説明

ロープ構造体

【課題】
従来ロープ構造体では実現し得なかった、高強力、高耐摩耗性、高耐屈曲疲労性を兼ね備え、各種用途に適用できるロープ構造体を提供する。
【解決手段】
合成繊維を複数本撚り合わせてなるロープ状の繊維構造体の表面に樹脂エラストマーが被覆されてなり、その断面における合成繊維と樹脂エラストマーとの面積比が50:50〜90:10とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はロープ構造体に関する。詳しくは高い強力を有し耐屈曲疲労性、耐摩耗性に優れたロープ構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般にロープとは直接もしくはガイド等の治具を介して物体を固定したり、吊り上げたり、引っ張ったりするのに用いられ、高強力、高屈曲疲労性、高耐摩耗性、軽量であることなどが要求される。特に近年では、繰り返し使用に耐え得るだけの耐久性、すなわち耐屈曲疲労性、耐摩耗性に対する要求度合いが高まりつつある。
【0003】
特許文献1には合成繊維からなるロープ構造体に関する技術が開示されている。これは繊維自体の軽い、強い、屈曲性に富むといった特性を活かしたロープ構造体の提案であるが、耐摩耗性の点では十分でなく未だ課題の残るものであった。
【0004】
特許文献2では合成繊維からなるロープ構造体の表面にシラン系コート剤を塗布することでロープ自体を硬くし耐摩耗性を向上せしめる技術が開示されている。確かに該技術では一定の耐摩耗性向上効果が得られるものの、ロープ構造体が硬く耐屈曲疲労性が大幅に損なわれ、かえって耐久寿命を縮める恐れがあった。
【0005】
一方、合成繊維材を用いない金属製のロープ、すなわちワイヤーは強力、耐摩耗性の点に優れるが、素材自体が硬いことから特許文献2の場合と同じく屈曲疲労性に乏しく、またワイヤー自体が重いことから取り扱い性の点で十分に満足できるものではなかった。
【0006】
このような背景のもと、合成繊維ロープが有する高い屈曲疲労性能およびワイヤーロープが有する高い耐摩耗性能を兼ね備えたロープ構造体を開発する意義は大きく、該特性を兼ね備えたロープ構造体はあらゆる用途への展開が大いに期待されるものである。
【特許文献1】特開平6−49788号公報
【特許文献2】特開2005−220451号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記従来技術では解決できなかった課題に対し鋭意検討した結果、達成されたものである。すなわち高強力・高屈曲疲労性・高耐摩耗性を兼ね備え、各種用途への適用が可能なロープ構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は主として次の構成を有する。
(1)合成繊維を複数本撚り合わせてなるロープ状の繊維構造体の表面に樹脂エラストマーが被覆されてなり、その断面における合成繊維と樹脂エラストマーとの面積比が50:50〜90:10であることを特徴とするロープ構造体。
(2)断面積が5〜1,500mmである(1)に記載のロープ構造体。
(3)樹脂エラストマーがウレタン系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、スチレン−ブタジエン系エラストマー、ニトリル−ブタジエン系エラストマー、クロロプレン系エラストマー、天然ゴム系エラストマーからなる群から選択される少なくとも一種である(1)または(2)に記載のロープ構造体。
(4)合成繊維がポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリオレフィン系繊維からなる群から選択される少なくとも一種である(1)〜(3)いずれかに記載のロープ構造体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高強力・高屈曲疲労性・高耐摩耗性を兼ね備え、各種用途への適用が可能なロープ構造体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明のロープ構造体は合成繊維と樹脂エラストマーから構成される。
【0012】
合成繊維としてはポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維、ポリビニルアルコール繊維などが挙げられ、その他公知の合成繊維を使用することができる。これらは単独で用いても複数組み合わせて用いてもよい。高強力、高屈曲疲労性のロープを得るという点においては、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリカプラミド繊維、ポリヘキサメチレンアジパミド繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維がより好ましい。
【0013】
また、合成繊維を構成するポリマはホモ成分であっても、一部に共重合成分を含むものであってもよい。例えば、ポリエチレンテレフタレート繊維の場合は、イソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの酸成分、ブタンジオール、ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオールなどのジオール成分を含むものであっても良い。また近年、地球環境保護の観点から利用推奨されているポリエステル、ポリアミドのリサイクル繊維を適用することも可能である。
【0014】
繊維材自体の耐候性、抗酸化性、耐熱性を向上させる目的で各種薬剤を添加することが好ましい。
【0015】
ポリエステル繊維の場合、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系などの紫外線吸収剤、抗酸化剤、ラジカル補足剤等を用いることができ、酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリン、クレー等の無機物が好適に使用される。 ポリアミド繊維の場合は、酢酸銅、沃化銅、臭化銅、塩化第二銅などの銅塩類、沃化カリウム、沃化ナトリウム、臭化カリウム、塩化リチウム、塩化カルシウム等のハロゲン化アルカリ金属およびハロゲン化アルカリ土類金属、ヒンダードフェノール系抗酸化剤、ジフェニルアミン系酸化防止剤、イミダゾール系酸化防止剤、またはリン系化合物等を用いることができる。
【0016】
また、合成繊維を構成するポリマ中に着色剤を含む原着糸を用いても何ら差し支えない。着色剤についても特に限定されるものではなく、使用するポリマによって適宜選択すれば良い。ポリエステルの場合は、カーボンブラック、酸化亜鉛、酸化鉄などの無機着色剤、シアニン系、フタロシアニン系、アントラキノン系、アゾ系、ペリノン系、スチレン系、キナクドリン系などの有機着色剤が一般によく用いられる。ポリアミドの場合は、カーボンブラック、亜鉛華、酸化チタン、ベンガラ、チタンイエロー、亜鉛−鉄系ブラウン、チタン−コバルト系グリーン等の無機顔料、および銅フタロシアニンブルー、銅フタロシアニングリーン、臭化銅フタロシアニングリーン、ジアンスラキノンレッド等の有機顔料が一般的である。
【0017】
高強度・高伸度の繊維材を得るうえで使用するポリマの重合度は高い方が良い。ポリエチレンテレフタレートの場合、固有粘度0.8以上、好ましくは0.9以上、より好ましくは1.0以上である。なお、上限は2.0が好ましい。ポリアミドの場合、硫酸相対粘度が2.8以上、好ましくは3.0以上、より好ましくは3.3以上である。なお、上限は4.5が好ましい。
【0018】
本発明のロープ構造体を構成する合成繊維の強伸度等の物性は特に限定されるものではないが、強度6.0〜9.0cN/dtex、伸度15〜40%が好ましく、より好ましくは7.0〜9.0cN/dtex、伸度20〜35%である。繊維材の強伸度特性をかかる範囲とすることで、ロープ構造体として高強度・高タフネスが発現し、各種用途に好適使用することができるようになる。また、合成繊維は適度な熱収縮率とすること、例えば150℃乾熱下において3〜15%程度とすることで形態安定性に優れたロープ構造体が高品位で得られやすくなるために好ましい。
【0019】
本発明の合成繊維の総繊度、単糸繊度については特に制限はなく、ロープとしての要求特性および製造工程における生産効率、さらには合成繊維の製造工程面をも勘案し適宜設定すればよい。これら物性および生産性を兼備する繊度域としては、例えば総繊度500〜3000dtex、単糸繊度10〜35dtexが例示できる。
【0020】
以上述べてきた本発明の産業資材用ネットを構成するポリエステル繊維、ポリアミド繊維に代表される熱可塑性合成繊維は常法により製造することができる。一例としてポリエチレンテレフタレート繊維の溶融紡糸方法を示すが、何らこれに限定されるものではない。
【0021】
固有粘度が1.0以上のポリエチレンテレフタレートを溶融濾過したのち口金細孔から紡出する。紡出糸条はポリマの融点以上、例えば270〜350℃に加熱せしめた雰囲気を通過したのち80℃以下の冷却風にて冷却固化される。かかる温度履歴を経ることで、高強度・高タフネスの繊維を品位良く製造することができる。冷却後の糸条は油剤を付与され、所定の回転速度で回転する引取ローラに捲回して引き取られる。引き続き、順次高速回転するローラに捲回することで延伸を行う。より高強度・高タフネスの繊維を得るには2〜3段に分けて、トータル3.5〜6.0倍の倍率になるように延伸すればよい。各ローラの表面温度は得られる繊維の品位品質に影響を与えるものであり、適当な温度に設定する必要がある。例えば、引取ローラ、第1延伸供給ローラは60〜100℃、第1延伸ローラは100〜130℃、第2延伸ローラは180〜230℃とするのが好ましい。延伸後には1〜10%程度の弛緩処理することで、形態安定性に優れた繊維を得ることができる。巻き取る直前において、高圧空気を走行糸条に噴射して交絡処理を施すことが好ましい。交絡はできるだけ多くかつ均一にすることが好ましく、交絡数(CF値)は10〜30あれば十分である。かかる範囲の交絡を付与することで巻き取りチーズからの糸条解舒性、および糸条のガイド通過性が良好になり製網工程におけるトラブルを回避することできる。
【0022】
本発明のロープ構造体は、通常上記得られた合成繊維を数本撚り合わせて合成する。合わせ本数、すなわちロープ構造体の直径は使用用途、要求特性に応じて適宜設定すればよい。例えば、小型の船舶を係留するロープでは1670T程度の高強度ポリエステル繊維を20〜100本程度撚り合わせて設計されるものが多く、大型船舶用の係留ロープとしては1670Tを100本程度撚り合わせたものをさらに100本程度撚り合わせてなるものもある。撚りについても使用用途によって下撚り、中撚り、上撚り、各々設定すればよい。なお、本発明のロープ構造体は合成繊維の表面に樹脂エラストマーが被覆されてなることを最大の特徴とするが、樹脂エラストマーを均一に塗布するという観点からは、撚り数は少ない方が好ましい。
【0023】
本発明のロープ構造体は繊維材および樹脂エラストマー材から構成される。
該ロープ構造体の断面積は5〜1,500mmであることが好ましく、
より好ましくは20〜1,000mmである。そして該ロープ構造体の断面における繊維材とエラストマー材の面積比率は50:50〜90:10である。かかる範囲とすることで高い強力、優れた耐摩耗性、優れた耐屈曲疲労性が得られる。ロープ構造体の断面積が5mm以上であれば、樹脂エラストマーを薄く均一に塗布するという加工精度面の難度が低く、ロープ構造体の断面積が1,500mmを以下であれば、樹脂エラストマーを厚く均一塗布するという加工精度面の問題が少ない。
【0024】
ロープ構造体の断面における合成繊維の面積比率が90%を越える場合は、合成繊維のみからなるロープと物性上の何ら優位性が無くなり、すなわちは耐摩耗性の点で劣り、ガイド等との繰り返し摩擦により劣化・破断するおそれがある。逆に合成繊維の面積比率が50%に満たない場合は、いくら柔軟性に富んだ樹脂エラストマーとはいえ、その表面は硬くなってしまい、耐屈曲疲労性の点で満足のいく結果が得られなくなってしまう。また、ロープ構造体に占める合成繊維の割合が小さくなると、強力が低くなり、取り扱い難い等の問題が生じる。
【0025】
上記の通り本発明のロープ構造体では繊維材に樹脂エラストマーを塗布することが最大の特徴であり、高強力・高耐摩耗性・高屈曲疲労性を兼備したロープが得られるようになるものである。
【0026】
樹脂エラストマー材は、特に限定されるものではないが、柔軟であり、耐摩耗性、耐屈曲疲労性に優れたものを選択すべきである。つまり、本発明ではあえて樹脂エラストマーと呼び、通常の樹脂とは区別して用いている。樹脂エラストマーとはいわゆる“ゴム”であり、常温下において軟らかく弾性に富む高分子物質である。そして、該樹脂エラストマーをその表面に配してなる本発明のロープ構造体のデュロメータタイプAで測定したデュロメータ硬さはA5〜A50であることが好ましい。ロープ硬度をかかる範囲とすることで、無理なく塑性変形できるようになり、あらゆる設置場所、環境下で好適に使用できるようになる。また、かかる範囲の硬さであることは、すなわち衝撃を吸収緩和することで耐摩耗性・耐屈曲疲労性の向上を達成するものでもある。
【0027】
本発明における樹脂エラストマーとしては、特にその種類が限定されるものではないが、ウレタン系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、スチレン−ブタジエン系エラストマー、ニトリル−ブタジエン系エラストマー、クロロプレン系エラストマー、天然ゴム系エラストマーからなる群より選択される少なくとも一種であることが、柔軟性、耐摩耗性、耐屈曲疲労性の観点から好ましい。これらを単独で用いても、複数組み合わせて用いてもよい。ウレタン系エラストマーとしてはウレタンゴム、ポリスチレン系エラストマーとしてはポリスチレンゴム、スチレン−ブタジエン系エラストマーとしてはスチレン−ブタジエンゴム、ニトリル−ブタジエン系エラストマーとしてはニトリル−ブタジエンゴム、クロロプレン系エラストマーとしてはクロロプレンゴム、天然ゴム系エラストマーとしては天然ゴム、などが挙げられる。なかでも物性バランスの点からウレタンゴム、ポリスチレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、クロロプレンゴムがより好ましい。これら樹脂エラストマーに加硫剤、架橋剤を添加し熱処理することで樹脂エラストマー自身の構造がより安定化・強靱化し、該エラストマーが被覆されてなるロープ構造体ではより一層の耐摩耗性、耐屈曲疲労性の向上効果が発現する。また、該エラストマーに耐摩耗性、耐屈曲疲労性、さらには耐候性、耐水性等を向上させる目的で各種薬剤を添加してもよい。例えば、高分子ポリエチレンやポリテトラフルオロエチレン等の微粉末を添加することで耐摩耗性の向上が期待でき、カーボン、シリカなどの無機物の添加により被膜強度アップが期待できる。その他、酸化防止剤、PH調整剤、安定剤などを添加することでも樹脂エラストマー特性を向上させることができる。また、本来の耐摩耗性、耐屈曲疲労性、さらには強伸度特性を損なわない範囲において難燃剤や抗菌剤を添加することも可能であり、ロープ構造体に所望の機能を付加することができる。
【0028】
本発明のロープ構造体を得るには幾つかの方法が採用できる。例えば、合成繊維を複数本撚り合わせてなるロープ状の繊維構造体を有機溶媒または水などで希釈・エマルジョン化した樹脂エラストマー溶液に浸せき後、マングル、バキューム等を用いて余分な樹脂を除去するディップ法が挙げられる。ディップ法では繊維構造体上に残った溶媒等を除去した後、樹脂エラストマーと繊維材との接着力を高め、さらには樹脂エラストマー自体の耐摩耗性・耐衝撃性等の特性を一段と向上させるため、高温熱処理工程に供すことが好ましい。熱処理温度は使用する樹脂エラストマーに特有であり、例えば、ウレタンゴムの場合は、130〜180℃、クロロプレンゴムの場合は100〜150℃程度に設定すればよい。該温度に保持する時間については、樹脂エラストマーの塗布量により適宜設定すべきであるが、数十秒〜数分の加熱により、適当な樹脂エラストマー被膜が形成され、柔軟性を保持したまま、所望の耐摩耗性、耐屈曲疲労性に優れたロープ構造体が得られる。
【0029】
また、合成繊維を複数本撚り合わせてなるロープ状の繊維構造体をダイスに通し、その周りに溶融状態の熱可塑性樹脂エラストマー被覆する溶融被覆方法も適当な方法と言える。本方法はダイス径を適宜選択することで被覆量を自由に設定できるという点で好適な方法である。
【0030】
本発明のロープ構造体はその使用目的・形態に応じてその端部にワッシャー、フック等の治具を取り付けても何ら差し支えないものである。
【0031】
かくして得られた本発明のロープ構造体は合成繊維と樹脂エラストマーから構成されており、高強力、高タフネスとともに優れた耐摩耗性、耐屈曲疲労性を兼ね備えたものとなる。その結果、各種用途例えば漁網ロープや農業用ロープなどに長期間好適に使用できるようになる。また、本発明のロープ構造体は、特殊な生産工程を要するものでなく、既知の製綱工程、樹脂塗布工程を組み合わせることでその実現が可能であり極めて実用的である。
【実施例】
【0032】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、各種物性は次に方法により算出した。
【0033】
[ポリエステルの固有粘度(IV)]:
試料8.0gにオルソクロロフェノール100mlを加えて、160℃×10分間加熱溶解した溶液の相対粘度ηrをオストワルド粘度計を用いて測定し、次の近似式に従い算出した。
IV=0.0242ηr+0.02634
[ポリアミドの硫酸相対粘度(ηr)]:
試料1.0gを98重量%硫酸100mlに溶解し、25℃の条件下においてオストワルド粘度計を用いて測定した。
【0034】
[メルトフローレート]:
試料を島津製作所製フローテスターCFT−500C型を用い、溶融温度210℃、予熱時間300秒、ダイの直径0.5mm、長さ1.0mm、ピストン断面積1cm、押出圧力10kgf/cmの条件で吐出し、単位時間あたりの吐出量を測定した。
【0035】
[総繊度]:
JIS L−1013(1999)8.3.1正量繊度a)A法に従って、所定荷重5mN/tex×表示テックス数、所定糸長90mで測定した。
【0036】
[強度・伸度]:
試料を気温20℃、湿度65%の温調室において、オリエンテック(株)社製“テンシロン”(TENSILON)UCT−100でJIS L−1013(1999)8.5.1標準時試験に示される定速伸長条件で測定した。このときの掴み間隔は25cm、引張速度は30cm/min、試験回数は10回であった。なお、破断伸度はS−S曲線における最大強力を示した点の伸びから求めた。
【0037】
[乾熱収縮率]:
JIS L−1013(1999)8.18.2乾熱収縮率a)かせ収縮率(A法)に従って、試料採取時の所定荷重5mN/tex×表示テックス数、処理温度150℃、また、かせ長測定時の所定荷重200mN/tex×表示テックス数として測定した。
【0038】
[沸騰水収縮率]
JIS L−1013(1999)8.18.1熱水収縮率a)かせ収縮率(A法)に従って、試料採取時の所定荷重5mN/tex×表示テックス数、処理温度100℃、また、かせ長測定時の所定荷重を200mN/tex×表示テックス数として測定した。
【0039】
[ネットのデュロメータ硬さ]
ASKER製デュロメータ硬度計タイプAを用いJIS K−6253(1997)5.デュロメータ硬さ試験に従って測定した。加圧面を試験片側面に密着後1秒以内に目盛りを読みとった。試験回数を5回とし、その平均値を記した。
[ロープ構造体の断面積・合成繊維材と樹脂エラストマー材の面積比率]
ロープ構造体を片刃ナイフを用いて長手方向と垂直に切断し、得られた断面の直径を任意に5箇所測定してその平均値から断面積Sを算出した。同様に得られた断面のうち合成繊維部分のみの直径を任意に5箇所測定してその平均値から合成繊維の面積sを算出、次式に従い合成繊維材と樹脂エラストマー材の面積比率を算出した。なお、ロープ構造体の断面積が100mm未満と小さい場合は20倍で写真撮影して直径を測定した。
合成繊維の断面積:樹脂エラストマーの断面積=s:S−s
[ロープ強力]:
JIS A−8960(2004)7.2網糸の引張強さ試験に従って、掴み間隔25cm、引張速度20cm/minとしてオリエンテック(株)社製“テンシロン”(TENSILON)UCT−100を用い10回測定した。なお、破断伸度はS−S曲線における最大強力を示した点の伸びから求めた。
【0040】
[ロープの耐摩耗性]:
ロープ構造体およそ1.2m分をφ=50mmの鉄心に巻き付け、次に50lのコンクリートミキサーに試験片、水30l、割れ石5kg、平均粒径300μmの砂3kgを入れ、50rpmの回転速度で15min攪拌させた。攪拌後試験片を取り出し、乾燥後、ロープ構造体の強伸度を測定し、次式に従いロープ構造体の耐摩耗性(強力保持率(%))を算出した。
ロープ構造体の耐摩耗性(強力保持率(%))=(摩耗試験後のロープ強力(N)/摩耗試験前のロープ強力(N))×100。
【0041】
[ロープの耐屈曲疲労性]:
JIS P−8115(2001)に従って、荷重0.25cN/dtex、振れ回数175回/分、振れ角度270度で試験を行った。試験後の強伸度を測定し、次式に従いロープ構造体の耐屈曲疲労性(強力保持率(%))を算出した。
ロープ構造体の耐屈曲疲労性(強力保持率(%))=(屈曲疲労試験後のロープ強力(N)/屈曲疲労試験前のロープ強力(N))×100。
【0042】
[実施例1]
固有粘度1.2のポリエチレンテレフタレートをエクストルーダ型紡糸機で溶融し、計量ポンプで計量した後、紡糸パック内で濾過し紡糸口金より紡出した。この際、エクストルーダ、スピンブロック、紡糸パックの各部は溶融ポリマ温度が300℃となるように温度設定した。また、紡糸口金には孔数96、円形孔型のものを使用した。
【0043】
紡出された糸条は温度320℃、長さ300mmの加熱筒内を通過した後、20℃の冷却風を30m/minの風速で吹き当てられ冷却固化せしめ、油剤ローラに接触させ給油したのち、600m/minの速度で回転する引取ローラに捲回して引き取った。引取られた糸条は一旦巻き取ることなく、順次高速回転する第1延伸供給ローラ、第1延伸ローラ、第2延伸ローラ、および第2延伸ローラより低速回転する弛緩ローラに捲回することで、総倍率5.6倍、弛緩率5%となるように2段延伸・弛緩処理を施した。この際、各ローラ温度は引取ローラ70℃、第1延伸供給ローラ100℃、第1延伸ローラ110℃、第2延伸ローラ220℃、弛緩ローラ50℃に設定した。引き続き弛緩処理後の糸条に交絡ノズルを用い0.5Mpaの圧縮空気を噴射し、交絡処理を施した後、巻き取り装置にて巻き取ることで、1850dtex−144フィラメント、強度7.5cN/dtex、伸度20%、乾熱収縮率8.0%のポリエチレンテレフタレート繊維を製造した。
【0044】
次に得られた1850dtexのポリエチレンテレフタレート繊維3本を引き揃え80T/mのZ下撚りを掛けた後さらに6本を引き揃え120T/mのS中撚りを掛け最後に4本引き揃え130T/mのZ上撚りを掛け合計繊度133,200dtexのロープを作製した。
【0045】
引き続き、樹脂エラストマーとして第一工業製薬製E2000タイプのウレタンゴムをエクストルーダ型押し出し機に供給し、直径6.0mmのダイスを10m/分で走行する繊維ロープに溶融被覆し、ロープ構造体を作製した。
【0046】
[実施例2]
直径5.0mmのダイスを使用した以外は実施例1と同様の方法でロープ構造体を作製した。
【0047】
[実施例3]
直径4.5mmのダイスを使用した以外は実施例1と同様の方法でロープ構造体を作製した。
【0048】
[比較例1]
直径7.0mmのダイスを使用した以外は実施例1と同様の方法でロープ構造体を作製した。
【0049】
[比較例2]
直径4.0mmのダイスを使用した以外は実施例1と同様の方法でロープ構造体を作製した。
【0050】
[比較例3]
樹脂エラストマーを使用せず、実施例1に記載の繊維ロープのみでロープ構造体を作製した。
【0051】
[実施例4〜8]
樹脂エラストマーとして、実施例4で日本エイアンドエル製S12タイプのポリスチレンゴム、実施例5では日本エイアンドエル製SR114タイプのスチレン−ブタジエンゴム、実施例6では日本エイアンドエル製NA13タイプのニトリル−ブタジエンゴム、実施例7では昭和電工製ショウプレン400タイプのクロロプレンゴム、実施例8ではGolden Hope Plantation Berhad,Malaysia製のHYTEXタイプの天然ゴムを使用した以外は実施例1と同様の方法でロープ構造体を作製した。
【0052】
[実施例9]
硫酸相対粘度3.5、酢酸銅を銅として70ppm、沃化カリウムを0.1重量%、臭素化カリウムを0.1重量%含有するポリヘキサメチレンアジパミドをエクストルーダ型紡糸機で溶融し、計量ポンプで計量した後、紡糸パック内で濾過し紡糸口金より紡出した。この際、エクストルーダ、スピンブロック、紡糸パックの各部は溶融ポリマ温度が295℃となるように温度設定した。また、紡糸口金には孔数144、円形孔型のものを使用した。
【0053】
紡出された糸条は温度300℃、長さ250mmの加熱筒内を通過した後、20℃の冷却風を30m/minの風速で吹き当てられ冷却固化せしめ、油剤ローラに接触させ給油したのち、600m/minの速度で回転する引取ローラに捲回して引き取った。引取られた糸条は一旦巻き取ることなく、順次高速回転する第1延伸供給ローラ、第1延伸ローラ、第2延伸ローラ、および第2延伸ローラより低速回転する弛緩ローラに捲回することで、総倍率4.8倍、弛緩率5%となるように2段延伸・弛緩処理を施した。この際、各ローラ温度は引取ローラ30℃、第1延伸供給ローラ40℃、第1延伸ローラ140℃、第2延伸ローラ230℃、弛緩ローラ150℃に設定した。引き続き弛緩処理後の糸条に交絡ノズルを用い0.5Mpaの圧縮空気を噴射し、交絡処理を施した後、巻き取り装置にて巻き取ることで、1850dtex−144フィラメント、強度7.8cN/dtex、伸度25%、沸騰水収縮率6.0%のポリヘキサメチレンアジパミド繊維を製造した。
【0054】
次に得られた1850dtexのポリヘキサメチレンアジパミド繊維3本を引き揃え80T/mのZ下撚りを掛けた後さらに6本を引き揃え120T/mのS中撚りを掛け最後に4本引き揃え130T/mのZ上撚りを掛け合計繊度133,200dtexのロープを作製した。
引き続き、樹脂エラストマーとしてウレタンゴムをエクストルーダ型押し出し機に供給し、直径6.0mmのダイスを10m/分で走行する繊維ロープに溶融被覆し、ロープ構造体を作製した。
【0055】
[実施例10]
メルトフローレート値が30g/10分のポリプロピレン樹脂をエクストルーダ型紡糸機で溶融し、計量ポンプで計量した後、紡糸パック内で濾過し紡糸口金より紡出した。この際、エクストルーダ、スピンブロック、紡糸パックの各部は溶融ポリマ温度が220℃となるように温度設定した。また、紡糸口金には孔数144、円形孔型のものを使用した。
【0056】
紡出された糸条は20℃の冷却風を30m/minの風速で吹き当てられ冷却固化せしめ、油剤ローラに接触させ給油したのち、600m/minの速度で回転する引取ローラに捲回して引き取った。引取られた糸条は一旦巻き取ることなく、順次高速回転する第1延伸供給ローラ、第1延伸ローラ、第2延伸ローラ、および第2延伸ローラより低速回転する弛緩ローラに捲回することで、総倍率4.6倍、弛緩率3%となるように2段延伸・弛緩処理を施した。この際、各ローラ温度は引取ローラ30℃、第1延伸供給ローラ40℃、第1延伸ローラ80℃、第2延伸ローラ120℃、弛緩ローラ120℃に設定した。引き続き弛緩処理後の糸条に交絡ノズルを用い0.3Mpaの圧縮空気を噴射し、交絡処理を施した後、巻き取り装置にて巻き取ることで、1850dtex−144フィラメント、強度6.4cN/dtex、伸度20%のポリプロピレン繊維を製造した。
【0057】
次に得られた1850dtexのポリプロピレン繊維3本を引き揃え80T/mのZ下撚りを掛けた後さらに6本を引き揃え120T/mのS中撚りを掛け最後に4本引き揃え130T/mのZ上撚りを掛け合計繊度133,200dtexのロープを作製した。
【0058】
引き続き、樹脂エラストマーとしてウレタンゴムをエクストルーダ型押し出し機に供給し、直径6.0mmのダイスを10m/分で走行する繊維ロープに溶融被覆し、ロープ構造体を作製した。
【0059】
ここで実施例1〜10、比較例1〜3のロープ構造体を構成する合成繊維の種類、樹脂エラストマーの種類、ロープ構造体の断面における合成繊維と樹脂エラストマーの面積比、およびロープ構造体の強力、耐摩耗性、耐屈曲疲労性を表1および表2に記す。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
表1および表2から明らかなように本発明のロープ構造体は、その表面に樹脂エラストマーが被覆されてなることから柔軟性に富み、耐摩耗性、耐屈曲疲労試験後の強力保持率が高い結果となった。一方、ロープ構造体の断面における樹脂エラストマーの面積比が本発明より大きい比較例1ではロープ構造体自体が硬くなりすぎ、屈曲疲労性がむしろ悪化してしまい、また、そもそもロープ構造体の断面積の割には強力低いため取り扱い難い等の点で問題を残すものであった。ロープ構造体の断面における樹脂エラストマーの面積比が本発明より小さい比較例2、および樹脂エラストマーを配さない比較例3では耐摩耗性、耐屈曲疲労性の点で満足いく結果が得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明のロープ構造体は、その表面に耐摩耗性、耐屈曲疲労性に優れた樹脂エラストマーを被覆してなることから、高強力・高耐摩耗性・高耐屈曲疲労性に優れ、各種用途に好適に適用できるものである。また、特異な生産工程を要するものでなく、既知の製網工程、樹脂エラストマー塗布工程を組み合わせることでその実現が可能であり、極めて実用的な方法であると言える。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成繊維を複数本撚り合わせてなるロープ状の繊維構造体の表面に樹脂エラストマーが被覆されてなり、その断面における合成繊維と樹脂エラストマーとの面積比が50:50〜90:10であることを特徴とするロープ構造体。
【請求項2】
断面積が5〜1,500mmである請求項1に記載のロープ構造体。
【請求項3】
樹脂エラストマーがウレタン系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、スチレン−ブタジエン系エラストマー、ニトリル−ブタジエン系エラストマー、クロロプレン系エラストマー、天然ゴム系エラストマーからなる群から選択される少なくとも一種である請求項1または2に記載のロープ構造体。
【請求項4】
合成繊維がポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリオレフィン系繊維からなる群から選択される少なくとも一種である請求項1〜3いずれかに記載のロープ構造体。

【公開番号】特開2010−65333(P2010−65333A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−230720(P2008−230720)
【出願日】平成20年9月9日(2008.9.9)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】