説明

ワックスサスペンションの製造方法

【課題】高圧乳化分散機を使用して、小粒径のワックスサスペンションを安定して製造する方法に関する。また、本発明は、高い画像濃度や優れたトナー定着性を有する電子写真用トナーの製造に用いられるワックスサスペンションの製造方法に関する。
【解決手段】ワックス、乳化剤及び水を混合し、該ワックスの融点以上の温度で乳化して粗ワックスエマルションを調製する工程(工程1)、工程1で得られた粗ワックスエマルションを急冷し、粗ワックスサスペンションを得る工程(工程2)、
工程2で得られた粗ワックスサスペンションの温度をワックスの融点以上に加熱して、高圧乳化分散機の高圧分散部に導入する工程(工程3)、上記高圧乳化分散機で高圧乳化してワックス分散物を調製する工程(工程4)、及び工程4で得られたワックス分散物を冷却してワックスサスペンションを調製する工程(工程5)を含むワックスサスペンションの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワックスサスペンションの製造方法、及び該ワックスサスペンションを用いて得られる電子写真用トナーに関する。
【背景技術】
【0002】
ワックスサスペンションは、艶出し剤、撥水剤、防錆剤、及び電子情報材料の離型剤等を始めとして、様々な分野で種々の用途に使用されている。
その中でも電子写真用トナーの離型剤として好適に使用されるワックスサスペンションは、主に紙上に熱転写させる際の熱転写ロールの離型用途に使用される。電子写真用トナー粒子は、通常、混練粉砕法やボトムアップ凝集法等によって製造される。近年では粒子の形状及び表面組成を意図的に制御したトナーを製造する手段として、乳化重合凝集法等に代表されるボトムアップ凝集法を用いたトナーの製造方法が多く提案されている。ボトムアップ凝集法とは、顔料を含んだナノオーダーの樹脂分散液を作成し、トナー粒径に相当する凝集粒子を形成する凝集工程と、該凝集粒子を加熱することによって融合する融合工程とを含む方法である。このボトムアップ凝集法によると、加熱温度条件を選択することにより、トナー形状を不定形から球形まで任意に制御することができる。また、凝集工程においてワックス乳化液を添加することにより容易にトナー中へワックス粒子を内添することが可能である。
【0003】
しかし、ボトムアップ凝集法においてワックスサスペンションを内添しようとすると、ワックスの粒子径をナノオーダーに調整する必要がある。すなわち、ワックスの粒子径が大きすぎるとトナー表面へ露出して熱や圧力によって粉体特性が悪化するばかりでなく、凝集工程で凝集粒子中に内包されない、あるいは融着工程でワックス粒子が脱落してしまうなどの問題が生じる。
そこで、ナノオーダーのワックスサスペンションを調製する為に高圧乳化分散機が用いられてきた。
【0004】
しかしながら、高圧乳化分散機を用いてワックスサスペンションを製造する場合、乳化処理前のワックス粒子径を高圧乳化分散機の高圧分散部、及び逆止弁の流路径以下とする必要があり、そのための方法として大きく2通りの方法が知られている。すなわち、(i)特許文献1に開示されているような、ワックスを完全に加熱溶融させた状態で高圧乳化分散機で処理を行う方法、(ii)特許文献2に開示されているように、予めワックス混合液を高速攪拌機等(例えばPRIMIX(株)製ディスパー、ホモミキサー等)にて予備乳化処理を行い、ワックス粒子径を高圧乳化分散機の高圧分散部、及び逆止弁の流路径以下としたサスペンションを用いて高圧乳化分散機による処理を行う方法である。
上記(i)の方法では、高圧乳化分散機の受器から高圧分散部に至るまでの流路すべてにおいてワックスの固化を防止するため、加熱・保温措置をとる必要がある。もしこの措置が不十分であると加熱溶融しているワックスエマルションが部分的に固化してしまうなど、取扱いが非常に困難となる。また、仮に加熱が十分であったとしても、乳化剤量が少ない場合には高圧分散部に至るまでの流路内でワックスエマルションが分離する場合があり、水相と油相が上手くフィードされずに安定な乳化に影響を与えることがある。また、高圧機器であるが故に、常に機器を高温に維持しておくと投入部付近のメカニカルシール部分の劣化を早めることも考えられる。このように、(i)の方法は、特に商用設備を考えた場合、長期に安定な生産を行うには、依然として課題があった。
一方、上記(ii)の方法においては、乳化剤の代わりに塩基性物質を使用する必要があり、その為、ワックスサスペンションに塩基性物質が残留する。このようなワックスサスペンションを用いて、例えばトナーをボトムアップ凝集法で調製した場合、トナー樹脂の帯電性に影響を及ぼし、凝集の制御が困難になる。また、塩基性物質を含むワックスサスペンションを使用して調製したトナーは、電子写真用としての性能、特に画像濃度やトナー定着性にも影響を及ぼすことがある。
【0005】
【特許文献1】特開2007−52294号公報
【特許文献2】特開2003−147088号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、高圧乳化分散機を使用して、小粒径のワックスサスペンションを安定して製造する方法に関する。また、本発明は、高い画像濃度や優れたトナー定着性を有する電子写真用トナーの製造に用いられるワックスサスペンションの製造方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
(1)次の工程を含むワックスサスペンションの製造方法。
工程1:ワックス、乳化剤及び水を混合し、該ワックスの融点以上の温度で乳化して粗ワックスエマルションを調製する工程
工程2:工程1で得られた粗ワックスエマルションを急冷し、粗ワックスサスペンションを得る工程
工程3:工程2で得られた粗ワックスサスペンションの温度をワックスの融点以上に加熱して、高圧乳化分散機の高圧分散部に導入する工程
工程4:上記高圧乳化分散機で高圧乳化してワックス分散物を調製する工程
工程5:工程4で得られたワックス分散物を冷却してワックスサスペンションを調製する工程、及び
【0008】
(2)上記(1)記載の製造方法により得られるワックスサスペンションを用いて製造される電子写真用トナー、
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によれば、高圧乳化分散機を使用して、小粒径のワックスサスペンションを安定して製造することができる。また本発明の製造方法により得られるにワックスサスペンションを用いることで、高い画像濃度や優れたトナー定着性を有する電子写真用トナーを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明では、ワックスサスペンションを調製する際、予めワックスを融点以上に加熱し、高速攪拌機等を使用して乳化して得られた粗ワックスエマルションを一旦凝固点以下程度まで急冷することで粗ワックスサスペンションを調製し、その粗ワックスサスペンションを再度加熱した後、高圧乳化分散機で処理し、次いで冷却することでワックスサスペンションを得る製造方法を見出した。つまり、一旦粗ワックスエマルションを凝固点以下、例えば室温程度にまで冷却させ粗ワックスサスペンションの状態にすることでワックス粒子の凝集等を抑制され、高圧乳化分散機でのハンドリング性が向上し、加温設備等の設備、ユーティリティ負荷を著しく低減することが可能となった。
【0011】
[ワックスサスペンションの製造方法]
本発明のワックスサスペンションは、上記工程1〜5を有するものである。以下、各工程について詳述する。
なお、本発明で「エマルション」とは、液体中に液体粒子がコロイド粒子あるいはそれよりも粗大な粒子として均一に分散して乳状をなしている分散液を指す。また、「サスペンション」とは、液体中にコロイド粒子または顕微鏡で見える程度の粒子として固体粒子が均一に分散した分散液を指す。
【0012】
(工程1)
工程1は、ワックス、乳化剤及び水を混合し、該ワックスの融点以上の温度で乳化して粗ワックスエマルションを調製する工程である。
本発明において使用できるワックスには特に制限はないが、融点が70〜120℃、好ましくは70〜100℃、より好ましくは75〜98℃のワックスが好ましい。融点が70℃以上であれば、トナー中からのワックスの流出を防止でき好ましい。また、融点が120℃以下であれば、紙上へトナーを熱定着させる際に、トナーの熱ロールからの脱離不良を防止でき、ワックス添加効果が優位に発現する。なお、ワックスの融点は、示差走査熱量計を用いて測定することができる。
【0013】
使用出来るワックスの具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等の低分子量ポリオレフィン類;シリコーン類、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、リシノール酸アミド、ステアリン酸アミド等のような脂肪酸アミド類;カルナウバワックス、ライスワックス、キャンデリラワックス、木蝋、ホホバ油等のような植物系ワックス;蜜蝋等の動物系ワックス;モンタンワックス、オゾケライト、セレシン、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、フィッシャートロプシュワックス等のような鉱物系、石油系のワックス、及びそれらの変性物などを挙げることが出来る。
特に、カルナウバワックス、キャンデリラワックス、パラフィンワックス及び低分子量ポリオレフィン類は、トナーの凝集粒子形成工程において他の微粒子との均一性に優れており好適に用いられる。尚、上記ワックスは1種類で使用してもよいが、2種以上のワックスを任意の割合で組み合わせて使用することもできる。
【0014】
ワックスの配合量は、ワックスサスペンション中、好ましくは5〜25質量%、より好ましくは10〜25質量%、更に好ましくは15〜20質量%である。ワックス配合量が5質量%以上であれば、不必要に水量が増加しないため、トナー調製時にボトムアップ凝集法を採用する場合に生産効率の点で有利である。一方、25質量%以下であれば、粗ワックスエマルション、及び粗ワックスサスペンション調製時においてワックス同士の凝集、合一が抑制され好ましい。
【0015】
使用しうる乳化剤としては特に制限は無いが、例えばC8〜C22のポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム、アルキル硫酸塩、アルケニルコハク酸ジカリウム、C8〜C22の脂肪酸ナトリウム等が好適に用いられる。また、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノパルミテート、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシルエチルセルロース、シュガーエステル(三菱化学フーズ(株)製)等も用いることができる。これらの乳化剤は1種で使用してもよいが、2種以上組み合わせて使用しても良い。これらの中で、分散安定性の点からC8〜C22のポリオキシエチレンアルキルエーテル、アルケニルコハク酸ジカリウム、C8〜C22の脂肪酸ナトリウムを用いることが好ましい。
【0016】
上記の乳化剤の配合量は、ワックス固形分100質量部に対し1〜3質量部、好ましくは1〜2質量部、更に好ましくは1〜1.5質量部である。乳化剤配合量が1質量部以上であれば、粗ワックスエマルションを調製する段階で安定した分散液が得られ好ましい。一方、3質量部以下であれば、トナー調製時にボトムアップ凝集法を採用する場合でも、樹脂粒子同士の凝集を阻害することがなく好ましい。
【0017】
ワックス、乳化剤及び水を混合する際、その添加方法、順序に特に制限はない。好適にはあらかじめイオン交換水等の水に乳化剤を溶解させ乳化剤水溶液とし、ワックス粉末を乳化剤水溶液中に添加し、全体を馴染ませる。その後、使用するワックスの融点以上の温度で加熱することでワックスを融解させる。
上記のように調製したワックス−乳化剤混合溶液を、例えば高速攪拌機で乳化し、粗ワックスエマルションを得る。
【0018】
この工程で使用できる高速攪拌機に特に制限はないが、例えば、ホモミキサー、ディスパー(PRIMIX社製)、クリアミクス(M−テクニック社製)、キャビトロン(大平洋機工社製)等が使用できる。尚、ディスパーを使用する場合には、全体が均一に混合されている状態において5分以上攪拌を行うことが好ましい。
工程1は、後述の工程4における高圧乳化に対してその前処理としての予備乳化を行う工程である。よって、略均一なエマルションが得られれば良く、上記機器を用いれば容易に所望のエマルションを得ることができる。得られた粗ワックスエマルションの粒径は工程2のサスペンション粒径から推察でき、少なくとも後の工程3、4で用いる高圧乳化分散機の流路径以下にすることが好ましい。
【0019】
(工程2)
工程2は、工程1で得られた粗ワックスエマルションを急冷し、粗ワックスサスペンションを得る工程である。
粗ワックスエマルションを急冷する方法は特に制限されるものではないが、大きな冷却速度を得る為に粗ワックスエマルションを減圧下で噴霧したり、薄膜状にして冷却する方法が好ましい。具体的には、予め氷水につけたステンレス容器を用意しておき、工程1で調製した粗ワックスエマルションをステンレス容器内壁に沿わせて薄膜にして徐々に添加することで調製することができる。工業的には、例えば上部に回転盤を備えたベッセルのジャケットに冷却水を流し、工程1で調製した粗エマルションを回転盤に供給して、遠心力によってベッセル壁に付着させ、冷却したベッセルの壁面に粗エマルションの薄膜を形成して冷却する方法等で調製することができる。
【0020】
ワックス粗エマルションを冷却する際の目標の温度は、ワックスの凝固点以下であれば良いが、粗ワックスサスペンションの安定性の観点から20〜60℃、より好ましくは25〜50℃、更に好ましくは30〜40℃である。本発明において、粗ワックスエマルションの急冷とは、粗ワックスエマルションを、好ましくは10℃/min以上、より好ましくは10〜20℃/min、より好ましくは11〜18℃/min、更に好ましくは12〜15℃/minの速度で冷却することで粗ワックスサスペンションを得る操作を指す。冷却速度が上記範囲内であれば、ワックス粒子の凝集、合一が起こりにくく、また設備的な負荷も小さく好ましい。
【0021】
このようにして得られた粗ワックスサスペンションは、粗ワックスエマルションの場合に比較して粒子の合一を起こさない安定で均一な分散体である。尚、粗ワックスサスペンションの体積中位径は、好ましくは1〜30μm、より好ましくは1〜20μm、更に好ましくは1〜15μmである。粗ワックスルサスペンションの粒子径測定は、後述する体積中位径測定方法に従って行った。ここで、体積中位径とは、体積分率で計算した累積体積頻度が粒径の小さい方から計算して50%になる粒径を意味する。
【0022】
(工程3)
工程3は、工程2で得られた粗ワックスサスペンションの温度をワックスの融点以上に加熱して、高圧乳化分散機の高圧分散部に導入する工程である。
工程2で不安定なエマルションをサスペンションにしたことにより、高圧乳化分散機内での取扱い性が著しく向上し、供給受器や流路内での油水分離を抑制できる。しかし、仮にサスペンションのまま高圧分散機で高圧分散処理を行おうとすると、ワックスが固体である為に十分に小粒径とならず、所望のワックスサスペンションが得られない。その為、本発明では高圧分散部内で高圧処理を行う前に流路内の粗ワックスサスペンションを再加熱する。
【0023】
粗ワックスサスペンションをワックスの融点以上の温度にする方法は特に限定されないが、工程2において粗ワックスサスペンションを得た後、高圧乳化分散機の高圧分散部に至る流路の少なくとも一部、必要であれば全部の温度をワックスの融点以上とする方法が好ましい。具体的には、上記流路を、ジャケットや加熱媒体により内外から加熱する方法、温水等を粗ワックスサスペンションに添加する方法、赤外線やマイクロ波、誘導加熱等によって昇温する方法等が挙げられる。この中で、特に加熱したシリコーン等のオイルや温水などの熱媒体中に高圧乳化分散機の流路を浸漬する方法が簡便で好ましい。この際の熱媒体の温度はワックスの融点よりも5〜30℃、好ましくは10〜25℃、更に好ましくは15〜20℃程度高く設定しておくことが好ましい。また、高圧分散処理を行う高圧分散部の直前で流路を加熱することが好ましい。
【0024】
粗ワックスサスペンションの加熱開始から高圧分散までの時間(T)は、粗ワックスサスペンションに充分な熱量を与える観点から0.1秒以上が好ましく、0.5秒以上がより好ましく、1秒以上が更に好ましい。また、油水の分離を抑制する観点から6000秒以下が好ましく、600秒以下がより好ましく、60秒以下が更に好ましい。この時間Tは高圧分散機への粗ワックスサスペンションフィード量で調整することができる。
【0025】
(工程4)
工程4は、高圧乳化分散機の高圧分散部で高圧乳化してワックス分散物を調製する工程である。
使用できる高圧乳化分散機に特に制限はないが、取扱い操作の簡便性の観点から、マイクロフルイダイザー(みづほ工業社製)、アルティマイザー(スギノマシン社製)、ナノマイザー(吉田機械興業社製)等が好ましく挙げられる。該分散機の高圧分散部としては、例えば対向衝突型、貫通型等のいずれの方式も用いられるが特に限定はされない。
【0026】
粗ワックスエマルションを高圧乳化する際の圧力は、好ましくは5〜200MPa、より好ましくは10〜200MPa、更に好ましくは20〜150MPaである。圧力が上記範囲内にあれば、十分に小さい体積中位径が達成でき、安定なワックス分散物が得られる。また、設備的、エネルギー的にも有利である。処理回数については、上記処理圧力及び得られるワックスエマルションの粒子径等に応じて適宜選択できるが、好ましくは1〜10回であり、より好ましくは1〜5回である。
得られたワックス分散物の粒径は、工程5で得られるサスペンション粒径から推察することができ、工程1で得られる粗ワックスエマルションとはその体積中位径で区別される。
【0027】
(工程5)
工程5は工程4で得られたワックス分散物を冷却してワックスサスペンションを調製する工程である。
この工程における冷却の方法は特に限定されないが、管の内外より冷却する方法、冷水を直接分散物に添加する方法のいずれも可能である。また粒子径が1μm以下の分散物は通常安定である為、一度分散物を容器に受け、その後攪拌下にジャケット等で冷却する方法も可能である。
尚、本発明においては、工程3〜5は、所望の体積中位径のサスペンションが得られるまで任意の回数を繰り返し行うことができる。
【0028】
本発明で得られるワックスサスペンションの体積中位径は、好ましくは1μm以下であり、より好ましくは0.1〜1.0μm、より好ましくは0.2〜0.8μm、更に好ましくは0.3〜0.6μmである。ワックスサスペンションの体積中位径が1μm以下であれば、例えばトナー用途としてボトムアップ凝集法に用いた場合、これと樹脂分散体との凝集工程で凝集粒子中にワックスが内包され、ワックスが表面に露出することなく、熱や圧力に対するトナーとしての粉体特性が良好となる。また、融着工程におけるワックス粒子の脱落を防止することができる。一方、0.1μm以上であると、トナーに用いた場合、定着性の向上効果が発現し易くなる。
【0029】
本発明の製造方法における各工程で得られた粗ワックスサスペンション及びワックスサスペンションの体積中位径は、HORIBA社製LA−920を用いて下記条件下で測定した値を採用した。
・水に対する相対屈折率:1.2
・循環速度:5
・超音波:なし
【0030】
[電子写真用トナー]
本発明の電子写真用トナーは、上記製造方法により得られたワックスサスペンションを用いて得られるものである。このような電子写真用トナーは、混練粉砕法及びボトムアップ凝集法等のいずれの方法によっても製造することができるが、トナー形状を任意に制御することができ、また小粒径のトナー粒子が得られる観点から、ボトムアップ凝集法により得られるトナーが好ましく、より好ましくは、乳化凝集法を用いて得られたトナーである。ボトムアップ凝集法は、顔料を含んだナノオーダーの樹脂分散液を調製し、トナー粒径に相当する凝集粒子を形成する凝集工程と、該凝集粒子を加熱することによって融合する合一工程とを含む方法であることが好ましい。
【0031】
乳化凝集法としては、例えば、ポリエステル等の酸基を有する樹脂を、塩基性水性媒体中において、好ましくは前記樹脂の軟化点未満の温度で分散させる工程、得られた分散液を、好ましくは前記樹脂のガラス転移点以上かつ軟化点以下の温度で中和する工程、及び中和された分散液に水性液を添加して水性媒体中で該樹脂を乳化する工程を有する方法により製造される樹脂乳化液を用い、これを凝集及び合一してトナーを製造する方法が好ましい。
上記乳化凝集法においては、本発明の製造方法により得られたワックスサスペンションを、通常上記凝集工程において、必要に応じ凝集剤の存在下、樹脂乳化液に添加する。
ワックスサスペンションは、樹脂乳化液中の樹脂100質量部に対して、ワックス固形分として通常1〜20質量部程度、好ましくは2〜15質量部となるような割合で配合することが好ましい。
【実施例】
【0032】
以下に実施例等により、本発明を更に具体的に説明する。
実施例1
(工程1)
2Lガラスビーカーにイオン交換水480g、乳化剤としてアルケニルコハク酸ジカリウム水溶液(花王社製ラテムルASK;固形分濃度28%)を4.28g添加し、手で攪拌し均一溶液とした。その溶液にカルナウバワックス(加藤洋興社製;ワックスC1、融点:85℃)粉末を120g添加し、ワックス粉末を水溶液に馴染ませるように手攪拌にて分散させた。ワックスの融点は示差走査熱量計(セイコー電子工業社製 DSC210)を用いて測定し、20℃から昇温速度10℃/分で測定し、最大ピーク温度を融点とする。(以下の実施例においても同様)。
その分散液をスターラーにて軽く攪拌を行いながらオイルバスにて90℃〜95℃に温度を保持しながらワックス粉末を完全に融解させた。その状態で卓上ディスパー(特殊機化社製;現PRIMIX)を用い、6000rpmで5分攪拌した。
(工程2)
得られた粗ワックスエマルションを冷却させるべく、予め別途氷水(3℃)を入れた5Lビーカー内に3Lのステンレスビーカーを用意しておき、粗ワックスエマルションを内壁に沿わせて添加し、冷却した。90℃の粗ワックスエマルションを4.5分で32℃まで冷却させた。冷却速度は12.9℃/minであった。
得られた粗ワックスサスペンションの体積中位径は10.9μmであった。
【0033】
(工程3、工程4)
得られた粗ワックスサスペンションを高圧乳化分散機(吉田機械興業社製ナノマイザー、型番:NM2−L200AR−D)の供給受器に仕込み、高圧分散部への流路に100℃に設定したシリコーンバスを設置することで粗ワックスサスペンションを加熱し、高圧乳化分散部にて、圧力100MPa、流量(Q)4L/hrで分散処理を行った。
高圧分散部への流路の配管の内径は2.11mm、シリコーンバス内の配管及びシリコーンバス出口から高圧分散部入口までの長さの合計は350cmであった。従って、加熱開始部から高圧分散部入口までの配管内容量(V)は12.2mLであった。これから粗ワックスサスペンションの加熱が開始されてから高圧分散部入口に達するまでの時間Tは、VをQで除して11秒と計算された。
(工程5)
次いで、外側に水道水が流れている2重管で処理液を冷却し、ワックスサスペンションを得た。こうして得られたワックスサスペンションの体積中位径は0.330μmであった。
【0034】
実施例2
工程2において、粗ワックスエマルションを冷却する際の冷却媒体を氷水から水道水(18℃)に変更した以外は実施例1に準じて、体積中位径18.2μmの粗ワックスサスペンションの調製を行った。
得られた粗ワックスサスペンションを用い、工程4における高圧乳化分散機の処理を圧力200MPa、流量(Q)6L/hrにて5回繰り返した以外は、実施例1と同じ条件で、ワックスサスペンションを調製した。実施例1と同様の計算により、粗ワックスサスペンションの加熱が開始されてから高圧分散部入口に達するまでの時間Tは7.3秒と計算された。得られたワックスサスペンションの体積中位径は0.130μmであった。
【0035】
実施例3
工程1において、使用する乳化剤を脂肪酸ナトリウム(花王社製SS−40N;有効分濃度87%)に変更した以外は実施例1と同様にして、体積中位径13.6μmの粗ワックスサスペンションを調製した。その後、実施例2と同様にして高圧乳化分散を行った。得られたワックスサスペンションの体積中位径は0.145μmであった。
【0036】
実施例4
工程1において、ワックスをカルナウバワックスからパラフィンワックス(HNP−9;日本精蝋社製、融点:77℃)に変更した以外は実施例1と同様にして、体積中位径12.7μmの粗ワックスサスペンションを得た。得られた粗ワックスサスペンションを用い、工程3における高圧分散部への流路に95℃に設定したシリコーンバスを設置し、工程4における高圧乳化分散機の処理を圧力10MPa、流量(Q)2L/hrにて7回繰り返した以外は、実施例1と同様にしてワックスサスペンションを調製した。実施例1と同様の計算により、粗ワックスサスペンションの加熱が開始されてから高圧分散部入口に達するまでの時間Tは22秒と計算された。得られたサスペンションの体積中位径は0.590μmであった。
【0037】
比較例1
実施例1と同様にして粗ワックスエマルションを調製した(工程1)のち、冷媒に温水(40℃)を使用して冷却を行った。その際の冷却速度は8.7℃/minであった(工程2)。
その結果、冷却する際にワックス粒子同士の合一が顕著に起こり、均一な粗サスペンションが得られなかった。そのため、その後の高圧乳化分散機で処理することができなかった。
【0038】
【表1】

【0039】
製造例1(ポリエステル樹脂Aの製造)
ポリオキシプロピレン(2.2)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン8320g、ポリオキシエチレン(2.0)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン80g、テレフタル酸1592g及びジブチル錫オキサイド(エステル化触媒)32gを窒素雰囲気下、常圧下230℃で5時間反応させ、更に減圧下で反応させた。210℃に冷却し、フマル酸1672g、ハイドロキノン8gを加え、5時間反応させた後に、更に減圧下で反応させて、ポリエステル樹脂Aを得た。ポリエステル樹脂Aの軟化点は110℃、ガラス転移点は66℃、数平均分子量は3760であった。樹脂の軟化点は、フローテスター(島津製作所、「CFT−500D」)を用いて測定し、ガラス転移点は、示差走査熱量計(セイコー電子工業社製、DSC210)を用いて測定した。また、数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより分子量分布を測定し算出した。
【0040】
製造例2(ポリエステル樹脂Bの製造)
ポリオキシプロピレン(2.2)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン17500g、ポリオキシエチレン(2.0)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン16250g、テレフタル酸11454g、ドデセニルコハク酸無水物1608g、トリメリット酸無水物4800g及びジブチル錫オキサイド15gを窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、220℃で攪拌し、ASTM D36−86に準拠して測定した軟化点が120℃に達するまで反応させて、ポリエステル樹脂Bを得た。製造例1と同様に測定したところ、ポリエステル樹脂Bの軟化点は121℃、ガラス転移点は65℃、数平均分子量は3394であった。
【0041】
製造例3(マスターバッチ1の製造)
製造例1で得たポリエステル樹脂Aの微粉末70重量部及び大日精化製銅フタロシアニンのスラリー顔料(ECB−301:固形分46.2重量%)を顔料分30重量部になる様にヘンシェルミキサーに仕込み5分間混合し湿潤させた。次にこの混合物をニーダー型ミキサーに仕込み徐々に加熱した。ほぼ90〜110℃にて樹脂が溶融し、水が混在した状態で混練し、水を蒸発させながら20分間90〜110℃で混練を続けた。
更に120℃にて混練を続け残留している水分を蒸発させ、脱水乾燥させた。更に120〜130℃にて10分間混練を続けた。冷却後更に加熱三本ロールにより混練し、冷却、粗砕して青色顔料を30重量%の濃度で含有する高濃度着色組成物の粗砕品(マスターバッチ1)を得た。これをスライドグラスに乗せて加熱溶融させて顕微鏡で観察したところ、顔料粒子は全て微細に分散しており、粗大粒子は認められなかった。
【0042】
製造例4(樹脂乳化液(1)の製造)
ポリエステル樹脂A 640g、ポリエステル樹脂B 420g、マスターバッチ1 200g(ポリエステル樹脂A、ポリエステル樹脂B及びマスターバッチ1に用いた樹脂を前記配合割合で混合溶融した混合樹脂の軟化点は114℃、ガラス転移点は64℃であった)、及び、アニオン性乳化剤「ネオペレックス G−15(花王社製)」ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(固形分:15重量%)80g、および、非イオン性乳化剤「エマルゲン 430(花王社製)」ポリオキシエチレン(26mol)オレイルエーテル(HLB:16.2)12g、及び5重量%水酸化カリウム水溶液551gを、2軸の攪拌羽根が遊星運動を行う、プラネタリーミキサー(PRIMIX社製:5L容T.K.ハイビスミックス)にて、攪拌周速1.2m/sec(自転周速:0.7m/sec、公転周速:0.5m/sec)の攪拌下、25℃で分散させた後、95℃まで昇温して2時間中和を行った。続いて、脱イオン水を12g/min(樹脂100gあたり1g/分)で2276g滴下し、乳化を行った。得られた乳化液を室温まで冷却し200メッシュ(目開き:105μm)の金網を通して、微粒化した樹脂乳化液(1)を得た。得られた樹脂乳化液(1)中の固形分濃度は31.6質量%、樹脂粒子の体積中位径は0.13μmであり、金網上に樹脂成分は何も残らなかった。
【0043】
実施例5(トナーの製造)
樹脂乳化液(1)500gを、2リットル容の容器に入れ室温下攪拌した。次に、カイ型の攪拌機で100r/minの攪拌下、実施例1で得られたワックスサスペンションを固形分として5.0g、凝集剤として硫酸アンモニウム(シグマアルドリッチジャパン社製 特級)25gを1179gの脱イオン水に溶かし水溶液にしたものを室温で10分かけて滴下した。室温から80℃まで1時間で昇温し、80℃で3時間保持した。次に攪拌しながら室温まで冷却した。内容物を、吸引ろ過、洗浄を行い、着色樹脂粒子の含水ケーキを得た後、乾燥工程を経て体積中位径4.8〜6.5μmトナーを得た。なお、トナーの体積中位径は、コールターマルチサイザーII(ベックマンコールター社製)を用いて測定し、コールターマルチサイザーアキュコンプバージョン1.19(ベックマンコールター社製)を用いて解析して得た。
得られたトナーは電子写真用トナーとして良好な画像濃度と定着性を備えたものであった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の製造方法によれば、得られるワックスサスペンションは、特に静電記録法等により形成する静電潜像を現像剤で現像する際に用いられる電子写真用トナー用途に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の工程を含むワックスサスペンションの製造方法。
工程1:ワックス、乳化剤及び水を混合し、該ワックスの融点以上の温度で乳化して粗ワックスエマルションを調製する工程
工程2:工程1で得られた粗ワックスエマルションを急冷し、粗ワックスサスペンションを得る工程
工程3:工程2で得られた粗ワックスサスペンションの温度をワックスの融点以上に加熱して、高圧乳化分散機の高圧分散部に導入する工程
工程4:上記高圧乳化分散機で高圧乳化してワックス分散物を調製する工程
工程5:工程4で得られたワックス分散物を冷却してワックスサスペンションを調製する工程
【請求項2】
工程2における粗ワックスエマルションの急冷を、10℃/min以上の冷却速度で行う、請求項1記載のワックスサスペンションの製造方法。
【請求項3】
工程4の高圧乳化を5〜200MPaの圧力で行う、請求項1又は2に記載のワックスサスペンションの製造方法
【請求項4】
ワックスの配合量が、ワックスサスペンション中5〜25質量%である、請求項1〜3のいずれかに記載のワックスサスペンションの製造方法。
【請求項5】
工程1において、乳化剤の配合量が、ワックス100質量部に対して1〜3質量部である、請求項1〜4のいずれかに記載のワックスサスペンションの製造方法。
【請求項6】
工程1におけるワックスの融点が70〜120℃である、請求項1〜5のいずれかに記載のワックスサスペンションの製造方法。
【請求項7】
ワックスサスペンションの体積中位径が1μm以下である、請求項1〜6のいずれかに記載のワックスサスペンションの製造方法。
【請求項8】
ワックスサスペンションが電子写真用トナー用である、請求項1から7のいずれかに記載のワックスサスペンションの製造方法。
【請求項9】
請求項1から7のいずれかに記載の製造方法により得られるワックスサスペンションを用いて製造される電子写真用トナー。

【公開番号】特開2009−157271(P2009−157271A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−338057(P2007−338057)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】