説明

ロータ及び過給機

【課題】製造コストを削減できるロータ及び該ロータを備える過給機を提供すること。
【解決手段】本発明に係るロータ5は、回転翼7と支持軸6とが一体的に接続されたロータであって、支持軸6はその軸方向での端面61に形成された嵌合凹部62を有し、回転翼7は耐熱合金を用いて成形されると共に軸方向で突出する嵌合凸部71を有し、嵌合凸部71は嵌合凹部62に嵌合しているという構成を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造のコストを削減するに好適な、回転翼と支持軸とからなるロータ、及び該ロータを備える過給機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両や船舶等において、内燃機関から導入された排気ガスのエネルギーを利用して空気を圧縮し、圧縮した空気を内燃機関に供給して、内燃機関の性能を向上させる過給機が使用されている。このような過給機では、回転翼と支持軸とが一体的に接続され、排気ガスの流動によって回転するロータが用いられている。回転翼の周囲には高温の排気ガスが流動するため、回転翼は高い耐熱性を備える材料、例えばニッケル系の耐熱合金等を用いて成形される。一方、排気ガスが直接接しない支持軸は、高い剛性を備える一般的な材料、例えばクロムモリブデン鋼を用いて成形されている。
【0003】
また、ロータは排気ガスの流動によって高速で回転することから、振動並びに振動を原因とする効率の低下及び破損等を防止するために、回転翼の回転中心(すなわち、回転翼の重心位置)と、支持軸の軸中心とを精度良く位置決めすることが求められている。例えば、特許文献1に示すロータにおいては、支持軸の軸方向での端面に凸部を設け、回転翼には上記凸部と嵌合できる凹部を設け、凸部を凹部に嵌合させることで回転翼の回転中心と支持軸の軸中心とを精度良く位置決めしている。なお、凸部に凹部を嵌合させ、回転翼と支持軸とを一体的に接続した後に、ロータ全体としてのバランスを向上させるため、回転翼に対する調整(研削等)が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3293712号(第3頁、第3図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述したような従来技術には、以下のような課題が存在する。
回転翼における凹部は、切削加工によって形成される。ここで、ニッケル系の耐熱合金を用いて回転翼を成形する場合、上記耐熱合金は硬く靭性もある難削材であることから、凹部を形成する切削工具が早期に消耗し、工具寿命が極端に短くなっていた。そのため、回転翼の成形に高いコストが掛かってしまうという課題があった。
【0006】
また、上記耐熱合金は難削材であることから、回転翼における凹部の加工精度が安定せず、凹部の内径は、支持軸の凸部の外径に、加工によるバラツキを考慮した大きさで加工されていた。そのため、凸部を凹部に嵌合させたときの、回転翼の回転中心と支持軸の軸中心との位置決め精度を安定させることが難しいという課題があった。さらに、上記位置決め精度を安定させることが難しいために、回転翼と支持軸とを接続した後に行われる調整の工程において大きな調整を要し、また調整量が過大なものは不良品となることからロータの不良率も高くなり、結果としてロータの製造コストが上昇してしまうという課題があった。
【0007】
本発明は、以上のような点を考慮してなされたもので、製造コストを削減できるロータ及び該ロータを備える過給機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明に係るロータは、回転翼と支持軸とが一体的に接続されたロータであって、支持軸はその軸方向での端面に形成された嵌合凹部を有し、回転翼は耐熱合金を用いて成形されると共に軸方向で突出する嵌合凸部を有し、嵌合凸部は嵌合凹部に嵌合しているという構成を採用する。
【0009】
このような構成を採用する本発明では、回転翼に形成される嵌合凸部の加工面はその外周面及び端面であり、従来の回転翼に形成されていた凹部では内周面、端面及び外周面を加工していたことに比べ、加工を要する箇所が減少している。そのため、切削工具の消耗が抑えられ、工具寿命が延びることになる。
また、本発明では、回転翼に嵌合凸部を形成することは、従来の回転翼に凹部を形成するよりも容易であるため、嵌合凸部の加工精度がより安定する。一方、支持軸には嵌合凹部が形成されるが、支持軸の材料は回転翼の耐熱合金よりも切削性の優れた材料であることから、回転翼に凹部を形成することに比べてその加工精度は安定する。結果として、嵌合凹部に嵌合凸部を嵌合させたときの、回転翼の回転中心と支持軸の軸中心との位置決め精度が向上する。
【0010】
また、本発明に係るロータは、回転翼における嵌合凸部の基端部に嵌合凸部よりも大径の大径部が設けられ、大径部の外径は支持軸の嵌合凹部側の端部における外径と略同一であるという構成を採用する。
このような構成を採用する本発明では、大径部の外径は支持軸の上記端部における外径と略同一であることから、大径部と上記端部とが接している箇所の外周面側は略面一となっている。これに加えて、大径部が設けられるために、大径部と上記端部との接触部は回転翼から支持軸側に離間しており、上記接触部における接続作業を容易に行うことが可能となる。
【0011】
また、本発明に係るロータは、大径部と端部との接触部が溶接されているという構成を採用する。
このような構成を採用する本発明では、大径部が設けられるために、大径部と上記端部との接触部は回転翼から支持軸側に離間しており、上記接触部における溶接作業を容易に行うことが可能となる。
【0012】
また、本発明に係る過給機は、請求項1から3のいずれか一項に記載のロータを備えるという構成を採用する。
このような構成を採用する本発明では、切削工具の消耗が抑えられ、工具寿命が延びることになる。また、本発明では、回転翼における嵌合凸部の加工精度は安定し、支持軸における嵌合凹部の加工精度も従来の回転翼に凹部を形成することに比べて安定する。結果として、回転翼の回転中心と支持軸の軸中心との位置決め精度が向上する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、以下の効果を得ることができる。
本発明によれば、切削加工における工具の寿命が延びることから、ロータの製造コスト及び該ロータを備える過給機の製造コストを削減できるという効果がある。また、回転翼の回転中心と支持軸の軸中心との位置決め精度が向上することから、回転翼と支持軸との接続後に行う調整の工程における調整量が減少し、且つロータの不良率も低下するため、ロータの製造コスト及び該ロータを備える過給機の製造コストを削減できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】過給機Tの全体構成を示す概略図である。
【図2】ロータ5の構成を示す概略図である。
【図3】ロータ5の一変形例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係るロータ及び過給機の実施の形態を、図1から図3を参照して説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。また、各図面における矢印Fは前方向を示すものとする。
【0016】
本実施形態に係る過給機Tの全体構成を、図1を参照して説明する。
図1は、過給機Tの全体構成を示す概略図である。
過給機Tは、不図示の内燃機関から導かれる排気ガスのエネルギーを利用して空気を圧縮し、圧縮した空気を内燃機関に供給することで、内燃機関の出力や燃費等の性能を向上させるものである。過給機Tは、タービンハウジング1と、軸受ハウジング2と、シールプレート3と、コンプレッサハウジング4とを有し、これらの部材が前方側より順次配置され一体的に設けられた構成となっている。
【0017】
また、過給機Tの内部には、排気ガスの流動によって回転するロータ5が設置されている。ロータ5は、軸部材であるタービン軸(支持軸)6と、タービン軸6の前端部に接続される回転翼であるタービンインペラ(回転翼)7と、タービン軸6の後端部に接続される回転翼であるコンプレッサインペラ8とを有している。なお、タービンインペラ7はタービンハウジング1内に配置され、コンプレッサインペラ8はコンプレッサハウジング4内に配置されている。
【0018】
タービンハウジング1は、その内部で排気ガスのエネルギーがロータ5の回転駆動力に変換される部材である。タービンハウジング1は、タービンスクロール流路11と、タービンハウジング出口12とを有している。
タービンスクロール流路11は、内燃機関からの排気ガスが導入される流路であり、タービンインペラ7を囲んで設けられる略環状の流路である。また、タービンスクロール流路11は、その径方向内側の部分でタービンインペラ7の設置箇所と連通している。タービンハウジング出口12は、タービンインペラ7の前方側に設けられており、タービンインペラ7を回転させた後の排気ガスをタービンハウジング1から排出する排出口である。
【0019】
軸受ハウジング2は、ロータ5のタービン軸6を回転自在に支持する部材である。軸受ハウジング2は、一対の軸受21を介して前後方向に延びるタービン軸6を回転自在に支持している。また、軸受ハウジング2内には、軸受21及びタービン軸6を潤滑するための潤滑油が供給されている。
シールプレート3は、略円板状の部材であり、軸受ハウジング2内に供給されている潤滑油のコンプレッサハウジング4側への漏出を防止し、且つコンプレッサハウジング4との間に後述するディフューザ流路42を形成するためのものである。
【0020】
コンプレッサハウジング4は、その内部で、外部から導入された空気を圧縮する部材であって、空気導入口41と、ディフューザ流路42と、コンプレッサスクロール流路43とを有している。
空気導入口41は、コンプレッサハウジング4内に空気を導入する導入口であり、コンプレッサインペラ8の後方側に設けられている。ディフューザ流路42は、コンプレッサインペラ8を囲んで設けられる略環状の流路であって、コンプレッサインペラ8の回転によって送り出された空気が圧縮される流路である。コンプレッサスクロール流路43は、コンプレッサインペラ8を囲んで設けられる略環状の流路であり、ディフューザ流路42内で圧縮された空気が導入される流路である。また、コンプレッサスクロール流路43は不図示の空気吐出口と接続しており、圧縮された空気は上記空気吐出口から吐出され内燃機関の吸気口に供給される構成となっている。
【0021】
次に、本実施形態に係るロータ5の構成を、図1及び図2を参照して詳細に説明する。
図2は、ロータ5の構成を示す概略図であって、(a)はロータ5の側面図、(b)はタービン軸6の側面図、(c)はタービンインペラ7の側面図である。なお、図2において、コンプレッサインペラ8の記載は省略している。
【0022】
図1に示すように、ロータ5は、タービンハウジング1に導入された排気ガスの流動によって回転するものであり、タービン軸6と、タービンインペラ7と、コンプレッサインペラ8とを有している。
【0023】
タービン軸6は、前後方向で延在し、タービンインペラ7とコンプレッサインペラ8とを連結する軸部材である。タービン軸6は、高い剛性を備えるクロムモリブデン鋼等を用いて、切削加工等により成形されている。また、上述したように、タービン軸6は一対の軸受21を介して軸受ハウジング2に回転自在に支持されている。
【0024】
図2に示すように、タービン軸6における、前後方向(すなわち軸方向)での前側の端面61は、前後方向と直行する平面状に形成されている。端面61には、タービンインペラ7との接続に用いられ、正面視円形の嵌合凹部62が形成されている。嵌合凹部62の内径は、前後方向に関して同一の内径となるように形成されている。タービン軸6の後端部には、コンプレッサインペラ8との接続に用いられる雄ネジ部63が設けられている。
【0025】
タービン軸6の嵌合凹部62が形成されている側の端部64において切削加工を施す箇所は、端面61、嵌合凹部62及び端部64の外周面の3箇所となっている。なお、嵌合凹部62は、凹部内周面62aと、前方に臨む底面62bとを加工することで形成される。特に、凹部内周面62aは、タービン軸6とタービンインペラ7との間の、タービン軸6の軸方向と直交する方向での位置決め精度に関わることから、高い加工精度が要求される。
【0026】
タービンインペラ7は、排気ガスの流動を受けて回転する回転翼であって、タービン軸6の前端部に一体的に接続されている。タービンインペラ7は、略円錐状に成形されたハブの外周面に複数の翼が周方向に並んで配設された構成となっており、難削材であるニッケル系の耐熱合金を用いて成形されている。
また、タービンインペラ7は、後方に向かって突出し、嵌合凹部62に隙間なく嵌合できる背面視円形の嵌合凸部71を有している。嵌合凸部71の外径は、前後方向に関して同一の外径となるように形成されている。
【0027】
タービン軸6及びタービンインペラ7は、嵌合凸部71が嵌合凹部62に嵌合した状態で、タービンインペラ7とタービン軸6の端面61との接触部Wにおいて、溶接によって一体的に接続されている。溶接としては、電子ビーム溶接やレーザ溶接等が用いられる。
なお、タービンインペラ7は精密鋳造を用いて成形され、嵌合凸部71は、鋳造後に切削加工によって形成されている。
【0028】
嵌合凸部71において切削加工を施す箇所は、凸部外周面71a及び凸部端面71bの2箇所となっている。特に、凸部外周面71aは、タービン軸6とタービンインペラ7との間の、タービン軸6の軸方向と直交する方向での位置決め精度に関わることから、高い加工精度が要求される。
【0029】
図1に示すように、コンプレッサインペラ8は、タービンインペラ7と同期して回転し、空気導入口41から導入された空気をその回転により径方向外側に送り出す回転翼であって、タービンインペラ7と同様の構成を有している。コンプレッサインペラ8は、タービン軸6の後端部に締結部材(ボルト)を用いて一体的に接続されている。
【0030】
続いて、タービン軸6とタービンインペラ7との接続に関する、本実施形態の作用について説明する。
上述したように、タービンインペラ7は難削性のニッケル系耐熱合金を用いて成形されることから、切削のための工具の消耗が早くなる傾向がある。もっとも、本実施形態では、タービンインペラ7における嵌合凸部71を形成するための切削加工の箇所は、凸部外周面71a及び凸部端面71bの2箇所である。これは、従来のタービンインペラに形成されていた凹部では、内周面、端面及び外周面を切削加工していたことに比べ、加工を要する箇所が減少している。そのため、切削工具の消耗が抑えられ、工具寿命が延びることになる。したがって、タービンインペラ7を有するロータ5を製造するためのコストが減少する。
【0031】
また、本実施形態では、タービンインペラ7に嵌合凸部71を形成することは、従来のタービンインペラに凹部を形成するよりも容易であるため、嵌合凸部71の加工精度がより安定する。一方、タービン軸6には嵌合凹部62が形成されるが、タービン軸6の材料はクロムモリブデン鋼等が用いられ、タービンインペラ7のニッケル系耐熱合金よりも切削性の優れた材料であるために、タービンインペラに凹部を形成する場合に比べてその加工精度は安定する。よって、嵌合凸部71の外径と嵌合凹部62の内径とのそれぞれの基準寸法をより近づけ、より狭い公差でそれぞれを形成することができる。結果として、嵌合凹部62に嵌合凸部71を嵌合させたときの、タービンインペラ7の回転中心とタービン軸6の軸中心との位置決めの精度が向上する。
このように位置決めの精度が向上することから、タービン軸6とタービンインペラ7とを接続した後に実施される、ロータ5全体としてのバランスを向上させるための調整の工程における調整量が減少し、且つロータ5の不良率も低下する。したがって、ロータ5を製造するためのコストが減少する。
【0032】
したがった、本実施形態によれば以下の効果を得ることができる。
本実施形態によれば、切削加工における工具の寿命が延びることから、ロータ5の製造コスト及びロータ5を備える過給機Tの製造コストを削減できるという効果がある。また、タービンインペラ7の回転中心とタービン軸6の軸中心との位置決め精度が向上することから、タービンインペラ7とタービン軸6との接続後に行う調整の工程における調整量が減少し、且つロータ5の不良率も低下するため、ロータ5の製造コスト及びロータ5を備える過給機Tの製造コストを削減できるという効果がある。
【0033】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0034】
例えば、上記実施形態におけるロータ5に、図3に示す変形例を適用してもよい。
図3は、ロータ5の一変形例を示す概略図である。
図3に示すように、タービンインペラ7における嵌合凸部71の基端部、すなわちタービンインペラ7のハブと嵌合凸部71との間には、嵌合凸部71よりも大径の大径部72が設けられている。この大径部72の外径は、タービン軸6における端部64の外径と略同一の径となっている。そして、大径部72と端部64との第2接触部W2(接触部)が溶接されている。この溶接により、タービン軸6とタービンインペラ7とが一体的に接続されている。
このような変形例では、大径部72の外径は端部64の外径と略同一であることから、第2接触部W2の外周面側は略面一となっている。これに加えて、大径部72が設けられるために第2接触部W2はタービンインペラ7のハブからタービン軸6側に離間しており、例えば溶接用の電子ビームやレーザ等をタービン軸6の軸線と直交する方向から照射できることから、第2接触部W2における溶接作業を容易に行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0035】
5…ロータ、6…タービン軸(支持軸)、61…端面、62…嵌合凹部、64…端部、7…タービンインペラ(回転翼)、71…嵌合凸部、72…大径部、T…過給機、W2…第2接触部(接触部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転翼と支持軸とが一体的に接続されたロータであって、
前記支持軸は、その軸方向での端面に形成された嵌合凹部を有し、
前記回転翼は、耐熱合金を用いて成形されると共に前記軸方向で突出する嵌合凸部を有し、
前記嵌合凸部は、前記嵌合凹部に嵌合していることを特徴とするロータ。
【請求項2】
請求項1に記載のロータにおいて、
前記回転翼における前記嵌合凸部の基端部に、前記嵌合凸部よりも大径の大径部が設けられ、
前記大径部の外径は、前記支持軸の前記嵌合凹部側の端部における外径と略同一であることを特徴とするロータ。
【請求項3】
請求項2に記載のロータにおいて、
前記大径部と前記端部との接触部が溶接されていることを特徴とするロータ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のロータを備えることを特徴とする過給機。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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