説明

ローラー型インプリント装置、及び、インプリントシートの製造方法

【課題】転写ロールの交換が容易に行えるローラー型インプリント装置、及び、インプリントシートの製造方法を提供する。
【解決手段】表面にパターンが形成された転写ロールを回転させることで被転写シートに上記パターンを転写するローラー型インプリント装置であって、上記インプリント装置は、上記転写ロールの回転軸と一致する、上記転写ロールを回転させるための回転用軸を持たないローラー型インプリント装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ローラー型インプリント装置、及び、インプリントシートの製造方法に関する。より詳しくは、低反射率が得られる表面処理がなされた樹脂シートを製造するのに好適なローラー型インプリント装置、及び、インプリントシートの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ナノメートルサイズ(0.001〜1μm)の凹凸(以下、「ナノ構造体」ともいう。)が刻み込まれた金型を基板上に塗布した樹脂材料に押し付けて形状を転写する技術、いわゆるナノインプリント技術が近年注目されており、光学材料、ICの微細化、臨床検査基板等への応用を目指す研究がなされている。この技術は、光ディスク作製で知られていたホットエンボス技術を進展させたものであり、1995年にS.Y.Chueらによって10nmレベルまで適用できることが証明されたものである。
【0003】
従来のフォトリソグラフィー技術によるナノメートルサイズの微細加工においては、マスクを介した露光時に生じる回折現象による解像度不足を解消するために、露光波長の短波長化、それに伴って起こる装置の複雑化、コストアップ等が問題となっていた。ナノインプリント技術は、ナノメートルサイズのパターンをエンボス加工によって簡単に得られることから、これらの問題を解決でき、更に、ナノメートルサイズの微細構造が必要とされる光学部品を安価に大量に作製できる可能性があるとして注目されている。
【0004】
ナノインプリント技術の方式としては、熱ナノインプリント技術、紫外線(UV)ナノインプリント技術等が知られている。例えば、UVナノインプリント技術は、基板上に紫外線硬化性樹脂を塗布して薄膜を形成し、この薄膜上にナノ構造体を有する金型を押し付けて、その後に紫外線を照射することにより、ナノ構造体の反転形状が形成された薄膜(以下、ナノインプリントシートとも称す。)を形成するものである。研究段階でこれらの方式を用いる場合には、平板状の金型を用いて、バッチ処理によりナノインプリントシートを作製するのが一般的である。
【0005】
ナノインプリント技術により、大量に安く、ナノインプリントシートを製造するためには、バッチ処理よりもロール・ツー・ロール処理を用いる方が好適である。つまりロール・ツー・ロール処理によれば、転写ロールの外周面にナノ構造体を配置できれば連続的にナノインプリントシートを製造できるからである。
【0006】
次にロール・ツー・ロール処理について簡単に述べる。ロール・ツー・ロール処理を用いたナノインプリント技術としては、例えば、図13に示すように、小型の転写ロール191を順次、横方向にスライドさせてパターンを継ぎながら大型の転写ロール192上に塗布された紫外線硬化性樹脂にパターンを転写する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、この方法では、小型の転写ロール191のパターンを継いで大型の転写ロール192上の樹脂のパターンを形成するために、基本的に、形成されるナノ構造体はパターンの継ぎ目を有するものとなり、小型の転写ロール191の幅よりも大きなナノ構造体を形成するのには適していない。
【0007】
ロール・ツー・ロール処理に用いる転写ロールに関するものではないが、ナノインプリント技術以外の分野においては、ロール材に凹凸パターンを直接に形成するロールの作製方法が開示されている(例えば、特許文献2、3参照。)。しかしながら、この方法をナノインプリント技術に応用する場合には、ナノ構造体が形成された転写ロールに、転写ロールとナノインプリント装置を連結するための軸受け機構等を備え付けなければならず、転写ロールが高価になることが量産上の問題となる。
【0008】
また、凹凸パターンを有する円筒状の部材をロールに取り付ける方法が開示されている(例えば、特許文献4の図7参照。)。しかしながら、この方法により、ナノ構造体を、転写ロールの外周を一周させてつなぎ合わせることによっては、パターンの継ぎ目をなくすことは困難であった。
【0009】
ここで、ナノ構造体を用いた光学材料の例について述べる。光学材料において、ナノ構造体の一種として「モスアイ(蛾の目)構造」が知られている。モスアイ構造は、可視光に対して充分に小さいサイズのコーン状の突起を多数形成したものである。モスアイ構造を用いた光学素子としては、例えば、透明基板の表面にモスアイ構造を形成したものが挙げられる。このようなモスアイ構造が形成されると、可視光線の波長の長さに対する突起の大きさの比率が充分に小さいことから、透明基板の表面に入射する可視光線は、突起によって空気層から透明基板にかけて屈折率が連続的に変化していると認識し、屈折率が不連続となる界面として透明基板の表面を認識しなくなる。その結果、透明基板の表面で発生する反射光を激減させることができる(例えば、特許文献6〜9参照。)。
【0010】
このようなナノ構造体を有する光学材料の製造技術の分野において、陽極酸化法により表面にナノメートルサイズの穴を形成したアルミニウム基板を金型として用いる方法が知られている(例えば、特許文献5〜8参照。)。この方法によれば、微視的には不規則(ランダム)に、巨視的にはほぼ均一に、ナノ構造体を表面に形成することが可能である。つまりこの方法を転写ロールの作製に適用すれば、円柱状又は円筒状の転写ロールの表面に、連続生産に必要な継ぎ目のない(シームレスな)ナノ構造体を形成することができる(例えば、特許文献8の図19参照。)。
【0011】
しかしながら、転写ロールの表面にナノ構造体を形成したとしても、ロール・ツー・ロール処理を行うナノインプリント装置においては、転写ロールは永続的に使用されるものではなく、一定期間の使用の後に交換が必要となるため、安価であることが強く求められる。
【0012】
これに対しては、転写ロールの形状を円筒状にして、交換部材である転写ロールの構造を簡素なものにすることが有効である。しかしながら、円筒状の転写ロールを用いるには、以下のような問題がある。
【0013】
転写ロールは、被転写シートの表面を均一に加圧しながらナノ構造体の転写を行う必要があるため、位置及び向きを高精度に制御してナノインプリント装置へ取り付けることが求められる。円筒状の転写ロールを用いる場合、回転させる際に軸となる部材が必要となることから、円筒状の転写ロールの内周面側に、転写ロールの回転軸と一致する回転軸を有する回転用軸部材を転写ロールに備え付けることが考えられる。しかしながら、転写ロールの交換に際し、回転用軸部材の回転軸と転写ロールの回転軸とを一致させ、しかも、転写ロールを装置に精度良く取り付けることは、操作が煩雑であることから、より簡易に転写ロールの交換が行えることが望まれる。
【0014】
また、転写前には、装置内を搬送される被転写シートが滞りなく流れるように、樹脂を塗布する前に予めシートを張って搬送する処理(空打ち処理)を行って、製品となる被転写シートに縒れや皺等が生じないようにしている。この空打ち処理において、例えば、被転写シートと転写ロールとの間に異物等が挟まってしまうと転写ロールの表面に傷が付いて、ナノ構造体を形成するための凹凸パターンが破損したり、転写ロールに塗布された離型剤が剥離することがある。特に上記陽極酸化法によって作製されたナノメートルサイズのパターンは、下地の材質がアルミニウムであるために、異物の挟み込み等の局部的な激力に対して破壊されやすい。これにより、被転写シートへの転写不良が生じ、歩留りが低下したり、転写ロールの交換が必要になることからコスト高となる。特に、離型剤が剥離した場合には、ナノ構造体を形成するための樹脂材料が転写ロールに固着して、これによる被転写シートへの転写不良等が生じるため、転写ロールの転写面における損傷の防止が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2007−203576号公報
【特許文献2】特開2005−144698号公報
【特許文献3】特開2005−161531号公報
【特許文献4】特開2007−281099号公報
【特許文献5】特表2003−531962号公報
【特許文献6】特開2003−43203号公報
【特許文献7】特開2005−156695号公報
【特許文献8】国際公開第2006/059686号パンフレット
【特許文献9】特開2001−264520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、転写ロールの交換が容易に行えるローラー型インプリント装置、及び、インプリントシートの製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、円筒状の転写ロールを用いるローラー型インプリント装置について種々検討したところ、転写ロールの交換に際し、装置への取り付けを複雑にしているのは、転写ロールの回転軸と一致する、回転用軸であることに着目し、インプリント装置が、この回転用軸を持たない構成とすることで、装置への着脱を容易に行うことができ、消耗材(交換部材)である転写ロールの交換を容易に行えることをまず見いだした。また、転写ロールの転写面に損傷が生じる要因の一つは空打ち処理にある点に着目し、転写ロールと被転写シートとを接触させる前に予め被転写シートのテンション調整を行うことで、転写ロールの転写面における損傷を低減できることも見いだした。そして、このような被転写シートのテンション調整は、少なくとも2つのロールを用いるのが好適であることを見いだし、更に、転写時には、少なくとも3つのロールを用いることで、被転写シートに縒れや皺等を生じることなく均一に加圧することができ、転写ロールの表面に傷をつけることなく、均一な膜厚のインプリントシートが得られることを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0018】
すなわち、本発明は、表面にパターンが形成された転写ロールを回転させることで被転写シートに上記パターンを転写するローラー型インプリント装置であって、上記インプリント装置は、上記転写ロールの回転軸と一致する、上記転写ロールを回転させるための回転用軸を持たないローラー型インプリント装置である。
【0019】
本発明はまた、表面にパターンが形成された転写ロールを回転させることで被転写シートに上記パターンを転写するローラー型インプリント装置であって、上記転写シートを張り伸ばすための少なくとも2本の張伸ロールと、上記転写ロールと共に上記被転写シートを挟持するための少なくとも3本の挟持ロールとを備え、複数の上記張伸ロールの間で上記被転写シートを張り伸ばした後に、上記転写ロールと上記被転写シートとを接触させ、転写時に、上記転写ロールと上記挟持ロールとにより上記転写シートを挟持し、上記挟持ロールにより上記転写ロールを保持しつつ回転させるローラー型インプリント装置でもある。
【0020】
本発明は更に、表面にパターンが形成されたインプリントシートの製造方法であって、上記製造方法は、被転写シートと、表面にパターンが形成された転写ロールと、上記転写シートを張り伸ばすための少なくとも2本の張伸ロールと、上記転写ロールと共に上記被転写シートを挟持するための少なくとも3本の挟持ロールとを用いるものであり、複数の上記張伸ロールの間で上記転写シートを張り伸ばした後に、上記転写ロールと上記被転写シートとを接触させ、転写時に、上記転写ロールと上記挟持ロールとにより上記被転写シートを挟持して、上記挟持ロールにより上記転写ロールを保持しつつ回転させるインプリントシートの製造方法でもある。
以下に、本発明を詳述する。
【0021】
本発明のインプリント装置は、表面にパターンが形成された転写ロールを回転させることで被転写シートに上記パターンを転写するものである。これにより、被転写シートに対する型押し、及び、転写ロールからの離型を連続的に行うことができ、その結果、表面に所望のパターンが形成された製品を高速かつ大量に製造できる。
【0022】
本発明のインプリント装置における第1の形態としては、インプリント装置は、転写ロールの回転軸と一致する、転写ロールを回転させるための回転用軸を持たないものが挙げられる。転写ロールは、その表面に、所望のパターン形状が形成されており、回転することで被転写シートにパターンを転写するものであるが、この第1の形態では、インプリント装置は、回転用軸を持たない。
【0023】
上記した従来例では、転写ロールを回転させるための回転用軸が設けられており、この回転用軸の回転軸と転写ロールの回転軸とが一致するように装置に取り付けられていたが、本発明の第1の形態においては、上記のように回転用軸は設けられていない。これにより、転写ロールの回転軸と回転用軸の回転軸とを一致させる必要がなくなり、転写ロールを装置へ簡易に着脱でき、消耗材である転写ロールの交換を容易に行える。
【0024】
第1の形態において、転写ロールは、少なくとも3本の挟持ロールで保持されつつ回転させられることが好ましい。これにより、被転写シートを均一に加圧でき、膜厚の均一なインプリントシートが得られる。また、転写ロール自体に回転用軸を形成する必要がなく、挟持ロールで転写ロールを支えることができるため、加工が困難なガラスやセラミックスといった非金属材料からなる転写ロールであっても適用できる。これにより、透明な転写ロールや熱放出性のよい転写ロールが使用可能となり、例えば、不透明な被転写シートへの紫外線(UV)インプリントや熱インプリントにおいて、転写時間の短縮が図れるといった効果も望める。
【0025】
上記第1の形態におけるインプリント装置は、少なくとも2本の張伸ロールを備え、被転写シートは、これらの張伸ロールの間で張り伸ばした後に、転写ロールと接触させるようにするものであってもよい。このような張伸ロールについては、後述する本発明の第2の形態において詳述する。
【0026】
本発明のインプリント装置における第2の形態としては、転写シートを張り伸ばすための少なくとも2本の張伸ロールと、転写ロールと共に上記被転写シートを挟持するための少なくとも3本の挟持ロールとを備えた形態が挙げられる。この形態では、まず、少なくとも2本の張伸ロールの間で被転写シートを張り伸ばして、転写ロールと接触しない状態で被転写シートのテンション調整を行った後、転写ロールと被転写シートとを接触させて始動させる。
【0027】
これにより、転写ロールと接触しない状態で被転写シートのテンション調整を行うことができるため、空打ち処理による転写ロールの転写面の損傷を解消できる。また、必要に応じて、転写ロールを被転写シートに接触させる前に樹脂を塗布することができるため、樹脂の緩衝で転写ロールと被転写シートとの接触が実質起きないようにすることも可能となり、より一層、転写面の損傷が生じにくくなる。
【0028】
次いで、転写時には、転写ロールと挟持ロールとによって被転写シートを挟持し、挟持ロールによって転写ロールを保持しつつ回転させる。これにより、テンションを調整した被転写シートに転写ロールによる加圧処理を行うことができ、転写時における被転写シートの縒れや皺を解消して、均一な膜厚のインプリントシートを得ることができる。
【0029】
上記第1、第2の形態において、少なくとも2本の張伸ロールは、少なくとも3本の挟持ロールのいずれかが兼ねることが好ましい。この形態によると、より簡易な構成で本発明の効果が得られる。
【0030】
上記第1、第2の形態において、被転写シートは、転写ロールを型押しすることで所望のパターンを形成することができるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、樹脂材料からなる被転写シートが好適である。樹脂材料からなる被転写シートとしては、シートに直接に構造体を形成できるものや、基材フィルムに構造体をプリントするための樹脂(以下、転写樹脂と称す。)を塗布して、未硬化又は半硬化の転写樹脂に型押しするものが挙げられる。前者は主に熱インプリントに用いられ、後者は紫外線(UV)インプリントに用いられる。基材フィルムの材質は特に限定されるものではなく、例えば、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)を用いることができる。転写樹脂としては、紫外線、可視光等の電磁波等のエネルギー線により硬化する樹脂が好適である。
【0031】
上記構造体は、そのサイズや形成等は特に限定されるものではなく、ナノ構造体であってもよい。本発明によれば、このような微細な構造を有するものであっても好適に適用できる。なお、本明細書において、ナノ構造体とは、深さが1nm以上、1μm(=1000nm)未満の窪み、及び/又は、高さが1nm以上、1μm(=1000nm)未満の突起が形成された表面構造を有するものをいう。ナノ構造体としては、モスアイ構造、ワイヤーグリッド構造等が挙げられる。
【0032】
上記第1、第2の形態において、好ましい形態としては、転写ロールは円筒体であり、筒内に軸部材が挿入され、軸部材と転写ロールとは、各々の回転軸が独立するとともに異なる位置にあるものが挙げられる。円筒体の転写ロールを回転させる方法によれば、シームレスな(継ぎ目が形成されていない)表面構造を形成できる。また、円筒体の転写ロールは簡易な構造であることから、消耗材である転写ロールを安価に構成できる。また、転写ロールの筒内に挿入された軸部材を用いて転写ロールを装置に取り付けることで、転写ロールを装置へ容易に着脱でき、転写ロールの交換が容易に行える。更に、軸部材についても、転写ロールの筒内に挿入されているだけであるので、必要に応じて容易に交換できる。
【0033】
上記第1、第2の形態において、好ましい他の形態としては、転写ロールは、被転写シートを張り伸ばすときには、軸部材によって支持され、転写時に、軸部材の加圧により少なくとも3本の挟持ロールとの間で転写シートを挟持するものが挙げられる。この形態によると、転写ロールの交換に際しては、テンション調整時のように、被転写シートを張り伸ばして転写ロールと接触しない状態として行うことで、転写ロールは軸部材によって支えられた状態となり、この状態であれば、軸部材を保持することで転写ロールの表面に触れずに装置への着脱を行える。
【0034】
また、被転写シートにテンションが掛かった状態で転写ロールを交換できるため、例えば、長尺の被転写シートの途中で型押し不良が生じた場合や、被転写シートと転写ロールとの間に異物が挟まって修理や調整等が必要となった場合等に、被転写シートを切断することなく調整作業や交換作業ができる。これにより、被転写シートの無駄や、修理・調整等に掛かる時間を低減できる。
【0035】
このことは、転写ロールの管長が1mを超えるような場合に特に有効である。例えば、被転写シートの幅が、液晶ディスプレイの表面に設置される偏光板を構成するフィルムの幅と同等の幅で形成されるような場合を想定すると、偏光板の作製工程における幅が約1.5m近くあるので、転写ロールの管長は自ずと1.6〜1.7mのサイズとなる。このような管長の転写ロールをアルミニウムで作製する場合には、剛性を考慮すると、転写ロールの厚みは10mm〜20mm程度は必要となる。
【0036】
一方で偏光板を構成するTACフィルムの長さは、約3000mが標準であるから、この長さを転写することを考え、仮に転写ロールの有効転写回数を2000〜5000回と見積もると、転写ロールの外径(直径)も200〜500mm近く必要となる。このようなサイズの転写ロールは、人の手で装置に設置することは重量の点で困難であり、更に表面がナノメートルサイズの構造体であれば、その表面に触ることもできない。
【0037】
しかしながら、上記した好ましい形態では、転写ロールの交換時には、転写ロールを軸部材から外すだけでよく、また、軸部材によって転写ロールを移動させることも可能であり、転写ロールの交換に関わる手間が極端に少なくてよい上に、転写ロールの表面に触れる可能性も低くなる。
【0038】
また、上記した好ましい形態においては、転写時に、少なくとも3本の挟持ロールのみで転写ロールを安定して保持できる。更に、転写時に、少なくとも3本の挟持ロールのいずれかの回転軸は、転写ロールの回転軸よりも上方にあると、3本の挟持ロール全てによって加圧することが可能になり、より一層しっかりと転写ロールを保持できるため好ましい。
【0039】
上記第1、第2の形態において、転写ロールは、実質的に継ぎ目が形成されていないことが好ましい。これにより、転写ロールの外周面に形成された転写パターンを被転写シートの表面に実質的に継ぎ目なく形成することができ、得られた被転写シートを、例えば、超低反射シートとして表示装置に貼り付けて用いる場合には、表示むらの発生を防止することができる。なお、「実質的に継ぎ目が形成されていない」状態とは、光学的に継ぎ目の存在が検出できない状態であればよい。具体的には、転写ロールの外周面に、線状の段差が0.6μm以下の高さで形成されている状態が好ましい。また、転写ロールの外周面に、転写パターンのない線状の領域が0.6μmを超える幅で形成されていない状態が好ましい。実質的に継ぎ目が形成されていない形態の転写ロールは、円筒状のロール材の外周面に転写パターンを直接形成した場合に得ることができる。一方、転写パターンを予め形成した板状のロール材の両端を接合した場合には、接合部分において継ぎ目が形成されることになる。
【0040】
また、上記第1、第2の形態において、転写ロールは、具体的には、アルミニウムからなる円筒体の表面に陽極酸化法によりナノメートルサイズの窪みを形成した形態や、ガラス又はセラミックにて形成されている形態、ガラス又はセラミックからなる円筒体の外表面にアルミニウム薄膜を成膜し、アルミニウム薄膜に、陽極酸化法によりナノメートルサイズの窪みを形成した形態等が挙げられる。なかでも、ガラス又はセラミックからなる円筒体の外表面にアルミニウム薄膜を成膜し、このアルミニウム薄膜に、陽極酸化法によりナノメートルサイズの窪みを形成した形態が好ましい。このような形態の転写ロールであれば、加工が難しいガラスやセラミックからなる円筒体の外表面においても転写用のパターンを容易に形成できる。
【0041】
また、上記第1、第2の形態において、転写ロールは、冷却機構を更に備えていてもよい。これにより、転写ロールの温度上昇を抑制できる。冷却機構は特に限定されるものではないが、例えば、転写ロールの管内に直接には接触しない軸を通すことにより強制空冷等で冷却を実施できる。具体的には、冷却機構は、上記転写ロールの内周面に形成されたフィン又は上記転写ロールの内周面側に配置された円筒フィンと、上記フィン又は上記円筒フィンに冷却流体を供給する管とを備えるものが挙げられ、このような冷却機構は、簡易な構成で充分な冷却効果が得られることから好ましい。
【0042】
以下に、本発明のインプリントシートの製造方法の一例について説明する。本発明において、インプリントシートは、転写により所望の形状が形成されたシートであれば特に限定されるものではないが、ナノ構造体が形成されたシートが好ましく、ナノ構造体が形成された樹脂シートが特に好ましい。例えば、インプリントシートの表面にモスアイ構造を転写で形成すれば、反射防止フィルムとして好適に用いることができる。
【0043】
本発明における態様の一例としては、被転写シートと、表面にパターンが形成された転写ロールと、上記転写シートを張り伸ばすための少なくとも2本の張伸ロールと、上記転写ロールと共に上記被転写シートを挟持するための少なくとも3本の挟持ロールとを用いたものが挙げられる。この態様では、まず、少なくとも2本の張伸ロールの間で転写シートを張り伸ばす。次いで、転写ロールと被転写シートとを接触させる。転写時には、転写ロールと少なくとも3本の挟持ロールとにより被転写シートを挟持して、少なくとも3本の挟持ロールにより転写ロールを保持しつつ回転させる。ここで、少なくとも2本の張伸ロールは、少なくとも3本の挟持ロールのいずれかが兼ねるものであると、より簡易な構成で本態様を実現できる。
【0044】
この態様によれば、張伸ロールの間で転写シートを張り伸ばした後に転写ロールと被転写シートとを接触させることで、転写面に損傷のないインプリントシートが得られる。また、転写ロールと少なくとも3本の挟持ロールとにより被転写シートを挟持して、転写ロールを保持しつつ回転させて転写を行うことで、被転写シートの均一な加圧が実現でき、均一な膜厚のインプリントシートを容易に得ることができる。
【0045】
なお、本発明のインプリント装置及びインプリントシートにおいて、インプリント装置には、ナノインプリント装置が含まれ、インプリントシートには、ナノインプリントシートが含まれる。すなわち、本発明のインプリント装置は、ナノインプリントに好適であるが、ナノインプリント以外に用いられるものであってもよい。例えば、転写ロール装着時の損傷を防止すること、転写ロールの材質に関する利点については、ナノインプリントのみに限定されるものではない。
【0046】
また、本発明のインプリント装置及びインプリントシートにおいて、転写ロールは、これ自体に回転用軸を持たないため、インプリント中に蛇行などで、被転写シートの偏りなどが起きる可能性がある。したがって、転写ロールの横方向(回転軸方向)の動きに対しては、転写ロールの端面をベアリングで押さえつけて位置決めをすることで、転写ロールの回転軸方向の動きを抑制することも可能である。このベアリングの回転方向と転写ロールの端面の動きの方向とを一致させることで、転写ロールの回転方向の動きを規制することなく位置決めすることができる。
【0047】
また、本発明のローラー型インプリント装置は、上述の転写ロール、張伸ロール、及び、挟持ロールを構成要素として備えるものである限り、その他の部材により特に限定されるものではない。
【発明の効果】
【0048】
本発明のローラー型インプリント装置及びインプリントシートの製造方法によれば、転写ロールの交換が容易に行える。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】(a)は、実施形態に係るインプリント装置におけるテンション調整時の要部の状態を示す模式図であり、(b)は、実施形態に係るインプリント装置における転写時の要部の状態を示す模式図である。
【図2】実施形態に係るインプリント装置のテンション調整時の構成を示す説明図である。
【図3】実施形態に係る転写ロール及びシャフトの構成を示す斜視図である。
【図4】実施形態に係るインプリント装置の転写時の構成を示す斜視図である。
【図5】実施形態に係るインプリント装置の転写時における要部の構成を示す斜視図である。
【図6】実施形態に係るインプリントシートの構成を示す断面図である。
【図7】(a)及び(b)は、図6に示すインプリントシートの表面構造と空気層との界面における屈折率の変化を示す説明図である。
【図8】熱インプリント装置の要部を示す断面模式図である。
【図9】(a)は、冷却機構を備えた転写ロールの斜視図であり、(b)は、冷却機構の構成を示す断面模式図である。
【図10】(a)は、実施形態に係るインプリント装置の変形例におけるテンション調整時の要部の状態を示す模式図であり、(b)は、実施形態に係るインプリント装置の変形例における転写時の要部の状態を示す模式図である。
【図11】冷却フィンを備える転写ロールの内周面の上方をシャフトにより保持する態様において、転写ロールの長手方向に沿って切断された断面を示す模式図である。
【図12】図11に示す態様において、円筒形状の転写ロールを輪切り状に切断した断面を示す模式図である。
【図13】小型の転写ロールのパターンを大型の転写ロール上に塗布した紫外線硬化性樹脂に転写する方法を示す概略図である。図中のハッチングは、パターンが形成された領域を示す。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下に実施形態を掲げ、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施形態のみに限定されるものではない。
【0051】
以下に、本発明に係るローラー型インプリント装置(以下、インプリント装置と称す。)及びこれを用いたインプリントシートの製造方法について、図面を参照して説明する。
【0052】
図1(a)は、転写ロールによる被転写シートへの転写が行われる前のインプリント装置の要部の状態を示している。図1(b)は、転写時のインプリント装置の要部の状態を示している。
【0053】
本実施形態のインプリント装置は、第1〜第3の挟持ロール2a〜2c、転写ロール3、及び、シャフト(軸部材)5を備えるが、図1(b)に示すように、転写ロール3の回転軸と一致する回転用軸は持たない。
【0054】
第1〜第3の挟持ロール2a〜2cは、転写ロール3と共に被転写シート1を挟持して、転写ロール3を保持しつつ回転させる役割を有すると共に、第1〜第3の挟持ロール2a〜2cのうち少なくとも2つは、転写前に、被転写シート1を張り伸ばしてテンション調整を行う張伸ロールの役割を果している。
【0055】
転写ロール3は、外周面にナノメートルサイズの転写パターンが形成された円筒体である。転写ロール3には、従来の転写ロールとは異なり回転用軸は設けられておらず、転写ロール3の筒内には、円柱状のシャフト5が筒内を貫通するように挿入されているだけである。シャフト5は、円柱状であるが、円筒状にされてもよい。また径が均一な円柱状又は円筒状でなくてもよく、後述する図9(b)の形態のように、一部で円筒の径が異なっていても良い。
【0056】
シャフト5は転写ロール3に対して一体的に取り付けられたものではなく、単に筒内に挿入されているだけである。したがって、転写ロール3に回転用軸を形成するための機械加工を施す必要はない。また、転写ロール3とシャフト5とは、それぞれ相関なく回転するように回転軸の中心が独立しており、かつ、それぞれの回転軸の中心が異なるように配置されている。このように、本実施形態においては、転写ロール3に複雑な機構が無いことから転写ロール3の着脱及び交換を容易に行える。
【0057】
本実施形態においては、被転写シート1への型押しに先立って、図1(a)に示す状態で、被転写シート1のテンション調整が行われる。図1(a)において、転写ロール3は、被転写シート1を介して第2の挟持ロール2bと対向する位置に配置されており、シャフト5は、転写ロール3の内周面の上部に転写ロール3を吊り下げる状態で待機している。このように、被転写シート1と転写ロール3とが接触しない状態で、被転写シート1には第1の挟持ロール2a及び第3の挟持ロール2cによって矢印A方向及びB方向にテンションがかけられ、第1の挟持ロール2a及び第3の挟持ロール2c間に基材フィルム1が張り伸ばされ、被転写シート1が装置内を滞りなく流れることが確認される。すなわち、ここでは、第1の挟持ロール2a及び第3の挟持ロール2cが、本発明における少なくとも2本の張伸ロールとしての役割を兼ねている。
【0058】
被転写シート1への型押し前に被転写シート1を張り伸ばすことにより、被転写シート1が転写ロール3と擦れながら矢印A方向及びB方向に引っ張られることが無くなる。従来では、転写処理前に、被転写シートが捩れた状態のまま転写処理を行うことを防止するため、被転写シート上に被転写材料(樹脂)を塗布せずに予備的な転写処理(いわゆる空打ち処理)を行っていたが、本実施形態においては、空打ち処理は不要である。この空打ち処理では、転写ロール3と被転写シート1との間に異物が挟まった場合等に、被転写材料による緩衝がないため、転写ロール3の表面の損傷が生じやすいという問題があったが、本実施形態では、そのような問題は生じない。なお、テンション調整時には、第2の挟持ロール2bは、回転していても止まっていてもよい。
【0059】
テンション調整により、被転写シート1が滞りなく搬送されることが確認されると、シャフト5は矢印D方向へ下降する。そして、転写ロール3が被転写シート1を介して第2の挟持ロール2bと当接した状態となると、シャフト5は、図1(b)に示すように、転写ロール3を第2の挟持ロール2bの方向へ加圧して、又は、挟持ロール2bも転写ロール3の接触と共に下降して、転写ロール3は第2の挟持ロール2bとともに下降する。
【0060】
これにより、シャフト5と第2の挟持ロール2bとにより被転写シート1が挟持され、一方で、挟持ロール2a、2cが転写ロール3を巻き込むように動き、転写ロール3は、第1〜第3の挟持ロール2a〜2cによって3点支持される。このとき、第1の挟持ロール2aの回転軸n1及び第3の挟持ロール2cの回転軸n2は、転写ロール3の回転軸m1よりも上方にあることが好ましい。これにより、第1の挟持ロール2a及び第3の挟持ロール2cが転写ロール3を抱き込むような配置となり、転写ロール3は、第1〜第3の挟持ロール2a〜2cによって互いに押さえつけられることから、転写ロール3をより確実に保持できる。
【0061】
なお、挟持ロール2aの回転軸n1及び第3の挟持ロール2cの回転軸n2は、必ずしも転写ロール3の回転軸m1よりも上方になくてもよく、このときは、シャフト5が転写に必要な加重をかけることになる。
【0062】
そして、第1〜第3の挟持ロール2a〜2cは、転写ロール3を保持しつつ矢印E方向へと回転させることにより、被転写シート1を搬送(引き込み及び送り出し)しつつ、被転写シート1の表面を転写ロール3により均一に加圧して転写ロール3の表面に形成された凹凸パターンを被転写シート1に転写できる。上記方法によれば、被転写シート1を均一に加圧できるので、転写後の被転写シート1は、膜厚が均一なものとなる。
【0063】
上記のように、本実施形態では、第1の挟持ロール2a及び第3の挟持ロール2c間に被転写シート1を張り伸ばして被転写シート1が滞りなく流れることを確認したうえで転写工程に移行できることから、被転写シート1又は被転写シート1と転写ロール3との間に噛み込んだ異物によって転写ロール3を傷付けることがなくなる。
【0064】
また、UVインプリントでは、転写ロール3を被転写シート1に接触させる前に紫外線硬化樹脂を容易に塗布することができ、この樹脂の緩衝で転写ロール3と被転写シート1との直接的な接触が起きないようにすることも可能となる。これにより更に転写面の損傷を解消できる。
【0065】
また、転写ロール3の転写面の損傷が生じにくくなることから、傷のために引き起こされる被転写シート1の転写不良や、これによる歩留まりの低下を防止できる。また、転写ロール3への樹脂の付着や、これにより引き起こされる転写不良や歩留まりの低下を防止できる。更に、転写ロール3に傷がつくことによる型の寿命低下で引き起こされるコストアップを防止できる。
【0066】
以下では、本実施形態に係るインプリント装置及びプリントシートの製造方法について、紫外線硬化性樹脂を用いたUVインプリントの具体例を、図2〜図7を参照しつつ説明する。
【0067】
図2は、被転写シートのテンション調整時のインプリント装置を示す模式図である。図2において、インプリント装置100には、まず、フィルムロール(図示せず)にロール状に巻き取られた基材フィルム1aがセットされる。基材フィルム1aには、TACフィルムを用いた。なお、基材フィルム1aの幅は、後述の転写工程において、転写ロール3と第1〜第3の挟持ロール2a〜2cによって基材フィルム1aを均一に挟み込めるように、転写ロール3及び第1〜第3の挟持ロール2a〜2cの幅よりも狭くなるように設定した。フィルムロールから送り出された基材フィルム1aは、矢印A方向及びB方向にテンションがかけられて、装置内を滞りなく搬送されるようにテンション調整が行われる。
【0068】
テンション調整が行われた基材フィルム1aには、基材フィルム1aと転写樹脂との密着性を向上させるために、プライマリ剤(前処理剤)を塗布するプライマリ剤塗布工程50が行われる。プライマリ剤塗布工程50では、まず、塗布装置14aのノズルからプライマリ剤51が基材フィルム1aに塗布される。プライマリ剤51は、基材フィルム1aと転写樹脂との間に入って互いに結合することによって両者の密着性を高めるものである。ここでは、上記のように、基材フィルム1aがTACフィルムであり、転写樹脂がアクリル系の紫外線硬化性樹脂であることから、これらの材質となじみのよいアクリル系のシランカップリング剤を用いた。
【0069】
次いで、基材フィルム1aは、塗布されたプライマリ剤51の厚み(膜厚)がローラ52によって均一にならされ、紫外線照射装置15aによって紫外線照射されることによりプライマリ剤51が硬化する。なお、ローラ52による膜厚の調整は、例えば、スリットコータ等の装置を用いて、プライマリ剤51を基材フィルム1a上に均一な厚さ及び幅に塗布できるのであれば、必ずしも必要とされるわけではない。
【0070】
また、基材フィルム1aと転写樹脂との関係において、転写樹脂が基材フィルム1aに結合しやすいものであれば、必ずしもプライマリ剤51の塗布が必要となるわけではない。例えば、基材フィルム1aがPETフィルムの場合には、プライマリ剤51は必要ない場合もある。従って、プライマリ剤塗布工程50の実施は、基材フィルム1a及び転写樹脂の特性によって適宜選択されうるものである。また、ここでは、プライマリ剤51として、アクリル系のシランカップリング剤を用い、紫外線照射装置15aによるプライマリ剤51の硬化を行ったが、プライマリ剤51の種類によっては、赤外線等による熱硬化を行ってもよい。
【0071】
次いで、転写樹脂塗布工程60では、硬化したプライマリ剤51の上に、塗布装置14bのノズルから吐出された転写樹脂61が塗布される。転写樹脂61としては、アクリル系の紫外線硬化性樹脂を用いた。塗布された転写樹脂61には、ローラ62によって均一な膜厚となるように膜厚調整が行われる。なお、転写樹脂塗布工程60についても、プライマリ剤塗布工程50と同様に、スリットコータ等の装置を用いて転写樹脂61を基材フィルム1a上に均一な厚さ及び幅に塗布できるものであれば、ローラ62は必ずしも必要とされるわけではない。
【0072】
転写樹脂61が塗布された基材フィルム1aは、転写工程70aへと送られる。転写工程70aでは、上述した図1(a)と同様に、転写ロール3は、空打ち処理によって表面に傷がつくことがないように、基材フィルム1aから離れた上方に固定される。
【0073】
転写ロール3の材質は特に限定されるものではないが、ここでは、モスアイ(蛾の目)構造を作製することを想定してアルミニウム製の金型ロールを用いた。このような金型ロールは、例えば、押出加工により作製された円筒状のアルミニウム管を切削研磨した後、得られた研磨アルミニウム管の平滑なアルミニウム表面に対し、アルミニウムの陽極酸化とエッチングとを複数回繰り返し実施することにより作製できる。金型ロールは、円筒状のアルミニウム管の外周を同時に陽極酸化及びエッチングして作製されたものであるため、継ぎ目のない(シームレスな)ナノ構造体となる。従って、基材フィルム1aに対して、継ぎ目のないナノ構造体を連続的に転写できる。
【0074】
以上のようにして作製された転写ロール3は、円筒体であり、外周面には、ナノメートルサイズの転写パターンが形成されている。ここでは、深さ約200nmの略円錐形状(コーン形状)の複数の穴(円錐の頂点がアルミニウムからなる下地層側)が外周面に形成された、内径250mm、外径260mm、長さ400mmの円筒体を用いた。
【0075】
転写ロール3には、転写ロール3の回転軸方向(基材フィルム1aの幅方向)の位置決めを司るベアリング11,12が設けられていてもよい。図3は、ベアリング11,12を備えた転写ロール3の筒内にシャフト5が挿入された状態を示す斜視図である。ベアリング11,12は、転写ロール3の端面上部にあって図中の矢印方向に押し付けられている。ベアリング11,12は、第1のロール2a〜第3のロール2c及び転写ロール3の軸方向が実質的に平行な状態からずれることを抑制するものであり、転写時の転写ロール3の位置を保持するように働く。なお、ここでのベアリング11,12は、転写ロール3の上方に設置されており、図1(a)に示す状態ではシャフト5と互いに干渉することになる。但し、ベアリング11,12には駆動軸等は設置されていないため、適宜位置を変えることは容易であるので、問題は無い。
【0076】
第1〜第3の挟持ロール2a〜2cは、第1の挟持ロール2a及び第3の挟持ロール2cによって、基材フィルム1aが滞りなく搬送されるように適度なテンションをかけることができるよう構成されている。また、基材フィルム1aを送る為の駆動源となるローラーは、第1〜第3の挟持ロール2a〜2cの少なくとも1つが対応するよう構成されている。第1の挟持ロール2a及び第3の挟持ロール2cは同じ大きさであるが、第2の挟持ロール2bは、転写時にはおいて転写ロール3による加圧を受けるため、第1の挟持ロール2a及び第3の挟持ロール2cよりも大きく形成されている。更に、第1〜第3の挟持ロール2a〜2cは、加圧された際に転写ロール3と充分に密着できるように表面をゴム製とした。
【0077】
第1の挟持ロール2aと第2の挟持ロール2bとの間、及び、第2の挟持ロール2bと第3の挟持ロール2cとの間には、紫外線照射装置15b,15cが配置されている。紫外線照射装置15b,15cは、転写ロール3と基材フィルム1aとの間に紫外線光樹脂を挟んだ状態で流し、問題なく流れることを確認した後に点灯する。
【0078】
これは、プライマリ剤51は、転写樹脂61と基材フィルム1aとの密着性を上げるためのものであるため、転写樹脂61が塗布される前に硬化されているが、転写ロール3を下げて基材フィルム1aに接触させる過程では、転写樹脂61は、転写ロール3と基材フィルム1aとが異物を噛んだまま直接触れないようにするための緩衝剤としての働きを有するため、未硬化の状態であることが必要なためである。
【0079】
基材フィルム1aは、転写樹脂61を硬化することなく、次の保護フィルム貼合工程80aへと供給される。保護フィルム貼合工程80aにおいて、保護フィルム81は、基材フィルム1aとは別系統で流されており、基材フィルム1aと保護フィルム81とを一対のロール82a,82b間に通過させることにより両者が貼り合わされた積層フィルム85となる。
【0080】
ここで、転写樹脂61が未硬化のままであると、転写樹脂61が後工程におけるローラ等に付着して、これによりダストの巻き込みや付着が生じたり、生産品のインプリントシートに再付着したりして、歩留まりを下げる可能性がある。したがって、転写樹脂61は硬化させてしまった方が望ましい。転写樹脂61の硬化は、保護フィルム81と積層した後に行うのが好適である。これは、転写樹脂61が嫌気性である場合に、保護フィルム81と積層した後であれば、基材フィルム1aと保護フィルム81とに挟まれた転写樹脂61は空気から遮断されているため、紫外線照射により容易に硬化できるためである。
【0081】
ここでは、紫外線照射装置15dを用いて、一対のロール82a,82b間を通過した積層フィルム85に、基材フィルム1aの側から紫外線を照射して、転写樹脂61を硬化している。転写樹脂61が硬化された積層フィルム85は、ロール(図示せず)に巻き取られる。
【0082】
ナノ構造体の転写処理は、基材フィルム1aのテンション調整が行われた後に行われる。
図4は、被転写シートへの転写時のインプリント装置を示す模式図である。図4において、プライマリ剤塗布工程50及び転写樹脂塗布工程60は、図2と同様であるので、ここでは説明を省略する。転写工程70bでは、図1(b)と同様に転写ロール3が下降して、基材フィルム1aへの加圧が行われる。図5は、図1(b)の状態を示す斜視図である。図5において、基材フィルム1aは破線で示されており、シャフト5の図示は省略されている。
【0083】
図1(b)、図4、及び、図5に示すように、転写時には、転写ロール3は、第2の挟持ロール2bに加えて第1の挟持ロール2a及び第3の挟持ロール2cとも当接して、3つの挟持ロールによって支持された状態となる。第1の挟持ロール2a及び第3の挟持ロール2cの回転軸n1、n2が転写ロール3の回転軸m1よりも上方に位置するので、第1の挟持ロール2a及び第3の挟持ロール2cが転写ロール3を抱き込むような配置となり、転写ロール3は、第1〜第3の挟持ロール2a〜2cによって互いに押さえつけられることから、転写ロール3をより確実に保持できる。したがって、シャフト5による加圧は不要もしくは低減することが可能である。
【0084】
転写時にシャフト5により転写ロール3を加圧しない場合、シャフト5は、単に転写ロール3を上下方に移動させるだけの役割となり、加圧時の荷重に耐える強度は必要がなくなり、細く作ることも可能となる。これにより、転写ロール3の管内スペースが広くなるので、転写ロール3の内周面側に冷却機構を設け易くなる。冷却機構は、転写ロール3の材質等に応じて設けられる。例えば、冷却機構として冷却流体を供給するノズルを設けた場合であれば、ノズルを太くして冷却効率を高めることが可能である。
【0085】
基材フィルム1aが転写ロール3の外周面に沿って第1〜第3のロール2a〜2cの間を移動するときには、転写ロール3の下方から紫外線照射装置15b,15cより紫外線が照射される。これにより、紫外線硬化性樹脂からなる転写樹脂61は、転写ロール3の表面に形成されたナノメートルサイズの凹凸の反転形状を有した状態、すなわちモスアイ構造が形成された状態で硬化される。
【0086】
第1の挟持ロール2a及び第3の挟持ロール2cの回転軸n1、n2が転写ロール3の回転軸m1よりも上方に位置する配置によれば、第1の挟持ロール2aと第2の挟持ロール2bとの間隔、第2の挟持ロール2bと第3の挟持ロール2cとの間隔を広くすることができるので、紫外線照射装置15b,15cによる紫外線照射領域を広く確保することが可能となる。これにより、転写樹脂61が紫外線を受ける搬送距離が長くなり、転写ロール3の転写回転速度(基材フィルム1aの搬送速度)が同じであれば照射量が増加する。したがって、紫外線照射領域を広く取る前と比較して、転写ロール3の転写回転速度を上げることができ、生産性の向上が図れる。
【0087】
第3の挟持ロール2cを通過した基材フィルム1aは、硬化された転写樹脂61とともに転写ロール3から剥離され、転写樹脂61上に保護フィルム81が貼り合わされ、積層フィルム85とされる。保護フィルム81の基材フィルム1aとの貼り合わせ面側には、予め粘着剤が塗布されており、基材フィルム1aと保護フィルム81との貼り合わせは、ロール82a、82bによって、プリントされたモスアイ構造の形状が崩れない程度の圧力で加圧することにより貼り合わせされる。保護フィルム81と貼り合わされることにより、モスアイ構造を有する樹脂膜の表面にホコリ等の異物が付着したり、傷がつくことを防止できる。なお、保護フィルム81は、基材フィルム1aが偏光板やディスプレイ等の表面に貼合されるまでの間、モスアイ構造の保護のために設けられるものであり、貼合された後には剥離される。
【0088】
転写樹脂61は、紫外線照射装置15b,15cからの紫外線照射により既に硬化しているので、保護フィルム貼合工程80bでの紫外線照射装置15dは消灯している。なお、紫外線照射装置15a〜15dには、いずれも装置外に紫外線が漏れないようにする囲い16a〜16dが設けられている。
【0089】
そして、積層フィルム85が巻き取られて積層フィルムロールが作製される。図6は、積層フィルム85の構成を示す断面模式図である。図6に示すように、積層フィルム85は、基材フィルム1aと、プライマリ層51aと、ナノ構造体7aが形成された樹脂膜61aと、保護フィルム81とを備える。
【0090】
ナノ構造体7aは、高さ約200nmの略円錐形状の突起が、頂点間の距離が約200nmで多数形成された表面構造を有している。このような表面構造は、「モスアイ(蛾の目)構造」と呼ばれることがある。モスアイ構造を表面に有する膜(シート)は、超低反射膜(シート)として知られている。例えば、基材フィルム1aの屈折率が1.5であるとすると、モスアイ構造体が無い場合には、空気層(n=1.0)と基材フィルム1aとの界面での可視光の界面反射率が4.0%であるのに対し、上記界面にモスアイ構造を備える屈折率1.5の樹脂膜61aが存在する場合においては、可視光の反射率を0.2%程度にすることができる。すなわち、可視光の波長(380〜780nm)よりもナノ構造体7aの突起が充分小さいため、可視光にとっては、表面側の突起先端(図6中のA側)と突起の底(図6中のB側)との間で屈折率が1.0から1.5まで連続的に変化するように見える。
【0091】
図7(a)は、空気層と樹脂膜との界面における屈折率の変化を説明する模式図であり、図7(b)は、積層フィルムの構成を示す断面模式図である。図7(b)においては、積層フィルム85の保護フィルム81(粘着層を含む)は無い状態を想定している。図7(a)において、表面側の空気層(A側)の屈折率は1.0であり、樹脂膜(B側)の屈折率は1.5である。突起の先端(A側)から突起の底(B側)にかけての屈折率は、ナノ構造体7aが形成されていることで、連続的に1.0から1.5まで徐々に大きくなっている。これにより、実質的には屈折率の不連続な界面が存在しないことになり、構造体形成面での反射率が極端に減少する。
【0092】
なお、樹脂膜61aと基材フィルム1aとは、屈折率が共に1.5であるため、これらの界面では反射は生じない。また、ナノ構造体7aが作製されたフィルムを、例えば屈折率1.5のガラスに貼り合わせすれば、フィルムとガラス界面とは屈折率の不連続面はないので、大きく屈折率が異なるのは空気との界面だけを考慮すればよく、ナノ構造体7aによって空気界面との反射が低減されることになる。
【0093】
積層フィルム85の膜厚を測定したところ、樹脂膜61aの厚みは10±0.7μmであり、膜厚の均一性において優れていた。表面が平滑な黒いアクリル板(屈折率1.49)の上に、作製した積層フィルム85を糊(屈折率1.50)で貼り付け、保護フィルム81を剥離した後、これを白色光源の下に照らして、観察角度を変化させながら目視により観察したところ、表面反射のむら、及び、それに付随して生じる表示品位のむらは確認されなかった。また、入射面に対する法線方向から5°傾けて入射させたときの波長550nmの可視光の直接反射率は0.15%であり、波長380〜780nmの可視光に対する平均反射率は0.2%であった。
【0094】
積層フィルム85は、表示装置の画面、ショーウインドウ等の表示に用いられる面や、建築資材等の装飾が施された面に対し、反射防止シートとして好適に取り付けられる。表示装置としては、例えば、液晶表示装置、有機エレクトロルミネッセンス表示装置、プラズマ表示装置が挙げられる。
【0095】
なお、本実施形態において、転写樹脂61を基材フィルム1aに塗布する方式を説明したが、転写ロール3に樹脂を塗布する方式にしてもよい。
【0096】
本実施形態において、転写時において、第1〜第3の挟持ロール2a〜2cを転写ロール3の回転中心に対して120°間隔で略点対称に配置する方式を説明したが、第1〜第3の挟持ロール2a〜2cの配置は特に限定されない。第1〜第3の挟持ロール2a〜2cのみで転写ロール3を保持できることが望ましい。また、挟持ロールの本数は、特に限定されるものではない。
【0097】
本実施形態において、第1及び第3の挟持ロール2a,2cが張伸ロールを兼ねる方式を説明したが、張伸ロールとして働くロールの本数についても特に限定されるものではない。
【0098】
本実施形態において、紫外線照射装置15b,15cを、第1の挟持ロール2aと第3の挟持ロール2cとの間、及び、第2の挟持ロール2bと第3の挟持ロール2cとの間に設ける方式を説明したが、紫外線照射装置は、1台又は3台以上設けられていてもよく、その設置箇所も適宜変更できる。
【0099】
本実施形態において、転写樹脂61として紫外線硬化性樹脂を用いたUVインプリント方式を説明したが、熱可塑性樹脂を用いた熱インプリント方式を適用してもよい。図8は、被転写シートとして熱可塑性樹脂からなるシート20を用いたインプリント装置の要部を示す断面模式図である。従来の熱インプリントでは、転写時に基材フィルム1aと転写ロール3とは直接に接触するが、このとき双方に摺れを生じることは無い。また、異物があったとしても、熱インプリント時のシート20は軟化しており、異物はシート20の中に押込められるため問題はない。従来の熱インプリントで問題となるのは、シート20のテンションを調整する際に、シート20と転写ロール3とに摺れや異物を噛んだ状態が生じて転写ロール3に傷をつける可能性が非常に高いことにある。従って熱インプリント方式を適用する場合、転写樹脂61のような緩衝材となるものは無いが、図1(a)及び図1(b)に示した本実施形態のテンション調整方法によれば、インプリントの準備段階で転写ロール3に傷を付けることを極力避けることができる。
【0100】
熱インプリントの加熱機構は、第1のロール2a〜第3のロール2cの各軸の内部や加圧ローラー5の内部に設置することも可能であるし、図8に示すように、転写ロール3の内側に赤外線ヒータ6を設置してもよい。図8では4個の赤外線ヒータ6が配置されているが、赤外線ヒータ6の数は特に限定されるものではない。
【0101】
本実施形態において、基材フィルム1aの送り出しから基材フィルム1aの巻き取りまでを一貫して行うインプリント装置を説明したが、型押しを行う機構を備えるものであれば特に限定されるものではない。
【0102】
本実施形態において、転写ロール3として金属アルミニウム管を用いたが、転写ロールの材質は特に限定されるものではなく、ガラス管、セラミック管等を適用してもよい。
【0103】
本実施形態においては、円筒体の転写ロール3にシャフト5を挿入するだけでよく、転写ロール3自体に加工を施すものではないため、非金属製の転写ロールであっても使用できる。これに対し、従来では、ガラス管やセラミック管は、一般に切削加工、穴あけ加工、ネジきり加工等の機械加工が容易ではなく、インプリント装置に取り付けるための軸部が一体となった転写ロールに加工し難いものであるため、使用されていなかった。特に、セラミック管のように硬度の高いものは、機械加工が困難である。
【0104】
ガラス管を用いた転写ロールであれば、ガラスはその表面が滑らかであるため、アルミニウム等からなる金属ロールとは異なり、研磨処理を施すことなく、表面にアルミニウムを成膜し引き続いて、陽極酸化法を用いることで、ガラス管の外周面にナノメートルサイズの円錐形状の窪みを形成できる。
【0105】
また、セラミック管を用いた転写ロールであれば、セラミックは、耐熱性、高温時の寸法保持性、放熱性が金属ロールよりも良く、転写時に高温となる工程や温度変化の大きい工程、例えば熱インプリント後に冷却させる工程がある場合には好適である。
【0106】
ガラス管やセラミック管を用いる場合、管の表面に設けられた金属薄膜にパターンを形成して転写ロールを作製する方法が好適である。転写ロールの好ましい形態としては、ガラス又はセラミックからなる円筒体の外表面にアルミニウム薄膜を成膜し、このアルミニウム薄膜に、陽極酸化法によりナノメートルサイズの窪みを形成した形態が挙げられる。この場合、実質的に継ぎ目のない転写ロールを形成することができる。また、ガラスやセラミックスをロール基材に用いることで、陽極酸化工程やエッチングにおいてロール基材が腐食されることがなく、腐食防止のためにマスキングする必要がない。
【0107】
本実施形態において、図9(a)及び図9(b)に示すように、転写ロール3の内周面に冷却機構を設けてもよい。紫外線硬化性樹脂を用いたUVインプリントでは、紫外線照射による発熱のために転写ロールの温度が上昇して、紫外線硬化性樹脂の自発硬化やフィルム膨張が生じることがある。このような不具合の発生を防止する手段として、転写ロール3の温度上昇を防止して一定の温度上昇幅にとどめておくために、転写ロール3の内周面に冷却機構を設けることがある。
【0108】
図9(a)は、冷却フィンを備えた転写ロール3の斜視図である。図9(b)は、転写ロール3を冷却フィンにより冷却する方法を説明する断面図である。冷却機構の構成は、特に限定されるものではないが、図9(a)では、転写ロール3の内周面に一体的に冷却フィンが設けられている。
【0109】
転写ロール3は、金属製やセラミック製であれば、内部に冷却フィン30を作り込みできる。例えば、アルミニウム管を引抜き加工で形成する場合であれば、引抜き型の形状に応じた形状の冷却フィン30を形成できる。セラミック製であれば、焼き固める前の型に応じた形状の冷却フィン30を形成できる。
【0110】
転写ロール3の内周面に冷却フィン30を形成するとともに、冷却フィン30に冷却流体としての空気を供給する管路40を設けることで冷却効率を高めることができる。
【0111】
なお、冷却フィン30は、転写ロール3の内壁の一部において形成されていない領域があってもよい。例えば、金属製の転写ロールであれば研磨にてフィンを部分的に除去することができる。セラミック製の転写ロールであれば冷却フィン30とならない部分を予め作っておけばよい。
【0112】
図9(b)に示す形態では、転写ロール3に挿入されたシャフト5の一部は、その外径が大きくなっており、冷却フィン30の無い部分にはシャフト5の外径が大きい部分が触れて、矢印A方向に転写ロール3を押し付ける。シャフト5の軸外径の細い部分は、冷却フィン30を跨ぐように配置されており、この部分では転写ロール3に接しない。
【0113】
冷却フィン30の一部分には強制的に空気を吹付けるように管路40が設けられている。外部から圧送された空気は、矢印で示すように、管路40に形成された開口部(穴)から冷却フィン30に直接空気を当てる機構となっている。これにより、転写ロール3は冷却される。
【0114】
転写ロール3がガラス製の場合は、冷却フィン30を内部に作りこむことが困難であるが、アルミニウムの薄板を曲げ加工して作製した円筒のフィンを内部に設置することで対応することが可能である。この場合、転写ロール3内のスペースを広く確保することが可能なので管路40を太くでき、冷却効率を上げることもできる。なお、転写ロールに備えられる冷却フィンの形状や数等については特に限定されるものではない。
【0115】
本実施形態において、第2の挟持ロール2bは、第1の挟持ロール2a及び第3の挟持ロール2cよりも大きい場合を説明したが、第1〜第3の挟持ロールの大きさは特に限定されない。第2の挟持ロール2bが第1の挟持ロール2a及び第3の挟持ロール2cよりも小さい態様にしてもよく、第1〜第3の挟持ロール2a〜2cが同じ大きさである態様にしてもよい。図10(a)は、第1〜第3の挟持ロールが同じ大きさのインプリント装置におけるテンション調整時の要部の状態を示す模式図である。
【0116】
本実施形態においては、転写時にシャフト5が転写ロール3を下方に加圧する場合と、転写時にシャフト5が転写ロール3を加圧しない場合とがあることを説明した。前者は、転写ロール3の重みだけでは充分な型押し圧力が得られない場合であり、後者は転写ロール3の重みによりちょうど適切な型押し圧力が得られる場合であったり、転写ロール3の径や長さが大きくなってその重量が増加することで転写ロール3の重みによる型押し圧力が大きくなるために、転写ロール3の重みによる型押し圧力を軽減させることが望まれる場合である。
【0117】
例えば、長さ1m、外径300mm、内径260mmのアルミニウム管を転写ロール3に用いる場合、転写ロール3の重量は、約47.5kgとなる。転写ロール3と第2の挟持ロール2bとが基材フィルム1aを挟み込む加圧部分の幅を2mmと仮定すると、転写時には転写ロール3の重量のみで約0.23MPaの型押し圧力がかかる。紫外線硬化樹脂を使う場合、通常、0.2〜0.5MPaが適切な型押し圧力であると推定され、約0.23MPaの型押し圧力であれば問題ないが、転写ロール3の重量や加圧部分の幅によっては、シャフト5により加圧することなく、単に転写ロール3を第2の挟持ロール2bに載せた状態であっても、適切な型押し圧力範囲を超えるおそれがある。
【0118】
型押し圧力が大きすぎると、型押し後の樹脂の厚みが小さくなりすぎたり、樹脂が押し広げられすぎて転写ロール3の側面からはみ出ることがあり、転写ロール3の表面の凹凸パターンの形状が変形してしまうおそれもある。
【0119】
型押し圧力を軽減させる態様としては、転写時に転写ロール3を持ち上げる方向にシャフト5を働かせる態様が挙げられる。図10(b)は、図10(a)のインプリント装置における転写時の要部の状態を示す模式図であり、転写時にシャフトにより転写ロールの内周面の上方を保持する態様を示している。第1の挟持ロール2a及び第3の挟持ロール2cによって基材フィルム1aのテンションが調整される際には、図10(a)に示すように、円筒形状の転写ロール3は、筒内に挿通されたシャフト5により吊り下げられ、第2の挟持ロール2b上に保持される。そして、シャフト5が降下して、転写ロール3が基材フィルム1aとともに第2の挟持ロール2bを押し下げることにより転写可能な状態となる。図1(b)では、上記状態において、シャフト5は、転写ロール3の内周面の上端から下端まで移動しており、シャフト5と第2の挟持ロール2bとが基材フィルム1aを挟持しているが、図10(b)では、上記状態において、シャフト5は、降下前と同様に、転写ロール3の内周面の上端に留まっており、シャフト5で支持する転写ロール3の重量割合を増減させることにより、第2の挟持ロール2bで支持する転写ロール3の重量割合を増減させ、型押し圧力の調整を行なう。
【0120】
なお、転写時にシャフト5により転写ロール3の内周面の上方を保持する態様についても、転写時にシャフト5により転写ロール3の内周面の下方を加圧する態様と同様に、転写ロール3に冷却機構を付与することは可能である。冷却機構は、シャフト5に干渉しないように適宜設計すればよい。図11は、冷却フィンを備える転写ロールの内周面の上方をシャフトにより保持する態様において、転写ロールの長手方向に沿って切断された断面を示す模式図であり、図12は、図11に示す態様において、円筒形状の転写ロールを輪切り状に切断した断面を示す模式図である。図12に示すように、シャフト5の長手方向に沿って間隔を空けて複数の歯車部5aを設け、転写ロール3の内周面にも歯車部5aと嵌合する歯車部3aを設ければ、転写ロール3とシャフト5との接触部が互いに嵌合し合い、転写ロール3の回転とシャフト5の回転を確実に一致させることができる。
【0121】
比較例1
比較例1のインプリント装置は、転写ロールの回転軸と一致する回転用軸を備えたインプリント装置である。回転用軸を備えているため、シャフト5は設けられない。したがって、転写ロール3の保持方法が異なるが、それ以外の点については、本発明に係るインプリント装置100と同様の構造を有する。
【0122】
本比較例において、回転用軸は、以下のように構成した。すなわち、回転用軸が一体に形成された円柱状の金属ロールを用い、この金属ロールに円筒状の転写ロールを被せた。そして、金属ロールと転写ロールとの回転軸が一致するように、両者の間の空間にスペーサ(楔)を差し込み、この空間に硬化性樹脂を注入して硬化し、両者を接着した。これにより、金属ロールの回転用軸は、転写ロールの回転軸と一致することになる。金属ロールと一体に形成された転写ロールをインプリント装置内に取り付け、モスアイ構造を作製した。
【0123】
得られた樹脂シートの膜厚分布は、12±1.8μmであった。また、表面が平滑な黒いアクリル板(屈折率1.49)の上に、作製した樹脂シートを糊(屈折率1.50)で貼り付け、これを白色光源下に照らして、観察角度を変化させながら目視により観察した結果、膜厚差に起因する干渉色が観察された。更に、金属ロールと一体に形成された転写ロールの装着時や、被転写シートの準備の際に生じたと見られるキズに起因する転写ロールのパターン欠陥がそのまま転写され、欠陥部分の反射率が周りと比べて高く、欠陥として目視で認識できた。
【0124】
なお、本願は、2008年12月17日に出願された日本国特許出願2008−321349号を基礎として、パリ条約ないし移行する国における法規に基づく優先権を主張するものである。該出願の内容は、その全体が本願中に参照として組み込まれている。
【符号の説明】
【0125】
1 被転写シート
1a 基材フィルム
2a〜2c 第1〜第3の挟持ロール
3 転写ロール
5 シャフト
6 赤外線ヒータ
7a ナノ構造体
n1、n2、m1 回転軸
11、12 ベアリング
14a、14b 塗布装置
15a〜15d 紫外線照射装置
16a〜16d 囲い
20 シート
30 冷却フィン
40 管路
50 プライマリ剤塗布工程
51 プライマリ剤
52、62 ローラ
60 転写樹脂塗布工程
61 転写樹脂
61a 樹脂膜
70a、70b 転写工程
80a、80b 保護フィルム貼合工程
81 保護フィルム
82a、82b ロール
85 積層フィルム
100 インプリント装置
191 小型の転写ロール
192 大型の転写ロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にパターンが形成された転写ロールを回転させることで被転写シートに該パターンを転写するローラー型インプリント装置であって、
該インプリント装置は、少なくとも2本の張伸ロールを備え、
該被転写シートは、複数の該張伸ロールの間で張り伸ばした後に該転写ロールと接触させることを特徴とするローラー型インプリント装置。
【請求項2】
表面にパターンが形成された転写ロールを回転させることで被転写シートに該パターンを転写するローラー型インプリント装置であって、
該インプリント装置は、少なくとも2本の張伸ロールを備え、
該被転写シートは、複数の該張伸ロールの間で張り伸ばした後に該転写ロールと接触させ、
該パターンは、ナノメートルサイズの凹凸であることを特徴とするローラー型インプリント装置。
【請求項3】
前記張伸ロールは、挟持ロールを兼ねることを特徴とする請求項1又は2記載のローラー型インプリント装置。
【請求項4】
前記転写ロールは、アルミニウムからなる円筒体の表面に陽極酸化法によりナノメートルサイズの窪みを形成したものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のローラー型インプリント装置。
【請求項5】
前記転写ロールは、ガラス又はセラミックからなる円筒体の外表面にアルミニウム薄膜を成膜し、該アルミニウム薄膜に、陽極酸化法によりナノメートルサイズの窪みを形成したものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のローラー型インプリント装置。
【請求項6】
前記転写ロールは、冷却機構を更に備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のローラー型インプリント装置。
【請求項7】
前記冷却機構は、前記転写ロールの内周面に形成されたフィン又は前記転写ロールの内周面側に配置された円筒フィンと、該フィン又は該円筒フィンに冷却流体を供給する管とを備えることを特徴とする請求項6記載のローラー型インプリント装置。
【請求項8】
表面にパターンが形成されたインプリントシートの製造方法であって、
該製造方法は、
被転写シートと、表面にパターンが形成された転写ロールと、該被転写シートを張り伸ばすための少なくとも2本の張伸ロールを用いるものであり、
複数の該張伸ロールの間で該被転写シートを張り伸ばした後に、該転写ロールと該被転写シートとを接触させることを特徴とするインプリントシートの製造方法。
【請求項9】
前記張伸ロールは、挟持ロールを兼ねることを特徴とする請求項8記載のインプリントシートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−102039(P2011−102039A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−3381(P2011−3381)
【出願日】平成23年1月11日(2011.1.11)
【分割の表示】特願2010−516094(P2010−516094)の分割
【原出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】