説明

三次元測定機

【課題】プローブを交換した場合や、プローブの姿勢を変更した場合であっても測定値の誤差を適切に補正することができる三次元測定機の提供。
【解決手段】三次元測定機は、プローブ21と、プローブ21を保持するとともに、プローブ21を測定空間内で移動させる移動機構22と、移動機構22を制御するホストコンピュータとを備える。ホストコンピュータは、移動機構22に基準のプローブを保持させたときの基準球231の中心位置から基点BまでのプローブベクトルV、及び移動機構22にプローブ21Bを保持させたときの基準球231の中心位置から基点BまでのプローブベクトルVを記憶する記憶部と、プローブベクトルV、及びプローブベクトルVに基づいて、基点Bの誤差を補正するための補正ベクトルCVを算出する補正ベクトル算出部と、補正ベクトルCVに基づいて、基点Bの誤差を補正する基点補正部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元測定機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被測定物の三次元位置を測定するためのプローブと、このプローブを保持するとともに、プローブを測定空間内で移動させる移動機構と、移動機構を制御する制御装置とを備える三次元測定機が知られている(例えば、特許文献1参照)。
このような三次元測定機では、移動機構の変形等により測定値に誤差が生じるので、空間精度補正を行うことで測定値の誤差を補正している。
特許文献1に記載の三次元測定機では、空間精度補正を行うことでスピンドル(移動機構)に設定された基準位置(基点)における誤差を補正している。そして、測定空間内に設置された基準球の中心位置(基準座標)を測定することで算出される基準位置からプローブの先端位置(測定子)までのプローブベクトル(位置ベクトル)と、補正された基準位置とを合成することで測定値を算出している。
【0003】
【特許文献1】特開平7−146130号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、プローブを交換した場合や、プローブの姿勢を変更した場合には、プローブの重量や重心の変化によって基準位置が変化するので、特許文献1に記載の三次元測定機では、測定値の誤差を十分に補正することができない場合があるという問題がある。
【0005】
本発明の目的は、プローブを交換した場合や、プローブの姿勢を変更した場合であっても測定値の誤差を適切に補正することができる三次元測定機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の三次元測定機は、被測定物の三次元位置を測定するためのプローブと、前記プローブを保持するとともに、前記プローブを測定空間内で移動させる移動機構と、前記移動機構を制御する制御装置とを備える三次元測定機であって、前記制御装置は、前記移動機構に基準の前記プローブを保持させたときの前記測定空間内における基準座標から前記移動機構に設定された基点までの第1の位置ベクトル、及び前記移動機構に前記基準のプローブとは異なる状態のプローブを保持させたときの前記基準座標から前記基点までの第2の位置ベクトルを記憶する記憶部と、前記第1の位置ベクトル、及び前記第2の位置ベクトルに基づいて、前記基点の誤差を補正するための補正ベクトルを算出する補正ベクトル算出部と、前記補正ベクトル算出部にて算出された補正ベクトルに基づいて、前記基点の誤差を補正する基点補正部とを備えることを特徴とする。
【0007】
ここで、基準のプローブには、例えば、三次元測定機の工場出荷時においてキャリブレーションを実施するために用いるプローブを採用することができる。また、基準のプローブと異なる状態のプローブとは、基準のプローブと重量が異なるプローブや、基準のプローブの姿勢を変更した状態をいうものとする。
したがって、第1の位置ベクトル、及び第2の位置ベクトルは、測定空間内における基準座標を始点とするものであるので、補正ベクトル算出部は、第1の位置ベクトル、及び第2の位置ベクトルに基づいて、基点の誤差を補正するための補正ベクトルを算出することができる。
そして、三次元測定機は、算出された補正ベクトルに基づいて、基点の誤差を補正する基点補正部を備えるので、プローブを交換した場合や、プローブの姿勢を変更した場合であっても測定値の誤差を適切に補正することができる。
【0008】
本発明では、前記制御装置は、前記移動機構の移動量を取得する移動量取得部を備え、前記記憶部には、前記測定空間内における複数の基準座標に係る前記第1の位置ベクトル、及び前記第2の位置ベクトルと、前記移動機構の移動量とが関連付けて記憶され、前記補正ベクトル算出部は、前記移動量取得部にて取得された前記移動機構の移動量に基づいて、前記記憶部に記憶された前記第1の位置ベクトル、及び前記第2の位置ベクトルを取得して前記補正ベクトルを算出することが好ましい。
【0009】
ここで、例えば、プローブを移動させる移動軸を有する移動機構を備える三次元測定機では、移動機構の構造上、基点の誤差は、測定位置、すなわち移動機構の移動量に応じて変化する。
本発明によれば、補正ベクトル算出部は、移動量取得部にて取得された移動量に関連付けられた第1の位置ベクトル、及び第2の位置ベクトルを記憶部から取得して補正ベクトルを算出するので、三次元測定機は、測定値の誤差を更に適切に補正することができる。
【0010】
本発明では、前記補正ベクトル算出部は、前記複数の基準座標に係る前記第1の位置ベクトル、及び前記第2の位置ベクトルを内挿または外挿することで前記補正ベクトルを算出することが好ましい。
【0011】
このような構成によれば、三次元測定機は、測定値の誤差を更に適切に補正することができる。また、記憶部に記憶された複数の基準座標に係る第1の位置ベクトル、及び第2の位置ベクトルの数が少ない場合であっても測定値の誤差を適切に補正することができるので、記憶部の使用領域を低減させることができる。
【0012】
本発明では、前記制御装置は、前記補正ベクトル算出部にて算出された補正ベクトルに基づいて、前記基点補正部にて前記基点の誤差を補正するか否かを判定する補正判定部を備え、前記基点補正部は、前記補正判定部にて前記基点の誤差を補正すると判定された場合に前記基点の誤差を補正することが好ましい。
【0013】
このような構成によれば、例えば、補正判定部を、三次元測定機の使用者により設定された所定の閾値と比較して補正ベクトル算出部にて算出される補正ベクトルが大きい場合にのみ基点補正部にて基点の誤差を補正するように構成することができる。したがって、三次元測定機は、測定値を算出するための演算処理の負荷を低減させることができ、処理速度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
〔第1実施形態〕
以下、本発明の第1実施形態を図面に基づいて説明する。
〔三次元測定機の概略構成〕
図1は、本発明の第1実施形態に係る三次元測定機1を示す全体模式図である。図2は、三次元測定機1の概略構成を示すブロック図である。なお、図1では、上方向を+Z軸方向とし、このZ軸に直交する2軸をそれぞれX軸、及びY軸として説明する。以下の図面においても同様である。
【0015】
三次元測定機1は、図1に示すように、三次元測定機本体2と、三次元測定機本体2の駆動制御を実行するモーションコントローラ3と、操作レバー等を介してモーションコントローラ3に指令を与え、三次元測定機本体2を手動で操作するための操作手段4と、モーションコントローラ3に所定の指令を与えるとともに、三次元測定機本体2上に設置された被測定物Wの形状解析等の演算処理を実行するホストコンピュータ5と、ホストコンピュータ5に接続される入力手段61、及び出力手段62とを備える。なお、入力手段61は、三次元測定機1における測定条件等をホストコンピュータ5に入力するものであり、出力手段62は、三次元測定機1による測定結果を出力するものである。
【0016】
三次元測定機本体2は、被測定物Wの表面に当接される測定子211Aを先端側(−Z軸方向側)に有し、被測定物Wの三次元位置を測定するためのプローブ21と、プローブ21の基端側(+Z軸方向側)を保持するとともに、プローブ21を測定空間内で移動させる移動機構22と、移動機構22が立設される定盤23とを備える。なお、定盤23には、三次元測定機本体2のキャリブレーションをするための半径既知の基準球231が設置され、この基準球231は、定盤23上の複数位置に設置することができる。
移動機構22は、プローブ21の基端側を保持するとともに、プローブ21のスライド移動を可能とするスライド機構24と、スライド機構24を駆動することでプローブ21を移動させる駆動機構25とを備える。
【0017】
スライド機構24は、定盤23におけるX軸方向の両端から+Z軸方向に延出し、Y軸方向に沿ってスライド移動可能に設けられる2つのビーム支持体241と、各ビーム支持体241にて支持され、X軸方向に沿って延出するビーム242と、Z軸方向に沿って延出する筒状に形成され、ビーム242上をX軸方向に沿ってスライド移動可能に設けられるコラム243と、コラム243の内部に挿入されるとともに、コラム243内をZ軸方向に沿ってスライド移動可能に設けられるスピンドル244とを備える。したがって、移動機構22は、X,Y,Z軸の各軸方向にプローブ21を移動させる複数の移動軸を備えている。そして、スピンドル244は、−Z軸方向側の端部においてプローブ21の基端側を保持している。なお、プローブ21としては、複数の種類のプローブが用意されており、これらのプローブの中から選択してスピンドル244に保持させることができる。
【0018】
駆動機構25は、図1、及び図2に示すように、各ビーム支持体241のうち、+X軸方向側のビーム支持体241を支持するとともに、Y軸方向に沿ってスライド移動させるY軸駆動部251Yと、ビーム242上をスライドさせてコラム243をX軸方向に沿って移動させるX軸駆動部251X(図1において図示略)と、コラム243内をスライドさせてスピンドル244をZ軸方向に沿って移動させるZ軸駆動部251Z(図1において図示略)とを備える。
【0019】
X軸駆動部251X、Y軸駆動部251Y、及びZ軸駆動部251Zには、図2に示すように、コラム243、各ビーム支持体241、及びスピンドル244の各軸方向の位置を検出するためのX軸スケールセンサ252X、Y軸スケールセンサ252Y、及びZ軸スケールセンサ252Zがそれぞれ設けられている。なお、各スケールセンサ252X,252Y,252Zは、コラム243、各ビーム支持体241、及びスピンドル244の移動量に応じたパルス信号を出力する位置センサである。
【0020】
図3は、スピンドル244にてプローブ21を保持している部分の拡大模式図である。
プローブ21は、図3に示すように、測定子211Aを先端側に有するスタイラス211と、スタイラス211の基端側を支持する支持機構212と、支持機構212をスピンドル244に対して回転可能とする回転機構213とを備える。
支持機構212は、スタイラス211をX,Y,Z軸の各軸方向に付勢することで所定位置に位置決めするように支持するとともに、外力が加わった場合、すなわち被測定物Wに当接した場合には、スタイラス211を一定の範囲内でX,Y,Z軸の各軸方向に移動可能としている。この支持機構212は、図2に示すように、スタイラス211の各軸方向の位置を検出するためのX軸プローブセンサ212X、Y軸プローブセンサ212Y、及びZ軸プローブセンサ212Zを備える。なお、各プローブセンサ212は、各スケールセンサ252と同様にスタイラス211の各軸方向の移動量に応じたパルス信号を出力する位置センサである。
【0021】
回転機構213は、支持機構212、及びスタイラス211を回転させることでプローブ21の向き(プローブ21の基端側から先端側に向かう方向)、すなわちプローブ21の姿勢を変更する機構である。なお、回転機構213は、回転中心Rを中心としてX,Y,Z軸の各軸回りに支持機構212、及びスタイラス211を回転可能としている。
【0022】
モーションコントローラ3は、図2に示すように、操作手段4、またはホストコンピュータ5からの指令に応じて駆動機構25を制御する駆動制御部31と、各スケールセンサ252、及び各プローブセンサ212から出力されるパルス信号を計数するカウンタ部32とを備える。
カウンタ部32は、各スケールセンサ252から出力されるパルス信号をカウントしてスライド機構24の移動量(s、s、s)を計測するスケールカウンタ321と、各プローブセンサ212から出力されるパルス信号をカウントしてスタイラス211の移動量(p、p、p)を計測するプローブカウンタ322とを備える。そして、スケールカウンタ321、及びプローブカウンタ322にて計測されたスライド機構24の移動量(以下、スケール値Sとする)、及びスタイラス211の移動量(以下、プローブ値Pとする)は、ホストコンピュータ5に出力される。
【0023】
制御装置としてのホストコンピュータ5は、CPU(Central Processing Unit)や、メモリ等を備えて構成され、モーションコントローラ3に所定の指令を与えることで三次元測定機本体2を制御するものであり、移動指令部51と、移動量取得部52と、測定値算出部53と、形状解析部54と、記憶部55とを備える。
移動指令部51は、モーションコントローラ3の駆動制御部31に所定の指令を与え、三次元測定機本体2の移動機構22に移動をさせる。具体的に、例えば、移動指令部51は、測定子211Aを被測定物Wの表面に当接させた状態でプローブ21を被測定物Wの表面に倣って移動させるための移動方向、及び移動速度からなる移動ベクトルを指令値として出力する。
【0024】
移動量取得部52は、スケールカウンタ321、及びプローブカウンタ322にて計測されたスケール値S、及びプローブ値Pを所定のサンプリング間隔で取得する。すなわち、移動量取得部52は、移動機構22の移動量を取得する。
測定値算出部53は、移動量取得部52にて取得されたスケール値S、及びプローブ値Pに基づいて測定値、すなわち測定子211Aの位置を算出する。なお、スケール値Sは、キャリブレーションを実施することによって、プローブ21の向きが−Z軸方向であり、かつ、移動によるスライド機構24の変形、及び支持機構212内におけるスタイラス211の移動が全く生じていない場合における測定子211Aの位置を示すように調整されている。
【0025】
スケール値Sのキャリブレーションは、基準球231を測定することで実施する。具体的に、図3に示すように、スピンドル244には先端側(−Z軸方向側)の端部に基点Bが設定されている。そして、測定空間内に設置された基準球231の中心位置(基準座標)を測定することで、基準球231の中心位置から基点BまでのプローブベクトルVを算出する。なお、測定子211Aの位置は、基点Bの位置と、プローブベクトルVとを合成することでスケール値Sとして求められる。また、基点Bは、空間精度補正を実施する基準となる位置である。
【0026】
形状解析部54は、図2に示すように、測定値算出部53にて算出された測定値を合成して被測定物Wの表面形状データを算出し、算出された被測定物Wの表面形状データを輪郭データと対比することで誤差や歪みなどを求める等の形状解析を行う。
記憶部55は、ホストコンピュータ5で用いられるデータを記憶するものであり、例えば、入力手段61を介して入力される測定条件や、出力手段62を介して出力される測定結果等を記憶する。なお、入力手段61を介して入力される測定条件としては、例えば、移動量取得部52にてスケール値S、及びプローブ値Pを取得するサンプリング間隔等がある。
【0027】
〔測定値算出部、及び記憶部の詳細構成〕
図4は、測定値算出部53、及び記憶部55の詳細構成を示すブロック図である。
記憶部55には、図4に示すように、プローブベクトルV、及びプローブベクトルVが記憶されている。
第1の位置ベクトルとしてのプローブベクトルVは、図3に示すように、スピンドル244に基準のプローブ21Aを保持させたときの基準球231の中心位置から基点Bまでの位置ベクトルをキャリブレーションによって算出したものである。なお、本実施形態では、基準のプローブ21Aは、三次元測定機1の工場出荷時においてキャリブレーションを実施するために用いるプローブである。このプローブベクトルVは、三次元測定機1の工場出荷時において、基準のプローブ21Aをスピンドル244に保持させた状態でキャリブレーションを実施することによって算出され、記憶部55に記憶される。
【0028】
第2の位置ベクトルとしてのプローブベクトルVは、基準のプローブ21Aと異なる状態のプローブを保持させたときの基準球231の中心位置から基点Bまでの位置ベクトルをキャリブレーションによって算出したものである。ここで、基準のプローブ21Aと異なる状態のプローブとは、基準のプローブ21Aと重量が異なるプローブや、基準のプローブ21Aの姿勢を変更した状態をいう。このプローブベクトルVは、測定前において、三次元測定機1の使用者が測定に用いるプローブをスピンドル244に保持させるとともに、プローブの姿勢を設定した状態でキャリブレーションを実施することによって算出され、記憶部55に記憶される。
【0029】
図5は、基準のプローブ21Aと重量が異なるプローブ21Bをスピンドル244に保持させた状態を示す拡大模式図である。図6は、基準のプローブ21Aの姿勢を変更した状態を示す拡大模式図である。
例えば、基準のプローブ21Aより重量が重いプローブ21Bをスピンドル244に保持させた場合には、図5に示すように、プローブ21Bの重量によってスライド機構24が変形し、基点Bの位置が下方側(−Z軸方向側)に移動する。
また、例えば、支持機構212、及びスタイラス211を回転させることで、基準のプローブ21Aの姿勢を変更した場合には、図6に示すように、重心の変化によってスライド機構24が変形し、基点Bの位置が斜め下方側に移動する。
【0030】
このように、基準のプローブ21Aと重量が異なるプローブや、基準のプローブ21Aの姿勢を変更した状態とすると、基点Bの位置が移動して誤差が生じる。したがって、空間精度補正や、スケール値Sに誤差が生じることとなる。
なお、図5、及び図6では、基点Bの位置が移動する前の基準のプローブ21A、及びプローブ21Bの状態を2点鎖線で示している。
【0031】
測定値算出部53は、図4に示すように、補正ベクトル算出部531と、補正判定部532と、基点補正部533とを備える。
補正ベクトル算出部531は、プローブベクトルV、及びプローブベクトルVに基づいて、基点Bの誤差を補正するための補正ベクトルCVを算出する。具体的に、補正ベクトル算出部531は、図5、及び図6に示すように、プローブベクトルVからプローブベクトルVを減算することで補正ベクトルCVを算出する。
【0032】
補正判定部532は、補正ベクトル算出部531にて算出された補正ベクトルCVに基づいて、基点補正部533にて基点Bの誤差を補正するか否かを判定する。なお、本実施形態では、補正判定部532は、補正ベクトルCVと、所定の閾値とを比較することで判定を行う。この所定の閾値は、入力手段61を介して三次元測定機1の使用者により入力されるものであり、補正判定部532は、補正ベクトルCVの大きさが所定の閾値より大きい場合には、基点補正部533にて基点Bの誤差を補正すると判定し、小さい場合には、基点補正部533にて基点Bの誤差を補正しないと判定する。
基点補正部533は、補正判定部532にて基点Bの誤差を補正すると判定されると、補正ベクトルCVに基づいて、基点Bの誤差を補正する。具体的に、基点補正部533は、移動量取得部52にて取得されたスケール値Sに補正ベクトルCVを加算することで基点Bの誤差を補正する。
【0033】
図7は、移動機構22、移動指令部51、及び測定値算出部53の関係を示す図である。
移動指令部51にて出力される指令値は、モーションコントローラ3の駆動制御部31に入力され、図7に示すように、移動機構22に移動をさせる。この際、移動量取得部52は、移動機構22の移動量に応じたスケール値Sを取得する(図2参照)。移動量取得部52にてスケール値Sが取得されると、基点補正部533は、スケール値Sに補正ベクトルCVを加算する。そして、測定値算出部53は、補正ベクトルCVに基づいて補正されたスケール値Sに対して更に空間精度補正を施し、空間精度補正が施されたスケール値Sと、移動量取得部52にて取得されるプローブ値Pとに基づいて測定値を算出する。
【0034】
このような本実施形態によれば以下の効果がある。
(1)プローブベクトルV、及びプローブベクトルVは、基準球231の中心位置を始点とするものであるので、補正ベクトル算出部531は、プローブベクトルV、及びプローブベクトルVに基づいて、基点Bの誤差を補正するための補正ベクトルCVを算出することができる。そして、三次元測定機1は、算出された補正ベクトルCVに基づいて、基点Bの誤差を補正する基点補正部533を備えるので、プローブを交換した場合や、プローブの姿勢を変更した場合であっても測定値の誤差を適切に補正することができる。
【0035】
(2)補正判定部532は、三次元測定機1の使用者により設定された所定の閾値と比較して補正ベクトル算出部531にて算出される補正ベクトルCVが大きい場合にのみ基点補正部533にて基点Bの誤差を補正するように構成されているので、三次元測定機1は、測定値を算出するための演算処理の負荷を低減させることができ、処理速度を向上させることができる。
【0036】
〔第2実施形態〕
以下、本発明の第2実施形態を図面に基づいて説明する。
なお、以下の説明では、既に説明した部分については、同一符号を付してその説明を省略する。
図8は、本発明の第2実施形態に係る測定値算出部53A、及び記憶部55Aの詳細構成を示すブロック図である。
前記第1実施形態では、記憶部55には、三次元測定機1の測定空間内における1箇所に設置された基準球231に係るプローブベクトルV、及びプローブベクトルVが記憶されていた。
これに対して、本実施形態では、図8に示すように、記憶部55Aには、三次元測定機1の測定空間内におけるn箇所に設置される基準球231に係る第1の位置ベクトルとしてのプローブベクトルV11〜V1n、及び第2の位置ベクトルとしてのプローブベクトルV21〜V2nが記憶されている点で異なる。
【0037】
図9は、基準球231の複数の設置位置を示す模式図である。なお、図9においては、三次元測定機1の測定空間を2点鎖線で示している。
プローブベクトルV11〜V1n、及びプローブベクトルV21〜V2nは、図9に示すように、三次元測定機1の測定空間内における複数の位置に設置される基準球231の中心位置から基点Bまでの位置ベクトルをキャリブレーションによって算出したものである。なお、図9においては、設置位置の一部のみを図示し、その他の設置位置の図示を省略している。
【0038】
図10は、スピンドル244をスライド移動させた場合における基点Bの位置を示す模式図である。なお、図10では、Z軸方向における3つの位置において、スピンドル244をそれぞれ図示している。
スピンドル244は、図示は省略するが、コラム243内に設けられた案内機構によってZ軸方向に沿ってスライド移動可能に設けられている。この案内機構は、空気静圧軸受等から構成され、スピンドル244の一部を支持している。このため、スピンドル244が−Z軸方向にスライド移動するに従って、案内機構と、基点Bとが離間する。したがって、基準のプローブ21Aの姿勢を変更した場合には、重心の位置が変化するので、図10に示すように、スピンドル244が−Z軸方向にスライド移動するに従って、基点Bの位置が移動する。
【0039】
また、三次元測定機1では、X,Y,Z軸の複数の移動軸を有する移動機構22の構造上、基点Bの誤差は、測定位置、すなわち移動機構22の移動量に応じて変化する。
したがって、本実施形態では、基準球231は、図9に示すように、測定空間内において立体的に複数の位置に設置される。
そして、測定空間内における複数の位置に設置される基準球231の中心位置を測定することで算出されるプローブベクトルV11〜V1n、及びプローブベクトルV21〜V2nは、移動機構22の移動量、すなわちスケール値Sに関連付けられて記憶部55Aに記憶される。
【0040】
測定値算出部53Aは、図8に示すように、補正ベクトル算出部531Aを備える。
補正ベクトル算出部531Aは、記憶部55Aに記憶されたプローブベクトルV11〜V1n、及びプローブベクトルV21〜V2nと、移動量取得部52にて取得されたスケール値Sとに基づいて補正ベクトルCVを算出する。
具体的に、まず、補正ベクトル算出部531Aは、移動量取得部52にて取得されたスケール値Sに関連付けられた第1の位置ベクトル(以下、プローブベクトルV1kとする)、及び第2の位置ベクトル(以下、プローブベクトルV2kとする)を記憶部55Aから取得する。この際、補正ベクトル算出部531Aは、プローブベクトルV11〜V1n、及びプローブベクトルV21〜V2nを内挿または外挿することでプローブベクトルV1k、及びプローブベクトルV2kを取得する。
次に、補正ベクトル算出部531Aは、プローブベクトルV2kからプローブベクトルV1kを減算することで補正ベクトルCVを算出する。
【0041】
このような本実施形態においても、前記第1実施形態における作用、効果と同様の作用、効果を奏することができる他、以下の作用、効果を奏することができる。
(3)補正ベクトル算出部531Aは、移動量取得部52にて取得されたスケール値Sに関連付けられたプローブベクトルV1k、及びプローブベクトルV2kを記憶部55Aから取得して補正ベクトルCVを算出するので、三次元測定機1は、測定値の誤差を更に適切に補正することができる。
(4)補正ベクトル算出部531Aは、プローブベクトルV11〜V1n、及びプローブベクトルV21〜V2nを内挿または外挿することで、プローブベクトルV1k、及びプローブベクトルV2kを取得するので、記憶部55Aに記憶されたプローブベクトルV11〜V1n、及びプローブベクトルV21〜V2nの数が少ない場合であっても測定値の誤差を適切に補正することができ、記憶部55Aの使用領域を低減させることができる。
【0042】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、前記各実施形態では、補正判定部532は、補正ベクトルCVと、入力手段61を介して三次元測定機1の使用者により入力される所定の閾値とを比較することで判定を行っていた。これに対して、例えば、移動機構の移動量に基づいて判定を行う等、他の値に基づいて基点補正部にて基点の誤差を補正するか否かを判定してもよい。なお、三次元測定機は、補正判定部を備えていなくてもよい。
【0043】
前記第2実施形態では、補正ベクトル算出部531Aは、プローブベクトルV11〜V1n、及びプローブベクトルV21〜V2nを内挿または外挿することでプローブベクトルV1k、及びプローブベクトルV2kを取得していた。これに対して、例えば、補正ベクトル算出部は、内挿または外挿することなく第1の位置ベクトル、及び第2の位置ベクトルを取得してもよい。要するに、補正ベクトル算出部は、移動量取得部にて取得された移動機構の移動量に基づいて、記憶部に記憶された第1の位置ベクトル、及び第2の位置ベクトルを取得することができればよい。
【0044】
前記第1実施形態では、記憶部55には、三次元測定機1の測定空間内における1箇所に設置された基準球231に係るプローブベクトルV、及びプローブベクトルVが記憶されていた。また、前記第2実施形態では、記憶部55Aには、三次元測定機1の測定空間内におけるn箇所に設置される基準球231に係るプローブベクトルV11〜V1n、及びプローブベクトルV21〜V2nが記憶されていた。これに対して、例えば、記憶部には、三次元測定機の測定空間内におけるn箇所に設置された基準球に係る第1の位置ベクトル、及び1箇所に設置される基準球に係る第2の位置ベクトルが記憶されていてもよい。要するに、記憶部には、第1の位置ベクトル、及び第2の位置ベクトルが記憶されていればよい。
【0045】
前記各実施形態では、三次元測定機1は、被測定物Wの表面に当接される測定子211Aを有する接触式のプローブ21を備えていた。これに対して、三次元測定機は、レーザーや、カメラ等の非接触式のプローブを備えていてもよい。要するに、三次元測定機は、被測定物の三次元位置を測定するためのプローブを備えていればよい。
前記各実施形態では、移動機構22は、それぞれ直交するX,Y,Z軸の各軸方向にプローブ21を移動させる3つの移動軸を備えていた。これに対して、移動機構は、1つ、または2つの移動軸を備えていてもよく、各移動軸は、直交していなくてもよい。要するに、移動機構は、プローブを測定空間内で移動させることができればよい。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の第1実施形態に係る三次元測定機を示す全体模式図。
【図2】前記実施形態における三次元測定機の概略構成を示すブロック図。
【図3】前記実施形態におけるスピンドルにてプローブを保持している部分の拡大模式図。
【図4】前記実施形態における測定値算出部、及び記憶部の詳細構成を示すブロック図。
【図5】前記実施形態における基準のプローブと重量が異なるプローブをスピンドルに保持させた状態を示す拡大模式図。
【図6】前記実施形態における基準のプローブの姿勢を変更した状態を示す拡大模式図。
【図7】前記実施形態における移動機構、移動指令部、及び測定値算出部の関係を示す図。
【図8】本発明の第2実施形態に係る測定値算出部、及び記憶部の詳細構成を示すブロック図。
【図9】前記実施形態における基準球の複数の設置位置を示す模式図。
【図10】前記実施形態におけるスピンドルをスライド移動させた場合における基点の位置を示す模式図。
【符号の説明】
【0047】
1…三次元測定機
5…ホストコンピュータ(制御装置)
21,21B…プローブ
21A…基準のプローブ
22…移動機構
52…移動量取得部
55,55A…記憶部
531,531A…補正ベクトル算出部
532…補正判定部
533…基点補正部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定物の三次元位置を測定するためのプローブと、前記プローブを保持するとともに、前記プローブを測定空間内で移動させる移動機構と、前記移動機構を制御する制御装置とを備える三次元測定機であって、
前記制御装置は、
前記移動機構に基準の前記プローブを保持させたときの前記測定空間内における基準座標から前記移動機構に設定された基点までの第1の位置ベクトル、及び前記移動機構に前記基準のプローブとは異なる状態のプローブを保持させたときの前記基準座標から前記基点までの第2の位置ベクトルを記憶する記憶部と、
前記第1の位置ベクトル、及び前記第2の位置ベクトルに基づいて、前記基点の誤差を補正するための補正ベクトルを算出する補正ベクトル算出部と、
前記補正ベクトル算出部にて算出された補正ベクトルに基づいて、前記基点の誤差を補正する基点補正部とを備えることを特徴とする三次元測定機。
【請求項2】
請求項1に記載の三次元測定機において、
前記制御装置は、
前記移動機構の移動量を取得する移動量取得部を備え、
前記記憶部には、
前記測定空間内における複数の基準座標に係る前記第1の位置ベクトル、及び前記第2の位置ベクトルと、前記移動機構の移動量とが関連付けて記憶され、
前記補正ベクトル算出部は、
前記移動量取得部にて取得された前記移動機構の移動量に基づいて、前記記憶部に記憶された前記第1の位置ベクトル、及び前記第2の位置ベクトルを取得して前記補正ベクトルを算出することを特徴とする三次元測定機。
【請求項3】
請求項2に記載の三次元測定機において、
前記補正ベクトル算出部は、前記複数の基準座標に係る前記第1の位置ベクトル、及び前記第2の位置ベクトルを内挿または外挿することで前記補正ベクトルを算出することを特徴とする三次元測定機。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の三次元測定機において、
前記制御装置は、
前記補正ベクトル算出部にて算出された補正ベクトルに基づいて、前記基点補正部にて前記基点の誤差を補正するか否かを判定する補正判定部を備え、
前記基点補正部は、前記補正判定部にて前記基点の誤差を補正すると判定された場合に前記基点の誤差を補正することを特徴とする三次元測定機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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