説明

レーダ装置

【課題】レーダ装置から近距離にある物標をより高い確度で検出する。
【解決手段】発振周波数が可変の発振器10と、発振器10の出力信号を分岐させる方向性結合器12と、方向性結合器12の出力信号の周波数を所定の周波数幅だけ変換する低周波発振器14及びミキサ16と、周波数変換された信号を送信波として送信する送信アンテナ18と、送信アンテナ18から送信された送信波が物標により反射して生じた反射波を反射信号として受信する受信アンテナ20と、方向性結合器12で分岐された信号と、受信アンテナ20で受信された反射信号と、を混合するミキサ22と、を備え、ミキサ22で得られる信号に基づいて物標との距離、方位及び速度の少なくとも1つを検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近距離にある物標を検出するためのレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車における前後方監視など各種の用途にレーダ装置(車載レーダ)が利用されている。そして、このような車載レーダとしてFM−CWレーダが知られている。FM−CWレーダは周波数が時間的に変化する信号を送信波及び基準信号として利用し、物標からの反射波と基準信号との周波数差からレーダ装置と物標までの距離や方位を検出する。また、FM−CWレーダでは、周波数が時間的に単調増加及び単調減少するフェーズを繰り返す信号を送信波及び基準信号として利用することによって、物標からの反射波と基準信号とのドップラシフトから物標とレーダ装置との相対速度を求めることもできる。
【0003】
【特許文献1】特開2006−337223号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
FM−CWレーダでは、時間的な周波数変化を利用している都合上、レーダ装置から近距離に存在する物標が検出対象となった場合、図6に示すように、反射波と基準信号とのビート信号の周波数が小さくなる。低周波領域にはレーダ装置内で発生したり、レーダ装置外から受信されたりする直流ノイズや低周波ノイズがあり、これらのノイズと物標からの信号との分離が困難となり、物標の検出が難しくなる。
【0005】
しかし、自動車用のレーダ装置においては、高速走行時、停止時などいろいろな状況において、衝突可能性のある物標を検出する必要があり、極めて多種類の物標を検出することが要求される。そのためには、広範囲かつ極めて近距離の物標まで検出することができ、車両から近距離に周辺静止物が存在する状況においても衝突可能性のある物標を見落とすことなく検出したいという要求がある。
【0006】
本発明は、上記課題を鑑み、近距離にある物標についてもより高い確度での検出を可能とするレーダ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの態様は、発振周波数が可変の発振器と、前記発振器の出力信号を分岐させる方向性結合器と、前記方向性結合器の出力信号の周波数を所定の周波数幅だけ変換する周波数変換器と、前記周波数変換器で変換された信号を送信波として送信する送信アンテナと、前記送信アンテナから送信された送信波が物標により反射して生じた反射波を反射信号として受信する受信アンテナと、前記方向性結合器で分岐された信号と、前記受信アンテナで受信された反射信号と、を混合するミキサと、を備え、前記ミキサで得られる信号に基づいて、前記物標との距離、方位及び速度の少なくとも1つを検出することを特徴とするレーダ装置である。
【0008】
本発明の別の態様は、発振周波数が可変の発振器と、前記発振器の出力信号を分岐させる方向性結合器と、前記方向性結合器の出力信号を送信波として送信する送信アンテナと、前記送信アンテナから送信された送信波が物標により反射して生じた反射波を反射信号として受信する受信アンテナと、前記受信アンテナで受信された反射信号の周波数を所定の周波数幅だけ変換する周波数変換器と、前記方向性結合器で分岐された信号と、前記周波数変換器で変換された信号と、を混合するミキサと、を備え、前記ミキサで得られる信号に基づいて、前記物標との距離、方位及び速度の少なくとも1つを検出することを特徴とするレーダ装置である。
【0009】
本発明の別の態様は、発振周波数が可変の発振器と、前記発振器の出力信号を分岐させる方向性結合器と、前記方向性結合器の出力信号を送信波として送信する送信アンテナと、前記送信アンテナから送信された送信波が物標により反射して生じた反射波を反射信号として受信する受信アンテナと、前記前記方向性結合器で分岐された信号の周波数を所定の周波数幅だけ変換する周波数変換器と、前記周波数変換器で変換された信号と、前記受信アンテナで受信された反射信号と、を混合するミキサと、を備え、前記ミキサで得られる信号に基づいて、前記物標との距離、方位及び速度の少なくとも1つを検出することを特徴とするレーダ装置である。
【0010】
ここで、前記周波数変換器は、低周波信号発振器と、入力信号と前記低周波信号の出力信号とを混合するミキサと、を含むものとしてもよい。ここで、前記低周波変換器は100kHz以下の出力信号を出力することが好適である。FMCW方式のレーダ装置では5m以下の近距離にある物標のセンシングが困難な場合が多く、このような場合のセンシングをより確実に行うことができる。
【0011】
また、前記低周波変換器を迂回するバイパス路を備えることが好適である。このようにバイパス路を設けることによって、近距離にある物標のみならず、遠距離にある物標も高い確度で検出することができる。さらに、前記低周波変換器と、前記バイパス路と、のいずれか一方を選択する切替スイッチを備えてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、レーダ装置から近距離にある物標をより高い確度で検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の実施の形態におけるレーダ装置は、図1に示すように、発振器10、方向性結合器12、低周波発振器14、ミキサ16、送信アンテナ18、受信アンテナ20、ミキサ22及び信号処理部24を含んで構成される。レーダ装置は、例えば、車両に搭載され前方、側方、後方などの周囲の障害物や他車を監視するために用いられる。
【0014】
発振器10は、FM−CWモードで発振する。発振器10は、図2に示すように、所定時間発振周波数を単調増加する上りフェーズと、所定時間発振周波数を単調減少する下りフェーズを有し、これを順次繰り返す発振信号を出力する。発振信号の可変周波数f(t)はミリ波帯域(1GHz以上100GHz以下程度の周波数帯域)とすることが好適である。上りフェーズと、下りフェーズにおける周波数変化の傾きの大きさは同一であり、発振周波数は、上りフェーズにおいて最低周波数から最高周波数に直線的に単調増加し、下りフェーズにおいて最高周波数から最低周波数に直線的に単調減少するようにすることが好適である。すなわち、発振周波数は、時間に従って三角波状に変化する。三角波の波形の周期や周波数可変範囲は、検出したい物標までの距離や複数の物標を検出する際の分解能などに依存して決定される。
【0015】
発振器10からの出力信号は、方向性結合器12に供給され、2つに分配される。方向性結合器12の一方の出力はミキサ16へ供給され、他方の出力はミキサ22へ基準信号として供給される。
【0016】
低周波発振器14は、ミキサ16における周波数変換を行うための発振信号f0を生成する。低周波発振器14は、信号処理部24から入力される周波数制御信号(周波数制御電圧)を受けて、周波数制御信号(周波数制御電圧)に応じた周波数を有する発振信号を発生させるフェーズロックループ(PLL)等を含む発振回路を含むものとすることができる。低周波発振器14から出力される発振信号は100kHz以下の周波数範囲とすることが好ましい。
【0017】
ミキサ16は、方向性結合器12から発振信号、及び、低周波発振器14から発振信号を受けて、それらの信号を混合(乗算)して両信号の差信号を出力する。この処理によって、図2に示すように、方向性結合器12から発振信号の周波数fが低周波発振器14から発振信号の周波数f0だけアップコンバートされた周波数(f+f0)に変換された送信信号Aと、方向性結合器12から発振信号が低周波発振器14から発振信号の周波数だけダウンコンバートされた周波数(f−f0)に変換された送信信号Bとが生成される。なお、図2では、周波数変換の様子を分かり易くするために周波数差を拡大して示している。
【0018】
送信アンテナ18は、ミキサ16から入力された信号を送信波として空間に送出する。レーダ装置が車載されている場合、車両の前方、側方、後方などの周囲の空間に送信波を送出する。このとき、送信アンテナ18は広角アンテナとすることが好ましい。レーダ装置の検出範囲は、送信アンテナ18から送信される送信波が到達する範囲となる。
【0019】
空間中に送出された送信波は物標(ターゲット)によって反射され、その反射波の一部がレーダ装置の受信アンテナ20により受信される。受信アンテナ20は、検出範囲全体をカバーする広角な受信性能を有する広角アンテナとすることが好適である。受信アンテナ20で得られた受信信号はミキサ22に供給される。
【0020】
ミキサ22は、方向性結合器12から基準信号、及び、受信アンテナ20から受信信号を受けて、基準信号と受信信号とを混合(乗算)して両信号の差信号であるビート信号を含むベースバンド信号を生成する。ミキサ22で生成されるベースバンド信号には、図3に示すように、送信波が出力されてからレーダ装置の周辺の物標で反射されて反射波として受信されるまでの時間に対応する周波数差を有する信号が含まれる。
【0021】
信号処理部24は、ミキサ22で生成された信号を受けて、その信号に含まれるビート信号に基づいて監視対象空間に存在する物標とレーダ装置との距離、方位及び相対速度を求める。信号処理部24での処理は基本的に従来のFM−CW方式のレーダ装置と同様である。
【0022】
本実施の形態のレーダ装置の場合、低周波発振器14及びミキサ16によって送信波は基準信号の周波数fに対して周波数f0だけアップコンバート及びダウンコンバートされているので、仮にレーダ装置からの距離が0である物標で送信波が反射されたものとしても、基準信号と受信信号とから生成されるビート信号の周波数は0にはならず、図3に示す0地点に相当する周波数を有するものとなる。レーダ装置と物標との距離が広がるにしたがって、図3に示すように、ミキサ22で生成されるビート信号の周波数は0地点に相当する周波数から離れていくものとなる。したがって、ミキサ22で生成された信号に含まれるビート信号と0地点に相当する周波数との差からレーダ装置と物標との距離を求めることができる。
【0023】
このとき、予め基準信号と送信信号との間に周波数差を持たせておくことによって、レーダ装置と近距離にある物標からの反射信号と基準信号との周波数差が直流ノイズや低周波ノイズと重ならなくなる。したがって、直流ノイズや低周波ノイズの影響を受けることなく物標からの信号を検出することができる。
【0024】
また、本実施の形態におけるレーダ装置では、レーダ装置と物標との距離が広がるにしたがって、ミキサ22で生成されるビート信号の周波数は、アップコンバートされた送信信号とダウンコンバートされた送信信号とで変化が異なるものとなる。したがって、アップコンバートされた送信信号に対応するビート信号の周波数とダウンコンバートされた送信信号に対応するビート信号の周波数との差、アップコンバートされた送信信号に対応するビート信号の周波数と0地点の周波数の差、又は、ダウンコンバートされた送信信号に対応するビート信号の周波数と0地点の周波数の差のいずれかに基づいて物標とレーダ装置との相対速度を求めることができる。
【0025】
さらに、一般的なFM−CWモードのレーダ装置と同様に、ターゲットによるビート信号の周波数(ビート周波数)は、送信信号と受信信号の時間差と、ドップラシフトによるものであり、上りフェーズおよび下りフェーズの両方のビート周波数から、物標までの距離および物標との相対速度を検出することもできる。
【0026】
このような処理により、例えば、一般道などで周辺に静止物が多数存在する環境では、複数の検出時間におけるビート信号の周波数の変化から物標の自車に対する相対速度を求めることができる。
【0027】
<変型例>
上記実施の形態におけるレーダ装置では、方向性結合器12と送信アンテナ18との間に低周波発振器14及びミキサ16を設けることによって送信信号の周波数変換処理を施す構成とした。
【0028】
変形例では、図4に示すように、受信アンテナ20とミキサ22との間に低周波発振器14及びミキサ16を設けることによって送信信号の周波数変換処理を施す構成としても上記実施の形態と同様の作用・効果を得ることができる。
【0029】
さらに、別の変形例では、図5に示すように、方向性結合器12とミキサ22との間に低周波発振器14及びミキサ16を設けることによって送信信号の周波数変換処理を施す構成としても上記実施の形態と同様の作用・効果を得ることができる。
【0030】
ただし、受信信号は送信信号や基準信号よりも弱められており、低周波発振器14及びミキサ16により受信信号の周波数変換を施すことによってビート信号にノイズがより重畳される可能性が高くなる。この点では、低周波発振器14及びミキサ16は、方向性結合器12と送信アンテナ18との間、又は、方向性結合器12とミキサ22との間に配置することがより好適であると推考される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本実施の形態におけるレーダ装置の構造を示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態における発振信号の周波数変換処理を示す図である。
【図3】本実施の形態におけるビート信号の生成を示す図である。
【図4】本実施の形態の変形例におけるレーダ装置の構成を示す図である。
【図5】本実施の形態の変形例におけるレーダ装置の構成を示す図である。
【図6】従来のレーダ装置のビート信号の生成を示す図である。
【符号の説明】
【0032】
10 発振器、12 方向性結合器、14 低周波発振器、16 ミキサ、18 送信アンテナ、20 受信アンテナ、22 ミキサ、24 信号処理部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発振周波数が可変の発振器と、
前記発振器の出力信号を分岐させる方向性結合器と、
前記方向性結合器の出力信号の周波数を所定の周波数幅だけ変換する周波数変換器と、
前記周波数変換器で変換された信号を送信波として送信する送信アンテナと、
前記送信アンテナから送信された送信波が物標により反射して生じた反射波を反射信号として受信する受信アンテナと、
前記方向性結合器で分岐された信号と、前記受信アンテナで受信された反射信号と、を混合するミキサと、
を備え、
前記ミキサで得られる信号に基づいて、前記物標との距離、方位及び速度の少なくとも1つを検出することを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
発振周波数が可変の発振器と、
前記発振器の出力信号を分岐させる方向性結合器と、
前記方向性結合器の出力信号を送信波として送信する送信アンテナと、
前記送信アンテナから送信された送信波が物標により反射して生じた反射波を反射信号として受信する受信アンテナと、
前記受信アンテナで受信された反射信号の周波数を所定の周波数幅だけ変換する周波数変換器と、
前記方向性結合器で分岐された信号と、前記周波数変換器で変換された信号と、を混合するミキサと、
を備え、
前記ミキサで得られる信号に基づいて、前記物標との距離、方位及び速度の少なくとも1つを検出することを特徴とするレーダ装置。
【請求項3】
発振周波数が可変の発振器と、
前記発振器の出力信号を分岐させる方向性結合器と、
前記方向性結合器の出力信号を送信波として送信する送信アンテナと、
前記送信アンテナから送信された送信波が物標により反射して生じた反射波を反射信号として受信する受信アンテナと、
前記前記方向性結合器で分岐された信号の周波数を所定の周波数幅だけ変換する周波数変換器と、
前記周波数変換器で変換された信号と、前記受信アンテナで受信された反射信号と、を混合するミキサと、
を備え、
前記ミキサで得られる信号に基づいて、前記物標との距離、方位及び速度の少なくとも1つを検出することを特徴とするレーダ装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載のレーダ装置であって、
前記周波数変換器は、
低周波信号発振器と、
入力信号と前記低周波信号の出力信号とを混合するミキサと、
を含むことを特徴とするレーダ装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載のレーダ装置であって、
前記低周波変換器は100kHz以下の出力信号を出力することを特徴とするレーダ装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1つに記載のレーダ装置であって、
前記低周波変換器を迂回するバイパス路を備えることを特徴とするレーダ装置。
【請求項7】
請求項6に記載のレーダ装置であって、
前記低周波変換器と、前記バイパス路と、のいずれか一方を選択する切替スイッチを備えることを特徴とするレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−109380(P2009−109380A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−282925(P2007−282925)
【出願日】平成19年10月31日(2007.10.31)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】