説明

レーダ装置

【課題】舶や陸などの物標からの信号と雨雪反射信号とを区別して雨雪反射信号が発生している領域を検出することができるレーダ装置を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は雨雪反射信号の受信信号レベルの立ち上がりや立下りが船舶や陸などの物標からの反射信号に比べて緩やかであることに着目し、雨雪領域検出部7が所定方向に連続する受信信号の,受信信号レベルの所定単位あたりの変化量である傾きを算出し、該算出した傾きを用いて受信信号が雨雪反射信号であるかを判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雨雪からの反射(雨雪反射)信号を抑圧するレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のレーダ装置において、海面からの反射(海面反射)等の不要信号を除去し物標との識別を容易にするためにスキャン相関処理が用いられている(例えば、特許文献1)。スキャン相関処理は直近に取得したエコーデータと過去数スキャン分のエコーデータとを比較し、エコーデータの時間的な挙動に基づいて表示用データを生成する処理である。船舶や陸などの物標からの反射信号は安定性が高く連続して同一画素にエコーデータが現れるのに対し、海面反射信号は安定性が低く同一画素にエコーデータが連続して現れにくい。スキャン相関処理はこの相違を利用して物標からの反射信号と海面反射信号とを区別している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平03−163383号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、雨雪反射信号は発生する領域が広くかつ発生領域の移動速度も遅いため、同一画素に長時間にわたって雨雪反射信号が存在する。そのため、雨雪反射信号は物標からの反射信号と同様に安定性が高く、連続して同一画素にエコーデータが現れる。このことから、従来のスキャン相関処理では不要映像である雨雲反射を抑圧表示することが困難であった。
【0005】
また、雨雪反射信号を抑圧する技術として、FTC(First Time Constant)処理やCFAR(Constant False Alarm Rate)処理があるが、これらの処理は雨雪反射信号の強度を小さくするが、同時に距離方向に長い陸地等からの反射信号の強度を小さくしてしまう不具合がある。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するもので、船舶や陸などの物標からの信号と雨雪反射信号とを区別して雨雪反射信号が発生している領域を検出することができるレーダ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するために、本発明は以下の構成を有する。
本発明のレーダ装置は、アンテナを回転させながら探知信号を送信し、送信した探知信号の反射波からレーダ画像を生成するレーダ装置において、探知信号の反射波を受信する受信部と、所定方向に連続する受信信号の,受信信号レベルの所定単位あたりの変化量である傾きを算出する傾斜算出部と、傾斜算出部で算出した傾きを用いて、受信信号が雨雪反射信号であるかを判定する雨雪反射判定部を備える。
【0008】
本発明は、雨雪反射信号が船舶や陸などの物標からの反射信号に比べて受信信号レベルの立ち上がりや立下りが緩やかであることに着目したものであり、受信信号レベルの立ち上がりの傾斜を測定し、その傾斜角度から反射信号が雨雪反射信号であるかどうかを検出する。また、本発明は、受信信号レベルの立ち上がりで雨雪反射信号の開始位置を検出後、受信信号レベルの立ち下がりを用いて雨雪反射信号の終了位置を検出することも可能である。
【0009】
雨雪反射信号を識別するのに受信信号レベルの傾斜(微分係数)を用いた場合、所定の閾値と比較して雨雪反射信号を識別する方式に比べて感度調整による入力信号レベルの変化の影響が少ないといったメリットがある。また、受信信号が雨雪反射信号であるかの判定は、傾斜算出部が算出した傾きと該傾きの変化を用いるのが好ましい。
【0010】
例えば、傾斜算出部で傾きが算出される毎に、該傾斜算出部で算出した傾きと当該傾きの変化とが所定の条件を満たすかを判定し、該判定結果に基づいてカウント処理する雨雪判定カウンタを備え、雨雪反射判定部が、該雨雪判定カウンタのカウント値に基づいて受信信号が雨雪反射信号であるかを判定するようにしてもよい。この場合、雨雪反射判定部は雨雪判定カウンタのカウント値に基づいて受信信号が雨雪反射信号である確率を求めることも可能になる。
【0011】
また、本発明のレーダ装置では、傾斜算出部が略同一距離で方位方向に連続する受信信号を抽出し、該抽出した受信信号から前記傾きを算出するようにしてもよい。通常、他のレーダ装置の送信によるレーダ干渉は隣り合う方位にまたがって入力する確率は低く、方位方向に連続する受信信号から雨雪反射信号を識別することにより、レーダ干渉の影響を受けずにより正確に反射信号が雨雪反射信号であるかどうかを判定することができる。
【0012】
また、海面反射を抑圧するSTC(Sensitivity Time Control)処理は、スイープ中心からの距離に従って受信信号レベルの感度調整を行う処理である。そのため、方位方向に連続する受信信号から雨雪反射信号を識別することにより、STC処理の影響を受けずにより正確に反射信号が雨雪反射信号であるかどうかを判定することができる。
【0013】
また、本発明のレーダ装置では、傾斜算出部の前段にローパスフィルタを備え、傾斜算出部はローパスフィルタ出力である滑らかに変化する受信信号を用いて、受信信号レベルの傾斜角度を算出してもよい。受信信号中に短期間に変化する信号が含まれている場合、傾斜算出部が算出する傾きの精度が劣化するが、ローパスフィルタを傾斜算出部の前段に設けることによりこの問題を解決することが可能になる。
【0014】
また、略同一距離で方位方向に連続する受信信号をローパスフィルタ処理する場合には不連続点に対する対策なしでローパスフィルタ処理を行うことができる。レーダ装置は1回の信号の送受信により中心から周辺に向かって時系列に連続する反射信号を受信する。この距離方向に連続する受信信号は最中心部と最遠方部の反射信号は相関がなく不連続な点が発生してしまう。一方で、略同一距離で方位方向に連続する受信信号は、受信信号レベルの不連続点が発生しないため、簡易にローパスフィルタ処理を行うことが可能になる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、受信信号が雨雪反射信号であるかを判定することができるため、雨雪反射が発生している領域を表示画面上に表示できるだけでなく、表示画面上に表示するレーダ画像から雨雪反射信号を抑圧することも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態1によるレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図2】入力信号の距離とスイープ番号との関係を説明するための説明図である。
【図3】本発明の実施の形態1によるレーダ装置の雨雪領域検出部の構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の実施の形態1によるレーダ装置の雨雪領域検出部の構成を詳細に示すブロック図である。
【図5】本発明の実施の形態1によるレーダ装置の傾斜算出部の動作を説明するための説明図である。
【図6】陸からの反射信号に対する雨雪反射判定部の処理を説明するための説明図である。
【図7】雨雪反射信号に対する雨雪反射判定部の処理を説明するための説明図である。
【図8】受信した信号を受信信号レベルに応じた表示色で表示したレーダ画像例である。
【図9】雨雪領域検出部が検出した雨雪領域を示すレーダ画像例である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(実施の形態1)
以下に、本発明の実施形態によるレーダ装置について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施の形態1によるレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【0018】
レーダアンテナ1は、所定の回転周期で水平面を回転しながら、回転周期とは異なる周期でパルス状の電波である探知信号を送信するとともに、送信した探知信号の反射波を受信する。
【0019】
受信部2は、レーダアンテナ1で得られた受信信号を検波して増幅し、AD変換部3に出力する。AD変換部3は、受信部2で得たアナログ信号を複数ビットからなるデジタル信号に変換する。
【0020】
スイープメモリ4は、AD変換された1スイープ分の受信信号を実時間で記憶し、次の送信により得られる受信信号が再び書き込まれるまでに、この1スイープ分の受信信号Xnを後段の画像メモリ9に書き込むためのバッファである。
【0021】
描画アドレス発生部5は、スイープの中心を開始番地として、中心から周囲に向かって、所定方向(例えば船首方向)を基準としたアンテナ角度とスイープメモリ4の読み出し位置とから、対応する直交座標系で配列された画像メモリ9の画素を指定する番地を作成する。この描画アドレス発生部5は、[数1]式を実現するハードウェアにより構成される。
【数1】

【0022】
距離カウンタ6は、スイープ始点でリセットされ距離クロック毎にカウントアップするカウンタでカウント値rはスイープ始点からの距離に相当する。
【0023】
雨雪領域検出部7は、スイープメモリ4から入力される受信信号が雨雪反射信号であるかを判定し、判定結果に基づいて雨雪反射信号が発生している領域を検出する。受信信号が雨雪反射信号であるかの判定は、所定方向に連続する受信信号の、受信信号レベルの所定単位あたりの変化量である傾きに基づいて行われる。
【0024】
以下、具体例として、雨雪領域検出部7が方位方向に連続する受信信号に基づいて受信信号が雨雪反射信号であるかの判定例について説明する。なお、方位方向に連続する受信信号は、距離カウンタ6のカウント値が同じでスイープ方向に連続する受信信号のことであり、例えば、図2に示すX(r,0)、X(r,1)、・・・、X(r,i−1)、X(r,i)を意味する。方位方向に連続する受信信号は、距離カウンタ6のカウント値に基づいて読み出される。
【0025】
図3は、本発明の実施の形態1によるレーダ装置の雨雪領域検出部の構成を示すブロック図であり、図4は、本発明の実施の形態1によるレーダ装置の雨雪領域検出部の構成をより詳細に説明するためのブロック図である。
【0026】
雨雪領域検出部7は、ローパスフィルタ71と傾斜算出部72と雨雪反射判定部73とからなる。
ローパスフィルタ71は短期間に受信信号レベルが変動することを押さえ、方位方向に連続する受信信号の受信信号レベルを滑らかに変化させるフィルタであり、演算部711とローパスフィルタ用メモリ712とからなる。なお、ここではローパスフィルタ71がIIR(Infinite Impulse Response)フィルタである場合について説明する。
【0027】
演算部711はスイープメモリ4から読み出した入力値X(r,i)に係数γを乗じたものとメモリから読み出した前回スイープでのフィルタ出力値Y(r,i−1)に係数(1−γ)を乗じたものとを加算して出力Y(r,i)を得る。[数2]は演算部711の演算内容を示したものである。
【数2】

【0028】
ローパスフィルタ用メモリ712はフィルタ処理結果を格納するためのメモリで、距離カウンタ6の出力rでアドレスを指定する。ローパスフィルタ用メモリ712に記憶されたフィルタ処理結果は、後段の傾斜算出部72で使用される。
【0029】
次に、傾斜算出部72は加算器721と傾斜算出部用メモリ722からなり、今回のローパスフィルタ出力Y(r,i)と前回のローパスフィルタ出力Y(r,i−1)の差分ΔY(r,i)を求める。ローパスフィルタ71が出力する信号を等方位間隔でサンプリングすることでその差分の大小は傾斜角度に比例する。そのため、求めた差分ΔY(r,i)は方位方向に連続する受信信号の,受信信号レベルの傾斜角度として用いることができる。[数3]は加算器721の演算内容を示したものである。
【数3】

【0030】
傾斜算出部用メモリ722は、算出した傾斜角度を格納するためのメモリで距離カウンタ6の出力rでアドレスを指定する。傾斜算出部用メモリ722に記憶された傾斜角度は後段の雨雪反射判定部73で傾斜の増加率の計算に使用される。
【0031】
最後に、雨雪反射判定部73は、傾斜算出部72で算出した傾きを用いて、受信信号が雨雪反射信号であるかを判定する。ここでは、雨雪反射判定部73が雨雪判定カウンタ731と雨雪反射判定部用メモリ732と雨雪確率発生部733とからなり、雨雪判定カウンタ731のカウント値に基づいて受信信号Xが雨雪反射信号である確率を算出する。
【0032】
雨雪判定カウンタ731は、距離カウンタ6の出力rでアドレスを指定する雨雪反射判定部用メモリ732を用いてカウンタを構成し、「雨雪反射信号の立ち上がり」を検出した場合にカウントアップし、「雨雪反射信号の立ち下がり」を検出した場合にメモリの内容を0を下限としてカウントダウンする。また、これら以外の場合はカウント値を保持する。
【0033】
「雨雪反射信号の立ち上がり」の検出条件は以下の条件(1)と条件(2)が同時に成立した場合とする。
条件(1)
受信信号レベルの傾きΔY(r,i)が正の値で、受信信号レベルの傾きΔY(r,i)の大きさが所定の値「a」以下である場合
0 < ΔY(r,i) < a
aは物標からの反射信号にあらわれる急激な立ち上がりを除外するための閾値であり、雨雪反射信号の立ち上がり部分が取り得る受信信号レベルの傾きΔY(r,i)に基づき設定される。
なお、受信信号レベルの立ち上がりとは見做せないような、ローパスフィルタ71出力の微小な変化を除外するため、受信信号レベルの傾きの下限値を0に代えて0よりも若干大きな値にしてもよい。
【0034】
条件(2)
受信信号レベルの傾きの増加率が正の値である場合
0 < ΔY(r,i) − ΔY(r,i−1)
なお、受信信号レベルの傾きが変化したとは見做せないような微小な変化を除外するため、受信信号レベルの傾きの増加率が所定の値以上の場合に限り条件(2)を満たすと判定してもよい。
【0035】
また、「雨雪反射信号の立ち下がり」の検出条件は以下の条件(3)と条件(4)が同時に成立した場合とする。
条件(3)
受信信号レベルの傾きΔY(r,i)が負の値で、受信信号レベルの傾きΔY(r,i)の大きさが所定の値「b」以上である場合
b < ΔY(r,i) < 0
bは物標からの反射信号にあらわれる急激な立下りを除外するための閾値であり、雨雪反射信号の立ち下がり部分が取り得る受信信号レベルの傾きΔY(r,i)に基づき設定される。
なお、受信信号レベルの立ち下がりとは見做せないような、ローパスフィルタ71出力の微小な変化を除外するため、受信信号レベルの傾きの上限値を0に代えて0よりも若干小さな値にしてもよい。
【0036】
条件(4)
受信信号レベルの傾きの増加率が正である場合
0 < ΔY(r,i) − ΔY(r,i−1)
なお、受信信号レベルの傾きが変化したとは見做せないような微小な変化を除外するため、受信信号レベルの傾きの増加率が所定の値以上の場合に限り条件(4)を満たすと判定するようにしてもよい。
【0037】
雨雪確率発生部733は、雨雪判定カウンタ731のカウント値に基づいて雨雪反射確率を発生し、次段回路に出力する。雨雪確率発生部733から出力する雨雪反射確率は、例えば、表1のように発生させることができる。なお、S、M、Lは雨雪反射確率を決定するカウント値の判定閾値であり、0 < S < M < Lである。
【表1】

【0038】
以下に、図6及び図7を用いて雨雪反射判定部73による具体例な判定例に説明する。
図6は、陸からの反射信号に対する雨雪反射判定部の処理を説明するための説明図である。図6に示すように、陸からの反射信号は、受信信号レベルが急峻に立ち上がった後、一定のレベルで安定し、その後、急峻に立ち下がる。以下にこの受信信号レベルの挙動を条件(1)から条件(4)にあてはめて説明する。なお、図6に示す受信信号はIIR型のローパスフィルタ71からの出力信号を示している。
【0039】
先ず、陸からの反射信号の受信信号レベルの立ち上がりについて説明する。
条件(1)は、前述のように受信信号レベルの傾きΔY(r,i)が正の値で、受信信号レベルの傾きΔY(r,i)の大きさが所定の値「a」以下である場合に条件を満たす。図6に示す受信信号レベルの立ち上がりでは、最初は傾斜算出部72から出力される受信信号レベルの傾きは正の値であるが、傾きが所定の値「a」よりも大きいため条件(1)を満たさない。その後、傾斜角度が徐々に小さくなり条件(1)を満たすようになる。
また、条件(2)は、受信信号レベルの傾きの増加率が正の値である場合に条件を満たす。しかし、図6に示す受信信号レベルの立ち上がりは、いずれも受信信号レベルの傾きの増加率が負であるため、条件(2)を満たさない。
そのため、条件(1)及び条件(2)が同時に成立する場合はなく、雨雪判定カウンタ731のカウント値はカウントアップされずに0を維持する。
【0040】
次に、陸からの反射信号の受信信号レベルが平坦な領域について説明する。
平坦部では図6に示すように受信信号レベルの傾きが0であるため、条件(1)及び条件(2)並びに条件(3)及び条件(4)をともに満たさない。そのため、雨雪判定カウンタ731のカウント値は0を維持する。
【0041】
最後に、陸からの反射信号の受信信号レベルの立ち下がりについて説明する。
条件(3)は、前述のように受信信号レベルの傾きΔY(r,i)が負の値で、受信信号レベルの傾きΔY(r,i)の大きさが所定の値「b」以上である場合に条件を満たす。図6に示す受信信号レベルの立ち下がりでは、最初は傾斜算出部72から出力される受信信号レベルの傾きは負の値であるが、傾きが所定の値「b」よりも小さいため条件(3)を満たさない。その後、傾斜角度が徐々に大きくなり条件(3)を満たすようになる。
また、条件(4)は、条件(2)と同様に受信信号レベルの傾きの増加率が正の値である場合に条件を満たす。そのため、受信信号レベルの立ち下がりでは条件(4)を満たすことになる。
しかしながら、雨雪判定カウンタ731のカウント値は既に0であるため、条件(3)及び条件(4)が同時に成立する場合でもカウント値はカウントダウンされることなく0を維持する。
【0042】
以上より、雨雪判定カウンタ731のカウント値は、図6に示すように陸からの反射信号に対して0で固定される。そのため、表1で示した雨雪確率発生部733の判定閾値を例えばS =1、M=2、L=3とした場合、図6に示した陸からの反射信号は、雨雪反射確率0%と判定される。
【0043】
また、図7は、雨雪反射信号に対する雨雪反射判定部の処理を説明するための説明図である。図7に示すように雨雪反射信号は、受信信号レベルが穏やかに立ち上がり、一定のレベルで安定した後、穏やかに立ち下がる。以下にこの受信信号レベルの挙動を条件(1)から条件(4)にあてはめて説明する。なお、図7に示す受信信号はIIR型のローパスフィルタ71からの出力信号を示している。
【0044】
先ず、雨雪反射信号の受信信号レベルの立ち上がりについて説明する。
条件(1)は、前述のように受信信号レベルの傾きΔY(r,i)が正の値で、受信信号レベルの傾きΔY(r,i)の大きさが所定の値「a」以下である場合に条件を満たす。図7に示す受信信号レベルの立ち上がりでは、傾斜算出部72から出力される受信信号レベルの傾きは正の値であり、傾きの値も「a」以下となるため条件(1)を満たす。
また、条件(2)は、受信信号レベルの傾きの増加率が正の値である場合に条件を満たす。図7に示す受信信号レベルの立ち上がりでは、最初は受信信号レベルの傾きの増加率が正であり条件(2)を満たすが、徐々に受信信号レベルの傾きの増加率が減少し条件(2)を満たさなくなる。
そのため、雨雪判定カウンタ731のカウント値は条件(1)及び条件(2)が同時に成立する場合にカウントアップされた後、カウントアップされた値でカウント値が維持される。
【0045】
次に、雨雪反射信号の受信信号レベルが平坦な領域について説明する。
平坦部では図7に示すように受信信号レベルの傾きが0であるため、条件(1)及び条件(2)並びに条件(3)及び条件(4)をともに満たさない。そのため、雨雪判定カウンタ731のカウント値は受信信号レベルの立ち上がりでカウントアップされたカウント値を維持する。
【0046】
最後に、雨雪反射信号の受信信号レベルの立ち下がりについて説明する。
条件(3)は、前述のように受信信号レベルの傾きΔY(r,i)が負の値で、受信信号レベルの傾きΔY(r,i)の大きさが所定の値「b」以上である場合に条件を満たす。図7に示す受信信号レベルの立ち下がりでは、傾斜算出部72から出力される受信信号レベルの傾きは負の値であり、傾きの値も「b」以上となるため条件(3)を満たす。
また、条件(4)は、条件(2)と同様に、受信信号レベルの傾きの増加率が正の値(減少率が負の値)である場合に条件を満たす。図7に示す受信信号レベルの立ち下がりでは、最初は受信信号レベルの傾きの増加率が負であり条件(4)を満たさないが、徐々に受信信号レベルの傾きの増加率が増加し条件(4)を満たすようになる。
そのため、雨雪判定カウンタ731のカウント値は受信信号レベルの立ち上がりでカウントアップされたカウント値から、条件(3)及び条件(4)が同時に成立する場合にカウントダウンされる。
【0047】
以上より、雨雪判定カウンタ731のカウント値は、図7に示すように雨雪反射信号の立ち上がり部で0から4までカウントアップされた後に、平坦部でカウント値が保持され、立下り部で4から0までカウントダウンされる。表1で示した雨雪確率発生部733の判定閾値を例えばS =1、M=2、L=3とした場合、図7に示す雨雪反射信号は、最初の3点の受信信号データが雨雪反射確率0%と判定され、その後、雨雪反射確率が30%、70%、100%と徐々に増加し、雨雪反射確率100%を一定期間維持した後、立下り部で雨雪反射確率が100%から70%、30%、0%へと徐々に減少していくことになる。
【0048】
図8は実際に受信した信号を受信信号レベルに応じた表示色で表示したものであり、図9は雨雪領域検出部7が検出した雨雪領域を雨雪反射確率別の表示色で表示したものである。
【0049】
図8に示すように、本レーダ画像ではレーダ画像左上に陸地からの反射信号が表示されるとともに、レーダ画像右側に雨からの反射信号が表示されている。これを本発明の雨雪領域検出部7により処理したのが図9である。図9に示すように、レーダ画像左上にみられる陸からの反射信号は雨雪反射領域として検出されず、レーダ画像右側にみられる雨からの反射信号については雨雪反射と判定される。これより、陸からの反射信号と雨からの反射信号とが区別されていることがわかる。
【0050】
Wデータ発生部8は、スイープメモリ4から入力される今回の受信信号Xnと、画像メモリ9から読み出される1回転前のスキャン相関処理結果Yn−1と、雨雪領域検出部7から出力される雨雪反射確率δに基づいて、今回のスキャン相関処理結果Ynを算出する。
【0051】
具体的には、Wデータ発生部8は下記の[数4]式の演算を実行するハードウエアからなる。なお、α、βの値を適宜設定することにより海面反射信号のレベルを抑圧して、船舶や陸などの物標からの反射信号と海面反射信号とを区別して表示することが可能である。
【数4】

【0052】
Wデータ発生部8は、[数4]式に示すように、スキャン相関処理の係数の1つに雨雪反射確率を用いている。これにより、雨雪反射確率が大きいほど実際の入力値より小さな値を出力することができ、雨雪反射確率に応じた雨雪反射信号の抑圧処理を行うことができる。
【0053】
また、受信信号が雨雪反射信号以外の場合は、雨雪反射確率を0として実入力値のまま出力する。これにより、雨雪反射信号以外の受信信号は雨雪反射信号と比較して強調表示されることになる。また、次のスイープで実入力値が0になった場合でも1回転前のスキャン相関処理結果Yn−1を実入力値のまま出力しているため、急にYnの計算結果が0になることを防止することができ、次のスイープでも残光としてエコー表示を行うことが可能になる。この結果、例えば表示上の雨雪反射信号とその他の反射との輝度差が大きくなり識別が容易となる。
【0054】
さらに、本発明の実施の形態1では、雨雪判定カウンタ731を雨雪反射判定部73に設けて雨雪反射確率が徐々に増減するようにしている。そのため、雨雪反射信号が発生している領域の内と外の境界部分で処理を極端に変化させずに表示画面上に表示される受信信号レベルを連続的に変化させることができ、より自然な映像を得ることが可能になる。
【0055】
画像メモリ9は、アンテナ1回転分の受信データを記憶する容量を持つメモリであり、スキャン相関処理用とともに表示用メモリとして用いられる。画像メモリ9は、図示しない表示制御部により表示器9がラスター走査され、ラスター動作に同期して画像メモリが高速で読み出され、画像メモリのデータに対応した輝度または色で表示器10上に画像として表示される。なお、本実施例では、画像メモリ9がスキャン相関処理用としてのメモリと同時に表示用メモリとして機能を兼用させているが、表示用メモリを別に持ち、スキャン相関処理用メモリから表示メモリにデータ転送して表示する構成をとることも可能である。
【0056】
以上のように、本発明は船舶や陸などの物標からの信号と雨雪反射信号とを区別して雨雪反射信号が発生している領域を検出する雨雪領域検出部7を備えたことにより、雨雪反射信号が発生している領域を表示画面上に表示できるだけでなく、雨雪反射信号が発生している領域情報に基づいて雨雪反射信号の抑圧処理を行うことが可能になる。
【0057】
なお、本発明の実施の形態では受信信号が雨雪反射信号であるかの情報をスキャン相関処理の係数として用いることにより雨雪反射信号を抑圧する例について説明したが、受信信号が雨雪反射信号であるかの情報の利用方法はこれに限られるものではなく、例えば、受信信号が雨雪反射信号であるかの情報に基づいてFTC処理やCFAR処理などの処理内容を変更して雨雪反射信号を抑圧することも可能である。
【0058】
また、本発明の実施の形態では方位方向に連続する受信信号を用いて受信信号が雨雪反射信号であるかを判定する例について説明したが、雨雪領域検出部7は、本発明の実施の形態1で説明した方位方向に連続する受信信号だけでなく、距離方向、その他あらゆる方向に連続する受信信号、並びにそれらの組み合わせを用いて、受信信号が雨雪反射信号であるかの判定を行うことが可能である。
【0059】
また、本発明は、本発明の実施の形態で説明した発明の本旨を逸しない範囲で自由に設計変更可能であり、本発明の各実施の形態で説明した内容に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0060】
1 アンテナ
2 受信部
3 AD変換部
4 スイープメモリ
5 描画アドレス発生部
6 距離カウンタ
7 雨雪領域検出部
8 Wデータ発生部
9 画像メモリ
10 表示器
71 ローパスフィルタ
72 傾斜算出部
73 雨雪反射判定部
711 演算部
721 加算器
731 雨雪判定カウンタ
733 雨雪確率発生部
712、722、732 メモリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナを回転させながら探知信号を送信し、送信した探知信号の反射波からレーダ画像を生成するレーダ装置において、
前記探知信号の反射波を受信する受信部と、
所定方向に連続する受信信号の,所定単位あたりの受信信号レベルの変化量である傾きを算出する傾斜算出部と、
前記傾斜算出部で算出した傾きを用いて、受信信号が雨雪反射信号であるかを判定する雨雪反射判定部を備えることを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のレーダ装置において、
前記雨雪反射判定部は、前記傾斜算出部で算出した傾きと該傾きの変化に基づき、受信信号が雨雪反射信号であるかを判定することを特徴とするレーダ装置。
【請求項3】
請求項2に記載のレーダ装置において、
前記雨雪反射判定部は、前記傾斜算出部で傾きが算出される毎に、該傾斜算出部で算出した傾きと当該傾きの変化とが所定の条件を満たすかを判定し、該判定結果に基づいてカウント処理する雨雪判定カウンタを備え、
前記雨雪反射判定部が、前記雨雪判定カウンタのカウント値に基づいて受信信号が雨雪反射信号であるかを判定することを特徴とするレーダ装置。
【請求項4】
請求項1から3の何れかに記載のレーダ装置において、
前記傾斜算出部は、略同一距離で方位方向に連続する受信信号を抽出し、該抽出した受信信号から前記傾きを算出することを特徴とするレーダ装置。
【請求項5】
請求項1から4の何れかに記載のレーダ装置において、
前記傾斜算出部の前段にローパスフィルタを備えたことを特徴とするレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−181335(P2010−181335A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−26420(P2009−26420)
【出願日】平成21年2月6日(2009.2.6)
【出願人】(000166247)古野電気株式会社 (441)
【Fターム(参考)】