レーダ装置
【課題】目標のレンジ移動を補償することのできるレーダ装置を得る。
【解決手段】基準信号発生回路1とDSS2と制御装置3から構成される信号生成手段は、送信されるチャープ変調パルス信号のチャープ率対搬送波周波数比を変化させながら複数のチャープ変調パルス信号を生成する。信号処理回路17と制御装置3から構成されるパルス圧縮手段は、各チャープ変調パルス信号の受信信号に対して、送信したチャープ変調パルス信号と同じパルス幅とチャープ帯域のチャープ変調パルス信号を使ってパルス圧縮を行い、目標のレンジ移動をレンジ誤差の変化で相殺させる。
【解決手段】基準信号発生回路1とDSS2と制御装置3から構成される信号生成手段は、送信されるチャープ変調パルス信号のチャープ率対搬送波周波数比を変化させながら複数のチャープ変調パルス信号を生成する。信号処理回路17と制御装置3から構成されるパルス圧縮手段は、各チャープ変調パルス信号の受信信号に対して、送信したチャープ変調パルス信号と同じパルス幅とチャープ帯域のチャープ変調パルス信号を使ってパルス圧縮を行い、目標のレンジ移動をレンジ誤差の変化で相殺させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速移動目標に対する感度を向上させるため、目標のレンジ移動を補償するレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
チャープパルス圧縮とパルス間コヒーレント積分を利用した、高い距離分解能を持ち高感度なレーダ装置が知られている。通常、チャープ変調パルス信号のチャープ帯域等のパラメータは各パルスで同一である。
一方、本発明の目的とは異なるが、特定の目的を達成するために、パルス毎にチャープ変調パルス信号のパラメータを変化させるレーダ装置が知られている。例えば、特許文献1に示すようなレーダ装置では、コヒーレント積分は行わないが、チャープ帯域を広くして高い距離分解能を実現する場合に、送信するチャープ変調パルス信号のパルス幅やチャープ帯域をパルス毎に制御し、グレーティングローブを抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−192783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高い距離分解能を持ち、パルス間コヒーレント積分によって高い感度を実現しているレーダ装置では、目標が高速に移動している場合、複数パルスを送信している間に目標が移動することにより発生する信号積分ロスが課題となっている。
【0005】
この発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、目標のレンジ移動を補償することのできるレーダ装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係るレーダ装置は、複数のチャープ変調パルス信号を生成する信号生成手段と、信号生成手段で生成したチャープ変調パルス信号を送信する送信手段と、送信手段で送信した送信信号が目標で反射した反射信号を受信する受信手段と、受信手段で受信した受信信号をパルス圧縮するパルス圧縮手段とを備え、信号生成手段は、送信されるチャープ変調パルス信号のチャープ率対搬送波周波数比を変化させながら複数のチャープ変調パルス信号を生成し、パルス圧縮手段は、各チャープ変調パルス信号の受信信号に対して、送信したチャープ変調パルス信号と同じパルス幅とチャープ帯域のチャープ変調パルス信号を使ってパルス圧縮し、目標のレンジ移動をレンジ誤差の変化で相殺させることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
この発明のレーダ装置は、信号生成手段が、送信されるチャープ変調パルス信号のチャープ率対搬送波周波数比を変化させながら複数のチャープ変調パルス信号を生成し、パルス圧縮手段が、各チャープ変調パルス信号の受信信号に対して、送信したチャープ変調パルス信号と同じパルス幅とチャープ帯域のチャープ変調パルス信号を使ってパルス圧縮し、目標のレンジ移動をレンジ誤差の変化で相殺させるようにしたので、任意の速度で等速直線運動する目標のレンジ移動を補償することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】パルス圧縮における遅延時間誤差を示す説明図である。
【図2】パルス圧縮におけるレンジ誤差を示す説明図である。
【図3】目標が等速直線運動している場合における、従来のレーダ装置によるパルス圧縮後信号の例を示す説明図である。
【図4】目標が等速直線運動している場合における、本発明のレーダ装置によるパルス圧縮後信号の例を示す説明図である。
【図5】目標が等速直線運動している場合における、従来のレーダ装置によるコヒーレント積分結果の例を示す説明図である。
【図6】目標が等速直線運動している場合における、本発明のレーダ装置によるコヒーレント積分結果の例を示す説明図である。
【図7】従来のレーダ装置における反射信号を受信した後の処理の例を示すフローチャートである。
【図8】本発明のレーダ装置における反射信号を受信した後の処理の例を示すフローチャートである。
【図9】本発明のレーダ装置の構成例を示すブロック図である。
【図10】本発明の実施の形態2のレーダ装置における、目標が等加速度直線運動している場合のパルス圧縮後信号の例を示す説明図である。
【図11】本発明の実施の形態2のレーダ装置における、目標が等加速度直線運動している場合のコヒーレント積分結果の例を示す説明図である。
【図12】本発明の実施の形態2のレーダ装置における、目標が等加速度直線運動している場合のWigner−Ville分布処理結果の例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
まず、周波数が線形に変化するチャープ信号を利用したパルス圧縮において、等速直線運動している目標からの反射波のドップラ周波数によって発生する遅延時間の誤差とレンジ誤差について説明する。
【0010】
チャープ変調パルス信号のチャープ帯域をB、パルス幅をTp、送信信号のキャリア周波数をfcとすると、送信するチャープ変調パルス信号は次式で表される。
【0011】
【0012】
その結果、測距結果にも次式で表されるレンジ誤差Δxが発生し、複数のパルス圧縮後信号のピーク位置は図2のようになる。
【0013】
次に、ドップラ周波数によって発生するレンジ誤差を利用し、任意速度で等速直線運動している目標のレンジ移動を補償する方法について説明する。
k番目のパルスのチャープ帯域をB(k)、パルス幅をTp(k)、キャリア周波数をfc(k)、パルス送信時刻をt(k)とする。ただし、B(1)=B、Tp(1)=Tp、fc(1)=fc、t(1)=0とする。また、パルス圧縮では、送信したチャープ変調パルス信号と同じパルス幅とチャープ帯域を使うものとする。k番目のパルスでのレンジ誤差Δx(k)は次式となる。
よって、k番目のパルスでのパルス圧縮後信号のピーク位置ρ(k)は次式となる。
目標のレンジ移動をレンジ誤差の変化で相殺させてレンジ移動を補償するためには、次式を満たすようにチャープ変調パルス信号のパラメータを設定すれば良い。
式(13)に式(2)、(11)、(12)を代入して整理すると次式が得られる。
【0014】
式(14)には速度υが含まれていないため、チャープ率対搬送波周波数比B(k)/(Tp(k)fc(k))が式(14)を満たしながら変化すると、任意速度で等速直線運動している目標に対して、式(13)が成立することになる。すなわち、チャープ率対搬送波周波数比を式(14)を満たすように変化させると、任意速度で等速直線運動している目標のレンジ移動を補償できる。
また、式(14)においてパルス幅を一定値Tpとし、次式の条件を満たすようにチャープ帯域対搬送波周波数比B(k)/fc(k)を変化させると、任意速度で等速直線運動している目標のレンジ移動を補償でき、かつ反射強度が一定の目標に対してパルス圧縮後信号のピーク値を一定にできる。
【0015】
更に、式(15)において搬送波周波数を一定値fcとし、次式に従ってチャープ帯域B(k)を変化させると、任意速度で等速直線運動している目標のレンジ移動を補償でき、反射強度が一定の目標に対してパルス圧縮後信号のピーク値を一定にでき、かつパルス圧縮後信号のピークにおいてドップラ周波数とパルス送信時刻に応じた位相変化を捉えることができる。
【0016】
図3〜図6を用いて、本発明によるレンジ移動の補償効果を説明する。目標は高速に等速直線運動しているとし、本発明のレーダではチャープ変調パルス信号のチャープ帯域を式(17)に従って変化させた。
図3及び図4は、従来のレーダ(チャープ変調パルス信号のパラメータは各パルスで同一)と本発明のレーダにおけるパルス圧縮後信号の例を示している。横軸は距離とパルス番号、縦軸はパルス圧縮後信号の振幅の絶対値である。従来のレーダでは目標の移動に合わせてパルス圧縮後信号のピークが移動しているが、本発明のレーダではパルス圧縮後信号のピークが静止している。
【0017】
図5及び図6は、従来のレーダと本発明のレーダにおけるパルス圧縮後信号に対するコヒーレント積分の結果を示している。横軸は距離とドップラ周波数、縦軸はコヒーレント積分後の振幅の絶対値である。従来のレーダでは目標のレンジ移動による信号積分ロスが発生し、ピーク値が小さくなっているが、本発明のレーダでは目標のレンジ移動を補償しているため信号積分ロスは発生していない。なお、搬送波周波数を変化させながらチャープ率対搬送波周波数比を式(14)の条件を満たすように変化させる場合と搬送波周波数を変化させながらチャープ帯域対搬送波周波数比を式(15)の条件を満たすように変化させる場合は、パルス毎にドップラ周波数が変化してしまうため、コヒーレント積分ではなくインコヒーレント積分を用いることが望ましい。パルス間隔が不等間隔でチャープ帯域を式(16)に従って変化させる場合は、不等間隔の離散フーリエ変換を利用して積分しても良いし、インコヒーレント積分を用いても良い。また、チャープ帯域を式(17)に従って変化させる場合でも、インコヒーレント積分を用いることができる。
【0018】
ここまで、パルス圧縮処理を中心に説明してきたが、従来のレーダにおける反射信号を受信した後の処理の例を示した図7のように、実際には、パルス圧縮、クラッタ抑圧、信号積分、目標検出のように処理される。ここで従来のレーダにおける反射信号を受信した後の処理を整理する。従来レーダでは、目標からの反射信号を受信した信号のベースバンド信号に対して、送信信号のベースバンド信号を使ってパルス圧縮を行う。次に、クラッタ抑圧処理として、MTI(Moving Target Indicator)などを行い、コヒーレント積分などの信号積分処理を行う。更に、目標検出処理として、CFAR(Constant False Alarm Rate)処理などを行う。
【0019】
パルス圧縮から信号積分までの処理を式を用いて説明する。送信したチャープ変調パルス信号のベースバンド信号を次式のように行列で表す。
ここで、k番目の行がk番目のパルスの送信開始時からk+1番目のパルスの送信開始前までの信号を表している。信号を送信していない時は0である。Kはパルス数、Nはパルス送信間のサンプル数である。同様に目標からの反射信号を受信した信号のベースバンド信号を次式で表す。
パルス圧縮後信号Φは次式で表される。
【0020】
【0021】
続いて、本発明のレーダにおける反射信号を受信した後の処理の例を説明する。まず、本発明のレーダにおけるクラッタ抑圧処理について説明する。本発明のレーダでも、従来のレーダと同様のクラッタ抑圧処理を行うことができるが、パルス毎にチャープ変調パルス信号のパラメータを変更するため、クラッタ抑圧効果が劣化する場合がある。そこで、逆畳み込みの考え方を応用し効果的にクラッタ抑圧を行いながら、パルス圧縮を行う処理を説明する。ただし、実際には逆畳み込みを計算する必要はない。送信信号のベースバンド信号のパルス圧縮後信号を使った、受信信号のベースバンド信号のパルス圧縮後信号の逆畳み込みは次式で表現される。
なお、Sは式(17)に従って、パルス毎にチャープ変調パルス信号のチャープ帯域を変更して生成した送信信号のベースバンド信号を表しており、Rはその送信信号の反射信号を受信した受信信号のベースバンド信号を表しているものとする。
【0022】
クラッタ抑圧を行いながらパルス圧縮を行う処理は、上記逆畳み込み結果に対してクラッタ抑圧を行い、送信信号のベースバンド信号のパルス圧縮後信号と相互相関演算を行う処理とする。クラッタ抑圧処理が2階差分のMTIの場合は次式で表現される。
ここで、W′は各パルスにおいて窓幅とチャープ帯域の比が一定となるようにした窓関数を行ベクトルで表現し、K個並べた行列である。また、Jは差分処理によるずれを補正するために使われている。式(24)の最後の等号は、実際の処理としては、受信信号のベースバンド信号と送信信号のベースバンド信号とのフーリエ成分の比に対してクラッタ抑圧処理を行い、送信信号のベースバンド信号のパルス圧縮後信号と相互相関演算を行えば良いことを示している。パルス毎にチャープ変調パルス信号のチャープ帯域を変更する場合でも、本処理によって十分なクラッタ抑圧性能を得ることができる。信号積分処理はΨに対して従来のレーダと同様の処理を行えば良く、上記のコヒーレント積分やインコヒーレント積分を使うことができる。任意速度で等速直線運動している目標のレンジ移動を補償した上で信号を積分するため、信号積分ロスを発生させずにレーダの感度を向上させることができる。目標検出処理もCFAR処理などを用いることができる。以上をまとめると、本発明のレーダにおける反射信号を受信した後の処理の例は図8のようになる。
【0023】
次に、本発明のレーダ装置の構成を説明する。
図9は実施の形態1のレーダ装置の構成図である。
図示のように、レーダ装置は、基準信号発生回路1、DSS(Direct Digital Synthesizer:デジタル直接合成発振器)2、制御装置3、フィルタ4、増幅器5、ミキサ6,高周波信号発生回路7、フィルタ8、増幅器9、送受切替器10、アンテナ11、増幅器12、ミキサ13、フィルタ14、増幅器15、A/D変換器16、信号処理回路17を備えている。
【0024】
信号生成手段は、複数のチャープ変調パルス信号を生成する手段であり、基準信号発生回路1とDSS2と制御装置3とから構成されている。制御装置3は、送信されるチャープ変調パルス信号のパラメータが式(14)もしくは式(15)の条件を満たすように各チャープ変調パルス信号のパルス送信時刻、パルス幅、チャープ帯域を定める開始周波数と最終周波数を出力し、DDS2を制御する。もしくは、制御装置3はパルス送信時刻に応じて、送信されるチャープ変調パルス信号のチャープ帯域が式(16)もしくは式(17)に従うように各チャープ変調パルス信号のパルス送信時刻、パルス幅、チャープ帯域を定める開始周波数と最終周波数を出力し、DDS2を制御する。DDS2は、基準信号発生回路1が発生した基準信号と制御装置3から出力されたチャープ変調パルス信号のパルス送信時刻、パルス幅、チャープの開始周波数と最終周波数に基づきチャープ変調パルス信号を生成する。このような基準信号発生回路1〜制御装置3の動作により、信号生成手段として、レンジ誤差の変化により目標のレンジ移動を補償するように、送信されるチャープ変調パルス信号のチャープ率対搬送波周波数比を変化させながら複数のチャープ変調パルス信号を生成する。
【0025】
送信手段は、信号生成手段で生成したチャープ変調パルス信号を送信する手段であり、フィルタ4〜アンテナ11から構成されている。DDS2から出力されたチャープ変調パルス信号は、フィルタ4と増幅器5で濾波、増幅され、ミキサ6に入力される。ミキサ6が、フィルタ4と増幅器5で濾波、増幅されたチャープ変調パルス信号と高周波信号発生回路7が発生した高周波信号とを混合し、フィルタ8が所望の信号帯域を取り出すことにより、チャープ変調パルス信号の中心周波数が変換される。周波数変換されたチャープ変調パルス信号は増幅器9で増幅され、送受切替器10を通してアンテナ11から送信される。
【0026】
受信手段は、送信手段で送信した送信信号が目標で反射した反射信号を受信する手段であり、アンテナ11、送受切替器10、増幅器12、ミキサ13、高周波信号発生回路7、フィルタ14、増幅器15、A/D変換器16から構成されている。アンテナ11から送信された送信信号が目標で反射した信号はアンテナ11で受信され、送受切替器10を通り増幅器12で増幅され、ミキサ13へ入力される。ミキサ13が、増幅された反射信号と高周波信号発生回路7が発生した高周波信号とを混合し、フィルタ14が、所望の信号帯域を取り出すことにより、反射信号の中心周波数が変換される。周波数変換された反射信号はA/D変換器16でデジタル信号に変換される。
【0027】
パルス圧縮手段は、受信手段で受信した各チャープ変調パルス信号の受信信号に対して、送信したチャープ変調パルス信号と同じパルス幅とチャープ帯域のチャープ変調パルス信号を使ってパルス圧縮し、目標のレンジ移動をレンジ誤差の変化で相殺させる手段であり、信号処理回路17と制御装置3から構成されている。信号処理回路17は、A/D変換器16で変換されたデジタル信号に対して、チャープ変調パルス信号を生成する際に制御装置3から出力された各チャープ変調パルス信号のパルス送信時刻を基準にして、同じく制御装置3から出力されたパルス幅、チャープ帯域を定める開始周波数と最終周波数のチャープ変調パルス信号を使ってパルス圧縮を行い、パルス圧縮後信号を生成する。制御装置3が、送信されるチャープ変調パルス信号のチャープ帯域が式(17)に従うように各チャープ変調パルス信号のパルス送信時刻、パルス幅、チャープ帯域を定める開始周波数と最終周波数を決定している場合は、式(24)を使ってクラッタ抑圧を行いながらパルス圧縮を行い、パルス圧縮後信号を生成しても良い。DDS2で生成されたチャープ変調パルス信号とA/D変換器16で変換されたデジタル信号が中間周波数信号の場合は、それぞれベースバンド信号に変換してパルス圧縮することが望ましい。パルス圧縮後信号に対してMTIなどの処理を行っても良い。
【0028】
信号積分手段は、信号処理回路17と制御装置3から構成されている。制御装置3は送信したパルス数とパルス送信時刻を信号処理回路17に出力し、信号処理回路17は制御装置3から出力されたパルス数とパルス送信時刻に基づきパルス圧縮後信号に対してコヒーレント積分を行う。制御装置3が、搬送波周波数を変化させながら送信されるチャープ変調パルス信号のパラメータが式(14)もしくは(15)の条件を満たすように各チャープ変調パルス信号のパルス送信時刻、パルス幅、チャープ帯域を定める開始周波数と最終周波数を決定している場合は、パルス毎にドップラー周波数が変化してしまうため、信号処理回路17はインコヒーレント積分を行うことが望ましい。制御装置3が不等間隔なパルス間隔となるパルス送信時刻で、送信されるチャープ変調パルス信号のチャープ帯域が式(16)に従うように各チャープ変調パルス信号のパルス送信時刻、パルス幅、チャープ帯域を定める開始周波数と最終周波数を決定している場合は、不等間隔の離散フーリエ変換を利用して積分しても良いし、インコヒーレント積分を用いても良い。
【0029】
以上のように、実施の形態1のレーダ装置によれば、複数のチャープ変調パルス信号を生成する信号生成手段と、信号生成手段で生成したチャープ変調パルス信号を送信する送信手段と、送信手段で送信した送信信号が目標で反射した反射信号を受信する受信手段と、受信手段で受信した受信信号をパルス圧縮するパルス圧縮手段とを備え、信号生成手段は、送信されるチャープ変調パルス信号のチャープ率対搬送波周波数比を変化させながら複数のチャープ変調パルス信号を生成し、パルス圧縮手段は、各チャープ変調パルス信号の受信信号に対して、送信したチャープ変調パルス信号と同じパルス幅とチャープ帯域のチャープ変調パルス信号を使ってパルス圧縮し、目標のレンジ移動をレンジ誤差の変化で相殺させるようにしたので、任意速度で等速直線運動している目標のレンジ移動を補償することができる。
【0030】
また、実施の形態1のレーダ装置によれば、信号生成手段は、チャープ変調パルス信号のパルス幅を一定として複数のチャープ変調パルス信号を生成するようにしたので、反射強度が一定の目標に対してパルス圧縮後信号のピーク値を一定にすることができる。
【0031】
また、実施の形態1のレーダ装置によれば、信号生成手段は、送信されるチャープ変調パルス信号の搬送波として一定の周波数の搬送波を用いて、チャープ帯域を変化させながら複数のチャープ変調パルス信号を生成するようにしたので、パルス圧縮後信号のピークにおいて、ドップラ周波数とパルス送信時刻に応じた位相変化を捉えることができる。
【0032】
また、実施の形態1のレーダ装置によれば、パルス圧縮手段は、受信信号と送信信号のフーリエ成分の比に対してクラッタ抑圧処理を行いながらパルス圧縮を行うようにしたので、パルス毎にチャープ変調パルス信号のチャープ帯域を変化させる場合でも、十分なクラッタ抑圧性能を得ることができる。
【0033】
また、実施の形態1のレーダ装置によれば、複数のパルス圧縮後信号をインコヒーレント積分する信号積分手段を備えたので、レーダの感度を向上させることができる。
【0034】
また、実施の形態1のレーダ装置によれば、複数のパルス圧縮後信号をコヒーレント積分する信号積分手段を備えたので、レーダの感度を向上させることができる。
【0035】
また、実施の形態1のレーダ装置によれば、デジタル直接合成発振器を用いてチャープ変調パルス信号のチャープ帯域を変化させるようにしたので、レーダ装置としての実装を容易に行うことができる。
【0036】
実施の形態2.
実施の形態2は、実施の形態1における信号積分手段に代えて、等加速度直線運動している目標に対して効果的に信号積分を行う等加速度目標向け信号積分手段を備えている点を特徴とするものである。
目標が加速度を持っていても高速移動している場合、レーダがK個のパルスを送信する時間に、目標の速度に対して目標の速度が変化する割合は通常十分に小さいため、実施の形態1に記載のレンジ移動の補償方法は有効に働く。そのため、実施の形態1に記載の方法でレンジ移動を補償し、目標の加速度を補償して信号を積分することにより、加速度を持った目標に対しても効果的に信号積分することが可能となる。具体的には、目標の等加速度を補償する方法の例として公知のWigner−Ville分布を利用することができる。また、他の公知の加速度を補償する方法を用いても良い。Wigner−Ville分布による信号積分は次式で表される。
【0037】
【0038】
次に、図10〜図12を用いて、実施の形態2における等加速度直線運動している目標に対する信号積分の効果を説明する。目標は高速に等加速度直線運動しているとし、本発明のレーダではチャープ変調パルス信号のチャープ帯域を式(17)に従って変化させた。図10は本発明のレーダによるパルス圧縮後信号の例を示している。横軸は距離とパルス番号、縦軸はパルス圧縮後信号の振幅の絶対値である。目標は高速に等加速度運動しているが、レーダがK個のパルスを送信する時間に、目標の速度に対して目標の速度が変化する割合は十分に小さいため、レンジ移動の補償方法が有効に働きパルス圧縮後信号のピークは静止している。図11は、本発明のレーダによるパルス圧縮後信号に対するコヒーレント積分結果の例を示している。横軸は距離とドップラー周波数、縦軸はコヒーレント積分後の振幅の絶対値である。加速度によるドップラー周波数の変化により、ピークが周波数方向に広がりを持ち、信号積分ロスが発生している。それに対し、本発明のレーダによるWigner−Ville分布処理結果の例を示す図12では、ピークの周波数方向への広がりがなく、効果的に信号が積分されていることが分かる。
【0039】
等加速度目標向け信号積分手段は、実施の形態1の信号積分手段と同様に信号処理回路17と制御装置3から構成されている。制御装置3は送信したパルス数とパルス送信時刻を信号処理回路17に出力し、信号処理回路17は制御装置3から出力されたパルス数とパルス送信時刻に基づきパルス圧縮後信号に対して式(25)で表された信号積分を行う。
【0040】
以上のように、実施の形態2のレーダ装置によれば、等加速度目標に対して複数のパルス圧縮後信号を積分する等加速度目標向け信号積分手段を備えたので、加速度を持った目標に対しても効果的に信号積分することができる。
【0041】
また、実施の形態2のレーダ装置によれば、等加速度目標向け信号積分手段は、Wigner−Ville分布を用いるようにしたので、加速度を持った目標に対しても効果的に信号積分することができる。
【0042】
実施の形態3.
実施の形態3は、実施の形態1の構成に対して、複数の異なる周波数の搬送波を利用して目標の速度を推定する目標速度推定手段と、推定した目標速度からレンジ誤差を補正するレンジ誤差補正手段とを備えている点が異なる。ここでは、2つの異なる周波数fc1,fc2の搬送波を利用する場合について説明する。なお、3つ以上の異なる周波数の搬送波を利用するように容易に拡張可能である。
【0043】
目標速度を推定する方法について説明する。まず、2つの周波数の搬送波を利用する場合でも、チャープ帯域対搬送波周波数比が式(15)の条件を満たせばレンジ移動を補償できるため、搬送波周波数fcm(m=1,2)のチャープ変調パルス信号のチャープ帯域を次式に従って変化させると、任意速度で等速直線運動している目標のレンジ移動を補償でき、反射強度が一定の目標に対してパルス圧縮後信号のピーク値を一定にでき、かつ同一の搬送波周波数を持つパルス圧縮後信号のピークにおいてドップラー周波数とパルス送信時刻に応じた位相変化を捉えることができる。
ここで、B(m、k)、t(m、k)はそれぞれ搬送波周波数fcmのk番目のチャープ変調パルス信号のチャープ帯域と送信時刻である。また、B(1、1)=B、t(1、1)=0、fc=fc1、Tpはパルス幅(一定値)である。
【0044】
パルス圧縮は送信したチャープ変調パルス信号と同じパルス幅とチャープ帯域を用いて行い、同一の搬送波周波数のパルス圧縮後信号を使ってコヒーレント積分を行う。パルス圧縮時に式(24)を使ってクラッタ抑圧しても良い。
【0045】
よって、目標検出処理により検出された目標の位置から式(28)によって算出されたレンジ誤差を減じることにより、目標のレンジ誤差を補正することができる。
【0046】
信号生成手段は基準信号発生回路1とDDS2と制御装置3から構成されている。制御装置3は搬送波周波数とパルス送信時刻に応じて、送信されるチャープ変調パルス信号のチャープ帯域が式(26)に従うように各チャープ変調パルス信号のパルス送信時刻、パルス幅、チャープ帯域を定める開始周波数と最終周波数を出力し、DDS2を制御する。DDS2は基準信号発生回路1が発生した基準信号と制御装置3から出力されたチャープ変調パルス信号のパルス送信時刻、パルス幅、チャープの開始周波数と最終周波数に基づきチャープ変調パルス信号を生成する。複数の搬送波周波数の切り替えは、DDS2に入力するチャープの開始周波数と最終周波数をシフトさせることにより実現可能である。
送信手段と受信手段は、実施の形態1と同様である。
【0047】
パルス圧縮手段は信号処理回路17と制御装置3から構成されている。信号処理回路17はA/D変換器16で変換されたデジタル信号に対して、チャープ変調パルス信号を生成する際に制御装置3から出力された各チャープ変調パルス信号のパルス送信時刻を基準にして、同じく制御装置3から出力されたパルス幅、チャープ帯域を定める開始周波数と最終周波数のチャープ変調パルス信号を使ってパルス圧縮を行い、パルス圧縮後信号を生成する。式(24)を使ってクラッタ抑圧を行いながらパルス圧縮を行い、パルス圧縮後信号を生成しても良い。DDS2で生成されたチャープ変調パルス信号とA/D変換器16で変換されたデジタル信号が中間周波数信号の場合は、それぞれベースバンド信号に変換してパルス圧縮することが望ましい。パルス圧縮後信号に対してMTIなどの処理を行っても良い。
【0048】
信号積分手段は信号処理回路17と制御装置3から構成されている。制御装置3は各搬送波周波数で送信したパルス数とパルス送信時刻を信号処理回路17に出力し、信号処理回路17は制御装置3から出力された各搬送波周波数で送信されたパルス数とパルス送信時刻に基づき、同一の搬送波周波数のパルス圧縮後信号に対してコヒーレント積分を行う。
【0049】
目標速度推定手段は信号処理回路17と制御装置3から構成されている。信号処理回路17は同一の搬送波周波数のパルス圧縮後信号を使ってコヒーレント積分した各結果からCFAR等の目標検出手段によって同じ距離に検出された目標のドップラ周波数差と、制御装置3から出力された各搬送波周波数の値から式(27)によって目標速度を推定する。
【0050】
レンジ誤差補正手段は信号処理回路17と制御回路3から構成されている。信号処理回路17は、CFAR等の目標検出手段によって検出された目標の位置と推定された目標速度、制御回路3から出力された各搬送波周波数とパルス幅とチャープ帯域から、式(28)によりレンジ誤差を算出し目標の位置を補正する。
【0051】
以上のように、実施の形態3のレーダ装置によれば、信号生成手段は、送信されるチャープ変調パルス信号の搬送波として複数の異なる周波数の搬送波を用いて、チャープ帯域を変化させながら複数のチャープ変調パルス信号を生成するようにしたので、同一の搬送波周波数を持つパルス圧縮後信号のピークにおいてドップラ周波数とパルス送信時刻に応じた位相変化を捉えることができる。
【0052】
また、実施の形態3のレーダ装置によれば、同一搬送波周波数における複数のパルス圧縮後信号をコヒーレント積分する信号積分手段と、各搬送波周波数において信号積分手段でコヒーレント積分された信号から検出されるドップラ周波数の差から目標速度を推定する目標速度推定手段とを備えたので、目標速度を推定することができる。
【0053】
また、実施の形態3のレーダ装置によれば、目標速度推定手段で推定した速度を用いてレンジ誤差を補正するレンジ誤差補正手段を備えたので、目標のレンジ誤差を補正することができる。
【0054】
また、実施の形態3のレーダ装置によれば、デジタル直接合成発振器を用いてチャープ変調パルス信号の搬送波周波数を変化させるようにしたので、レーダ装置としての実装を容易にすることができる。
【0055】
なお、本発明はその発明の範囲内において、各実施の形態の自由な組み合わせ、あるいは各実施の形態の任意の構成要素の変形、もしくは各実施の形態において任意の構成要素の省略が可能である。
【符号の説明】
【0056】
1 基準信号発生回路、2 DSS(デジタル直接合成発振器)、3 制御装置、4,8,14 フィルタ、5,9,12,15 増幅器、6,13 ミキサ、7 高周波信号発生回路、10 送受切替器、11 アンテナ、16 A/D変換器、17 信号処理回路。
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速移動目標に対する感度を向上させるため、目標のレンジ移動を補償するレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
チャープパルス圧縮とパルス間コヒーレント積分を利用した、高い距離分解能を持ち高感度なレーダ装置が知られている。通常、チャープ変調パルス信号のチャープ帯域等のパラメータは各パルスで同一である。
一方、本発明の目的とは異なるが、特定の目的を達成するために、パルス毎にチャープ変調パルス信号のパラメータを変化させるレーダ装置が知られている。例えば、特許文献1に示すようなレーダ装置では、コヒーレント積分は行わないが、チャープ帯域を広くして高い距離分解能を実現する場合に、送信するチャープ変調パルス信号のパルス幅やチャープ帯域をパルス毎に制御し、グレーティングローブを抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−192783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高い距離分解能を持ち、パルス間コヒーレント積分によって高い感度を実現しているレーダ装置では、目標が高速に移動している場合、複数パルスを送信している間に目標が移動することにより発生する信号積分ロスが課題となっている。
【0005】
この発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、目標のレンジ移動を補償することのできるレーダ装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係るレーダ装置は、複数のチャープ変調パルス信号を生成する信号生成手段と、信号生成手段で生成したチャープ変調パルス信号を送信する送信手段と、送信手段で送信した送信信号が目標で反射した反射信号を受信する受信手段と、受信手段で受信した受信信号をパルス圧縮するパルス圧縮手段とを備え、信号生成手段は、送信されるチャープ変調パルス信号のチャープ率対搬送波周波数比を変化させながら複数のチャープ変調パルス信号を生成し、パルス圧縮手段は、各チャープ変調パルス信号の受信信号に対して、送信したチャープ変調パルス信号と同じパルス幅とチャープ帯域のチャープ変調パルス信号を使ってパルス圧縮し、目標のレンジ移動をレンジ誤差の変化で相殺させることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
この発明のレーダ装置は、信号生成手段が、送信されるチャープ変調パルス信号のチャープ率対搬送波周波数比を変化させながら複数のチャープ変調パルス信号を生成し、パルス圧縮手段が、各チャープ変調パルス信号の受信信号に対して、送信したチャープ変調パルス信号と同じパルス幅とチャープ帯域のチャープ変調パルス信号を使ってパルス圧縮し、目標のレンジ移動をレンジ誤差の変化で相殺させるようにしたので、任意の速度で等速直線運動する目標のレンジ移動を補償することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】パルス圧縮における遅延時間誤差を示す説明図である。
【図2】パルス圧縮におけるレンジ誤差を示す説明図である。
【図3】目標が等速直線運動している場合における、従来のレーダ装置によるパルス圧縮後信号の例を示す説明図である。
【図4】目標が等速直線運動している場合における、本発明のレーダ装置によるパルス圧縮後信号の例を示す説明図である。
【図5】目標が等速直線運動している場合における、従来のレーダ装置によるコヒーレント積分結果の例を示す説明図である。
【図6】目標が等速直線運動している場合における、本発明のレーダ装置によるコヒーレント積分結果の例を示す説明図である。
【図7】従来のレーダ装置における反射信号を受信した後の処理の例を示すフローチャートである。
【図8】本発明のレーダ装置における反射信号を受信した後の処理の例を示すフローチャートである。
【図9】本発明のレーダ装置の構成例を示すブロック図である。
【図10】本発明の実施の形態2のレーダ装置における、目標が等加速度直線運動している場合のパルス圧縮後信号の例を示す説明図である。
【図11】本発明の実施の形態2のレーダ装置における、目標が等加速度直線運動している場合のコヒーレント積分結果の例を示す説明図である。
【図12】本発明の実施の形態2のレーダ装置における、目標が等加速度直線運動している場合のWigner−Ville分布処理結果の例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
まず、周波数が線形に変化するチャープ信号を利用したパルス圧縮において、等速直線運動している目標からの反射波のドップラ周波数によって発生する遅延時間の誤差とレンジ誤差について説明する。
【0010】
チャープ変調パルス信号のチャープ帯域をB、パルス幅をTp、送信信号のキャリア周波数をfcとすると、送信するチャープ変調パルス信号は次式で表される。
【0011】
【0012】
その結果、測距結果にも次式で表されるレンジ誤差Δxが発生し、複数のパルス圧縮後信号のピーク位置は図2のようになる。
【0013】
次に、ドップラ周波数によって発生するレンジ誤差を利用し、任意速度で等速直線運動している目標のレンジ移動を補償する方法について説明する。
k番目のパルスのチャープ帯域をB(k)、パルス幅をTp(k)、キャリア周波数をfc(k)、パルス送信時刻をt(k)とする。ただし、B(1)=B、Tp(1)=Tp、fc(1)=fc、t(1)=0とする。また、パルス圧縮では、送信したチャープ変調パルス信号と同じパルス幅とチャープ帯域を使うものとする。k番目のパルスでのレンジ誤差Δx(k)は次式となる。
よって、k番目のパルスでのパルス圧縮後信号のピーク位置ρ(k)は次式となる。
目標のレンジ移動をレンジ誤差の変化で相殺させてレンジ移動を補償するためには、次式を満たすようにチャープ変調パルス信号のパラメータを設定すれば良い。
式(13)に式(2)、(11)、(12)を代入して整理すると次式が得られる。
【0014】
式(14)には速度υが含まれていないため、チャープ率対搬送波周波数比B(k)/(Tp(k)fc(k))が式(14)を満たしながら変化すると、任意速度で等速直線運動している目標に対して、式(13)が成立することになる。すなわち、チャープ率対搬送波周波数比を式(14)を満たすように変化させると、任意速度で等速直線運動している目標のレンジ移動を補償できる。
また、式(14)においてパルス幅を一定値Tpとし、次式の条件を満たすようにチャープ帯域対搬送波周波数比B(k)/fc(k)を変化させると、任意速度で等速直線運動している目標のレンジ移動を補償でき、かつ反射強度が一定の目標に対してパルス圧縮後信号のピーク値を一定にできる。
【0015】
更に、式(15)において搬送波周波数を一定値fcとし、次式に従ってチャープ帯域B(k)を変化させると、任意速度で等速直線運動している目標のレンジ移動を補償でき、反射強度が一定の目標に対してパルス圧縮後信号のピーク値を一定にでき、かつパルス圧縮後信号のピークにおいてドップラ周波数とパルス送信時刻に応じた位相変化を捉えることができる。
【0016】
図3〜図6を用いて、本発明によるレンジ移動の補償効果を説明する。目標は高速に等速直線運動しているとし、本発明のレーダではチャープ変調パルス信号のチャープ帯域を式(17)に従って変化させた。
図3及び図4は、従来のレーダ(チャープ変調パルス信号のパラメータは各パルスで同一)と本発明のレーダにおけるパルス圧縮後信号の例を示している。横軸は距離とパルス番号、縦軸はパルス圧縮後信号の振幅の絶対値である。従来のレーダでは目標の移動に合わせてパルス圧縮後信号のピークが移動しているが、本発明のレーダではパルス圧縮後信号のピークが静止している。
【0017】
図5及び図6は、従来のレーダと本発明のレーダにおけるパルス圧縮後信号に対するコヒーレント積分の結果を示している。横軸は距離とドップラ周波数、縦軸はコヒーレント積分後の振幅の絶対値である。従来のレーダでは目標のレンジ移動による信号積分ロスが発生し、ピーク値が小さくなっているが、本発明のレーダでは目標のレンジ移動を補償しているため信号積分ロスは発生していない。なお、搬送波周波数を変化させながらチャープ率対搬送波周波数比を式(14)の条件を満たすように変化させる場合と搬送波周波数を変化させながらチャープ帯域対搬送波周波数比を式(15)の条件を満たすように変化させる場合は、パルス毎にドップラ周波数が変化してしまうため、コヒーレント積分ではなくインコヒーレント積分を用いることが望ましい。パルス間隔が不等間隔でチャープ帯域を式(16)に従って変化させる場合は、不等間隔の離散フーリエ変換を利用して積分しても良いし、インコヒーレント積分を用いても良い。また、チャープ帯域を式(17)に従って変化させる場合でも、インコヒーレント積分を用いることができる。
【0018】
ここまで、パルス圧縮処理を中心に説明してきたが、従来のレーダにおける反射信号を受信した後の処理の例を示した図7のように、実際には、パルス圧縮、クラッタ抑圧、信号積分、目標検出のように処理される。ここで従来のレーダにおける反射信号を受信した後の処理を整理する。従来レーダでは、目標からの反射信号を受信した信号のベースバンド信号に対して、送信信号のベースバンド信号を使ってパルス圧縮を行う。次に、クラッタ抑圧処理として、MTI(Moving Target Indicator)などを行い、コヒーレント積分などの信号積分処理を行う。更に、目標検出処理として、CFAR(Constant False Alarm Rate)処理などを行う。
【0019】
パルス圧縮から信号積分までの処理を式を用いて説明する。送信したチャープ変調パルス信号のベースバンド信号を次式のように行列で表す。
ここで、k番目の行がk番目のパルスの送信開始時からk+1番目のパルスの送信開始前までの信号を表している。信号を送信していない時は0である。Kはパルス数、Nはパルス送信間のサンプル数である。同様に目標からの反射信号を受信した信号のベースバンド信号を次式で表す。
パルス圧縮後信号Φは次式で表される。
【0020】
【0021】
続いて、本発明のレーダにおける反射信号を受信した後の処理の例を説明する。まず、本発明のレーダにおけるクラッタ抑圧処理について説明する。本発明のレーダでも、従来のレーダと同様のクラッタ抑圧処理を行うことができるが、パルス毎にチャープ変調パルス信号のパラメータを変更するため、クラッタ抑圧効果が劣化する場合がある。そこで、逆畳み込みの考え方を応用し効果的にクラッタ抑圧を行いながら、パルス圧縮を行う処理を説明する。ただし、実際には逆畳み込みを計算する必要はない。送信信号のベースバンド信号のパルス圧縮後信号を使った、受信信号のベースバンド信号のパルス圧縮後信号の逆畳み込みは次式で表現される。
なお、Sは式(17)に従って、パルス毎にチャープ変調パルス信号のチャープ帯域を変更して生成した送信信号のベースバンド信号を表しており、Rはその送信信号の反射信号を受信した受信信号のベースバンド信号を表しているものとする。
【0022】
クラッタ抑圧を行いながらパルス圧縮を行う処理は、上記逆畳み込み結果に対してクラッタ抑圧を行い、送信信号のベースバンド信号のパルス圧縮後信号と相互相関演算を行う処理とする。クラッタ抑圧処理が2階差分のMTIの場合は次式で表現される。
ここで、W′は各パルスにおいて窓幅とチャープ帯域の比が一定となるようにした窓関数を行ベクトルで表現し、K個並べた行列である。また、Jは差分処理によるずれを補正するために使われている。式(24)の最後の等号は、実際の処理としては、受信信号のベースバンド信号と送信信号のベースバンド信号とのフーリエ成分の比に対してクラッタ抑圧処理を行い、送信信号のベースバンド信号のパルス圧縮後信号と相互相関演算を行えば良いことを示している。パルス毎にチャープ変調パルス信号のチャープ帯域を変更する場合でも、本処理によって十分なクラッタ抑圧性能を得ることができる。信号積分処理はΨに対して従来のレーダと同様の処理を行えば良く、上記のコヒーレント積分やインコヒーレント積分を使うことができる。任意速度で等速直線運動している目標のレンジ移動を補償した上で信号を積分するため、信号積分ロスを発生させずにレーダの感度を向上させることができる。目標検出処理もCFAR処理などを用いることができる。以上をまとめると、本発明のレーダにおける反射信号を受信した後の処理の例は図8のようになる。
【0023】
次に、本発明のレーダ装置の構成を説明する。
図9は実施の形態1のレーダ装置の構成図である。
図示のように、レーダ装置は、基準信号発生回路1、DSS(Direct Digital Synthesizer:デジタル直接合成発振器)2、制御装置3、フィルタ4、増幅器5、ミキサ6,高周波信号発生回路7、フィルタ8、増幅器9、送受切替器10、アンテナ11、増幅器12、ミキサ13、フィルタ14、増幅器15、A/D変換器16、信号処理回路17を備えている。
【0024】
信号生成手段は、複数のチャープ変調パルス信号を生成する手段であり、基準信号発生回路1とDSS2と制御装置3とから構成されている。制御装置3は、送信されるチャープ変調パルス信号のパラメータが式(14)もしくは式(15)の条件を満たすように各チャープ変調パルス信号のパルス送信時刻、パルス幅、チャープ帯域を定める開始周波数と最終周波数を出力し、DDS2を制御する。もしくは、制御装置3はパルス送信時刻に応じて、送信されるチャープ変調パルス信号のチャープ帯域が式(16)もしくは式(17)に従うように各チャープ変調パルス信号のパルス送信時刻、パルス幅、チャープ帯域を定める開始周波数と最終周波数を出力し、DDS2を制御する。DDS2は、基準信号発生回路1が発生した基準信号と制御装置3から出力されたチャープ変調パルス信号のパルス送信時刻、パルス幅、チャープの開始周波数と最終周波数に基づきチャープ変調パルス信号を生成する。このような基準信号発生回路1〜制御装置3の動作により、信号生成手段として、レンジ誤差の変化により目標のレンジ移動を補償するように、送信されるチャープ変調パルス信号のチャープ率対搬送波周波数比を変化させながら複数のチャープ変調パルス信号を生成する。
【0025】
送信手段は、信号生成手段で生成したチャープ変調パルス信号を送信する手段であり、フィルタ4〜アンテナ11から構成されている。DDS2から出力されたチャープ変調パルス信号は、フィルタ4と増幅器5で濾波、増幅され、ミキサ6に入力される。ミキサ6が、フィルタ4と増幅器5で濾波、増幅されたチャープ変調パルス信号と高周波信号発生回路7が発生した高周波信号とを混合し、フィルタ8が所望の信号帯域を取り出すことにより、チャープ変調パルス信号の中心周波数が変換される。周波数変換されたチャープ変調パルス信号は増幅器9で増幅され、送受切替器10を通してアンテナ11から送信される。
【0026】
受信手段は、送信手段で送信した送信信号が目標で反射した反射信号を受信する手段であり、アンテナ11、送受切替器10、増幅器12、ミキサ13、高周波信号発生回路7、フィルタ14、増幅器15、A/D変換器16から構成されている。アンテナ11から送信された送信信号が目標で反射した信号はアンテナ11で受信され、送受切替器10を通り増幅器12で増幅され、ミキサ13へ入力される。ミキサ13が、増幅された反射信号と高周波信号発生回路7が発生した高周波信号とを混合し、フィルタ14が、所望の信号帯域を取り出すことにより、反射信号の中心周波数が変換される。周波数変換された反射信号はA/D変換器16でデジタル信号に変換される。
【0027】
パルス圧縮手段は、受信手段で受信した各チャープ変調パルス信号の受信信号に対して、送信したチャープ変調パルス信号と同じパルス幅とチャープ帯域のチャープ変調パルス信号を使ってパルス圧縮し、目標のレンジ移動をレンジ誤差の変化で相殺させる手段であり、信号処理回路17と制御装置3から構成されている。信号処理回路17は、A/D変換器16で変換されたデジタル信号に対して、チャープ変調パルス信号を生成する際に制御装置3から出力された各チャープ変調パルス信号のパルス送信時刻を基準にして、同じく制御装置3から出力されたパルス幅、チャープ帯域を定める開始周波数と最終周波数のチャープ変調パルス信号を使ってパルス圧縮を行い、パルス圧縮後信号を生成する。制御装置3が、送信されるチャープ変調パルス信号のチャープ帯域が式(17)に従うように各チャープ変調パルス信号のパルス送信時刻、パルス幅、チャープ帯域を定める開始周波数と最終周波数を決定している場合は、式(24)を使ってクラッタ抑圧を行いながらパルス圧縮を行い、パルス圧縮後信号を生成しても良い。DDS2で生成されたチャープ変調パルス信号とA/D変換器16で変換されたデジタル信号が中間周波数信号の場合は、それぞれベースバンド信号に変換してパルス圧縮することが望ましい。パルス圧縮後信号に対してMTIなどの処理を行っても良い。
【0028】
信号積分手段は、信号処理回路17と制御装置3から構成されている。制御装置3は送信したパルス数とパルス送信時刻を信号処理回路17に出力し、信号処理回路17は制御装置3から出力されたパルス数とパルス送信時刻に基づきパルス圧縮後信号に対してコヒーレント積分を行う。制御装置3が、搬送波周波数を変化させながら送信されるチャープ変調パルス信号のパラメータが式(14)もしくは(15)の条件を満たすように各チャープ変調パルス信号のパルス送信時刻、パルス幅、チャープ帯域を定める開始周波数と最終周波数を決定している場合は、パルス毎にドップラー周波数が変化してしまうため、信号処理回路17はインコヒーレント積分を行うことが望ましい。制御装置3が不等間隔なパルス間隔となるパルス送信時刻で、送信されるチャープ変調パルス信号のチャープ帯域が式(16)に従うように各チャープ変調パルス信号のパルス送信時刻、パルス幅、チャープ帯域を定める開始周波数と最終周波数を決定している場合は、不等間隔の離散フーリエ変換を利用して積分しても良いし、インコヒーレント積分を用いても良い。
【0029】
以上のように、実施の形態1のレーダ装置によれば、複数のチャープ変調パルス信号を生成する信号生成手段と、信号生成手段で生成したチャープ変調パルス信号を送信する送信手段と、送信手段で送信した送信信号が目標で反射した反射信号を受信する受信手段と、受信手段で受信した受信信号をパルス圧縮するパルス圧縮手段とを備え、信号生成手段は、送信されるチャープ変調パルス信号のチャープ率対搬送波周波数比を変化させながら複数のチャープ変調パルス信号を生成し、パルス圧縮手段は、各チャープ変調パルス信号の受信信号に対して、送信したチャープ変調パルス信号と同じパルス幅とチャープ帯域のチャープ変調パルス信号を使ってパルス圧縮し、目標のレンジ移動をレンジ誤差の変化で相殺させるようにしたので、任意速度で等速直線運動している目標のレンジ移動を補償することができる。
【0030】
また、実施の形態1のレーダ装置によれば、信号生成手段は、チャープ変調パルス信号のパルス幅を一定として複数のチャープ変調パルス信号を生成するようにしたので、反射強度が一定の目標に対してパルス圧縮後信号のピーク値を一定にすることができる。
【0031】
また、実施の形態1のレーダ装置によれば、信号生成手段は、送信されるチャープ変調パルス信号の搬送波として一定の周波数の搬送波を用いて、チャープ帯域を変化させながら複数のチャープ変調パルス信号を生成するようにしたので、パルス圧縮後信号のピークにおいて、ドップラ周波数とパルス送信時刻に応じた位相変化を捉えることができる。
【0032】
また、実施の形態1のレーダ装置によれば、パルス圧縮手段は、受信信号と送信信号のフーリエ成分の比に対してクラッタ抑圧処理を行いながらパルス圧縮を行うようにしたので、パルス毎にチャープ変調パルス信号のチャープ帯域を変化させる場合でも、十分なクラッタ抑圧性能を得ることができる。
【0033】
また、実施の形態1のレーダ装置によれば、複数のパルス圧縮後信号をインコヒーレント積分する信号積分手段を備えたので、レーダの感度を向上させることができる。
【0034】
また、実施の形態1のレーダ装置によれば、複数のパルス圧縮後信号をコヒーレント積分する信号積分手段を備えたので、レーダの感度を向上させることができる。
【0035】
また、実施の形態1のレーダ装置によれば、デジタル直接合成発振器を用いてチャープ変調パルス信号のチャープ帯域を変化させるようにしたので、レーダ装置としての実装を容易に行うことができる。
【0036】
実施の形態2.
実施の形態2は、実施の形態1における信号積分手段に代えて、等加速度直線運動している目標に対して効果的に信号積分を行う等加速度目標向け信号積分手段を備えている点を特徴とするものである。
目標が加速度を持っていても高速移動している場合、レーダがK個のパルスを送信する時間に、目標の速度に対して目標の速度が変化する割合は通常十分に小さいため、実施の形態1に記載のレンジ移動の補償方法は有効に働く。そのため、実施の形態1に記載の方法でレンジ移動を補償し、目標の加速度を補償して信号を積分することにより、加速度を持った目標に対しても効果的に信号積分することが可能となる。具体的には、目標の等加速度を補償する方法の例として公知のWigner−Ville分布を利用することができる。また、他の公知の加速度を補償する方法を用いても良い。Wigner−Ville分布による信号積分は次式で表される。
【0037】
【0038】
次に、図10〜図12を用いて、実施の形態2における等加速度直線運動している目標に対する信号積分の効果を説明する。目標は高速に等加速度直線運動しているとし、本発明のレーダではチャープ変調パルス信号のチャープ帯域を式(17)に従って変化させた。図10は本発明のレーダによるパルス圧縮後信号の例を示している。横軸は距離とパルス番号、縦軸はパルス圧縮後信号の振幅の絶対値である。目標は高速に等加速度運動しているが、レーダがK個のパルスを送信する時間に、目標の速度に対して目標の速度が変化する割合は十分に小さいため、レンジ移動の補償方法が有効に働きパルス圧縮後信号のピークは静止している。図11は、本発明のレーダによるパルス圧縮後信号に対するコヒーレント積分結果の例を示している。横軸は距離とドップラー周波数、縦軸はコヒーレント積分後の振幅の絶対値である。加速度によるドップラー周波数の変化により、ピークが周波数方向に広がりを持ち、信号積分ロスが発生している。それに対し、本発明のレーダによるWigner−Ville分布処理結果の例を示す図12では、ピークの周波数方向への広がりがなく、効果的に信号が積分されていることが分かる。
【0039】
等加速度目標向け信号積分手段は、実施の形態1の信号積分手段と同様に信号処理回路17と制御装置3から構成されている。制御装置3は送信したパルス数とパルス送信時刻を信号処理回路17に出力し、信号処理回路17は制御装置3から出力されたパルス数とパルス送信時刻に基づきパルス圧縮後信号に対して式(25)で表された信号積分を行う。
【0040】
以上のように、実施の形態2のレーダ装置によれば、等加速度目標に対して複数のパルス圧縮後信号を積分する等加速度目標向け信号積分手段を備えたので、加速度を持った目標に対しても効果的に信号積分することができる。
【0041】
また、実施の形態2のレーダ装置によれば、等加速度目標向け信号積分手段は、Wigner−Ville分布を用いるようにしたので、加速度を持った目標に対しても効果的に信号積分することができる。
【0042】
実施の形態3.
実施の形態3は、実施の形態1の構成に対して、複数の異なる周波数の搬送波を利用して目標の速度を推定する目標速度推定手段と、推定した目標速度からレンジ誤差を補正するレンジ誤差補正手段とを備えている点が異なる。ここでは、2つの異なる周波数fc1,fc2の搬送波を利用する場合について説明する。なお、3つ以上の異なる周波数の搬送波を利用するように容易に拡張可能である。
【0043】
目標速度を推定する方法について説明する。まず、2つの周波数の搬送波を利用する場合でも、チャープ帯域対搬送波周波数比が式(15)の条件を満たせばレンジ移動を補償できるため、搬送波周波数fcm(m=1,2)のチャープ変調パルス信号のチャープ帯域を次式に従って変化させると、任意速度で等速直線運動している目標のレンジ移動を補償でき、反射強度が一定の目標に対してパルス圧縮後信号のピーク値を一定にでき、かつ同一の搬送波周波数を持つパルス圧縮後信号のピークにおいてドップラー周波数とパルス送信時刻に応じた位相変化を捉えることができる。
ここで、B(m、k)、t(m、k)はそれぞれ搬送波周波数fcmのk番目のチャープ変調パルス信号のチャープ帯域と送信時刻である。また、B(1、1)=B、t(1、1)=0、fc=fc1、Tpはパルス幅(一定値)である。
【0044】
パルス圧縮は送信したチャープ変調パルス信号と同じパルス幅とチャープ帯域を用いて行い、同一の搬送波周波数のパルス圧縮後信号を使ってコヒーレント積分を行う。パルス圧縮時に式(24)を使ってクラッタ抑圧しても良い。
【0045】
よって、目標検出処理により検出された目標の位置から式(28)によって算出されたレンジ誤差を減じることにより、目標のレンジ誤差を補正することができる。
【0046】
信号生成手段は基準信号発生回路1とDDS2と制御装置3から構成されている。制御装置3は搬送波周波数とパルス送信時刻に応じて、送信されるチャープ変調パルス信号のチャープ帯域が式(26)に従うように各チャープ変調パルス信号のパルス送信時刻、パルス幅、チャープ帯域を定める開始周波数と最終周波数を出力し、DDS2を制御する。DDS2は基準信号発生回路1が発生した基準信号と制御装置3から出力されたチャープ変調パルス信号のパルス送信時刻、パルス幅、チャープの開始周波数と最終周波数に基づきチャープ変調パルス信号を生成する。複数の搬送波周波数の切り替えは、DDS2に入力するチャープの開始周波数と最終周波数をシフトさせることにより実現可能である。
送信手段と受信手段は、実施の形態1と同様である。
【0047】
パルス圧縮手段は信号処理回路17と制御装置3から構成されている。信号処理回路17はA/D変換器16で変換されたデジタル信号に対して、チャープ変調パルス信号を生成する際に制御装置3から出力された各チャープ変調パルス信号のパルス送信時刻を基準にして、同じく制御装置3から出力されたパルス幅、チャープ帯域を定める開始周波数と最終周波数のチャープ変調パルス信号を使ってパルス圧縮を行い、パルス圧縮後信号を生成する。式(24)を使ってクラッタ抑圧を行いながらパルス圧縮を行い、パルス圧縮後信号を生成しても良い。DDS2で生成されたチャープ変調パルス信号とA/D変換器16で変換されたデジタル信号が中間周波数信号の場合は、それぞれベースバンド信号に変換してパルス圧縮することが望ましい。パルス圧縮後信号に対してMTIなどの処理を行っても良い。
【0048】
信号積分手段は信号処理回路17と制御装置3から構成されている。制御装置3は各搬送波周波数で送信したパルス数とパルス送信時刻を信号処理回路17に出力し、信号処理回路17は制御装置3から出力された各搬送波周波数で送信されたパルス数とパルス送信時刻に基づき、同一の搬送波周波数のパルス圧縮後信号に対してコヒーレント積分を行う。
【0049】
目標速度推定手段は信号処理回路17と制御装置3から構成されている。信号処理回路17は同一の搬送波周波数のパルス圧縮後信号を使ってコヒーレント積分した各結果からCFAR等の目標検出手段によって同じ距離に検出された目標のドップラ周波数差と、制御装置3から出力された各搬送波周波数の値から式(27)によって目標速度を推定する。
【0050】
レンジ誤差補正手段は信号処理回路17と制御回路3から構成されている。信号処理回路17は、CFAR等の目標検出手段によって検出された目標の位置と推定された目標速度、制御回路3から出力された各搬送波周波数とパルス幅とチャープ帯域から、式(28)によりレンジ誤差を算出し目標の位置を補正する。
【0051】
以上のように、実施の形態3のレーダ装置によれば、信号生成手段は、送信されるチャープ変調パルス信号の搬送波として複数の異なる周波数の搬送波を用いて、チャープ帯域を変化させながら複数のチャープ変調パルス信号を生成するようにしたので、同一の搬送波周波数を持つパルス圧縮後信号のピークにおいてドップラ周波数とパルス送信時刻に応じた位相変化を捉えることができる。
【0052】
また、実施の形態3のレーダ装置によれば、同一搬送波周波数における複数のパルス圧縮後信号をコヒーレント積分する信号積分手段と、各搬送波周波数において信号積分手段でコヒーレント積分された信号から検出されるドップラ周波数の差から目標速度を推定する目標速度推定手段とを備えたので、目標速度を推定することができる。
【0053】
また、実施の形態3のレーダ装置によれば、目標速度推定手段で推定した速度を用いてレンジ誤差を補正するレンジ誤差補正手段を備えたので、目標のレンジ誤差を補正することができる。
【0054】
また、実施の形態3のレーダ装置によれば、デジタル直接合成発振器を用いてチャープ変調パルス信号の搬送波周波数を変化させるようにしたので、レーダ装置としての実装を容易にすることができる。
【0055】
なお、本発明はその発明の範囲内において、各実施の形態の自由な組み合わせ、あるいは各実施の形態の任意の構成要素の変形、もしくは各実施の形態において任意の構成要素の省略が可能である。
【符号の説明】
【0056】
1 基準信号発生回路、2 DSS(デジタル直接合成発振器)、3 制御装置、4,8,14 フィルタ、5,9,12,15 増幅器、6,13 ミキサ、7 高周波信号発生回路、10 送受切替器、11 アンテナ、16 A/D変換器、17 信号処理回路。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のチャープ変調パルス信号を生成する信号生成手段と、
前記信号生成手段で生成したチャープ変調パルス信号を送信する送信手段と、
前記送信手段で送信した送信信号が目標で反射した反射信号を受信する受信手段と、
前記受信手段で受信した受信信号をパルス圧縮するパルス圧縮手段とを備え、
前記信号生成手段は、送信されるチャープ変調パルス信号のチャープ率対搬送波周波数比を変化させながら複数のチャープ変調パルス信号を生成し、
前記パルス圧縮手段は、各チャープ変調パルス信号の受信信号に対して、送信したチャープ変調パルス信号と同じパルス幅とチャープ帯域のチャープ変調パルス信号を使ってパルス圧縮し、目標のレンジ移動をレンジ誤差の変化で相殺させることを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
信号生成手段は、チャープ変調パルス信号のパルス幅を一定として複数のチャープ変調パルス信号を生成することを特徴とする請求項1記載のレーダ装置。
【請求項3】
信号生成手段は、送信されるチャープ変調パルス信号の搬送波として複数の周波数の搬送波を用いて、チャープ帯域を変化させながら複数のチャープ変調パルス信号を生成することを特徴とする請求項2記載のレーダ装置。
【請求項4】
信号生成手段は、送信されるチャープ変調パルス信号の搬送波として一定の周波数の搬送波を用いて、チャープ帯域を変化させながら複数のチャープ変調パルス信号を生成することを特徴とする請求項2記載のレーダ装置。
【請求項5】
パルス圧縮手段は、受信信号と送信信号のフーリエ成分の比に対してクラッタ抑圧処理を行いながらパルス圧縮を行うことを特徴とする請求項1記載のレーダ装置。
【請求項6】
複数のパルス圧縮後信号をインコヒーレント積分する信号積分手段を備えたことを特徴とする請求項1から請求項5のうちのいずれか1項記載のレーダ装置。
【請求項7】
同一搬送波周波数における複数のパルス圧縮後信号をコヒーレント積分する信号積分手段と、
各搬送波周波数において信号積分手段でコヒーレント積分された信号から検出されるドップラ周波数の差から目標速度を推定する目標速度推定手段とを備えたことを特徴とする請求項3記載のレーダ装置。
【請求項8】
目標速度推定手段で推定した速度を用いてレンジ誤差を補正するレンジ誤差補正手段を備えたことを特徴とする請求項7記載のレーダ装置。
【請求項9】
複数のパルス圧縮後信号をコヒーレント積分する信号積分手段を備えたことを特徴とする請求項1と請求項2と請求項4と請求項5のうちのいずれか1項記載のレーダ装置。
【請求項10】
等加速度目標に対して複数のパルス圧縮後信号を積分する等加速度目標向け信号積分手段を備えたことを特徴とする請求項1と請求項2と請求項4と請求項5のうちのいずれか1項記載のレーダ装置。
【請求項11】
等加速度目標向け信号積分手段は、Wigner−Ville分布を用いることを特徴とする請求項10記載のレーダ装置。
【請求項12】
デジタル直接合成発振器を用いてチャープ変調パルス信号のチャープ帯域を変化させることを特徴とする請求項1から請求項11のうちのいずれか1項記載のレーダ装置。
【請求項13】
デジタル直接合成発振器を用いてチャープ変調パルス信号の搬送波周波数を変化させることを特徴とする請求項3と請求項7と請求項8のうちのいずれか1項記載のレーダ装置。
【請求項1】
複数のチャープ変調パルス信号を生成する信号生成手段と、
前記信号生成手段で生成したチャープ変調パルス信号を送信する送信手段と、
前記送信手段で送信した送信信号が目標で反射した反射信号を受信する受信手段と、
前記受信手段で受信した受信信号をパルス圧縮するパルス圧縮手段とを備え、
前記信号生成手段は、送信されるチャープ変調パルス信号のチャープ率対搬送波周波数比を変化させながら複数のチャープ変調パルス信号を生成し、
前記パルス圧縮手段は、各チャープ変調パルス信号の受信信号に対して、送信したチャープ変調パルス信号と同じパルス幅とチャープ帯域のチャープ変調パルス信号を使ってパルス圧縮し、目標のレンジ移動をレンジ誤差の変化で相殺させることを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
信号生成手段は、チャープ変調パルス信号のパルス幅を一定として複数のチャープ変調パルス信号を生成することを特徴とする請求項1記載のレーダ装置。
【請求項3】
信号生成手段は、送信されるチャープ変調パルス信号の搬送波として複数の周波数の搬送波を用いて、チャープ帯域を変化させながら複数のチャープ変調パルス信号を生成することを特徴とする請求項2記載のレーダ装置。
【請求項4】
信号生成手段は、送信されるチャープ変調パルス信号の搬送波として一定の周波数の搬送波を用いて、チャープ帯域を変化させながら複数のチャープ変調パルス信号を生成することを特徴とする請求項2記載のレーダ装置。
【請求項5】
パルス圧縮手段は、受信信号と送信信号のフーリエ成分の比に対してクラッタ抑圧処理を行いながらパルス圧縮を行うことを特徴とする請求項1記載のレーダ装置。
【請求項6】
複数のパルス圧縮後信号をインコヒーレント積分する信号積分手段を備えたことを特徴とする請求項1から請求項5のうちのいずれか1項記載のレーダ装置。
【請求項7】
同一搬送波周波数における複数のパルス圧縮後信号をコヒーレント積分する信号積分手段と、
各搬送波周波数において信号積分手段でコヒーレント積分された信号から検出されるドップラ周波数の差から目標速度を推定する目標速度推定手段とを備えたことを特徴とする請求項3記載のレーダ装置。
【請求項8】
目標速度推定手段で推定した速度を用いてレンジ誤差を補正するレンジ誤差補正手段を備えたことを特徴とする請求項7記載のレーダ装置。
【請求項9】
複数のパルス圧縮後信号をコヒーレント積分する信号積分手段を備えたことを特徴とする請求項1と請求項2と請求項4と請求項5のうちのいずれか1項記載のレーダ装置。
【請求項10】
等加速度目標に対して複数のパルス圧縮後信号を積分する等加速度目標向け信号積分手段を備えたことを特徴とする請求項1と請求項2と請求項4と請求項5のうちのいずれか1項記載のレーダ装置。
【請求項11】
等加速度目標向け信号積分手段は、Wigner−Ville分布を用いることを特徴とする請求項10記載のレーダ装置。
【請求項12】
デジタル直接合成発振器を用いてチャープ変調パルス信号のチャープ帯域を変化させることを特徴とする請求項1から請求項11のうちのいずれか1項記載のレーダ装置。
【請求項13】
デジタル直接合成発振器を用いてチャープ変調パルス信号の搬送波周波数を変化させることを特徴とする請求項3と請求項7と請求項8のうちのいずれか1項記載のレーダ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−88140(P2012−88140A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−234408(P2010−234408)
【出願日】平成22年10月19日(2010.10.19)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月19日(2010.10.19)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
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