説明

ワイヤハーネス

【課題】光ファイバケーブルを含むケーブル束を備えたワイヤハーネスにおいて、配線の作業性を損なうことなく、ケーブル束の保護と曲げの制限とを実現すること。
【解決手段】ワイヤハーネス1は、光ファイバケーブル8を含むケーブル束7と、ケーブル束7の周囲を覆うコルゲートチューブ2と、コイルバネ3とを備える。コルゲートチューブ2には、その長手方向全体に亘る一連の切れ目21が形成されている。コイルバネ3は、その一部がコルゲートチューブ2の凹み部に嵌り込む状態でコルゲートチューブ2の外周面に沿って螺旋状に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバケーブルを含むケーブル束を備えたワイヤハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、自動車などの車両における通信システムにおいて、音楽及び映像などに関するデータサイズの大きなデジタルデータの伝送に適した光ファイバが採用されつつある。しかしながら、光ファイバケーブルは、電線に比べ、性能を維持するために許容される曲率が小さい。そのため、ワイヤハーネスが備えるケーブル束が光ファイバケーブルを含む場合、ケーブル束の曲げ規制が重要となる。
【0003】
また、ケーブル束が、光ファイバケーブルを含む幹線から光ファイバケーブルを含む支線へ分岐する分岐部を有する場合、細い支線は特に曲がりやすい。さらに、支線のケーブル束は、分岐部からその末端のコネクタの接続相手である電装機器に至る過程で比較的大きな曲率で曲げられる場合が多い。そのため、光ファイバケーブルを含む支線において、ケーブル束の曲げ規制は特に重要となる。
【0004】
例えば、特許文献1には、湾曲した経路に沿う溝を形成するガイド部材が、光ファイバケーブルの端部のコネクタに接続され、光ファイバケーブルが、そのガイド部材の溝内に配置されることについて示されている。これにより、光ファイバにおける末端のコネクタに近い部分が、許容値を超える大きな曲率で曲がってしまうことが防止される。
【0005】
一方、車両に搭載されるワイヤハーネスにおいて、ケーブルが、振動などにより周囲の部材に接触することが原因で破損しないように、可撓性を有するコルゲートチューブが、ケーブル束に取り付けられることが多い。コルゲートチューブは、いわゆる蛇腹構造を有することによって長手方向における柔軟性を有する筒状の部材である。蛇腹構造は、外周面に周方向に沿う複数の凹み部が長手方向に並んで形成された構造である。
【0006】
また、特許文献2に示されるように、コルゲートチューブは、通常、その長手方向全体に渡る一連の切れ目が形成されている。コルゲートチューブは、所定の治具を用いて切れ目の両側へ拡げられることによって長手方向全体に渡る隙間が形成され、ケーブル束は、その隙間からコルゲートチューブ内へ挿入される。また、ケーブル束が挿入されたコルゲートチューブは、ケーブル束が切れ目から外側へはみ出さないように、粘着テープで巻かれることによって筒状に保持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−338339号公報
【特許文献2】特開2009−5422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に示されるように、ケーブル束が、硬いガイド部材の溝の中に配線された場合、ケーブル束をその配線のために一時的に曲げることができない。そのため、特許文献1に示されるガイド部材は、ケーブル束の配線の作業性を損なうという問題点を有している。
【0009】
一方、コルゲートチューブは、ケーブル束を保護できるが、柔軟性が高すぎるため、光ファイバケーブルの曲げを制限する性能は不十分である。
【0010】
本発明は、光ファイバケーブルを含むケーブル束を備えたワイヤハーネスにおいて、配線の作業性を損なうことなく、ケーブル束の保護と曲げの制限とを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るワイヤハーネスは、以下に示す各構成要素を備える。
(1)第1の構成要素は、光ファイバケーブルを含むケーブル束である。
(2)第2の構成要素は、外周面に周方向に沿う複数の凹み部が長手方向に並んで形成されるとともに長手方向全体に亘る一連の切れ目が形成された筒状の部材であり、ケーブル束の周囲を覆うコルゲートチューブである。
(3)第3の構成要素は、一部がコルゲートチューブの凹み部に嵌り込む状態でコルゲートチューブの外周面に沿って螺旋状に形成されたコイルバネである。
【0012】
また、本発明に係るワイヤハーネスが、さらに以下の構成を備えることが考えられる。即ち、ケーブル束は、光ファイバケーブルを含む幹線から光ファイバケーブルを含む支線へ分岐する分岐部を有する。そして、コルゲートチューブ及びコイルバネは、支線におけるケーブル束に取り付けられている。
【0013】
また、本発明に係るワイヤハーネスにおいて、コルゲートチューブが、その端部のみにおいて粘着テープの巻き付けによりケーブル束に対して固定されていることが考えられる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、光ファイバケーブルを含むケーブル束は、コルゲートチューブによって保護される。また、コルゲートチューブ及びその周囲に巻かれたコイルバネは、力が加えられることにより弾性変形して曲がる。そのため、ケーブル束の変形が硬いガイド部材で規制される場合とは異なり、ケーブル束の配線の作業性は損なわれない。しかも、コイルバネは、ケーブル束がコルゲートチューブの切れ目から外側へはみ出すことを防ぐ。そのため、ケーブル束のはみ出し防止のために粘着テープをコルゲートチューブの全域に巻く作業を省略することが可能となる。
【0015】
さらに、コイルバネは、大きく曲げられるほど元の形状へ戻る方向への反力がより強く生じるため、コイルバネが巻かれたコルゲートチューブ内のケーブル束は、実質的に曲げが制限される。従って、本発明によれば、光ファイバケーブルの性能が、性能を維持するために許容される曲率を超えて曲がることによって劣化することが防がれる。
【0016】
また、本発明におけるコルゲートチューブ及びコイルバネが、細くて曲がりやすい支線のケーブル束へ適用されることにより、より顕著な効果が得られる。
【0017】
また、前述したように、本発明においては、コイルバネが、ケーブル束のはみ出し防止の機能を有する。そのため、コルゲートチューブが、その端部のみが粘着テープの巻き付けによりケーブル束に対して固定されれば、ケーブル束に対するコルゲートチューブの固定と、ケーブル束のコルゲートチューブ内からのはみ出し防止とが実現される。しかも、コイルバネは、その一部がコルゲートチューブの凹み部に嵌り込んでいるため、接着剤などの固着手段が採用されなくても、コルゲートチューブから外れにくい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係るワイヤハーネス1の平面図である。
【図2】ワイヤハーネス1におけるコルゲートチューブで保護された部分の平面図である。
【図3】ワイヤハーネス1におけるコルゲートチューブで保護された部分の分解平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。以下の実施形態は、本発明を具体化した一例であり、本発明の技術的範囲を限定する事例ではない。
【0020】
<ワイヤハーネスの構成>
以下、図1から図3を参照しつつ、本発明の実施形態に係るワイヤハーネス1の構成について説明する。ワイヤハーネス1は、自動車などの車両に搭載され、各種の電装機器相互間を接続する。
【0021】
図1から図3に示されるように、ワイヤハーネス1は、ケーブル束7と、コルゲートチューブ2と、コイルバネ3とを備える。
【0022】
ケーブル束7は、ワイヤケーブル9及び光ファイバケーブル8を含み、その端部にはコネクタ6が接続されている。図1に示されるように、ケーブル束7は、ワイヤケーブル9及び光ファイバケーブル8を含む幹線から少なくとも光ファイバケーブル8を含む支線へ分岐する分岐部を有する。以下、幹線及び支線各々のケーブル束を区別する場合、幹線のケーブル束71及び支線のケーブル束72と称する。
【0023】
コルゲートチューブ2は、いわゆる蛇腹構造を有することによって長手方向における柔軟性を有する筒状の部材である。より具体的には、図2に示されるように、コルゲートチューブ2は、外周面に周方向に沿う複数の凹み部22と凸部23とが長手方向において交互に並んで形成された構造を有する。コルゲートチューブ2は、例えば、ポリアミド(PA)、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)又はABS樹脂などの合成樹脂からなる一体成形部材である。
【0024】
また、コルゲートチューブ2には、その長手方向全体に亘る一連の切れ目21が形成されている。コルゲートチューブ2は、所定の治具を用いて切れ目21の両側へ拡げられることによって長手方向全体に渡る隙間が形成され、ケーブル束7は、その隙間からコルゲートチューブ2内へ挿入される。これにより、コルゲートチューブ2は、ケーブル束7の周囲を覆う。
【0025】
コイルバネ3は、金属又は樹脂の線状部材が螺旋状に成形された部材である。コイルバネ3は、例えば、ステンレス、鋼もしくは鉄などの金属の部材、或いは合成樹脂の部材である。図2に示されるように、コイルバネ3は、その一部がコルゲートチューブ2の凹み部22に嵌り込む状態でコルゲートチューブ2の外周面に沿って螺旋状に形成されている。
【0026】
図2に示されるように、本実施形態においては、コルゲートチューブ2及びコイルバネ3は、幹線のケーブル束71における端部のコネクタ6に近い部分と、支線のケーブル束72とに取り付けられている。
【0027】
また、本実施形態においては、コルゲートチューブ2は、その一方の端部のみにおいて粘着テープ5の巻き付けによりケーブル束7に対して固定されている。なお、コルゲートチューブ2が、その両方の端部のみにおいて粘着テープ5の巻き付けによりケーブル束7に対して固定されることも考えられる。
【0028】
また、コルゲートチューブ2の端部において、粘着テープ5が、コルゲートチューブ2の端部におけるコイルバネ3の端部からケーブル束7に跨る範囲に巻き付けられることも考えられる。
【0029】
<効果>
ワイヤハーネス1において、光ファイバケーブル8を含むケーブル束7は、コルゲートチューブ2によって保護される。また、コルゲートチューブ2及びその周囲に巻かれたコイルバネ3は、力が加えられることにより弾性変形して曲がる。そのため、ケーブル束7の変形が硬いガイド部材で規制される場合とは異なり、ケーブル束7の配線の作業性は損なわれない。なお、図2において、コルゲートチューブ2が弾性変形する様子が、仮想線(二点鎖線)により示されている。
【0030】
また、コイルバネ3は、ケーブル束7がコルゲートチューブ2の切れ目21から外側へはみ出すことを防ぐ。そのため、ケーブル束7のはみ出し防止のために粘着テープ5をコルゲートチューブの全域に巻く作業を省略することが可能となる。
【0031】
さらに、コイルバネ3は、大きく曲げられるほど元の形状へ戻る方向への反力がより強く生じるため、コイルバネ3が巻かれたコルゲートチューブ2内のケーブル束7は、実質的に曲げが制限される。従って、ワイヤハーネス1においては、光ファイバケーブル8の性能が、性能を維持するために許容される曲率を超えて曲がることによって劣化することが防がれる。
【0032】
また、ワイヤハーネス1において、コルゲートチューブ2及びコイルバネ3が、細くて曲がりやすい支線のケーブル束72へ適用されている。この支線の部分において、コイルバネ3による曲げ制限の効果がより顕著となる。
【0033】
また、前述したように、ワイヤハーネス1において、コイルバネ3は、ケーブル束7のはみ出し防止の機能を有する。そのため、コルゲートチューブ2が、その端部のみが粘着テープ5の巻き付けによりケーブル束7に対して固定されれば、ケーブル束7に対するコルゲートチューブ2の固定と、ケーブル束7のコルゲートチューブ2内からのはみ出し防止とが実現される。
【0034】
また、コイルバネ3は、その一部がコルゲートチューブ2の凹み部22に嵌り込んでいるため、接着剤などの固着手段が採用されなくても、コルゲートチューブ2から外れにくい。なお、粘着テープ5が、コルゲートチューブ2の端部におけるコイルバネ3の端部からケーブル束7に跨る範囲に巻き付けられれば、コイルバネ3の位置ずれがより確実に防止される。
【0035】
<その他>
以上に示されたコルゲートチューブ2及びコイルバネ3の適用対象は、図1に示されるような分岐部を有するケーブル束7の他、分岐部を有さないケーブル束であってもかまわない。
【符号の説明】
【0036】
1 ワイヤハーネス
2 コルゲートチューブ
3 コイルバネ
5 粘着テープ
6 コネクタ
7 ケーブル束
8 光ファイバケーブル
9 ワイヤケーブル
21 コルゲートチューブの切れ目
22 コルゲートチューブの凹み部
23 コルゲートチューブの凸部
71 幹線のケーブル束
72 支線のケーブル束

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバケーブルを含むケーブル束と、
外周面に周方向に沿う複数の凹み部が長手方向に並んで形成されるとともに長手方向全体に亘る一連の切れ目が形成された筒状の部材であり、前記ケーブル束の周囲を覆うコルゲートチューブと、
一部が前記コルゲートチューブの前記凹み部に嵌り込む状態で前記コルゲートチューブの外周面に沿って螺旋状に形成されたコイルバネと、を備えることを特徴とするワイヤハーネス。
【請求項2】
前記ケーブル束は、前記光ファイバケーブルを含む幹線から前記光ファイバケーブルを含む支線へ分岐する分岐部を有し、
前記コルゲートチューブ及び前記コイルバネは、前記支線における前記ケーブル束に取り付けられている、請求項1に記載のワイヤハーネス。
【請求項3】
前記コルゲートチューブは、その端部のみが粘着テープの巻き付けにより前記ケーブル束に対して固定されている、請求項1又は請求項2に記載のワイヤハーネス。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−223000(P2012−223000A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−87940(P2011−87940)
【出願日】平成23年4月12日(2011.4.12)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】