説明

ロボットとその制御方法

【課題】ロボットが複数の動作を実行する場合に、そのうちの特定の動作に制限されずに、各動作における条件の変化を考慮して、各動作において正常動作中に誤作動することなく過負荷を確実に検出し安全に停止させることができるロボットとその制御方法を提供する。
【解決手段】複数の動作を実行するロボット10の制御方法であって、エンドエフェクタ12に作用する外力を検出する力センサ14と、3次元空間内でエンドエフェクタの位置と姿勢を移動可能なロボットアーム16と、ロボットアームを制御するロボット制御装置20とを備え、(A)外力の閾値をロボットの動作毎に記憶し、(B)ロボットアームを制御して各動作を順次実行し、(C)各動作の実行中に力センサで検出された外力が、前記閾値を超えた場合に、ロボットアームを停止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の動作を実行するロボットとその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ロボットのエンドエフェクタに力センサを取り付け、ワークへの衝突や周辺機器への干渉を検出することが、例えば、特許文献1〜5に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−219205号公報、「直交座標系上で柔らかさが調節可能なサーボ系」
【特許文献2】特開平11−104921号公報、「組立用ロボット」
【特許文献3】特開平5−305591号公報、「組立ロボット」
【特許文献4】特開2011−110688号公報、「ロボットの教示装置、及びロボットの制御装置」
【特許文献5】特開2003−127081号公報、「組立ロボット及び当該組立ロボットによる部品組立方法」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ロボットが複数の動作を実行する場合、エンドエフェクタやロボットアームに予期せぬ外力が加わったとき、関節モータの負荷トルク値が上昇するため、そのトルク値又はモータ電流から、過負荷を検出してロボットを緊急停止させることが従来から行われている。
しかし、この停止手段の場合、過負荷の検出閾値が高すぎるとワーク、エンドエフェクタ等の破壊事故を招くおそれがある。また、逆に過負荷の検出閾値が低すぎると、正常動作中に頻繁に誤作動して停止する可能性が高い。
【0005】
そこで、障害物との接触力を検知して、その力に応じて倣い制御する「ソフトフロート機能」などが利用されている(例えば、特許文献1)。
しかし、特許文献1の手段は、特定の動作、たとえば部品の嵌め合い動作に適用して、倣い制御することができるが、不測の衝突には対処できない。また、特別な制御アルゴリズムを実装する必要がある。さらに動作が緩慢になる問題点があった。
【0006】
本発明は、上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、ロボットが複数の動作を実行する場合に、そのうちの特定の動作に制限されずに、各動作における条件の変化を考慮して、各動作において正常動作中に誤作動することなく過負荷を確実に検出し安全に停止させることができるロボットとその制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、複数の動作を実行するロボットの制御方法であって、
エンドエフェクタに作用する外力を検出する力センサと、
3次元空間内でエンドエフェクタの位置と姿勢を移動可能なロボットアームと、
ロボットアームを制御するロボット制御装置とを備え、
(A)外力の閾値をロボットの動作毎に記憶し、
(B)ロボットアームを制御して各動作を順次実行し、
(C)各動作の実行中に力センサで検出された外力が、前記閾値を超えた場合に、ロボットアームを停止する、ことを特徴とするロボットの制御方法が提供される。
【0008】
また本発明によれば、複数の動作を実行するロボットであって、
エンドエフェクタに作用する外力を検出する力センサと、
3次元空間内でエンドエフェクタの位置と姿勢を移動可能なロボットアームと、
外力の閾値をロボットの動作毎に記憶し、ロボットアームを制御して各動作を順次実行するロボット制御装置とを備え、
各動作の実行中に力センサで検出された外力が、前記閾値を超えた場合に、ロボットアームを停止する、ことを特徴とするロボットが提供される。
【発明の効果】
【0009】
上記本発明の装置及び方法によれば、エンドエフェクタに作用する外力の閾値をロボットの動作毎に記憶しており、各動作の実行中に力センサで外力を検出するので、アームの動作状態に応じて、記憶した閾値を超えたときに異常と判定し、自動的にロボットアームを停止することができる。
従ってロボットが複数の動作を実行する場合に、そのうちの特定の動作に制限されずに、各動作における条件の変化を考慮して、各動作において正常動作中に誤作動することなく過負荷を確実に検出し安全に停止させることができる。

【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明によるロボットの実施形態図である。
【図2】本発明による把持動作の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好ましい実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0012】
図1(A)(B)は、本発明によるロボットの実施形態図である。
この図において、ロボット10は、複数の動作を実行する自動装置であり、エンドエフェクタ12、力センサ14、ロボットアーム16、及びロボット制御装置20を備える。
【0013】
複数の動作は、例えばワークの把持動作である。しかし、本発明はこれらの動作に限定させず、例えば組立、溶接、塗装等の動作であってもよい。
エンドエフェクタ12は、この例ではロボットハンドである。しかし、エンドエフェクタ12は、ロボットハンドに限定されず、その他のツール装置、例えば溶接用ヘッド、塗装用スプレイ装置等であってもよい。
【0014】
この図においてワーク1は、円筒形部材であり、その上端をロボットハンド12(エンドエフェクタ)が把持するようになっている。ワーク1は、この例では、作業台2の上に静置されている。
【0015】
ロボットハンド12は、図1(A)において水平に開閉する1対の爪12aを有し、1対の爪12aでワーク1を把持するようになっている。
【0016】
力センサ14は、エンドエフェクタ12に作用する外力を検出するセンサである。
この例において、力センサ14は直交3軸方向の力(Fx,Fy,Fz)と各軸まわりのトルク(Tx,Ty,Tz)を計測可能な6軸センサであり、3次元的に移動可能なロボットアーム16に取り付けられ、これに作用する6自由度の外力(3方向の力Fx,Fy,Fzと、3軸まわりのトルクTx,Ty,Tz)を検出するようになっている。
なお、本発明はこれに限定されず、エンドエフェクタ12に作用する外力が検出できる限りで、その他の力センサであってもよい。
【0017】
ロボットアーム16は、手先にロボットハンド12を取り付け、その位置と姿勢を3次元空間内で移動可能に構成されている。
ロボットアーム16は、この例では、多関節ロボットのロボットアームであるが、本発明はこれに限定されず、その他のロボットであってもよい。
【0018】
ロボット制御装置20は、記憶装置21にエンドエフェクタ12に作用する外力の閾値をロボット10の動作毎に予め設定して記憶し、ロボットアーム16を制御する。
ロボット制御装置20は、例えば数値制御装置であり、指令信号によりロボットアーム16を6自由度(3次元位置と3軸まわりの回転)に制御するようになっている。
【0019】
記憶装置21に記憶された各動作における外力の閾値の例を表1に示す。
【0020】
【表1】

【0021】
この例において、複数の動作は、(1)空荷で移動、(2)ワークを把持して搬送、(3)手先接触、(4)挿入又は押付けの4動作である。この各動作に対するが外力の閾値を、例えば表1のように予め設定し記憶装置21に記憶する。
また、この例では、(1)〜(4)の各動作における外力の閾値に対応して閾値番号を1〜4の整数で表している。
【0022】
図1において、(A)と(B)は、ロボットアーム16(すなわちエンドエフェクタ12)の姿勢の相違を示している。
エンドエフェクタ12が下向きの場合(A)とエンドエフェクタ12が横向きの場合(B)とを比較すると、同じ「空荷で移動」であっても、力センサ14で検出される力に相違が生じる。
従って、ロボットアーム16の姿勢を変更したときには、力センサ14に重畳されるエンドエフェクタ12又はワーク1の重量を減算する重力補償を実施することが好ましい。
【0023】
上述した装置を用い、本発明の方法は、S1〜S3の各ステップからなる。
S1では、外力の閾値をロボット10の動作毎に予め設定し、記憶装置21に記憶する。
この記憶内容は、例えば上述した表1の内容である。
S2では、ロボット制御装置20により、ロボットアーム16を制御して各動作を順次実行する。この動作は、例えば表1の(1)〜(4)の各動作である。
S3では、各動作の実行中に力センサ14で検出された外力が、記憶した閾値を超えた場合に、ロボットアーム16を停止する。
この場合、力センサ14の誤検出を回避するために、力センサ14のサンプリング周期に対し、3〜5サイクル連続で閾値を超えた場合に異常と判定しロボットアーム16を停止するのがよい。
【実施例1】
【0024】
図2は、本発明による把持動作の模式図である。
この例において、把持動作は、(1)計測位置への移動、(2)把持前位置移動、(3)把持位置移動、(4)把持後持上げ、(5)次動作への搬送の各動作からなる。
この各動作に対するが外力の閾値を、例えば表2のように予め設定し記憶装置21に記憶する。
なお、この例では、(1)〜(5)の各動作における外力の閾値を、表1の閾値番号で表している。
【0025】
【表2】

【0026】
(3)の「把持位置への移動」から、(4)の「把持後持上げ」が完了するまでの間は、表1の閾値番号3の「手先接触」によりZ方向の力センサ14の過荷重を検出しない。これにより、ロボット手先が部品トレイに接触したときのZ方向発生力を過剰検出しないようにすることができる。
(1)の「計測位置移動」、(2)の「把持前位置移動」は、ワーク1がないことから表1の閾値番号1の「空荷で移動」として扱う。
【0027】
上述した本発明の装置及び方法によれば、外力の閾値をロボットの動作毎に記憶しており、各動作の実行中に力センサで外力を検出するので、アームの動作状態に応じて、記憶した閾値を超えたときに異常と判定し、自動的にロボットアームを停止することができる。
従ってロボットが複数の動作を実行する場合に、そのうちの特定の動作に制限されずに、各動作における条件の変化を考慮して、各動作において正常動作中に誤作動することなく過負荷を確実に検出し安全に停止させることができる
【0028】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【符号の説明】
【0029】
1 ワーク、2 作業台、
10 ロボット、
12 エンドエフェクタ(ロボットハンド)、12a 爪、
14 力センサ、16 ロボットアーム、20 ロボット制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の動作を実行するロボットの制御方法であって、
エンドエフェクタに作用する外力を検出する力センサと、
3次元空間内でエンドエフェクタの位置と姿勢を移動可能なロボットアームと、
ロボットアームを制御するロボット制御装置とを備え、
(A)外力の閾値をロボットの動作毎に記憶し、
(B)ロボットアームを制御して各動作を順次実行し、
(C)各動作の実行中に力センサで検出された外力が、前記閾値を超えた場合に、ロボットアームを停止する、ことを特徴とするロボットの制御方法。
【請求項2】
複数の動作は、空荷で移動、ワークを把持して搬送、手先接触、挿入又は押付けである、ことを特徴とする請求項1に記載のロボットの制御方法。
【請求項3】
力センサに重畳されるエンドエフェクタ又はワークの重量を減算する重力補償を実施する、ことを特徴とする請求項1に記載のロボットの制御方法。
【請求項4】
力センサのサンプリング周期において、複数回連続して閾値を超えた場合に異常と判定しロボットアームを停止する、ことを特徴とする請求項1に記載のロボットの制御方法。
【請求項5】
複数の動作を実行するロボットであって、
エンドエフェクタに作用する外力を検出する力センサと、
3次元空間内でエンドエフェクタの位置と姿勢を移動可能なロボットアームと、
外力の閾値をロボットの動作毎に記憶し、ロボットアームを制御して各動作を順次実行するロボット制御装置とを備え、
各動作の実行中に力センサで検出された外力が、前記閾値を超えた場合に、ロボットアームを停止する、ことを特徴とするロボット。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−43232(P2013−43232A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−181174(P2011−181174)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】