説明

ワックス状物質の製造装置

【課題】本発明は、こうした知見に基づいて舗装材料のバインダー材として好適なワックス状物質を連続して製造する製造装置を提供することを目的とするものである。
【解決手段】製造装置は、合成樹脂材料を内部で燃焼させてパラフィンワックス状溶融物に熱分解する熱分解槽1と、熱分解槽1から落下するパラフィンワックス状溶融物を貯留する受溜槽2とを備え、取出口20に接続されて上方に延設された外部取出管21に取出口20から所定の高さ毎に外部取出管に複数の外部流出口22を形成し、受溜槽2の内部に取出口20よりも低い位置に設置された棒状ヒータ25及び取出口20よりも高い位置に設置された温度検知センサ26を設け、温度検知センサ26からの検知信号に基づいて加熱制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、舗装材料のバインダー材に用いるワックス状物質を連続して製造する製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
使用済みの高分子系合成樹脂製品は、燃焼や埋め立てにより廃棄処分されているが、自己燃焼性を有する高分子系合成樹脂製品、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂などについては、熱分解させてパラフィンワックス状物質として再利用することが提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、図4に示すように、燃焼用バスケット100に投入されたポリエチレン樹脂材料からなる原料Aを燃焼させ、その熱エネルギーにより熱分解反応を生起させて液状化したパラフィンワックス状溶融物を生成する。生成されたパラフィンワックス状物質は、ロストル101の多数の孔部を通過して落下し、触媒層102に一時滞留して熱分解反応が促進された後タンク103内に落下する。
【0004】
タンク103内に落下した溶融物は、高温状態でタンク内の空気中の酸素と結合しながら燃焼及び熱分解反応を継続し、その結果タンク内は高温の酸欠状態となって溶融物の熱分解反応時に多量の可燃性高熱ガスGが発生するようになる。そして、発生した可燃性ガスGは上昇して燃焼用バスケット100内に導入され、外部から導入された空気と可燃性ガスGが混合して燃焼することにより原料Aの溶融が継続されるようになり、自立的に熱エネルギーが供給されるようになる点が記載されている。
【0005】
また、特許文献2では、上述したワックス状物質の製造装置において、ワックス状溶融物を加熱手段により加熱して可燃性高熱ガスの発生を調節して燃焼用バスケット内部の温度を制御するようにした点が記載されている。
【特許文献1】特開昭60−190494号公報
【特許文献2】特公平8−11762号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、廃棄物に含まれる高分子合成樹脂材料の再利用の観点から、上述した特許文献に記載された製造方法で製造されたパラフィンワックス状物質が舗装材料のバインダー材として利用できるか否か鋭意検討した。その結果、製造されたパラフィンワックス状物質は軟化点が約110℃と高いため、骨材と混合して路面に敷設する場合に早く冷却固化するようになることから、敷設して締固め等の施工を行う際に、冷却固化した際の収縮により凹凸が表面に生じてしまう問題点があることがわかった。
【0007】
そこで、製造されたパラフィンワックス状物質の軟化点を舗装材料に用いるのに適当な温度まで低下させる方法について研究を進めた結果、製造されたパラフィンワックス状物質を400℃〜500℃の高温状態で所定時間保持させると軟化点が70℃〜100℃に低下することがわかった。
【0008】
本発明は、こうした知見に基づいて舗装材料のバインダー材として好適なワックス状物質を連続して製造する製造装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るワックス状物質の製造装置は、自己燃焼性を有する高分子系合成樹脂材料を内部で燃焼させてパラフィンワックス状溶融物に熱分解する熱分解槽と、熱分解槽の下部に配設されるとともに熱分解槽から落下するパラフィンワックス状溶融物を貯留する受溜槽とを備えたワックス状物質の製造装置において、前記受溜槽の壁面に形成された取出口に一端が接続されて上方に延設された外部取出管と、前記取出口から所定の高さ毎に前記外部取出管に形成された複数の外部流出口と、前記受溜槽の内部において前記取出口よりも低い位置に設置されるとともにパラフィンワックス状溶融物を加熱する加熱部と、前記受溜槽の内部において前記取出口よりも高い位置に設置されるとともにパラフィンワックス状溶融物の中心部の温度を検知する温度検知センサと、前記温度検知センサからの検知信号に基づいて前記加熱部の加熱制御を行う加熱制御部とを備えていることを特徴とする。さらに、前記加熱制御部は、400℃〜500℃に温度が保たれるように加熱制御を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、上記のような構成を有することで、受溜槽の壁面に形成された取出口に一端が接続されて上方に延設された外部取出管及び取出口から所定の高さ毎に外部取出管に形成された複数の外部流出口を備えているので、パラフィンワックス状溶融物を取り出す際に外部流出口の高さを選択することにより受溜槽内に滞留する時間を調整することができる。すなわち、外部取出管は取出口から上方に延設され、外部流出口が取出口から上方に形成されているので、取出口から外部取出管に流入したパラフィンワックス状溶融物は受溜槽内の液面が外部流出口まで上昇しないと流出することがなく、その分受溜槽内の滞留時間を長くすることができる。そして、複数の外部流出口の高さを変更することで滞留時間を調整することも可能となる。また、外部取出管は、取出口から外部流出口までの間が常時パラフィンワックス状溶融物で満たされているため、外部流出口から空気が受溜槽内に流入することがなく、受溜槽内の酸欠状態を維持することができ、空気の流入によるバックファイアといったトラブルを確実に防止することが可能となる。
【0011】
そして、受溜槽の内部において取出口よりも低い位置に設置されるとともにパラフィンワックス状溶融物を加熱する加熱部及び受溜槽の内部において取出口よりも高い位置に設置されるとともにパラフィンワックス状溶融物の中心部の温度を検知する温度検知センサを備えているので、取出口付近のパラフィンワックス状溶融物の加熱温度を400℃〜500℃に安定した状態に保つことができる。すなわち、熱分解槽から受溜槽に落下してくるパラフィンワックス状溶融物は分子量が大きく粘度が高いため、受溜槽内に落下した後槽内を沈降していく。そして、取出口より低い位置に設置された加熱装置により加熱されて熱分解が進み分子量が小さくなって低粘度化いくため上昇するようになって、槽内に対流が生じるようになる。ここで、温度検知センサが取出口よりも高い位置に設置されているため、温度検知センサの設置高さで400℃〜500℃に保つように加熱装置を加熱制御するようにすれば、加熱装置と温度検知センサとの間ではこの温度範囲に保たれるようになり、外部流出口の選択した高さにより設定される滞留時間で400℃〜500℃の温度範囲で加熱されたパラフィンワックス状物質が取出口から連続して外部取出管に流出していくようになる。そのため、軟化点が70℃〜100℃で安定したパラフィンワックス状溶融物を連続して製造することが可能となる。
【0012】
廃棄物を用いて製造する場合、投入される高分子合成樹脂材料は均一でないため、加熱分解槽から受溜槽に落下するパラフィンワックス状溶融物の特性にバラツキが生じることは避けられないが、本願発明では、外部流出口の高さを選択することによりパラフィンワックス状溶融物の滞留時間を変化させることができるので、パラフィンワックス状溶融物の特性(分子量、粘度)に応じて調整して軟化点のほぼ一定したパラフィンワックス状溶融物を得ることができるようになり、舗装材料のバインダー材として好適なワックス状物質を廃棄物から連続して製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面を用いて説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明を実施するにあたって好ましい具体例であるから、技術的に種々の限定がなされているが、本発明は、以下の説明において特に本発明を限定する旨明記されていない限り、これらの形態に限定されるものではない。
【0014】
図1は、本発明に係る実施形態に関する概略断面図であり、図2は、図1のA−A断面図である。製造装置は、熱分解槽1と、熱分解槽1の下部に設けられた受溜槽2とを備えている。熱分解槽1は、上部開口を熱分解網10で覆われており、高分子合成樹脂材料が投入される。熱分解網10の下方が熱分解空間部11となっており、側壁に多数の空気導入孔が形成されている。熱分解空間部11の下方が促進空間部12となっている。促進空間部12では、下部に熱分解を促進する触媒槽13が設置されており、触媒槽13は、例えば白金や銅からなる線状触媒が充填されている。また、促進空間部12の上部では、複数の空気導入孔14が形成されており、外部から空気が促進空間部12に導入される。
【0015】
受溜槽2は、上部が触媒槽13と連通しており、内部にパラフィンワックス状溶融物が貯留されるようになっている。受溜槽2の下部には取出口20が形成されており、外部取出管21が受溜槽2の外表面に上方に延設されて固定されている。外部取出管21の下端部が取出口20に連結されており、外部取出管21の上部は密閉されている。外部取出管21の側面には、3つの外部流出口22a〜22cが形成されており、各外部流出口に連結管が接続されている。外部流出口22a〜22cの取出口20からの高さは、それぞれ所定の高さ毎に設定されている。受溜槽2の底部には、内部の残渣物を排出させる排出口24が配設されている。
【0016】
受溜槽2の内部には、取出口20より低い位置に棒状ヒータ25a及び25bが中心部に向かって突設されており、取出口20より高い位置に先端にセンサ素子を設けた温度検知センサ26が中心部に向かって突設されている。
【0017】
加熱制御部23は、温度検知センサ26からの検知信号が入力されて、その検知信号に基づいて棒状ヒータ25a及び25bの加熱制御を行う。棒状ヒータ25a及び25bは、電気加熱又は高周波加熱によって加熱を行う。
【0018】
投入されたポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系合成樹脂からなる廃棄物は、従来公知の製造方法と同様に、熱分解槽1の内部で燃焼して熱分解し溶融状態で促進空間部12に落下する。促進空間部12に溜まった溶融物はパラフィンワックス状で約600℃の温度状態となっており、パラフィンワックス状溶融物は触媒槽13を通過して受溜槽2内に落下する。触媒槽13では熱分解反応が促進されて受溜槽2内に導入されるが、受溜槽2内は酸欠状態となっていため燃焼が発生せず、パラフィンワックス状溶融物は約350℃に低下して落下していく。
【0019】
受溜槽2内に導入されたパラフィンワックス状溶融物は、高粘度で分子量が大きいため液面に落下した後沈降していき、底部の棒状ヒータ25a及び25bで加熱されるようになる。加熱されることでパラフィンワックス状溶融物は分子量が小さくなって低粘度化し、上昇するようになる。こうして受溜槽2内に対流が生じるようになるが、温度検知センサ26により400℃〜500℃に保たれるように棒状ヒータ25a及び25bを加熱制御することで、パラフィンワックス状溶融物の低分子量化・低粘度化が進み、軟化点を下げることできる。
【0020】
図3(a)に示すように、外部取出管21において一番高い位置に形成された外部流出口22cからパラフィンワックス状溶融物を流出させるようにすると、受溜槽2内の液面が上昇して導入されたパラフィンワックス状溶融物の滞留時間を長くすることができる。また、斜線で示すように、棒状ヒータと温度検知センサとの間に取出口20が形成されているので、400℃〜500℃に保たれたパラフィンワックス状溶融物が取出口20から外部取出管21に流入するようになり、所定時間400℃〜500℃に加熱されて軟化点が70℃〜100℃に低下したパラフィンワックス状溶融物が連続して製造することができるようになる。
【0021】
図3(b)では、外部取出管21において一番低い位置に形成された外部流出口22aからパラフィンワックス状溶融物を流出させるようにしているが、この場合受溜槽2内の液面が低下してパラフィンワックス状溶融物の滞留時間を短くすることができる。そのため、熱分解槽1から導入されるパラフィンワックス状溶融物の分子量がある程度低く、軟化点を低下させるための加熱時間が短くできる場合には、外部流出口22aから流出させるようにすればよい。
【0022】
したがって、熱分解槽1で生成されるパラフィンワックス状溶融物の特性に応じて適宜外部流出口22a〜22cを選択して流出させるようにすれば、軟化点が70℃〜100℃のパラフィンワックス状溶融物を安定して製造することができる。また、外部流出口22a〜22cは、取出口20よりも高い位置に形成されているので、パラフィンワックス状溶融物を流出させる際に空気が受溜槽2内に流入することを確実に防止することができ、空気が流入することにより発生するバックファイヤといったトラブルを防止しながら安全に製造することが可能となる。
【0023】
ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系合成樹脂が混合した廃棄物を熱分解して生成したパラフィンワックス状溶融物を用いて加熱時間と軟化点との関係を実験した。生成されたパラフィンワックス状溶融物の特性は以下の通りである。
比重 0.93(JIS K7112−1999準拠)
融点 111℃(EXSTRA600 DSC6200(セイコーインスツルメント社製)で測定)
引火点 246℃(JIS K2265準拠)
発火点 250℃以上
なお、軟化点は、JIS K2207に準拠して測定した。実験は、410℃、420℃、430℃にそれぞれ加熱した時点から計時し、その後その温度に維持されるように加熱して10分おきに軟化点を測定した。表1にその時間的な推移を示す。
【0024】
【表1】

表1に示されているように、加熱時間を30分〜40分以上にすることでパラフィンワックス状溶融物の軟化点を100℃以下に低下させることができる。また、GPC法を用いて、加熱時間が0分、10分、20分、30分における平均分子量を測定した。測定結果を表2に示す。
【0025】
【表2】

加熱時間が長くなるに従って分子量の分布範囲が狭くなり、高分子量の成分が少なくなっていくのがわかる。
【0026】
以上のように、種類の異なる合成樹脂が混合した廃棄物の場合でも400℃〜500℃に加熱して加熱時間を30分以上にすることで舗装材料のバインダー材として好適な軟化点70℃〜100℃にすることができる。したがって、上述した製造装置により受溜槽内で400℃〜500℃に加熱しながら滞留時間を調整することで軟化点が70℃〜100℃のパラフィンワックス状溶融物を連続して製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る実施形態に関する概略断面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】外部流出口からパラフィンワックス状溶融物を流出させる場合の説明図である。
【図4】従来の製造装置に関する概略断面図である。
【符号の説明】
【0028】
1 熱分解槽
2 受溜槽
20 取出口
21 外部取出管
22 外部流出口
23 加熱制御部
25 棒状ヒータ
26 温度検知センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己燃焼性を有する高分子系合成樹脂材料を内部で燃焼させてパラフィンワックス状溶融物に熱分解する熱分解槽と、熱分解槽の下部に配設されるとともに熱分解槽から落下するパラフィンワックス状溶融物を貯留する受溜槽とを備えたワックス状物質の製造装置において、前記受溜槽の壁面に形成された取出口に一端が接続されて上方に延設された外部取出管と、前記取出口から所定の高さ毎に前記外部取出管に形成された複数の外部流出口と、前記受溜槽の内部において前記取出口よりも低い位置に設置されるとともにパラフィンワックス状溶融物を加熱する加熱部と、前記受溜槽の内部において前記取出口よりも高い位置に設置されるとともにパラフィンワックス状溶融物の中心部の温度を検知する温度検知センサと、前記温度検知センサからの検知信号に基づいて前記加熱部の加熱制御を行う加熱制御部とを備えていることを特徴とするワックス状物質の製造装置。
【請求項2】
前記加熱制御部は、400℃〜500℃に温度が保たれるように加熱制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−239838(P2008−239838A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−83664(P2007−83664)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(592029256)福井県 (122)
【出願人】(507100100)株式会社シンハル (1)
【Fターム(参考)】