説明

レール継目検出器および軌道検測車のレール継目位置検出装置

【課題】
小型で天候に左右されずにレールとの継目が高い精度で検出できる軌道検測車のレール継目検出器およびレール継目位置検出装置を提供することにある。
【解決手段】
この発明は、レールの頭部の上部に対応して軌道検測車等の車輌に設けられ隣接して配置され相互に逆方向に巻かれた第1、第2の空芯コイルと、第1、第2の空芯コイルにバイアス電流を流してこれら空芯コイルのインダクタンスの変化に対応する第1、第2の検出信号を得る検出回路とを備えていて、第1の検出信号と第2の検出信号のレベルの差に基づいてレール継目の検出信号を得るものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、レール継目検出器および軌道検測車のレール継目位置検出装置に関し、詳しくは、軌道検測車に搭載され、検測データの測定位置の参考位置データとされるレールとレールとの継目を検出するレール継目検出器において、小型で天候に左右されずにレールの継目が高い精度で検出できるレール継目検出器の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
列車の運行の安全を確保するために、レール間が基準ゲージの軌道間隔あるいはその許容範囲の間隔にあるか否かが、軌道検測車に搭載したレール変位量測定装置により定期的に測定されている。
従来のレール変位量測定装置としては、光学的レール変位量検出器を軌道検測車に搭載して測定する技術が公知である(特許文献1)。これのレール変位量測定装置は、投光器と受光器の角度調整を容易にして調整の手間を低減するものである。
光学的レール変位量検出器の投光器と受光器は、それぞれ密閉となる筐体に納められ、レンズと、ミラー、保護ガラス板の光透過窓等を介して光を通す構造となっている。さらに、この筐体には、筐体を保護するためにフードが設けられる。
このような構造を採らないと、この検出器が軌道検測車の走行車輪の近傍でレールに対して内側の車体の台車よりも低い位置に設置されるので、軌道検測車が走行中に外部から物や塵埃、雨水、雪などが筐体内部に飛び込み、あるいはそれにより投光器あるいは受光器が破壊されたり、調整ずれを起こし、それにより高精度なレール変位量を得ることが阻害されるからである。
【特許文献1】特開平11−344304号公報
【0003】
この光学的レール変位量検出器にあっては、同時にレールとレールとの継目を示す信号も得られるが、それは、継目そのものが検出されるものではなく、レールとレールとを結合する継目接続板が検出されるものであって、その検出信号は、継目検出が一部で欠けたり、未検出領域が発生するので、単に測定位置がずれたときの位置超過を検出する参考データとされているだけである。
なお、継目の長さが適切であるか否かを点検するために、レーザ光を照射して継目板の位置に照射して継目板そのものを検出する技術が公知である(特許文献2)。
【特許文献2】特開2001−280918号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、検測データの測定位置の精度の向上が要求され、距離パルスの波長(発生周期)も短くなり、100mm/P以下になってきている。そうなると、参考データとして検出されていた継目も精度の高いものが要求され、継目そのものの検出欠落と未検出領域をなくすような要請がある。
一方、レール上を走行する軌道検測車に搭載されるこの種のセンサは、非接触形のセンサであることが好ましい。なお、特許文献2の従来技術として継目そのものを検出する技術も記載されている。
図6は、継目自体を検出するそのレールにおける継目検出装置(遊間検出装置)の説明図である。
1は、前記と同様なレール継目検出器であって、図6に示すように、軌道検測車2の台車2aの下側に設けられる。2b,2bは、台車2aの下側に設けられた車輪である。
レール継目検出器1は、レール3とレール4との間の継目5の反射光の欠落を受けて継目5の位置を光学的に検出する。なお、6は、レール3とレール4とを連結(接続)する継目板である。
しかし、参考データとして継目を検出する継目検出器1を光学的レール変位量検出器と同様な全天候形にすると、大きなものとなり、高価な構造になる。しかも、レールとレールとの間の継目の幅が小さくなっていると、検出信号の欠落が発生する。さらに、軌道検測車にこのような全天候形の光学的な検出器を搭載すると、その分、保守や点検等の工数が増加する問題がある。
この場合の非接触形のセンサとして電磁式センサが考えられるが、レール頭部とセンサとの距離を3cm前後確保しなければならない関係から信号レベルが低下して、継目板は検出されるものの継目そのものの検出は難しく、かつ、未検出領域を低減しあるいはそれをなくす要請には十分応えきれない問題がある。
この発明の目的は、このような従来技術の問題点を解決するものであり、小型で天候に左右されずにレールとの継目が高い精度で検出できるレール継目検出器および軌道検測車のレール継目位置検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような目的を達成するためのこの発明のレール継目検出器および軌道検測車のレール継目位置検出装置の特徴は、レールとレールとの継目を検出する軌道検測車あるいは点検車等の車輌のレール継目検出器において、
レールの頭部の上部に対応して軌道検測車あるいは点検車等の車輌に設けられ隣接して配置され相互に逆方向に巻かれた第1、第2の空芯コイルと、これら第1、第2の空芯コイルを収納したケースと、第1、第2の空芯コイルにバイアス電流を流してこれら空芯コイルのインダクタンスの変化に対応する第1、第2の検出信号を得る検出回路とを備えていて、第1の検出信号と第2の検出信号のレベルの差に基づいてレール継目の検出信号を得るものである。
【発明の効果】
【0006】
このように、この発明にあっては、逆方向に巻かれた第1、第2の空芯コイルにバイアス電流を流してこれら空芯コイルのインダクタンスの変化に対応する第1、第2の検出信号を得て、それぞれの検出信号の差によりレール継目を検出するようにしているので、ノイズが乗ってもノイズがキャンセルされた検出信号を得ることができ、これら2つの空芯コイルの差分を採ることで大きなレベルの検出信号を得ることができる。
さらに、センサ部がケースに収納された2つの空芯コイルとなっているので軌道検測車が走行中にセンサ部に外部から物や塵埃、雨水、雪などが飛び込むことはほとんどなく、たとえ、これらのものが侵入したとしても鉄等の磁性材料でないかぎり、検出信号を乱すことはなく、センサ部がコイルであるのでこれら異物の侵入に対する耐性が高い。特に、密閉ケースにすれば、このような異物の侵入の問題は回避される。
その結果、小型で天候に左右されずにレールとの継目が高い精度で検出できる軌道検測車のレール継目検出器を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
図1は、この発明の軌道検測車のレール継目検出器を適用した一実施例のレール継目検出器の説明図であり、図2は、その検出回路と検出装置の説明図、図3は、検出波形の説明図、図4は、継目検出処理の説明図、そして、図5は、検測車におけるレール継目検出器の設置位置についての説明図である。なお、図6に対応する構成要素と同一のものは、各図において同一の符号で示す。
図1において、10は、レール継目検出器であって、11は、ケース12に内蔵されたレール継目検出器10の電磁センサであり、20は、その検出回路である。電磁センサ11は、相互に逆方向に巻かれ、一辺が隣接して配置された巻き形が三角形の2つの空芯コイル11a、11bからなる。これを内装するケース12は、合成樹脂等の非磁性材料で構成され、空芯コイル11a、11bの中心Oa,Obをずらせて樹脂充填された完全密閉状態で固定するものであって、図5に示すように、軌道検測車2の台車2aからブラケット13を介してレール3あるいはレール4の頭部表面から所定距離、例えば、3cm前後離れて、2本のうち片側のレールに対応して配置される。そして、図5のレール3とレール4との間にある継目6aを検出する。
【0008】
空芯コイル11a、11bとは巻き方は、相互に逆方向になっているので、検出信号も相互に逆位相になる。そのため、信号にノイズが乗っても相殺される。さらに、レール3,4の頭部の幅は、通常、65mm程度であるが、図1に示すように、ケース12により固定される電磁センサ11の空芯コイル11aの中心Oaは、レール3,4の頭部の中心線Oに対応して配置され、空芯コイル11bの中心Obは、レール3,4の頭部の中心線Oより10mm程度外側にずれてレール3,4に対応するように設置されている。
空芯コイル11bの中心Obを中心線Oから外側にずらせる理由は、レールにはカーブがあるので、このときに軌道検測車2が内側にシフトしたときに中心Obが必要以上に内側にずれることで空芯コイル11a、11bが共に外れて電磁センサ11の検出信号が得られなくなることを防止したものである。なお、軌道検測車2の外側へのずれは、車輪のフランジで阻止され、大きくずれることはない。
【0009】
図2は、その検出回路と検出装置の説明図であって、検出回路20は、逆方向に巻かれた空芯コイル11a、11bをそれぞれ受ける差動増幅器21a,21bと、空芯コイル11a、11bにバイアス電流を流すバイアス回路22、差動増幅器21a,21bの信号を所定の距離パルスPLに応じてA/D変換回路(A/D)23a,23bとからなり、A/D23a,23bを介して検出信号をデジタル値に変換してデータ処理装置25に送出するものである。
なお、バイアス回路22は、抵抗R1〜R4と定電圧電源回路22aとからなり、空芯コイル11a、11bにそれぞれバイアス電流を流す回路である。
レールの継目6aの部分では、継目板6とレールとレールの間隙とに応じて空芯コイル11a、11bのインダクタンスが変化し、それに応じた電圧が空芯コイル11a、11bの端子に発生するので差動増幅器21a,21bにそれに応じた検出信号を得ることができる。
距離パルスPLは、車輪2bの回転に応じて発生するパルスであって、距離パルス発生回路24により生成され、45mm走行に1個発生する45mm/Pの波長(周期)のパルス信号である。
データ処理装置25は、MPU26とメモリ27、インタフェース28、そしてこれらを接続するバス29等とを有し、距離パルスPLと、これに対応してA/D変換された差動増幅器21a,21bの信号をインタフェース28を介して測定データとして受けてこれらの差演算等をする。
なお、検出回路20と距離パルス発生回路24、そしてデータ処理装置25とは軌道検測車2に搭載されている。
【0010】
図3(a)は、差動増幅器21a,21bのデジタル値をそれぞれグラフ化したデータ処理装置25における測定データであり、BLaが差動増幅器21aの測定データ、BLbが差動増幅器21bの測定データである。長○で示す部分がレール継目位置(継目6aの位置)の検出信号であり、その前後で波形に凹凸の波があるのは、継目板6によるものである。なお、横軸は、距離パルスPLによるサンプル数、縦軸は電圧[mV]である。BLbの波形が小さいのは、空芯コイル11bがレール中心Oより10mmずれているからである。また、横軸の距離パルスPLによるサンプル数は、軌道検測車2の走行距離に対応している。
そして、データ処理装置25において、これら測定データの差BLa−BLbの演算した結果が図3(b)のグラフBLa−BLbである。これにより、レール継目位置の検出信号DLは、大きな波形の検出信号として得ることができる。しかし、軌道検測車2は、上下左右に揺れて走行するので、それによる検出波形の変動も大きい。
そこで、さらに、これに所定のサンプル区間を設定して所定のサンプル数について1サンプルデータ毎に追加し、先頭の1サンプルデータを消去した移動平均を採ると、図4(a)のような特性グラフ(BLa−BLb)mを得ることができる。
DLがレール継目位置検出信号である。図4(b)に示すように、これにスライスレベルTH(閾値)を設定して検出信号DLを検出することで、図4(c)に示すレール継目位置信号DPを得ることができる。
【0011】
なお、距離パルスPLからレール継目位置(継目6aの位置)を所定の範囲で含むゲートを設定してレール継目位置信号DPを抽出するようにすれば、検測車の走行途中で発生する各種のノイズが除去され、レール継目位置を高精度に検出することができる。
以上の処理をするために、図2に示すように、データ処理装置25のメモリ27には、測定データBLa,BLbの差算出プログラム、移動平均値算出プログラム、閾値設定・レール継目位置検出プログラム等が格納され、MPU26によりこれらプログラムが順次実行される。
なお、前記の検出信号DLの検出位置は、距離パルスPLによるサンプル数に応じて算出された軌道検測車2の走行距離に対応して継目位置(継目6aの位置)の測定データとして外部記憶装置等に記憶される。
【0012】
以上説明してきたが、実施例の電磁センサの空芯コイルの形状は一例であって、円形の空芯コイルであってもよいことはもちろんである。また、このコイルを内蔵する電磁センサを搭載する車輌は、軌道検測車に限定されるものではなく、点検車等であってもよい。
また、実施例では、ケース12は、樹脂充填の密閉形のものとしているが、これは、一部が開放されたケースであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、この発明の軌道検測車のレール継目検出器を適用した一実施例のレール継目検出器の説明図である。
【図2】図2は、その検出回路と検出装置の説明図である。
【図3】図3は、検出波形の説明図である。
【図4】図4は、継目検出処理の説明図である。
【図5】図5は、検測車におけるレール継目検出器の設置位置についての説明図である。
【図6】図6は、光学的レール継目検出器の一例の説明図である。
【符号の説明】
【0014】
1,10…レール継目検出器、2…軌道検測車、2a…台車、
3,4…レール、5…継目、6…継目板、
6a…継目、11…電磁センサ、
11a,11b…空芯コイル、
12…ケース、13…ブラケット、
20…検出回路、21a,21b…差動増幅器、
22a…定電圧電源回路、
23a,23b…A/D変換回路(A/D)、
24…距離パルス発生回路、
25…データ処理装置、26…MPU、27…メモリ、
28…インタフェース。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レールとレールとの継目を検出する軌道検測車あるいは点検車等の車輌のレール継目検出器において、
前記レールの頭部の上部に対応して前記車輌に設けられ隣接して配置され相互に逆方向に巻かれた第1、第2の空芯コイルと、
これら第1、第2の空芯コイルを収納したケースと、
前記第1、第2の空芯コイルにバイアス電流を流してこれら空芯コイルのインダクタンスの変化に対応する第1、第2の検出信号を得る検出回路とを備え、
前記第1の検出信号と第2の検出信号のレベルの差に基づいてレール継目の検出信号を得るレール継目検出器。
【請求項2】
前記ケースは密閉形のものであり、前記第1、第2の空芯コイルは、巻き形が三角形状の空芯コイルであって、それぞれの1辺が隣接して配置され、前記第1、第2の空芯コイルの1つの中心が前記レールの頭部の中心より外側にずれているものであって、前記レール継目の検出信号のレベルの移動平均値によりレール継目が検出される請求項1記載のレール継目検出器。
【請求項3】
レールとレールとの継目の位置を検出する軌道検測車のレール継目位置検出装置において、
前記レールの頭部の上部に対応して前記軌道検測車に設けられ隣接して配置され相互に逆方向に巻かれた第1、第2の空芯コイルと、これら第1、第2の空芯コイルを収納したケースと、前記第1、第2の空芯コイルにバイアス電流を流してこれら空芯コイルのインダクタンスの変化に対応する第1、第2の検出信号を得る検出回路とを有し、前記第1の検出信号と第2の検出信号のレベルの差に基づいてレール継目の検出信号を発生するレール継目検出器と、
前記軌道検測車の走行に対応して距離パルスを発生する距離パルス発生回路とを備え、
前記距離パルスに対応して前記第1、第2の検出信号が採取されて前記レール継目の検出信号が前記軌道検測車の走行距離に対応して採取されるレール継目位置検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−250572(P2006−250572A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−64275(P2005−64275)
【出願日】平成17年3月8日(2005.3.8)
【出願人】(390021577)東海旅客鉄道株式会社 (413)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】