説明

ロータリーカム式プレス装置

【課題】負角成形されたワークから負角成形型を直ぐさま引き離すことのできるロータリーカム式プレス装置を提供する。
【解決手段】ワークWを保持する下型2と、前記下型に回動自在に設けられ、負角成形型30を有するロータリーカム3と、前記下型においてシーソー状に回動自在に軸支され、前端側7aにより前記ロータリーカムを押圧可能なスライド板7とを備え、上吊カム10は、前記スライド板に沿って前進可能に設けられ、前記上吊カムが前記スライド板に沿って前進することにより前記スライド板の前端側が前記ロータリーカムを押圧し、前記上吊カムが前記負角成形型に対して圧接可能な状態となされ、前記上吊カムが後退することにより前記スライド板の前記ロータリーカムに対する押圧状態が解除され、前記負角成形型が前記ワークから引き離される方向に前記ロータリーカムが回動可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば板状のワークの端部に寄曲げ加工等の負角成形を行うプレス装置に関し、特にロータリーカム式プレス装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車の製造工程において、板状のワークの端部に寄曲げ加工等の負角成形を行う場合、従来、特許文献1に示すようにロータリーカム式のプレス装置が用いられている。
従来一般に用いられるロータリーカム式プレス装置の構成について図9、図10に基づき説明する。図9は、従来のロータリーカム式プレス装置の動作状態を示す断面図、図10はその動作の流れを示すフローである。
【0003】
図9に示すロータリーカム式プレス装置50は、下型本体51のカム溝51aに、断面が略円弧状のロータリーカム52が回動自在に設けられ、このロータリーカム52は、シリンダ56により、常時所定の一方向(図9では右回り)に回動力が与えられている。
また、下型51には、板状のワークWが固定保持されるポンチ53が設けられ、ロータリーカム52にはワーク加工時に前記ポンチ53と共にワークWを保持するための端面52aが形成されている。また、ロータリーカム52には、前記端面52aと所定の断面角度をなす加工面52bが形成されている。
【0004】
また、ロータリーカム52において、前記加工面52bと対向する面には、スライド板54が設けられ、このスライド板54によって、上方から下降移動してきた上吊カム55の加工刃55aをロータリーカム52へ案内する構成となされている。
【0005】
このような従来のロータリーカム式プレス装置50においては、ポンチ53にワークWがセットされると、上吊カム55が垂直下方に移動を開始する。
そして、図9(a)に示すように、上吊カム55の加工刃55aがスライド板54に接すると、ロータリーカム52は、シリンダ56による回動力よりも大きい上吊カム55の押圧力により、図中左回りに回動を開始する(図10のステップS1)。
【0006】
図9(b)に示すように、スライド板54が下型51に当接し、ロータリーカム52の回動が停止すると(図10のステップS2)、上吊カム55の加工刃55aがスライド板54に沿って摺動し、ロータリーカム52の加工面52bに向けて前進開始する(図10のステップS3)。尚、このとき前記ポンチ53の上面と端面52aとは略面一に連続する状態となる。
図9(c)に示すように上吊カム55のスライド移動が下死点(ストローク最下点)に達すると、それと同時に、加工刃55aと加工面52bとの間でワークWの端部が挟まれて寄曲げ加工され、負角成形が完了する(図10のステップS4)。
【0007】
ワークWの負角成形がなされると、上吊カム55の加工刃55aは、図9(d)に示すようにスライド板54に沿って斜め上方へ後退開始する(図10のステップS5)。これにより、加工刃55aは加工面52bから離れる。
そして、上吊カム55の加工刃55aの後退が完了すると、図9(e)に示すように、上吊カム55は垂直上方へ移動し、それに伴いロータリーカム52は戻り方向(右回り)に回動し、その端面52aがワークWから離れ、ワークWが取り外し可能となる(図10のステップS6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−226672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように従来のロータリーカム式プレス装置にあっては、加工成形されたワーク端部の負角状態を解消するために、ロータリーカム52を(シリンダ56の駆動力により)回動させ、その加工面52bをワークWから引き離している。
しかしながら、上吊カム55が垂直上方に所定距離を移動しなければ、ロータリーカム52を十分に回動させて負角状態を解消することができず、上吊カム55の上昇タイミングよりもワークWを引き上げるタイミングが遅くなっていた。
その結果、ワークWを引き上げるためのタイミングの設定可能範囲が制限され、その設定が困難であるという課題があった。
また、ワークWの引き上げタイミングを遅延調整するためのスプリング等の部材が上型に必要となり、コストが嵩むという課題があった。
【0010】
本発明は、前記した点に着目してなされたものであり、ロータリーカムに形成された負角形成型に対し上吊カムを圧接し、板状ワークの負角形成を行うロータリーカム式プレス装置において、負角成形された前記ワークから前記負角成形型を直ぐさま引き離すことのできるロータリーカム式プレス装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記した課題を解決するために、本発明に係るロータリーカム式プレス装置は、ワークを介して上吊カムを負角成形型に対して圧接し、前記ワークの負角成形を行うロータリーカム式プレス装置であって、前記ワークを保持する下型と、前記下型に回動自在に設けられ、前記負角成形型を有するロータリーカムと、前記下型においてシーソー状に回動自在に軸支され、前端側により前記ロータリーカムを押圧可能なスライド板とを備え、前記上吊カムは、前記スライド板に沿って前進可能に設けられ、前記上吊カムが前記スライド板に沿って前進することにより前記スライド板の前端側が前記ロータリーカムを押圧し、前記上吊カムが前記負角成形型に対して圧接可能な状態となされ、前記上吊カムが後退することにより前記スライド板の前記ロータリーカムに対する押圧状態が解除され、前記負角成形型が前記ワークから引き離される方向に前記ロータリーカムが回動可能となることに特徴を有する。
【0012】
尚、前記シーソー状に軸支されるスライド板において、該スライド板が回動する支点は前端側に設けられていることが望ましい。
また、前記負角成形型が前記ワークから引き離される方向へ前記ロータリーカムに回動力を与える回動駆動部を備え、前記上吊カムが前記スライド板に沿って前進することにより生じる前記スライド板の前記ロータリーカムへの押圧力は、前記回動駆動部の回動力よりも大きいことが望ましい。
また、前記下型には、前記上吊カムが前記スライド板に沿って前進する際に、前記上吊カムが摺動可能な衝撃緩衝部材が設けられていることが望ましい。
【0013】
このように構成することにより、上吊カムの上昇開始時において、既にワークから負角形成部が引き離されている状態となされ、少なくとも上吊カムと同時にワークを引き上げることができる。
その結果、ワークを引き上げるためのタイミングの設定可能範囲が広くなり、その設定作業を容易なものとすることができる。
また、従来のように、ワークの引き上げタイミングを遅延調整するための部材が不要となるため、コストを低減することができ、また、生産効率を向上することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ロータリーカムに形成された負角形成型に対し上吊カムを圧接し、板状ワークの負角形成を行うロータリーカム式プレス装置において、負角成形された前記ワークから前記負角成形型を直ぐさま引き離すことのできるロータリーカム式プレス装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明に係るロータリーカム式プレス装置の下型を模式的に示す平面図である。
【図2】図2は、図1のA−A矢視断面図である。
【図3】図3は、図1のB−B矢視断面図である。
【図4】図4は、図1のロータリーカム式プレス装置の一連の動作の流れを示すフローである。
【図5】図5は、図1のロータリーカム式プレス装置の動作状態を説明するための図である。
【図6】図6は、図1のロータリーカム式プレス装置の動作状態を説明するための図である。
【図7】図7は、図1のロータリーカム式プレス装置の動作状態を説明するための図である。
【図8】図8は、図1のロータリーカム式プレス装置の動作状態を説明するための図である。
【図9】図9は、従来のロータリーカム式プレス装置の動作状態を説明するための図である。
【図10】図10は、従来のロータリーカム式プレス装置の一連の動作の流れを示すフローである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明にかかる実施の形態につき、図に示す実施の形態に基づいて説明する。図1は、この発明に係るロータリーカム式プレス装置の下型を模式的に示す平面図であり、図2は、図1のA−A矢視断面図、図3は、図1のB−B矢視断面図である。尚、図2、図3には、上型に設けられた上吊カムを加えて示す。
【0017】
最初に図1、図2に基づき構成を説明すると、このロータリーカム式プレス装置1は、下型2を備え、この下型2には、円弧面を有するカム溝2aが設けられている。カム溝2aには、略円弧柱状のロータリーカム3が回動自在に装着されている。
また、下型2上には、ワークWを保持するためのポンチ4が設けられ、前記ロータリーカム3は、ワーク成形時に前記ポンチ4のワーク保持面と略面一に連続する端面3aを有している。また、ロータリーカム3には、前記端面3aと所定の断面角度をなす加工面3bが形成されている。これら端面3aと加工面3bとにより負角成形型30が構成される。
【0018】
また、ロータリーカム3にはエアシリンダ5(回動駆動部)が接続され、このエアシリンダ5により所定方向(図中右回り)の回動力が常時与えられている。
また、ロータリーカム3の一端側において、下型2には、前記ロータリーカム3の加工面3bと対向する側に、支持部材6によってシーソー状に軸支されたスライド板7が回動自在に設けられている。より具体的には、支持部材6がスライド板7を軸支する支点6aは、スライド板7の前端側7a寄りに設けられ、これにより外力が加えられないときには後端側7bの自重により後端側7bが下型2に当接するよう傾く構成となされている。
【0019】
また、下型2の上方には、上型(図示せず)に取り付けられた上吊カム10が垂直及び斜め方向に昇降移動可能に設けられている。この上吊カム10の先端には、ワークWの端部W1をロータリーカム3の加工面3bとの間に挟み込み、寄曲げ加工するための加工刃10aが設けられている。
【0020】
尚、この上吊カム10により前記スライド板7が下方に押圧されると、スライド板7の前端側7aがロータリーカム3の被押圧面3cを押圧してロータリーカム3を図中左回り(シリンダ5による回動力とは逆の方向)に回動させ、上吊カム10の加工刃10aを負角成形型30の加工面3bへ案内するための経路が確保される。
【0021】
続いて、図3に基づき、さらに構成を説明する。
ロータリーカム3の他端側においては、前記のスライド板7及び支持部材6は設けられず、ワーク加工時に上吊カム10が摺動可能なストッパ部材8(衝撃緩衝部材)が下型2に設けられる。
このストッパ部材8を設けることによりスライド板7及び支持部材6に対する上吊カム10からの衝撃を緩衝することができる。
また、ロータリーカム3には、上吊カム10が前記ストッパ部材8に沿って摺動する際に、ストッパ部材8の摺動面に連続するスライド板9が設けられている。
【0022】
このように構成されたロータリーカム式プレス装置1の一連の動作について、図4に基づき、図5乃至図8を用いて説明する。
先ず、図5(a)及び図6(a)に示すように、ポンチ4にワークWがセットされると、上吊カム10が垂直下方へ移動を開始する(図4のステップST1)。
【0023】
図5(b)及び図6(b)に示すように、下降する上吊カム10がスライド板7に接すると、スライド板7の先端側7aがロータリーカム3の被押圧面3cを押圧する。ここで、シリンダ5による回動力よりもスライド板7による押圧力が大きく、ロータリーカム3はシリンダ5による回動力の方向とは逆方向(図中左回り)に回動する(図4のステップST2)。
そして、図5(c)及び図6(c)に示すように、スライド板7に沿って加工面3bへの経路が確保される。
また、このとき上吊カム10がストッパ部8に接するため、スライド板7に対する上吊カム10からの衝撃が緩衝される。
【0024】
スライド板7に沿って加工面3bへの経路が確保されると、上吊カム10の加工刃10aは、加工面3bへ向けてスライド板7に沿って(斜め下方へ)前進する(図4のステップST3)。
そして、図7(a)及び図8(a)に示すように、上吊カム10が下死点に達して前進完了すると、上吊カム10の加工刃10aが加工面3bに対して圧接され、ワーク端部W1の負角成形が同時に完了する(図4のステップST4)。
【0025】
ワークWの加工後、上吊カム10は、図7(b)及び図8(b)に示すように、斜め上方へ戻る方向に後退開始する。これにより、直ぐさまシーソー状に支持されたスライド板7は、その後端側7bへ傾く。また、このとき、スライド板7の前端側7aのロータリーカム3に対する押圧状態が解除され、ロータリーカム3は、シリンダ5の回動力によって(図中右回りに)回動開始する。
その結果、ロータリーカム3の負角成形型30(端面3a及び加工面3b)は、ワークWから引き離され、ワーク端部の負角状態が解消される(図4のステップST5)。
【0026】
上吊カム10の斜め上方への後退移動が完了すると、図7(c)及び図8(c)に示すように、上吊カム10は垂直上方へ移動開始する(図4のステップST6)。
このとき、ワークWの端部W1における負角状態は既に解消されているため、上吊カム10の上昇開始と共に、ワークWはポンチ4と引き離され、上方へと移動開始される。
【0027】
以上のように本実施の形態に係るロータリーカム式プレス装置によれば、下型2にシーソー状のスライド板7が設けられ、上吊カム10の前進時に、前記スライド板7によりロータリーカム3を押圧して回動させ、負角成形可能な状態となされる。また、上吊カム10の後退開始に伴い、前記スライド板7によるロータリーカム3への押圧状態を解除し、ワークWから負角成形型30を引き離す方向にロータリーカム3が回動される。
これにより、上吊カム10の上昇開始時において、既にワークWから負角形成部30が引き離されている状態となされ、少なくとも上吊カム10と同時にワークWを引き上げることができる。
その結果、ワークWを引き上げるためのタイミングの設定可能範囲が広くなり、その設定作業を容易なものとすることができる。
また、従来のように、ワークWの引き上げタイミングを遅延調整するための部材が不要となるため、コストを低減することができ、また、生産効率を向上することができる。
【符号の説明】
【0028】
1 ロータリーカム式プレス装置
2 下型
3 ロータリーカム
3a 端面
3b 加工面
3c 被押圧面
4 ポンチ
5 エアシリンダ(回動駆動部)
6 支持部材
7 スライド部材
7a 前端側
7b 後端側
8 ストッパ部材(衝撃緩衝部材)
9 スライド板
10 上吊カム
10a 加工刃
30 負角成形部
W ワーク
W1 ワーク端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを介して上吊カムを負角成形型に対して圧接し、前記ワークの負角成形を行うロータリーカム式プレス装置であって、
前記ワークを保持する下型と、
前記下型に回動自在に設けられ、前記負角成形型を有するロータリーカムと、
前記下型においてシーソー状に回動自在に軸支され、前端側により前記ロータリーカムを押圧可能なスライド板とを備え、
前記上吊カムは、前記スライド板に沿って前進可能に設けられ、
前記上吊カムが前記スライド板に沿って前進することにより前記スライド板の前端側が前記ロータリーカムを押圧し、前記上吊カムが前記負角成形型に対して圧接可能な状態となされ、
前記上吊カムが後退することにより前記スライド板の前記ロータリーカムに対する押圧状態が解除され、前記負角成形型が前記ワークから引き離される方向に前記ロータリーカムが回動可能となることを特徴とするロータリーカム式プレス装置。
【請求項2】
前記シーソー状に軸支されるスライド板において、該スライド板が回動する支点は前端側に設けられていることを特徴とする請求項1に記載されたロータリーカム式プレス装置。
【請求項3】
前記負角成形型が前記ワークから引き離される方向へ前記ロータリーカムに回動力を与える回動駆動部を備え、
前記上吊カムが前記スライド板に沿って前進することにより生じる前記スライド板の前記ロータリーカムへの押圧力は、前記回動駆動部の回動力よりも大きいことを特徴とする請求項1または請求項2に記載されたロータリーカム式プレス装置。
【請求項4】
前記下型には、前記上吊カムが前記スライド板に沿って前進する際に、前記上吊カムが摺動可能な衝撃緩衝部材が設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載されたロータリーカム式プレス装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−67824(P2011−67824A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−218571(P2009−218571)
【出願日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(000157083)関東自動車工業株式会社 (1,164)
【Fターム(参考)】