説明

ロジンエマルションサイズ剤用分散剤

【課題】 幅広いpH範囲(抄造pH4.5〜7.5)で優れたサイズ効果を有し、製紙工程における発泡、汚れなどの問題が発生しにくい操業性に優れた新規なロジンエマルションサイズ剤及びそのためのサイズ剤用分散剤を提供すること。
【解決手段】 a)ノニオン性水溶性ビニル系モノマー及びアニオン性水溶性ビニル系モノマーの混合物を溶液重合させ、重合率が0〜90%となった時点で、チオール類、ジチオ化合物、テルピノレン、α−メチルスチレン二量体からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を添加して重合を完結させて得られる親水性重合物の存在下に、b)疎水性モノマー及びアニオン性モノマーの混合物をブロック重合方法で溶液重合、乳化重合又は懸濁重合させ、必要に応じ無機アルカリ又は有機アルカリによって部分中和して得られるブロック共重合物を含むロジンエマルションサイズ剤用分散剤。ロジン類を当該分散剤で乳化することにより得られるロジンエマルションサイズ剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は幅広いpH範囲(抄造pH4.5〜7.5)で優れたサイズ効果を有し、製紙工程における発泡、汚れなどの問題が発生しにくい操業性に優れた新規なロジンエマルションサイズ剤及び当該サイズ剤用分散剤に関する。
【背景技術】
【0002】
日本の製紙業界では1980年代に入ると、塗工紙や塗工板紙のコーティングカラーに安価な顔料である炭酸カルシウムの使用量が増加した。炭酸カルシウムをコーティングカラーに顔料として用いると、コーティングカラーはその高濃度化が可能で、さらに塗工適性や印刷適性が優れているという特性もあり、製紙業界において炭酸カルシウムの使用量が増加した。そして、炭酸カルシウムを多量に含有する塗工紙或いは塗工板紙が資源の再利用のため損紙或いは古紙として使用され始めた。炭酸カルシウムは強塩基と弱酸とからなる塩基性塩であることから、抄紙系に分散すると、酸性物質と反応してその酸性を中和し、抄紙pHを上昇させる働きがある。したがって従来の酸性抄紙系では炭酸カルシウムを含む損紙あるいは古紙を使用すると、抄紙pHは上昇し、酸性抄紙用サイズ剤のサイズ効果が充分には発現しない。抄紙pHを低下させようとして硫酸バンドの添加率を上昇させると、パルプ移送配管やチェスト、スクリーン、ワイヤーなどのような抄紙系内機器の汚れに関する問題が発生した。これらの問題を解決するために、アルキルケテンダイマー、アルケニル無水コハク酸などのサイズ剤を用いた中性抄紙が試みられたが、製紙用薬品メーカーの開発努力にもかかわらず、アルキルケテンダイマーの問題であるサイズ度発現速度の遅さ、スムーザーロールなどの汚れ、サイズ処理された紙の滑り、ホットメルト接着剤あるいは静電印刷時のトナー接着性の悪さといった問題、アルケニル無水コハク酸の過度の加水分解速度の速さによる抄紙系内の汚れなどの問題が解決されず、アルキルケテンダイマーとアルケニル無水コハク酸両者の製品そのものの貯蔵安定性も懸念され、1990年代に弱酸性ないし中性抄紙用のロジンエマルションサイズ剤が開発され、今日に至っている。
【0003】
すなわち、1980年代中頃には、ロジンエマルションサイズ剤としてロジンとディールスアルダー変性ロジンを被乳化体とし、スチレン及び/または(メタ)アクリル系モノマーとアニオン性ビニル系モノマーの共重合物を高分子分散剤として乳化したロジンエマルションサイズ剤が酸性抄紙系で使用され(特許文献1及び2を参照)始めた。それまで市場を席巻していた低分子量界面活性剤で乳化されたロジンエマルションの短所である発泡、機械的安定性、凍結安定性、熱水/カフェインなどに対するサイズ効果などの改良が行われた。1990年代に入って、弱酸性ないし中性抄紙系ではロジンとディールスアルダー変性ロジン及び多価アルコールロジンエステルの混合物を被乳化体としスチレン及び/または(メタ)アクリル系モノマー誘導体とアニオン性ビニル系モノマー及び/またはアクリルアミドのようなノニオン性ビニル系モノマーの共重合物を高分子分散剤として乳化したロジンエマルションサイズ剤が開発され(特許文献3〜5を参照)、それまでロジンエマルションではサイズ効果が発現しにくいと言われていた弱酸性ないし中性抄紙pHでサイズ効果を発現させることができるようになった。抄紙系の汚れに関する問題もアルキルケテンダイマーやアルケニル無水コハク酸に比較すると顕著ではなく、弱酸性及び/または中性ロジンエマルションが日本の製紙業界に拡がった。
【0004】
ロジンエマルションサイズ剤用の高分子分散剤の重合方法として溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法、塊状重合法があげられるが、従来の分散剤は各種モノマーの組合せを考慮することにより、製紙薬品業界において改良が進められてきた。(特許文献1〜5を参照)しかし、ランダム重合の領域を超えることはなく、被乳化体であるロジン誘導体の乳化性、ロジンエマルションの定着性を含めたサイズ性能、ロジンエマルションの安定性向上には限界が見られた。特に、弱酸性ないし中性抄紙系ではロジンエマルションの化学的安定性が悪く、抄紙系中のアルカリ分によるロジン溶出によるサイズ効果低下、抄紙工程の汚れといった問題が解決されていない。
【特許文献1】特開昭56−169898号公報(第2頁右上欄第13行〜左下欄第13行)
【特許文献2】特開平7−258994号公報([0007]〜[0009])
【特許文献3】特開昭62−223393号公報(第2頁右上欄第13行〜左下欄第3行)
【特許文献4】特開平1−203031号公報(第2頁左上欄第18行〜右上欄第8行)
【特許文献5】特開平8−337997号公報([0007][0008])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来のロジン系サイズ剤の有する欠点のないロジンエマルションサイズ剤を提供することを目的とする。本発明は、特に、弱酸性ないし中性抄紙系でもロジンエマルションの化学的安定性が良く、抄紙系中のアルカリ分によるロジン溶出によるサイズ効果低下、抄紙工程の汚れないロジンエマルションサイズ剤を提供することを目的とする。さらに、本発明はこのような優れたロジンエマルションサイズ剤をもたらし得る高分子分散剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は1990年代に基礎的研究が進み(Prog. Polym. Sci. 27(2002)1039-1067、 Acc. Chem. Res.,37(2004)312-325参照)、2000年代に入って水系ラジカル重合でその応用技術が発展した(Macromolecules,36(2003)1436-1439)ブロック重合方法に着目し、ロジンエマルションサイズ剤の高分子分散剤の製造にブロック重合法を応用すると、ロジン誘導体の優れた乳化性、ロジンエマルションサイズ剤の優れた定着性および安定性を示すことを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、ロジンエマルションサイズ剤用分散剤であって、a)ノニオン性水溶性ビニル系モノマー及びアニオン性水溶性ビニル系モノマーの混合物を溶液重合させ、重合率が0〜90%となった時点で、チオール類、ジチオ化合物、テルピレノン、α−スチレン二量体からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を添加して重合を完結させて得られる親水性重合物の存在下に、b)疎水性モノマー及び/又はアニオン性モノマーの混合物をブロック重合方法で溶液重合、乳化重合又は懸濁重合させ、必要に応じ無機アルカリ又は有機アルカリによって部分中和して得られるブロック共重合物を含む前記ロジンエマルションサイズ剤用分散剤にある。
【0008】
さらに、本発明は、ロジンエマルションサイズ剤用分散剤であって、a)ノニオン性水溶性ビニル系モノマー、アニオン性水溶性ビニル系モノマー及び疎水性ビニルモノマーの混合物を溶液重合、乳化重合又は懸濁重合させ、重合率が0〜90%となった時点で、チオール類、ジチオ化合物、テルピレノン、α−スチレン二量体からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を添加して重合を完結させて得られる重合物の存在下に、b)疎水性モノマー及び/又はアニオン性モノマーの混合物をブロック重合方法で溶液重合、乳化重合又は懸濁重合させ、必要に応じ無機アルカリ又は有機アルカリによって部分中和して得られるブロック共重合物を含む前記ロジンエマルションサイズ剤用分散剤にある。
【0009】
また、本発明は、上記に記載のロジンエマルショサイズ剤用分散剤を用いて、ジエノフィルジ−又はジエノフィルモノ−カルボン酸ディールスアルダー変性ロジン及び多価アルコールロジンエステルのロジン類混合物を機械乳化して得られるロジンエマルションサイズ剤にある。
【発明の効果】
【0010】
本発明のロジンエマルションサイズ剤は幅広いpH範囲(抄造pH4.5〜7.5)で優れたサイズ効果を有し、製紙工程における発泡、汚れなどの問題が発生しにくく操業性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、ロジンエマルションサイズ剤用分散剤の共重合物にブロック共重合物を含むことを特徴とする。ブロック共重合物は次のような3段階の工程により製造できる。
第1段階は、ノニオン性水溶性ビニル系モノマー及びアニオン性水溶性ビニル系モノマーの混合物、場合により、前記混合物に疎水性ビニルモノマーを加えた混合物を溶液重合、乳化重合又は懸濁重合させる工程である
本段階で使用できるノニオン性水溶性ビニル系モノマーとしては、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、酢酸ビニル、(メタ)アリルアルコールから選ばれる少なくとも1種のモノマー等がある。
【0012】
本段階で使用できるアニオン性水溶性ビニル系モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、ビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アクリルアルキルスルホン酸類から選ばれる少なくとも1種のモノマー等があり、このアニオン性水溶性ビニル系モノマーは、エマルションの安定性を向上させ、ウェットエンドにおける定着性を向上させる。
【0013】
第1段階で、重合物の製造に場合により疎水性モノマーを使用することができる。第1段階の重合物の製造において疎水性モノマーを少量使用することにより、第3段階において使用する疎水性モノマーと第1段階で製造する重合物と親和性を強めることができる。使用できる疎水性モノマーとしては、炭素数1〜30のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル、炭素数5〜20の(メタ)アクリル酸脂環基エステル、あるいは芳香族オレフィン、脂肪族オレフィンから選ばれる少なくとも1種の疎水性モノマー等がある。
【0014】
上記のモノマーの使用割合は、重量部を基準に、ノニオン性水溶性ビニルモノマー60〜95重量部に対してアニオン性水溶性ビニル系モノマー5〜40重量部、好ましくは、ノニオン性水溶性ビニルモノマー70〜90重量部に対してアニオン性水溶性ビニル系モノマー10〜30重量部である。疎水性モノマーを使用する場合は、ノニオン性水溶性ビニルモノマー及びアニオン性水溶性ビニル系モノマー混合物20〜100重量部に対し、疎水性モノマーを25重量部まで、好ましくは、20重量部まで使用できる。
【0015】
第1段階の重合物の製造における重合方法については溶液重合、乳化重合、懸濁重合等公知の方法で行う事が出来る。溶液重合の場合は、水、イソプロピルアルコール、メチルアルコール、メチルエチルケトン等を溶剤として重合する。乳化重合の場合はアニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、或いはこれらの併用で重合を行ってもよい。必要に応じリン酸エステル型 サーフマー(東邦化学工業製)のような反応性活性剤を併用することもできる。まず親水性モノマーの重合を行った後に、その重合物の存在下で少量の疎水性モノマーの重合を行うソープフリー乳化重合を行っても良い。
【0016】
上記の重合に使用できるアニオン性界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテルスルホコハク酸エステルナトリウム塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、不均化ロジンの金属塩等が挙げられる。
【0017】
上記の重合に使用できるノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンフェニルエーテル等が挙げられる。
一方、重合開始剤としては過硫酸塩や過酸化物やアゾ系化合物を用い、必要に応じ、還元剤を併用したレドックス系開始剤を用いる事も出来る。
【0018】
本発明のロジンエマルションサイズ剤用分散剤製造方法の第2段階では、第1段階の重合物の重合率が0〜90%となった時点で、チオール類、ジチオ化合物、テルピノレン(すなわち、1-メチル-4-イソプロピリデン-1-シクロヘキセン)、α-スチレン二量体からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を、第1段階で使用するモノマーの総重量100重量部に対して、0.01〜5.0重量部該重合物に添加した後、重合を完結させる。
【0019】
チオール類、テルピノレン、α-スチレン二量体を使用する場合、好ましくは、第1段階の重合率が50〜90%、より好ましくは、60〜80%となった時点で添加する。
ジチオ化合物を使用する場合、好ましくは、第1段階の重合物の重合率が0〜50%、より好ましくは、10〜40%となった時点で添加する。
【0020】
第2段階で使用できるチオール類としては、n−ドデシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ラウリルメルカプタン、メルカプトエタノール、メルカプトプロパノールから選ばれた少なくとも1つのチオール類等がある。
【0021】
第2段階で使用できるジチオ化合物としては、ジチオエステル、トリチオカルバメート、ジチオカルバメート、フォスフォリルジチオフォルメート、チオフォスフォリルジチオフォスメート、キサントゲンから選ばれた少なくとも1つのジチオ化合物等がある。
【0022】
本発明のロジンエマルションサイズ剤用分散剤製造方法の第3段階では、親水性重合物存在下で疎水性モノマーとアニオン性モノマー混合モノマーのブロック重合を行う。
第3段階で使用できる疎水性モノマーとしては、n−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート等、及び(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等の炭素数4〜50のアルキル基または脂環基を有する(メタ)アクリル酸エステル、あるいは、スチレン、αメチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルナフタレンといった芳香族オレフィン、ジイソブテン、ペンテン、オクテン、ドデセンといった脂肪族オレフィンから選ばれた少なくとも1種の疎水性モノマー等がある。
【0023】
第3段階で使用できるアニオン性モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、ビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アクリルアルキルスルホン酸類から選ばれた少なくとも1種のアニオン性ビニル系モノマー等がある。
【0024】
第3段階のブロック重合の重合方法については、溶液重合、乳化重合、懸濁重合等公知の方法で行う事が出来る。
ブロック重合でリビングラジカル剤として、ジチオカルバメートのような公知のジチオ化合物を使用できる(例えば、特表2000−515181号公報、特開2001−302706号公報、特表2002−508409号公報、特表2002−512653号公報を等を参照)。
【0025】
また、メルカプタン類、テルピノレン、α-メチルスチレン二量体でグラフト重合を行うことができることがわかっている(特開平第8−259639号公報)。
上記公知のブロックポリマー重合法で製造した本発明の分散剤は、粒度分布が狭く、化学的安定性の優れたロジンエマルションを乳化製造することができることが見出された。
【0026】
第1段階及び第3段階で、分子量を調整するために連鎖移動剤として、アリル化合物、メルカプタン類、チオグリコール類、ハロゲン化合物等の公知の連鎖移動剤を使用できる。具体的には、メタリルスルホン酸ナトリウム、メルカプトエタノール、メルカプトプロピオン酸、n-ドデシルメルカプタン、チオグリコール酸ブチル、四塩化炭素等を連鎖移動剤として使用できる。
【0027】
第2段階で製造した重合物の分子量は1000〜50000好ましくは、1000〜10000である。
必要に応じて、上記第3段階で得られた高分子分散剤の含有カルボキシル基に対して90%までの無機または有機アルカリによる中和を行い分散剤として使用できる。中和に用いる無機アルカリとしては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等があり、有機アミンとしてはモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アミノアルコール等がある。
【0028】
第3段階で製造したブロック共重合物の分子量は1000〜200000好ましくは、1000〜10000である。
本明細書中で、ブロック共重合体とはAB型ジブロック共重合体を意味し、親水性モノマーを幹ポリマーの主成分として疎水性モノマーを主成分とする枝ポリマーからなるグラフト共重合体、もしくは疎水性モノマーを幹ポリマーの主成分として親水性モノマーを主成分とする枝ポリマーからなるグラフト共重合体も含むことができる。
【0029】
本発明のロジンエマルションサイズ剤用分散剤には、当該分散剤に通常使用される添加剤、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテルスルホコハク酸エステルナトリウム塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、不均化ロジンの金属塩等のようなアニオン性界面活性剤を通常の割合で添加させることができる。
【0030】
上記、本発明のロジンエマルションサイズ剤用分散剤を使用して、ロジン類を乳化してロジンエマルションサイズ剤を製造することができる。
本発明で使用できるロジン類としては、ジエノフィルジ又はモノカルボン酸ディールスアルダー変性ロジン、多価アルコールによるロジンエステル化物等がある。本発明のロジンエマルションサイズ剤に使用できるロジン類として、ジエノフィルジ−又はジエノフィルモノ−カルボン酸ディールスアルダー変性ロジン及び多価アルコールロジンエステルのロジン類混合物が好ましい。尚、ロジン類混合物中には、ディールスアルダー反応により不可避的に含まれる未反応のロジンも含まれることがある。
【0031】
ロジン類の原料ロジンとしては、ガムロジン、トール油ロジン、ウッドロジン、水添ロジン、ホルムアルデヒド変性ロジンなどから選ばれた少なくとも1種の原料ロジン等がある。
【0032】
ジエノフィルジ又はモノカルボン酸には、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水イタコン酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸等があり、その中から少なくとも1種のジエノフィルジ又はモノカルボン酸を選択し、ロジンにディールスアルダー付加反応させることによりジエノフィルジ又はモノカルボン酸ディールスアルダー変性ロジンを得ることができる。
【0033】
又ロジンエステル化物としてはロジンと多価アルコールのエステル化物を用いる。エステル化に供する多価アルコールとしてはエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジグリセリン等をがある。
【0034】
本発明のロジン類混合物の混合割合は、ジエノフィルジ−又はジエノフィルモノ−カルボン酸ディールスアルダー変性ロジン20〜80重量部に対して多価アルコールロジンエステル80〜20重量部、好ましくは、ジエノフィルジ−又はジエノフィルモノ−カルボン酸ディールスアルダー変性ロジン40〜70重量部に対して多価アルコールロジンエステル30〜60重量部である。
【0035】
本発明のロジンエマルションサイズ剤用分散剤4〜60重量部に対して上記ロジン類混合物を100重量部、好ましくは、分散剤12〜40重量部に対して上記ロジン類混合物を100重量部使用してロジン類混合物を乳化させる。
【0036】
本発明の分散剤を用いてロジン類を乳化する方法は、公知文献(例えば、米国特許第2393179号明細書、米国特許第3565755号明細書、米国特許第4157982号明細書等)に記載されている転相乳化法、溶剤乳化法、機械乳化法いずれの方法でもロジン類を乳化することができる。剪断力、圧力などの乳化条件を最適化させて乳化することにより、望まれる粒子径及び粒度分布のロジンエマルションを得ることができる。
【0037】
ロジンエマルションは粒子径が小さいとウェットエンドで紙匹に均一に定着し、均一に分布しやすいことから、酸性抄紙では優れたサイズ効果を発現するが、中性抄紙では粒子径が小さいと比表面積が大きいため、化学変性を受けやすい。逆に、ロジンエマルションの粒子径が大きいと、ウェットエンドでの定着が不均一になるとともに、物理的な安定性が悪化し、貯蔵中の沈殿、抄造中の汚れといった問題を起こすという欠点があるが、中性抄紙では比表面積が小さいため、化学的安定性が良好であるという長所を持っている。本発明の製造方法により得られるロジンエマルションは高分子分散剤の構造或いは被乳化体に対する高分子分散剤の配合率、乳化条件等を調節することにより、粒子径をコントロールすることができ、抄紙pHの要求に適合したロジンエマルションを製造することが可能となった。ブロック重合の構造を有していることから製造されたエマルションの粒度分布が狭いため、化学的安定性が大幅に改良された。理論に束縛されるものではないが、ブロック重合法で製造された分散剤は、ランダム重合法で製造された分散剤に比べて、分散剤の疎水性ブロックが被乳化体に強く吸着し、親水性のブロックがそのアニオン性によりパルプ繊維への定着を促進していることにより、ロジンエマルションサイズ剤は優れたサイズ効果を発現するものと考えられる。さらに、疎水性ブロックの造膜性により、被乳化体の化学的安定性が向上するとともに、親水性ブロックのノニオン性部分が保護コロイドとして機能し、さらに化学的安定性を助長し、ロジンエマルションのパルプ繊維への定着を向上させているものと考えられる。
【0038】
転相乳化の場合、界面張力を低くして乳化をコントロールすることが分散剤に要求される。このことはエマルションの化学的安定性を向上させることと相反する因子であり、高分子分散剤の分子設計には大きな障壁となっている。一方、機械乳化はその乳化機構から、分散剤に界面張力を低めることに関する要求が少ないため、ロジンエマルションの化学的安定性を向上させるのに好ましい。したがって、本発明のロジンエマルションサイズ剤を得るための乳化方法としては、機械乳化方法が最も好ましい。
【実施例】
【0039】
以下、製造例、実施例により本発明を具体的に詳しく説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。また、実施例で用いる「部」及び「%」は断りがない限り重量基準である。
<分散剤の粘度の測定>
分散剤粘度の測定はブルックフィールド型粘度計を用い、25℃で測定した。
<重合率の測定>
「発明を実施するための最良の形態」の項で記した第1段階の製造工程において、約1gの反応溶液を採取して急冷した後、100cc容ビーカーに入れた約50gの1級試薬メタノール中(室温)に撹拌下に滴下し、重合反応物を沈殿させる。重量増加分を1mgの単位まで測定する。未反応物と水とを含むメタノールをデカンテーションし、さらに1級試薬メタノール約50gを、沈殿の入った100cc容ビーカーに注ぎ、沈殿を洗浄した後デカンテーションを行った。その後、残留した沈殿物を熱風乾燥機で乾燥させ、乾燥重量を1mgの単位まで測定することにより、重合率を求める。反応モノマーの組成により、メタノールに代えて最適な有機溶剤を選択して、重合率を測定する。
<GPC法による分子量測定>
水酸化ナトリウムで完全中和した後、下記条件で測定した。本測定結果を使用してブロック共重合体が生成したか否かを確認した。
機 種 :東ソー株式会社 GPC-8020 modelII
カラム :TSKgel GMPWXL
カラム温度:40℃ 検出器 :RI
溶 媒 :0.2M NaCl水溶液/メタノール(70/30)
流 速 :1.0ml/分
試料濃度 :0.1% 注入量 :100μl
標準 :ポリエチレンオキサイド
<軟化点、酸価、ケン化価の測定>
軟化点、酸価、ケン化価の測定はJIS K5902に準拠して行った。
【0040】
(実施例1)<分散剤A1の製造>
攪拌機、温度計、還流冷却管及び窒素ガス導入管を備えた1リットル容の四つ口フラスコにノニオン性水溶性ビニル系モノマーとして40%アクリルアミド水溶液224部、アニオン性水溶性ビニル系モノマーとしてメタクリル酸26部、連鎖移動剤としてメタリルスルホン酸ナトリウム2部、イオン交換水394部を仕込み、撹拌しながら窒素気流下で昇温させ、75℃で反応温度を保持し、重合開始剤として過硫酸アンモンを4部加え、この温度で1時間保持した。重合率が67%に達していることを確認した後、ブロック重合剤としてテルペノレン2.1部を仕込み、2時間反応を行った。次に疎水性モノマーとしてn-ブチルメタクリレート29部、スチレン21部、p-スチレンスルホン酸ナトリウム8部を滴下開始するとともに、過硫酸アンモンを1部と硫酸第一鉄七水塩0.1部を加え、80℃で2時間反応させ、固形分25%、粘度700mPa・sの分散剤A1を得た。GPC測定で単一ピークを観測することができ、ブロック共重合体が得られたことが確認できた。
【0041】
(実施例2)<分散剤A2の製造>
40%アクリルアミド258部、アニオン性モノマーとしてメタクリル酸の代わりにイタコン酸15部、p-スチレンスルホン酸ナトリウムの代わりにビニルスルホン酸ナトリウム26部、疎水性モノマーとしてスチレンの代わりにシクロヘキシルメタクリレート34部を用い、重合率が60%に達していることを確認した後、ブロック重合剤を添加した事以外は実施例1同様にして重合反応を行い、固形分25%、粘度400mPa・sの分散剤A2を製造した。GPC測定で単一ピークを観測することができ、ブロック共重合体が得られたことが確認できた。
【0042】
(実施例3)<分散剤A3の製造>
40%アクリルアミドを267部、疎水性モノマーとしてシクロヘキシルメタクリレート67部、アニオン性モノマーとしてイタコン酸26部、p-スチレンスルホン酸ナトリウム21部を用い、重合率が64%に達していることを確認した後、ブロック重合剤を添加した以外は実施例1と同様にして重合反応を行い、固形分25%、粘度500mPa・sの分散剤A3を製造した。GPC測定で単一ピークを観測することができ、ブロック共重合体が得られたことが確認できた。
【0043】
(実施例4)<分散剤A4の製造>
40%アクリルアミドを228部、疎水性モノマーとしてシクロヘキシルメタクリレート35部と2-エチルヘキシルアクリレート8部、アニオン性モノマーとしてイタコン酸52部、アクリル酸1部とビニルスルホン酸ナトリウムを26部用い、重合率が60%に達していることを確認した後、ブロック重合剤を添加した以外は実施例1と同様にして重合反応を行い、固形分25%、粘度260mPa・sの分散剤A4を製造した。GPC測定で単一ピークを観測することができ、ブロック共重合体が得られたことが確認できた。
【0044】
(実施例5)<分散剤A5の製造>
40%アクリルアミドを213.2部、疎水性モノマーとしてシクロヘキシルメタクリレート34部、アニオン性モノマーとしてイタコン酸39部と、メタクリル酸を17.2部、AMPS(2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸)を21部用い、重合率が65%に達していることを確認した後、ブロック重合剤を添加した以外は実施例1と同様にして重合反応を行い、固形分25%、粘度350mPa・sの分散剤A5を製造した。GPC測定で単一ピークを観測することができ、ブロック共重合体が得られたことが確認できた。
【0045】
(実施例6)<分散剤A6の製造>
ブロック重合剤としてノルマルドデシルメルカプタン4部を重合率50%の時点で用いた以外は実施例1と同様にして重合反応を行い、固形分25%、粘度450mPa・sの分散剤A6を製造した。GPC測定で単一ピークを観測することができ、ブロック共重合体が得られたことが確認できた。
【0046】
(実施例7)<分散剤A7の製造>
ブロック重合剤としてジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム5部を重合率0%の時点で添加し、第3段階の製造工程で硫酸第一鉄七水塩を使用しなかった以外は実施例1と同様にして重合反応を行い、固形分25%、粘度420mPa・sの分散剤A7を製造した。GPC測定で単一ピークを観測することができ、ブロック共重合体が得られたことが確認できた。
【0047】
(実施例8)<分散剤A8の製造>
重合率が65%に達していることを確認した後、ブロック重合剤としてαメチルスチレン2量体4部を用いた以外は同様にして重合反応を行い、固形分25%、粘度480mPa・sの分散剤A8を製造した。GPC測定で単一ピークを観測することができ、ブロック共重合体が得られたことが確認できた。
【0048】
(比較例1)<分散剤B1の製造>
攪拌機、温度計、還流冷却管及び窒素ガス導入管を備えた2リットル容の四つ口フラスコにシクロヘキシルメタクリレート51部、イタコン酸30部、スチレンスルホン酸ナトリウム14部、連鎖移動剤としてノルマルドデシルメルカプタン2部、イソプロパノール190部を仕込み窒素気流化に撹拌、昇温を開始し、60℃になった時点でアゾビスイソブチルニトリル1部を添加した後、80℃を2時間保持した。ついで、40%アクリルアミド水溶液160部とイタコン酸61部とイオン交換水300部を反応温度を80℃で保持しつつ1時間かけて滴下した後、80℃で反応を2時間続けた。イオン交換水870部を加えるとともに冷却し、固形分30%、粘度300mPa・sの分散剤B1を得た。
【0049】
(比較例2)<分散剤B2の製造>
攪拌機、温度計、還流冷却管及び窒素ガス導入管を備えた2リットル容の四つ口フラスコに40%アクリルアミド水溶液425部、スチレンスルホン酸ナトリウム14部、ノルマルブチルアクリレート14部、スチレン11部、連鎖移動剤としてノルマルドデシルメルカプタン10部、乳化剤としてドデシルフェニルエーテルエチレンオキシド(n=10)硫酸エステルナトリウム14部、イオン交換水1046部を仕込み、撹拌しながら窒素気流下で昇温させ、80℃で反応温度を保持し、重合開始剤として過硫酸アンモンを5部加え、この温度で5時間反応させ、固形分15%、粘度300mPa・sの分散剤B2を得た。
【0050】
(比較例3)<分散剤B3の製造>
攪拌機、温度計、還流冷却管及び窒素ガス導入管を備えた2リットル容の四つ口フラスコに40%アクリルアミド水溶液258部、ビニルスルホン酸ナトリウム26部、メタリルスルホン酸ナトリウム2部、シクロヘキシルメタクリレート34部、イタコン酸39部、連鎖移動剤としてテルペノレン2.2部、乳化剤としてドデシルフェニルエーテルエチレンオキシド(n=10)硫酸エステルナトリウム10部、イオン交換水404部を仕込み、撹拌しながら窒素気流下で昇温させ、80℃で反応温度を保持し、重合開始剤として過硫酸アンモンを8部加え、この温度で5時間反応させ、固形分30%、粘度700mPa・sの分散剤B3を得た。
【0051】
(実施例9)<ロジンのディールスアルダー付加反応>
2リットル容の四つ口フラスコにガムロジン1692部を仕込み加熱溶融させ、フラスコ内を160℃に保ちながら無水マレイン酸108部を徐々に添加した後昇温する。反応温度を200〜210℃にて3時間保持し、軟化点97℃、ケン化価240の反応生成物を得た。
【0052】
(実施例10)<ロジンのエステル化>
2リットル容の四つ口フラスコにガムロジン1200部とグリセリン110部を仕込み、窒素気流下に昇温させ、反応温度を200〜230℃に保ち3時間脱水反応を行った後、さらに6700〜13300Paの減圧下で260〜280℃で7時間保持し、酸価20以下であることを確認した後冷却し、軟化点94℃、酸価18の反応生成物を得た。
【0053】
(実施例11)<乳化方法ア>機械乳化法
前記実施例9で得られたディールスアルダー変性ロジン5090部と実施例10で得られたロジンエステル化物2180部を20リットル容オートクレーブに仕込み、加熱溶融し、系内の温度が150〜160℃に達した時点でダイヤフラムポンプを用いて、表1及び表2で示す分散剤 1530部(25%液)を添加した後、さらに80℃に調整した温水6210部を添加した。しかる後、系内の温度を150±5℃に調整した後、ピストン型高圧乳化機(マントンゴーリン社製、型式15MR 8TBA)を用いて2次圧5MPa、1次圧25MPaで1回ホモジナイザーを通過させた後、急冷し固形分51%のロジンエマルションサイズ剤を得た。
【0054】
(実施例12)<乳化方法イ>転相法
前記実施例9で得られたディールスアルダー変性ロジン180部と実施例10で得られたロジンエステル化物120部を耐圧ガラス社製の1リットル容の耐圧ガラス容器に仕込み、150℃に加熱熔解させる。加圧窒素にて0.5mPaを保ち、撹拌を開始する。耐圧ガラス容器にバルブを介して連結する密閉容器にて70℃に加温された表1及び表2で示す分散剤 133部を添加した後充分に混合する。別の密閉容器で100℃に保温されていた水133部を徐々に添加し、分散系を転相させ、転相後は速やかに残りの水を添加した後速やかに冷却し、固形分51%のロジンエマルションサイズ剤を得た。
【0055】
(実施例13)<乳化方法ウ>溶剤法
2リットル容の溶解槽にトルエン100部を仕込み、撹拌を開始する。実施例9で得られたディールスアルダー変性ロジン60部と実施例10で得られたエステル化ロジン40部を少量ずつ仕込んで溶解させる。さらに、表1及び表2で示す分散剤を25%換算で44部とイオン交換水73部を仕込んだ。15分間撹拌を続けた後、混合物をピストン型高圧ホモジナイザー(マントンゴーリン社製、型式15MR 8TBA)に通し1次圧25mPa、2次圧5mPaで1回通過処理をし、乳化液を得た。乳化液を速やかに減圧単蒸留することによりトルエンを除去することにより、固形分50%のロジンエマルションサイズ剤を得た。
【0056】
<粒子径の測定>
島津製作所製レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置SALD−2100で測定した。求める粒子径はメディアン径である。粒度分布は同装置の出力データである標準偏差を参考にした。
【0057】
<機械的安定性試験>
実施例あるいは比較例のサイズ剤50gをカップに入れ、25℃、荷重20kg、回転数1000rpmにて10分間 JIS K-6387、JIS K-6392に準拠してマーロン式安定性試験を行った。生成した凝集物を200メッシュ金網にて濾過して全固形分に対する凝集量を測定し百分率で表した。実施例、比較例のそれぞれのサイズ剤についても同様の試験を行った。
【0058】
<水への再分散性>
サイズ剤の風乾物1gと水道水50gを試験管に取り、軽く攪拌してその風乾物の再分散性を観察した。容易に分散するものを3と、十回前後撹拌することにより分散するものを2とし、そして全く分散しないものを1とする3段階評価で行った。実施例、比較例のそれぞれのサイズ剤についても同様の試験を行った。
【0059】
<静置安定性試験>
長さ100cm、内径3cmの試験管に上記実施例あるいは比較例のサイズ剤を600cc入れ、冷暗所に室温で2ヶ月静置後、底部に沈降した沈殿物の高さ(mm)を測定した。
【0060】
<ロジン溶出速度>
固形分を5%に調製したロジンエマルションサイズ剤希釈溶液を500cc容ビーカーに200cc採り、ヒーティングスターラー撹拌下に40℃に加温する。この希釈溶液のpHを8を維持するよう10%水酸化ナトリウム水溶液を10分間滴下する。pH8を維持するのに要した全水酸化ナトリウム水溶液の重量を測定することにより、サイズ剤のアルカリ溶出速度を評価する。添加した水酸化ナトリウム水溶液の量が少ない程、サイズ剤からのロジン分の溶出は少ない。
【0061】
<泡立ち性試験>
カナディアン・スタンダード・フリーネス400ccに叩解したパルプ(LBKP/NBKP = 8/2)を2.0%のパルプスラリーとし、これに絶乾パルプに対して15%の奥多摩工業社製炭酸カルシウムTP-121、絶乾パルプに対して1%の硫酸バンド、絶乾パルプに対して0.5%の日本NSC社製カチオン化澱粉Cato3210及び絶乾パルプに対して2%のサイズ剤(表2で示す分散剤を使用して得られたサイズ剤)を添加した後、100ドイツ硬度に調整した塩化カルシウム水溶液でパルプ濃度0.2%まで希釈し、箱型の容器に入れた。パルプスラリーをポンプで循環してこれを30cmの高さから容器中に落下させ、10分後の液面に蓄積する泡の面積を、液面全体面積に対する百分率で表した。
【0062】
<手抄き試験によるサイズ効果の評価>
灰分を15%含有しそのうち炭酸カルシウムを10%含有するカナディアン・スタンダード・フリーネス400ccまで叩解した段ボール古紙パルプを絶乾固形分2%のパルプスラリーとし、全紙用薬品添加後のパルプスラリーのpH6.5になるような量の水酸化ナトリウムもしくは希硫酸を添加した。このパルプスラリーに絶乾パルプに対して1.5%の硫酸バンド、絶乾パルプに対して0.5%の日本NSC社製カチオン化澱粉Cato3210、及び絶乾パルプに対して0.2%または0.3%の上記実施例1〜8、比較例1〜3で得られた分散剤を用いて実施例11〜13のいずれかの方法で乳化されたサイズ剤を添加した後、パルプ濃度0.2%まで希釈するとともに、パルプスラリーの水硬度を塩化カルシウムで100ドイツ硬度に調製した。JIS円型抄紙機でJIS P8222に準拠して坪量80g/m2となるように抄紙した。湿紙の乾燥は、ドラムドライヤーを用いて90℃で2分間乾燥させた。得られたサイジング紙を恒温恒湿でJIS P8111に準拠した条件である気温23℃、相対湿度50%にて24時間調湿した後、JISP8122に準拠して試験紙のステキヒトサイズ度を測定した。
【0063】
上記の試験の結果を表1及び表2に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】

【0066】
表1及び表2からわかるように、本発明のロジンエマルションサイズ剤は、機械安定性、静置安定性、分散性が優れることはもとより、サイズ効果が優れ、また、ロジン溶出速度が遅いことから、中性抄紙系で優れたサイズ効果を示すとともに抄紙系における汚れに関する問題も低減させることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明のロジンエマルションサイズ剤は弱酸性ないし中性抄紙系まで、幅広いpH範囲(抄造pH4.5〜7.5)の製紙用サイズ剤として利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロジンエマルションサイズ剤用分散剤であって、
a)ノニオン性水溶性ビニル系モノマー及びアニオン性水溶性ビニル系モノマーの混合物を溶液重合させ、重合率が0〜90%となった時点で、チオール類、ジチオ化合物、テルピレノン、α−スチレン二量体からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を添加して重合を完結させて得られる親水性重合物の存在下に、
b)疎水性モノマー及びアニオン性モノマーの混合物をブロック重合方法で溶液重合、乳化重合又は懸濁重合させ、必要に応じ無機アルカリ又は有機アルカリによって部分中和して得られるブロック共重合物
を含む前記ロジンエマルションサイズ剤用分散剤。
【請求項2】
ロジンエマルションサイズ剤用分散剤であって、
a)ノニオン性水溶性ビニル系モノマー、アニオン性水溶性ビニル系モノマー及び疎水性ビニルモノマーの混合物を溶液重合、乳化重合又は懸濁重合させ、重合率が0〜90%となった時点で、チオール類、ジチオ化合物、テルピレノン、α−スチレン二量体からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を添加して重合を完結させて得られる重合物の存在下に、
b)疎水性モノマー及び/又はアニオン性モノマーの混合物をブロック重合方法で溶液重合、乳化重合又は懸濁重合させ、必要に応じ無機アルカリ又は有機アルカリによって部分中和して得られるブロック共重合物
を含む前記ロジンエマルションサイズ剤用分散剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の分散剤を用いて、ジエノフィルジ−又はジエノフィルモノ−カルボン酸ディールスアルダー変性ロジン及び多価アルコールロジンエステルのロジン類混合物を機械乳化して得られるロジンエマルションサイズ剤。

【公開番号】特開2007−56416(P2007−56416A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−245195(P2005−245195)
【出願日】平成17年8月26日(2005.8.26)
【出願人】(391014480)近代化學工業株式会社 (4)
【Fターム(参考)】