説明

レーダ装置

【課題】障害発生時の運用中断の期間を短縮して可用性を向上させたレーダ装置を得る。
【解決手段】分割した覆域毎に対応させて設けられた複数の空中線を有するレーダ装置において、同一に構成された複数個の単位空中線を有する主空中線部と、この主空中線部から離間して設置された回動可能な1個の単位空中線を有する副空中線部とを用いて、レーダ波を送受信する空中線部を構成する。そして、主空中線部内の単位空中線の動作を監視し、動作異常が検出された場合には、副空中線部を、この動作異常となった単位空中線の代替として、直前までの動作状況を引き継ぎつつ、その動作を継続させるように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ装置に係り、特に、複数の空中線を用いて対象のレーダ空間内の目標を探知するレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、従来の航空機等の目標を探知するレーダ装置は、1台の回転型の空中線を用いて対象のレーダ空間の捜索を行い、目標の検出を行っている。また、アレイアンテナ等、1つの非回転型の空中線を用いて多機能化されたレーダ装置(例えば、特許文献1参照。)や、非回転型の空中線としてフェイズドアレイアンテナを複数用いた事例も開示されている(例えば、非特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開平6−249944号公報(第4ページ、図1)
【特許文献2】特開平3−225287号公報(第5ページ、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述したようなレーダ装置においては、例えば回転型の空中線を用いたレーダ装置の場合、機械的な回転機構を含む空中線のいずれかの部位に障害が発生すると、所定の空間内の目標探知が困難あるいは不能となってレーダ装置としての動作が中断されるとともに、その代替手段も短時間のうちに提供されるとは限らず、装置運用上、重大な支障をきたしていた。また、複数の空中線を用いた事例では、例えば、その中の1つの空中線に障害が発生した場合には、残りの空中線で補完することは可能であるが、必ずしも所期の機能及び性能が維持されるわけではなく、能力面で少なからず制約が発生していた。そして、障害を除去するには、やはり装置の動作を中断せざるを得ず、装置運用に支障をきたしていた。加えて、これら運用上の支障となる事象の発生の予防や事後処置等について対処するための高度な整備性も要求され、装置の維持コストを高騰させる一因となっていた。
【0004】
本発明は、上述の事情を考慮してなされたものであり、障害発生時の運用中断の期間を短縮して可用性を向上させたレーダ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明のレーダ装置は、対象のレーダ空間を複数の覆域に分割し、それぞれの覆域毎に設けられた複数の空中線を用いてレーダ波を送受信するレーダ装置において、前記それぞれの覆域毎に設けられた複数の空中線として同一に構成された複数個の単位空中線を有し、これら単位空中線をそれぞれの覆域に向けて所定の位置に互いに隣接して設置した第1の空中線部と、前記単位空中線と同一の1個の単位空中線を有し、これを前記第1の空中線部から離間して設置するとともに、前記第1の空中線部の各単位空中線の対応する覆域のいずれに向けても回動する第2の空中線部と、前記第1の空中線部及び第2の空中線部にレーダ送信信号を供給するとともに、前記第1の空中線部及び第2の空中線部で受信したレーダ反射信号を受信処理するレーダ送受信部と、前記第1の空中線部のビーム形成、ならびに前記第2の空中線部のビーム形成及び回動を制御する制御部とを備え、前記制御部は、前記第1の空中線部の各単位空中線からのステータス情報を監視してそれぞれの単位空中線に対するビーム形成パラメータを更新するとともに、これら単位空中線のいずれかに動作異常を検出した際は、前記第2の空中線部の単位空中線をこの動作異常の単位空中線の覆域に向けて回動させるとともに、動作異常を検出する直前のビーム形成パラメータをこの第2の空中線部の単位空中線に転送しそのビーム形成を継続して制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、障害発生時の運用中断の期間を短縮できるとともに、その可用性を高めたレーダ装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に、本発明に係るレーダ装置を実施するための最良の形態について、図1乃至図4を参照して説明する。
【実施例1】
【0008】
図1は、本発明に係るレーダ装置の一実施例の構成を示すブロック図である。本実施例においては、方位方向に360°(全周)のレーダ空間を4分割し、90°毎の覆域に向けてそれぞれ単位空中線を設置した場合を示している。図1に例示したように、このレーダ装置は、第1の空中線部としての主空中線部11、第2の空中線部としての副空中線部12、送受信部としての送信部13、および受信部14、表示部15、ならびに制御部16から構成されている。主空中線部11は、全周を4分割したそれぞれの覆域に向けて設置された、同一構成の4つの単位空中線111(111a、111b、111c、及び111d)を有しており、後述する制御部16からの制御に基づきビームを形成し、レーダ波を送受信する。図2に、これら4つの単位空中線の設置の概念図を示す。図2に例示したように、これら4つの単位空中線111a〜111dは、それぞれに割り当てられた覆域に向けて、互いに隣接して設置され、レーダ空間としての全周をカバーしている。
【0009】
単位空中線111は、本実施例においては、アンテナ素子を含む送受信モジュールが、例えば2次元に配列されたアクティブフェーズドアレイ型としている。送受信モジュールの構成の一例を図3に例示する。図3の事例では、この送受信モジュールは、レーダ波を送受信するアンテナ素子1111、送受信で信号経路を切り換えるサーキュレータ1112、送信信号を増幅する電力増幅器1113、送信信号の移相量を設定する送信移相器1114、受信したレーダ反射波を増幅する受信増幅器1115、及び受信信号の移相量を設定する受信移相器1116から構成されている。複数の送受信モジュールに入出力される送信信号及び受信信号は、例えば単位空中線内で送受信モジュールの後段に設けられた分配合成器等(図示せず)により分配合成され、後述の送信部13、及び受信部14と授受される。また、ビーム形成制御のための制御信号、及び動作状況を示すステータス情報を授受する。なお、例えば後段における受信信号のデジタル信号処理に備え、単位空中線111内に受信信号のデジタル変換回路等(図示せず)を含めて構成することもできる。
【0010】
副空中線部12は、単位空中線111e、及び駆動部121を有しており、主空中線部11と同様に制御部16からの制御に基づきビームを形成し、レーダ波を送受信する。単位空中線111eは、主空中線部11の単位空中線111a〜111dと同一に構成されており、詳細な説明は省略する。駆動部121は、この単位空中線111eが主空中線部11の4つの単位空中線111a〜111dのいずれかの覆域を指向するよう、制御部16からの制御信号に基づき単位空中線111eを回動させる。図2に、設置の概念図を例示する。図2に例示したように、副空中線部12は、主空中線部11から離間して設置され、単位空中線111eは、駆動部121により主空中線部11内の単位空中線111a〜111dのいずれの覆域にも指向可能としている。図2では、副空中線部12の単位空中線111eの覆域は、主空中線部11の単位空中線111bと同じ覆域を指向している場合を例示している。
【0011】
送信部13は、レーダ送信信号を生成し、主空中線部11、及び副空中線部12に供給する。受信部14は、主空中線部11、及び副空中線部12で受信したレーダ反射波に対して各種の受信処理を施し、目標の捜索・捕捉、測距・測角等の各種信号処理を行う。表示部15は、受信部15での処理結果を含む装置内の各種データの表示を行う。
【0012】
制御部16は、主空中線部11の各単位空中線111a〜111dからのステータス情報を監視しながら、それぞれのビーム形成パラメータの設定及び更新を行う。またこれら単位空中線のいずれかに動作異常を検出した際は、この異常となった単位空中線を副空中線部12で代替させるように、副空中線部12を制御する。すなわち、単位空中線111eが動作異常となった主空中線部11の単位空中線の覆域を指向するように、駆動部121を制御するとともに、単位空中線111eに対しては動作異常直前のビーム形成パラメータを転送し、レーダ装置としてのビーム形成を維持継続できるよう制御する。加えて制御部16は、主空中線部11の各単位空中線111a〜111dに動作異常が検出されない場合は、副空中線部12に対しては、次の3つの動作モードのいずれかに対応した制御を行う。すなわち、第1番目は、主空中線部11内の単位空中線111a〜111dのいずれかの代替として待機するよう制御する。第2番目は、主空中線部11内の単位空中線111a〜111dのいずれかの単位空中線と同じ覆域に向けて同じビーム形成パラメータでレーダ波の送受信を行うよう制御する。第3番目は、主空中線部11内の単位空中線111a〜111dのいずれかの単位空中線と同じ覆域に向けて同じビーム形成パラメータでレーダ反射波の受信のみを重複して行うよう制御する。
【0013】
次に、前出の図1乃至図3、ならびに図4のフローチャートを参照して、上述のように構成された本実施例のレーダ装置の動作について説明する。図4は、図1に例示した本発明に係るレーダ装置の動作を説明するためのフローチャートである。
【0014】
まず、このレーダ装置が動作を開始すると、制御部16から、副空中線部12を含む装置内各部に対して、上記した副空中線部12の動作モードに対応した制御が行われる。なお、以下の説明では、副空中線部12は、主空中線部11の代替として待機するよう制御されたものとしている(ST401)。この制御に続き、制御部16からは、主空中線11内の4つの単位空中線111a〜111dに対してビーム形成パラメータが送出される。そして、これら4つの単位空中線を用いて送信部13からのレーダ信号が放射され、その反射波が受信部14で処理されて、方位方向全周に対する目標の探知が開始・継続される。ビーム形成パラメータには、形成するビームの形状や、ビームの走査を制御するために各単位空中線内の送受信モジュールに設定すべき移相量や増幅利得等が含まれる(ST402)。
【0015】
次いで、主空中線部11内の各単位空中線111a〜111dからは、制御部16に対して、その動作状況を示すステータス情報が送出され、制御部16はこれらステータス情報に基づき各単位空中線の動作を監視する(ST403)。そして、ステータス情報内に異常がなければ、上記ステップでの動作を継続し(ST404のN)、異常をを検出した場合には(ST404のY)、その内容を分析し、ビーム形成パラメータの修正により対応が可能であるか否かを判断する(ST405)。すなわち、上記した単位空中線のように、多数の送受信モジュールが配列されたアクティブフェーズドアレイ型の空中線の場合には、少数の送受信モジュールのみの異常であれば、単位空中線として、あるいは主空中線部11全体として、その異常状態を排除するようなビーム形成パラメータの設定が可能な場合がある。従って、このような場合には(ST405のY)、制御部16は、主空中線部11に対するビーム形成パラメータを修正し、主空中線部11に送出する(ST406)。
【0016】
一方、ビーム形成パラメータの修正では対応できない場合を含め、主空中線部11内の各単位空中線111a〜111dのいずれかに動作異常を検出した場合には(ST405のN)、制御部16は、この異常となった単位空中線を、待機状態にある副空中線部12で代替させるように、副空中線部12を制御し稼働させる。すなわち、駆動部121を制御して、単位空中線111eを、動作異常となった主空中線部11内の単位空中線の覆域に指向させるとともに、単位空中線111eに対して動作異常発生直前のビーム形成パラメータを転送する(ST407)。そして、主空中線部11内で動作異常となった単位空中線は切り離され、主空中線部11内の残りの3つの単位空中線と副空中線部12とにより、レーダ装置として所期のビーム形成を維持継続し、ST402の動作ステップと同様の、全周に対する目標の探知を継続する(ST408)。
【0017】
この後は、動作を継続していく中で、動作異常となった主空中線部11内の単位空中線の復旧がなされれば(ST409のY)、制御部16は、稼働中の副空中線部12に対するビーム形成パラメータを、再びこの復旧された主空中線部11内の単位空中線に送出してこれを再稼働させるとともに、副空中線部11を当初の動作モードに戻す。そして、主空中線部11内の4つの単位空中線と待機モードの副空中線部12とによる動作が継続される(ST410)。また、いずれかの動作ステップで動作終了指示がなされた場合には、レーダ装置の動作を終了する(ST411)。
【0018】
なお、上述の説明においては、副空中線部12の動作モードを、主空中線部11の代替として待機するよう制御されるモードとしたが、これを、主空中線部11内の単位空中線111a〜111dのいずれか単位空中線と同じ覆域に向けて同じビーム形成パラメータでレーダ波の送受信を行うよう制御するモード、あるいは、主空中線部11内の単位空中線111a〜111dのいずれか単位空中線と同じ覆域に向けて同じビーム形成パラメータでレーダ反射波の受信のみを重複して行うよう制御するモードとすることもできる。その場合には、ST402の動作ステップでの目標の探知においては、これら該当する動作モードで目標の探知を行い、ST408の動作ステップでは上述した説明と同様の動作で目標探知を行う。
【0019】
以上説明したように、本実施例においては、分割した覆域毎に対応させて設けられた複数の空中線を有するレーダ装置において、同一に構成された複数個の単位空中線を有する主空中線部と、この主空中線部から離間して設置された回動可能な1個の単位空中線を有する副空中線部とを用いて、レーダ波を送受信する空中線部を構成している。そして、主空中線部内の単位空中線の動作を監視し、動作異常が検出された場合には、副空中線部を、この動作異常となった単位空中線の代替として、直前までの動作状況を引き継ぎつつ、その動作を継続させるように制御している。これにより、障害発生時の運用中断の期間を短縮できるとともに、その可用性を高めることができる。また、単位空中線を用いることによって空中線部分全体の構成品が多くの部分で共通化され、整備性の向上及び装置維持コストの低減が期待できる。
【0020】
さらに、主空中線部内に動作異常が検出されない場合には、副空中線部をいずれかの覆域に指向させて主空中線部とともにレーダ波の送受信、または受信のみを行わせている。これにより、通常時には、対象のレーダ空間における目標の検出能力を向上させるなど、種々の機能・性能に対する拡張性を持たせることができる。
【0021】
なお、本発明は、上記した実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係るレーダ装置の一実施例の構成を示すブロック図。
【図2】主空中線部及び副空中線部の単位空中線の設置の一例を示す概念図。
【図3】送受信モジュールの構成の一例を示すブロック図。
【図4】図1に例示したレーダ装置の動作を説明するためのフローチャート。
【符号の説明】
【0023】
11 主空中線部
12 副空中線部
13 送信部
14 受信部
15 表示部
16 制御部
111a、111b、111c、111d、111e 単位空中線
121 駆動部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象のレーダ空間を複数の覆域に分割し、それぞれの覆域毎に設けられた複数の空中線を用いてレーダ波を送受信するレーダ装置において、
前記それぞれの覆域毎に設けられた複数の空中線として同一に構成された複数個の単位空中線を有し、これら単位空中線をそれぞれの覆域に向けて所定の位置に互いに隣接して設置した第1の空中線部と、
前記単位空中線と同一の1個の単位空中線を有し、これを前記第1の空中線部から離間して設置するとともに、前記第1の空中線部の各単位空中線の対応する覆域のいずれに向けても回動する第2の空中線部と、
前記第1の空中線部及び第2の空中線部にレーダ送信信号を供給するとともに、前記第1の空中線部及び第2の空中線部で受信したレーダ反射信号を受信処理するレーダ送受信部と、
前記第1の空中線部のビーム形成、ならびに前記第2の空中線部のビーム形成及び回動を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、前記第1の空中線部の各単位空中線からのステータス情報を監視してそれぞれの単位空中線に対するビーム形成パラメータを更新するとともに、これら単位空中線のいずれかに動作異常を検出した際は、前記第2の空中線部の単位空中線をこの動作異常の単位空中線の覆域に向けて回動させるとともに、動作異常を検出する直前のビーム形成パラメータをこの第2の空中線部の単位空中線に転送しそのビーム形成を継続して制御することを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記単位空中線は、アンテナ素子を含む送受信モジュールが所定の方向に配列されたフェーズドアレイ型であることを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
さらに前記制御部は、前記第1の空中線部の各単位空中線に動作異常が検出されない場合は、前記第2の空中線部を前記第1の空中線部のいずれかの単位空中線の覆域に向けて回動させるとともに、この覆域に向けて該当する前記第1の空中線部の単位空中線と同じビーム形成パラメータで重複して前記レーダ波の送受信を行うよう制御することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のレーダ装置。
【請求項4】
さらに前記制御部は、前記第1の空中線部の各単位空中線に動作異常が検出されない場合は、前記第2の空中線部を前記第1の空中線部のいずれかの単位空中線の覆域に向けて回動させるとともに、該当する前記第1の空中線部の単位空中線と同じビーム形成パラメータでこの覆域からの前記レーダ波の反射波を受信するよう制御することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−85284(P2010−85284A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−255621(P2008−255621)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】