説明

ワイヤ鋸装置およびワイヤ鋸装置でワークを切削する方法

【課題】ワイヤおよびガイドローラに生じる振動を抑制することで切断面品位を高めてワークを切削することを可能にする。
【解決手段】ワイヤ鋸装置1は、ワイヤ2、ガイドローラ3A〜3C、フレーム4、モータ6、ワーク送り部5、センサ7A,7B、および、制御部8を備える。ガイドローラ3A〜3Cは、ワイヤ2が張架される。フレーム4は、ガイドローラ3A〜3Cを回転自在に保持する。モータ6は、設定された速度でワイヤ2を走行させる。ワーク送り部5は、ワイヤ2の側面に対して垂直な方向から、ワイヤ2の側面に向けてワーク50を送る。センサ7A,7Bは、ガイドローラ3B,3Cの位置に関する検出瞬時値を出力する。制御部8は、センサ7A,7Bから入力される検出瞬時値を解析し、検出瞬時値に生じる振動の振幅代表値を検知し、その振幅代表値を低減するようにワイヤ2が走行する速度を設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ワイヤを切削具として用いてワークを切削するワイヤ鋸装置、および、ワイヤ鋸装置でワークを切削する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ある種の電子部品は、未焼結セラミックブロックなどのワークから個別に切り出される。ワークを切削する工程に利用される加工機には様々な種類があり、ある種の加工機はワイヤ鋸装置である。ワイヤ鋸装置は走行するワイヤの側面にワークを押し当てることにより、ワークを切削する(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
一般的な構成を採用したワイヤ鋸装置は複数のガイドローラ、フレーム、ワイヤ、モータ、および、ワーク送り部を備える。フレームは、ガイドローラを規定の位置で回転自在に保持する。ワイヤは複数のガイドローラに張架される。モータは、ワイヤを走行させる。ワーク送り部は、走行するワイヤの側面に向けてワークを送る。
【0004】
このようなワイヤ鋸装置では、ワイヤに作用する切削力などによりフレームやガイドローラが撓む。また、ワイヤに生じる摩擦熱やモータに生じる発熱などによりフレームやガイドローラが熱膨張する。このためワークにおける規定の切断位置から、ガイドローラの回転軸に沿う方向にワイヤが逃げる(オフセットする)ことがある。これにより電子部品の寸法精度が劣化する恐れがある。
【0005】
そこで特許文献1に開示されたワイヤ鋸装置は、一般的なワイヤ鋸装置が備える構成に加えて、検出部と可動軸受と調整部とを備える。検出部は、ガイドローラの回転軸に沿う方向に生じるガイドローラのオフセット量を検出する第1のセンサと、ガイドローラの回転軸に沿う方向に生じるワーク送り部のオフセット量を検出する第2のセンサとを備える。可動軸受は、ガイドローラの回転軸に沿う方向に摺動自在にガイドローラを保持する。調整部は、ガイドローラを回転軸に沿う方向に押し、これによりガイドローラの回転軸に沿う方向に生じるワークとワイヤとの間のオフセットを補償する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3010426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
オフセットを補償する上記ワイヤ鋸装置では、可動軸受を付設することにより装置が低剛性にならざるを得ず、ワイヤが走行することに伴ってワイヤおよびガイドローラに生じる振動の振幅が増大し易い。これにより、ワークの切断面で平坦度などが劣化して、ワークの切断面品位が低下する問題が生じる。この問題は、調整部や可動軸受を設けない一般的な構成を採用したワイヤ鋸装置であっても、装置が低剛性であれば生じる。
【0008】
また、ワイヤおよびガイドローラに生じる振動は装置の各種設定によっても影響を受ける。仮に、ワイヤおよびガイドローラに生じる振動を最も抑制できる最適な設定が予め判明していれば、装置の初期設定を予め最適なものにしておくことが可能である。しかしながら、ワイヤの摩耗や各部の熱膨張などによってワークや装置の状態が遷移することで、ワイヤおよびガイドローラに生じる振動を最も抑制できる最適な設定は変化する。そのため、初期設定を予め最適化しておくことは困難である。
【0009】
そこで本発明の目的は、ワイヤおよびガイドローラに生じる振動を抑制することで切断面品位を高めてワークを切削することを可能にするワイヤ鋸装置、および、ワイヤ鋸装置でワークを切削する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明に係るワイヤ鋸装置は、ワイヤ、複数のガイドローラ、フレーム、モータ、ワーク送り部、センサ、および、制御部を備える。複数のガイドローラは、ワイヤが架設される。フレームは、複数のガイドローラを回転自在に保持する。モータは、設定された速度でワイヤを走行させる。ワーク送り部は、ワイヤの側面に対して垂直な方向から、ワイヤの側面に向けてワークを送る。センサは、ガイドローラの位置に関する検出瞬時値を出力する。制御部は、センサから入力される検出瞬時値を解析して検出瞬時値の振動における振幅代表値を検知し、その振幅代表値を低減するようにワイヤが走行する速度を設定する。
ここで、振幅代表値とは最大振幅やRMS振幅など振幅に関する解析値である。なお、最大振幅は、一定期間における振動のpeek to peek値に対する半値である。RMS振幅は、一定期間における振動の値を2乗した上で相加平均し平方根をとった値である。
ワイヤおよびガイドローラに生じる振動の振幅は、ワイヤが走行する速度やワークと装置との状態などに応じて変化する。そこで、このワイヤ鋸装置は、ガイドローラの位置に関する検出瞬時値に基づいて、制御部でワイヤが走行する速度を設定する。これにより、ワークと装置との状態が遷移しても、ガイドローラに生じる振動を抑制するのに適した速度に、ワイヤが走行する速度の設定を近づけることが可能になる。したがって、ワイヤに生じる振動を抑制してワークの切断面品位を改善することが可能になる。
【0011】
この発明に係るフレームは、ガイドローラの回転軸に沿う方向での摺動を禁止してガイドローラを保持すると好適である。
これにより、特許文献1のような摺動自在にガイドローラを保持する構成に比べて、ガイドローラとフレームとの接続剛性を高められる。したがって、ワイヤおよびガイドローラに生じる振動を抑制できる。その上、装置を簡易に構成することができ、設備費用を抑えられる。
【0012】
この発明に係る検出瞬時値は、ガイドローラに生じる振動に略比例する大きさで振動すると好適である。
ワークを送る際にワーク送り部でも振動が生じる。この振動が影響すると、検出瞬時値は、ガイドローラに生じる振動に略比例する大きさで振動しないことがある。このような検出瞬時値を用いて制御部でワイヤが走行する速度を設定しても、ガイドローラに生じる振動を抑制する効果は低い。そこで、ガイドローラに生じる振動に略比例する大きさで振動する検出瞬時値に基づいてワイヤが走行する速度を設定することで、ガイドローラに生じる振動を効果的に抑制できる。なお、ワーク送り部の振動についてセンサで検出しなくてもワイヤが走行する速度を適正に設定できるので、装置を簡易に構成することができ設備費用を抑えられる。
【0013】
この発明に係る検出瞬時値は、ガイドローラの回転軸に沿う方向でのガイドローラの位置に関すると好適である。
回転軸に沿う方向に生じるガイドローラの振動は、ワークの切断面品位に影響を与えやすい。その上、ガイドローラに生じる撓みによる影響を受けにくい。そこで、この検出瞬時値に基づいて制御部でワイヤが走行する速度を設定することで、回転軸に沿う方向に生じるガイドローラの振動を効果的に抑制できる。
【0014】
この発明に係るフレームは、複数のガイドローラを保持する第一壁部と、センサを保持する第二壁部と、第一壁部および第二壁部の間を連結して、床面に設置されるベースとを備え、センサは測定点での光の反射を利用する光センサであると好適である。
これにより、ガイドローラに生じる振動がセンサ本体に及びにくくなる。したがって、センサの信頼性が高まる。また、光センサは安価ながら、ガイドローラの位置を高精度かつ高分解能に検出できる。
【0015】
この発明に係る制御部は、検知した振幅代表値が閾値を超過する場合に、ワイヤが走行する速度の設定を変更すると好適である。
これにより、フィードバックを用いてワイヤが走行する速度を逐次変更する構成に比べて、制御系の発振や発散を抑制できる。したがって、制御系の発振や発散による影響を回避してワークの切断面品位が変動することを抑制できる。
【0016】
この発明に係るワイヤ鋸装置でワークを切削する方法では、まず、設定された速度でワイヤを走行させ、ワイヤの側面に向けてワークを送りながら、ワイヤを張架したガイドロールの位置に関する検出瞬時値を検出する。そして、検出瞬時値を解析して検出瞬時値の振動における振幅代表値を検知し、振幅代表値が閾値を超過するか判定し、超過する場合に、その振幅代表値を低減するようにワイヤが走行する速度を設定する。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、ワークと装置との状態が遷移しても、ガイドローラに生じる振動を抑制するのに適した速度に、ワイヤが走行する速度の設定を近づけることが可能になる。これにより、ワイヤに生じる振動を抑制して、ワークの切断面品位を改善することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るワイヤ鋸装置の構成を説明する図である。
【図2】図1に示すワイヤ鋸装置でワークを切削する動作を説明する図である。
【図3】図1に示すワイヤ鋸装置の備えるセンサの検出瞬時値の振動を例示する図である。
【図4】図1に示すワイヤ鋸装置の備えるセンサの検出瞬時値の振動を例示する図である。
【図5】図1に示すワイヤ鋸装置が備える制御部の概略構成を説明する図である。
【図6】図5に示す制御部の制御フローを説明する図である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係るワイヤ鋸装置の構成を説明する図である。
【図8】本発明の第3の実施形態に係るワイヤ鋸装置の構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、第1の実施形態に係るワイヤ鋸装置1を説明する。
図1(A)は、ワイヤ鋸装置1の概略の正面断面図であり、図1(B)はワイヤ鋸装置1の概略の側面断面図である。
ワイヤ鋸装置1はワイヤ2、ガイドローラ3A〜3C、フレーム4、ワーク送り部5、モータ6、センサ7A,7B、制御部8、テンション調整部9,10、および、終端ボビン11,12を備える。
【0020】
フレーム4は、背面板4A、底面板4B、および正面板4Cを備える。底面板4Bは本発明のベースであり床面に設置される。背面板4Aは本発明の第一壁部であり、底面板4Bの装置背面側の端部から立ち上がる。正面板4Cは本発明の第二壁部であり、底面板4Bの装置正面側の端部から立ち上がる。
【0021】
ワイヤ2は、有端線状であり、第一端が終端ボビン11に巻き取られ、第二端が終端ボビン12に巻き取られている。そして、第一端から第二端にかけて、終端ボビン11、テンション調整部9を構成する複数の中間ローラ、ガイドローラ3A〜3C、テンション調整部10を構成する複数の中間ローラ、終端ボビン12の順に張架される。ガイドローラ3A〜3Cに対しては、ワイヤ2は螺旋状に、ガイドローラ3A〜3Cを取り巻く外側を周回するように張架される。
【0022】
ワーク送り部5は、昇降自在に設けられ、装置底面側にワーク50を保持する。ワーク送り部5は、ガイドローラ3Aの直上であって、ワイヤ2のガイドローラ3B,3Cに張架された部位の中央上方に配置される。ワーク送り部5は上方から降下することで、保持するワーク50をワイヤ2の側面に対して垂直に、所定速度で送る。
【0023】
ガイドローラ3A〜3Cは、互いの回転軸が平行になるように背面板4Aの装置正面側に固定軸受けを介して取り付けられる。固定軸受けを利用することにより、可動軸受けを利用する場合よりも、フレーム4とガイドローラ3A〜3Cとの接続剛性を高められる。ガイドローラ3A〜3Cそれぞれは、複数の送り溝(不図示)を周面に備える。複数の送り溝は、互いに平行に周に沿って刻設される。各送り溝はワイヤ2が収められてワイヤ2の位置を規制する。ガイドローラ3A〜3Cは、逆二等辺三角形の頂点をなす位置に配置される。具体的には、ガイドローラ3Aは装置底面側に、ガイドローラ3Bは装置左側面側に、ガイドローラ3Cは装置右側面側に配置される。
【0024】
テンション調整部9,10は、ワイヤ2が張架される経路長を調整してワイヤ2のテンションを一定にする。
【0025】
終端ボビン11,12は、所定速度で正回転または逆回転するものであり、ワイヤ2を巻き取りまたは送出する。
【0026】
モータ6は、背面板4Aの装置背面側に取り付けられ、モータ6の回転軸はガイドローラ3Cに連結される。したがって、モータ6はガイドローラ3Cを直接駆動させる。また、ガイドローラ3A,3Bは走行するワイヤ2から作用する摩擦力により回転する。したがって、モータ6はガイドローラ3A,3Bを間接駆動させる。
【0027】
センサ7A,7Bは、正面板4Cの装置背面側に設けられる。モータなどの可動部を取り付けていない正面板4Cにセンサ7A,7Bを取り付けることにより、センサ7A,7Bに可動部の振動が及びにくくなる。センサ7Aはガイドローラ3Bの装置正面側の端面に対向して配置される。センサ7Bはガイドローラ3Cの装置正面側の端面に対向して配置される。これらのセンサ7A,7Bは光センサであって、ガイドローラ3B,3Cの端面での光の反射を用いて、ガイドローラ3B,3Cまでの距離を検出する。そして、回転軸に沿った方向でのガイドローラ3B,3Cに生じる振動に略比例する大きさで振動する検出瞬時値を出力する。
【0028】
制御部8は、センサ7A,7Bから検出瞬時値が入力される。制御部8は、これらの検出瞬時値を解析してそれぞれの振動の最大振幅を検知する。制御部8は、検知した最大振幅に基づいてワイヤ2が走行する速度についての設定速度を更新する。そして制御部8は、この設定速度を実現するモータ制御信号をモータ6に出力する。前記モータ6は、モータ制御信号に基づく回転速度でガイドローラ3Cを回転させる。これによりワイヤ2が設定速度で走行する。
なお、ここでは振幅代表値として最大振幅を利用する例を示しているが、振幅代表値として、RMS振幅など他の振幅に関する解析値を利用してもよい。また、振幅代表値として、複数のセンサそれぞれの出力に基づく解析値を足し合わせたり平均したりしたものを利用してもよく、一方のセンサの解析値のみを利用してもよい。
【0029】
以上の構成により、ワイヤ鋸装置1では、ガイドローラ3A〜3Cの振動を抑制する適切な速度でワイヤ2を走行させられる。ワイヤ鋸装置1の操業中にワイヤ2の摩耗や装置各部の熱膨張などが進行しても、ワイヤ鋸装置1の操業中にワイヤ2の設定速度を制御部8が更新することで、切断面品位を高めてワーク50を切断できる。
【0030】
次に、このワイヤ鋸装置1を用いてワーク50を切削する状態について説明する。
図2(A)は、ワイヤ鋸装置1でワーク50を切削する状態を説明する概略の斜視図である。
ワーク50は、主要層51と犠牲層52とを備える。主要層51は、目的とする電子部品を構成する部材である。犠牲層52はワーク送り部5に直接保持され、後に電子部品から削除される部材である。この犠牲層52は、ワイヤ鋸装置1を用いた切削工程において、主要層51を端部まで略均一な切断面で切削するために設けている。
ワーク送り部5はワーク50を保持し、ワーク50をワイヤ2の側面に対して垂直に送る。これによりワーク50は、走行するワイヤ2の側面に当接して切削される。
【0031】
図2(B)は、ワイヤ鋸装置1でワーク50を切削する状態の正面断面における概略の状態遷移図である。
本実施形態では、ワーク50の切削プロセスにおいて、モータを所定期間だけ正転させた後、ワイヤ2の走行およびワーク50の送りを停止させる。そして、ワイヤ2の走行方向を逆向きに変更するために、モータを逆転させてワイヤの走行を再開させるとともに、ワークの送りを再開させる。このように、ワーク50の切削プロセスにおいて、モータの正転と逆転とを繰り返し変更する。
【0032】
次に、本実施形態のワイヤ鋸装置1におけるセンサ7A,7Bが検出するデータの一例を説明する。
図3は、センサ7Bが出力する検出瞬時値を[mm]単位のガイドローラ3Cの変位量に換算したデータの振動を示すグラフを、ワイヤ2の設定速度ごとに例示した図である。
図4は、センサ7Aが出力する検出瞬時値を[mm]単位のガイドローラ3Bの変位量に換算したデータの振動を示すグラフを、ワイヤ2の設定速度ごとに例示した図である。
【0033】
ワイヤ2の設定速度が[0m/min]の場合にもデータ波形は振動する。このため、センサ7A,7Bが検出する値はノイズを含む。
【0034】
ガイドローラ3Cはモータ6に直接駆動され、ガイドローラ3Bはワイヤ2を介してモータ6に間接駆動される。このため、図3のデータ波形は、図4のデータ波形よりも振動が大きい傾向にある。
【0035】
また、モータ6の駆動を正転から逆転に反転した時、または、モータ6の駆動を逆転から正転に反転した時に、各グラフのデータ波形で瞬間的に振動が極大化する傾向がある。
さらに、モータを定常動作させている期間(定常期間)には、データ波形における振動の振幅が略一定になる傾向がある。
【0036】
また、定常期間におけるデータ波形の振動中心は、各周期でプラス側とマイナス側に交互にずれる傾向がある。これは、各ガイドローラ3A〜3Cの回転軸に対する垂直面から傾いてワイヤ2が各ガイドローラ3A〜3Cに巻き掛かり、ワイヤ2からガイドローラ3A〜3Cに作用する力が、回転軸に沿う方向の分力を持つためである。この分力は、モータの正転時と逆転時とで逆向きに作用し、データ波形の振動中心がプラス側とマイナス側に交互にずれることになる。
【0037】
ここで例示するデータ波形では、振動の大きさとワイヤ2の設定速度との間に特定の変動傾向が見られる。そして、データ波形の振動を抑制可能な、ワイヤ2の設定速度が存在することがわかる。例えば、この例では[900m/min]の設定が最適といえる。
【0038】
次に、制御部8による制御について説明する。
図5は、制御部8の概略構成を説明する図である。
制御部8は、入力ポート8A、出力ポート8B、CPU8C、およびメモリ8Dを備える。入力ポート8Aは、センサ7A,7Bを含む複数の外部装置に接続され、少なくとも検出瞬時値が入力される。出力ポート8Bは、モータ6を含む複数の外部装置に接続され、少なくともモータ制御信号を出力する。メモリ8Dは、各種プログラムデータを記憶している。また、閾値テーブル、検出瞬時値記憶エリア、および設定記憶エリアを備える。CPU8Cは、メモリ8Dから各種プログラムデータを読み出してプログラムを実行する。
検出瞬時値記憶エリアは、入力ポート8Aに入力される検出瞬時値のサンプリングデータを一定量累積記憶するメモリ領域である。設定記憶エリアは、出力ポート8Bに接続される各外部装置に設定する動作条件を記憶するメモリ領域である。閾値テーブルは、詳細を後述するがワイヤ2の設定速度を更新する更新処理の実行を行うか否かの判定に利用される閾値を、ワイヤ2の設定速度に関係づけて記憶するメモリ領域である。
【0039】
図6は制御部8による制御フローの一例を示す図である。
装置起動時に制御部8は、メモリ8Dの設定記憶エリアに初期値を記憶させる(S1)。ワイヤ2が走行する速度の初期値として、例えば[500m/min]を採用する。
【0040】
制御部8は、メモリ8Dの設定記憶エリアに記憶された設定速度の情報に基づいてワイヤ2が走行するようにモータ6の回転速度を制御しながら、ワーク送り部5を作動させる。これにより、ワイヤ2が設定速度で走行し、ワーク50の切削が進展する。制御部8は、ワーク50の切削が進展するのに伴ってセンサ7A,7Bから入力される検出瞬時値をサンプリングし、メモリ8Dの検出瞬時値記憶エリアに記憶させる(S2)。
【0041】
所定期間が経過した後に制御部8は、ワーク送り部5とモータ6とを停止させ、メモリ8Dの設定記憶エリア内の、モータ6の回転方向に関する情報を書き換える(S3)。
【0042】
ワーク送り部5およびモータ6を停止させた後に制御部8は、ワーク50の送り量が所定距離に達したかの判定を行い、所定距離に達していれば、そのワーク50の切削を終了する(S4)。ワーク50の送り量はメモリ8Dに更新記憶するようにしておくと好適である。
【0043】
ワーク50の送り量が所定距離に達していなければ制御部8は、上述の所定期間においてメモリ8Dの検出瞬時値記憶エリアに記憶したサンプリングデータを解析して振幅代表値を検知する(S5)。
【0044】
振幅代表値を検知した後に制御部8は、そのときのワイヤ2の設定速度に関係づけてメモリ8Dの閾値テーブルに記憶された閾値を読み出し、その閾値を振幅代表値が超過するかの判定を行う。振幅代表値が閾値を超過していなければ、再びワーク送り部5とモータ6とを作動させる(S6→S2)。
【0045】
振幅代表値が閾値を超過していれば制御部8は、ワイヤ2の設定速度の更新処理を行い、メモリ8Dの設定記憶エリア内の設定速度に関する情報を更新する。そして、再びワーク送り部5とモータ6とを作動させる(S7→S2)。
【0046】
以上の制御フローでは、閾値を用いて更新処理の実行を行うか否かの判定(S6)を行うので、フィードバックを用いて更新処理をリアルタイムに実行する構成に比べて、制御系の発振や発散を抑制できる。したがって、制御系の発振や発散による影響を回避してワークの切断面品位が変動することを抑制できる。
【0047】
なお、ここでは所定期間の経過の度に、判定(S6)を行う例を示したが、所定期間が複数回経過した後で判定(S6)を行ってもよい。また、ワークを切断する最中でなくワークの切断後に判定(S6)を行ってもよい。また、複数のワークの切断後に判定(S6)を行ってもよい。
【0048】
また、更新処理(S7)には、どのような最適化手法を採用してもよい。例えば、装置起動時などに予め検出瞬時値の振幅代表値の変動傾向を判定しておき、その変動傾向にしたがって加減算を選択し、設定速度を所定の刻み幅、例えば[100m/min]で変更するようにしてもよい。
また、例えば以前の検出瞬時値の検出結果に基づいて振幅代表値の変動傾向を判定し、その変動傾向にしたがって加減算を選択し、設定速度を所定の刻み幅で変更するようにしてもよい。
また、例えば更新処理(S7)において、設定速度を実際に変更しながらワークの切削テストを実施し、最も振幅代表値が低減される速度を選択するようにしてもよい。
他にも、線形計画法やAIの公知の最適化手段を用いて更新処理(S7)を行い、振幅代表値が低減される速度を探索して設定するようにしてもよい。
【0049】
また、メモリ8Dの閾値テーブルについて、閾値を初期値のまま更新せずに利用してもよい。この場合、例えばワークの寸法公差を考慮して閾値を予め設定しておくと好適である。また、操業中に閾値を更新するようにしてもよい。例えば、閾値を以前に検知した振幅代表値に更新すれば、新たに検知する検出瞬時値がワークや装置の状態遷移や外乱などによって増大したものであれば、更新処理(S7)が速やかに実行される。すると、設定速度が最適解ではない局所解に陥っていた場合にも最適解の再探索が行われやすくなり、設定速度が最適解になりやすくなる。
【0050】
以下に、第2の実施形態に係るワイヤ鋸装置21を説明する。ここでは第1の実施形態と同様な構成に同じ符号を付し、説明を省く。
【0051】
図7は、ワイヤ鋸装置21の概略の側面断面図である。
ワイヤ鋸装置21は、第1の実施形態のセンサ7A,7Bに替えて、センサ27A(不図示)とセンサ27Bとを備える。
センサ27A(不図示)とセンサ27Bとは、ガイドローラ3B(不図示)とガイドローラ3Cの装置正面側の端面に設けられる。センサ27A(不図示)とセンサ27Bとは加速度検知素子であって、ガイドローラ3B(不図示)とガイドローラ3Cの所定方向の加速度を検出する。これらガイドローラ3B(不図示)とガイドローラ3Cの加速度は、ガイドローラ3B(不図示)とガイドローラ3Cの変位に合わせて振動する。なお、加速度を検出する方向については、ガイドローラの回転軸に沿う方向に限らず、鉛直方向や水平方向、それらの合成方向であってもよい。いずれの方向の振動も、ワイヤ2の走行する速度に対して類似の変動傾向を示すことがあるので、センサ27A(不図示)とセンサ27Bとが検出する加速度の振動を抑制することで、その振動の方向性によらずに、ワークの切断面品位を高めることが可能になる。
【0052】
以下に、第3の実施形態に係るワイヤ鋸装置31を説明する。ここでは第1の実施形態と同様な構成に同じ符号を付し、説明を省く。
【0053】
図8は、ワイヤ鋸装置31の概略の側面断面図である。
ワイヤ鋸装置31は、第1の実施形態の構成に加えて、オフセット調整部32A(不図示)とオフセット調整部32Bとを備える。なお、ガイドローラ3Cは、背面板4Aに可動軸受けを介して取り付けられるものとし、オフセット調整部32Bのリンク機構を介して正面板4Cに取り付けられる。図示していないガイドローラ3Bも同様に、背面板4Aに可動軸受けを介して取り付けられものとし、オフセット調整部32A(不図示)のリンク機構を介して正面板4Cに取り付けられる。
【0054】
この構成では、制御部8が、ガイドローラ3B(不図示)とガイドローラ3Cの回転軸に沿った方向のオフセットを補償するように、センサの出力に基づいてオフセット調整部32A(不図示)とオフセット調整部32Bとを制御する。オフセット調整部32A(不図示)とオフセット調整部32Bとは制御部8からの制御信号に従って、リンク機構のリンク角を調整し、これにより、ガイドローラ3B(不図示)とガイドローラ3Cの回転軸に沿った方向のオフセットを補償する。
このような構成であっても、センサ出力に基づいて制御部8がワイヤ2の設定速度を適正に更新することで、ガイドローラ3B(不図示)とガイドローラ3Cとの振動を抑制することが可能である。
【符号の説明】
【0055】
1,21,31…ワイヤ鋸装置
2…ワイヤ
3A〜3C…ガイドローラ
4…フレーム
4A…背面板
4B…底面板
4C…正面板
5…送り部
6…モータ
7A,7B…センサ
8…制御部
8A…入力ポート
8B…出力ポート
8C…CPU
8D…メモリ
9,10…テンション調整部
11,12…終端ボビン
50…ワーク
51…主要層
52…犠牲層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤ、
前記ワイヤが張架される複数のガイドローラ、
前記複数のガイドローラを回転自在に保持するフレーム、
設定された速度で前記ワイヤを走行させるモータ、
前記ワイヤの側面に対して垂直な方向から、前記ワイヤの側面に向けてワークを送るワーク送り部、
少なくともいずれかの前記ガイドローラの位置に関する検出瞬時値を出力するセンサ、および、
前記センサから入力される前記検出瞬時値を解析して前記検出瞬時値の振動における振幅代表値を検知し、その振幅代表値を低減するように前記ワイヤが走行する速度を設定する制御部、を備えるワイヤ鋸装置。
【請求項2】
前記フレームは、前記ガイドローラの回転軸に沿う方向での摺動を禁止して前記ガイドローラを保持する、請求項1に記載のワイヤ鋸装置。
【請求項3】
前記検出瞬時値は、前記ガイドローラに生じる振動に略比例する大きさで振動する、請求項1または2に記載のワイヤ鋸装置。
【請求項4】
前記検出瞬時値は、前記ガイドローラの回転軸に沿う方向での前記ガイドローラの位置に関する、請求項1〜3のいずれかに記載のワイヤ鋸装置。
【請求項5】
前記フレームは、前記複数のガイドローラを保持する第一壁部と、前記センサを保持する第二壁部と、前記第一壁部および前記第二壁部を連結して、床面に設置されるベースとを備え、
前記センサは、測定点での光の反射を利用する光センサである、請求項1〜4のいずれかに記載のワイヤ鋸装置。
【請求項6】
前記制御部は、検知した前記振幅代表値が閾値を超過する場合に、前記ワイヤが走行する速度の設定を変更する、請求項1〜5のいずれかに記載のワイヤ鋸装置。
【請求項7】
設定された速度でワイヤを走行させ、前記ワイヤの側面に向けてワークを送りながら、前記ワイヤを張架したガイドローラの位置に関する検出瞬時値を検出するステップと、
前記検出瞬時値を解析して、前記検出瞬時値の振動における振幅代表値を検知し、前記振幅代表値が閾値を超過するか判定し、超過する場合に、その振幅代表値を低減するようにワイヤが走行する速度を設定するステップと、
を有する、ワイヤ鋸装置でワークを切削する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−260130(P2010−260130A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−112413(P2009−112413)
【出願日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】