説明

ロボットハンドおよび指機構

【課題】物体を変形あるいは毀損することなく把持するのに適したロボットハンドを提案すること。
【解決手段】ロボットハンド1は、リニアアクチュエータ5の作動ロッド5aの前後方向への伸縮動作を、リンク機構を介して左右の第1リンク11の開閉動作に変換している。リンク機構にはコイルバネからなる左右の中間リンク13が含まれている。左右の第1リンク11が把持対象の物体Wに当たると中間リンク13が弾性変形して伸び、物体Wを把持する力が中間リンク13の弾性変形によって徐々に増加する。物体Wに急激に大きな把持力が作用して、物体Wが変形する、毀損するなどの弊害を防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリンク機構から構成される指機構を備えたロボットハンドに関し、特に、変形しやすい柔軟な物体、破損しやすい脆弱な素材からなる物体などを把持するのに適したロボットハンド、および当該ロボットハンドを構成する指機構に関する。
【背景技術】
【0002】
ボールなどの物体を左右一対の把持爪によって把持する構成の把持機構あるいはロボットハンドとしては、駆動源からの駆動力をリンク機構を介して左右の把持爪の開閉運動に変換する機構のものが知られている。特許文献1には、直線運動するシリンダロッドの動きをリンク機構を介して最終段の左右のリンクを開閉する運動に変換する把持装置が開示されている。
【特許文献1】特開2000−218583号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
リンク機構を用いた把持機構あるいはロボットハンドでは、最終段の左右のリンクによる物体の把持あるいは保持のために、それらのリンクに加える把持力、保持力を制御するために、リンクの開閉位置に応じて、リンクに加えられるトルクを制御するようにしている。しかしながら、リンクの開閉位置に応じて適切な物体把持力あるいは物体保持力が得られるように、リンクに加わるトルクを制御することは困難であり、精度良く物体把持力あるいは物体保持力を調整することができない。
【0004】
特に、柔軟な物体を把持する場合には、物体がリンクによって押しつぶされて変形するので、リンクの位置制御に基づくトルク制御のみでは、柔軟な物体を押しつぶしてしまうことなく把持あるいは保持する制御が困難である。また、脆弱な素材からなる物体を把持する場合には物体を毀損してしまうおそれもある。さらに、リンクの位置制御に基づくトルク制御のみでは、適切な把持力あるいは保持力で把持あるいは保持可能な物体の大きさも制限される。
【0005】
本発明の課題は、このような点に鑑みて、変形あるいは毀損することなく物体を把持するのに適したロボットハンドの指機構および、当該指機構を用いたロボットハンドを提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明のロボットハンドの指機構、およびロボットハンドは以下の構成を備えたことを特徴としている。なお、括弧内の符号は本発明の実施の形態において使用したものであり、理解を容易にするために付してあり、本発明を実施の形態に限定することを意図したものではない。
【0007】
まず、本発明のロボットハンドの指機構は、
第1支点(12)を中心として予め定めた前後方向に延びる中立位置(11B)から左右に旋回可能な第1リンク(11)と、
前記第1支点(12)よりも後方側の位置に配置した第2支点(18)を中心として、前後方向に延びる中立位置(16B)から左右に旋回可能な第2リンク(16)と、
前記第1リンク(11)の前記第1支点(12)よりも後側の第1節点(14)に一端が連結され、前記第2リンク(16)の前記第2支点(18)よりも前側の第2節点(17)に他端が連結され、前記第1節点(14)および前記第2節点(17)が左右に接近および離れる方向に伸縮可能な弾性部材からなる中間リンク(13)と、
前記第2リンク(16)の前記第2支点(18)よりも後側の第3節点(21)に一端が連結され、左右方向に直線移動可能な第3リンク(20)と、
前記第3リンク(20)を直線往復移動させる駆動機構(5、6、23)とを有していることを特徴としている。
【0008】
本発明のロボットハンドの指機構では、リンク機構の中に、弾性部材から中間リンクが配置されている。駆動機構によって、第3リンク、第2リンクおよび中間リンクを介して第1リンクを第1支点を中心として左右に揺動させることにより、当該第1リンクによって対象物体を押し出すなどの操作を行うことができる。駆動機構の側から第1リンクに作用する力は中間リンクの弾性部材が緩衝部材として機能するので、対象物体に第1リンクが当たったときに大きな衝撃力が対象物体に作用することがない。
【0009】
よって、剛体からなるリンクのみから構成されているリンク機構を用いた指機構とは異なり、柔軟な材質からなる物体を変形させることなく操作する動作、脆弱な材質からなる物体を毀損することなく操作する動作などを簡単に実現できる。
【0010】
また、弾性部材からなる中間リンクを着脱可能に取り付けておけば、この中間リンクを交換することにより第1リンクから物体に加わる操作力を変えることができる。したがって、操作対象の物体に適した操作力を発生可能な指機構を簡単に実現できる。
【0011】
さらに、前記中間リンク(13)の前記第1節点(14)には、当該中間リンク(13)の伸縮を抑制するための減衰装置(31)が取り付けておくことができる。第1リンクによって物体を操作している状態において物体側から第1リンクに外力が作用すると、弾性部材からなる中間リンクが振動して第1リンクによる物体の操作状態が不安定になる可能性がある。このような弊害を防止するために減衰装置を取り付けておけば、第1リンクによる物体の操作状態を安定化させることができる。また、第1リンクによる物体の操作力の変動を抑制でき、操作力の制御もしやすくなる。
【0012】
さらには、前記第1リンク(11)の先端部に、前後方向に延びる中立位置を中心として左右に旋回可能な状態で物体把持部材(42)を取り付けておき、前記物体把持部材(42)における旋回中心の一方の側の部位と、前記第1リンク(11)における前記第1支点(12)よりも後側の部位との間に、定まった位置に配置した滑車(43、44)を経由させて第1ワイヤ(45)を架け渡し、前記物体把持部材(42)における前記旋回中心の他方の側の部位と、前記第2リンク(16)における前記第2支点(18)よりも先端側の部位との間に、前記滑車(43、44)を経由させて第2ワイヤ(46)を架け渡しておくことができる。
【0013】
物体に当たるまでは、第1リンク(把持側)と第2リンク(駆動側)の移動距離がほぼ同一であるので、第1ワイヤおよび第2ワイヤに連結されている物体把持部材は、第1リンクと一緒に移動し、それ自体が旋回することはない。物体把持部材が物体に当たった後は、把持側の第1リンクは移動が拘束されるが、駆動側の第2リンクは把持対象の物体に力を加えるために移動する。このため、第2リンクに連結した第2ワイヤのみが引かれ、物体把持部材の後端側が引かれ、先端側が物体側に傾く方向に旋回する。物体把持部材が物体に当たっているので、物体把持部材によって物体に加わる操作力が大きくなる。
【0014】
次に、上記構成の指機構を左右対称な状態で配置することにより、物体の把持および保持が可能なロボットハンドを構成することができる。
【0015】
すなわち、本発明のロボットハンド(1)は、
左右対称な位置にある左第1支点(12)および右第1支点(12)を中心として前後方向に延びる各中立位置(11B)から左右に旋回可能な左第1リンク(11)および右第1リンク(11)と、
前記左第1支点(12)および前記右第1支点(12)よりも後方側における左右対称な位置にある左第2支点(18)および右第2支点(18)を中心として、前後方向に延びる各中立位置(16B)から左右に旋回可能な左第2リンク(16)および右第2リンク(16)と、
前記左第1リンク(11)の前記左第1支点(12)よりも後側の左第1節点(14)に一端が連結され、前記左第2リンク(16)の前記左第2支点(18)よりも前側の左第2節点(17)に他端が連結され、前記左第1節点(14)および前記左第2節点(17)が左右に接近および離れる方向に伸縮可能な弾性部材からなる左中間リンク(13)と、
前記右第1リンク(11)の前記右第1支点(12)よりも後側の右第1節点(14)に一端が連結され、前記右第2リンク(16)の前記右第2支点(18)よりも前側の右第2節点(17)に他端が連結され、前記右第1節点(14)および前記右第2節点(17)が左右に接近および離れる方向に伸縮可能な弾性部材からなる右中間リンク(13)と、
前記左第2リンク(16)の前記左第2支点(18)よりも後側の左第3節点(21)に一端が連結され、左右方向に直線移動可能な左第3リンク(20)と、
前記右第2リンク(16)の前記右第2支点(18)よりも後側の右第3節点(21)に一端が連結され、左右方向に直線移動可能な右第3リンク(20)と、
前記左第3リンク(20)および前記右第3リンク(20)を逆向きに直線往復移動させる駆動機構(5、6、23)とを有していることを特徴としている。
【0016】
この構成のロボットハンドでは、駆動機構の駆動力が、左右の第3リンクから左右の第2リンクおよび左右の中間リンクを介して左右の第1リンクに伝達され、左右の第1リンクが開閉運動を行う。駆動機構によって左右の第3リンクを接近する方向に移動させると、左右の第1リンクが左右の第1支点を中心として、それらの先端側の部分が相互に閉じる方向に揺動し、これらの間の位置する物体を把持することができ、また、これらの間に物体を把持した保持状態にすることができる。
【0017】
駆動機構による駆動力は左右の弾性部材から中間リンクを介して左右の第1リンクに伝達されるので、これらの間に把持される物体に大きな把持力が急に加わることを防止できる。よって、柔軟な素材からなる物体を変形させることなく把持する動作、脆弱な素材からなる物体を毀損することなく把持する動作を簡単に実現することができる。
【0018】
また、左右の中間リンクを交換してそれらの弾性特性を変更することにより、左右の第1リンクによる把持力を把持対象の物体に適した把持力および保持力にすることができる。
【0019】
ここで、前記左中間リンク(13)の前記左第1節点(14)には、当該左中間リンク(13)の伸縮を抑制するための左減衰装置(31)を取り付け、前記右中間リンク(13)の前記右第1節点(14)には、当該右中間リンク(13)の伸縮を抑制するための右減衰装置(31)を取り付けておいてもよい。
【0020】
また、前記左第1リンク(11)の先端部には、前後方向に延びる中立位置を中心として左右に旋回可能な状態で左物体把持部材(42)を取り付けておき、前記左物体把持部材(42)における旋回中心の一方の側の部位と、前記左第1リンク(11)における前記左第1支点(12)よりも後側の部位との間には、定まった位置に配置した左滑車(43、44)を経由させて左第1ワイヤ(45)を架け渡たし、前記左物体把持部材(42)における前記旋回中心の他方の側の部位と、前記左第2リンク(16)における前記左第2支点(18)よりも先端側の部位との間には、前記左滑車(43、44)を経由させて左第2ワイヤ(46)を架け渡たしておくことができる。
【0021】
同様に、前記右第1リンク(11)の先端部には、前後方向に延びる中立位置を中心として左右に旋回可能な状態で右物体把持部材(42)を取り付けておき、前記右物体把持部材(42)における旋回中心の一方の側の部位と、前記右第1リンク(11)における前記右第1支点(12)よりも後側の部位との間には、定まった位置に配置した右滑車(43、44)を経由させて右第1ワイヤ(45)を架け渡し、前記右物体把持部材(42)における前記旋回中心の他方の側の部位と、前記右第2リンク(16)における前記右第2支点(18)よりも先端側の部位との間には、前記右滑車(43、44)を経由させて右第2ワイヤ(46)を架け渡しておくことができる。
【0022】
次に、前記駆動機構を、前後方向に直線往復移動する作動ロッドを備えたリニアアクチュエータと、前記作動ロッドに固定された左右方向に延びる駆動リンクと、前記駆動リンクの左端部および前記左第3リンクの右端部の間に連結された左第4リンクと、前記駆動リンクの右端部および前記右第3リンクの左端部の間に連結された右第4リンクとを備えた構成とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に、図面を参照して、本発明を適用したロボットハンドの実施の形態を説明する。
【0024】
(実施の形態1)
図1は実施の形態1に係るロボットハンドを示す概略構成図である。ロボットハンド1は、同一平面上において前後方向に延びる中心軸線2に対して左右対称な構造を備えた左指機構3および右指機構4と、これらを駆動するためのリニアアクチュエータ5とを有している。
【0025】
左指機構3は直線状の剛体部材からなる左第1リンク11を備えており、この左第1リンク11はその軸線方向の中央よりも後側の左第1支点12を中心として、外側(左側)に旋回した開き位置11Aから前後方向に延びる中立位置11Bを経由して内側(右側)に旋回した閉じ位置11Cまでの間を旋回可能である。左第1リンク11の後端部11bには、左右方向に延びる左中間リンク13の内側の端部13bが回転可能に連結された第1節点14が形成されている。第1節点14はリニアガイド15によって左右方向にのみ移動可能であると共に、左第1リンク11の旋回を許容可能な状態で、その後端部11bを支持している。
【0026】
中間リンク13は弾性部材、本例では引張りコイルバネから構成されている。この中間リンク13の外側の端部13aには、直線状の剛体部材からなる左第2リンク16の前端部16aが回転可能に連結された第2節点17が形成されている。左第2リンク16はその軸線方向の中央の左第2支点18を中心として、内側に旋回した閉じ位置16Aから前後方向に延びる中立位置16Bを経由して外側に旋回した開き位置16Cまでの間を旋回可能である。第2節点17は、リニアガイド19によって左右方向にのみ移動可能であると共に、左第2リンク16の旋回を許容可能な状態で、その前端部16aを支持している。
【0027】
左第2リンク16の後端部16bには、直線状の剛体部材からなる左第3リンク20の外側の端部20aが連結された第3節点21が形成されている。第3節点21は、リニアガイド22によって左右方向にのみ移動可能であると共に、左第2リンク16の旋回を許容可能な状態で、その後端部16bを支持している。
【0028】
左第3リンク20の内側の端部20bには、直線状の剛体部材からなる左第4リンク23の外側の端部23aが回転可能に連結された第4節点24が形成されている。第4節点24はリニアガイド25によって左右方向にのみ移動可能である。
【0029】
左第4リンク23の内側の端部23bには、左右方向に延びる直線状の剛体部材からなる駆動リンク6の左側の端部6aに回転可能に連結された第5節点26が形成されている。駆動リンク6は、リニアアクチュエータ5の前後方向に伸縮する作動ロッド5aの先端部に左右方向に延びる状態で固定されている。
【0030】
右指機構4は、先に述べたように左指機構3と中心軸線2に対して左右対称な構造となっている。したがって、右指機構4の説明は省略し、以下の動作説明に当たっては対応する部位には左指機構3において使用した符号と同一の符号を用いるものとする。
【0031】
図2および図3はロボットハンド1の物体把持動作を示す説明図である。ロボットハンド1は、図1に示すように、左右の第1リンク11が開き位置11Aにある。この状態で、把持対象の物体Wがこれらの間に位置するように、ロボットハンド1を不図示の駆動機構を用いて位置決めする。
【0032】
リニアアクチュエータ5を駆動して作動ロッド5aを図1に示す引き込み位置から前方に押し出すと、そこに固定されている駆動リンク6が前方に押し出される。駆動リンク6が前方に押し出されると、そこに連結されている左右の第4リンク23は内側の端部23bが前方に押し出され、その外側の端部23bがリニアガイド25によってガイドされて内側に引き寄せられる。これにより、左右の第4リンク23に連結されている左右の第3リンク20も内側に引かれ、その外側の端部20aに後端16bが連結されている左右の第2リンク16が第2支点18を中心として内側の閉じ位置16Aから外側に開く。この左右の第2リンク16に左右の中間リンク13を介して連結されている左右の第1リンク11が、第1支点12を中心として外側の開き位置11Aから内側に閉じる。図2は、左右の第1リンク11および左右の第2リンク16が前後方向に延びる中立位置11B、16Bまで旋回した状態を示してある。
【0033】
リニアアクチュエータ5を更に駆動して作動ロッド5aを前進させると、図3に示すように、左右の第1リンク11の先端側の部分が、これらの間に位置している把持対象の物体Wの両側に当たった把持状態になる。この後は、リニアアクチュエータ5の作動ロッド5aを前進させて左右の第2リンク16を開き位置16Cまで開く。左右の第1リンク11は物体Wに当たっているので移動せず、第1リンク11と第2リンク16を連結しているコイルばねからなる中間リンク13が伸張する。したがって、中間リンク13の伸張に伴って増加するばね力が左右の第1リンク11による物体保持力して作用して、物体Wが保持された状態が形成される。
【0034】
このように、左右の第1リンク11が物体Wに当たった後に、物体Wを把持する力が徐々に増加する。左右の第1リンク11による物体把持位置(物体当接位置)の如何に拘りなく、物体把持後に徐々に把持力が増加する。中間リンク13の弾性特性を適切に設定しておけば、柔軟な物体を変形させることなく把持できる。また、脆弱な物体であっても毀損することなく把持することができる。また、中間リンク13を着脱可能にしておけば、適切な弾性特性を備えた中間リンクに交換することにより、把持対象の物体に応じた把持力を簡単に得ることができる。
【0035】
(実施の形態2)
図4は本発明を適用した実施の形態2に係るロボットハンドを示す概略構成図である。ロボットハンド1Aの基本構成は実施の形態1のロボットハンド1と同一であるので、対応する部位には同一の符号を付し、それらの説明は省略する。
【0036】
ロボットハンド1Aは、左中間リンク13および右中間リンク13の振動を抑制するための左減衰装置31および右減衰装置31が備わっている。左減衰装置31は左中間リンク13の内側の第1節点14に連結されている。同様に、右減衰装置31は右中間リンク13の内側の第1節点14に連結されている。
【0037】
図4に示すように、引張りコイルバネからなる中間リンク31を伸ばした状態で物体Wを把持した場合、引張りコイルバネによる振動が発生する。そのため、物体Wの把持力も変動してしまう。減衰装置31を取り付けることにより、この変動を抑制でき、物体Wに対して安定した力をかけることが可能になる。また、力の変動が少なくなるので、把持力の制御がよりし易くなるという利点もある。
【0038】
なお、把持対象の物体Wの柔軟性などの特性、中間リンク13の弾性特性に応じて、減衰装置31の減衰特性を適切なものに設定すればよい。
【0039】
(実施の形態3)
図5は本発明を適用した実施の形態3に係るロボットハンドを示す概略構成図であり、その左側の部分のみを示してある。ロボットハンド1Bの基本構成も実施の形態1のロボットハンド1と同一であるので、対応する部位には同一の符号を付し、それらの説明は省略する。
【0040】
ロボットハンド1Bの左指機構3Bは、左第1リンク11の先端に、左旋回軸41を中心として左右に旋回可能な状態で左物体把持部材42が取り付けられている。左物体把持部材42における旋回軸41よりも先端側の部位と、左第1リンク11における左第1支点12の後側の部位との間には、定まった位置に配置した2個の左滑車43、44を介して、左第1ワイヤ45が架け渡されている。左滑車43は左第1支点12よりも前側の位置し、左滑車44は後側に位置しており、左第1ワイヤ45は左滑車43の外側に架け渡され、左滑車44の内側に架け渡されている。
【0041】
また、左物体把持部材42における旋回軸41よりも後側の部位と、左第2リンク16における左第2支点18よりも先端側の部位との間には、左滑車43、44を介して、左第2ワイヤ46が架け渡されている。第2ワイヤ46も第1ワイヤ45と同一の側から左滑車43、44にそれぞれ架け渡されている。なお、ロボットハンド1Bの右指機構も左指機構3Bと同一構成であり、左右対称の構造となっている。
【0042】
物体Wに左右の第1リンク11の先端の左右の物体把持部材42が当たるまでは、第1リンク11と第2リンク16の移動量が同一であり、物体把持部材42は旋回することなく、第1リンク11と一緒に移動する。
【0043】
この構成によれば、物体Wに当たった後は、引張りコイルバネからなる中間リンク13によって規定される把持力よりも強い把持力で物体Wを把持することができる。すなわち、駆動側の第2リンク16を更に把持方向に旋回させると、第1リンク11は移動しないので第1ワイヤ45が引かれることは無いが、駆動側の第2リンク16が移動すると、第2ワイヤ46が引かれ、物体把持部材42は旋回軸41を中心として先端側が物体側に傾斜する方向に引かれる。この結果、物体把持部材42が旋回して物体Wに対する把持力が増加する。このため、剛体あるいは重量の大きな物体Wを把持する場合に適している。
【0044】
なお、第1ワイヤ45を物体把持部材42における旋回軸41の先端側に連結し、第2ワイヤ46をその後側に連結しておいてもよい。いずれの場合においても、物体Wを把持するまでは物体把持部材42が第1リンク11と一体となって移動し、しかる後に、第2ワイヤ46によって物体把持部材42を旋回できるようにすればよい。
【0045】
(その他の実施の形態)
上記の例では、2組の指機構を用いてロボットハンドを構成している。1組の指機構のみを用いて物体を操作することも可能であり、3組以上の指機構を用いてロボットハンドを構成することも可能である。また、中間リンクにコイルバネを用いているが、コイルバネ以外の弾性部材を用いることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明を適用した実施の形態1に係るロボットハンドを示す概略構成図である。
【図2】図1のロボットハンドの物体把持動作を示す説明図である。
【図3】図1のロボットハンドの物体把持動作を示す説明図である。
【図4】本発明を適用した実施の形態2に係るロボットハンドを示す概略構成図である。
【図5】本発明を適用した実施の形態3に係るロボットハンドを示す部分概略構成図、および物体把持部材が取り付けられている部分を示す説明図である。
【符号の説明】
【0047】
1 ロボットハンド
2 中心軸線
3 左指機構
4 右指機構
5 リニアアクチュエータ
5a 作動ロッド
6 駆動リンク
11 第1リンク
12 第1支点
13 中間リンク
14 第1節点
15 リニアガイド
16 第2リンク
17 第2節点
18 第2支点
19 リニアガイド
20 第3リンク
21 第3節点
22 リニアガイド
23 第4リンク
24 第4節点
25 リニアガイド
26 第5節点
31 減衰装置
41 旋回軸
42 物体把持部材
43、44 滑車
45 第1ワイヤ
46 第2ワイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1支点(12)を中心として前後方向に延びる中立位置(11B)から左右に旋回可能な第1リンク(11)と、
前記第1支点(12)よりも後方側の位置に配置した第2支点(18)を中心として、前後方向に延びる中立位置(16B)から左右に旋回可能な第2リンク(16)と、
前記第1リンク(11)の前記第1支点(12)よりも後側の第1節点(14)に一端が連結され、前記第2リンク(16)の前記第2支点(18)よりも前側の第2節点(17)に他端が連結され、前記第1節点(14)および前記第2節点(17)が左右に接近および離れる方向に伸縮可能な弾性部材からなる中間リンク(13)と、
前記第2リンク(16)の前記第2支点(18)よりも後側の第3節点(21)に一端が連結され、左右方向に直線移動可能な第3リンク(20)と、
前記第3リンク(20)を直線往復移動させる駆動機構(5、6、23)とを有していることを特徴とするロボットハンドの指機構(3、4)。
【請求項2】
請求項1に記載のロボットハンドの指機構(3、4)において、
前記中間リンク(13)は前記第1節点(14)および前記第2節点(17)に対して取り外し可能な状態で連結されていることを特徴とするロボットハンドの指機構(3、4)。
【請求項3】
請求項1または2に記載のロボットハンドの指機構において、
前記中間リンク(13)の前記第1節点(14)には、当該中間リンク(13)の伸縮を抑制するための減衰装置(31)が取り付けられていることを特徴とするロボットハンドの指機構(3、4)。
【請求項4】
請求項1ないし3のうちのいずれかの項に記載のロボットハンドの指機構において、
前記第1リンク(11)の先端部には、前後方向に延びる中立位置を中心として左右に旋回可能な状態で物体把持部材(42)が取り付けられており、
前記物体把持部材(42)における旋回中心の一方の側の部位と、前記第1リンク(11)における前記第1支点(12)よりも後側の部位との間には、定まった位置に配置した滑車(43、44)を経由させて第1ワイヤ(45)が架け渡されており、
前記物体把持部材(42)における前記旋回中心の他方の側の部位と、前記第2リンク(16)における前記第2支点(18)よりも先端側の部位との間には、前記滑車(43、44)を経由させて第2ワイヤ(46)が架け渡されていることを特徴とするロボットハンドの指機構(3B)。
【請求項5】
左右対称な位置にある左第1支点(12)および右第1支点(12)を中心として前後方向に延びる各中立位置(11B)から左右に旋回可能な左第1リンク(11)および右第1リンク(11)と、
前記左第1支点(12)および前記右第1支点(12)よりも後方側における左右対称な位置にある左第2支点(18)および右第2支点(18)を中心として、前後方向に延びる各中立位置(16B)から左右に旋回可能な左第2リンク(16)および右第2リンク(16)と、
前記左第1リンク(11)の前記左第1支点(12)よりも後側の左第1節点(14)に一端が連結され、前記左第2リンク(16)の前記左第2支点(18)よりも前側の左第2節点(17)に他端が連結され、前記左第1節点(14)および前記左第2節点(17)が左右に接近および離れる方向に伸縮可能な弾性部材からなる左中間リンク(13)と、
前記右第1リンク(11)の前記右第1支点(12)よりも後側の右第1節点(14)に一端が連結され、前記右第2リンク(16)の前記右第2支点(18)よりも前側の右第2節点(17)に他端が連結され、前記右第1節点(14)および前記右第2節点(17)が左右に接近および離れる方向に伸縮可能な弾性部材からなる右中間リンク(13)と、
前記左第2リンク(16)の前記左第2支点(18)よりも後側の左第3節点(21)に一端が連結され、左右方向に直線移動可能な左第3リンク(20)と、
前記右第2リンク(16)の前記右第2支点(18)よりも後側の右第3節点(21)に一端が連結され、左右方向に直線移動可能な右第3リンク(20)と、
前記左第3リンク(20)および前記右第3リンク(20)を逆向きに直線往復移動させる駆動機構(5、6、23)とを有していることを特徴とするロボットハンド(1、1A、1B)。
【請求項6】
請求項5に記載のロボットハンドにおいて、
前記左中間リンク(13)および前記右中間リンク(13)は着脱可能な状態で取り付けられていることを特徴とするロボットハンド(1、1A、1B)。
【請求項7】
請求項5または6に記載のロボットハンドにおいて、
前記左中間リンク(13)の前記左第1節点(14)には、当該左中間リンク(13)の伸縮を抑制するための左減衰装置(31)が取り付けられており、
前記右中間リンク(13)の前記右第1節点(14)には、当該右中間リンク(13)の伸縮を抑制するための右減衰装置(31)が取り付けられていることを特徴とするロボットハンド(1、1A、1B)。
【請求項8】
請求項5ないし7のうちのいずれかの項に記載のロボットハンドにおいて、
前記左第1リンク(11)の先端部には、前後方向に延びる中立位置を中心として左右に旋回可能な状態で左物体把持部材(42)が取り付けられており、
前記左物体把持部材における旋回中心よりも一方の側の部位と、前記左第1リンク(11)における前記左第1支点(12)よりも後側の部位との間には、定まった位置に配置した左滑車(43、44)を経由させて左第1ワイヤ(45)が架け渡されており、
前記左物体把持部材(42)における前記旋回中心の他方の側の部位と、前記左第2リンク(16)における前記左第2支点(18)よりも先端側の部位との間には、前記左滑車(43、44)を経由させて左第2ワイヤ(46)が架け渡されており、
前記右第1リンク(11)の先端部には、前後方向に延びる中立位置を中心として左右に旋回可能な状態で右物体把持部材(42)が取り付けられており、
前記右物体把持部材における旋回中心の一方の側の部位と、前記右第1リンク(11)における前記右第1支点(12)よりも後側の部位との間には、定まった位置に配置した右滑車(43、44)を経由させて右第1ワイヤ(45)が架け渡されており、
前記右物体把持部材(42)における前記旋回中心の他方の側の部位と、前記右第2リンク(16)における前記右第2支点(18)よりも先端側の部位との間には、前記右滑車(43、44)を経由させて右第2ワイヤ(46)が架け渡されていることを特徴とするロボットハンド(1B)。
【請求項9】
請求項5ないし8のうちのいずれかの項に記載のロボットハンドにおいて、
前記駆動機構は、
前後方向に直線往復移動する作動ロッドを備えたリニアアクチュエータ(5)と、
前記作動ロッド(5a)に固定された左右方向に延びる駆動リンク(6)と、
前記駆動リンク(6)の左端部および前記左第3リンク(20)の右端部の間に連結された左第4リンク(23)と、
前記駆動リンク(6)の右端部および前記右第3リンク(20)の左端部の間に連結された右第4リンク(23)とを有していることを特徴とするロボットハンド(1、1A、1B)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−262247(P2009−262247A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−111572(P2008−111572)
【出願日】平成20年4月22日(2008.4.22)
【出願人】(390040051)株式会社ハーモニック・ドライブ・システムズ (91)
【Fターム(参考)】