レーダ装置
【課題】 複数本の受信アンテナビームを合成処理することによって、単一の受信ビームの場合と同一の合成開口時間でより広帯域な受信信号を生成し、再生画像のアジマス分解能を改善する。
【解決手段】 受信ビームの中心方向がアジマス方向に異なる複数のアンテナから得られる複数の受信信号から、マルチビームを形成するビーム形成手段と、上記ビーム形成手段で得られたマルチビームを用いてスペクトル合成を行うスペクトル合成手段と、上記スペクトル合成手段の合成信号を逆フーリエ変換した信号に基づいて、Polar Formatアルゴリズムを用いて画像再生処理する画像再生手段とを備える。
【解決手段】 受信ビームの中心方向がアジマス方向に異なる複数のアンテナから得られる複数の受信信号から、マルチビームを形成するビーム形成手段と、上記ビーム形成手段で得られたマルチビームを用いてスペクトル合成を行うスペクトル合成手段と、上記スペクトル合成手段の合成信号を逆フーリエ変換した信号に基づいて、Polar Formatアルゴリズムを用いて画像再生処理する画像再生手段とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、航空機または衛星などの移動プラットフォームに搭載し、受信信号の合成開口処理を行って地表や海面などの高分解能画像を得るレーダ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の合成開口レーダは、プラットフォームに搭載したレーダ装置において、複数本の受信アンテナビームの受信信号を合成した後、所謂レンジドップラーアルゴリズムを用いて画像再生することにより、複数本の受信アンテナビームを合成処理することによって信号帯域を拡大し、静止物体と低速移動目標との分離性能を向上させていた(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平6−118166号公報(図1、第10〜14段落)
【0004】
レンジドップラーアルゴリズムでは、パルス圧縮手段でレンジ方向の高分解能化を実現し、静止目標のドップラー周波数の時間変化を考慮したアジマス圧縮手段によりアジマス方向に目標を分離することで静止目標の高分解能画像を得ることができる。ただし、レンジドップラーアルゴリズムでは、合成開口角が大きく、レンジサンプリング間隔が小さい場合、アジマス圧縮前のアジマスFFTによってドップラがアジマス方向に拡がってしまい、レンジ移動補償で誤差が生じる。従って合成開口時間に制約がある。
【0005】
一方、合成開口時間の制約が比較的少ない画像の再生方法として、Polar Formatアルゴリズムが知られている(例えば、特許文献2参照)。Polar Formatアルゴリズムでは、レンジ移動補償後の出力信号をまず極座標上に配置する。さらに、信号補間により極座標上の信号から直交座標の格子点上の信号を補間する。その結果、直交座標上で等間隔な格子点上の信号をIFFTすることでレンジドップラーアルゴリズムに比べてレンジ移動補償を正確に行えることができ、合成開口時間の制約が比較的少ない。
【0006】
【特許文献2】特開2003−90880号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のPolar Formatアルゴリズムを用いたレーダ装置は、単一の受信ビームによる処理しか考慮されておらず、複数本の受信アンテナビームを合成処理していない。このため、複数本の受信アンテナビームを合成処理することによって、単一の受信ビームの場合と同一の合成開口時間でより広帯域な受信信号を生成し、再生画像のアジマス分解能を改善することが望まれていた。
【0008】
この発明は、係る課題を解決するために成されたものであり、複数本の受信アンテナビームの受信信号を合成処理して、アジマス分解能を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明によるレーダ装置は、受信ビームの中心方向がアジマス方向に異なる複数のアンテナから得られる複数の受信信号から、マルチビームを形成するビーム形成手段と、上記ビーム形成手段で得られたマルチビームを用いてスペクトル合成を行うスペクトル合成手段と、上記スペクトル合成手段の合成信号を逆フーリエ変換した信号に基づいて、Polar Formatアルゴリズムを用いて画像再生処理する画像再生手段と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、Polar Formatアルゴリズムの処理前にマルチビームを合成することによって、受信信号を広帯域化し、アジマス分解能を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
実施の形態1。
以下、図を用いてこの発明に係る実施の形態1について説明する。
図1は実施の形態1によるレーダ装置50を搭載した移動プラットフォーム100を示す図である。図においてz軸は鉛直方向である。
【0012】
移動プラットフォーム100は、航空機や人工衛星から構成され、地表や海面上空の空間を速度Vで移動する。図の例では、移動プラットフォーム100を、機軸(x軸)に平行な方向に移動する航空機を示している。レーダ装置50は、移動プラットフォーム100の下部(地表面側)に配置され、移動プラットフォーム100の移動に伴なって、帯状に地表面60の二次元画像を取得する。レーダ装置50は、z軸に対し所定のオフナディア角θofnを有してアンテナ開口中心Pから地表面60の観測中心Cを俯瞰する。また、レーダ装置50は、x軸に対し、スクイント角θsqti(i=1,2,..)を有して、複数の受信アンテナビームを形成している。
【0013】
図2は実施の形態1によるレーダ装置の構成を示している。レーダ装置50は、アレイアンテナ1、受信機2、ビーム形成手段3、動揺補償手段4、FFT部5、スペクトル合成手段6、アジマスIFFT部7、画像再生部8、表示手段20を備えて構成される。なお、この実施の形態は受信系の処理に特徴を有するので、送信機を含む送信系の図示とその説明は省略している。
【0014】
図2において、アレイアンテナ1は反射物からの反射パルスを受信する複数のアンテナを備えて構成される。各アンテナは方位方向(アジマス方向)に配列され、各アンテナの受信ビームの中心がアジマス方向に互いに異なるように構成されている。アレイアンテナ1は、高周波パルス信号を空間に放射(送信)するとともに、反射物で反射したエコー信号を収集(受信)する。送信用のアンテナについては図示を省略している。
【0015】
受信機2は、アレイアンテナ1で受信されたRF(Radio Frequency)信号をビデオ信号に周波数変換し、A/D変換によりレンジビン毎にデジタル信号に変換した受信信号を出力する。複数の受信機2が、アレイアンテナ1の各アンテナにそれぞれ接続されて、受信機群を構成している。
【0016】
ビーム形成手段3は、受信機群を構成する各受信機3の出力を入力として、マルチビームを形成し、形成した各ビームを出力する。移動プラットフォーム100は慣性装置(図示略)を搭載する。
動揺補償手段4は、この慣性装置から出力される移動体プラットフォーム100の機体の位置情報及び姿勢情報を用いて、機体動揺に伴った移動軌跡の摂動量を算出し、ビーム形成手段3から出力される各ビームの補償を行う。
【0017】
FFT手段5は、動揺補償手段4の出力を入力し、ビーム毎に、地表面上からの反射信号のヒット方向に、FFT(フーリエ変換)処理を実施する。スペクトル合成手段6は、ビーム毎のFFT手段5の処理結果を入力として、ビーム毎の信号スペクトルを合成することにより、ビーム分の信号帯域を有する合成信号を得る。
【0018】
アジマスIFFT手段7は、スペクトル合成手段で得られた合成信号の出力信号を入力し、アジマス方向のヒット方向にIFFT(逆フーリエ変換)処理して、時間領域の信号に戻す。画像再生手段8は、アジマスIFFT手段7の出力を入力し、Polar formatアルゴリズムに従って画像再生処理を実施する。
表示手段20は、画像再生手段8で再生された出力画像を入力し、レーダ画像を出力する。
【0019】
以下に、動作に関する説明をする。
図2において、第n番目の素子アンテナにおける第m番目の送信パルスに対する受信信号をs(n、m)で表すと、ビーム形成手段3の出力は式(1)のS1(k,m)で表される。ここにおいて、λはアレイアンテナ1から出力される送信波の送信波長である。
【0020】
【数1】
【0021】
次に、ビーム形成手段3の出力を動揺補償手段4に入力する。動揺補償手段4は、式(2)に従って、位相補償量Δに基づいて移動プラットフォーム100が理想的な直線運動をした場合のビーム形成手段3の出力を補償する。
【0022】
【数2】
【0023】
図3は、動揺補償手段4によって処理される、アレイアンテナ1の移動軌跡と位相補償量Δとの関係を示す図である。同図の破線は、移動プラットフォーム100の機体動揺を伴う場合の、実際の移動軌跡を示している。これに対して、実線は理想的な直線運動を仮定した場合の移動軌跡を示す。
【0024】
説明の都合上、機体軸座標系を基準として、慣性装置から得られる移動プラットフォーム100の機体のオイラー角を、α、β、γとし、NED座標系(北基準座標系)における機体軸の方向を、ψ、θとする。図4に、これら座標系の定義を図示する。
図において、図4(a)に示すように、プラットフォーム観測開始時における重心を原点、北をx軸の正、東をy軸の正、右手系をなすように鉛直下方をz軸の正とした座標系である。
また、機体軸座標系とは移動プラットフォーム100の機首方向(便宜上速度ベクトル方向)をx軸の正となるように、NED座標系を座標変換したものであり、オイラー角α、β、γは図4(b)のように定義される座標系である。
【0025】
また、移動プラットフォーム100の機体重心に対して、慣性装置、ならびにアレイアンテナ1のビーム毎の機械開口中心は既知であるものとし、これらの座標を、それぞれ(Xs、Ys、Zs)T、(Xa、Ya、Za)T とおく。
慣性装置によって得られる移動プラットフォーム100の機体の位置は、慣性装置を基準とする座標であるから、まず数3の式(3)〜(9)に従い、アンテナ位置基準の座標に変換する。
【0026】
【数3】
【0027】
図3における実線はアンテナ位置基準の軌跡を示し、この軌跡は、アンテナ位置基準の期座標から、初速を維持したまま等速直線運動を行うと仮定した場合の軌跡を表す。また破線は、移動プラットフォーム100の機体動揺による摂動を伴った、実際のアンテナ位置を表す。
【0028】
サンプリング時刻tkにおいて、破線上の座標がA(X1、Y1、Z1)であるものとする。画像化中心の座標O(Xct、Yct、Zct)とA点を結んだ直線と実線で示した理想的な機体の軌道との交点を交点B(X2、Y2、Z2)とする。位相補償量Δは、交点BとA(X1、Y1、Z1)点のO点までの距離差Δrによって、Δ=2πΔr/λ、と定義できる。すなわち、これらの距離をr0(t)、r1(t)とし、補償算出部にて、式(10)で示すようにこれらの距離差を求めて、Δr、並びにΔが算出される。算出されたΔと式(2)に基づいて、動揺補償部にて、ビーム形成手段3の出力が動揺補償される。
【0029】
次に、FFT手段5では、ビーム毎の信号であるS2(k、m)を、各ビーム出力毎に、mについて数4の式(11)示すようにヒット方向にフーリエ変換する。これによって、ビーム毎のドップラースペクトルS3(k、l)が得られる。
【0030】
【数4】
【0031】
スペクトル合成手段6では、この結果得られるビーム毎のドップラースペクトルS3(k、l)より、ビーム数分のスペクトルを合成し、数5の式(12)に従って、ビーム数分だけ帯域が拡張された合成スペクトルS4(i)が得られる。
【0032】
【数5】
【0033】
ここで、ビーム毎のドップラースペクトルS3(k、l)をS4(i)に合成する方法を、図5を用いて説明する。図5は2ビームの場合を示している。説明のため、ビーム1のスクイント角をθsqt1、ビーム2のスクイント角をθsqt2とおく。またθsqt1<90°<θsqt2の関係が成立しているものとする。
この時、ビーム毎のスペクトル中心をfb1、fb2とすると、数6の式(13)〜(16)より、fb1>0、fb2<0の関係が成立する。
【0034】
【数6】
【0035】
図5において、(1a)は、ビーム1の信号であるS(k、1)をヒット方向にフーリエ変換した場合のスペクトルを表している。スペクトル中心fb1>0より信号帯域は0〜PRFの区間であるから、(1a)の破線で示した帯域外のスペクトル成分は折り返し信号となって現われる。
同様に(2a)は、ビーム2の信号であるS(k、2)をヒット方向にフーリエ変換した場合のスペクトルである。
信号の中心周波数は、-PRF〜0の区間であるが、観測される信号は(2a)の実線で示すように折り返し信号となって現われる。
【0036】
スペクトル合成手段6では、まずビーム毎のスペクトルを折り返しが生じないように(1b)、(2b)に示すように復元処理を行う。この復元処理では、2倍の信号帯域(2PRF分の信号帯域)を要する。
次に、復元後のスペクトルを、各ビームのスペクトルの中心周波数を考慮して、(c)に示すように合成する。すると、2PRF分の信号帯域が得られることになる。この合成処理により、あたかも1ビームで2倍の信号帯域が得られたものと同等の効果が得られる。
【0037】
次に、アジマスIFFT手段7によって、スペクトル合成手段6で合成されたスペクトルを式(17)にて逆フーリエ変換し、スペクトル合成後のビーム出力を時間領域に戻すことで、1ビームで得られた場合と等価でかつ、高帯域のビーム出力が得られる。これによりアジマス方向の高分解能化を実現できる。
【0038】
【数7】
【0039】
画像再生手段8は、アジマスIFFT手段7で処理されたビームを受信信号として、通常のPolar-formatアルゴリズムに従って、画像再生処理を行う。
Polar-formatアルゴリズムは、合成開口レーダの画像再生アルゴリズムの一つである。この処理では、移動プラットフォーム100の観測によって得られた受信信号を、図6に示すように、仮想的に求めた空間周波数の極座標系の、扇形の領域に写像する。ここで極座標における座標点を(Kr,θp)とすると、Krはプラットフォームからの距離、θpはプラットフォームから画像化中心を見た場合のx軸とのなす角度である。
これを、同図斜線領域で示す直角座標に補間処理することにより、位相補償を実現した二次元画像を得る。
空間周波数の座標系としては、例えば、プラットフォームからの距離、プラットフォームから画像化中心を見た場合のx軸とのなす角度で構成される極座標系を用いる。
また、斜線領域で示す直角座標系としては、例えば、レンジ軸(PC方向)、アジマス軸(x軸方向)を用いる。
【0040】
Polar formatアルゴリズムの詳細については、例えば、「W.G.Carrara、R.S.Goodman、R.M.Majewski、“Spotlight Synthetic Aperture Radar” Artec House、1995、p97」や、特許文献2などで紹介されているので、ここでは、Polar formatアルゴリズムの詳細処理についての説明を省略する。
【0041】
この実施の形態では、マルチビームで得た受信信号を、機体の動揺補償後、スペクトル合成することで、あたかも、1ビームで2倍の信号帯域が得られたものと同等の効果が得られる。スペクトル合成後は、逆フーリエ変換した後、Polar formatアルゴリズムで画像再生することで、レンジ移動補償で誤差が生じることが少ない。
【0042】
実施の形態2.
図7は、実施の形態2によるレーダ装置の構成を示している。ここではこの発明の要旨とする部分のみを説明する。
図7において、スペクトル簡易合成手段9は、ビーム毎のFFT手段5の出力を入力とし、ビーム毎の信号スペクトルを合成することにより、ビーム分の信号帯域を得る。
その他の構成については、実施の形態1の図2で説明したものと、同一のものを用いる。
【0043】
ビーム毎のドップラースペクトルを合成する原理図を図8を用いて説明する。
図8は2ビームの場合を示している。説明の都合上、ビーム1のスクイント角をθsqt1、ビーム2のスクイント角をθsqt2とおく。またθsqt1<90°<θsqt2の関係が成立しているものとする。この時、ビーム毎のスペクトル中心をfb1、fb2とすると、数8の式(18)〜(20)より、fb1>0、fb2<0の関係が成立する。さらに、ビーム1とビーム2の中心に対する周波数をfbとする。
【0044】
【数8】
【0045】
図8において(1a)は、ビーム1の信号であるS(k、1)をヒット方向にフーリエ変換した場合のスペクトルを表している。スペクトル中心fb1>0より信号帯域は0〜PRFの区間であるから、(1a)の破線で示した帯域外のスペクトル成分は折り返し信号となって現われる。
【0046】
同様に(2a)は、ビーム2の信号であるS(k、2)をヒット方向にフーリエ変換した場合のスペクトルである。信号の中心周波数は-PRF〜0の区間であるが、観測される信号は(2a)の実線で示すように折り返し信号となって現われる。
【0047】
スペクトル簡易合成手段9では、まずビーム毎のスペクトルを数8によって導出した2ビームの中心周波数fbを基準に、(1b)、(2b)に示すように周波数の配置変換を実施する。
次に、各ビームの配置変換後のスペクトルを、同図(c)に示すようにfbを中心に結合する。すると2PRF分の信号帯域が得られることになる。
この合成処理により、あたかも1ビームで2倍の信号帯域が得られたものと同等の効果が得られる。
【0048】
実施の形態1に比べると、この実施の形態では、比較的容易にスペクトル合成が可能である。また、配置変換処理の段階で、2倍の信号帯域を必要としない。ただし本実施例ではスペクトルの折り返しを許しているため、スペクトルの前後関係が崩れてしまうので虚像が再生画像となって現われることがあり得る。
【0049】
この実施の形態では、スペクトル合成時に周波数の折り返しを許して合成処理する。実施の形態1と比べて信号の帯域をビーム本数分に広げる処理が少なく、計算機のメモリを節約できる。
【0050】
実施の形態3.
図9は実施の形態3によるレーダ装置の構成を示している。実施の形態1の図1と同じ符号については、同じものを示す。
図9において、動揺補償手段10は、慣性装置から出力される機体の位置情報から機体動揺に伴う移動軌跡の摂動量を算出し、ビーム形成手段3の出力の補償を行う。
実施の形態1においては、動揺補償を行う場合に、受信アンテナの機械開口中心位置を考慮して補償した。しかしながら本実施の形態では、事前に算出しておいたビーム毎の位相中心を考慮して、数3におけるアレイアンテナ1の機械開口中心を、アレイアンテナ1の位相中心に置き換えれば良い。これによって、補償量算出部にて、数3に従って得られるΔrを用いて位相補償量Δ=2πΔr/λを得た後、動揺補償部にて、機体が理想的な直線運動をした場合のビーム形成手段の出力を補償する。
【0051】
以下に動作に関する説明をする。
図10は、動揺補償手段10によって処理される位相補償量Δの関係を示す図である。
同図の破線は、機体動揺を伴う実際の移動軌跡を示している。これに対して実線は理想的な直線運動を仮定した場合の、移動プラットフォーム100の移動軌跡を意味する。
アンテナの位相中心は事前に測定されて既知であるものとし、この座標を(Xp、Yp、Zp)T とおくと、その補償過程は実施の形態1の場合の、(Xa、Ya、Za)Tを(Xp、Yp、Zp)T と置き換えれば、同様な処理で位相補償量Δを得ることができる。
【0052】
この実施の形態によれば、移動プラットフォーム100の機体の動揺補償を、アレイアンテナ1のビームの機械開口中心ではなく、位相中心基準で行うので、機械開口位置中心に比べて正確な動揺補償が実施できる。
【0053】
実施の形態4.
図11は実施の形態4によるレーダ装置の構成を示している。ここではこの発明の要旨とする部分のみを説明する。
図11において11は慣性装置から出力される機体の位置情報から機体動揺に伴う軌道の摂動量を算出し、ビーム形成手段の出力の補償を行う動揺補償手段を表している。ただし、これまでの実施の形態においては、慣性装置から得られる機体のオイラー角を直接利用していたが、これらに誤差があることを考慮して、まずオイラー角を数9の式(21)〜(23)に従って平滑化し、平滑後のオイラー角から機体の動揺補償を行う。
【0054】
【数9】
【0055】
この実施の形態によれば、移動プラットフォーム100の機体の動揺補償を行う場合、慣性装置から得られる機体のオイラー角に誤差があることを考慮し、まずオイラー角を平滑化し、平滑後のオイラー角から機体の動揺補償を行う。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】この発明の実施の形態1によるレーダ装置を搭載した移動プラットフォームを示す図である。
【図2】この発明の実施の形態1を示すレーダ装置の構成図である。
【図3】この発明の実施の形態1における動揺補償手段の原理図である。
【図4】この発明の実施の形態1における動揺補償手段で使用するオイラー角、機首方向を定義する座標系の説明図である。
【図5】この発明の実施の形態1におけるスペクトル合成手段の説明図である。
【図6】Polar formatアルゴリズムの座標変換の概念図である。
【図7】この発明の実施の形態2を示すレーダ装置の構成図である。
【図8】この発明の実施の形態2におけるスペクトル簡易合成手段の説明図である。
【図9】この発明の実施の形態3を示すレーダ装置の構成図である。
【図10】この発明の実施の形態3における動揺補償手段の原理図である。
【図11】この発明の実施の形態4を示すレーダ装置の構成図である。
【符号の説明】
【0057】
1 アレイアンテナ、2 受信機、3 ビーム形成手段、4 動揺補償手段、5FFT手段、 6 スペクトル合成手段、7 IFFT手段、8 画像再生手段、9 スペクトル簡易合成手段、10 動揺補償手段、11 動揺補償手段、20 表示手段。
【技術分野】
【0001】
この発明は、航空機または衛星などの移動プラットフォームに搭載し、受信信号の合成開口処理を行って地表や海面などの高分解能画像を得るレーダ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の合成開口レーダは、プラットフォームに搭載したレーダ装置において、複数本の受信アンテナビームの受信信号を合成した後、所謂レンジドップラーアルゴリズムを用いて画像再生することにより、複数本の受信アンテナビームを合成処理することによって信号帯域を拡大し、静止物体と低速移動目標との分離性能を向上させていた(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平6−118166号公報(図1、第10〜14段落)
【0004】
レンジドップラーアルゴリズムでは、パルス圧縮手段でレンジ方向の高分解能化を実現し、静止目標のドップラー周波数の時間変化を考慮したアジマス圧縮手段によりアジマス方向に目標を分離することで静止目標の高分解能画像を得ることができる。ただし、レンジドップラーアルゴリズムでは、合成開口角が大きく、レンジサンプリング間隔が小さい場合、アジマス圧縮前のアジマスFFTによってドップラがアジマス方向に拡がってしまい、レンジ移動補償で誤差が生じる。従って合成開口時間に制約がある。
【0005】
一方、合成開口時間の制約が比較的少ない画像の再生方法として、Polar Formatアルゴリズムが知られている(例えば、特許文献2参照)。Polar Formatアルゴリズムでは、レンジ移動補償後の出力信号をまず極座標上に配置する。さらに、信号補間により極座標上の信号から直交座標の格子点上の信号を補間する。その結果、直交座標上で等間隔な格子点上の信号をIFFTすることでレンジドップラーアルゴリズムに比べてレンジ移動補償を正確に行えることができ、合成開口時間の制約が比較的少ない。
【0006】
【特許文献2】特開2003−90880号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のPolar Formatアルゴリズムを用いたレーダ装置は、単一の受信ビームによる処理しか考慮されておらず、複数本の受信アンテナビームを合成処理していない。このため、複数本の受信アンテナビームを合成処理することによって、単一の受信ビームの場合と同一の合成開口時間でより広帯域な受信信号を生成し、再生画像のアジマス分解能を改善することが望まれていた。
【0008】
この発明は、係る課題を解決するために成されたものであり、複数本の受信アンテナビームの受信信号を合成処理して、アジマス分解能を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明によるレーダ装置は、受信ビームの中心方向がアジマス方向に異なる複数のアンテナから得られる複数の受信信号から、マルチビームを形成するビーム形成手段と、上記ビーム形成手段で得られたマルチビームを用いてスペクトル合成を行うスペクトル合成手段と、上記スペクトル合成手段の合成信号を逆フーリエ変換した信号に基づいて、Polar Formatアルゴリズムを用いて画像再生処理する画像再生手段と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、Polar Formatアルゴリズムの処理前にマルチビームを合成することによって、受信信号を広帯域化し、アジマス分解能を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
実施の形態1。
以下、図を用いてこの発明に係る実施の形態1について説明する。
図1は実施の形態1によるレーダ装置50を搭載した移動プラットフォーム100を示す図である。図においてz軸は鉛直方向である。
【0012】
移動プラットフォーム100は、航空機や人工衛星から構成され、地表や海面上空の空間を速度Vで移動する。図の例では、移動プラットフォーム100を、機軸(x軸)に平行な方向に移動する航空機を示している。レーダ装置50は、移動プラットフォーム100の下部(地表面側)に配置され、移動プラットフォーム100の移動に伴なって、帯状に地表面60の二次元画像を取得する。レーダ装置50は、z軸に対し所定のオフナディア角θofnを有してアンテナ開口中心Pから地表面60の観測中心Cを俯瞰する。また、レーダ装置50は、x軸に対し、スクイント角θsqti(i=1,2,..)を有して、複数の受信アンテナビームを形成している。
【0013】
図2は実施の形態1によるレーダ装置の構成を示している。レーダ装置50は、アレイアンテナ1、受信機2、ビーム形成手段3、動揺補償手段4、FFT部5、スペクトル合成手段6、アジマスIFFT部7、画像再生部8、表示手段20を備えて構成される。なお、この実施の形態は受信系の処理に特徴を有するので、送信機を含む送信系の図示とその説明は省略している。
【0014】
図2において、アレイアンテナ1は反射物からの反射パルスを受信する複数のアンテナを備えて構成される。各アンテナは方位方向(アジマス方向)に配列され、各アンテナの受信ビームの中心がアジマス方向に互いに異なるように構成されている。アレイアンテナ1は、高周波パルス信号を空間に放射(送信)するとともに、反射物で反射したエコー信号を収集(受信)する。送信用のアンテナについては図示を省略している。
【0015】
受信機2は、アレイアンテナ1で受信されたRF(Radio Frequency)信号をビデオ信号に周波数変換し、A/D変換によりレンジビン毎にデジタル信号に変換した受信信号を出力する。複数の受信機2が、アレイアンテナ1の各アンテナにそれぞれ接続されて、受信機群を構成している。
【0016】
ビーム形成手段3は、受信機群を構成する各受信機3の出力を入力として、マルチビームを形成し、形成した各ビームを出力する。移動プラットフォーム100は慣性装置(図示略)を搭載する。
動揺補償手段4は、この慣性装置から出力される移動体プラットフォーム100の機体の位置情報及び姿勢情報を用いて、機体動揺に伴った移動軌跡の摂動量を算出し、ビーム形成手段3から出力される各ビームの補償を行う。
【0017】
FFT手段5は、動揺補償手段4の出力を入力し、ビーム毎に、地表面上からの反射信号のヒット方向に、FFT(フーリエ変換)処理を実施する。スペクトル合成手段6は、ビーム毎のFFT手段5の処理結果を入力として、ビーム毎の信号スペクトルを合成することにより、ビーム分の信号帯域を有する合成信号を得る。
【0018】
アジマスIFFT手段7は、スペクトル合成手段で得られた合成信号の出力信号を入力し、アジマス方向のヒット方向にIFFT(逆フーリエ変換)処理して、時間領域の信号に戻す。画像再生手段8は、アジマスIFFT手段7の出力を入力し、Polar formatアルゴリズムに従って画像再生処理を実施する。
表示手段20は、画像再生手段8で再生された出力画像を入力し、レーダ画像を出力する。
【0019】
以下に、動作に関する説明をする。
図2において、第n番目の素子アンテナにおける第m番目の送信パルスに対する受信信号をs(n、m)で表すと、ビーム形成手段3の出力は式(1)のS1(k,m)で表される。ここにおいて、λはアレイアンテナ1から出力される送信波の送信波長である。
【0020】
【数1】
【0021】
次に、ビーム形成手段3の出力を動揺補償手段4に入力する。動揺補償手段4は、式(2)に従って、位相補償量Δに基づいて移動プラットフォーム100が理想的な直線運動をした場合のビーム形成手段3の出力を補償する。
【0022】
【数2】
【0023】
図3は、動揺補償手段4によって処理される、アレイアンテナ1の移動軌跡と位相補償量Δとの関係を示す図である。同図の破線は、移動プラットフォーム100の機体動揺を伴う場合の、実際の移動軌跡を示している。これに対して、実線は理想的な直線運動を仮定した場合の移動軌跡を示す。
【0024】
説明の都合上、機体軸座標系を基準として、慣性装置から得られる移動プラットフォーム100の機体のオイラー角を、α、β、γとし、NED座標系(北基準座標系)における機体軸の方向を、ψ、θとする。図4に、これら座標系の定義を図示する。
図において、図4(a)に示すように、プラットフォーム観測開始時における重心を原点、北をx軸の正、東をy軸の正、右手系をなすように鉛直下方をz軸の正とした座標系である。
また、機体軸座標系とは移動プラットフォーム100の機首方向(便宜上速度ベクトル方向)をx軸の正となるように、NED座標系を座標変換したものであり、オイラー角α、β、γは図4(b)のように定義される座標系である。
【0025】
また、移動プラットフォーム100の機体重心に対して、慣性装置、ならびにアレイアンテナ1のビーム毎の機械開口中心は既知であるものとし、これらの座標を、それぞれ(Xs、Ys、Zs)T、(Xa、Ya、Za)T とおく。
慣性装置によって得られる移動プラットフォーム100の機体の位置は、慣性装置を基準とする座標であるから、まず数3の式(3)〜(9)に従い、アンテナ位置基準の座標に変換する。
【0026】
【数3】
【0027】
図3における実線はアンテナ位置基準の軌跡を示し、この軌跡は、アンテナ位置基準の期座標から、初速を維持したまま等速直線運動を行うと仮定した場合の軌跡を表す。また破線は、移動プラットフォーム100の機体動揺による摂動を伴った、実際のアンテナ位置を表す。
【0028】
サンプリング時刻tkにおいて、破線上の座標がA(X1、Y1、Z1)であるものとする。画像化中心の座標O(Xct、Yct、Zct)とA点を結んだ直線と実線で示した理想的な機体の軌道との交点を交点B(X2、Y2、Z2)とする。位相補償量Δは、交点BとA(X1、Y1、Z1)点のO点までの距離差Δrによって、Δ=2πΔr/λ、と定義できる。すなわち、これらの距離をr0(t)、r1(t)とし、補償算出部にて、式(10)で示すようにこれらの距離差を求めて、Δr、並びにΔが算出される。算出されたΔと式(2)に基づいて、動揺補償部にて、ビーム形成手段3の出力が動揺補償される。
【0029】
次に、FFT手段5では、ビーム毎の信号であるS2(k、m)を、各ビーム出力毎に、mについて数4の式(11)示すようにヒット方向にフーリエ変換する。これによって、ビーム毎のドップラースペクトルS3(k、l)が得られる。
【0030】
【数4】
【0031】
スペクトル合成手段6では、この結果得られるビーム毎のドップラースペクトルS3(k、l)より、ビーム数分のスペクトルを合成し、数5の式(12)に従って、ビーム数分だけ帯域が拡張された合成スペクトルS4(i)が得られる。
【0032】
【数5】
【0033】
ここで、ビーム毎のドップラースペクトルS3(k、l)をS4(i)に合成する方法を、図5を用いて説明する。図5は2ビームの場合を示している。説明のため、ビーム1のスクイント角をθsqt1、ビーム2のスクイント角をθsqt2とおく。またθsqt1<90°<θsqt2の関係が成立しているものとする。
この時、ビーム毎のスペクトル中心をfb1、fb2とすると、数6の式(13)〜(16)より、fb1>0、fb2<0の関係が成立する。
【0034】
【数6】
【0035】
図5において、(1a)は、ビーム1の信号であるS(k、1)をヒット方向にフーリエ変換した場合のスペクトルを表している。スペクトル中心fb1>0より信号帯域は0〜PRFの区間であるから、(1a)の破線で示した帯域外のスペクトル成分は折り返し信号となって現われる。
同様に(2a)は、ビーム2の信号であるS(k、2)をヒット方向にフーリエ変換した場合のスペクトルである。
信号の中心周波数は、-PRF〜0の区間であるが、観測される信号は(2a)の実線で示すように折り返し信号となって現われる。
【0036】
スペクトル合成手段6では、まずビーム毎のスペクトルを折り返しが生じないように(1b)、(2b)に示すように復元処理を行う。この復元処理では、2倍の信号帯域(2PRF分の信号帯域)を要する。
次に、復元後のスペクトルを、各ビームのスペクトルの中心周波数を考慮して、(c)に示すように合成する。すると、2PRF分の信号帯域が得られることになる。この合成処理により、あたかも1ビームで2倍の信号帯域が得られたものと同等の効果が得られる。
【0037】
次に、アジマスIFFT手段7によって、スペクトル合成手段6で合成されたスペクトルを式(17)にて逆フーリエ変換し、スペクトル合成後のビーム出力を時間領域に戻すことで、1ビームで得られた場合と等価でかつ、高帯域のビーム出力が得られる。これによりアジマス方向の高分解能化を実現できる。
【0038】
【数7】
【0039】
画像再生手段8は、アジマスIFFT手段7で処理されたビームを受信信号として、通常のPolar-formatアルゴリズムに従って、画像再生処理を行う。
Polar-formatアルゴリズムは、合成開口レーダの画像再生アルゴリズムの一つである。この処理では、移動プラットフォーム100の観測によって得られた受信信号を、図6に示すように、仮想的に求めた空間周波数の極座標系の、扇形の領域に写像する。ここで極座標における座標点を(Kr,θp)とすると、Krはプラットフォームからの距離、θpはプラットフォームから画像化中心を見た場合のx軸とのなす角度である。
これを、同図斜線領域で示す直角座標に補間処理することにより、位相補償を実現した二次元画像を得る。
空間周波数の座標系としては、例えば、プラットフォームからの距離、プラットフォームから画像化中心を見た場合のx軸とのなす角度で構成される極座標系を用いる。
また、斜線領域で示す直角座標系としては、例えば、レンジ軸(PC方向)、アジマス軸(x軸方向)を用いる。
【0040】
Polar formatアルゴリズムの詳細については、例えば、「W.G.Carrara、R.S.Goodman、R.M.Majewski、“Spotlight Synthetic Aperture Radar” Artec House、1995、p97」や、特許文献2などで紹介されているので、ここでは、Polar formatアルゴリズムの詳細処理についての説明を省略する。
【0041】
この実施の形態では、マルチビームで得た受信信号を、機体の動揺補償後、スペクトル合成することで、あたかも、1ビームで2倍の信号帯域が得られたものと同等の効果が得られる。スペクトル合成後は、逆フーリエ変換した後、Polar formatアルゴリズムで画像再生することで、レンジ移動補償で誤差が生じることが少ない。
【0042】
実施の形態2.
図7は、実施の形態2によるレーダ装置の構成を示している。ここではこの発明の要旨とする部分のみを説明する。
図7において、スペクトル簡易合成手段9は、ビーム毎のFFT手段5の出力を入力とし、ビーム毎の信号スペクトルを合成することにより、ビーム分の信号帯域を得る。
その他の構成については、実施の形態1の図2で説明したものと、同一のものを用いる。
【0043】
ビーム毎のドップラースペクトルを合成する原理図を図8を用いて説明する。
図8は2ビームの場合を示している。説明の都合上、ビーム1のスクイント角をθsqt1、ビーム2のスクイント角をθsqt2とおく。またθsqt1<90°<θsqt2の関係が成立しているものとする。この時、ビーム毎のスペクトル中心をfb1、fb2とすると、数8の式(18)〜(20)より、fb1>0、fb2<0の関係が成立する。さらに、ビーム1とビーム2の中心に対する周波数をfbとする。
【0044】
【数8】
【0045】
図8において(1a)は、ビーム1の信号であるS(k、1)をヒット方向にフーリエ変換した場合のスペクトルを表している。スペクトル中心fb1>0より信号帯域は0〜PRFの区間であるから、(1a)の破線で示した帯域外のスペクトル成分は折り返し信号となって現われる。
【0046】
同様に(2a)は、ビーム2の信号であるS(k、2)をヒット方向にフーリエ変換した場合のスペクトルである。信号の中心周波数は-PRF〜0の区間であるが、観測される信号は(2a)の実線で示すように折り返し信号となって現われる。
【0047】
スペクトル簡易合成手段9では、まずビーム毎のスペクトルを数8によって導出した2ビームの中心周波数fbを基準に、(1b)、(2b)に示すように周波数の配置変換を実施する。
次に、各ビームの配置変換後のスペクトルを、同図(c)に示すようにfbを中心に結合する。すると2PRF分の信号帯域が得られることになる。
この合成処理により、あたかも1ビームで2倍の信号帯域が得られたものと同等の効果が得られる。
【0048】
実施の形態1に比べると、この実施の形態では、比較的容易にスペクトル合成が可能である。また、配置変換処理の段階で、2倍の信号帯域を必要としない。ただし本実施例ではスペクトルの折り返しを許しているため、スペクトルの前後関係が崩れてしまうので虚像が再生画像となって現われることがあり得る。
【0049】
この実施の形態では、スペクトル合成時に周波数の折り返しを許して合成処理する。実施の形態1と比べて信号の帯域をビーム本数分に広げる処理が少なく、計算機のメモリを節約できる。
【0050】
実施の形態3.
図9は実施の形態3によるレーダ装置の構成を示している。実施の形態1の図1と同じ符号については、同じものを示す。
図9において、動揺補償手段10は、慣性装置から出力される機体の位置情報から機体動揺に伴う移動軌跡の摂動量を算出し、ビーム形成手段3の出力の補償を行う。
実施の形態1においては、動揺補償を行う場合に、受信アンテナの機械開口中心位置を考慮して補償した。しかしながら本実施の形態では、事前に算出しておいたビーム毎の位相中心を考慮して、数3におけるアレイアンテナ1の機械開口中心を、アレイアンテナ1の位相中心に置き換えれば良い。これによって、補償量算出部にて、数3に従って得られるΔrを用いて位相補償量Δ=2πΔr/λを得た後、動揺補償部にて、機体が理想的な直線運動をした場合のビーム形成手段の出力を補償する。
【0051】
以下に動作に関する説明をする。
図10は、動揺補償手段10によって処理される位相補償量Δの関係を示す図である。
同図の破線は、機体動揺を伴う実際の移動軌跡を示している。これに対して実線は理想的な直線運動を仮定した場合の、移動プラットフォーム100の移動軌跡を意味する。
アンテナの位相中心は事前に測定されて既知であるものとし、この座標を(Xp、Yp、Zp)T とおくと、その補償過程は実施の形態1の場合の、(Xa、Ya、Za)Tを(Xp、Yp、Zp)T と置き換えれば、同様な処理で位相補償量Δを得ることができる。
【0052】
この実施の形態によれば、移動プラットフォーム100の機体の動揺補償を、アレイアンテナ1のビームの機械開口中心ではなく、位相中心基準で行うので、機械開口位置中心に比べて正確な動揺補償が実施できる。
【0053】
実施の形態4.
図11は実施の形態4によるレーダ装置の構成を示している。ここではこの発明の要旨とする部分のみを説明する。
図11において11は慣性装置から出力される機体の位置情報から機体動揺に伴う軌道の摂動量を算出し、ビーム形成手段の出力の補償を行う動揺補償手段を表している。ただし、これまでの実施の形態においては、慣性装置から得られる機体のオイラー角を直接利用していたが、これらに誤差があることを考慮して、まずオイラー角を数9の式(21)〜(23)に従って平滑化し、平滑後のオイラー角から機体の動揺補償を行う。
【0054】
【数9】
【0055】
この実施の形態によれば、移動プラットフォーム100の機体の動揺補償を行う場合、慣性装置から得られる機体のオイラー角に誤差があることを考慮し、まずオイラー角を平滑化し、平滑後のオイラー角から機体の動揺補償を行う。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】この発明の実施の形態1によるレーダ装置を搭載した移動プラットフォームを示す図である。
【図2】この発明の実施の形態1を示すレーダ装置の構成図である。
【図3】この発明の実施の形態1における動揺補償手段の原理図である。
【図4】この発明の実施の形態1における動揺補償手段で使用するオイラー角、機首方向を定義する座標系の説明図である。
【図5】この発明の実施の形態1におけるスペクトル合成手段の説明図である。
【図6】Polar formatアルゴリズムの座標変換の概念図である。
【図7】この発明の実施の形態2を示すレーダ装置の構成図である。
【図8】この発明の実施の形態2におけるスペクトル簡易合成手段の説明図である。
【図9】この発明の実施の形態3を示すレーダ装置の構成図である。
【図10】この発明の実施の形態3における動揺補償手段の原理図である。
【図11】この発明の実施の形態4を示すレーダ装置の構成図である。
【符号の説明】
【0057】
1 アレイアンテナ、2 受信機、3 ビーム形成手段、4 動揺補償手段、5FFT手段、 6 スペクトル合成手段、7 IFFT手段、8 画像再生手段、9 スペクトル簡易合成手段、10 動揺補償手段、11 動揺補償手段、20 表示手段。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信ビームの中心方向がアジマス方向に異なる複数のアンテナから得られる複数の受信信号から、マルチビームを形成するビーム形成手段と、
上記ビーム形成手段で得られたマルチビームを用いてスペクトル合成を行うスペクトル合成手段と、
上記スペクトル合成手段の合成信号を逆フーリエ変換した信号に基づいて、Polar Formatアルゴリズムを用いて画像再生処理する画像再生手段と、
を備えたレーダ装置。
【請求項2】
上記スペクトル合成手段は、各マルチビームの周波数の折り返しを許容して合成処理することを特徴とする請求項1記載のレーダ装置。
【請求項3】
上記ビーム形成手段で得られたマルチビームに対し、レーダ装置を搭載する移動プラットフォームの動揺に伴なう、アンテナ開口中心の移動量を補償し、補償後のマルチビームをスペクトル合成手段に供給する動揺補償手段を備えたことを特徴とする請求項1記載のレーダ装置。
【請求項4】
上記ビーム形成手段で得られたマルチビームに対し、レーダ装置を搭載する移動プラットフォームの動揺に伴なう、アンテナ開口中心の位相変化を補償し、補償後のマルチビームをスペクトル合成手段に供給する動揺補償手段を備えたことを特徴とする請求項1記載のレーダ装置。
【請求項5】
上記動揺補償手段は、オイラー角で表現される座標系を用いて移動プラットフォームの動揺を計測する慣性装置を備え、当該慣性装置によるオイラー角の計測値を平滑化することを特徴とする請求項1記載のレーダ装置。
【請求項1】
受信ビームの中心方向がアジマス方向に異なる複数のアンテナから得られる複数の受信信号から、マルチビームを形成するビーム形成手段と、
上記ビーム形成手段で得られたマルチビームを用いてスペクトル合成を行うスペクトル合成手段と、
上記スペクトル合成手段の合成信号を逆フーリエ変換した信号に基づいて、Polar Formatアルゴリズムを用いて画像再生処理する画像再生手段と、
を備えたレーダ装置。
【請求項2】
上記スペクトル合成手段は、各マルチビームの周波数の折り返しを許容して合成処理することを特徴とする請求項1記載のレーダ装置。
【請求項3】
上記ビーム形成手段で得られたマルチビームに対し、レーダ装置を搭載する移動プラットフォームの動揺に伴なう、アンテナ開口中心の移動量を補償し、補償後のマルチビームをスペクトル合成手段に供給する動揺補償手段を備えたことを特徴とする請求項1記載のレーダ装置。
【請求項4】
上記ビーム形成手段で得られたマルチビームに対し、レーダ装置を搭載する移動プラットフォームの動揺に伴なう、アンテナ開口中心の位相変化を補償し、補償後のマルチビームをスペクトル合成手段に供給する動揺補償手段を備えたことを特徴とする請求項1記載のレーダ装置。
【請求項5】
上記動揺補償手段は、オイラー角で表現される座標系を用いて移動プラットフォームの動揺を計測する慣性装置を備え、当該慣性装置によるオイラー角の計測値を平滑化することを特徴とする請求項1記載のレーダ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−266775(P2006−266775A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−83204(P2005−83204)
【出願日】平成17年3月23日(2005.3.23)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年3月23日(2005.3.23)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
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