説明

一対の太陽電池用封止膜

【課題】発電性能を低下させずに、太陽電池内部の導線や電極の錆の発生を抑制することにより耐久性がさらに向上させることが可能な一対の太陽電池用封止膜を提供する。
【解決手段】エチレン酢酸ビニル共重合体及び受酸剤を含み、且つ前記受酸剤を前記エチレン酢酸ビニル共重合体100質量部に対して0.15質量部以下含む太陽電池用受光面側封止膜と、
エチレン酢酸ビニル共重合体、架橋剤及び受酸剤を含み、且つ前記受酸剤を、前記エチレン酢酸ビニル共重合体100質量部に対して0.5質量部以上含む太陽電池用裏面側封止膜と、を有する一対の太陽電池用封止膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン酢酸ビニル共重合体を主成分とする一対の太陽電池用封止膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、資源の有効利用や環境汚染の防止等の面から、太陽光を直接電気エネルギーに変換する太陽電池が広く使用され、さらなる開発が進められている。
【0003】
太陽電池は、一般に、図1に示すように、ガラス基板などからなる受光面側透明保護部材1と裏面側保護部材(バックカバー)2との間にEVA(エチレン酢酸ビニル共重合体)フィルムの受光面側封止膜3Aおよび裏面側封止膜3Bを介して、シリコン発電素子等の太陽電池用セル4を複数、封止した構成とされている。
【0004】
このような太陽電池は、受光面側透明保護部材1、受光面側封止膜3A、太陽電池用セル4、裏面側封止膜3B及び裏面側保護部材2をこの順で積層し、加熱加圧して、EVAを架橋硬化させて接着一体化することにより製造される。
【0005】
太陽電池は、高温高加湿や風雨に曝される室外などの環境下で長期にわたって使用されると、電池内部に湿気ないし水が透過する場合がある。このように電池内部に浸入した水分は、太陽電池内部の導線や電極に到達してこれらを腐食させ、結果として、太陽電池の耐久性を低下させる。
【0006】
そこで、電池内部の導線や電極の発錆を防止して、太陽電池の耐久性を向上させるために、従来では、受光面側透明保護部材としてガラス板が用いられる等の対策が採られている(例えば、特許文献1)。しかしながら、このようにして太陽電池の封止を十分に行ったとしても、発錆を防止して耐久性を十分に向上させるには至っていない。
【0007】
一方、太陽電池の発電性能を向上させるために、電池内に光をなるべく効率よく入射させて太陽電池用セルに集光することが強く望まれている。このような観点から、太陽電池に用いられる封止膜には、できるだけ高い透明性を有し、入射した太陽光を吸収したり反射したりすることが無く、太陽光のほとんどを透過させるものが用いられるのが好ましいことから、無色透明であり耐水性にも優れるEVAフィルムが太陽電池における封止膜として、通常、用いられている。
【0008】
しかしながら、このような酢酸ビニルを構成成分として含むEVAフィルムであっても、高温時の湿気ないし水の透過により経時的に加水分解して酢酸を生じ易い傾向にあり、このような酢酸が内部の導線や電極と接触して錆の発生を促進させることが明らかとなった。したがって、太陽電池内部の発錆の発生をより高く防止するには、太陽電池内部における酢酸と前記導線および前記電極との接触を防止するのが最も効果的である。
【0009】
そこで、特許文献2では、太陽電池の封止膜などに用いられる透明フィルムとして、平均粒径5μm以下である受酸剤粒子を、0.5質量%以下含むEVAフィルムが開示されている。前記受酸剤粒子を含むEVAフィルムによれば、フィルムからの酢酸の発生を抑制して、太陽電池の耐久性を向上させることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2000−174296号公報
【特許文献2】特開2005−29588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
太陽電池には、幅広い研究開発が行われているが、普及を促進させるためには、屋外の極めて厳しい自然環境下であっても、さらに長期に亘って高い発電性能を発揮できることが必要とされている。
【0012】
そこで、本発明が目的とするところは、発電性能を低下させずに、太陽電池内部の導線や電極の錆の発生を抑制することにより耐久性がさらに向上させることが可能な一対の太陽電池用封止膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記特許文献2に記載される通り、太陽電池内部の発錆を防止するには、酢酸などの金属を腐食させ得る酸を補足するための受酸剤を封止膜に含有させるのが最も効果的である。しかしながら、発錆に対するより高い防止効果を得るために、封止膜として用いられるEVAフィルムにおける受酸剤の含有量を多くすると、得られる封止膜の透明性が低下し、太陽電池の発電性能が低下する恐れがある。
【0014】
本発明者等は、このような実情に鑑み種々の検討を行った結果、高濃度の受酸剤を含む太陽電池用封止膜を、太陽電池用セルの受光面に対して反対側に配置される封止膜として用い、EVA100質量部に対して0.15質量部以下の受酸剤を含む太陽電池用封止膜を、太陽電池用セルの受光面側に配置される封止膜として用いることにより、太陽電池の発電性能を低下させることなく、電池内部の金属の腐食を効果的に防止して耐久性のさらなる向上が図れることを見出した。
【0015】
すなわち、本発明は、エチレン酢酸ビニル共重合体及び受酸剤を含み、且つ前記受酸剤を前記エチレン酢酸ビニル共重合体100質量部に対して0.15質量部以下含む太陽電池用受光面側封止膜と、エチレン酢酸ビニル共重合体、架橋剤及び受酸剤を含み、且つ前記受酸剤を、前記エチレン酢酸ビニル共重合体100質量部に対して0.5質量部以上含む太陽電池用裏面側封止膜と、を有する一対の太陽電池用封止膜により上記目的を達成する。
【0016】
本発明の一対の太陽電池用封止膜の好ましい態様を以下に列記する。
【0017】
(1)前記太陽電池用裏面側封止膜が受酸剤を、前記エチレン酢酸ビニル共重合体100質量部に対して、0.5質量部を超えて5.0質量部以下含む。
【0018】
(2)前記受酸剤による金属腐食の防止効果を得るため、前記受酸剤としては、5μm以下の平均粒子径を有する受酸剤粒子が好ましく用いられる。
【0019】
(3)前記受酸剤が、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、四酸化三鉛、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化鉄(II)、炭酸カルシウム及びハイドロタルサイトよりなる群から選択される少なくとも1種である。
【0020】
(4)前記太陽電池用裏面側封止膜に含まれるエチレン酢酸ビニル共重合体における酢酸ビニルの含有量が、前記エチレン酢酸ビニル共重合体100質量部に対して5〜50質量部である。
【0021】
(5)太陽電池の発電性能を向上させるため、前記太陽電池用裏面側封止膜が着色剤をさらに含むのが好ましい。
【0022】
(6)前記着色剤は、前記エチレン酢酸ビニル共重合体100質量部に対して2〜10質量部含む。
【発明の効果】
【0023】
本発明の一対の太陽電池用封止膜では、受酸剤の含有量を最適化することによって、EVAフィルムから加水分解によって生じた酢酸などの酸による電池内部の金属の腐食を高く防止できる。したがって、前記一対の太陽電池用封止膜によれば、電池内部の金属の腐食が高く防止されることにより、優れた発電性能を長期間に亘り維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】一般的な太陽電池の断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の太陽電池用裏面側封止膜は、エチレン酢酸ビニル共重合体、架橋剤及び受酸剤を含み、前記受酸剤を、前記エチレン酢酸ビニル共重合体100質量部に対して0.5質量部以上含み、太陽電池用セルの受光面とは反対側の裏面側に配置されることを特徴とする。具体的には、上述した図1に示す、裏面側封止膜3Bとして用いられる。
【0026】
太陽電池における発錆を高く防止するために、封止膜における受酸剤の含有量を高くするのが好ましいが、単に受酸剤の含有量を高くしただけでは封止膜の透明度が低下し、太陽電池の発電性能を低下させる恐れがある。したがって、本発明では、比較的、高濃度の受酸剤を含む太陽電池用封止膜を太陽電池用セルの裏面側に配置される封止膜として用いることにより、裏面側封止膜において透明性が低下しても、受光面側封止膜によって電池内部への入射光を十分に確保することが可能となる。これにより、裏面側封止膜では種類や含有量など受酸剤の使用において高い制限を受けることがなく、電池内部の金属腐食への高い耐性を確保することが可能となる。
【0027】
本発明の太陽電池用裏面側封止膜は、受酸剤を、前記裏面側封止膜に含まれる前記エチレン酢酸ビニル共重合体100質量部に対して0.5質量部以上含むが、より好ましくは0.5質量部を超えて5.0質量部以下、特に好ましくは0.5質量部を超えて2質量部以下含むのがよい。
【0028】
前記受酸剤の形状は、特に制限されないが、平均粒子径が5μm以下、特に1〜4μm、さらに1〜2.5μmの受酸剤粒子を用いるのが好ましい。前記受酸剤粒子によれば、高い表面積を有することから受酸剤と酸との高い接触面積が得られ、電池内部の導線や電極の発錆をより高く防止することができる。
【0029】
前記受酸剤は、酢酸などの酸を吸収および/または中和する機能を有するものであれば特に制限なく用いることができる。
【0030】
前記受酸剤としては、金属酸化物、金属水酸化物、金属炭酸化物又は複合金属水酸化物が用いられ、発生する酢酸の量、及び用途に応じ適宜選択することができる。前記受酸剤として、具体的には、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、硼酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、フタル酸カルシウム、亜燐酸カルシウム、酸化亜鉛、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ホウ酸マグネシウム、メタホウ酸マグネシウム、メタホウ酸カルシウム、メタホウ酸バリウムなどの周期律表第2族金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、カルボン酸塩、珪酸塩、硼酸塩、亜燐酸塩、メタホウ酸塩など;酸化錫、塩基性炭酸錫、ステアリン酸錫、塩基性亜燐酸錫、塩基性亜硫酸錫、四酸化三鉛、酸化ケイ素、ステアリン酸ケイ素などの周期律表第14族金属の酸化物、塩基性炭酸塩、塩基性カルボン酸塩、塩基性亜燐酸塩、塩基性亜硫酸塩など;酸化亜鉛、酸化アルミニウム、水酸化鉄;ハイドロタルサイト類等の複合金属水酸化物;水酸化アルミニウムゲル化合物;などが挙げられる。これらは一種単独で用いられてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。
【0031】
前記酸化マグネシウムとしては、神島化学工業株式会社製、スターマグU、U−2、CX−150、M、M−2、L、P、C、CX、G、L−10を挙げることができ、特にスターマグLが好ましい。前記ハイドロタルサイト類としては、Mg4.3l2(OH)12.6CO3・mH2O(協和化学工業株式会社製 DHT−4A)などが挙げられる。
【0032】
なかでも、前記受酸剤は、電池内部の導線や電極の発錆をより高く防止することができることから、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化亜鉛(ZnO)、四酸化三鉛(Pb34)、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)、水酸化アルミニウム(Al(OH)3)、水酸化鉄(II)(Fe(OH)2)、炭酸カルシウム(CaCO3)、およびハイドロタルサイト(Mg6Al2(OH)16CO3)、が好ましく挙げられ、特に、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)、酸化マグネシウム(MgO)、および酸化亜鉛(ZnO)が好ましく挙げられる。
【0033】
本発明の太陽電池用裏面側封止膜は、エチレン酢酸ビニル共重合体を含む。前記封止膜には、エチレン酢酸ビニル共重合体の他に必要に応じて、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール(PVB樹脂)、変性PVBなどのポリビニルアセタール系樹脂、塩化ビニル樹脂を、併用しても良いが、エチレン酢酸ビニル共重合体のみを用いることが好ましい。
【0034】
前記エチレン酢酸ビニル共重合体における酢酸ビニルの含有量は、前記エチレン酢酸ビニル共重合体100質量部に対して5〜50質量部、特に10〜40質量部とするのが好ましい。酢酸ビニルの含有量が、5質量部未満であると高温で架橋硬化させる場合に得られる樹脂膜の透明度が充分でない恐れがあり、50質量部を超えると酢酸等が発生しやすくなる恐れがある。
【0035】
本発明の太陽電池用封止膜に用いられる架橋剤としては、有機過酸化物又は光重合開始剤を用いることが好ましい。なかでも、接着力、透明性、耐湿性、耐貫通性の温度依存性が改善された中間膜が得られることから、有機過酸化物を用いるのが好ましい。
【0036】
前記有機過酸化物としては、100℃以上の温度で分解してラジカルを発生するものであれば、どのようなものでも使用することができる。有機過酸化物は、一般に、成膜温度、組成物の調整条件、硬化温度、被着体の耐熱性、貯蔵安定性を考慮して選択される。特に、半減期10時間の分解温度が70℃以上のものが好ましい。
【0037】
前記有機過酸化物としては、樹脂の加工温度・貯蔵安定性の観点から例えば、ベンゾイルパーオキサイド系硬化剤、tert−ヘキシルパーオキシピバレート、tert−ブチルパーオキシピバレート、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、ジ−n−オクタノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ステアロイルパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、スクシニックアシドパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(2−エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、tert−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、4−メチルベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、m−トルオイル+ベンゾイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)−2−メチルシクロヘキサネート、1,1−ビス(tert−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサネート、1,1−ビス(tert−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサネート、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキサシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサネート、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)シクロヘキサネート、2,2−ビス(4,4−ジ−tert−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)シクロドデカン、tert−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、tert−ブチルパーオキシマレイックアシド、tert−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルヘキサノエート、tert−ブチルパーオキシラウレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(メチルベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、tert−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート、tert−ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5−ジ−メチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、等が挙げられる。
【0038】
前記ベンゾイルパーオキサイド系硬化剤としては、70℃以上の温度で分解してラジカルを発生するものであればいずれも使用可能であるが、半減期10時間の分解温度が50℃以上のものが好ましく、調製条件、成膜温度、硬化(貼り合わせ)温度、被着体の耐熱性、貯蔵安定性を考慮して適宜選択できる。使用可能なベンゾイルパーオキサイド系硬化剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキシル−2,5−ビスパーオキシベンゾエート、p−クロロベンゾイルパーオキサイド、m−トルオイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート等が挙げられる。ベンゾイルパーオキサイド系硬化剤は1種でも2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0039】
前記太陽電池用裏面側封止膜において、前記有機過酸化物の含有量は、エチレン酢酸ビニル樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1〜2質量部、より好ましくは0.2〜1.5質量部であることが好ましい。前記有機過酸化物の含有量は、少ないと得られる封止膜の透明性が低下する恐れがあり、多くなると共重合体との相溶性が悪くなる恐れがある。
【0040】
また、光重合開始剤としては、公知のどのような光重合開始剤でも使用することができるが、配合後の貯蔵安定性の良いものが望ましい。このような光重合開始剤としては、例えば、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−(4−(メチルチオ)フェニル)−2−モルホリノプロパン−1などのアセトフェノン系、ベンジルジメチルケタ−ルなどのベンゾイン系、ベンゾフェノン、4−フェニルベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノンなどのベンゾフェノン系、イソプロピルチオキサントン、2−4−ジエチルチオキサントンなどのチオキサントン系、その他特殊なものとしては、メチルフェニルグリオキシレ−トなどが使用できる。特に好ましくは、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−(4−(メチルチオ)フェニル)−2−モルホリノプロパン−1、ベンゾフェノン等が挙げられる。これら光重合開始剤は、必要に応じて、4−ジメチルアミノ安息香酸のごとき安息香酸系又は、第3級アミン系などの公知慣用の光重合促進剤の1種または2種以上を任意の割合で混合して使用することができる。また、光重合開始剤のみの1種単独または2種以上の混合で使用することができる。
【0041】
太陽電池用裏面側封止膜において、前記光重合開始剤の含有量は、エチレン酢酸ビニル樹脂100質量部に対して0.5〜5.0質量部であることが好ましい。
【0042】
本発明の太陽電池用裏面側封止膜は、着色剤をさらに含んでいるのが好ましい。裏面側封止膜として着色剤を含むものを用いると、太陽電池内部における裏面側封止膜と受光面側封止膜との界面における光の反射や着色剤による乱反射で、太陽電池用セル同士の間に入射した光や、セルを通過した光を乱反射させ、再度セルに入射させることができるようになり、太陽電池に入射した光の利用効率が高まり、発電効率を向上させることができる。
【0043】
前記着色剤としては、チタン白、炭酸カルシウム等による白色着色剤;ウルトラマリン等による青色着色剤;カーボンブラック等による黒色着色剤;ガラスビーズ及び光拡散剤等による乳白色着色剤などを使用することができる。好ましくは、チタン白による白色着色剤を使用することができる。
【0044】
前記着色剤は、前記裏面側封止膜に含まれるエチレン酢酸ビニル共重合体100重量部に対して、好ましくは2〜10重量部、より好ましくは3〜6質量部、含まれるのが好ましい。
【0045】
前記太陽電池用裏面側封止膜の厚さは、特に制限されず、一般に50μm〜2mmの範囲である。
【0046】
前記太陽電池用裏面側封止膜は、膜の種々の物性(機械的強度、接着性、透明性等の光学的特性、耐熱性、耐光性、架橋速度等)の改良あるいは調整、特に機械的強度の改良のため、必要に応じて可塑剤、接着向上剤、アクリロキシ基含有化合物、メタクリロキシ基含有化合物及び/又はエポキシ基含有化合物など架橋助剤等の各種添加剤をさらに含んでいてもよい。
【0047】
前記可塑剤としては、特に限定されるものではないが、一般に多塩基酸のエステル、多価アルコールのエステルが使用される。その例としては、ジオクチルフタレート、ジヘキシルアジペート、トリエチレングリコール−ジ−2−エチルブチレート、ブチルセバケート、テトラエチレングリコールジヘプタノエート、トリエチレングリコールジペラルゴネートを挙げることができる。可塑剤は一種用いてもよく、二種以上組み合わせて使用しても良い。可塑剤の含有量は、EVA100質量部に対して5質量部以下の範囲が好ましい。
【0048】
前記接着向上剤は、シランカップリング剤を用いることができる。前記シランカップリング剤の例として、γ−クロロプロピルメトキシシラン、ビニルエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシランを挙げることができる。これらシランカップリング剤は、単独で使用しても、又は2種以上組み合わせて使用しても良い。また前記接着向上剤の含有量は、EVA100質量部に対して5質量部以下であることが好ましい。
【0049】
前記アクリロキシ基含有化合物及び前記メタクリロキシ基含有化合物としては、一般にアクリル酸あるいはメタクリル酸誘導体であり、例えばアクリル酸あるいはメタクリル酸のエステルやアミドを挙げることができる。エステル残基の例としては、メチル、エチル、ドデシル、ステアリル、ラウリル等の直鎖状のアルキル基、シクロヘキシル基、テトラヒドルフルフリル基、アミノエチル基、2−ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基、3−クロロ−2−ヒドロキシプオピル基を挙げることができる。アミドの例としては、ジアセトンアクリルアミドを挙げることができる。また、エチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の多価アルコールとアクリル酸あるいはメタクリル酸のエステルも挙げることができる。
【0050】
前記エポキシ含有化合物としては、トリグリシジルトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、フェノール(エチレンオキシ)5グリシジルエーテル、p−t−ブチルフェニルグリシジルエーテル、アジピン酸ジグリシジルエステル、フタル酸ジグリシジルエステル、グリシジルメタクリレート、ブチルグリシジルエーテルを挙げることができる。
【0051】
前記アクリロキシ基含有化合物、前記メタクリロキシ基含有化合物又は前記エポキシ基含有化合物は、それぞれEVA100質量部に対してそれぞれ一般に0.5〜5.0質量部、特に1.0〜4.0質量部含まれていることが好ましい。
【0052】
さらに、本発明の太陽電池用裏面側封止膜は、紫外線吸収剤、光安定剤および老化防止剤を含んでいてもよい。
【0053】
前記紫外線吸収剤としては、特に制限されないが、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−ドデシロキシベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2'−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系紫外線吸収剤が好ましく挙げられる。なお、上記ベンゾフェノン系紫外線吸収剤の配合量は、エチレン酢酸ビニル樹脂100質量部に対して0.01〜5質量部であることが好ましい。
【0054】
前記光安定剤としてはヒンダードアミン系と呼ばれる光安定剤を用いることが好ましく、例えば、LA−52、LA−57、LA−62、LA−63LA−63p、LA−67、LA−68(いずれも旭電化(株)製)、Tinuvin744、Tinuvin 770、Tinuvin 765、Tinuvin144、Tinuvin 622LD、CHIMASSORB 944LD(いずれもチバ・ガイギー社製)、UV−3034(B.F.グッドリッチ社製)等を挙げることができる。なお、上記光安定剤は、単独で使用しても、2種以上組み合わせて用いてもよく、その配合量は、エチレン酢酸ビニル樹脂100質量部に対して0.01〜5質量部であることが好ましい。
【0055】
前記老化防止剤としては、例えばN,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオナミド〕等のヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系熱安定剤、ラクトン系熱安定剤、ビタミンE系熱安定剤、イオウ系熱安定剤等が挙げられる。
【0056】
本発明の太陽電池用裏面側封止膜は、エチレン酢酸ビニル共重合体、受酸剤、架橋剤及び必要に応じてその他の添加剤を含む樹脂組成物を用いて、公知の方法に準じて成膜することにより得られる。例えば、前記樹脂組成物を、押出成形等を用いて加熱圧延することによって成膜する方法などを用いることができる。加熱は、架橋剤が分解しない程度で行うのが好ましく、一般的に50〜90℃の範囲である。
【0057】
上述した本発明による太陽電池用裏面側封止膜は、太陽電池において太陽電池用セルの受光面に対して反対の裏面側に配置される封止膜として用いられる。前記太陽電池用裏面側封止膜を用いた太陽電池の構成としては、受光面側透明保護部材と裏面側保護部材との間に、封止膜を介して太陽電池用セルを封止してなり、前記裏面側透明保護部材と前記太陽電池用セルとの間に配置される封止膜として上述した本発明の太陽電池用裏面側封止膜を用いた構成が挙げられる。このような構成を有する太陽電池は、裏面側封止膜が高濃度で受酸剤を含有することにより、電池内部の導線や電極の発錆を受酸剤により抑制するとともに、長期間に亘る使用における受酸剤による太陽電池の発電性能の低下を抑制することができ、優れた耐久性を有する。
【0058】
前記太陽電池において、受光面側透明保護部材と太陽電池用セルとの間に配置される受光面側封止膜は、少量であれば受酸剤を含有していてもよい。前記受光面側封止膜における受酸剤の含有量は、エチレン酢酸ビニル共重合体100質量部に対して0.15質量部以下、特に0.1質量部以下、さらに0.05質量部以下とするのが好ましい。このように太陽電池内部において裏面側と受光面側とに配置される封止膜における受酸剤の含有量を最適化することにより、高い発電性能を確保したまま太陽電池内部の金属の腐食をより高く防止することができる。
【0059】
なお、受光面側封止膜に用いられる受酸剤としては、裏面側封止膜において上述したものと同様のものが用いられる。
【0060】
本発明の太陽電池は、受光面側透明保護部材と裏面側保護部材との間に、エチレン酢酸ビニル共重合体を含む封止膜を介して太陽電池用セルを封止することにより得られる。前記太陽電池において、太陽電池用セルを十分に封止するには、図1に示すように受光面側透明保護部材1、受光面側封止膜3A、太陽電池用セル4、裏面側封止膜3B及び裏面側保護部材2を積層し、積層体を常法に従って、真空ラミネータで温度135〜180℃、さらに140〜180℃、特に155〜180℃、脱気時間0.1〜5分、プレス圧力0.1〜1.5kg/cm2、プレス時間5〜15分で加熱圧着すればよい。この加熱加圧時に、受光面側封止膜3Aおよび裏面側封止膜3Bに含まれるエチレン酢酸ビニル共重合体が架橋して、受光面側封止膜3Aおよび裏面側封止膜3Bを介して、受光面側透明保護部材1、裏面側透明部材2、および太陽電池用セル4を一体化されることにより、太陽電池用セル4を封止することができる。
【0061】
本発明の太陽電池に使用される表側透明保護部材は、通常珪酸塩ガラスなどのガラス基板であるのがよい。ガラス基板の厚さは、0.1〜10mmが一般的であり、0.3〜5mmが好ましい。ガラス基板は、一般に、化学的に、或いは熱的に強化させたものであってもよい。
【0062】
本発明で使用される裏面保護部材は、PETなどのプラスチックフィルムであるが、耐熱性を考慮してフッ化ポリエチレフィルムが好ましい。
【0063】
なお、本発明の太陽電池は、上述した通り、受光面側および裏面側に用いられる封止膜に特徴を有する。したがって、受光面側透明保護部材、裏面側保護部材、および太陽電池用セルなどの前記封止膜以外の部材については、特に制限されず、従来公知の太陽電池と同様の構成を有していればよい。
【実施例】
【0064】
以下、本発明を実施例により説明する。本発明は、以下の実施例により制限されるものではない。
【0065】
(製造例1)
EVA(EVA100質量部に対する酢酸ビニルの含有量:26質量部)100質量部
架橋剤(2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン)1質量部
架橋助剤(トリアリルイソシアヌレート)2質量部
受酸剤(Mg(OH)2、平均粒子径3μm)0.5質量部
上記の配合で、これらの材料をロールミルに供給し、80℃で、混練して樹脂組成物を調製した。得られた樹脂組成物を、100℃で、カレンダ成形し、放冷後、厚さ0.6mmの封止膜(1)を得た。
【0066】
(製造例2及び3)
受酸剤の配合量を表1に示す値とした以外は、製造例1と同様にして封止膜(2)及び(3)を作製した。
【0067】
(評価)
上記で作製した封止膜および太陽電池の評価を下記手順に従って行った。
【0068】
1.封止膜における酢酸量
封止膜を、室温(25℃)のアセトン2mlに浸漬させて、50時間、撹拌した後、アセトン抽出液に含まれる酢酸量[mg]をガスクロマトグラフを用いて定量した。結果を表1に示す。
【0069】
2.太陽電池の発電性能
上記で作製した封止膜(1)〜(3)を、表2に示すように受光面側及び裏面側用封止膜としてそれぞれ用い、図1に示すように、ガラス板(厚さ0.3mm)よりなる受光面側透明保護部材1と、フッ化ポリエチレンフィルム(厚さ50μm)よりなる裏面側保護部材2との間にシリコン発電素子からなる太陽電池用セル4を封止して太陽電池を製造した。なお、封止は、真空ラミネータで、真空下、温度150℃で、加熱圧着し、EVAを架橋することにより行った。
【0070】
上記で作製した太陽電池に、AM1.5にスペクトル調整したソーラーシミュレータによって、25℃、照射強度1000mW/cm2の擬似太陽光を照射し、太陽電池の開放電圧[V]、および、1cm2当たりの公称最大出力動作電流[A]および公称最大出力動作電圧[V]を測定し、これらの積から公称最大出力[W](JIS C8911 1998)を求めた。
【0071】
次に、太陽電池を、温度121℃、湿度100%RHの環境下に、400時間放置し、放置後の太陽電池について上記と同様にして公称最大出力[W]を求めた。結果を表2に示す。
【0072】
【表1】

【0073】
【表2】

【0074】
表2の太陽電池(1)及び(2)は本発明の一対の封止膜を用いた実施例に該当し、表2の太陽電池(3)〜(5)は比較例に該当する。表2に示す結果から、本発明の一対の封止膜を用いた太陽電池(1)及び(2)は、公称最大出力の低下が抑制され、耐久性がさらに向上されていることがわかる。
【符号の説明】
【0075】
1 受光面側透明保護部材、
2 裏面側保護部材、
3A 受光面側封止膜、
3B 裏面側封止膜、
4 太陽電池用セル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン酢酸ビニル共重合体及び受酸剤を含み、且つ前記受酸剤を前記エチレン酢酸ビニル共重合体100質量部に対して0.15質量部以下含む太陽電池用受光面側封止膜と、
エチレン酢酸ビニル共重合体、架橋剤及び受酸剤を含み、且つ前記受酸剤を、前記エチレン酢酸ビニル共重合体100質量部に対して0.5質量部以上含む太陽電池用裏面側封止膜と、を有する一対の太陽電池用封止膜。
【請求項2】
前記太陽電池用裏面側封止膜が受酸剤を、前記エチレン酢酸ビニル共重合体100質量部に対して0.5質量部を超えて5.0質量部以下含むことを特徴とする請求項1に記載の一対の太陽電池用封止膜。
【請求項3】
前記受酸剤が、5μm以下の平均粒子径を有する受酸剤粒子である請求項1又は2のいずれか1項に記載の一対の太陽電池用封止膜。
【請求項4】
前記受酸剤が、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、四酸化三鉛、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化鉄(II)、炭酸カルシウム、及びハイドロタルサイトよりなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の一対の太陽電池用封止膜。
【請求項5】
前記太陽電池用裏面側封止膜に用いられるエチレン酢酸ビニル共重合体における酢酸ビニルの含有量が、前記エチレン酢酸ビニル共重合体100質量部に対して5〜50質量部であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の一対の太陽電池用封止膜。
【請求項6】
前記太陽電池用裏面側封止膜が、着色剤をさらに含む請求項1〜5のいずれか1項に記載の一対の太陽電池用封止膜。
【請求項7】
前記着色剤を、前記エチレン酢酸ビニル共重合体100質量部に対して2〜10質量部含むことを特徴とする請求項6に記載の一対の太陽電池用封止膜。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−179810(P2009−179810A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−121612(P2009−121612)
【出願日】平成21年5月20日(2009.5.20)
【分割の表示】特願2006−302433(P2006−302433)の分割
【原出願日】平成18年11月8日(2006.11.8)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】