説明

ワイヤロープ

【課題】磨耗を抑制するための給油を不用とすることができるワイヤロープであって、製造工程数の増加を抑制することができるとともにエレベータ駆動装置の小型化を図ることができるワイヤロープを提供する。
【解決手段】複数の鋼製素線10を撚り合わせてストランド8を構成し、複数のストランド8を撚り合わせて構成されるワイヤロープにおいて、ワイヤロープの外周に樹脂製のロープ被覆材9が被覆されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤロープに関し、特に、ロープ式エレベータにおいて使用されるワイヤロープに関する。
【背景技術】
【0002】
ロープ式エレベータにおいては、シーブにワイヤロープが巻き掛けられ、ワイヤロープの一端に乗りかごが連結され、ワイヤロープの他端につり合い重りが連結されている。巻上機によりシーブを回転させると、シーブとワイヤロープとの間の摩擦によってワイヤロープが移動し、乗りかごが昇降駆動される。
【0003】
ワイヤロープは一般的に、複数の素線を撚り合わせてストランドを形成し、複数のストランドを撚り合わせることにより構成されている。また、現在のエレベータで使用されるワイヤロープは、鋼製の素線を用いたものが主流となっている。鋼製の素線を用いたワイヤロープを使用する場合、金属製のシーブとワイヤロープとが金属接触することによりワイヤロープが磨耗する。
【0004】
金属接触によるワイヤロープの磨耗を抑制するために、ワイヤロープへ給油を行っているが、この場合には、シーブとワイヤロープとの接触時に油が飛散し、昇降路内の様々な部分を汚すという問題が生じている。また、廃油が発生することで環境負荷にもなっている。さらに、給油作業、飛散した油の清掃作業、廃油の処分作業などが必要となるため、保守員の負担が大きくなっている。
【0005】
このような問題を解決するためには、給油を必要としないワイヤロープを用いることが好ましい。例えば、下記特許文献1には、給油を行うことなく金属接触による磨耗を抑制することができるようにしたワイヤロープの発明が記載されている。
【0006】
下記特許文献1の図1に記載されたワイヤロープは、鋼製の素線を樹脂材料からなる素線被覆材で被覆し、素線被覆材で被覆した素線を撚り合わせてストランドを形成し、複数のストランドを撚り合わせ、撚り合わせた複数のストランドの外周を樹脂材料からなるロープ被覆材で被覆している。また、下記特許文献1の図6に記載されたワイヤロープは、鋼製の素線を撚り合わせてストランドを形成し、このストランドを樹脂材料からなるストランド被覆材で被覆し、ストランド被覆材で被覆した複数のストランドを撚り合わせ、撚り合わせた複数のストランドの外周を樹脂材料からなるロープ被覆材で被覆している。
【特許文献1】特開2001−262482号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載されたワイヤロープでは、以下の点について考慮されていない。
【0008】
エレベータ駆動装置では、ワイヤロープがシーブを通過する際の繰り返し曲げにより強度が低下するので、この強度低下を抑制するために、ワイヤロープの直径“d”とシーブの直径“D”との比率“D/d”を40以上に設定している。したがって、エレベータ駆動装置の小型化を図るためにシーブの直径を小さくする場合には、それに伴ってワイヤロープの直径も小さくしなけばならない。
【0009】
しかし、特許文献1に記載されたように、素線被覆材とロープ被覆材、又は、ストランド被覆材とロープ被覆材とのように被覆材を二重に設けると、ワイヤロープの直径が太くなり、シーブの小型化や、シーブを含むエレベータ駆動装置の小型化を図ることが難しくなる。特に、各素線を素線被覆材で被覆することや、全てのストランドをストランド被覆材で被覆した場合には、ワイヤロープの直径が太くなる。
【0010】
また、素線被覆材とロープ被覆材、又は、ストランド被覆材とロープ被覆材とを設けると、ワイヤロープを製造するために被覆材の被覆を二度行なわなければならず、ワイヤロープを製造するための製造工程数が増加し、及び、製造コストがアップするという問題がある。
【0011】
本発明はこのような課題を解決するためになされたもので、その目的は、磨耗を抑制するための給油を不用とすることができるワイヤロープであって、製造工程数の増加を抑制することができるとともにエレベータ駆動装置の小型化を図ることができるワイヤロープを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の実施の形態に係る第1の特徴は、複数の鋼製素線を撚り合わせてストランドを形成し、複数の前記ストランドを撚り合わせて構成されるワイヤロープにおいて、前記ワイヤロープの外周に樹脂製のロープ被覆材が被覆されていることである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、製造工程数の増加を抑制することができるとともにエレベータ駆動装置の小型化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。
【0015】
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態に係るワイヤロープについて、図1及び図2に基づいて説明する。図1は、エレベータシステムの概略を示す模式図である。エレベータシステムは、建物内に形成されたエレベータ昇降路(図示せず)の上端部に機械室(図示せず)が設けられ、この機械室内に巻上機1と巻上機シーブ2とそらせシーブ3とが設置されている。巻上機シーブ2は巻上機1に連結され、巻上機1により回転駆動される。そらせシーブ3は、回転可能に支持されている。巻上機シーブ2とそらせシーブ3とにはワイヤロープ4が巻き掛けられ、ワイヤロープ4の一端に乗りかご5が吊り下げられ、ワイヤロープ4の他端につり合い重り6が吊り下げられている。
【0016】
図2は、ワイヤロープ4を示す縦断正面図である。ワイヤロープ4は、芯部材である繊維芯7と、複数のストランド8と、ロープ被覆材9とにより構成されている。
【0017】
繊維芯7は、ワイヤロープ4の中心部分に配置された部材であり、繊維材料を束ねることにより形成されている。繊維芯7には、潤滑材が充填されている。
【0018】
ストランド8は、複数の鋼製素線10を撚り合わせることにより形成されている。複数のストランド8は、繊維芯7を囲んで繊維芯7の回りに撚り合わされている。
【0019】
ロープ被覆材9は、筒状に形成された樹脂製の部材であり、撚り合わされた複数のストランド8の外周に被覆されている。言い換えると、ロープ被覆材9は、ワイヤロープ4の最外層部分にのみ被覆されている。
【0020】
このような構成において、乗りかご5を昇降させるために巻上機1を駆動させると、ワイヤロープ4は、巻上機シーブ2やそらせシーブ3のシーブ溝表面と接触した状態で移動する。ワイヤロープ4の最外層部分にはロープ被覆材9が被覆されているため、乗りかご5の昇降に伴ってワイヤロープ4が移動する場合、ワイヤロープ4を構成するストランド8と巻上機シーブ2やそらせシーブ3との間での金属接触が防止される。このため、金属接触が原因となって発生するストランド8や巻上機シーブ2やそらせシーブ3の磨耗が抑制される。
【0021】
また、ワイヤロープ4は、巻上機シーブ2やそらせシーブ3を通過する際の繰り返し曲げにより強度が低下するので、この強度低下を抑制するために、上述したように、ワイヤロープ4の直径“d”と巻上機シーブ2やそらせシーブ3の直径“D”との比率“D/d”が40以上に設定されている。そして、エレベータ駆動装置の小型化のために巻上機シーブ2やそらせシーブ3の直径を小さくした場合には、それに伴ってワイヤロープ4の直径も小さくする必要がある。
【0022】
ワイヤロープ4は、撚り合わせた複数のストランド8の外周にロープ被覆材9が被覆されているため、その分ワイヤロープ4の直径が大きくなる。しかし、このワイヤロープ4は、ワイヤロープ4の最外層部分にのみ一層のロープ被覆材9が被覆されているため、ロープ被覆材9を被覆することに伴うワイヤロープ4の直径の増大を小さな範囲内に抑えることができ、ロープ被覆材9を設けてもエレベータ駆動装置の小型化を妨げないようになっている。
【0023】
ワイヤロープ4の製造工程数に関して、被覆材を被覆する工程としてはロープ被覆材9を被覆する工程が存在するだけであり、特許文献1に示されたように二重に被覆を行なう場合に比べて、被覆材を被覆する工程数を減らすことができる。
【0024】
芯部材として繊維芯7が用いられているため、ワイヤロープ4の軽量化を図ることができる。また、繊維芯7には潤滑材が充填されているため、この潤滑材がストランド8間、及び、鋼製素線10間に供給され、ストランド8や鋼製素線10の磨耗を抑制することができる。
【0025】
(第2の実施の形態)
本発明の第2の実施の形態に係るワイヤロープについて、図3に基づいて説明する。なお、第2の実施の形態、及び、以下に説明する他の実施の形態において、先行して説明した実施の形態の構成要素と同じ構成要素には同じ符号を付け、重複する説明は省略する。
【0026】
図3は、第2の実施の形態に係るワイヤロープ4Aを示す縦断正面図である。ワイヤロープ4Aは、繊維芯7と、複数のストランド8と、ロープ被覆材9Aとにより構成されている。
【0027】
ロープ被覆材9Aは、樹脂製の部材であり、撚り合わされた複数のストランド8の外周に被覆されている。言い換えると、ロープ被覆材9Aは、ワイヤロープ4Aの最外層部分にのみ被覆されている。さらに、ロープ被覆材9Aは、隣り合って位置するストランド8間の凹部11に充填されている。ここで、「ストランド8間の凹部11」とは、複数のストランド8を撚り合わせた際に、隣り合うストランド8の間に形成される螺旋状にへこんだ溝のことである。ロープ被覆材9Aを隣り合って位置するストランド8間の凹部11に充填させる方法としては、例えば、溶融状態の被覆材を撚り合わせた複数のストランド8の外周部分に塗布し、乾燥させてロープ被覆材9Aを形成することにより行える。
【0028】
このような構成において、第2の実施の形態に係るワイヤロープ4Aは、第1の実施の形態に係るワイヤロープ4と同様に、ワイヤロープ4Aの最外層部分にロープ被覆材9Aが被覆されているため、ストランド8と巻上機シーブ2やそらせシーブ3との間での金属接触が防止され、金属接触が原因となって発生するストランド8や巻上機シーブ2やそらせシーブ3の磨耗が抑制される。
【0029】
また、ワイヤロープ4Aは、ワイヤロープ4Aの最外層部分にのみロープ被覆材9Aが被覆されているため、ロープ被覆材9Aを被覆することに伴うワイヤロープ4Aの直径の増大を小さな範囲内に抑えることができ、ロープ被覆材9Aを設けてもエレベータ駆動装置の小型化を妨げないようになっている。
【0030】
また、ロープ被覆材9Aは、隣り合って位置するストランド8間の凹部11に充填されているため、ストランド8とロープ被覆材9Aとの間での滑りの発生を抑制することができる。そして、ストランド8とロープ被覆材9Aとの間での滑りの発生を抑制できることにより、ワイヤロープ4Aの断面形状を製造当初の形状に維持することができる。このため、ワイヤロープ4Aの断面形状が型崩れを起こすことを防止することができ、その型崩れが原因となるワイヤロープ4Aの局所への荷重集中を防止することができ、荷重集中が原因となってワイヤロープ4Aの寿命が短くなるということを防止することができる。
【0031】
(第3の実施の形態)
本発明の第3の実施の形態に係るワイヤロープについて、図4に基づいて説明する。図4は、第3の実施の形態に係るワイヤロープ4Bを示す縦断正面図である。
【0032】
ワイヤロープ4Bは、繊維芯7と、繊維芯7を囲んで繊維芯7の回りに撚り合わされた複数のストランド8と、ロープ被覆材9Bとにより構成されている。
【0033】
ロープ被覆材9Bは、樹脂製の部材であり、撚り合わされた複数のストランド8の外周に被覆されている。言い換えると、ロープ被覆材9Bは、ワイヤロープ4Bの最外層部分にのみ被覆されている。さらに、ロープ被覆材9Bは、被覆厚さが略均一となるように被覆されている。言い換えると、ロープ被覆材9Bは、隣り合って位置するストランド8間の凹部11に充填され、及び、ロープ被覆材9Bの外周面であって隣り合って位置するストランド8間の凹部11に対向する部分が螺旋状にへこんでいる。
【0034】
このような構成において、第3の実施の形態に係るワイヤロープ4Bは、第1の実施の形態に係るワイヤロープ4と同様に、ワイヤロープ4Bの最外層部分にロープ被覆材9Bが被覆されているため、ストランド8と巻上機シーブ2やそらせシーブ3との間での金属接触が防止され、金属接触が原因となって発生するストランド8や巻上機シーブ2やそらせシーブ3の磨耗が抑制される。
【0035】
また、ワイヤロープ4Bは、ワイヤロープ4Bの最外層部分にのみロープ被覆材9Bが被覆されているため、ロープ被覆材9Bを被覆することに伴うワイヤロープ4Bの直径の増大を小さな範囲内に抑えることができ、ロープ被覆材9Bを設けてもエレベータ駆動装置の小型化を妨げないようになっている。
【0036】
また、ロープ被覆材9Bは、被覆厚さが略均一となっているため、ワイヤロープ4Bが巻上機シーブ2に巻き掛けられて移動する場合におけるワイヤロープ4Bの断面形状の変形量のばらつきが小さくなり、ワイヤロープ4Bの断面形状の型崩れが抑制される。そのため、この型崩れが原因となるワイヤロープ4Bの局所への荷重集中を防止することができ、荷重集中が原因となってワイヤロープ4Bの寿命が短くなるということを防止することができる。
【0037】
(第4の実施の形態)
本発明の第4の実施の形態に係るワイヤロープについて、図5に基づいて説明する。図5は、第4の実施の形態に係るワイヤロープ4Cを示す縦断正面図である。
【0038】
ワイヤロープ4Cは、芯部材である鋼芯12と、鋼芯12を囲んで鋼芯12の回りに撚り合わされた複数のストランド8と、ロープ被覆材9とにより構成されている。
【0039】
鋼芯12は、複数の鋼製素線13を撚り合わせることにより形成されている。鋼芯12には、潤滑材が充填されている。
【0040】
このような構成において、第4の実施の形態に係るワイヤロープ4Cは、第1の実施の形態に係るワイヤロープ4と同様に、ワイヤロープ4Cの最外層部分にロープ被覆材9が被覆されているため、ストランド8と巻上機シーブ2やそらせシーブ3との間での金属接触が防止され、金属接触が原因となって発生するストランド8や巻上機シーブ2やそらせシーブ3の磨耗が抑制される。
【0041】
また、ワイヤロープ4Cは、ワイヤロープ4Cの最外層部分にのみロープ被覆材9が被覆されているため、ロープ被覆材9を被覆することに伴うワイヤロープ4Cの直径の増大を小さな範囲内に抑えることができ、ロープ被覆材9を設けてもエレベータ駆動装置の小型化を妨げないようになっている
また、ワイヤロープ4Cは、芯部材として鋼芯12を用いてるため、ワイヤロープ4Cの強度を高めることができ、さらに、ワイヤロープ4Cが巻上機シーブ2に巻き掛けられて移動する場合におけるワイヤロープ4Cの断面形状の変形量を小さくすることができる。そのため、ワイヤロープ4Cの型崩れを抑制することができ、この型崩れが原因となるワイヤロープ4Cの局所への荷重集中を防止することができ、荷重集中が原因となってワイヤロープ4Cの寿命が短くなるということを防止することができる。
【0042】
また、鋼芯12に潤滑剤が充填されているため、この潤滑材がストランド8間、及び、鋼製素線10間に供給され、ストランド8や鋼製素線10の磨耗を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るエレベータシステムの概略を示す模式図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係るワイヤロープを示す縦断正面図である。
【図3】本発明の第2の実施の形態に係るワイヤロープを示す縦断正面図である。
【図4】本発明の第3の実施の形態に係るワイヤロープを示す縦断正面図である。
【図5】本発明の第4の実施の形態に係るワイヤロープを示す縦断正面図である。
【符号の説明】
【0044】
4、4A、4B、4C ワイヤロープ
7 芯部材、繊維芯
8 ストランド
9、9A、9B ロープ被覆材
10 鋼製素線
11 凹部
12 芯部材、鋼芯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の鋼製素線を撚り合わせてストランドを形成し、複数の前記ストランドを撚り合わせて構成されるワイヤロープにおいて、
前記ワイヤロープの外周に樹脂製のロープ被覆材が被覆されていることを特徴とするワイヤロープ。
【請求項2】
前記ロープ被覆材は、隣り合って位置する前記ストランド間の凹部に充填されていることを特徴とする請求項1記載のワイヤロープ。
【請求項3】
前記ロープ被覆材は、被覆厚さが略均一となるように被覆されていることを特徴とする請求項1記載のワイヤロープ。
【請求項4】
複数の前記ストランドは芯部材の回りに撚り合わされ、前記芯部材として繊維芯が用いられていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一に記載のワイヤロープ。
【請求項5】
複数の前記ストランドは芯部材の回りに撚り合わされ、前記芯部材として鋼芯が用いられていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一に記載のワイヤロープ。
【請求項6】
前記芯部材に潤滑材が充填されていることを特徴とする請求項4又は5記載のワイヤロープ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−167545(P2009−167545A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−4788(P2008−4788)
【出願日】平成20年1月11日(2008.1.11)
【出願人】(390025265)東芝エレベータ株式会社 (2,543)
【Fターム(参考)】