説明

レーダ装置

【課題】MUSIC法やEsprit法などによって到来波数の推定を行うレーダ装置において、精度良く到来波数の推定が行えるようにする。
【解決手段】ビート信号に基づいて、ターゲットの距離および相対速度(もしくは方位)を求め、それらを履歴情報として記憶する。そして、記憶された履歴情報から、今回の到来波推定の際におけるターゲットの位置を予測し、この予測されるターゲットの位置からターゲットの複数が並ぶか否かを予測し、その予測結果に基づいて到来波の数の推定を行う。このように、前回のサイクルの際に得られたターゲットの履歴情報に基づいて、前回のサイクルの際に並走していなかったターゲット同士が今回のサイクルの際に並走するか否か、もしくは、前回のサイクルの際に並走していたターゲット同士が今回のサイクルの際に並走しなくなるか否かを予測して到来波数を修正する。これにより、より正確に到来波数を推定できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周波数変調されたレーダ波を送受信することにより、目標物体と自分自身との位置関係を求めるレーダ装置に関し、例えば、車両などの移動体の衝突防止等に使用されるレーダ装置に適用して好適である。
【背景技術】
【0002】
従来、FMCW方式のレーダ装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。このレーダ装置は、周波数変調されたレーダ波を送受信することにより、目標物体との相対距離や相対速度に関する情報を取り出すことで、例えば前方車両と自車両との関係を検出するようになっている。このようなレーダ装置では、周波数変調されたレーダ波を送受信したときに、自車両の前方にどれだけ他車両等の目標物体が存在し、その目標物体がどの方位に存在するかを求める必要がある。その方位を求める手段として、ビームフォーマー法やMUSIC法、Esprit法などが一般に知られている。この中で、MUSIC(Multiple Signal Classification)法やEsprit法を用いる場合、高い方位分解能が得られるという特徴があるが、到来波方向を演算する過程で到来波数を正確に推定する必要がある。
【0003】
この到来波数の推定方法としてAIC(Akaike Information Criteria)やMDL(Minimum Description Length)などがある。これらの手法では、複数回のデータ収集を行い、その分散を評価することで到来波数の推定を行っている。
【0004】
また一方で、一定の閾値を設け固有値が雑音電力相当か信号電力相当かを区別する手法があり、この手法を閾値法と呼ぶ。例えば、特許文献2において、このMUSIC法の場合の閾値法による到来波数の推定手法が示されている。
【0005】
このMUSIC法の場合の閾値法による到来波数の推定について、図13を参照して説明する。
【0006】
図13は、複数のアンテナが等間隔にアレイ状に並べられたアダプティブアンテナに対して、到来波が入力されるときの様子を示した図である。
【0007】
この図に示されるように、等間隔に並べられたK個のアンテナが車両に搭載されている場合に、各アンテナに車両遠方から複数の電波が到来波として入力された場合を想定する。この場合、各アンテナと到来波の発信源となる目標物体との距離が各アンテナの間隔より十分に長いため、各アンテナに到来波が同じ角度で入力されると想定できる。また、各アンテナに入力される到来波の位相は到来波の方位によって変化する。
【0008】
このため、各アンテナに入力された到来波の受信データ(ベクトル)がxi(t)、(i=1〜k)で表されたとすると、各到来波を出力電圧Poutに変換したときにその出力電圧Poutが最小となる場合のウェイトWminは次式のように表される。
【0009】
【数1】

ただし、Rxxは到来波の受信データxi(t)の自己相関行列を示している。また、Wはウェイト、WHはWの共役転換行列を示しており、WHW=1である。
【0010】
ここで、Lagrangeの未定係数法により、固有値λを用いて次式が定義できる。
【0011】
(数2)
RxxW=λW
そして、この数式の両辺にWHを掛け合わせることで、次式が導出される。
【0012】
(数3)
HRxxW=λWHW=λ
このとき、λはウェイトWを掛けたときの出力電圧Poutの2倍に相当する。つまり、到来波の方向に指向性のヌル点(零点)が向けられ、到来波の方向の出力電圧Poutが最小値となるようなWが設定できた場合、すべての到来波からの信号を打ち消すことができるため、λは雑音に等しくなる。逆に、ヌル点が向けられない到来波がある場合には、ヌル点が向けられなかった到来波からの信号を打ち消すことができず、λは値を持つ。したがって、自己相関行列Rxxの固有値λを表すと、K本のアンテナそれぞれで得た受信データから求まる固有値λ1〜λKは次のような関係となる。
【0013】
【数4】

なお、σ2は、熱雑音電力に相当する。
【0014】
このため、自己相関行列Rxxの固有値を求め、熱雑音電力σ2より大きい固有値の数から到来波数Lを推定することができる。つまり、数4に示されるλLとλL+1との間にスレッショルドを設定し、固有値λがスレッショルドλTHを超えるか否かにより、到来波数Lを推定することが可能となる。また、スレッショルドλTHを超える領域は、すべての到来波からの信号を打ち消すことができた雑音空間、λTHよりも下回る領域は、少なくとも1つの到来波からの信号を打ち消すことができなかった信号空間となる。したがって、すべての到来波からの信号を打ち消せた雑音空間は、到来波数分の信号を打ち消すことができたものであるため、これに基づいて到来波の方位の算出を行うことが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平11−030663号公報
【特許文献2】特開2000−121716号公報
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】菊間信良、アダプティブアンテナ技術、オーム社、P.138−P.139(MUSIC)、P.145−P.150(Esprit)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
これらに示した手法はいずれの手法も、データ収集の回数(スナップショット)が多ければ多いほど、また受信信号のSN比(信号−ノイズ比)が大きければ大きいほど、到来波数をより正確に推定できる。つまり、データ数が少ない場合、正確な到来波数推定ができない。
【0018】
しかしながら、車載用レーダ装置にMUSIC法やEsprit法を適用する場合のように、ターゲットとレーダの相対関係の動きが速く、また使用できるデバイスの演算能力が低い場合、同じ状況でのデータを数多く収集することは不可能である。また更に、周囲に複数の反射物体が存在する場合は、マルチパスの影響などにより安定したSN比を確保することも困難である。これらのような状況では、正確な到来波数推定を行うことは困難であり、ターゲットの誤検出や未検出の原因となるという問題があった。
【0019】
本発明は上記点に鑑みて、MUSIC法やEsprit法など、固有値分解を用いて到来波推定を行った上で、到来波方向を推定するレーダ装置において、精度良く到来波数の推定が行えるようにすることを目的とし、新たなる手法を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、ビート信号に基づいて、ターゲットの距離および相対速度(もしくは方位)を求め、それらを履歴情報として記憶する履歴情報記憶手段を有し、到来波数推定手段は、履歴情報記憶手段に記憶された履歴情報から、今回の到来波推定の際におけるターゲットの位置を予測するターゲット位置予測手段(400)を有し、該ターゲット位置予測手段により予測されるターゲットの位置からターゲットの複数が並ぶか否かを予測し、その予測結果に基づいて到来波の数の推定を行うことを特徴としている。
【0021】
このように、前回のサイクルの際に得られたターゲットの履歴情報に基づいて、前回のサイクルの際に並走していなかったターゲット同士が今回のサイクルの際に並走するか否か、もしくは、前回のサイクルの際に並走していたターゲット同士が今回のサイクルの際に並走しなくなるか否かを予測し、その予測に基づいて到来波数を修正するようにしている。これにより、より正確に到来波数の推定を行うことが可能となる。
【0022】
例えば、請求項2に示されるように、到来波数推定手段は、ターゲット位置予測手段により予測されるターゲットの位置から今回の到来波推定の際に並ぶと予測されるターゲットの数を求め、この数と前回の到来波推定の際に並んでいたターゲットの数との差が、前回の到来波推定の際に推定された到来波の数と今回の到来波推定の際に推定された到来波の数との差と一致していない場合には、前回の到来波推定の際に推定された到来波の数に対して、今回の到来波推定の際に並ぶと予測されるターゲットの数と前回の到来波推定の際に並んでいたターゲットの数との差を加算もしくは減算することで、到来波の数の推定を行う。
【0023】
また、請求項3に示されるように、ターゲット位置予測手段により予測されるターゲットの位置からターゲットの複数が並ぶか否かを予測し、その予測結果に基づいてスレッショルド設定手段が設定するスレッショルド(λ)の値を調整するようにしても、請求項1または2と同様の効果を得ることができる。
【0024】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1実施形態におけるレーダ装置のブロック構成を示す図である。
【図2】図1に示すレーダ装置の信号処理部が実行するMUSICの処理のフローチャートである。
【図3】図1に示すレーダ装置の信号処理部が実行する到来波数推定処理のフローチャートである。
【図4】(a)は、ビート周波数[bin]と固有値λとの相関関係を示した図であり、(b)は、ビート周波数に応じた雑音とビート信号との関係を示した図である。
【図5】送信アンテナから出力されるミリ波帯の電波の出力方位エリアとそのエリア内において車両が並走できる最大数との関係を示した模式図である。
【図6】第2実施形態におけるレーダ装置の信号処理部が実行する到来波数推定処理のフローチャートを示したものである。
【図7】前回のサイクルと今回のサイクルの自車両と他車両との位置関係を示した模式図である。
【図8】第3実施形態におけるレーダ装置の信号処理部が実行する到来波数推定処理のフローチャートを示したものである。
【図9】第4実施形態におけるレーダ装置の信号処理部が実行する到来波数推定処理のフローチャートを示したものである。
【図10】第5実施形態における到来歯数推定処理のフローチャートである。
【図11】正しい到来波数の判定とその到来波の方向および受信パワーを求める処理のフローチャートである。
【図12】第6実施形態における正しい到来波数の判定とその到来波の方向および受信パワーを求める処理のフローチャートである。
【図13】複数のアンテナが等間隔にアレイ状に並べられたアダプティブアンテナに対して、到来波が入力されるときの様子を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
【0027】
(第1実施形態)
本発明の一実施形態を適用した車載用のレーダ装置をブロック構成を図1に示す。以下、この図を参照して本実施形態のレーダ装置の構成について説明する。
【0028】
レーダ装置は、車両の進行方向、例えば前方に向けてミリ波帯の電波を出射すると共に、先行車両などの目標物体によって反射した電波を到来波として受信することで、その到来波の数および方位を求めると共に、目標物体までの距離および自車両に対する相対速度を求めるものである。
【0029】
図1に示されるように、レーダ装置には、変調信号生成部1、電圧制御発振器2、分配器3、送信アンテナ4、受信部5、ミキサ6、A/Dコンバータ7、および、信号処理部8が備えられている。
【0030】
変調信号生成部1は、例えば、時間に対して直線的に周波数が増減するような変調を行わせる所定周期の三角波状の変調信号を生成するものである。この変調信号生成部1が生成する変調信号が電圧制御発信器2に出力されるようになっている。
【0031】
電圧制御発振器2は、送信信号となるミリ波帯の高周波信号を生成するものである。この電圧制御発振器2は、変調信号生成部1から出力された変調信号に基づいて高周波信号の周波数を変調信号に応じて制御し、分配器3に出力するようになっている。
【0032】
分配器3は、電圧制御発振器2から出力された送信信号を電力分配し、ローカル信号を生成するもので、この分配器3からのローカル信号がミキサ6に入力されるようになっている。
【0033】
送信アンテナ4は、分配器3を経て、電圧制御発振器2から出力された送信信号で示されるミリ波帯の電波を車両の進行方向、例えば前方に向けて出力するものである。
【0034】
受信部5は、k本のアンテナ5aが等間隔にアレイ状に並べられたアダプティブアンテナを構成すると共に、複数のアンテナ5aに入力された到来波の受信データ(受信信号)となるxi(t)、(i=1〜K)を得る受信部5bと、受信部5bが得た各受信データxi(t)それぞれを結合して高周波ミキサ6に伝えるためのスイッチ5cを備えた構成となっている。
【0035】
ミキサ6は、受信部5から伝えられる受信データxi(t)の結合と、分配器3から伝えられるローカル信号とを混合し、これらの信号の差の周波数成分であるビート信号を生成するものである。このとき生成されるビート信号の周波数がビート周波数と呼ばれるもので、送信信号の周波数が増加する時のビート周波数を上り変調時のビート周波数、送信信号の周波数が減少する時のビート周波数を下り変調時のビート周波数と呼び、FMCW方式による目標物体の距離および相対速度の演算に用いられる。
【0036】
A/Dコンバータ7は、ミキサ6から出力されたアナログ値として示されるビート信号をデジタル値に変換するためのものである。
【0037】
信号処理部8は、CPU、ROM、RAM、I/Oなどを備えた周知のマイクロコンピュータによって構成され、ROMなどに記憶されたプログラムにしたがった処理を実行するものである。具体的には、信号処理部8は、A/Dコンバータ7によってデジタル値に変換されたビート信号に基づいてMUSICの処理に基づく到来波の数および方位の推定(算出)を行うと共に、FMCWによる距離や相対速度の算出を行うようになっている。なお、この信号処理部8で算出された到来波の数および方位、目標物体の距離や相対速度に関する情報は、例えばRAMに逐次記憶され、少なくとも次の算出サイクルまで履歴情報として残されるようになっている。なお、信号処理部8のうち、この履歴情報を記憶する部分が履歴情報算出手段に相当する。
【0038】
次に、上記のように構成されるレーダ装置が実行する処理について、図2および図3に示される処理のフローチャートを参照して説明する。
【0039】
図2は、MUSICの処理に基づく到来波の数や方位の推定を示したものであり、図3は、MUSICの処理中に実行される到来波数推定処理の詳細を示したものである。これら各図に示される処理はレーダ装置における信号処理部8で実行されるもので、レーダ装置の使用期間中、例えば、オートクルーズ制御を実行するためのスイッチ(図示せず)が押下されたときに実行される。
【0040】
まず、ステップ100では、受信データxi(t)の取得処理が実行される。この処理は、ビート信号から受信データxi(t)を抽出することによって行われる。
【0041】
続く、ステップ110では、受信データxi(t)に基づいて自己相関行列Rxxが算出され、ステップ120では、ステップ110で算出された自己相関行列Rxxとなるときの固有値λ(λ1〜λK)および固有ベクトルEn、Esが算出される。なお、ここでいう固有ベクトルEnとは、それぞれ上述した雑音空間の固有値λを算出する上で掛けたウェイトWに相当するもので、固有ベクトルEsとは、信号空間の固有値λを算出する上で掛けたウェイトWに相当するものである。これら自己相関行列Rxxの算出手法、固有値λおよび固有ベクトルEn、Esの算出手法に関しては従来と同様であるため、ここでは説明を省略する。このように、信号処理部8における自己相関行列Rxxを算出する部分が自己相関行列算出手段に相当するもので、固有値を算出する部分が固有値算出手段に相当するものである。
【0042】
ステップ130では、到来波数推定処理が実行される。この到来波数推定処理では、図3のフローチャートに示される各処理が実行される。信号処理部8のうち、この到来波数推定処理を実行する部分が到来波数推定手段に相当するものである。
【0043】
到来波数推定処理が実行されると、まず、ステップ200において、ビート周波数ごとのスレッショルドλTH1〜λTH256の読み出しが行われる。ここでいうビート周波数ごとのスレッショルドλTH1〜λTH256とは、図4(a)で示されるビート周波数[bin]と固有値λとの相関関係から求められるものであり、例えば予め行った実験結果から求められる。例えば、ビート周波数に応じた雑音として、図4(b)に示されるようにFM−AM変換雑音や1/f雑音、熱雑音、路面からの反射などの不要信号が発生する。これらがビート周波数と相関関係があることから、各不要信号を足し合わせた値とビート信号との間に線を引くと、図4(a)に示されるスレッショルドλTH1〜λTH256が求まる。このスレッショルドλTH1〜λTH256は、例えば、信号処理部8のROMなどにマップとして記憶されている。したがって、ステップ200において、このマップとして記憶されているスレッショルドλTH1〜λTH256の読み出しが行われる。
【0044】
続くステップ210では、信号処理部8に入力されたビート信号のビート周波数に応じたスレッショルドλTHがマップに記憶されたビート周波数とスレッショルドλTH1〜λTH256との相関関係から読み取られ、そのときのビート周波数に応じたスレッショルドλTHとして設定される。以上のようなスレッショルドの設定を行う部分がスレッショルド設定手段に相当する。
【0045】
そして、ステップ220にて、上述したステップ120で求められた固有値λ(λ1〜λK)を入力し、ステップ230において、固有値λ(λ1〜λK)それぞれがスレッショルドλTHよりも大きいか否かが求められる。これにより、ステップ240およびステップ250に示されるように、各固有値λ(λ1〜λK)が信号空間の固有値λl〜λLと雑音空間の固有値λL+1〜λKとに分別される。なお、図3に示されるフローチャート中では、任意(x本目)の受信アンテナ5aの受信データをから求められた固有値λxがスレッショルドλthよりも大きいか否かとして示してあるが、これは、各固有値λ(λ1〜λK)を代表的に表したものである。
【0046】
そして、ステップ260において、信号空間の固有値λ1〜λLの数から到来波数Lを推定する。これにより、雑音などの不要信号を考慮にいれた正確な到来波数Lの推定を行うことが可能となる。
【0047】
このように到来波数の推定が行われると、ここで求められた到来波数に基づき、ステップ140において、MUSICスペクトルが算出される。このMUSICスペクトルの算出手法に関しても従来と同様である。
【0048】
続いて、ステップ150において、ステップ140で求められた本来の到来波のピーク波に基づいて到来波の方位が算出される。すなわち、到来波のピーク波の分布を見れば、到来波のピーク波に対応する受信アンテナの持つビームが指向する方位を求めることが可能となる。この方位が目標物体の存在する方位として算出される。
【0049】
ステップ160では、受信パワーの算出が行われる。この受信パワーの情報を、FMCWにおける上り/下り両変調時のビート周波数のペアを探索する処理(ペアリング処理という名称で周知)の情報として用い、目標物体からの距離、相対速度を算出する。
【0050】
以上説明したように、本実施形態では、到来波数推定処理の際に、雑音などの不要信号を考慮してスレッショルドλTHを設定し、このスレッショルドλTHに基づいて到来波の固有値λ1〜λKが信号空間の固有値λ1〜λLか雑音空間の固有値λL+1〜λKかを分別するようにしている。
【0051】
これにより、雑音を考慮に入れた上で、信号空間の固有値λ1〜λLの数から到来波数Lを正確に推定することができる。したがって、正確に推定された到来波数Lに基づいて、オートクルーズ制御を実行することが可能となり、より適切なオートクルーズ制御の実行が可能となる。
【0052】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態のレーダ装置は、第1実施形態に対して信号処理部8が実行する到来波数推定処理を変更したものであり、その他は第1実施形態と同様であるため、異なる部分についてのみ説明する。
【0053】
本実施形態は、上記のように、雑音を考慮した到来波推定に加えて、送信アンテナ4から出力されるミリ波帯の電波の出力方位エリアに応じて推定される到来波数の最大値を制限するものである。これについて、図5を参照して説明する。
【0054】
図5は、送信アンテナ4から出力されるミリ波帯の電波の出力方位エリアとそのエリア内において車両が並走できる最大数との関係を示した模式図である。
【0055】
この図に示されるように、出力方位エリアの横幅は自車両からの距離から一義的に決まるため、その出力方位エリア内で並走可能な車両(ターゲット)の数が必然的に決まってくる。例えば、出力方位エリアの角度が車両前方を中心とした左右10度程度であった場合、車両の横幅が1.7m程度、並走している車両間のピッチが3.1m程度であると想定すると、自車両から17〜18m程度先であれば3台までしか複数の車両が並走できない。したがって、出力方位エリアごとに到来波数の最大値Lmaxが決まり、それを超えるような到来波数が推定されるような場合には、それは適切であるとは言えない。このため、本実施形態では、出力方位エリアごとに到来波数の最大値Lmaxを制限する。
【0056】
図6は、本実施形態のレーダ装置における信号処理部8が実行する到来波数推定処理のフローチャートを示したものである。
【0057】
まず、ステップ200〜250において、上記第1実施形態と同様の処理が実行される。そして、ステップ300において、出力方位エリアごとの到来波数の最大値Lmax(Lmax1、Lmax2・・・)の読み出しが行われる。この最大値Lmaxは、上述したような考察に基づいて自車両からの距離に応じて決められており、マップとして信号処理部8に記憶されている。このため、信号処理部8に記憶されたマップの読み出しが行われる。
【0058】
続く、ステップ310において、読み出したマップに基づいて、最大値Lmaxが設定される。具体的には、レーダ装置では、図2に示したように受信パワーに基づいてFMCW方式による距離および相対速度の演算が行われている。このため、ここでの演算結果をターゲットとなる目標物体のエリア情報(距離情報)として用い、そのエリア情報に応じた最大値Lmaxが設定される。以上のような、到来波の数の最大値を設定する部分が到来波最大値設定手段に相当する。
【0059】
そして、ステップ320において、ステップ240のように分別された信号空間の固有値λ1〜λLから求められる到来波数Lが最大値Lmax以下になっているか否かが判定される。ここで肯定判定された場合には、到来波数Lが物理的に並走しうる車両の数以下になっており、矛盾していないものとして、ステップ260において、そのときの到来波数Lがそのまま到来波数Lとして出力される。
【0060】
逆に、ここで否定判定された場合には、到来波数Lが物理的に並走しうる車両の数以上になっており、矛盾しているものとして、ステップ330に進む。そして、このステップでLmaxが到来波数Lとして設定され、ステップ260において出力される。
【0061】
以上説明したように、本実施形態では、出力方位エリア内に物理的に並走しうる車両の数を到来波数Lの最大値Lmaxとして制限し、それを超えるような到来波数が推定されるような場合には、矛盾しているものとして、最大値Lmaxを到来波数Lとして設定するようにしている。これにより、より正確に到来波数Lの推定を行うことが可能となる。
【0062】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態について説明する。本実施形態のレーダ装置は、第1実施形態に対して信号処理部8が実行する到来波数推定処理を変更したものであり、その他は第1実施形態と同様であるため、異なる部分についてのみ説明する。
【0063】
本実施形態は、上記第2実施形態に加え、レーダ装置の履歴情報から次サイクルで並走するか否かを予測し、その予測結果に応じた到来波数推定を行うものである。これについて図7を参照して説明する。
【0064】
図7は、複数の先行車両がある場合に、前回のサイクルにおいて、自車両から近い側に位置していた他車両が遠い側に位置していた他車両から離れていたものの、今回のサイクルにおいて、その近い側に位置していた他車両が遠い側に位置していた他車両と並走するような場合を示したものである。
【0065】
前回のサイクルの時には、自車両と各他車両との距離および相対速度で決まるビート周波数が異なるため、それぞれの他車両からの到来波は違うエリアからのものとして検出され、それぞれのエリアでそれぞれの到来波数が推定されることになる。つまり、自車両から近い側の他車両が存在するエリアにおいて到来波数が1、自車両から遠い側の他車両が存在するエリアにおいて到来波数が1という形態で到来波数が推定される。
【0066】
これに対し、今回のサイクルの時には、自車両と2台の他車両が両方との距離および相対速度で決まるビート周波数が一致し、2台の他車両からの到来波が同じエリアのものとして到来波数が推定されることになる。
【0067】
したがって、前回のサイクルの時に求められた先行車両の距離および相対速度から、今回のサイクルの時には、先行車両が他の先行車両と並走するであろうと予測される場合には、それを到来波数推定に用いるようにする。
【0068】
図8は、本実施形態のレーダ装置における信号処理部8が実行する到来波数推定処理のフローチャートを示したものである。
【0069】
まず、ステップ200〜250およびステップ300〜330において、上記第2実施形態と同様の処理が実行される。そして、ステップ400において、レーダ装置で前回のサイクルの時に求められたターゲット(先行車両)の履歴情報から、今回のサイクルにおけるターゲットの位置予測が行われる。これにより、前回のサイクルで並走していなかった他車両同士が今回のサイクルで並走すると予測される場合には、前回の到来波数を1つ加算したものが予測された到来波数として設定されることになる。なお、このようなターゲット位置の予測を行う部分がターゲット位置予測手段に相当するものである。
【0070】
そして、ステップ410において、前回の到来波数に対して1つ加算した値が設定されているかが判定されると共に、ステップ320もしくはステップ330で設定された到来波数Lが前回の到来波数に対して1つ加算された値になっていないか否かが判定される。これにより、前回の到来波数に対して1つ加算した値が設定されており、かつ、到来波数Lが前回の到来波数に対して1つ加算された値になっていない場合には、ステップ320もしくはステップ330で設定された到来波数Lが誤っているものとして、ステップ420に進んで到来波数LがL+1に変えられる。また、前回の到来波数に対して1つ加算した値が設定されていない場合、もしくは、前回の到来波数に対して1つ加算した値が設定されていても、到来波数Lが前回の到来波数に対して1つ加算された値になっている場合には、ステップ320もしくはステップ330で設定された到来波数Lが正しいものとして、そのままステップ260に進む。そして、到来波数Lがステップ260において出力される。
【0071】
以上説明したように、本実施形態では、前回のサイクルの時に得られたターゲットの履歴情報に基づいて、前回のサイクルの時に並走していなかったターゲット同士が今回のサイクルの時に並走するかを予測し、その予測に基づいて到来波数Lを修正するようにしている。これにより、より正確に到来波数Lの推定を行うことが可能となる。
【0072】
(第4実施形態)
本発明の第4実施形態について説明する。本実施形態のレーダ装置は、第3実施形態と同様に、前回のサイクルの時に得られたターゲットの履歴情報に基づいて、前回のサイクルの時に並走していなかったターゲット同士が今回のサイクルの時に並走するかを予測し、その予測に基づいて到来波数Lを求めるものであるが、ここではスレッショルドλTHを下げることで、その予測に基づく到来波数推定を行う。
【0073】
図9は、本実施形態のレーダ装置における信号処理部8が実行する到来波数推定処理のフローチャートを示したものである。
【0074】
まず、ステップ200〜210において、上記第1実施形態と同様の処理が実行される。そして、ステップ500において、レーダ装置で前回のサイクルの時に求められたターゲット(先行車両)の履歴情報から、今回のサイクルにおけるターゲットの位置予測が行われる。これにより、前回のサイクルで並走していなかった他車両同士が今回のサイクルで並走すると予測される場合には、前回の到来波数を1つ加算したものが予測された到来波数として設定されることになる。
【0075】
そして、ステップ510において、前回の到来波数に対して1つ加算した値が設定されているかが判定される。このステップで肯定判定された場合には、ステップ520に進み、スレッショルドλTHをαだけ下げたのちステップ230に進み、否定判定された場合には、そのままステップ230に進む。
【0076】
ここでいうαは、信号空間の固有値λ1〜λLの数が1つ分増えると想定される程度の値に設定されるもので、例えば実験的に求められる。
【0077】
この後は、ステップ230において、固有値λ(λ1〜λK)それぞれがスレッショルドλTHよりも大きいか否かが求められる。これ以降は、第2実施形態と同様の処理が実行される。
【0078】
以上説明したように、本実施形態も、前回のサイクルの時に得られたターゲットの履歴情報に基づいて、前回のサイクルの時に並走していなかったターゲット同士が今回のサイクルの時に並走するかを予測し、その予測に基づいてスレッショルドλTHを修正することで、到来波数Lを修正するようにしている。これにより、より正確に到来波数Lの推定を行うことが可能となる。
【0079】
(第5実施形態)
本発明の第5実施形態について説明する。本実施形態のレーダ装置は、第3実施形態とほぼ同様であるが、到来波数を任意の初期値(L=L0、例えばL0=2、3)に固定しておき、その初期値に基づいて仮の到来波数Lを求めると共に、受信パワーに基づいて仮の到来波数Lから実際の到来波数Lを最終的に求めるものである。
【0080】
図10は、本実施形態のレーダ装置における信号処理部8が実行する到来波数推定処理のフローチャートを示したものである。本実施形態の場合、この到来波数推定処理によって、まず仮の到来波数Lが求められることになる。なお、信号処理部8のうち、この処理を実行する部分が仮到来波数推定手段に相当する。
【0081】
ステップ220では、上記第3実施形態と同様に、固有値λ(λ1〜λK)が入力される。そして、ステップ600にて、到来波数Lの初期値が設定され、到来波数L=L0として到来波数Lの初期値が固定される。これに基づき、ステップ610では、上述した図3に示したステップ240、250と同様に、信号空間の固有値λ(λ1〜λL)と雑音空間の固有値λ(λL+1〜λK)とが求められる。
【0082】
この後、第3実施形態で示したステップ300〜330およびステップ400から420およびステップ260の処理が実行されることで、到来波数Lが推定される。そして、このようにして求められた値が仮の到来波数Lとされる。これにより、到来波数推定処理が終了となる。
【0083】
そして、この到来波数推定処理が完了すると、図2のステップ140に示されるように、求められた仮の到来波数に基づき、従来の手法を用いてMUSICスペクトルが算出される。なお、信号処理部8のうち、この処理を実行する部分がMISICスペクトル算出手段に相当する。
【0084】
図11は、本実施形態のレーダ装置における正しい到来波数Lの判定とその到来波の方向および受信パワーを求める処理のフローチャートである。この処理は、図2におけるステップ150およびステップ160の各処理に相当するものとして実行されるものである。なお、信号処理部8のうち、この処理を実行する部分が方位検出手段および受信パワー検出手段に相当する。
【0085】
まず、ステップ700では、ステップ140で求められたMUSICスペクトルから確認される到来波のピーク波の方位(以下、ピークサーチ方位という)D1〜DLと受信パワーP1〜PLが検出される。なお、ここでは、上述したステップ260において、仮の到来波数Lとされていることから、ピーク波の数もそれと同じLとされる。なお、ピークサーチ方位D1〜DLと受信パワーP1〜PLの算出手法に関しては、上述したステップ150、160と同様である。
【0086】
次に、ステップ710では、ビート周波数ごとの受信パワーのスレッショルドPTH1〜PTH256の読み出しが行われる。ここでいうビート周波数ごとの受信パワーのスレッショルドPTH1〜PTH256とは、ビート周波数[bin]と受信パワーとの相関関係から求められるものであり、例えば予め行った実験結果から求められる。
【0087】
続くステップ720では、信号処理部8に入力されたビート信号のビート周波数に応じた受信パワーのスレッショルドPTHがマップに記憶されたビート周波数と受信パワーのスレッショルドPTH1〜PTH256との相関関係から読み取られ、そのときのビート周波数に応じた受信パワーのスレッショルドPTHとして設定される。以上のようなスレッショルドの設定を行う部分がスレッショルド設定手段に相当する。
【0088】
そして、ステップ730において、ステップ700で求められた受信パワーP1〜PLがステップ720で設定されたビート周波数に応じた受信パワーのスレッショルドPTHを超えているか否かが判定され、受信パワーP1〜PLのうちスレッショルドPTHを超えていたもののみが実際に存在する到来波であるものとされる。そして、その実際の到来波の方位と受信パワーとの情報を用いて、目標物体の存在する方位および目標物体からの距離、相対速度が求められる。
【0089】
以上説明したように、本実施形態では、到来波数Lを任意の初期値に固定しておき、この初期値に基づいて仮の到来波数Lを求めたのち、仮の到来波の各方位の受信パワーがスレッショルドPTHを超えているか否か判定し、超えていないものを到来波から除くことで、実際の到来波数Lを求めるようにしている。これにより、実際の到来波数Lを正確に求めることが可能となり、上記第1実施形態と同様の効果を得ることが可能となる。
【0090】
(第6実施形態)
本発明の第6実施形態について説明する。本実施形態のレーダ装置は、第5実施形態に対して、図11に示した処理に変えて図12に示す処理を実行するものである。その他に関しては第5実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0091】
図12は、本実施形態のレーダ装置における正しい到来波数Lの判定とその到来波の方向および受信パワーを求める処理のフローチャートである。この処理は、図2におけるステップ150およびステップ160の各処理に相当するものとして実行されるものである。
【0092】
まず、ステップ700では、上記ステップ140で求められたMUSICスペクトルからピークサーチ方位D1〜DLが検出される。
【0093】
次に、ステップ740では、各ピークサーチ方位D1〜DLでの受信パワーP1〜PLが算出される。具体的には、受信パワーP1〜PLは次式により求められ、Sの対角成分から抽出される(菊間信良、アダプティブアンテナ技術、オーム社、P.137−P.141参照)。
【0094】
(数5)
S=(AHA)-1H(Rxx−σ2I)A(AHA)-1
ただし、Sは信号(波源)相関行列、Aは方向行列、Rxxは到来波の受信データxi(t)の自己相関行列、Iは単位行列である。
【0095】
また、ステップ710および720にて、第5実施形態と同様の処理が行われる。そして、ステップ730において、ステップ750で求められた受信パワーP1〜PLがステップ720で設定されたビート周波数に応じた受信パワーのスレッショルドPTHを超えているか否かが判定され、受信パワーP1〜PLのうちスレッショルドPTHを超えていたもののみが実際に存在する到来波であるものとされる。その実際の到来波の方位と受信パワーとの情報を用いて、目標物体の存在する方位および目標物体からの距離、相対速度が求められる。
【0096】
以上説明したように、本実施形態でも、第5実施形態と同様に、到来波数Lを任意の初期値に固定しておき、この初期値に基づいて仮の到来波数Lを求めたのち、仮の到来波の各方位の受信パワーがスレッショルドPTHを超えているか否か判定し、超えていないものを到来波から除くことで、実際の到来波数Lを求めるようにしている。これにより、実際の到来波数Lを正確に求めることが可能となり、上記第1実施形態と同様の効果を得ることが可能となる。
【0097】
(他の実施形態)
上記第1〜第4実施形態では、車載用のレーダ装置を例に挙げて説明したが、他のレーダ装置に対しても本発明を適用することができる。ただし、高速で移動する車両に搭載され、かつ、高いデバイス性能が期待できない車載用のレーダ装置に本発明を適用すると特に好適である。
【0098】
第3、第4実施形態では、前回のサイクルの時に得られたターゲットの履歴情報に基づいて、前回のサイクルの時に並走していなかったターゲット同士が今回のサイクルの時に並走するかを予測し、その予測に基づいて到来波数Lを修正するようにしている。これに対し、前回のサイクルの時に得られたターゲットの履歴情報に基づいて、前回のサイクルの時に並走していたターゲット同士が今回のサイクルの時に並走しないことを予測し、その予測に基づいて到来波数Lを修正することも可能である。
【0099】
この場合、第3実施形態では到来波数LがL−1に修正され、第4実施形態ではスレッショルドλTHが上げられることで固有値λの数が減らされることになる。
【0100】
もちろん、ここでは並走するターゲットの数が1つ増減する場合についてのみ説明しているが、複数の場合にはその数分だけ増減することになる。
【0101】
つまり、今回のサイクルの際に到来波推定の際に並ぶと予測されるターゲットの数を求め、この数と前回のサイクルの際に並んでいたターゲットの数との差を求める。そして、前回のサイクルの際に推定された到来波の数と今回のサイクルの際に推定された到来波の数との差と一致していない場合には、前回のサイクルの際に推定された到来波の数に対して、今回のサイクルの際に並ぶと予測されるターゲットの数と前回のサイクルの際に並んでいたターゲットの数との差を加算もしくは減算する。これにより、並走するターゲットの数に応じた到来波の数の推定を行うことが可能となる。
【0102】
また、上記各実施形態では、MUSIC法を例に挙げて説明したが、固有値分解を用いて到来波数の推定を行った上で、到来波方向を推定するレーダ装置、例えばEsprit法、ユニタリMUSIC法、ユニタリEsprit法などが用いられるレーダ装置についても本発明を適用することが可能である。
【0103】
さらに、上記実施形態では、FMCWにてビート信号から距離や相対速度を求める場合について例示したが、これに限るものではなく、2周波CWやパルス方式、スペクトラム拡散方式を採用することも可能である。そして、FMCW方式が適用される場合には、ビート周波数ごとのスレッショルドλTH1〜λTH256が設定されることになるが、2周波方式や多周波CW方式が適用される場合には、ビート信号の位相ごとに、パルス方式やスペクトラム拡散方式が適用される場合には、ビート信号の遅延時間、すなわち物標までの距離ごとにスレッショルドが設定されることになる。
【0104】
そして、上記実施形態では、ビート周波数ごとのスレッショルドλTH1〜λTH256、PTH1〜PTH256というように、256個のスレッショルドλTH、PTHを設定する場合について説明したが、スレッショルドλTH、PTHの数は任意の数nであり、ビート周波数ごとのスレッショルドλTH1〜λTHn、PTH1〜PTHnとすることができる。
【0105】
なお、各図中に示したステップは、各種処理を実行する手段に対応するものである。
【符号の説明】
【0106】
1…変調信号生成部、2…電圧制御発振器、3…分配器、4…送信アンテナ、5…受信部、6…ミキサ、7…A/Dコンバータ、8…信号処理部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信アンテナ(4)を通じて送信信号を送信すると共に、互いに異なる位置に配設された複数のアンテナ(5a)を介して複数の方向から到来する複数の到来波を受信し、各アンテナ毎の受信信号から、前記送信信号を反射したターゲットからの到来波の方向の推定を行うレーダ装置において、
前記送信信号と前記受信信号の差の周波数成分であるビート信号を生成するビート信号手段(6)と、
前記ビート信号に基づいて自己相関行列(Rxx)を算出する自己相関行列算出手段(110)と、
前記自己相関行列算出手段で算出された自己相関行列から固有値(λ)を算出する固有値算出手段(120)と、
前記固有値算出手段で算出された固有値(λ)に基づいて前記到来波の数の推定を行う到来波数推定手段(130)と、
前記ビート信号に基づいて、前記ターゲットの距離および相対速度を求め、それらを履歴情報として記憶する履歴情報記憶手段を有し、
前記到来波数推定手段は、前記履歴情報記憶手段に記憶された前記履歴情報から、今回の到来波推定の際における前記ターゲットの位置を予測するターゲット位置予測手段(400)を有し、該ターゲット位置予測手段により予測される前記ターゲットの位置から前記ターゲットの複数が並ぶか否かを予測し、その予測結果に基づいて前記到来波の数の推定を行うようになっていることを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記到来波数推定手段は、前記ターゲット位置予測手段により予測される前記ターゲットの位置から今回の到来波推定の際に並ぶと予測される前記ターゲットの数を求め、この数と前回の到来波推定の際に並んでいた前記ターゲットの数との差が、前記前回の到来波推定の際に推定された到来波の数と前記今回の到来波推定の際に推定された到来波の数との差と一致していない場合には、前記前回の到来波推定の際に推定された到来波の数に対して、前記今回の到来波推定の際に並ぶと予測される前記ターゲットの数と前回の到来波推定の際に並んでいた前記ターゲットの数との差を加算もしくは減算することで、前記到来波の数の推定を行うようになっていることを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
送信アンテナ(4)を通じて送信信号を送信すると共に、互いに異なる位置に配設された複数のアンテナ(5a)を介して複数の方向から到来する複数の到来波を受信し、各アンテナ毎の受信信号から、前記送信信号を反射したターゲットからの到来波の方向の推定を行うレーダ装置において、
前記送信信号と前記受信信号の差の周波数成分であるビート信号を生成するビート信号生成手段(6)と、
前記ビート信号に基づいて自己相関行列(Rxx)を算出する自己相関行列算出手段(110)と、
前記自己相関行列算出手段で算出された自己相関行列から固有値(λ)を算出する固有値算出手段(120)と、
前記固有値算出手段で算出された固有値(λ)に基づいて前記到来波の数の推定を行う到来波数推定手段(130)と、
前記ビート信号に基づいて、前記ターゲットの距離および相対速度を求め、それらを履歴情報として記憶する履歴情報記憶手段とを備え、
前記到来波数推定手段は、前記固有値(λ)のスレッショルド(λTH)を設定するスレッショルド設定手段(200、210)を有し、該スレッショルド設定手段によって設定された前記スレッショルド(λTH)に基づいて前記固有値(λ)を信号空間の固有値(λ1〜λL)と雑音空間の固有値(λL+1〜λLK)に分別し、前記到来波の数の推定を行うと共に、前記履歴情報記憶手段に記憶された前記履歴情報から、今回の到来波推定の際における前記ターゲットの位置を予測するターゲット位置予測手段(400)を有し、該ターゲット位置予測手段により予測される前記ターゲットの位置から前記ターゲットの複数が並ぶか否かを予測し、その予測結果に基づいて前記スレッショルド設定手段が設定する前記スレッショルド(λ)の値を調整するようになっていることを特徴とするレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−271337(P2010−271337A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−203174(P2010−203174)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【分割の表示】特願2005−155627(P2005−155627)の分割
【原出願日】平成17年5月27日(2005.5.27)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】