説明

ロール装置

【課題】ロール装置において、ロール本体の内部空間におけるエア溜まりを可能な限り少なくし、ロール全面での確実な冷却を行う。
【解決手段】内部が中空構造となっているロール本体3と、ロール本体3を回転自在に支持する軸受部9と、ロール本体3の内部に冷却液Wを供給する給液手段13と、ロール本体3の内部の供給された冷却液Wを排出する排液手段14とを有するロール装置1において、排液手段14は、ロール本体3の内部10から外部へ連通する排出通路21を少なくとも1つ以上有し、排出通路21の入口には、ロール本体3の内部10に開口し且つロール本体3の内部10において径外方向で最も外側に配備された排出口20が備えられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間状態にある鋳片や圧延材を搬送する搬送ロールなどに好適なロール装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、連続鋳造機におけるサポートロールや搬送ロールなど熱間状態の鋳片が接するロール本体、及びこのロール本体を備えたロール装置は、鋳片からの伝熱による熱変形、シール部や軸受等の焼損を防止するために冷却機構を備えるものとなっている。
例えば、特許文献1の図3(本明細書の図10)のように、内部が中空構造となっているロール本体101であれば、一対のロール把持部102,103の中央に設けられた冷却水通路104を介してロール本体101の内部に冷却水Wを循環させることで、ロール本体101の冷却を行うようにしている。
【0003】
また、特許文献2にはロール装置をより効果的に冷却する技術が開示されている。このロール装置は、内部にフランジ状の隔壁を備えた中空構造のロール本体と、ロール本体の一方の胴端部に取付けられ且つ冷却水の供給路を有した入側軸体と、入側軸体の入側に配置され冷却水を供給するロータリジョイントと、ロール本体の他の胴端部に取付けられ且つ排水路を有した出側軸体と、を備えている。
このロール本体においては、供給された冷却水は、ロータリジョイントを介して入側軸体内の供給路内に送水され、入側軸体側のフランジに設けられた貫通穴を介してロール本体の内部に送水されてロール筒体を冷却し、さらに、出側軸体のフランジの貫通穴を介して出側軸体の排水路へ流れ込むようになっている。
【特許文献1】特開平9−272960号公報(図3)
【特許文献2】特開2000−246321号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されたロール本体101であると、構造上、ロール本体101の内部空間において、ロール本体中心の冷却水通路104よりも高位に位置する部分があるため、ロール本体101の内部空間の上部にエア溜まりを生じる。このエア溜まりは、排水側に圧力(背圧)を立てないオープン冷却系統の場合、冷却水通路104の内部側排出口105と内部空間での水面高さがほぼ一致し、内部側排出口105よりも高い場所でエア溜まりを生じる。排水側に背圧を立てることができるクローズ冷却系統の場合でも、背圧によりロール本体101の内部空間の残留エアが収縮するものの、エア溜まりを消すことは困難である。
【0005】
エア溜まりは、ロール本体101の内部空間の上位側、つまり、高温となっている鋳片とロール本体101との接触線近傍で発生するため、かかる接触線ではロール内壁が高温状態となる。例えば、ロール本体101の回転が停止し鋳片が停滞している際には、ロール本体101と鋳片の接触線が固定され、ロール半径方向に熱勾配を生じて、鋳片接触線側の熱膨張が大きくなり、ロール本体101に曲がりが発生する。このロール曲がりは、鋳片搬送を再開した際に、大きな負荷変動を招き搬送トラブルの原因となる。ロール表面が高温になるため、ロール本体101の表面の高温酸化を促進しロール寿命が減少する可能性も否めない。
【0006】
特許文献2に開示されたロール装置であっても同様の現象が起きる。すなわち、フランジの貫通穴と内部空間での水面高さがほぼ一致し、貫通穴よりも高い場所、すなわち高温となっている鋳片とロールとの接触部位近傍においてエア溜まりが生じる。特許文献2には、「オリフィスを配備してエア溜まりを無くす」との開示があるが、背圧を大きくしエア溜まりの体積を小さくはできても全く無くすことは困難である。
また、詳しくは述べないものの、サイホンエルボ、サイホンパイプをロール装置の内部に差し込み、そこから冷却水を供給するサイホン式ロール冷却という方式もあるが、サイホンエルボ、サイホンパイプは、ロールの内部空間へ挿入後に自重で下方に傾斜させる構造を備えているため、上向きに固定することができない。そのため、ロール内部の上部におけるエア溜まりを消滅できず、上述と同様な問題を招く。更には、ロールの回転に伴うロール表層部の加熱と急冷の繰り返しによって生じるヒートクラックが拡大し、そのヒートクラックがロール内部空間にまで伸展しロール内部の冷却水が噴出する事故につながることも否めない。
【0007】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、ロール本体の内部空間に冷却液を供給することで冷却を行う構造となっているロール装置において、ロール本体の内部空間におけるエア溜まりを可能な限り少なくし、ロール内部空間全域での確実な冷却を行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明は次の手段を講じた。
すなわち、本発明に係るロール装置は、内部が中空構造となっているロール本体と、該ロール本体を回転自在に支持する軸受部と、該ロール本体の内部に冷却液を供給する給液手段と、該ロール本体の内部の供給された冷却液を排出する排液手段とを有するものであって、前記排液手段は、前記ロール本体の内部から外部へ連通する排出通路を1つ有し、該排出通路の入口には、前記ロール本体の内部に開口し且つロール本体の内部において径外方向で最も外側に配備された排出口が備えられていることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係るロール装置は、内部が中空構造となっているロール本体と、該ロール本体を回転自在に支持する軸受部と、該ロール本体の内部に冷却液を供給する給液手段と、該ロール本体の内部の供給された冷却液を排出する排液手段とを有するものであって、前記排液手段は、前記ロール本体の内部から外部へ連通する排出通路を複数有し、各排出通路の入口には、前記ロール本体の内部に開口し且つロール本体の内部において径外方向で最も外側に配備された排出口が備えられていることを特徴とする。
これにより、給液手段によりロール本体の内部へ供給された冷却液は、ロール本体の内部において最も径外側に設けられた排出口と同じ位置まで達し、ロール本体の内部空間を冷却液がほぼ満たすようになる。したがって、内部空間におけるエア溜まりがほとんどなくなり、ロール全面での確実な冷却を行うことができる。
【0010】
なお、前記ロール本体は、内部が中空で且つ両側に外部開放となっている開放部を備えたロール筒体と、該ロール筒体部の開放部を閉塞する円板状の側壁体と、該側壁体からロール本体の回転軸心方向に突設され且つ前記軸受部で支持されるロール把持体と、を有しているとよい。
この場合、前記排液手段の排出口は、前記側壁体の周縁部であってロール筒体の内周壁に近接する位置、又は接する位置、又は入り込む位置に配備され、前記側壁体には、前記排出口からロール把持体内を通って外部に連通する排出通路が設けられているとよい。
【0011】
また好ましくは、前記排液手段はロール本体の内部に突出した排出管を有し、前記排出管の基端部は、ロール把持体内を通って外部に連通している排出通路に連結され、前記排出管の先端部には、前記ロール筒体の内周壁に近接する位置、又は接する位置、又は入り込む位置に配備された前記排出口が設けられているとよい。
前記排液手段は、ロール本体の内部であって前記側壁体の近傍に設けられた隔壁体と、該隔壁体と側壁体との間に形成された隔壁室と、前記隔壁体の周縁部であってロール筒体の内周壁に近接する位置、又は接する位置、又は入り込む位置に配備され、且つ前記隔壁室に連通する排出口と、前記隔壁室からロール把持体内を通って外部に連通する排出通路と、を備えているとよい。
【0012】
なお、前記排出口が複数存在する際には、前記複数の排出口の断面積の和が、前記給液手段に設けられた冷却液供給口の断面積より小さい又は同じに設定されている構成とすることは、非常に好ましい。
前記排出口が複数存在する際には、前記複数の排出口の流路抵抗の和が、前記給液手段に設けられた冷却液供給口の流路抵抗より大きい又は同じに設定されているとよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るロール装置によれば、エア溜まりが可能な限り少ない状態でロール本体の内部空間に冷却液を充満させ、ロール本体全面の確実な冷却を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係るロール装置の最良の形態を図面を参照しつつ説明する。
ロール装置1は、例えば、連続鋳造機の鋳片搬送装置に採用可能なものであって、高温となっている鋳片2を当該ロール装置1で支持しつつ下流側へ搬送するものである。しかしながら、本発明に係るロール装置1の適用範囲は、これに限定はされない。
[第1実施形態]
図1は、ロール装置1の全体断面図である。
この図に示すように、ロール装置1は、鋳片2を支持可能なように回転自在となっているロール本体3を有している。このロール本体3は内部が中空構造となっている。
【0015】
ロール本体3は、円筒状であって両側に外部開放となっている開放部を備えたロール筒体4を有している。このロール筒体4の外周面で鋳片2を支持している。ロール筒体4の両側の開放部は円板状の側壁体5により閉塞されていて、それぞれの側壁体5の中央部からロール本体3の回転軸心方向に沿ってロール把持体6,7が延設されている。側壁体5は、ロール筒体4の両側に当該ロール筒体4の内周壁40より径大な周状に形成された段差部41に嵌り込んでいる。
ロール把持体6,7は基台11上に設けられた左右一対の軸受箱8により支持されている。詳しくは、軸受箱8内に設けられたベアリング等の軸受部9により回転軸心周りに回転自在に保持されている。
【0016】
ロール装置1には、ロール本体3の内部空間10(以降、単に、ロール内部10と呼ぶこともある)に冷却水Wを供給し、ロール本体3を内側から冷却する冷却手段12が備えられている。冷却手段12は、ロール内部10に冷却水Wを供給する給水手段13(給液手段)と、ロール内部10へ供給された冷却水Wを排出する排水手段14(排液手段)とを備えている。なお、本実施形態では、ロール内部10に供給する冷却液として冷却水Wを採用しているが、冷却油などの他の冷却媒体を用いても何ら問題はない。
給水手段13は、ロール内部10に冷却水Wを供給する給水パイプ15を有している。この給水パイプ15はロール筒体4よりやや短い長さを有するものとなっている。
【0017】
一方、ロール本体3の一方側のロール把持体6(図1の右側のロール把持体であって、以降、第1ロール把持体6と呼ぶこともある)には、その回転軸心と同軸上に外部からロール内部10に貫通するように第1貫通孔16が形成されている。他方側のロール把持体7(図1の左側のロール把持体であって、以降、第2ロール把持体7と呼ぶこともある)には、その回転軸心と同軸上にロール内部10から外部に向けて外部へは貫通しない第2貫通孔17が形成されている。
前述した給水パイプ15は、ロール本体3の回転軸心に一致し且つ第1貫通孔16及び第2貫通孔17に遊嵌状態で差し込まれ、その先端部が第2貫通孔17の終端に近接する状態となっている。この状態を維持可能なように給水パイプ15の基端部は、第1ロール把持体6に固定されるものとなっている。
【0018】
給水パイプ15の基端部であって第1ロール把持体6より外部に突出した部分には、ロータリジョイント18が取り付けられている。本実施形態のロータリジョイント18は複式タイプであって2系統の流れが流通可能であり、給水パイプ15の基端部がロータリジョイント18の第1開口部19につながっており、第1系統の流れが給水パイプ15内に供給されるようになっている。
一方、排水手段14は、ロール本体3の内部から外部へ連通する排出通路21を少なくとも1つ以上有し、排出通路21の入口には、ロール本体3の内部10に開口し且つロール本体3の内部10において径外方向で最も外側に配備された排出口20が備えられている。
【0019】
本実施形態の場合、排出口20は、側壁体5の周縁部であってロール筒体4の内周壁40に接する位置に配備されている。さらに、排水手段14として、側壁体5には、排出口20から延びると共に第1ロール把持体6の第1貫通孔16に連通する排出通孔22が設けられている。
詳しくは、排出口20は側壁体5のロール内部10に面する側に形成されていて、内周壁40面と排出口20の周縁面とが面一となるようになっている。排出口20の断面形状は円形である。
【0020】
この排出口20から側壁体5の軸心方向の向きに排出通孔22が形成されている。さらに、排出通孔22は、側壁体5の軸心方向の中途部において90度方向を変え、側壁体5の径方向に沿って側壁体5中央部へ向きを変えるように形成され、第1貫通孔16と給水パイプ15の外周面との間に形成された空間に連通している。この空間すなわち排出通孔22の連通する先は、ロータリジョイント18の第2開口部23(第2系統)となっている。排出通孔22と第1貫通孔16により、ロール内部10の冷却水Wを外部へ導出する排出通路21が構成されている。
【0021】
なお、ロータリジョイント18には、接続されている給水パイプ15がロール本体3と共に回転することを許容する形式や給水パイプ15が回転することを規制する形式があるが、いずれの形式においても、冷却水Wの第1系統及び第2系統の流れを妨げるものとはなっていない。
第1貫通孔16においてロール内部10に開放している部分には、給水パイプ15を取り巻くように止水部材24が嵌着されている。これにより、第1貫通孔16とロール内部10とが連通しなくなり、冷却水Wは、必ず排出口20を介して外部に排出されることとなる。
【0022】
本実施形態の場合、給水手段13と排水手段14とは直接つながっておらず、排水手段14においてオープン排出(ロータリジョイント18の第2開口部23で外部に排出)となっている。しかしながら、給水手段13と排水手段14とをポンプ等を介して繋ぎ、クローズ型(循環型)としてもよい。
次に、図2を用いて、ロール装置1の冷却方法すなわちロール本体3における冷却水Wの流れを説明する。なお、本発明が著しい作用効果を奏するのは、ロール回転直後であってロール本体3内へ冷却水Wを供給し始める初期状態においてである。
【0023】
まず、ロール回転が始まると共に、ロータリジョイント18の第1開口部19へ冷却水Wを供給する。ロール本体3の回転に伴って、排出口20は360度回転することとなるが、ロール1回転に付き一度は、図2(a)〜(c)に示す排水孔の位置状態(排出口20が最も上位)となる。
図2(a)の状態では、供給された冷却水Wは、ロータリジョイント18内部を通って給水パイプ15の基端部から先端部へ向けて流れてゆき、第2貫通孔17を通ってロール内部10へ溜まるようになる。その際、当初よりロール内部10にあった空気(エア)は、ロール本体3内部の最も上方に位置する排出口20を介して、排出通路21を通って外部に排出される。
【0024】
その後、図2(b)に示すように、ロールの回転に伴って、給水手段13によりロール内部10に冷却水Wが順次供給され、ロール内部10の最上位に位置する排出口20からエアは外部に排出されることとなる。ゆえに、ロール内部10の冷却水量は増加する。
ロール回転開始後の数回転で、図2(c)に示すように、ロール内部10の冷却水Wの水面は排出口20に位置まで達し、ロール内部10内ほぼ全てが冷却水Wで満たされるようになる。
なお、排出口20がロール内部10の上位に位置しないとき、言い換えるならば、冷却水W内に水没しているときには、エアの排出は行われない。しかしながら、ロール本体3は常に回転しているため、ロール1回転に付き一度は排出口20が上位に位置し、確実なエア排出及びロール内部10への冷却水Wの充填が行われる。
【0025】
上述した如く、ロール本体3が数回転するうちに、ロール内部10におけるエア溜まりがほとんどなくなると共にロール内部10を冷却水Wが充満し、ロール本体3全体、特に鋳片2とロールとの接触線近傍での確実な冷却を行うことができるようになる。
[第2実施形態]
図3は、本発明にかかるロール装置の第2実施形態の全体断面図である。
この図に示すように、ロール装置1は、回転自在となっていて内部が中空構造となっているロール本体3を備えている点や、円板状の側壁体5、一対のロール把持体6,7を有する点、ロール把持体6,7が軸受箱8に支持されている点、給水手段13や排水手段14を備えている点は、第1実施形態と略同じであり、同一の符号を付すこととしている。
【0026】
以下、第1実施形態と異なる点に関して述べる。
本実施形態の給水手段13は、第1ロール把持体6に設けられた第1貫通孔16からなる。第1貫通孔16は、第1ロール把持体6の回転軸心と同軸上であって外部からロール内部10に連通するように形成されている。第1貫通孔16の基端は1系統型のロータリジョイント18を介して外部に連通している。このロータリジョイント18の開口部30に冷却水Wを供給することでロール内部10に冷却水Wを供給することができる。
一方、排水手段14は、第2ロール把持体7に形成された第2貫通孔17と、側壁体5の周縁部であってロール筒体4の内周壁40にその周縁が接するように設けられた排出口20と、この排出口20に連通すると共に側壁体5内に埋設され且つ第2ロール把持体7内の第2貫通孔17に連通する排出通孔22とを備えている。
【0027】
詳しくは、第2貫通孔17は、第2ロール把持体7の回転軸心と同軸上に外部から穿孔されている。第2貫通孔17は、第2ロール把持体7の中途部までしか形成されておらず、第2貫通孔17の先端部はロール内部10に連通しないもとのなっている。第2貫通孔17の基端部は1系統型のロータリジョイント18を介して外部に連通している。
第2ロール把持体7が設けられている側壁体5には、排出口20が少なくとも1つ以上形成されている。排出口20は、ロール本体3の内部へ向く面であって最も径外側に形成されており、ロール内部10に開口している。排出口20は円形であってその周縁面がロール本体3の内周壁40の面と面一となっている。
【0028】
この排出口20から側壁体5の軸心方向(厚み方向)に沿って排出通孔22が穿孔されている。排出通孔22は側壁体5の軸心方向の中途部において90度方向を変え、側壁体5の径方向に沿って側壁体5中央部へ向きを変えるように形成されており、第1ロール把持体6内を通って前述した第2貫通孔17に連通している。排出通孔22と第2貫通孔17により、ロール内部10の冷却水Wを外部へ導出する排出通路21が構成されている。
本実施形態の場合も、給水手段13と排水手段14とは直接つながっておらず、排水手段14でオープン排出となっている。しかしながら、クローズ型としてもよい。
【0029】
次に、図3を用いて、ロール装置の冷却方法すなわちロール本体3における冷却水Wの流れを説明する。
まず、ロール本体3が回転し始めると共に、第1ロール把持体6(給水側)のロータリジョイント18の開口部30へ冷却水Wを供給する。供給された冷却水Wは、第1貫通孔16を介してロール内部10に溜まってゆき、冷却水Wの上部にあるエアは排出口20→排出通孔22→第2貫通孔17→外部へと導出される。
ロール本体3の回転に伴って、排出口20は360度回転することとなるが、ロール1回転に付き一度は、図2(a)〜(c)と同様に排出口20の位置が最も上位となり、第1実施形態と同様に、エアが外部に排出され且つロール内部10に冷却水Wが充填されるようになる。最終的には、ロール内部10におけるエア溜まりがほとんどなくなり冷却水Wで満たされ、ロール本体3の全面、特に鋳片2とロール本体3との接触線近傍での確実な冷却を行うことができるようになる。
【0030】
このように、第2実施形態のロール装置1においても、ロール本体3が数回転するうちに、ロール内部10におけるエア溜まりがほとんどなくなると共にロール内部10を冷却水Wが充満し、ロール本体3全体、特に鋳片2とロールとの接触線近傍での確実な冷却を行うことができるようになる。
[第3実施形態]
図4は、本発明にかかるロール装置の第3実施形態の全体断面図である。
本実施形態は、排水手段14の構成が第2実施形態と異なっているものの、他は略同様である。
【0031】
本実施形態の排水手段14は、ロール本体3の内部に突出した排出管31を有し、その基端部は、第2ロール把持体7内を通って外部に連通している第2貫通孔17に連通し、排出管31の先端部には排出口20が設けられ、排出口20はロール筒体4の内周壁40に近接する位置、又は接する位置に配備されている。
詳しくは、第2ロール把持体7に第2貫通孔17が形成され、第2貫通孔17は、第2ロール把持体7の回転軸心上に外部から穿孔されている。第2貫通孔17の先端は排出管31を介してロール内部10に連通しており、基端は1系統型のロータリジョイント18を介して外部に連通している。
【0032】
排出管31は断面円形のパイプ等で形成され、その中途部が略90°に屈曲されている。排出管31の一方側(先端部)には排出口20が形成され、この排出口20は上方を向きロール筒体4の内周壁40にほぼ接し且つ対面する位置に配備されている。排出管31の基端部は第2貫通孔17に連通するように第2ロール把持体7自体に固定されている。すなわち、排出管31と第2貫通孔17により、ロール内部10の冷却水Wを外部へ導出する排出通路21が構成されている。
本実施形態におけるロール装置1の冷却方法すなわちロール本体3における冷却水Wの流れは、第2実施形態と略同様であり、供給された冷却水Wは、第1ロール把持体6の第1貫通孔16を介してロール内部10に溜まってゆき、冷却水Wの上部にあるエアは排出口20→排出管31→第2貫通孔17→外部へと導出される。また、奏する作用効果も第2実施形態と略同様であるため、説明を省略する。
[第4実施形態]
図5は、本発明にかかるロール装置の第4実施形態の全体断面図である。
【0033】
本実施形態は、排水手段14の構成が第2実施形態と異なっているものの、他は略同様である。
本実施形態の排水手段14は、ロール本体3の内部であって側壁体5の近傍に設けられた隔壁体32と、隔壁体32と側壁体5との間に形成された隔壁室33と、隔壁体32の周縁部であってロール筒体4の内周壁40に接する位置に配備され且つ隔壁室33に連通する排出口20と、隔壁室33から第2ロール把持体7内を通って外部に連通する排出通孔22とを備えている。
【0034】
詳しくは、第2ロール把持体7の基端部は、ロール内部10へ張り出すように延設され延設部34となっており、この延設部34の縁端には、ロール筒体4の内周壁40に嵌り込む円板状の隔壁体32が、その中心とロール本体3の回転軸心とが一致するように取り付けられている。
隔壁体32は、ロール内部10を中央側の室と側方側の室(第2ロール把持体7側の部屋)とに分け、前記側方側の室を隔壁室33としている。第2ロール把持体7に形成された第2貫通孔17は、ロール内部10側に非連通となっているが、延設部34には径外方向を向く排出通孔22が少なくとも1つ以上穿孔されている。この排出通孔22により、第2貫通孔17と隔壁室33とが連通するものとなっている。
【0035】
一方、隔壁体32の最も径外方向側であって、ロール筒体4の内周壁40に接する位置には、隔壁体32をその厚み方向に貫通する排出口20が形成されている。この排出口20は、少なくとも1つ以上有ればよく、複数個形成されていても何ら問題はない。
隔壁室33と排出通孔22と第2貫通孔17とにより、ロール内部10の冷却水Wを外部へ導出する排出通路21が構成されている。
次に、図5を用いて、ロール装置1の冷却方法すなわちロール本体3における冷却水Wの流れを説明する。
【0036】
まず、ロール回転し始めると共に、第1ロール把持体6(給水側)のロータリジョイント18の開口部30へ冷却水Wを供給する。供給された冷却水Wは、第1貫通孔16を介してロール内部10に溜まってゆき、冷却水Wの上部にあるエアは隔壁体32に形成された排出口20→隔壁室33→排出通孔22→第2貫通孔17→第2ロール把持体7のロータリジョイント18→外部へと導出される。
ロール本体3の回転に伴って、排出口20は360度回転することとなるが、ロール1回転に付き一度は、排出口20が最も上位となり、第1又は第2実施形態と同様に、ロール回転に伴ってエアが排出され且つロール内部10に冷却水Wが充填されるようになる。最終的には、ロール内部10におけるエア溜まりがほとんどなくなり冷却水Wで満たされ、ロール本体3全面、特に鋳片2とロールとの接触線近傍での確実な冷却を行うことができるようになる。
[排出口の変形例]
図6〜図8は、排水手段14の排出口20の変形例を示している。
【0037】
図6に示した排出口20は、側壁体5のロール内部10に面する側に形成されていて、その大きさ等は第1実施形態と略同一である。しかしながら、排出口20が形成されている位置が、第1実施形態に比して側壁体5の径外方向でより外側となっていて、ロール筒体4の内周壁40より入り込む位置(内周壁40より径外方向の位置)となっている。そのため、かかる排出口20から冷却水Wの排出をスムーズにすべく、ロール筒体4の内周壁40であって排出口20に対応する部位には凹状の切り欠き部36が形成されている。
図7に示した排出口20は、側壁体5の最も周縁部に形成されている。言い換えるならば、側壁体5の周縁部が径内方向に切り欠かれることで排出口20が形成されたものとなっている。本変形例の場合も、排出口20が形成されている位置が、ロール筒体4の内周壁40より径外方向の位置にあるため、排出口20から冷却水Wの排出をスムーズにすべく、ロール筒体4の内周壁40であって排出口20に対応する部位には凹状の切り欠き部36が形成されている。
【0038】
なお、図6,7において、排出口20は、その全体が凹状の切り欠き部36に入り込んでいるが、その一部が切り欠き部36に入り込んでいる位置づけとされても何ら問題はない。
図8に示した排水手段14は、第3実施形態の変形例である。この図に示す如く、ロール筒体4の最上部に位置する内周壁40であって排出口20に対応する部位には凹状の座ぐり部37が形成されており、この座ぐり部37内に排出管31の先端部(排出口20)が進入した状態で、排出管31が配備されるものとなっている。
【0039】
図6〜図8のいずれの変形例においても、排出口20は、ロール筒体4の最上部に位置する内周壁40内に進入した位置に配備されており、この位置にある排出口20を通ってロール内部10のエアが排出されることとなる。したがって、図6〜図8のいずれかの排水手段14を備えたロール装置1は、ロール本体3が数回転するうちに、ロール内部10におけるエア溜まりが全てなくなり冷却水Wで満たされ、ロール全面、特に鋳片2とロールとの接触線近傍での確実な冷却を行うことができる。
[排出口の断面積]
ところで、第1実施形態〜第4実施形態及び変形例で述べた排出口20に関して、排出口20が1孔である際には、その大きさ(断面積)に制限はないものの、2孔以上の複数個の場合、孔の大きさに制約条件があり、第1実施形態〜第4実施形態及び変形例では、その条件を満たすものとなっている。
【0040】
図9は、排出口20が満たすべき条件を説明するための図である。
例えば、「排出口20が2穴、互いの位置が180°位相(ロール本体3の回転軸心位置を中心として互いに反対側)」の場合であって、図9の[Case1]のような際には、冷却水Wの水面下にある排出口20Cの大きさが、冷却水供給口(冷却液供給口)の大きさより大きすぎると、冷却水Wの供給量より排出量が多いことになり、ロール内部10の水位を上昇させることができず、エア排出ができない状況となる、ゆえに、エアを排出できる条件としては、排出口20の断面積CA≦冷却水供給口の断面積AAを満たす必要がある。
【0041】
なお、ここで言う冷却水供給口とは、第1実施形態における給水パイプ15の先端の開口であり、第2実施形態〜第4実施形態における第1貫通孔16に対応するものである。
同様に、図9の[Case2]のような場合、冷却水Wの水面下にある排出口20Bが冷却水供給口の大きさより大きすぎるとエア容量を減少することができない。ゆえに、エアを排出できる条件としては、排出口20の断面積BA≦冷却水供給口の断面積AAを満たす必要がある。
図9の[Case3]のような場合、排出口20B,20Cとが水没する。その場合、排出口20Bと排出口20Cとの断面積の総和が、冷却水供給口の断面積Aより大きすぎると、ロール内部10の水位を上昇させることができない。ゆえに、ロール内部10の水位を上昇させる条件は、排出口20の断面積CA+排出口20の断面積BA≦冷却水供給口の断面積AAである。
【0042】
翻って、「排出口20が2穴、互いの位置が90°位相(ロール本体3の回転軸心位置を中心として直角の位置関係)」の場合であって、図9の[Case4]のような際には、冷却水Wの水面下にある排出口20Cの大きさが冷却水供給口の大きさより大きすぎると、冷却水Wの供給量より排出量が多いことになり、ロール内部10の水位を上昇させることができない状況となる。水位上昇の条件としては、排出口20の断面積CA≦冷却水供給口の断面積AAを満たす必要がある。
図9の[Case5]のような場合、冷却水Wの水面下にある排出口20Bが冷却水供給口の大きさより大きすぎるとエア容量を減少することができない。ゆえに、エアを排出できる条件としては、排出口20の断面積BA≦冷却水供給口の断面積AAを満たす必要がある。
【0043】
図9の[Case6]のような場合、[Case3]と同じ考えにより、排出口20の断面積CA+排出口20の断面積BA≦冷却水供給口の断面積AAを満たす必要がある。
まとめるならば、排出口20が2つの場合には、(排出口20の断面積CA≦冷却水供給口の断面積AA)及び(排出口20の断面積BA≦冷却水供給口の断面積AA)及び(排出口20の断面積CA+排出口20の断面積BA≦冷却水供給口の断面積AA)であれば、ロール本体3の回転に伴い、エアを排出できる。(排出口20の断面積CA≦冷却水供給口の断面積AA)及び(排出口20の断面積BA≦冷却水供給口の断面積AA)は、(排出口20の断面積CA+排出口20の断面積BA≦冷却水供給口の断面積AA)に包括されるので、(排出口20の断面積CA+排出口20の断面積BA≦冷却水供給口の断面積AA)のみの条件が成立すればよい。換言するならば、排出口20が複数存在する際には、複数の排出口20の断面積の和が、給水手段13に設けられた冷却水供給口の断面積より小さい又は同じになるように設定するとよい。
【0044】
なお、上述の関係は、冷却水Wが完全流体(粘性なしの流体)の場合に成り立つものであるが、実際には、排出口20、冷却水供給口に比較してロール内部10の流路面積が大きいため、ロール内部10での流速が非常に小さく、ロール内部10による圧損は無視できるレベルであって、冷却水Wを完全流体と考えても実用上は何ら問題はない。なお、「排出口20が複数存在する際には、複数の排出口20の流路抵抗の和が、給水手段13に設けられた冷却水供給口の流路抵抗より大きい又は同じに設定する」とすれば、冷却水Wの粘性等を考慮する必要がなくなる。
【0045】
排出口20が3つ以上である場合も同様に考えるとよい。
ところで、本発明は、上記各実施形態に限定されるものではなく、実施の形態に応じて適宜変更可能である。
例えば、排出口20の周縁は必ずしもロール筒体4の内周壁40に接してなくてもよく、その近傍、例えば内周壁40〜排出口20の周縁までの距離が2mm〜15mm程度の径内側の位置にあってもよく、又、「内周壁40〜ロール本体3の回転中心」の距離の98%〜90%程度の径内側の位置にあってもよい。その場合であってもロール内部10のエアはほとんど排出される。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】第1実施形態のロール装置の全体断面図である。
【図2】ロール本体を冷却水が満たしていく過程を示した図である。
【図3】第2実施形態のロール装置の全体断面図である。
【図4】第3実施形態のロール装置の全体断面図である。
【図5】第4実施形態のロール装置の全体断面図である。
【図6】排出口の変形例を示した図である。
【図7】排出口の変形例を示した図である。
【図8】排出口の変形例を示した図である。
【図9】排出口の断面積と排水状況との関係とを示した図である。
【図10】従来例を示した図である。
【符号の説明】
【0047】
1 ロール装置
2 鋳片
3 ロール本体
4 ロール筒体
5 側壁体
6 第1ロール把持体
7 第2ロール把持体
8 軸受箱
9 軸受部
10 ロール内部
11 基台
12 冷却手段
13 給水手段
14 排水手段
15 給水パイプ
16 第1貫通孔
17 第2貫通孔
18 ロータリジョイント
19 第1開口部
20 排出口
21 排出通路
22 排出通孔
23 第2開口部
24 止水部材
30 開口部
31 排出管
32 隔壁体
33 隔壁室
34 延設部
36 切り欠き部
37 座ぐり部
40 内周壁
41 段差部
W 冷却水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部が中空構造となっているロール本体と、該ロール本体を回転自在に支持する軸受部と、該ロール本体の内部に冷却液を供給する給液手段と、該ロール本体の内部の供給された冷却液を排出する排液手段とを有するロール装置において、
前記排液手段は、前記ロール本体の内部から外部へ連通する排出通路を1つ有し、該排出通路の入口には、前記ロール本体の内部に開口し且つロール本体の内部において径外方向で最も外側に配備された排出口が備えられていることを特徴とするロール装置。
【請求項2】
内部が中空構造となっているロール本体と、該ロール本体を回転自在に支持する軸受部と、該ロール本体の内部に冷却液を供給する給液手段と、該ロール本体の内部の供給された冷却液を排出する排液手段とを有するロール装置において、
前記排液手段は、前記ロール本体の内部から外部へ連通する排出通路を複数有し、各排出通路の入口には、前記ロール本体の内部に開口し且つロール本体の内部において径外方向で最も外側に配備された排出口が備えられていることを特徴とするロール装置。
【請求項3】
前記ロール本体は、内部が中空で且つ両側に外部開放となっている開放部を備えたロール筒体と、該ロール筒体部の開放部を閉塞する円板状の側壁体と、該側壁体からロール本体の回転軸心方向に突設され且つ前記軸受部で支持されるロール把持体と、を有していることを特徴とする請求項1又は2に記載のロール装置。
【請求項4】
前記排液手段の排出口は、前記側壁体の周縁部であってロール筒体の内周壁に近接する位置、又は接する位置、又は入り込む位置に配備され、
前記側壁体には、前記排出口からロール把持体内を通って外部に連通する排出通路が設けられていることを特徴とする請求項3に記載のロール装置。
【請求項5】
前記排液手段はロール本体の内部に突出した排出管を有し、
前記排出管の基端部は、ロール把持体内を通って外部に連通している排出通路に連結され、
前記排出管の先端部には、前記ロール筒体の内周壁に近接する位置、又は接する位置、又は入り込む位置に配備された前記排出口が設けられていることを特徴とする請求項3に記載のロール装置。
【請求項6】
前記排液手段は、ロール本体の内部であって前記側壁体の近傍に設けられた隔壁体と、該隔壁体と側壁体との間に形成された隔壁室と、前記隔壁体の周縁部であってロール筒体の内周壁に近接する位置、又は接する位置、又は入り込む位置に配備され、且つ前記隔壁室に連通する排出口と、前記隔壁室からロール把持体内を通って外部に連通する排出通路と、を備えていることを特徴とする請求項3に記載のロール装置。
【請求項7】
前記排出口が複数存在する際には、前記複数の排出口の断面積の和が、前記給液手段に設けられた冷却液供給口の断面積より小さい又は同じに設定されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のロール装置。
【請求項8】
前記排出口が複数存在する際には、前記複数の排出口の流路抵抗の和が、前記給液手段に設けられた冷却液供給口の流路抵抗より大きい又は同じに設定されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のロール装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−279493(P2008−279493A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−128011(P2007−128011)
【出願日】平成19年5月14日(2007.5.14)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】