調した連続波、第二の変調周波数で変調した連続波、及び変調しない連続波それぞれに基づくピーク周波数の位置を比較して、同じ周波数にピークが存在するかどうか判定するようにしてもよい。
【0050】
図9は、本実施の形態における第四の異常検出方法の処理フローチャートである。第四の異常検出方法では、送信波を変化させるのではなく、局部発振器112の局部発振周波数を変化させた場合でも、中間周波信号の信号スペクトルに同じ周波数のピークが存在すれば、異常と認識し、そのピーク周波数を雑音スペクトル(DC−DCコンバータ15のフリーラン動作によるピーク周波数)と認識する。
【0051】
具体的には、あらかじめ設定された第一の局部発振周波数に基づく中間周波信号の信号スペクトルのピーク周波数を抽出する(S40)。
【0052】
続いて、局部発振器112の局部発振周波数を変化させ、第一の局部発振周波数と異なる第二の局部発振周波数に基づく中間周波信号の信号スペクトルのピーク周波数を抽出する(S41)。
【0053】
そして、第一の局部発振周波数に基づくピーク周波数と第二の局部発振周波数に基づくピーク周波数とを比較し、同じ周波数にピークが存在するかどうかを判定する(S42)。
【0054】
局部発振周波数を異ならせることにより、中間周波数も変化するが、DC−DCコンバータのフリーラン動作によるピーク周波数は、局部発振周波数に依存しないので、局部発振周波数を変化させても、フリーラン動作によるピーク周波数の位置は変化しない。
【0055】
従って、ステップS42において、同じ周波数にピークが存在すれば、そのピークはフリーラン動作によるピーク周波数であるので、異常ありと判定し(S43)、同じ周波数にピークがなければ、異常なしと判定する(S44)。
【0056】
図10は、本実施の形態における第五の異常検出方法の処理フローチャートである。第五の異常検出方法では、局部発振器112の発振を停止した場合でも、中間周波数信号の
信号スペクトルに同じ周波数のピークが存在すれば、異常と認識し、そのピーク周波数を雑音スペクトルと認識する。
【0057】
具体的には、あらかじめ設定された第一の局部発振周波数に基づく中間周波信号の信号スペクトルのピーク周波数を抽出する(S50)。
【0058】
続いて、局部発振器112の発振を停止し、その状態における中間周波信号の信号スペクトルのピーク周波数を抽出する(S51)。
【0059】
そして、局部発振器112の発振中のときと、発振停止時におけるピーク周波数とを比較し、同じ周波数にピークが存在するかどうかを判定する(S52)。
【0060】
DC−DCコンバータのフリーラン動作によるピーク周波数は、局部発振器の発振及び発振停止に依存しないので、局部発振器の発振を止めても、フリーラン動作によるピーク周波数は存在し、その位置は変化しない。
【0061】
従って、ステップS52において、同じ周波数にピークが存在すれば、そのピークはフリーラン動作によるピーク周波数であるので、異常ありと判定し(S53)、同じ周波数にピークがなければ、異常なしと判定する(S54)。
【0062】
図11は、本実施の形態における第六の異常検出方法の処理フローチャートである。第六の異常検出方法では、所定時間変化しないピーク周波数が存在する場合に、異常と認識し、そのピーク周波数を雑音スペクトルと認識する。
【0063】
FM(−CW)レーダでは、ターゲットに由来するピーク周波数は、ターゲットとの距離や相対速度によって時々刻々と変化する。逆に、周波数が変化しないピークは、距離が変わらないターゲットということになるが、特に車両の走行中はターゲットとの距離が長時間変化しないという可能性は非常に低いと考えられる。従って、走行中に一定時間変化しないピーク周波数は、フリーラン動作による雑音スペクトルと判断することができる。
【0064】
この場合、車両の速度を検出して、異常検出の判断までの時間のしきい値を変化させてもよい。例えば、高速走行時は判断時間を短くする。また、車速が変化したり、ハンドルをきったにもかかわらず、ピーク周波数が変化しないことを検出して異常検出することもできる。例えば、車速は車輪に設けられた車速センサやエンジン回転数センサで検出可能である。また、車速の変化は上記センサ出力値の微分値を用いてもよいし、アクセルやブレーキの操作を直接監視してもよい。さらに、ハンドルをきったことは、ステアリングセンサで検出可能である。もちろん、これ以外にも直接または間接的に車両の動態を検出できるものであれば、いかなる手段を用いてもよい)。
【0065】
図11において、中間周波信号の信号スペクトルのピーク周波数を抽出する(S60)。抽出されるピーク周波数は複数であってもよい。そして、所定時間経過後(S61)、抽出されたピーク周波数の変化の有無を検出し、周波数が変化していないピークが存在するかどうか判定する(S62)。
【0066】
ステップS62において、周波数が変化していないピークが存在すれば、そのピークはフリーラン動作によるピーク周波数であるので、異常ありと判定し(S63)、周波数が変化していないピークがなければ、異常なしと判定する(S64)。
【0067】
異常検出モードで実施される上述の異常検出方法により、異常が検出された場合、すなわち、送信状態を変化させても同じ位置にピーク周波数が検出された場合、通常モードに
おいて、そのピーク周波数は、雑音スペクトルと認識され、その周波数信号をキャンセルして、信号処理を継続する。
【0068】
雑音スペクトルと判定されたピーク周波数は、例えば次の方法によりキャンセルされる。異常検出部18が異常(DC−DCコンバータと局部発振器の同期が取れていないこと)を検出すると、データ処理部12のメモリに、検出された雑音スペクトルであるDC−DCコンバータに起因するピーク周波数とその強度が補正値として記憶される。以降は、FFTによって得られる周波数スペクトルから、補正値を減算することによって、DC−DCコンバータ由来のピーク周波数をキャンセルすることができる。
【0069】
なお、補正値は定期的に更新するようにしてもよい。そうすれば、温度変化などによってDC−DCコンバータのフリーラン周波数がドリフトしたような場合でも、これに追従して正しく不要ピークをキャンセルすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】従来のレーダ装置の構成図である。
【図2】信号スペクトル図(その1)である。
【図3】本発明の実施の形態におけるレーダ装置の構成図である。
【図4】信号スペクトル図(その2)である。
【図5】信号スペクトル図(その3)である。
【図6】本実施の形態における第一の異常検出方法の処理フローチャートである。
【図7】本実施の形態における第二の異常検出方法の処理フローチャートである。
【図8】本実施の形態における第三の異常検出方法の処理フローチャートである。
【図9】本実施の形態における第四の異常検出方法の処理フローチャートである。
【図10】本実施の形態における第五の異常検出方法の処理フローチャートである。
【図11】本実施の形態における第六の異常検出方法の処理フローチャートである。
【符号の説明】
【0071】
1:レーダ装置、10:送信部、11:受信部、110:高周波増幅部、112:局部発振器、113:中間周波生成部、114:中間周波増幅部、115:検波部、12:データ処理部、13:アンテナ、15:DC−DCコンバータ、16:スイッチング信号発振器、18:異常検出部
【技術分野】
【0001】
本発明はレーダ装置に係わり、特に駆動電力を供給する電源に起因するノイズの影響を抑制できるとともに、正常に動作していることを確認することの可能なレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年自動車走行時の安全性を向上するために、当該自動車の前方を走行する車両までの距離及び前方を走行する車両の相対速度を検出可能なFM−CWレーダを装備する自動車が多くなってきている。FM−CWレーダは、周波数変調された連続波を前方に送信し、被検出車両で反射された反射波を受信し、送信波と受信波を混合して得られるビート波に基づいて前方を走行する車両までの距離及び前方を走行する車両の相対速度を検出している。
【0003】
上記のような車載用のレーダは電源としてバッテリを使用しているため、レーダで必要な各種電圧の電力を得るためにいわゆるDC−DCコンバータが電源に設けられるのが一般的である。ここで、DC−DCコンバータは、バッテリから供給される所定電圧の直流電力をインバータによっていったん交流電力に変換し変圧器によって変圧した後コンバータによって必要な電圧の直流電力に再変換するものであり、インバータのスイッチング素子を制御するためにスイッチング信号を発生する発振器が必要となるが、スイッチング信号の基本波又は高調波が1MHz帯域に存在する場合が多い。
【0004】
しかし、レーダの受信部の中間周波回路の信号も1MHz帯域であることが普通であるため、DC−DCコンバータのスイッチング信号の基本波あるいはn次高調波が中間周波信号にノイズが重畳するおそれがある。図1は従来のレーダの構成図であって、レーダ部1、DC−DCコンバータ15及びスイッチング信号発振器16を具備する。
【0005】
レーダ部1は送信波を生成する送信部10、受信波からベースバンド信号を抽出をするへテロダイン方式の受信部11、ベースバンド信号から情報を抽出するデータ処理部12、および送信部10から出力される送信波を放射し、被検出対象で反射された反射波を受信するアンテナ13で構成される。そして、受信部11はアンテナ13で受信された反射波を増幅する高周波増幅部110、中間周波に変換するための局部発振器112、高周波増幅部110の出力と局部発振器112の出力とを混合して中間周波信号を生成する中間周波信号生成部113、中間周波信号を増幅する中間周波信号増幅部114、およびベースバンド信号を抽出する検波部115から構成される。
【0006】
図2は信号のスペクトル図(その1)であって、(イ)は中間周波生成部の入力信号のスペクトルを、(ロ)は中間周波生成部の出力信号のスペクトルを表す。即ち、中間周波生成部の入力信号のスペクトルは局部発振器112の発振周波数fSWを中心として、レーダの検出範囲の上限に基づいて定まる周波数fSW±ft の帯域に雑音であるDC−DCコンバータのスイッチング信号の基本波あるいは高調波であるfDD×n(n=1,2・・・)のスペクトルが存在する。
【0007】
ここで、周波数ft は検波部115から出力されるベースバンド信号をデータ処理部12に取り込む際のサンプリング周波数の(1/2)倍の周波数として決定されるが、レーダ装置の検出範囲の上限に基づいて決定される。これに対応して、中間周波生成部の出力信号のスペクトルは、周波数帯域DC〜ft の間に雑音のスペクトルである(fDD×n−fSW)が存在する。
【0008】
この場合、レーダは雑音成分の周波数を実際には存在しない検出対象と認識して、使用者に対して誤った情報を与えることを回避できない。
【0009】
そこで、本願出願人は、上記課題を解決するために、DC−DCコンバータに起因した誤情報が出力されることのないレーダ装置、及び正常に動作していることを確認することのレーダ装置に関する出願を行った(特許文献1)。
【0010】
すなわち、下記特許文献1にかかるレーダ装置は、DC−DCコンバータ15を局部発振器112の出力信号(局部発振周波数)によって励磁することによって、DC−DCコンバータ15のスイッチング周波数fDDのn次の高調波の周波数fDD×n(n=1,2・・・)を局部発振器112の局部発振周波数fSWと一致させ、それにより、DC−DCコンバータ15のスイッチング周波数のn次高調波に起因する雑音(ノイズ)を発生させないようにするものである。
【特許文献1】特開2001−91631号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記特許文献1にかかるレーダ装置は、上述したように、局部発振器112の出力信号を駆動信号としてDC−DCコンバータ15に入力する構成であるが、この局部発振器112とDC−DCコンバータ間の信号線が断線した場合、局部発振器112の出力信号がDC−DCコンバータ15に入力されず、局部発振器112の局部発振周波数とDC−DCコンバータのスイッチング周波数の同期が外れる。このように、局部発振器112とDC−DCコンバータ15の同期が取れなくなると、DC−DCコンバータ15は、フリーラン(あらかじめ設定した周波数であって、局部発振器112の局部発振周波数と異なる周波数)で動作してしまい、雑音(ノイズ)が発生してしまう。また、DC−DCコンバータに何らかの異常が発生し、そのスイッチング周波数が局部発振器112の局部発振周波数と異なってしまうような場合も同様に、DC−DCコンバータ15と局部発振器112の同期が取れていない状態となり、DC−DCコンバータ15は、フリーランで動作し、ノイズが発生する。
【0012】
そこで、本発明の目的は、何らかの原因でDC−DCコンバータと局部発振器の同期が取れなくなった場合、これを検知することができるレーダ装置を提供することにある。
【0013】
また、本発明の目的は、DC−DCコンバータと局部発振器の同期が取れなくなった場合であっても、誤情報の出力を防止することができるレーダ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するための本発明のレーダ装置の第一の構成は、ターゲットに対して送信波を発射する送信部と、前記ターゲットからの反射波を受信するヘテロダイン方式の受信部と、前記受信部に電力を供給する電源部とを有するレーダ装置であって、前記受信部の局部発振周波数と前記電源部のスイッチング周波数とが同期して動作するものにおいて、前記送信部の送信状態の変化に対し、前記受信部の出力信号に同一のピーク周波数が存在する場合、局部発振周波数とスイッチング周波数の同期が外れていると判断する検出部を有することを特徴とする。
【0015】
例えば、前記送信状態の変化は、送信波の変調周波数の変更、又は送信波の変調の切り換え、または送信波の停止である。
【0016】
本発明のレーダ装置の第二の構成は、ターゲットからの反射波を受信するヘテロダイン
方式の受信部と、前記受信部に電力を供給する電源部とを有するレーダ装置であって、前記受信部の局部発振周波数と前記電源部のスイッチング周波数とが同期して動作するものにおいて、局部発振周波数の変化または停止に対し、前記受信部の出力信号に同一のピーク周波数が存在する場合、局部発振周波数とスイッチング周波数の同期が外れていると判断する検出部を有することを特徴とする。
【0017】
また、本発明のレーダ装置の第三の構成は、ターゲットからの反射波を受信するヘテロダイン方式の受信部と、前記受信部に電力を供給する電源部とを有するレーダ装置であって、前記受信部の局部発振周波数と前記電源部のスイッチング周波数とが同期して動作するものにおいて、前記受信部の出力信号に同一のピーク周波数が存在する場合、局部発振周波数とスイッチング周波数の同期が外れていると判断する検出部を有することを特徴とする。
【0018】
好ましくは、局部発振周波数とスイッチング周波数の同期が外れていると判断された場合、前記同一のピーク周波数のキャンセルしてターゲットの検出を行う。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、電源部(DC−DCコンバータ)と局部発振器の同期が取れなくなった状態を検出することができる。これにより、雑音スペクトルの存在を認識することができ、誤情報の出力を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。しかしながら、かかる実施の形態例が、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0021】
図3は、本発明の実施の形態におけるレーダ装置の構成図であって、従来のレーダ装置と同じくレーダ部1及びDC−DCコンバータ(電源)15を具備するものの、スイッチング信号発振器16は具備しない。レーダ部1は、FM変調された連続波を生成し、送信する送信部10、その反射波である受信波からベースバンド信号を抽出をするへテロダイン方式の受信部11、ベースバンド信号から情報を抽出するデータ処理部12、送信部10から出力される送信波を放射し、被検出対象で反射された反射波を受信するアンテナ13、本実施の形態例に特徴的な異常検出部18を有して構成される。異常検出部18は、データ処理部12に含まれる構成でもよいし、独立して構成されてもよい。
【0022】
そして、受信部11はアンテナ13で受信された反射波を増幅する高周波増幅部110、中間周波に変換するための変換信号を発生する局部発振器112、高周波増幅部110の出力と局部発振器112の出力を混合して中間周波信号を生成する中間周波信号生成部113、中間周波信号を増幅する中間周波信号増幅部114、およびベースバンド信号を抽出する検波部115から構成される。
【0023】
そして、DC−DCコンバータ15は局部発振器112の出力によって励磁される。なお、DC−DCコンバータ15のスイッチング周波数fDDおよび局部発振器112の発振周波数fSWによっては、局部発振器112とDC−DCコンバータ15の間に局部発振器112の発振周波数fSWを1/n分周する分周部(図示せず)を挿入してもよい。
【0024】
本実施形態によれば、fDD×n=fSWが成立し、図4の信号のスペクトル図(その2)に示すようにDC−DCコンバータ15のスイッチング周波数fDDのn次高調波の周波数(fDD×n)が局部発振器112の発振周波数fSWと一致するので、中間周波信号生成113の出力信号の周波数帯域零〜ft (ここで、ft はレーダ装置の最大探知距離に対応して定まる周波数)の間にDC−DCコンバータ15のスイッチング周波数のn次高調波
に起因する雑音は発生ぜず、DC−DCコンバータに起因した誤情報が出力されることが防止される。
【0025】
なお、別の実施形態として、従来のレーダ装置と同様に、DC−DCコンバータ15を専用のスイッチング信号発振器16で励磁し、専用のスイッチング信号発振器16の発振周波数fDDを、fDD×n=fSW又は、fDD > fSW+ftが成立するように設定すること
としてもよい。
【0026】
前者の場合はDC−DCコンバータ15のスイッチング周波数fDDのn次高調波(fDD×n)が局部発振器112の発振周波数fSWと一致するので、又後者の場合は図5の信号のスペクトル図(その3)に示すようにDC−DCコンバータ15のスイッチング周波数fDDのn次高調波(fDD×n)から局部発振器112の発振周波数fSWを差し引いた差分周波数(fDD×n−fSW)はレーダ装置の検出範囲の上限に基づいて決定される周波数ft 以上となるため、誤情報が出力されることが防止される。
【0027】
ここで、局部発振器112とDC−DCコンバータ15とを接続する信号線が断線するなどすると、局部発振器112の局部発振周波数とDC−DCコンバータ15のスイッチング周波数の同期が外れる。このような非同期状態の場合、DC−DCコンバータ15は、あらかじめ設定された周波数でフリーラン動作を行うため、図2で示したような雑音スペクトル(差分周波数fDD×n−fSW)が発生してしまう。
【0028】
しかし、レーダ装置は、この非同期状態の存在を検知していなければ、これを雑音スペクトルと認識することはできず、さらに、対象物からの反射波に基づく情報信号との識別もできない。
【0029】
フリーラン動作が行われる周波数はあらかじめ設定されているが、温度などの環境の相違、又は部品の特性のばらつきなどにより、雑音スペクトルの位置に100kHzオーダー程度のずれが生じるので、あらかじめ雑音スペクトルの位置を特定することはできない。また、雑音スペクトルの位置にたまたま情報信号が存在する可能性もあるので、あらかじめ雑音スペクトルの位置を特定し、その位置のスペクトルはすべて雑音であると断定することもできない。
【0030】
そこで、本実施の形態例では、以下に説明する異常検出方法のうちの少なくとも一つを用いて、異常検出部18が局部発振器112とDC−DCコンバータ15の同期が取れていない状態(異常状態)を検出し、雑音スペクトルの存在を特定する。異常状態の検出は、通常モードとは異なる故障検出モードに切り換えて行われる。具体的には、通常モードで運用中に、定期的又はランダムに故障検出モードが挿入され、異常の有無が確認される。異常検出部18は、例えば、本実施の形態例の異常検出方法を実施するためのプログラムを実行するCPUなどで実現される。
【0031】
図6は、本実施の形態における第一の異常検出方法の処理フローチャートである。第一の異常検出方法では、FM変調周波数を変化させ、異なるFM変調周波数で変調された複数の連続波を送信した場合でも、中間周波信号の信号スペクトルに同じ周波数のピークが存在すれば、異常と認識し、そのピーク周波数を雑音スペクトル(DC−DCコンバータ15のフリーラン動作によるピーク周波数)と認識する。
【0032】
具体的には、あらかじめ設定された第一のFM変調周波数で変調された第一の連続波を送信し、その反射波に基づく中間周波信号の信号スペクトルのピーク周波数を抽出する(S10)。ピーク周波数は、複数存在してもよい。
【0033】
続いて、第一のFM変調周波数と異なる第二のFM変調周波数で変調された第二の連続波を送信し、その反射波に基づく中間周波信号の信号スペクトルのピーク周波数を抽出する(S11)。
【0034】
そして、第一のFM変調周波数に基づくピーク周波数と第二のFM変調周波数に基づくピーク周波数とを比較し、同じ周波数にピークが存在するかどうかを判定する(S12)。
【0035】
FM変調周波数を異ならせることにより、対象物からの反射波に基づくピークの周波数も変化するが、DC−DCコンバータのフリーラン動作によるピーク周波数は、FM変調周波数に依存しないので、FM変調周波数を変化させても、フリーラン動作によるピーク周波数の位置は変化しない。
【0036】
従って、ステップS12において、同じ周波数にピークが存在すれば、そのピークはフリーラン動作によるピーク周波数であるので、異常ありと判定し(S13)、同じ周波数にピークがなければ、異常なしと判定する(S14)。
【0037】
図7は、本実施の形態における第二の異常検出方法の処理フローチャートである。第二の異常検出方法では、例えば、FM−CWモードでの連続波の送信からCWモードなど変調を行わないモードでの連続波の送信に変化させた場合でも、中間周波数信号の信号スペクトルに同じ周波数のピークが存在すれば、異常と認識し、そのピーク周波数を雑音スペクトル(DC−DCコンバータ15のフリーラン動作によるピーク周波数)と認識する。
【0038】
具体的には、あらかじめ設定された第一のFM変調周波数で変調された第一の連続波を送信し、その反射波に基づく中間周波信号の信号スペクトルのピーク周波数を抽出する(S20)。ピーク周波数は、複数存在してもよい。
【0039】
続いて、第一のFM変調周波数による変調を止め、変調を行わないCWモードで変調されていない連続波を送信し、その反射波に基づく中間周波信号の信号スペクトルのピーク周波数を抽出する(S21)。
【0040】
そして、変調された連続波に基づくピーク周波数と変調されていない連続波に基づくピーク周波数とを比較し、同じ周波数にピークが存在するかどうかを判定する(S22)。
【0041】
連続波を変調する場合と変調しない場合とにより、対象物からの反射波に基づくピークの周波数も変化するが、DC−DCコンバータのフリーラン動作によるピーク周波数は、変調するかしないかに依存しないので、連続波の変調を止めても、フリーラン動作によるピーク周波数の位置は変化しない。
【0042】
従って、ステップS22において、同じ周波数にピークが存在すれば、そのピークはフリーラン動作によるピーク周波数であるので、異常ありと判定し(S23)、同じ周波数にピークがなければ、異常なしと判定する(S24)。
【0043】
図8は、本実施の形態における第三の異常検出方法の処理フローチャートである。第三の異常検出方法では、例えば、連続波の送信を止めた場合でも、中間周波数信号の信号スペクトルに同じ周波数のピークが存在すれば、異常と認識し、そのピーク周波数を雑音スペクトル(DC−DCコンバータ15のフリーラン動作によるピーク周波数)と認識する。
【0044】
具体的には、あらかじめ設定された第一のFM変調周波数で変調された第一の連続波を
送信し、その反射波に基づく中間周波信号の信号スペクトルのピーク周波数を抽出する(S30)。ピーク周波数は、複数存在してもよい。
【0045】
続いて、連続波の送信を停止し、その状態における中間周波信号の信号スペクトルのピーク周波数を抽出する(S31)。
【0046】
そして、連続波の送信に基づくピーク周波数と連続波の送信を停止した場合におけるピーク周波数とを比較し、同じ周波数にピークが存在するかどうかを判定する(S32)。
【0047】
連続波の送信を停止すれば、対象物からの反射波に基づくピーク周波数は存在しないが、DC−DCコンバータのフリーラン動作によるピーク周波数は、連続波の送信及び送信停止に依存しないので、連続波の送信を止めても、フリーラン動作によるピーク周波数は存在し、その位置は変化しない。
【0048】
従って、ステップS32において、同じ周波数にピークが存在すれば、そのピークはフリーラン動作によるピーク周波数であるので、異常ありと判定し(S33)、同じ周波数にピークがなければ、異常なしと判定する(S34)。
【0049】
上記第一、第二及び第三の異常検出方法を組み合わせて実施してもよい。例えば、第一の変調周波数で変調した連続波、第二の変調周波数で変調した連続波、及び変調しない連続波それぞれに基づくピーク周波数の位置を比較して、同じ周波数にピークが存在するかどうか判定するようにしてもよい。
【0050】
図9は、本実施の形態における第四の異常検出方法の処理フローチャートである。第四の異常検出方法では、送信波を変化させるのではなく、局部発振器112の局部発振周波数を変化させた場合でも、中間周波信号の信号スペクトルに同じ周波数のピークが存在すれば、異常と認識し、そのピーク周波数を雑音スペクトル(DC−DCコンバータ15のフリーラン動作によるピーク周波数)と認識する。
【0051】
具体的には、あらかじめ設定された第一の局部発振周波数に基づく中間周波信号の信号スペクトルのピーク周波数を抽出する(S40)。
【0052】
続いて、局部発振器112の局部発振周波数を変化させ、第一の局部発振周波数と異なる第二の局部発振周波数に基づく中間周波信号の信号スペクトルのピーク周波数を抽出する(S41)。
【0053】
そして、第一の局部発振周波数に基づくピーク周波数と第二の局部発振周波数に基づくピーク周波数とを比較し、同じ周波数にピークが存在するかどうかを判定する(S42)。
【0054】
局部発振周波数を異ならせることにより、中間周波数も変化するが、DC−DCコンバータのフリーラン動作によるピーク周波数は、局部発振周波数に依存しないので、局部発振周波数を変化させても、フリーラン動作によるピーク周波数の位置は変化しない。
【0055】
従って、ステップS42において、同じ周波数にピークが存在すれば、そのピークはフリーラン動作によるピーク周波数であるので、異常ありと判定し(S43)、同じ周波数にピークがなければ、異常なしと判定する(S44)。
【0056】
図10は、本実施の形態における第五の異常検出方法の処理フローチャートである。第五の異常検出方法では、局部発振器112の発振を停止した場合でも、中間周波数信号の
信号スペクトルに同じ周波数のピークが存在すれば、異常と認識し、そのピーク周波数を雑音スペクトルと認識する。
【0057】
具体的には、あらかじめ設定された第一の局部発振周波数に基づく中間周波信号の信号スペクトルのピーク周波数を抽出する(S50)。
【0058】
続いて、局部発振器112の発振を停止し、その状態における中間周波信号の信号スペクトルのピーク周波数を抽出する(S51)。
【0059】
そして、局部発振器112の発振中のときと、発振停止時におけるピーク周波数とを比較し、同じ周波数にピークが存在するかどうかを判定する(S52)。
【0060】
DC−DCコンバータのフリーラン動作によるピーク周波数は、局部発振器の発振及び発振停止に依存しないので、局部発振器の発振を止めても、フリーラン動作によるピーク周波数は存在し、その位置は変化しない。
【0061】
従って、ステップS52において、同じ周波数にピークが存在すれば、そのピークはフリーラン動作によるピーク周波数であるので、異常ありと判定し(S53)、同じ周波数にピークがなければ、異常なしと判定する(S54)。
【0062】
図11は、本実施の形態における第六の異常検出方法の処理フローチャートである。第六の異常検出方法では、所定時間変化しないピーク周波数が存在する場合に、異常と認識し、そのピーク周波数を雑音スペクトルと認識する。
【0063】
FM(−CW)レーダでは、ターゲットに由来するピーク周波数は、ターゲットとの距離や相対速度によって時々刻々と変化する。逆に、周波数が変化しないピークは、距離が変わらないターゲットということになるが、特に車両の走行中はターゲットとの距離が長時間変化しないという可能性は非常に低いと考えられる。従って、走行中に一定時間変化しないピーク周波数は、フリーラン動作による雑音スペクトルと判断することができる。
【0064】
この場合、車両の速度を検出して、異常検出の判断までの時間のしきい値を変化させてもよい。例えば、高速走行時は判断時間を短くする。また、車速が変化したり、ハンドルをきったにもかかわらず、ピーク周波数が変化しないことを検出して異常検出することもできる。例えば、車速は車輪に設けられた車速センサやエンジン回転数センサで検出可能である。また、車速の変化は上記センサ出力値の微分値を用いてもよいし、アクセルやブレーキの操作を直接監視してもよい。さらに、ハンドルをきったことは、ステアリングセンサで検出可能である。もちろん、これ以外にも直接または間接的に車両の動態を検出できるものであれば、いかなる手段を用いてもよい)。
【0065】
図11において、中間周波信号の信号スペクトルのピーク周波数を抽出する(S60)。抽出されるピーク周波数は複数であってもよい。そして、所定時間経過後(S61)、抽出されたピーク周波数の変化の有無を検出し、周波数が変化していないピークが存在するかどうか判定する(S62)。
【0066】
ステップS62において、周波数が変化していないピークが存在すれば、そのピークはフリーラン動作によるピーク周波数であるので、異常ありと判定し(S63)、周波数が変化していないピークがなければ、異常なしと判定する(S64)。
【0067】
異常検出モードで実施される上述の異常検出方法により、異常が検出された場合、すなわち、送信状態を変化させても同じ位置にピーク周波数が検出された場合、通常モードに
おいて、そのピーク周波数は、雑音スペクトルと認識され、その周波数信号をキャンセルして、信号処理を継続する。
【0068】
雑音スペクトルと判定されたピーク周波数は、例えば次の方法によりキャンセルされる。異常検出部18が異常(DC−DCコンバータと局部発振器の同期が取れていないこと)を検出すると、データ処理部12のメモリに、検出された雑音スペクトルであるDC−DCコンバータに起因するピーク周波数とその強度が補正値として記憶される。以降は、FFTによって得られる周波数スペクトルから、補正値を減算することによって、DC−DCコンバータ由来のピーク周波数をキャンセルすることができる。
【0069】
なお、補正値は定期的に更新するようにしてもよい。そうすれば、温度変化などによってDC−DCコンバータのフリーラン周波数がドリフトしたような場合でも、これに追従して正しく不要ピークをキャンセルすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】従来のレーダ装置の構成図である。
【図2】信号スペクトル図(その1)である。
【図3】本発明の実施の形態におけるレーダ装置の構成図である。
【図4】信号スペクトル図(その2)である。
【図5】信号スペクトル図(その3)である。
【図6】本実施の形態における第一の異常検出方法の処理フローチャートである。
【図7】本実施の形態における第二の異常検出方法の処理フローチャートである。
【図8】本実施の形態における第三の異常検出方法の処理フローチャートである。
【図9】本実施の形態における第四の異常検出方法の処理フローチャートである。
【図10】本実施の形態における第五の異常検出方法の処理フローチャートである。
【図11】本実施の形態における第六の異常検出方法の処理フローチャートである。
【符号の説明】
【0071】
1:レーダ装置、10:送信部、11:受信部、110:高周波増幅部、112:局部発振器、113:中間周波生成部、114:中間周波増幅部、115:検波部、12:データ処理部、13:アンテナ、15:DC−DCコンバータ、16:スイッチング信号発振器、18:異常検出部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲットに対して送信波を発射する送信部と、前記ターゲットからの反射波を受信するヘテロダイン方式の受信部と、前記受信部に電力を供給する電源部とを有するレーダ装置であって、前記受信部の局部発振周波数と前記電源部のスイッチング周波数とが同期して動作するものにおいて、
前記送信部の送信状態の変化に対し、前記受信部の出力信号に同一のピーク周波数が存在する場合、局部発振周波数とスイッチング周波数の同期が外れていると判断する検出部を有することを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記送信状態の変化は、送信波の変調周波数の変更、又は送信波の変調の切り換え、または送信波の停止を含むことを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
ターゲットからの反射波を受信するヘテロダイン方式の受信部と、前記受信部に電力を供給する電源部とを有するレーダ装置であって、前記受信部の局部発振周波数と前記電源部のスイッチング周波数とが同期して動作するものにおいて、
局部発振周波数の変化または停止に対し、前記受信部の出力信号に同一のピーク周波数が存在する場合、局部発振周波数とスイッチング周波数の同期が外れていると判断する検出部を有することを特徴とするレーダ装置。
【請求項4】
ターゲットからの反射波を受信するヘテロダイン方式の受信部と、前記受信部に電力を供給する電源部とを有するレーダ装置であって、前記受信部の局部発振周波数と前記電源部のスイッチング周波数とが同期して動作するものにおいて、
前記受信部の出力信号に同一のピーク周波数が存在する場合、局部発振周波数とスイッチング周波数の同期が外れていると判断する検出部を有することを特徴とするレーダ装置。
【請求項5】
局部発振周波数とスイッチング周波数の同期が外れていると判断された場合、前記同一のピーク周波数のキャンセルしてターゲットの検出を行うことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のレーダ装置。
【請求項1】
ターゲットに対して送信波を発射する送信部と、前記ターゲットからの反射波を受信するヘテロダイン方式の受信部と、前記受信部に電力を供給する電源部とを有するレーダ装置であって、前記受信部の局部発振周波数と前記電源部のスイッチング周波数とが同期して動作するものにおいて、
前記送信部の送信状態の変化に対し、前記受信部の出力信号に同一のピーク周波数が存在する場合、局部発振周波数とスイッチング周波数の同期が外れていると判断する検出部を有することを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記送信状態の変化は、送信波の変調周波数の変更、又は送信波の変調の切り換え、または送信波の停止を含むことを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
ターゲットからの反射波を受信するヘテロダイン方式の受信部と、前記受信部に電力を供給する電源部とを有するレーダ装置であって、前記受信部の局部発振周波数と前記電源部のスイッチング周波数とが同期して動作するものにおいて、
局部発振周波数の変化または停止に対し、前記受信部の出力信号に同一のピーク周波数が存在する場合、局部発振周波数とスイッチング周波数の同期が外れていると判断する検出部を有することを特徴とするレーダ装置。
【請求項4】
ターゲットからの反射波を受信するヘテロダイン方式の受信部と、前記受信部に電力を供給する電源部とを有するレーダ装置であって、前記受信部の局部発振周波数と前記電源部のスイッチング周波数とが同期して動作するものにおいて、
前記受信部の出力信号に同一のピーク周波数が存在する場合、局部発振周波数とスイッチング周波数の同期が外れていると判断する検出部を有することを特徴とするレーダ装置。
【請求項5】
局部発振周波数とスイッチング周波数の同期が外れていると判断された場合、前記同一のピーク周波数のキャンセルしてターゲットの検出を行うことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のレーダ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−242807(P2006−242807A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−60275(P2005−60275)
【出願日】平成17年3月4日(2005.3.4)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年3月4日(2005.3.4)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【Fターム(参考)】
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