説明

ロール・トゥ・ロール方式真空両面成膜装置および両面金属ベース層付樹脂フィルム製造装置

【課題】長尺樹脂フィルムの取り付けおよび取り出しを効率よく行えるロール・トゥ・ロール方式真空両面成膜装置を提供する。
【解決手段】巻出しロール室内の巻出しロールから巻き出された長尺樹脂フィルムをロール・トゥ・ロール方式により搬送し、巻取りロール室内の巻取りロールに巻き取ると共に、成膜室の長尺樹脂フィルムの搬送路上の前記成膜室には、真空成膜手段に対向しかつ内部に冷媒が循環する2つ以上のキャンロールを備えるロール・トゥ・ロール方式真空両面成膜装置が、前記巻出し室と前記巻取り室が、前記成膜室の一方の側の外壁にのみ配されることと、且つ成膜室の鉛直方向では前記巻出し室が前記巻取り室の上若しくは下に配されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長尺樹脂フィルムをロール・トゥ・ロール方式で搬送しつつ真空成膜機構で前記長尺樹脂フィルムに成膜を行うロール・トゥ・ロール方式真空両面成膜装置に関し、さらには、前記ロール・トゥ・ロール方式成膜装置を両面金属ベース層付樹脂フィルムの製造に応用した金属ベース層付樹脂フィルムの製造装置に関する。特に、両面に金属膜を成膜する金属ベース層付樹脂フィルムの製造に好適に利用することができる。
【背景技術】
【0002】
液晶パネル、ノートパソコン、デジタルカメラ、携帯電話等には、耐熱性樹脂フィルム上に金属膜を被覆して得られる多種類のフレキシブル配線基板が用いられ、このフレキシブル配線基板には、樹脂フィルムのうち耐熱性樹脂フィルムの片面若しくは両面に金属膜を成膜した金属膜付耐熱性樹脂フィルムが用いられている。金属膜付耐熱性樹脂フィルムには、配線パターンの繊細化、高密度化に伴って平坦性が求められてきている。
【0003】
上記のような金属膜付耐熱性樹脂フィルムの製造方法としては、従来、(1)金属箔を接着剤により耐熱性樹脂フィルムに貼り付けて製造する方法、
(2)金属箔に耐熱性樹脂溶液をコーティングした後、乾燥させて製造する方法、
(3)耐熱性樹脂フィルムに真空成膜法(真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンビームスパッタリング法等)若しくは湿式めっき法により金属膜を成膜して製造する方法等が知られている。
【0004】
また、真空成膜法若しくは湿式めっき法を用いる3番目の製造方法として、特許文献1では、成膜速度は遅いが密着力に優れる金属膜を形成できるスパッタリング法を用いて金属膜付耐熱性樹脂フィルムを製造する方法が開示されており、また、特許文献2では、成膜速度は遅いが密着力に優れる金属膜を形成できるスパッタリング法を用いて薄膜の金属ベース層をまず成膜し、続いて、成膜速度の速い湿式めっき法を用いて上記金属ベース層上に厚膜の金属膜を形成し、金属膜付耐熱性樹脂フィルムを効率よく製造する方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献1では、金属膜の密着力を更に高めるため、2種類のスパッタリングターゲットを用いた方法も開示されている。すなわち、ニッケル銅合金をスパッタリングターゲットとして第一の金属薄膜をまず成膜し、続いて、銅等をスパッタリングターゲットとして上記金属シード層上に厚膜の金属膜を成膜する方法が提案されている。
【0006】
さらに、成膜速度の速い電気めっき法と成膜速度の遅いスパッタリング法を併用する技術が特許文献2に開示されている。特許文献2の製造方法は、スパッタリング法のみを用いる特許文献1の方法と比較して製造効率に優れるため、特許文献2に記載された製造方法が広く利用されている。
【0007】
スパッタリング法と湿式めっき法(電気めっき法)で作製された金属膜付耐熱性樹脂フィルムの構造を図1に示す。耐熱性樹脂フィルム300の上にスパッタリング法により金属シード層301と金属ベース層302を成膜し、湿式めっき法により金属膜303を成膜している。
【0008】
ところで、耐熱性樹脂フィルム300の両面に金属ベース層302をスパッタリング法などの真空成膜法により成膜するには、2つの方法がある。一つは、耐熱性樹脂フィルム300の第1成膜面に金属ベース層302を成膜した後に、真空成膜装置から一旦、取り出し、耐熱性樹脂フィルム1を裏返してセットして第2成膜面に金属ベース層302を成膜する方法であり、もう一つは、図2に示す耐熱性樹脂フィルム300の表面に金属ベース層302を成膜した後、真空中で連続して裏面に金属ベース層302を成膜する方法がある。特許文献3には、連続高分子フィルムの両面上に磁性薄膜を連続的にスパッタリング法で成膜する技術が開示されている。連続して、両面成膜を行う後者の方法は、表面成膜後に巻き取ることなく、しかも大気に解放することもないので、成膜特性が安定することは言うまでもない。ただし、特許文献3に記載の連続成膜装置は両面成膜を行う為に、上向きの磁性ターゲットと下向きの磁性ターゲットを備える為、連続成膜装置のターゲットの幅が50cmを超えて大型化した場合のターゲット取替え等の保守や磁性ターゲット内部の冷媒流量制御などの問題点もあり、ターゲット交換時にはモータでスパッタリングカソードを回転させるなどの機能を付するので構造的に複雑となる。
【0009】
図2の両面成膜装置(2キャンロール)について説明する。この両面成膜装置は、成膜室を大気解放することなくフィルム交換が可能なロードロック機構付きである。巻出しロール室1と第1成膜室3の間には、巻出しロール室1が大気解放時に、マカロニパッキン(中空パッキン)により耐熱性樹脂フィルム26フィルムを挟み真空と大気を遮断するロードロック機構付きの差圧室2を備えている。第1成膜室3と第2成膜室11は連結室8により接続されている。巻取りロール室9と第2成膜室11の間には、巻取りロール室9が大気解放時に、マカロニパッキン(中空パッキン)により耐熱性樹脂フィルム26フィルムを挟み真空と大気を遮断するロードロック機構付きの差圧室10を備えている。巻出しロール27から巻き出された耐熱性樹脂フィルム26は、第1成膜室3内のキャンロール5上で第1成膜面にスパッタリングカソード22,23,24,25からスパッタリング法により成膜され、続いて第2成膜室11内のキャンロール13上で第2成膜面にスパッタリングカソード17,18,19,20からスパッタリング法により成膜され、巻取りロール21に巻き取られる。巻出しロール27と巻取りロール21はサーボモータのトルク制御により耐熱性樹脂フィルム26の張力バランスが保たれており、2つのキャンロール5,13の回転により巻出しロール21から長尺耐熱性樹脂フィルム26が巻き出されて巻取ロール21に巻き取られる。巻出しロール27から巻取りロール21までの搬送路には、駆動ロール4、6、14、12と搬送方向を変えるフリーロール28,7,15,16が配置されている。駆動ロール、フリーロール、巻出しロール、巻取りロール間に張力センサーロールを配置してもよい。
【0010】
次に図3の両面成膜装置(4キャンロール)について説明する。この両面成膜装置も、成膜室を大気解放することなくフィルム交換が可能なロードロック機構付きである。巻出しロール室100と第1成膜室102の間には、巻出しロール室101が大気解放時に、マカロニパッキン(中空パッキン)により耐熱性樹脂フィルム142フィルムを挟み真空と大気を遮断するロードロック機構付きの差圧室101を備えている。第2成膜室106と第4成膜室114は連結室111により接続されている。巻取りロール室112と第4成膜室114の間には、巻取りロール室112が大気解放時に、マカロニパッキン(中空パッキン)により耐熱性樹脂フィルム142フィルムを挟み真空と大気を遮断するロードロック機構付きの差圧室113を備えている。巻出しロール143から巻き出された耐熱性樹脂フィルム142は、第1成膜室102内のキャンロール104上で第1成膜面にスパッタリングカソード139,138,140,141からスパッタリング法により成膜され、続いて第2成膜室106内のキャンロール108上で第1成膜面にスパッタリングカソード133,134,135,136からスパッタリング法により成膜され、第3成膜室118内のキャンロール120上で第2成膜面にスパッタリングカソード124,125,126,127からスパッタリング法により成膜され、続いて第4成膜室114内のキャンロール116上で第2成膜面にスパッタリングカソード129,128,130,131からスパッタリング法により成膜され、巻取りロール132に巻き取られる。巻出しロール143と巻取りロール132はサーボモータのトルク制御により耐熱性樹脂フィルム142の張力バランスが保たれており、4つのキャンロール104,108,116,120の回転により巻出しロール143から長尺耐熱性樹脂フィルム142が巻き出されて巻取ロール132に巻き取られる。巻出しロール143から巻取りロール132までの搬送路には、駆動ロール103,105,107,109,115,117,119,121と搬送方向を変えるフリーロール137,110,122,123が配置されている。駆動ロール、フリーロール、巻出しロール、巻取りロール間に張力センサーロールを配置してもよい。
【0011】
しかしながら、図2と図3に示す方法では、巻取りロール室が装置中央部に配置されるため、重量物である耐熱性樹脂フィルムの取出しが容易に行える構造ではなかった。また、図2と図3に示す装置をクリーンルーム内に設置する際、クリーニング時に大量の粉塵を発生する成膜室もクリールルーム内に設置することを避けられない構造であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第3447070号
【特許文献2】特許第3570802号
【特許文献3】特開2004−11023号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は上記のような問題点に鑑み、その課題とするところは、平面性に優れかつ生産性にも優れる両面成膜を行うロール・トゥ・ロール方式真空両面成膜装置を提供することである。具体的には、長尺樹脂フィルムの取り付けおよび取り出しを効率よく行え、維持管理が容易なロール・トゥ・ロール方式真空両面成膜装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
そこで、上記課題を解決するため、本発明者は、ロール・トゥ・ロール方式により搬送して、巻出しロール室と巻取りロール室が成膜室と遮断できるロードロック機構を備え、成膜室を大気解放することなく長尺樹脂フィルムが巻かれたロールが交換可能な構造を有し、真空成膜手段を配置した少なくとも2個以上のキャンロールからなるロール・トゥ・ロール方式真空両面成膜装置において、巻出しロール室と巻取りロール室が上下方向に配置され、さらに、キャンロールも上下方向に配置されているロール・トゥ・ロール方式真空両面成膜装置にて成膜を行う方法を試みた。
【0015】
すなわち、このような巻出しロール室と巻取りロール室、および、少なくとも2個以上のキャンロール上下に配置した構造することで、装置の同一外壁面に巻出しロール室と巻取りロール室を配置することが可能になり、巻出しロール室と巻取りロール室からのフィルムの取り付けや取り外しが容易になり、クリーンルーム内に設置する際、巻出しロール室と巻取りロール室のみクリーンルームに設置し、クリーニング時に大量の粉塵を発生する成膜室は巻出しロール室と巻取りロール室とは別の部屋に設置することが容易になる。
【0016】
従って、本発明のロール・トゥ・ロール方式真空両面成膜装置は、長尺樹脂フィルムの両面に成膜を効率よく行う成膜装置を見出すに至った。本発明はこのような技術的知見により完成されたものである。
【0017】
すなわち、本発明の第一の発明は、巻出しロール室内の巻出しロールから巻き出された長尺樹脂フィルムをロール・トゥ・ロール方式により減圧雰囲気に耐える成膜室を経由して搬送し、巻取りロール室内の巻取りロールに巻き取ると共に、前記巻出しロール室と前記巻取りロール室が前記成膜室と雰囲気を遮断できるロードロック機構を備え、成膜室の長尺樹脂フィルムの搬送路上の前記成膜室には、真空成膜手段に対向しかつ内部に冷媒が循環する2つ以上のキャンロールを備えるロール・トゥ・ロール方式成膜装置において、
前記巻出し室と前記巻取り室が、前記成膜室の一方の側の外壁にのみ配されることと、且つ成膜室の鉛直方向では前記巻出し室が前記巻取り室の上若しくは下に配されていることを特徴とする。
【0018】
第二の発明は、第一の発明のキャンロールの配置が、前記成膜機構が対向したキャンロールのうち前記長尺樹脂フィルムの搬送路上、前記巻出しロールに近接したキャンロールが、前記巻出しロールに近接したキャンロールの、成膜室の鉛直方向に対して上若しくは下の位置にあることを特徴とする。
【0019】
第三の発明は、第一または第二の発明の前記長尺樹脂フィルムの搬送路が、キャンロールに対向した成膜機構により前記長尺樹脂フィルムの一方の面に成膜した次には、別のキャンロールに対向した別の真空成膜手段が前記長尺樹脂フィルムの他方の面に成膜を行う位置に配されている特徴とする。
【0020】
第四の発明は、第一から第三の発明の前記長尺樹脂フィルムの搬送路上で前記成膜手段に対向したキャンロールは、前記搬送路の下流に向かうほど、その回転速度が速くなる制御がされることを特徴とし、第五の発明は第一から第三の発明の前記長尺樹脂フィルムの搬送路上で前記成膜手段に対向したキャンロールは、前記搬送路の下流に向かうほど、その回転速度が遅くなる制御がされることを特徴とする。
【0021】
第六の発明は、第一から第五の発明の前記真空成膜手段が、スパッタリングカソードであることを特徴とする。
【0022】
さらに、第七の発明は、第一から第六の発明の前記ロードロック機構を備える巻出しロール室および巻取りロール室の開口部は、クリーンルーム内に配置されていることを特徴とする。
【0023】
そして、第八の発明は、第一から第六の発明のロール・トゥ・ロール方式真空両面成膜装置で金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムを成膜することを特徴とする両面金属ベース層付耐熱性樹脂フィルム製造装置である。
【発明の効果】
【0024】
本発明のロール・トゥ・ロール方式成膜装置によれば、巻出しロール室と巻取りロール室が前記成膜室の同一の側の外壁面にのみ配されることと、且つ成膜室の鉛直方向では前記巻出し室が前記巻取り室の上若しくは下に配されていることと、前記成膜室の配置が前記巻出し室と前記巻取り室の間に前記成膜室が挟まれないので、前記成膜室の同一方向に巻出しロール室と巻取りロール室を配置することが可能になり、巻出しロール室と巻取りロール室からのフィルムの取り付けや取り外しが容易になる。本発明のロール・トゥ・ロール方式成膜装置は巻出しロール室と巻取りロール室のみクリーンルームに設置し、クリーニング時に大量の粉塵を発生する成膜室は巻出しロール室と巻取りロール室とは別の部屋に設置することが可能であり、クリーンルームの維持管理を容易にする。また、成膜装置のメンテナンス性などの維持管理面でも優れる。結果的には高いクリーン度が必要とされる巻出しロール室と巻取りロール室が接するクリーンルームを小面積にすることができ、クリーンルーム管理コストも削減できるばかりか、成膜室クリーニング時に発生する大量の粉塵から隔離することができ、品質面の向上も期待できる。
こられの効果より両面金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムを効率よく製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明で成膜した金属膜付耐熱性樹脂フィルムの概略構成を示す断面図。
【図2】従来技術に係る金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの製造装置(2キャンロール)の概略構成を示す説明図。
【図3】従来技術に係る金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの製造装置(4キャンロール)の概略構成を示す説明図。
【図4】本発明に係る金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの製造装置(2キャンロール)の概略構成を示す説明図。
【図5】本発明に係る金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの製造装置(4キャンロール)の概略構成を示す説明図。
【図6】本発明に係る金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの製造装置(4キャンロール)の概略構成を示す説明図。
【図7】本発明に係る金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの概略構成を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、巻出しロール室内の巻出しロールから巻き出された長尺樹脂フィルムをロール・トゥ・ロール方式により減圧雰囲気に耐える成膜室を経由して搬送し、巻取りロール室内の巻取りロールに巻き取ると共に、前記巻出しロール室と前記巻取りロール室が前記成膜室と雰囲気を遮断できるロードロック機構を備え、成膜室の長尺樹脂フィルムの搬送路上には、真空成膜手段に対向しかつ内部に冷媒が循環する2つ以上のキャンロールを備えるロール・トゥ・ロール方式成膜装置において、前記巻出し室と前記巻取り室が、前記成膜室の同一の側の外壁面にのみ配されることと、且つ成膜室の鉛直方向では前記巻出し室が前記巻取り室の上若しくは下に配されていることを特徴とするロール・トゥ・ロール方式真空両面成膜装置である。本発明のロール・トゥ・ロール方式真空両面成膜装置を長尺樹脂フィルムのうち長尺耐熱性樹脂フィルムの両面に金属膜が形成する両面金属ベース層付耐熱性樹脂フィルム製造装置を例に説明する。
1.両面金属ベース層付耐熱性樹脂フィルム
両面金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムは、図1に示すように耐熱性樹脂フィルム300の両面に接着剤を介さずに金属シード層301、金属ベース層302、金属膜303の順に積層された構造である。
【0027】
金属シード層302は、ニッケル−クロム合金で形成することが望ましい。金属シード層の層厚は、5nm〜50nmが望ましい。
【0028】
クロムを添加元素とするニッケル−クロム系合金からなる金属シード層301の層厚が5nm未満である場合、その後の処理工程を経ても金属シード層301の長期的な密着性に問題が生じてしまう。さらに、金属シード層301の層厚が5nm未満では、配線加工を行う時のエッチング液が染み込み配線部が浮いてしまうことなどにより配線ピール強度(配線と基板との密着性)が著しく低下するなどの問題が発生するため、好ましくない。一方、金属シード層301の層厚が50nmを超えるときは、配線部の加工に際して金属シード層301の除去が困難となり、さらには、ヘヤークラックや反りなどを生じて密着強度が低下する場合があるので好ましくない。また、層厚が50nmよりも厚くなると、エッチングを行うことが難しくなるため、やはり好ましくない。
【0029】
この金属シード層301の成分組成は、クロムの割合が5〜40重量%であることが、耐熱性や耐食性の観点から必要であり、より望ましいクロムの割合は12〜22重量%である。すなわち、クロムの割合が5重量%未満であるときは耐熱性が低下してしまい、一方、クロムの割合が40重量%を超えたときは配線部の加工に際して金属シード層301の除去が困難となるので好ましくない。さらにこのニッケル−クロム合金に、耐熱性や耐食性を向上する目的でモリブデンやバナジウム等の他の遷移金属元素を目的や特性に合わせて適宜添加することができる。なお、耐食性、絶縁信頼性の向上や配線部の加工性を考慮して金属シード層の組成が決められる。
【0030】
金属ベース層303の層厚は、50nm〜1000nm以下が望しく、より望ましくは50nm〜500nmである。金属ベース層には銅を用いる。
【0031】
金属膜303は、金属ベース層302の表面に、必要に応じて成膜する。金属膜303は、配線加工されて導体となることから銅で形成することが望ましい。金属ベース層301と金属膜303を含めた厚みが10nm〜12μmとすることが望ましい。なお、金属膜303は、後述する配線パターンの形成方法に応じて、その膜厚を適宜選択し、また、金属膜303を設けないことも適宜選択できる。
【0032】
耐熱性樹脂フィルムとしては、ポリイミド系フィルム、ポリアミド系フィルム、ポリアミドイミド系フィルム、ポリエステル系フィルム、ポリテトラフルオロエチレン系フィルム、ポリフェニレンサルファイド系フィルム、ポリエチレンナフタレート系フィルムまたは液晶ポリマー系フィルムから選ばれる樹脂フィルムが、金属膜付フレキシブル基板としての柔軟性、実用上必要な強度、配線材料として好適な電気絶縁性を有する点から好ましい。
【0033】
金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの製造手順は、耐熱性樹脂フィルム300の表面に金属シード層301と、各金属シード層301の表面に金属ベース層302とをスパッタリング法により成膜して金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムを製造し、続いて、各金属ベース層302の表面に湿式めっき法により金属膜303を成膜することにより製造する。湿式めっき法は、公知の無電解めっき法や電解めっき法を用いることができ、複数の湿式めっき法を組み合わせても良い。
【0034】
2.成膜装置
本発明のロール・トゥ・ロール方式真空両面成膜装置は、長尺樹脂フィルムの両面に金属シード層と金属ベース層を成膜する手段として適用することができる。
本発明の成膜装置は、長尺樹脂フィルムの巻出しロールと巻取りロール間の搬送路上に配置されかつ水冷温調された内部に冷媒が循環するキャンロールと、前記キャンロールの外周に対向して配置された内部に冷媒が循環するスパッタスパッタリングカソードを有している。長尺樹脂フィルムをキャンロールに巻き付けた状態でスパッタリング成膜が行なわれるため、成膜中のプラズマに起因した耐熱性樹脂フィルムの熱的ダメージを低減できる。
【0035】
また、巻出しロールと巻取りロールはサーボモータのトルク制御により性樹脂フィルムの張力バランスが保たれており、キャンロールの回転により巻出しロールから長尺樹脂フィルムが巻き出されて巻取りロールに巻き取られる。
【0036】
3.両面金属ベース層付耐熱性樹脂フィルム製造装置
本発明の両面金属ベース層付耐熱性樹脂フィルム製造装置について、図4、図5、図6を用いて詳細に説明する。本発明の図4に示す両面金属ベース層付耐熱性樹脂フィルム製造装置は、真空成膜手段であるスパッタリングスパッタリングカソードに対向した2つのキャンロールを備え、従来の図2に示す装置に対応する。一方、本発明の図5、図6に示す両面金属ベース層付耐熱性樹脂フィルム製造装置は、4つのキャンロールを備え、従来の図3に示す装置に対応する。
【0037】
なお、本発明の成膜装置は、前記巻出し室と前記巻取り室が、前記成膜室の一方の側の外壁にのみ配されることと、且つ成膜室の鉛直方向では前記巻出し室が前記巻取り室の上若しくは下に配されていることを特徴とする。本発明の成膜装置の一例である図4、図5、図6では成膜室の配置が前記巻出し室と前記巻取り室が前記成膜室の一方の側の外壁にのみ配されている。従来技術の成膜装置である図2、図3では、前記巻出し室と前記巻取り室の間に成膜室が配置されるレイアウトとなっており成膜室の一方側の外壁にのみ配されてはない。図2、図3の従来技術の成膜装置は、長尺耐熱性樹脂フィルムの両面に成膜を行う搬送路のために成膜室の配置が、巻取りロール室を挟む配置となってしまう。図4、図5、図6の本発明の成膜装置は成膜室のキャンロールの配置を立体的にすることで、巻出しロール室と巻取りロール室を上下させた配置とnあり、結果的に巻出しロール室と巻取りロール室を成膜室の一方の側の外壁にのみ配することが可能となる。本発明の成膜装置の前記巻出し室と前記巻取り室および成膜室の配置とすることで、原料の耐熱性樹脂フィルムや製品の金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムを成膜装置への搬入搬出を容易にできる。さらには、成膜後の巻出し室および巻取り室と成膜室を別な部屋(クリーンルーム)に設置することが可能となり、巻出し室と巻取り室の設置されているクリーンルームの維持管理を容易にし、製品の品質向上に資することとなる。
【0038】
本発明の両面金属ベース層付耐熱性樹脂フィルム製造装置について、キャンロールを2個備える図4を用いて詳細に説明する。この装置は、成膜室を大気解放することなく長尺耐熱性樹脂フィルム交換が可能なロードロック機構付きである。巻出しロール室51と第1成膜室54の間には、巻出しロール室51が大気解放時に、マカロニパッキン(中空パッキン)により長尺耐熱性樹脂フィルム53を挟み真空と大気を遮断するロードロック機構付きの差圧室52を備えている。第1成膜室54と第2成膜室71は開口部もしくはスリットローラー(図示せず)により接続されている。第1成膜室54と第2成膜室71はスパッタリング法成膜等の減圧条件に耐えられれば良くその材質、形状は適宜選択できる。また、第1成膜室54と第2成膜室71のように成膜室ごとにブロックで組み立てると、キャンロールが1つのみ配された既存の成膜装置の成膜室をつなぎ合わせることでロール・トゥ・ロール方式真空両面成膜装置を組み立てることが可能となり、装置のコストを下げることが可能となる。巻取りロール室73と第2成膜室71の間には、巻取りロール室73が大気解放時に、マカロニパッキン(中空パッキン)により長尺耐熱性樹脂フィルム53フィルムを挟み真空と大気を遮断するロードロック機構付きの差圧室72を備えている。巻出しロール53から巻き出された長尺耐熱性樹脂フィルム26は、第1成膜室54内のキャンロール56上で第1成膜面にスパッタリングカソード62,61,60,59からスパッタリング法により成膜され、続いて第2成膜室71内のキャンロール69上で第2成膜面にスパッタリングカソード64,65,66,67からスパッタリング法により成膜され、巻取りロール74に巻き取られる。巻出しロール75と巻取りロール74はサーボモータのトルク制御により長尺耐熱性樹脂フィルム53の張力バランスが保たれており、2つのキャンロール56,69の回転により巻出しロール75から長尺耐熱性樹脂フィルム53が巻き出されて巻取ロール74に巻き取られる。巻出しロール75から巻取りロール74までの搬送路には、駆動ロール55,57,68,70と搬送方向を変えるフリーロール58,63が配置されている。駆動ロール、フリーロール、巻出しロール、巻取りロール間に張力センサーロールを配置してもよい。
【0039】
次に本発明の両面金属ベース層付耐熱性樹脂フィルム製造装置について、キャンロールを4個備える図5を用いて詳細に説明する。この装置は、成膜室を大気解放することなく長尺耐熱性樹脂フィルム交換が可能なロードロック機構付きである。巻出しロール室150と第1成膜室153の間には、巻出しロール室150が大気解放時に、マカロニパッキン(中空パッキン)により長尺耐熱性樹脂フィルム152フィルムを挟み真空と大気を遮断するロードロック機構付きの差圧室151を備えている。第1成膜室153と第2成膜室157、第3成膜室167、第4成膜室183は開口部もしくはスリットローラー(図示せず)により接続されている。巻取りロール室185と第4成膜室183の間には、巻取りロール室185が大気解放時に、マカロニパッキン(中空パッキン)により長尺耐熱性樹脂フィルム152を挟み真空と大気を遮断するロードロック機構付きの差圧室184を備えている。巻出しロール187から巻き出された耐熱性樹脂フィルム152は、第1成膜室153内のキャンロール155上で第1成膜面にスパッタリングカソード179,180,181,182からスパッタリング法により成膜され、続いて第2成膜面成膜室157内のキャンロール159上で第1成膜面にスパッタリングカソード161,162,163,164からスパッタリング法により成膜され、第3成膜室171内のキャンロール173上で第2成膜面にスパッタリングカソード167,168,169,170からスパッタリング法により成膜され、続いて第4成膜面成膜室185内のキャンロール179上で第2成膜面にスパッタリングカソード175,176,177,178からスパッタリング法により成膜され、巻取りロール188に巻き取られる。巻出しロール189と巻取りロール188はサーボモータのトルク制御により耐熱性樹脂フィルム152の張力バランスが保たれており、4つのキャンロール155,159,173,179の回転により巻出しロール189から長尺耐熱性樹脂フィルム152が巻き出されて巻取ロール188に巻き取られる。キャンロール155,159,173,179の回転速度は、長尺耐熱性樹脂フィルム152の搬送路が下流に向かうほど速くなるまたは遅くなる設定の制御を行ってもよい。長尺耐熱性樹脂フィルムとこの成膜条件では、金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムが伸びる傾向にあったためである。もちろん、収縮する傾向にある金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムならば、減速設定となる制御にすればよい。巻出しロール189から巻取りロール188までの搬送路には、駆動ロール154,156,158,160,166,172,174,180と搬送方向を変えるフリーロール160,165が配置されている。駆動ロール、フリーロール、巻出しロール、巻取りロール間に張力センサーロールを配置してもよい。したがって、本発明の図5に示す両面金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの製造装置の成膜順は、第1成膜面、第1成膜面、第2成膜面、第2成膜面になる。
【0040】
次に本発明の両面金属ベース層付耐熱性樹脂フィルム製造装置について、キャンロールを4個備える図6を用いて詳細に説明する。この装置は、成膜室を大気解放することなく長尺耐熱性樹脂フィルム交換が可能なロードロック機構付きである。巻出しロール室200と第1成膜室203の間には、巻出しロール室200が大気解放時に、マカロニパッキン(中空パッキン)により長尺耐熱性樹脂フィルム202を挟み真空と大気を遮断するロードロック機構付きの差圧室201を備えている。第1成膜室203と第2成膜室242、第3成膜室241、第4成膜室237は開口部もしくはスリットローラー(図示せず)により接続されている。巻取りロール室239と第4成膜室237の間には、巻取りロール室239が大気解放時に、マカロニパッキン(中空パッキン)により長尺耐熱性樹脂フィルム202を挟み真空と大気を遮断するロードロック機構付きの差圧室238を備えている。巻出しロール241から巻き出された長尺耐熱性樹脂フィルム202は、第1成膜室203内のキャンロール205上で第1成膜面にスパッタリングカソード211,210,209,208からスパッタリング法により成膜され、続いて第2成膜面成膜室242内のキャンロール218上で第2成膜面にスパッタリングカソード214,215,216,217からスパッタリング法により成膜され、第3成膜室241内のキャンロール227上で第1成膜面にスパッタリングカソード223,224,225,226からスパッタリング法により成膜され、続いて第4成膜面成膜室237内のキャンロール235上で第2成膜面にスパッタリングカソード230,231,232,233からスパッタリング法により成膜され、巻取りロール240に巻き取られる。巻出しロール241と巻取りロール240はサーボモータのトルク制御により長尺耐熱性樹脂フィルム202の張力バランスが保たれており、4つのキャンロール205,218,227,235の回転により巻出しロール241から長尺耐熱性樹脂フィルム202が巻き出されて巻取ロール240に巻き取られる。巻出しロール241から巻取りロール240までの搬送路には、駆動ロール204、206,213,219,222,228,234,236と搬送方向を変えるフリーロール207,212,220,221,227,229が配置されている。駆動ロール、フリーロール、巻出しロール、巻取りロール間に張力センサーロールを配置してもよい。したがって、本発明の図6に示す両面金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの製造装置の成膜順は、第1成膜面、第2成膜面、第1成膜面、第2成膜面になる。両面の膜厚が交互に厚くなるため、両面の膜応力の差を低減でき、反りやウネリを抑制し平面性に優れる金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムを効率よく製造できる。すなわち長尺耐熱性樹脂フィルム202の搬送路が、第一成膜室203のキャンロール205に対向したスパッタリングカソード211、210、209、208により前記長尺樹脂フィルムの一方の面に成膜した次には、第二成膜室242のキャンロール218に対向したスパッタリングカソード214、215、216、217により他方の面に成膜を行う位置に配されているので、両面に交互に成膜することができる。
さらには、膜の応力や金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの熱収縮・熱膨張により、金属ベース層付耐熱性樹脂フィルム長が伸びても縮んでも、キャンロールの回転速度を個別に設定することで、金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムに無理な引っ張りや弛みを与えることなく対応することが可能となる。
【0041】
本発明の両面金属ベース層付耐熱性樹脂フィルム製造装置は、成膜前の両面にヒータ加熱による乾燥処理やイオンビーム・プラズマ等を用いた前処理を設置してもよい。
5.金属膜
得られた金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの金属ベース層上に湿式めっき法を用いて金属膜を形成する場合、電気めっき処理のみで行う場合と、一次めっきとして無電解めっき処理を行い、二次めっきとして電解めっき処理等の湿式めっき法を組み合わせて行う場合がある。湿式めっき処理は、常法による湿式めっき法の諸条件を採用すればよい。
【0042】
そして、本発明の成膜方法で得られた金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの金属ベース層の表面に、湿式めっき法により金属膜を更に形成することにより、両面の膜応力の差を低減させた金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムを得ることが可能となる。尚、このようにして上記金属シード層上にそれぞれ形成される乾式めっき法(スパッタリング法)による金属シード層および金属ベース層と、湿式めっき法による金属層(上記金属ベース層と金属膜)の合計厚さは、厚くとも20μm以下にすることが好ましい。
6.配線パターン
このようにして得られた金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムを用いて、この金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの少なくとも片面に配線パターンを個別に形成する。また、所定の位置に層間接続のためのヴィアホールを形成して各種用途に用いることもできる。より具体的に説明すると、(1)配線パターンを金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの少なくとも片面に個別に形成して利用する。(2)配線パターンが形成された金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムで耐熱性樹脂フィルムを貫通するヴィアホールを形成して利用する。(3)場合によっては、該ヴィアホール内に導電性物質を充填してホール内を導電化して利用する。
【0043】
上記配線パターンの形成方法としては、公知のサブトラクティブ法やセミアディティブ法を用いることができる。
サブトラクティブ法は、金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの不要な金属膜と属ベース層と金属シード層を化学エッチングで除去して配線パターンを形成する。金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムを準備し、該金属膜上にスクリーン印刷あるいはドライフィルムをラミネートして感光性レジスト膜を形成した後、露光現像して配線パターンの箇所にレジスト膜が残るようにパターニングする。次いで、塩化第2鉄溶液等のエッチング液で該金属膜を選択的にエッチング除去した後、上記レジスト膜を除去して所定の配線パターンを形成する。両面に配線パターン加工することが好ましい。全ての配線パターンを幾つかの配線領域に分割するかどうかは、配線パターンの配線密度の分布等による。例えば、配線パターンを、配線幅と配線間隔がそれぞれ50μm以下の高密度配線領域とその他の配線領域に分け、プリント基板との熱膨張差や取扱い上の都合等を考慮して分割する配線基板のサイズを10〜65mm程度に設定して適宜分割すればよい。
【0044】
また、上記ヴィアホールの形成方法としては、従来公知の方法が利用でき、例えば、レーザー加工等により、配線パターンの所定の位置に該配線パターンと耐熱性樹脂フィルムを貫通するヴィアホールを形成する。ヴィアホールの直径は、ホール内の導電化に支障を来たさない範囲内で小さくすることが好ましく、通常100μm以下、好ましくは50μm以下にする。ヴィアホール内には、めっき、蒸着、スパッタリング等により銅等の導電性金属を充填あるいは所定の開孔パターンを持つマスクを使用して導電性ペーストを圧入、乾燥し、ホール内を導電化して層間の電気的接続を行う。
【0045】
セミアディティブ法は、金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの金属膜の表面に、配線パターンを設けたい箇所のみ湿式めっき法で配線膜を厚く成膜し、その後、ソフトエッチングで不要な金属膜と属ベース層と金属シード層を除去する配線方法である。金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムを準備し、該金属膜上にスクリーン印刷あるいはドライフィルムをラミネートして感光性レジスト膜を形成した後、露光現像して配線パターンの箇所が露出するようにレジスト膜が残るようにパターニングする。レジストの露光現像後に湿式めっき法で配線パターンを厚く成膜し、その後、配線パターンに不要な金属膜等をソフトエッチング(化学エッチング)で除去する。ヴィアホールの形成はサブトラクティブ法と同様である。なお、セミアディティブ法で配線パターンを形成する際は、金属膜を湿式めっき法で成膜していない金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムを用いても良い。
【0046】
これまで、長尺樹脂フィルムのうち長尺耐熱性樹脂フィルムの両面に金属シード層と金属ベース層を成膜した金属ベース層付耐熱性樹脂フィルム基板の製造方法を中心に説明してきた。本発明は、樹脂フィルムの両面には金属シード層や金属ベース層をスパッタリング成膜に限定されず、酸化物膜や窒化物膜などをスパッタリング成膜に用いることができるのはもちろんである。また、本発明のロール・トゥ・ロール方式真空両面成膜装置の真空成膜手段は、スパッタリングカソード)に限定されず、蒸着等各種の減圧雰囲気下の成膜手段を用いることができる。
【0047】
以下、本発明の実施例について具体的に説明する。
【実施例1】
【0048】
図5に示す本発明の両面金属ベース層付耐熱性樹脂フィルム製造装置を用い、上記長尺耐熱性樹脂フィルム152には、幅500mm、長さ200m、厚さ25μmの宇部興産株式会社製の長尺耐熱性ポリイミドフィルム「ユーピレックスS(登録商標)」を使用した。
【0049】
スパッタリングカソード184、167には金属シード層のターゲットであるニッケル−クロムターゲット(住友金属鉱山株式会社製)を用い、スパッタリングカソード183,182,181,164,163,162,161、168,169,170,175,176,177,178には金属ベース層のターゲットである銅ターゲット(住友金属鉱山株式会社製)を使用した。
【0050】
始めに、ドライポンプを用いて5Paまで排気し、次にターボ分子ポンプとクライオコイルを用いて1×10−3Paまで排気し、各スパッタリングカソード近傍にArガスをそれぞれ200sccm導入した。フィルム搬送速度2m/minにして、金属シード層のスパッタリングカソード184、167には5kW、金属ベース層のスパッタリングカソード183,182,181,164,163,162,161、168,169,170,175,176,177,178には8kWのDCスパッタ電力を印加した。フィルム搬送速度2m/minに対するキャンロール155の回転速度を100%とすると、キャンロール159は100.2%、キャンロール173は100.4%、キャンロール179は100.6%に増加設定した。このように設定したのは、この長尺耐熱性樹脂フィルムとこの成膜条件では、金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムが伸びる傾向にあったためである。もちろん、収縮する傾向にある金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムならば、減速設定にすればよい。
【0051】
500m両面成膜後に、長尺耐熱性樹脂フィルムの搬送を停止し、Arガス導入を停止し、かつ、各ポンプを停止してからベント(大気開放)し、巻出しロール189の耐熱性ポリイミドフィルムの終端部を外し、全てのフィルムを巻取りロール188に巻き取ってから取り外した。
【0052】
そして、図7に示すように、得られた両面金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの一部を切り出し、その第1成膜面(上記フィルムの一方の面に形成された銅の金属シード層と金属ベース層)および第2成膜面(上記フィルムの他方の面に形成された銅の金属シード層と金属ベース層)を部分的にエッチングし、かつ、それぞれの面に形成された金属シード層であるニッケル−クロム層膜厚と金属ベース層銅層膜厚を蛍光X線膜厚計により測定した結果、上記第1成膜面と第2成膜面ともニッケル−クロム層膜厚は約15nm、銅層膜厚は約150nm、であった。
【0053】
なお、図5に示す本発明の両面金属ベース層付耐熱性樹脂フィルム製造装置は2階建て構造の室内に設置し、巻出しロール室150,差圧室151は2階のクリーンルーム内に、巻取りロール室187、差圧室186は1階のクラス1000のクリーンルーム内に設置した。クリーニング時に大量の粉塵を発生する成膜室153,157,171,185は、クラス10000のクリーンルームに設置した。巻出しロール室と巻取りロール室が装置の上下同一方向にあるため、クリーンルームを区分けすることが容易で、かつ、巻出しロール室と巻取りロール室からのフィルムの取り付けや取り外しも容易であった。
このように、クリーンルームを区分けすることで、成膜室のクリーニング時に大量の粉塵を巻出しロール室と巻取りロール室に持ち込むことが回避できた。
【実施例2】
【0054】
図6に示す本発明の両面金属ベース層付耐熱性樹脂フィルム製造装置を用い、上記長尺耐熱性樹脂フィルム202には、幅500mm、長さ200m、厚さ25μmの宇部興産株式会社製の長尺耐熱性ポリイミドフィルム「ユーピレックスS(登録商標)」を使用した。
【0055】
スパッタリングカソード211、214には金属シード層のターゲットであるニッケル−クロムターゲット(住友金属鉱山株式会社製)を用い、スパッタリングカソード210、209,208,215,216,217,223,224,225,226,230,231,232,233には金属ベース層のターゲットである銅ターゲット(住友金属鉱山株式会社製)を使用した。
【0056】
始めに、ドライポンプを用いて5Paまで排気し、次にターボ分子ポンプとクライオコイルを用いて1×10−3Paまで排気し、各スパッタリングカソード近傍にArガスをそれぞれ200sccm導入した。フィルム搬送速度2m/minにして、金属シード層のスパッタリングカソード211、214には5kW、金属ベース層のスパッタリングカソード210、209,208,215,216,217,223,224,225,226,230,231,232,233には8kWのDCスパッタ電力を印加した。フィルム搬送速度2m/minに対するキャンロール205の回転速度を100%とすると、キャンロール218は100.2%、キャンロール227は100.4%、キャンロール235は100.6%に増加設定した。このように設定したのは、この長尺耐熱性樹脂フィルムとこの成膜条件では、金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムが伸びる傾向にあったためである。
【0057】
500m両面成膜後に、長尺耐熱性樹脂フィルムの搬送を停止し、Arガス導入を停止し、かつ、各ポンプを停止してからベント(大気開放)し、巻出しロール240の耐熱性ポリイミドフィルムの終端部を外し、全てのフィルムを巻取りロール241に巻き取ってから取り外した。
【0058】
そして、図7に示すように、得られた両面金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの一部を切り出し、その第1成膜面(上記フィルムの一方の面に形成された銅の金属シード層と金属ベース層)および第2成膜面(上記フィルムの他方の面に形成された銅の金属シード層と金属ベース層)を部分的にエッチングし、かつ、それぞれの面に形成された金属シード層であるニッケル−クロム層膜厚と金属ベース層銅層膜厚を蛍光X線膜厚計により測定した結果、上記第1成膜面と第2成膜面ともニッケル−クロム層膜厚は約15nm、銅層膜厚は約150nm、であった。
【0059】
なお、図6に示す本発明の金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの製造装置は2階建て構造の室内に設置し、巻出しロール室200,差圧室201は2階のクリーンルーム内に、巻取りロール室239、差圧室238は1階のクラス1000のクリーンルーム内に設置した。クリーニング時に大量の粉塵を発生する成膜室203、242,241,237は、クラス10000のクリーンルームに設置した。巻出しロール室と巻取りロール室が装置の上下同一方向にあるため、クリーンルームを区分けすることが容易で、かつ、巻出しロール室と巻取りロール室からのフィルムの取り付けや取り外しも容易であった。
このように、クリーンルームを区分けすることで、成膜室のクリーニング時に大量の粉塵を巻出しロール室と巻取りロール室に持ち込むことが回避できた。
[比較例]
実施例と同様に、図3に示す従来の両面金属ベース層付耐熱性樹脂フィルム製造装置を用い、上記長尺耐熱性樹脂フィルム142には、幅500mm、長さ200m、厚さ25μmの宇部興産株式会社製の長尺耐熱性ポリイミドフィルム「ユーピレックスS(登録商標)」を使用した。
【0060】
金属シード層のスパッタリングカソード141と124にはニッケル−クロムターゲット(住友金属鉱山株式会社製)を用い、金属ベース層のスパッタリングカソード140,138,139,127,129,128,130,131には銅ターゲット(住友金属鉱山株式会社製)を使用した。
【0061】
始めに、ドライポンプを用いて5Paまで排気し、次にターボ分子ポンプとクライオコイルを用いて1×10−3Paまで排気し、各スパッタリングカソード近傍にArガスをそれぞれ200sccm導入した。フィルム搬送速度2m/minにして、金属シード層のスパッタリングカソード141と124には5kW、金属ベース層のスパッタリングカソード140,138,139,127,129,128,130,131には6kWのDCスパッタ電力を印加した。長尺耐熱性ポリイミドフィルム搬送速度2m/minに対するキャンロール104の回転速度を100%とすると、キャンロール108は100.2%、キャンロール120は100.4%、キャンロール116は100.6%に増加設定した。このように設定したのは、この長尺耐熱性樹脂フィルムとこの成膜条件では、金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムが伸びる傾向にあったためである。
【0062】
500m両面成膜後に、フィルムの搬送を停止し、Arガス導入を停止し、かつ、各ポンプを停止してからベント(大気開放)し、巻出しロール143の長尺耐熱性ポリイミドフィルムの終端部を外し、全てのフィルムを巻取り132ロールに巻き取ってから取り外した。
【0063】
そして、図7に示すように、得られた両面金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの一部を切り出し、その第1成膜面(上記フィルムの一方の面に形成されたニッケル−クロムからなる金属シード層120と銅からなる金属ベース層)および第2成膜面(上記フィルムの他方の面に形成されたニッケル−クロムからなる金属シード層120と銅からなる金属ベース層130)を部分的にエッチングし、かつ、それぞれの面に形成された金属シード層であるニッケル−クロム層膜厚と金属ベース層銅層膜厚を蛍光X線膜厚計により測定した結果、上記第1成膜面と第2成膜面ともニッケル−クロム層膜厚は約15nm、銅層膜厚は約150nm、であった。
【0064】
なお、図3に示す従来の両面金属ベース層付耐熱性樹脂フィルム製造装置は平屋の室内に設置し、巻出しロール室100,差圧室101、成膜室102,106,114,118、巻取りロール室131、差圧室130、接続室111を含むすべてをクラス1000のクリーンルーム内に設置した。巻取りロール室112が成膜室102と成膜室114に挟まれる両面金属ベース層付耐熱性樹脂フィルム製造装置の中間部分にあるため、クリーンルームを区分けすることは困難であった。さらに、巻取りロール室からの両面金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの取り外しも難しい。このように、クリーンルームを区分けできなかったので、成膜室のクリーニング時に大量の粉塵により、クリーンルームを汚染してしまった。
【0065】
「評 価」
本発明の実施例1と実施例2で作製した両面金属ベース層付耐熱性樹脂フィルム用スパッタリング装置と従来技術の比較例で作製した金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムを比較した。
【0066】
まず、両面金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムを100mmの正方形にそれぞれ10枚切り抜き、30倍の実態顕微鏡で10μm以上のピンホールの数を観察した。その結果、本発明の実施例1と実施例2で成膜した両面金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムのピンホール数は平均2個、従来技術の比較例で成膜した両面金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムのピンホール数は平均4個であった。ピンホールは、成膜後にフィルムに付着した粉塵等が剥がれた後であると推定されることから、本発明の両面金属ベース層付耐熱性樹脂フィルム用スパッタリング装置の方が従来技術のより、欠陥の少ない両面金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムを成膜することができた。成膜室のクリーニング時に、耐熱性樹脂フィルムの出し入れを行うクリーンルームを粉塵で汚染してしまう従来技術の両面金属ベース層付耐熱性樹脂フィルム用スパッタリング装置では、欠陥が増加する傾向にあった。
【0067】
そして、本発明に係る両面金属ベース層付耐熱性樹脂フィルム用スパッタリング装置は高品質の両面金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムを効率よく製造でき、しかも欠陥が少ないために、配線パターンの繊細化、高密度化に対応できる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明に係る両面金属ベース層付耐熱性樹脂フィルム用スパッタリング装置は高品質の両面金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムを効率よく製造でき、しかも欠陥が少ないために、配線パターンの繊細化、高密度化に対応できる。この金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムから得られる金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムを液晶テレビ、携帯電話等のフレキシブル配線に適用できる産業上の利用可能性を有している。
【符号の説明】
【0069】
1 巻出しロール室
2、10 差圧室
3 第1成膜室
4、6、14、12 駆動ロール
5、13 キャンロール
8 連結室
7、15、16、28 フリーロール
9 巻取りロール室
11 第2成膜室
17、18、19、20、22、23、24、25 スパッタリングカソード
21 巻取りロール
26 長尺耐熱性樹脂フィルム
27 巻出しロール

51 巻出しロール室
52、72 差圧室
53 長尺耐熱性樹脂フィルム
54 第1成膜室
55、57、68、70 駆動ロール
56、69 キャンロール
59、60、61、62、64、65、66、67 スパッタリングカソード
58、63 フリーロール
71 第2成膜室
75 巻出しロール
73 巻取りロール室
74 巻取りロール

100 巻出しロール室
101、113 差圧室
103、105、107、109、115、117、119、121 駆動ロール
104、108、116、120 キャンロール
110、122、123、137 フリーロール
112 巻取りロール室
102 第1成膜室
106 第2成膜室
111 連結室
114 第4成膜室
118 第3成膜室
124、125、126、127、128、129、130、131、133、134、135、136、138、139、140,141 スパッタリングカソード
132 巻取りロール
142 長尺耐熱性樹脂フィルム
143 巻出しロール

150 巻出しロール室
151、186 差圧室
152 長尺耐熱性樹脂フィルム
153 第1成膜室
154、156、158、160、166、172、174、180 駆動ロール
155、159、173、179 キャンロール
161、162、163、164、167、168、169、170、175、176、177、178、179、180、181、182 スパッタリングカソード
157 第2成膜室
160、165 フリーロール
171 第3成膜室
185 第4成膜室
187 巻取りロール室
188 巻取りロール
189 巻出しロール

200 巻出しロール室
201、238 差圧室
202 長尺耐熱性樹脂フィルム
203 第1成膜室
204、206、213、219、222、228、234、236 駆動ロール
205、218、227、235 キャンロール
207、212、220、221、227、229 フリーロール
208、209、210、211、214、215、216、217、223、224、225、226、230、231、232、233 スパッタリングカソード
237 第4成膜室
239 巻取りロール室
240 巻取りロール
241 巻出しロール
242 第2成膜室
241 第3成膜室

300 耐熱性樹脂フィルム
301 金属シード層
302 金属ベース層
303 金属膜

400 耐熱性樹脂フィルム
401 金属シード層
402 金属ベース層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻出しロール室内の巻出しロールから巻き出された長尺樹脂フィルムをロール・トゥ・ロール方式により減圧雰囲気に耐える成膜室を経由して搬送し、巻取りロール室内の巻取りロールに巻き取ると共に、前記巻出しロール室と前記巻取りロール室が前記成膜室と雰囲気を遮断できるロードロック機構を備え、成膜室の長尺樹脂フィルムの搬送路上の前記成膜室には、真空成膜手段に対向しかつ内部に冷媒が循環する2つ以上のキャンロールを備えるロール・トゥ・ロール方式真空両面成膜装置において、
前記巻出し室と前記巻取り室が、前記成膜室の一方の側の外壁にのみ配されることと、且つ成膜室の鉛直方向では前記巻出し室が前記巻取り室の上若しくは下に配されていることを特徴とするロール・トゥ・ロール方式真空両面成膜装置。
【請求項2】
前記成膜機構が対向したキャンロールのうち前記長尺樹脂フィルムの搬送路上、前記巻出しロールに近接したキャンロールが、前記巻出しロールに近接したキャンロールの、成膜室の鉛直方向に対して上若しくは下の位置にあることを特徴とする請求項1に記載のロール・トゥ・ロール方式真空両面成膜装置。
【請求項3】
前記長尺樹脂フィルムの搬送路が、キャンロールに対向した成膜機構により前記長尺樹脂フィルムの一方の面に成膜した次には、別のキャンロールに対向した別の真空成膜手段が前記長尺樹脂フィルムの他方の面に成膜を行う位置に配されている特徴とする請求項2に記載のロール・トゥ・ロール方式成膜装置。
【請求項4】
前記長尺樹脂フィルムの搬送路上で前記成膜手段に対向したキャンロールは、前記搬送路の下流に向かうほど、その回転速度が速くなる制御がされることを特徴とする請求項1から3に記載のロール・トゥ・ロール方式真空両面成膜装置。
【請求項5】
前記長尺樹脂フィルムの搬送路上で前記成膜手段に対向したキャンロールは、前記搬送路の下流に向かうほど、その回転速度が遅くなる制御がされることを特徴とする請求項1から3に記載のロール・トゥ・ロール方式真空両面成膜装置。
【請求項6】
前記真空成膜手段が、スパッタリングカソードであることを特徴とする請求項1から5に記載のロール・トゥ・ロール方式真空両面成膜装置。
【請求項7】
前記ロードロック機構を備える巻出しロール室および巻取りロール室の開口部は、クリーンルーム内に配置されていることを特徴とする請求項1から6に記載のロール・トゥ・ロール方式真空両面成膜装置。
【請求項8】
耐熱性樹脂フィルムの両面に真空成膜により金属ベース層を成膜した両面金属ベース層付耐熱性樹脂フィルム製造装置であって、
請求項1から7に記載のロール・トゥ・ロール方式真空両面成膜装置で金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムを成膜することを特徴とする両面金属ベース層付耐熱性樹脂フィルム製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−149284(P2012−149284A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−7032(P2011−7032)
【出願日】平成23年1月17日(2011.1.17)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】