説明

ワークの焼き入れ方法および焼き入れ装置

【課題】 ワークを均一に冷却することができるとともに、冷却効率が向上するワークの焼き入れ方法および焼き入れ装置を提供する。
【解決手段】ワークを焼き入れ室に収容し、冷却媒体であるミストをワークが収容された焼き入れ室に瞬時に充填する焼き入れ方法および装置であり、冷却媒体としてミストを用いることにより、水浸漬に比較し水泡の発生による冷却ムラがなく均一な冷却が可能であり、またミストが水分を多く含むことにより空冷に比較し冷却効率が向上して冷却時間が短縮され機械特性が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークの焼き入れ方法および焼き入れ装置に関する。より詳しくは、ワークを均一に冷却することができるとともに、冷却効率が向上する焼き入れ方法および焼き入れ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の部品にアルミニウム合金が適用されているが、自動車の軽量化が図られるためアルミニウム合金が適用される部品は大型で薄肉に形成され、強度など機械的特性においても良好であることが求められる。この機械的特性を良好なものとするために、アルミニウム合金に対して種々の熱処理を行なうことが広く知られているが、この熱処理の一つとして、アルミニウム合金を溶体化処理によって過飽和固溶体組織とした後に、溶体化処理温度にあるアルミニウム合金を急冷する焼入れがある。この焼入れにおいて冷却する速度が速いほど、冷却後のアルミニウム合金は、前記機械的特性において良好となることが知られている。
【0003】
従来より、上記の急冷方法として知られている技術に、水中にワークを浸漬させて冷却する方法がある(特許文献1)。
【特許文献1】特開平7−1111号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した大型で薄肉のアルミニウム合金を焼き入れする場合、ワーク近傍の水が沸騰することにより水泡が発生し、当該水泡がワークに付着することによって、ワーク周辺に不均一な断熱状態が形成されワークの冷却が不均一となって、ワークに変形が生じ得る。
【0005】
また、均一な冷却が図られるように、ワークに空気を吹き付けて冷却を行なうこととした場合には、冷却速度が遅いため、冷却後のワークにおいて、充分な強度が発現せず良好な機械特性が得られないという問題が生じ得る。
【0006】
本発明は、上記従来技術に伴う課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、ワークを均一に冷却することができるとともに、冷却効率が向上するワークの焼き入れ方法および焼き入れ装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的は、下記の手段により達成される。
(1)ワークを焼き入れ室に収容する収容工程と、冷却媒体であるミストを前記焼き入れ室に瞬時に充填する充填工程とを有することを特徴とするワークの焼き入れ方法。
(2)前記充填工程において、前記ミストが収容された前記ミスト収容室の気圧を、ワークが収容された前記焼き入れ室の気圧よりも相対的に高くした後に、前記焼き入れ室と前記ミスト収容室とを通気することによって、前記ミストを前記焼き入れ室に瞬時に充填することを特徴とする(1)に記載のワークの焼き入れ方法。
(3)前記焼き入れ室に前記ミストが充填される間、前記焼き入れ室の排気を行なうことを特徴とする(1)または(2)に記載のワークの焼き入れ方法。
(4)前記焼き入れ室の排気は、前記焼き入れ室と前記焼き入れ室の外部とを通気可能なダクトを介してポンプにより行なうことを特徴とする(3)に記載のワークの焼き入れ方法。
(5)ワークを焼き入れのために収容し得る焼き入れ室と、発生された冷却媒体であるミストを収容するためのミスト収容室と、前記ミストが収容された前記ミスト収容室の気圧を、前記焼き入れ室の気圧よりも相対的に高くするための圧力調整手段と、前記焼き入れ室と前記ミスト収容室とを通気可能な通気口と、前記通気口の開閉を行なうための第1の開閉手段とを有することを特徴とするワークの焼き入れ装置。
(6)前記ミストは、前記ミスト収容室に設置されたミスト発生機によって発生させられることを特徴とする(5)に記載のワークの焼き入れ装置。
(7)前記焼き入れ室に前記ミストが充填される間、前記焼き入れ室の排気を行なうための排気手段をさらに有することを特徴とする(5)または(6)に記載のワークの焼き入れ装置。
(8)前記排気手段は、前記焼き入れ室と前記焼き入れ室の外部とを通気可能なダクト、および前記ダクトを介して前記焼き入れ室の排気を行うためのポンプであることを特徴とする(7)に記載のワークの焼き入れ装置。
(9)前記ミスト収容室は、前記焼き入れ室を介して互いに対向するように複数設けられることを特徴とする(5)〜(8)のいずれか1つに記載のワークの焼き入れ装置。
(10)前記第1の開閉手段は、前記通気口の開閉を行なうための巻き取り式の第1のシャッターであることを特徴とする(5)〜(9)のいずれか1つに記載のワークの焼き入れ装置。
(11)前記焼き入れ室には、ワークが搬入され得る搬入口と、ワークが搬出され得る搬出口とがさらに設けられ、前記搬入口の開閉を行なうための第2の開閉手段と、前記搬出口の開閉を行なうための第3の開閉手段と、前記搬入口から前記搬出口へワークを搬送するための搬送手段とを、さらに有することを特徴とする(5)〜(10)のいずれか1つに記載のワークの焼き入れ装置。
(12)前記第2の開閉手段は、前記搬入口の開閉を行なうための巻き取り式の第2のシャッターであり、前記第3の開閉手段は、前記搬出口の開閉を行なうための巻き取り式の第3のシャッターであることを特徴とする(11)に記載のワークの焼き入れ装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明のワークの焼き入れ方法および焼き入れ装置によれば、ワークを冷却するにあたって、冷却媒体としてミストを用いることにより、ワークを水に浸漬して冷却する場合のように水泡が発生して冷却ムラを生じさせることがない。これにより、ワークを冷却するにあたって、冷却の不均一さが生ぜず、ワークの変形が生じない。
【0009】
また、ミストは水分を多く含むために、ワークを空冷する場合と比較して単位時間におけるワークの気化熱量が増える。これにより、ワークの冷却効率が向上して冷却時間が短縮され、ワークの機械的特性が向上される。
【0010】
また、ワークが収容された焼き入れ室にミストを瞬時に充填してワークを冷却することによって、大型なワークでも冷却のムラを生じさせず均一に冷却することができ冷却によるワークの変形が防止される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
図1は、本発明の実施形態におけるワークの焼き入れ装置1(以下、焼き入れ装置1)の構成を示すブロック図である。
【0013】
焼き入れ装置1は、焼き入れ室10と、焼き入れ室10と側壁10aを介して隣接する第1のミスト収容室11Aと、焼き入れ室10と側壁10bを介して隣接し、焼き入れ室10を介して第1のミスト収容室11Aと対向して位置する第2のミスト収容室11Bとを有する。なお、ミスト収容室は上記のように2つ設けられる必要はなく、1つだけ設けられても良い。
【0014】
焼き入れ室10には、ワークを焼き入れのために収容することが可能であり、第1および第2のミスト収容室11A,11Bには、ミストを発生可能なミスト発生機12A,12Bが設置されている。
【0015】
側壁10aには、通気口13が設けられ、さらに通気口13の開閉を行なうための第1の開閉手段14が設けられる。また、側壁10bには、通気口15が設けられ、さらに通気口15の開閉を行なうための第2の開閉手段16が設けられる。
【0016】
また、側壁10cには、ワーク2が搬入される搬入口17が設けられ、さらに搬入口17の開閉を行なうための第3の開閉手段18が設けられる。また、側壁10cと対向して位置する側壁10dにはワーク2が搬出される搬出口19が設けられ、さらに搬出口19の開閉を行なうための第4の開閉手段20が設けられる。さらに、焼き入れ室10には、搬入口17からワークを焼き入れ室10に搬入し、さらに搬出口19からワーク2を搬出するための搬送手段21が設けられる。
【0017】
また、焼き入れ室10と焼き入れ室10の外部とは、ダクト22を介して通気可能とされ、ダクト22の内部にはダクト22を介して焼き入れ室10の排気を行なうためのポンプ23が設けられる。
【0018】
次に、焼き入れ装置1における焼き入れ工程について説明する。
【0019】
はじめに、搬入口17が第3の開閉手段18によって開かれている状態で、ワーク2が搬送手段21によって搬入口17から焼き入れ室10に搬入される。次に、通気口13,15が、それぞれ第1および第2の開閉手段14,16によって閉ざされている状態において、ミスト発生機12A,12Bは、第1および第2のミスト収容室11A,12Bにミストが充満するまで、ミストを発生する。次に、ミストが第1および第2のミスト収容室11A,11Bに充満された状態において、ポンプ23がダクト22を介して焼き入れ室10を排気することによって、第1および第2のミスト収容室11A,11Bの気圧は、焼き入れ室10の気圧よりも相対的に高くなる。このように第1および第2のミスト収容室11A,11Bの気圧が焼き入れ室10の気圧よりも相対的に高くされた状態において、第1および第2の開閉手段14,16は、それぞれ通気口13,15を開いて焼き入れ室10と第1および第2のミスト収容室11A,11Bとを通気する。このときには、搬入口17および搬出口19は、それぞれ第3の開閉手段18および第4の開閉手段20によって閉ざされている。これにより、第1および第2のミスト収容室11A,11Bに充満されているミストが焼き入れ室10へ急速に流入して、焼き入れ室10は瞬時ないし爆発的にミストによって充填され、ワーク2はこの瞬時ないし爆発的に焼き入れ室10に充填されるミストによって冷却が行なわれる。なお、本明細書において用いる瞬時ないし爆発的の用語が意味するところは、第1および第2のミスト収容室11A,11Bと焼き入れ室10との圧力差、ワーク2の大きさ、第1および第2のミスト収容室11A,11Bおよび焼き入れ室10の容積などの条件によって変動するものであるから一義的に定められるものではないが、ワークの周囲全体にミストをほぼ同時に存在させることが可能な程度を意味するものである。
【0020】
続いて、ワーク2が所定の温度に冷却されるまで、ミスト発生機12A,12Bは第1および第2のミスト発生室11A,11Bにおいてミストを発生し、ポンプ23は、ワーク2との接触により温度が上昇したミストを、ダクト22を介して焼き入れ室10の外部に排気する。また、この排気によって、焼き入れ室10には負圧が生じることから、第1および第2のミスト収容室11A,11Bにおいて新規に発生されたミストは、焼き入れ室10に供給される。そして、ワーク2が所定の温度まで冷却された時点において、ミスト発生機12A,12Bはミストを発生することを中止し、またダクト22も排気を中止する。続いて、第4の開閉手段20は搬出口19を開き、搬送手段21は搬出口19からワーク2を焼き入れ室10の外部へ搬出する。
【0021】
なお、上記から明らかなように、ポンプ23およびダクト22は、ワーク2が焼き入れ室10に収容された後に、焼き入れ室10を排気する排気手段として用いられるとともに、ミストが第1および第2のミスト収容室11A,11Bから焼き入れ室10へ充填される以前に、第1および第2のミスト収容室11A,11Bの気圧を焼き入れ室10の気圧よりも相対的に高くする圧力調整手段としても用いられる。
【0022】
次に、本発明の効果を述べる。
【0023】
本発明によれば、ワークを冷却するにあたって、冷却媒体としてミストを用いることにより、ワークを水に浸漬して冷却する場合のように水泡が発生して冷却ムラを生じさせることがない。これにより、ワークを冷却するにあたって、冷却の不均一さが生ぜず、ワークの変形が生じない。
【0024】
また、ミストは水分を多く含むために、ワークを空冷する場合と比較して単位時間におけるワークの気化熱量が増える。これにより、ワークの冷却効率が向上して冷却時間が短縮され、ワークの機械的特性が向上される。
【0025】
また、ワークが収容された焼き入れ室にミストを瞬時ないし爆発的に充填してワークを冷却することによって、大型なワークでも冷却のムラを生じさせず均一に冷却することができ、冷却によるワークの変形を防止する。
【0026】
また、ワークとの接触により熱せられたミストが焼き入れ室から排気され、新規に発生されたミストが焼き入れ室に供給されることによって、常に、ワークの周辺を新規に発生されて高温状態にないミストで充満することができる。これにより、ワークの冷却が促進されてさらに冷却効率が向上するとともに、周辺に充満するミストの温度ムラが防止されることから、さらに均一な冷却が図れ、冷却によるワークの変形がより一層防止される。
【0027】
本発明は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、特許請求の範囲内において、種々改変することができる。
【0028】
例えば、第1および第2のミスト収容室11A,11Bにミスト発生機12A,12Bを設置せず、第1および第2のミスト収容室11A,11Bと異なる部屋においてミストを発生させて、発生したミストが第1および第2のミスト収容室11A,11Bと、前記第1および第2のミスト収容室11A,11Bと異なる部屋とを通気可能なダクトを介して、第1および第2のミスト収容室11A,11Bに充填されてもよい。
【0029】
また、第1のミスト収容室11Aと第2のミスト収容室11Bとは、いずれか一つが設けられてもよい。
【0030】
また、上記において、焼き入れ室10の気圧を第1および第2のミスト収容室11A,11Bの気圧よりも相対的に高くする圧力調整手段は、焼き入れ室10の気圧を下げるポンプ23であると述べたが、第1および第2のミスト収容室の気圧を高める手段であってもよい。ここで、第1および第2のミスト収容室11A,11Bの気圧は、第1および第2のミスト発生機12A,12Bがミストを発生することによって高められる。これにより、第1および第2のミスト発生機12A,12Bも上述した圧力調整手段の一つと言える。
【0031】
<実施例>
次に、本発明の実施例について説明する。なお、本実施例において、上記の実施形態に示した構成と対応する構成については同一の符号を用いる。
【0032】
図2は、本発明の実施例における焼き入れ装置1において、ワークが冷却されるために焼き入れ室10に搬入される状態を示す斜視図である。
【0033】
焼き入れ室10で冷却されるワークは、コの字状を呈し、2〜5mmの厚さに形成されたアルミニウム合金鋳物2であり、本実施例において、アルミニウム合金鋳物2は、図示しない容体化炉において溶体化処理が施されて500〜550度の高温に熱せられた状態で焼き入れ室10に搬入される。そして、焼き入れ室10で冷却された後、さらに強度などの耐力を向上させるために、時効処理が施される図示しない時効炉へ搬送される。
【0034】
本実施例における焼き入れ装置1は、上記の工程を一連の流れ作業として、アルミニウム合金鋳物2が、図示しない容体化炉、焼き入れ室10、図示しない時効炉の順に搬送されることが可能な構成を有している。以下に具体的に説明する。
【0035】
焼き入れ室10は、図示しない容体化炉と側壁10cを介して隣接し、また図示しない時効炉と側壁10cと対向して位置する図示しない側壁を介して隣接するように設置される。側壁10cには搬入口17が設けられ、側壁10cと対向して位置する図示しない側壁には、図示しない搬出口が設けられる。さらに、焼き入れ室10には、搬入口17からアルミニウム合金鋳物2を焼き入れ室10に搬入し、さらに図示しない搬出口からアルミニウム合金鋳物2を搬出するためのローラコンベア21(搬送手段)が設けられる。図に示すAの方向は、ローラコンベア21の搬送方向を示している。
【0036】
また、搬入口17の上側には、搬入口17の開閉を行なうための巻き取り式のシャッター18(第3の開閉手段)が設けられ、また図示しない搬出口の上側には、図示しない搬出口の開閉を行なうための巻き取り式の図示しないシャッター(第4の開閉手段)が設けられる。
【0037】
さらに、焼き入れ室10と側壁10aを介して隣接して位置する図示しない第1のミスト収容室が設けられ、側壁10aには、図示しない第1のミスト収容室と焼き入れ室10とを通気可能な通気口13(図3参照)が設けられる。また、通気口13の上側には、通気口13の開閉を行なうための巻き取り式のシャッター14(第1の開閉手段)が設けられる。図2において、シャッター14が通気口13を閉じた状態が図示されている。また、焼き入れ室10と側壁10bを介して隣接し、焼き入れ室10を介して図示しない第1のミスト収容室と対向して位置する図示しない第2のミスト収容室が設けられ、側壁10bには、焼き入れ室10と図示しない第2のミスト室とを通気可能な通気口15(図3参照)が設けられる。また、通気口15の上側には、通気口15の開閉を行なうための巻き取り式のシャッター16(第2の開閉手段)が設けられる。
【0038】
図示しない第1および第2のミスト収容室には、ミスト発生機である図示しない二流体ノズルがそれぞれ設置されている。当該二流体ノズルは、水と空気を同時に噴出することによって、ノズルからミストを噴出する。なお、発生されるミストに含まれる水の粒径は、10〜50ミクロンの範囲である。
【0039】
焼き入れ室10の図示しない天井部には、焼き入れ室10と焼き入れ室10の外部とを通気可能な図示しないダクトが設けられる。また、図示しないダクトの内部には図示しないダクトを介して焼き入れ室10の排気を行なうための図示しない真空ポンプが設けられる。
【0040】
次に、本実施例における焼き入れ工程について述べる。
【0041】
シャッター18が搬入口17を開いている状態において、アルミニウム合金鋳物2が、ローラコンベア21によって搬入口17から焼き入れ室10へ搬入される。アルミニウム合金鋳物2は治具22に懸架された状態でローラコンベア21上を搬送される。続いて、シャッター14,16が、それぞれ通気口13,15を閉じている状態で、第1および第2のミスト収容室において、図示しない二流体ノズルは、ミストが第1および第2のミスト収容室に充満するまでミストを発生する。ミストが図示しない第1および第2のミスト収容室に充満した状態において、図示しない真空ポンプが図示しないダクトを介して焼き入れ室10を排気することにより、図示しない第1および第2のミスト収容室の気圧が、焼き入れ室10の気圧よりも相対的に高められる。また、上記の気圧差は、図示しない二流体ノズルがミストを発生することによっても生じるものである。
【0042】
図3は、アルミニウム合金鋳物2が搬入された焼き入れ室10に、ミストが充填される状態を示す斜視図である。
【0043】
図示しない第1および第2のミスト収容室の気圧が焼き入れ室10の気圧よりも相対的に高められた状態で、シャッター14,16は通気口13,15を開く。このときには、シャッター18および図示しないシャッターは、搬入口17および図示しない搬出口を閉じている。これにより、図示しない第1および第2のミスト収容室において充満したミストが焼き入れ室10に急速に流入して、焼き入れ室10はミストで瞬時ないし爆発的に充満され、この瞬時ないし爆発的に焼き入れ室10に充満するミストによってアルミニウム合金鋳物2は冷却される。
【0044】
アルミニウム合金鋳物2が所定の温度まで冷却される間、図示しない二流体ノズルは図示しない第1および第2のミスト収容室においてミストを発生し、また図示しない真空ポンプは焼き入れ室10を排気する。これにより、アルミニウム合金鋳物2との接触により熱せられたミストが焼き入れ室10から排気されるとともに、新規に発生されたミストが焼き入れ室10へ供給される。これにより、アルミニウム合金鋳物2は、新規に発生した高温状態にないミストが周辺に充満している状態で常に冷却される。なお、本実施例における冷却時間は20〜30秒である。
【0045】
アルミニウム合金鋳物2が所定の温度まで冷却された後、図示しない二流体ノズルは、ミストの発生を中止し、かつ図示しない真空ポンプも焼き入れ室10の排気を中止する。続いて、図示しないシャッターは搬出口を開き、ローラコンベア21はアルミニウム合金鋳物2を図示しない搬出口から図示しない時効炉へ搬出する。
【0046】
以上述べた実施例において、冷却が施されたアルミニウム合金鋳物2は、変形が生じることもなく、また充分な耐力を有することが確認された。
【0047】
なお、本実施例では、搬入口17、図示しない搬出口、通気口13、および通気口15の開閉手段として、巻き取り式のシッターを用いたが、その代わりに開閉式のシャッターを用いても良い。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の実施形態における焼き入れ装置の構成を示すブロック図である。
【図2】実施例における焼き入れ装置において、ワークが冷却されるために焼き入れ室に搬入される状態を示す斜視図である。
【図3】アルミニウム合金鋳物が搬入された焼き入れ室に、ミストが充填される状態を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0049】
1 焼き入れ装置、
2 アルミニウム合金鋳物(ワーク)、
10 焼き入れ室、
11A 第1のミスト収容室、
11B 第2のミスト収容室、
12A 第1のミスト発生機、
12B 第2のミスト発生機、
13,15 通気口、
14 シャッター(第1の開閉手段)、
16 シャッター(第2の開閉手段)、
17 搬入口、
18 シャッター(第3の開閉手段)、
19 搬出口、
20 第4の開閉手段、
21 ローラコンベア(搬送手段)、
22 ダクト、
23 真空ポンプ(ポンプ)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを焼き入れ室に収容する収容工程と、
冷却媒体であるミストを前記焼き入れ室に瞬時に充填する充填工程と、
を有することを特徴とするワークの焼き入れ方法。
【請求項2】
前記充填工程において、前記ミストが収容された前記ミスト収容室の気圧を、ワークが収容された前記焼き入れ室の気圧よりも相対的に高くした後に、前記焼き入れ室と前記ミスト収容室とを通気することによって、前記ミストを前記焼き入れ室に瞬時に充填することを特徴とする請求項1に記載のワークの焼き入れ方法。
【請求項3】
前記焼き入れ室に前記ミストが充填される間、前記焼き入れ室の排気を行なうことを特徴とする請求項1または2に記載のワークの焼き入れ方法。
【請求項4】
前記焼き入れ室の排気は、前記焼き入れ室と前記焼き入れ室の外部とを通気可能なダクトを介してポンプにより行なうことを特徴とする請求項3に記載のワークの焼き入れ方法。
【請求項5】
ワークを焼き入れのために収容し得る焼き入れ室と、
発生された冷却媒体であるミストを収容するためのミスト収容室と、
前記ミストが収容された前記ミスト収容室の気圧を、前記焼き入れ室の気圧よりも相対的に高くするための圧力調整手段と、
前記焼き入れ室と前記ミスト収容室とを通気可能な通気口と、
前記通気口の開閉を行なうための第1の開閉手段と、
を有することを特徴とするワークの焼き入れ装置。
【請求項6】
前記ミストは、前記ミスト収容室に設置されたミスト発生機によって発生させられることを特徴とする請求項5に記載のワークの焼き入れ装置。
【請求項7】
前記焼き入れ室に前記ミストが充填される間、前記焼き入れ室の排気を行なうための排気手段をさらに有することを特徴とする請求項5または6に記載のワークの焼き入れ装置。
【請求項8】
前記排気手段は、前記焼き入れ室と前記焼き入れ室の外部とを通気可能なダクト、および前記ダクトを介して前記焼き入れ室の排気を行うためのポンプであることを特徴とする請求項7に記載のワークの焼き入れ装置。
【請求項9】
前記ミスト収容室は、前記焼き入れ室を介して互いに対向するように複数設けられることを特徴とする請求項5〜8のいずれか1つに記載のワークの焼き入れ装置。
【請求項10】
前記第1の開閉手段は、前記通気口の開閉を行なうための巻き取り式の第1のシャッターであることを特徴とする請求項5〜9のいずれか1つに記載のワークの焼き入れ装置。
【請求項11】
前記焼き入れ室には、ワークが搬入され得る搬入口と、ワークが搬出され得る搬出口とがさらに設けられ、
前記搬入口の開閉を行なうための第2の開閉手段と、
前記搬出口の開閉を行なうための第3の開閉手段と、
前記搬入口から前記搬出口へワークを搬送するための搬送手段と、
を、さらに有することを特徴とする請求項5〜10のいずれか1つに記載のワークの焼き入れ装置。
【請求項12】
前記第2の開閉手段は、前記搬入口の開閉を行なうための巻き取り式の第2のシャッターであり、
前記第3の開閉手段は、前記搬出口の開閉を行なうための巻き取り式の第3のシャッターであることを特徴とする請求項11に記載のワークの焼き入れ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−213935(P2006−213935A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−24899(P2005−24899)
【出願日】平成17年2月1日(2005.2.1)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】