説明

三次元測定機

【課題】常に高精度な補正パラメータを算出できる三次元測定機を提供する。
【解決手段】三次元測定機を構成する補正パラメータ算出装置10は、測定子211Aに当接する当接面611を有し、当接面611に測定子211Aが当接することで測定子211Aの中心を回転中心とする回転変位を拘束することなく測定子211Aの並進変位を拘束する拘束手段6と、駆動機構の動作を制御してプローブを移動させることで、当接面611に近接する方向に測定子211Aを移動させる移動制御手段と、プローブの移動量、及び駆動機構の移動量を取得する情報取得手段と、情報取得手段にて取得されたプローブ21の移動量、及び駆動機構の移動量に基づいて、補正パラメータを算出する補正パラメータ算出手段とを備える。当接面611は、測定子211Aが当接した際に測定子211Aと1点で点接触する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元測定機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被測定物に接触する球状の測定子を有するプローブと、プローブを保持するとともにプローブを移動させる駆動機構と、プローブの座標系を補正するための補正パラメータを算出する補正パラメータ算出装置とを備えた三次元測定機が知られている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1に記載の補正パラメータ算出装置では、補正パラメータの算出に掛かる時間を短縮させる等を目的として、拘束手段にて測定子を拘束した状態で、プローブを移動させている。そして、補正パラメータ算出装置は、当該移動させた時のプローブの移動量、及び駆動機構の移動量に基づいて、補正パラメータを算出している。
【0003】
ところで、測定子の中心を回転中心とする回転変位(以下、測定子の回転変位と記載)を拘束した状態でプローブを移動させた場合には、プローブの移動量に誤差が生じ、適切な補正パラメータを算出することができない。
このため、特許文献1に記載の拘束手段は、測定子の回転変位を拘束することなく並進変位を拘束することを目的として、以下に示すように構成されている。
拘束手段は、測定子を挟んで対向して配設され、対向方向に沿って測定子を押圧する2つの押圧部材を備える。
各押圧部材には、対向方向と直交するとともに、互いに平行する軸方向を有し、測定子に向って突出する円柱状に形成される2つの柱状部がそれぞれ設けられている。
また、一方の押圧部材における各柱状部、及び他方の押圧部材における各柱状部は、軸方向が互いに直交するように設けられ、測定子に当接する。
すなわち、特許文献1に記載の拘束手段は、測定子に対して4つの柱状部にて4点で接触することとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−145211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の拘束手段では、各押圧部材による押圧力が大きい場合には、測定子の並進変位のみならず、測定子の回転変位をも拘束してしまう。すなわち、測定子の回転変位も拘束してしまうことで、プローブを移動させた場合にプローブの移動量に誤差が生じるため、適切な補正パラメータを算出できない。
一方、各押圧部材による押圧力が小さい場合には、測定子の回転変位及び並進変位のいずれも拘束できない。すなわち、測定子の並進変位を拘束できないため、プローブを移動させた場合にプローブの移動量を適切に取得できず、適切な補正パラメータを算出できない。
したがって、特許文献1に記載の補正パラメータでは、各押圧部材の押圧力によっては、測定子の回転変位を拘束することなく並進変位のみを拘束することができず、すなわち、常に高精度な補正パラメータを算出することが難しい、という問題がある。
【0006】
本発明の目的は、常に高精度な補正パラメータを算出できる三次元測定機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の三次元測定機は、被測定物に接触する球状の測定子を有するプローブと、前記プローブを保持するとともに前記プローブを移動させる駆動機構と、前記プローブの座標系を補正するための補正パラメータを算出する補正パラメータ算出装置とを備えた三次元測定機であって、前記補正パラメータ算出装置は、前記測定子に当接する当接面を有し、前記当接面に前記測定子が当接することで前記測定子の中心を回転中心とする回転変位を拘束することなく前記測定子の並進変位を拘束する拘束手段と、前記駆動機構の動作を制御して前記プローブを移動させることで、前記当接面に近接する方向に前記測定子を移動させる移動制御手段と、前記プローブの移動量、及び前記駆動機構の移動量を取得する情報取得手段と、前記情報取得手段にて取得された前記プローブの移動量、及び前記駆動機構の移動量に基づいて、前記補正パラメータを算出する補正パラメータ算出手段とを備え、前記当接面は、前記測定子が当接した際に前記測定子と1点で点接触することを特徴とする。
【0008】
本発明では、三次元測定機を構成する補正パラメータ算出装置は、拘束手段、移動制御手段、情報取得手段、及び補正パラメータ算出手段を備えるので、以下に示すように、補正パラメータを算出できる。
先ず、移動制御手段は、駆動機構の動作を制御してプローブを移動させることで、拘束手段の当接面に近接する方向に測定子を移動させる。
そして、プローブは、測定子が当接面に当接した状態(当接面にて測定子の回転変位が拘束されることなく並進変位が拘束された状態)で、上記方向へと移動することとなる。
ここで、情報取得手段は、上述したように当接面にて測定子が拘束された状態で、プローブの移動量、及び駆動機構の移動量を取得する。
そして、補正パラメータ算出手段は、情報取得手段にて取得されたプローブの移動量、及び駆動機構の移動量に基づいて、補正パラメータを算出する。
【0009】
また、当接面は、測定子と1点で点接触する。
すなわち、当接面は、測定子に対して唯一、1点で点接触するため、測定子を拘束する際に、回転変位を拘束することなく並進変位のみを拘束できる。
したがって、常に高精度な補正パラメータを算出でき、当該補正パラメータを用いることで、三次元測定機による測定精度を十分に高めることができる。
【0010】
本発明の三次元測定機では、前記移動制御手段は、前記当接面の法線方向に沿って前記測定子を移動させることが好ましい。
本発明では、移動制御手段が駆動機構の動作を制御して上述した方向に測定子を移動させるので、測定子が当接面に当接している間、プローブの接触力は、当接面に垂直に作用することとなる。すなわち、当接面からの垂直抗力によって、測定子の並進変位を確実に拘束できる。
したがって、測定子の回転変位を拘束することなく並進変位のみを確実に拘束でき、常に高精度な補正パラメータを算出できる。
【0011】
本発明の三次元測定機では、前記補正パラメータ算出装置は、前記プローブの移動量と所定の閾値とを比較する比較手段を備え、前記情報取得手段は、前記比較手段にて前記閾値以上であると判定された場合に、前記プローブの移動量、及び前記駆動機構の移動量を取得することが好ましい。
【0012】
本発明では、補正パラメータ算出装置は、プローブの移動量と所定の閾値とを比較する比較手段を備える。
このことにより、比較手段にてプローブの移動量と所定の閾値とを比較し、プローブの移動量が所定の閾値以上となった場合に、測定子の並進変位が拘束手段にて実際に拘束されていることを判定できる。
そして、情報取得手段は、比較手段にてプローブの移動量が所定の閾値以上であると判定された場合に、プローブの移動量、及び駆動機構の移動量を取得する。言い換えれば、補正パラメータ算出手段は、測定子の並進変位が拘束手段にて実際に拘束されている時のプローブの移動量、及び駆動機構の移動量に基づいて、補正パラメータを算出する。
したがって、補正パラメータをさらに高精度に算出できる。
【0013】
本発明の三次元測定機では、前記移動制御手段は、前記比較手段にて前記閾値以上であると判定されてからの前記駆動機構の移動量の変位が所定値に達するまで、前記当接面に近接する方向に前記測定子を移動させた後、前記当接面から離間する方向に前記測定子を移動させることが好ましい。
【0014】
本発明では、移動制御手段が駆動機構の動作を制御して上述したように測定子を移動させるので、情報取得手段は、以下に示すプローブの移動量、及び駆動機構の移動量を取得できる。
すなわち、情報取得手段は、測定子の並進変位が拘束手段にて実際に拘束されている状態で、測定子が当接面に押し込まれている時のプローブの移動量、及び駆動機構の移動量と、測定子が当接面から離脱される時のプローブの移動量、及び駆動機構の移動量とを取得できる。
したがって、補正パラメータ算出手段は、上述したように取得されたプローブの移動量、及び駆動機構の移動量に基づいて補正パラメータを算出するので、補正パラメータをさらに高精度に算出できる。
【0015】
本発明の三次元測定機では、前記拘束手段は、内面が前記当接面とされる多角形断面の空洞を有する容器状に形成されていることが好ましい。
本発明では、拘束手段が上述した形状を有しているので、測定子の回転変位を拘束することなく並進変位のみを拘束する当接面を容易に形成できる。
【0016】
本発明の三次元測定機では、前記拘束手段は、内面が前記当接面とされる円形断面の空洞を有する容器状に形成されていることが好ましい。
本発明では、拘束手段が上述した形状を有しているので、当接面は、球面状に形成されることとなる。
このことにより、当該当接面の法線方向が無数に設定されることとなるため、移動制御手段にて駆動機構の動作を制御する際に、当接面の法線方向に沿って測定子を容易に移動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】第1実施形態に係る三次元測定機の概略構成を示すブロック図。
【図2】第1実施形態における三次元測定機本体を示す全体模式図。
【図3】第1実施形態におけるプローブの拡大模式図。
【図4】第1実施形態における拘束手段の構造を示す図。
【図5】第1実施形態における補正パラメータの算出方法を説明するフローチャート。
【図6】第1実施形態における補正パラメータの算出方法を説明するための図。
【図7】第2実施形態における拘束手段の構造を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態を図面に基づいて説明する。
〔三次元測定機の概略構成〕
図1は、第1実施形態における三次元測定機1の概略構成を示すブロック図である。
三次元測定機1は、図1に示すように、三次元測定機本体2と、三次元測定機本体2の駆動制御を実行するモーションコントローラ3と、操作レバー等を介してモーションコントローラ3に指令を与え、三次元測定機本体2を手動で操作するための操作手段4と、モーションコントローラ3に所定の指令を与えるとともに、演算処理を実行するホストコンピュータ5と、補正パラメータを算出する際に用いられる拘束手段6(図4参照)とを備える。
【0019】
〔三次元測定機本体の構成〕
図2は、三次元測定機本体2を示す全体模式図である。なお、図2では、上方向を+Z軸方向とし、このZ軸に直交する2軸をそれぞれX軸、及びY軸として説明する。以下の図面においても同様である。
三次元測定機本体2は、図2に示すように、被測定物Wを測定するための球状の測定子211Aを有するプローブ21と、プローブ21の基端側を保持するとともに、プローブ21を駆動する駆動機構22と、駆動機構22が立設される定盤23とを備える。
駆動機構22は、プローブ21の基端側を保持するとともに、プローブ21の移動を可能とするスライド機構24と、スライド機構24を駆動することでプローブ21を駆動する駆動部25とを備える。
【0020】
スライド機構24は、定盤23におけるX軸方向の両端から+Z軸方向に延出し、Y軸方向に沿ってスライド移動可能に設けられる2つのコラム241と、各コラム241にて支持され、X軸方向に沿って延出するビーム242と、Z軸方向に沿って延出する筒状に形成され、ビーム242上をX軸方向に沿ってスライド移動可能に設けられるスライダ243と、スライダ243の内部に挿入されるとともに、スライダ243内をZ軸方向に沿ってスライド移動可能に設けられるラム244とを備える。したがって、駆動機構22は、X,Y,Z軸の各軸方向にプローブ21を駆動する複数の駆動軸を備えている。そして、ラム244は、−Z軸方向側の端部においてプローブ21の基端側を保持している。なお、プローブ21としては、複数の種類のプローブが用意されており、これらのプローブの中から選択してラム244に保持させることができる。
【0021】
駆動部25は、図1または図2に示すように、各コラム241のうち、−X軸方向側のコラム241を支持するとともに、Y軸方向に沿って駆動するY軸駆動部251Yと、ビーム242上をスライドさせてスライダ243をX軸方向に沿って駆動するX軸駆動部251X(図2において図示略)と、スライダ243内をスライドさせてラム244をZ軸方向に沿って駆動するZ軸駆動部251Z(図2において図示略)とを備える。
【0022】
X軸駆動部251X、Y軸駆動部251Y、及びZ軸駆動部251Zには、図1に示すように、スライダ243、各コラム241、及びラム244の各軸方向の位置を検出するためのX軸スケールセンサ252X、Y軸スケールセンサ252Y、及びZ軸スケールセンサ252Zがそれぞれ設けられている。なお、各スケールセンサ252は、スライダ243、各コラム241、及びラム244の移動量に応じたパルス信号を出力する位置センサである。
【0023】
図3は、プローブ21の拡大模式図である。
プローブ21は、図3に示すように、測定子211Aを先端側に有するスタイラス211と、スタイラス211の基端側を支持する支持機構212とを備える。
支持機構212は、スタイラス211をX,Y,Z軸の各軸方向に付勢することで所定位置に位置決めするように支持するとともに、測定子211Aに外力が加わった場合、すなわち測定子211Aが被測定物Wに当接した場合には、スタイラス211を一定の範囲内でX,Y,Z軸の各軸方向に移動可能としている。この支持機構212は、図1に示すように、スタイラス211の各軸方向の位置を検出するためのX軸プローブセンサ213X、Y軸プローブセンサ213Y、及びZ軸プローブセンサ213Zを備える。なお、各プローブセンサ213は、各スケールセンサ252と同様にスタイラス211の各軸方向の移動量に応じたパルス信号を出力する位置センサである。
【0024】
〔モーションコントローラの構成〕
モーションコントローラ3は、図1に示すように、操作手段4、またはホストコンピュータ5からの指令に応じて駆動部25を制御する駆動制御部31と、各スケールセンサ252、及び各プローブセンサ213から出力されるパルス信号を計数するカウンタ部32とを備える。
カウンタ部32は、各スケールセンサ252から出力されるパルス信号をカウントしてスライド機構24の移動量を計測するスケールカウンタ321と、各プローブセンサ213から出力されるパルス信号をカウントしてプローブ21の移動量を計測するプローブカウンタ322とを備える。そして、スケールカウンタ321、およびプローブカウンタ322にて計測されたスライド機構24の移動量、及びプローブ21の移動量は、ホストコンピュータ5に出力される。
【0025】
〔ホストコンピュータの構成〕
ホストコンピュータ5は、CPU(Central Processing Unit)や、メモリ等を備えて構成され、モーションコントローラ3に所定の指令を与えることで三次元測定機本体2を制御するものであり、指令部51と、移動量取得部52と、測定値算出部53と、補正パラメータ算出部54と、ホストコンピュータ5で用いられるデータを記憶する記憶部55とを備える。
【0026】
指令部51は、モーションコントローラ3の駆動制御部31に所定の指令を与え、三次元測定機本体2のスライド機構24を駆動する。具体的に、指令部51は、測定子211Aを駆動するための位置指令値を出力する。なお、被測定物Wの輪郭データは、記憶部55に記憶されている。
移動量取得部52は、カウンタ部32にて計測されたプローブ21の移動量(x,y,z)、及び駆動機構22(スライド機構24)の移動量(x,y,z)を取得する。ここで、移動量取得部52は、プローブ21に規定された直交座標系に基づいて、プローブ21の移動量を取得し(図3参照)、駆動機構22に規定された直交座標系に基づいて、駆動機構22の移動量を取得する(図2参照)。
【0027】
測定値算出部53は、移動量取得部52にて取得されたプローブ21の移動量、及び駆動機構22の移動量に基づいて測定値、すなわち測定子211Aの位置を算出する。なお、駆動機構22の移動量は、支持機構212内におけるスタイラス211の移動が全く生じていない場合、すなわちプローブ21の移動量が0の場合における測定子211Aの位置を示すように調整されている。
具体的に、測定値算出部53は、移動量取得部52にて取得されたプローブ21の移動量、及び駆動機構22の移動量を合成することで、以下の式(1)に示すように、測定値(x,y,z)を算出する。
【0028】
〔数1〕


【0029】
ここで、測定値算出部53は、駆動機構22の座標系にプローブ21の座標系を一致させるように補正することでプローブ21の座標系を補正する。具体的に、プローブ21の座標系を補正するための補正パラメータをA(A11〜A33)とすれば、補正後のプローブ21の移動量(x´,y´,z´)は、以下の式(2)によって算出される。なお、補正パラメータAは、後述する補正パラメータ算出部54にて算出され、記憶部55に記憶されている。
【0030】
〔数2〕


【0031】
したがって、測定値算出部53は、補正後の測定値(x´,y´,z´)を、以下の式(3)によって算出する。
【0032】
〔数3〕


【0033】
補正パラメータ算出部54は、補正パラメータAを算出するものであり、図1に示すように、移動制御手段541と、比較手段542と、情報取得手段543と、補正パラメータ算出手段544とを備える。
移動制御手段541は、指令部51に位置指令値を出力させることで、駆動機構22の動作を制御し、プローブ21を移動させる。
【0034】
比較手段542は、移動量取得部52にて取得されたプローブ21の移動量と第1閾値とを比較するとともに、移動量取得部52にて取得された駆動機構22の移動量の変位と第2閾値とを比較する。
情報取得手段543は、比較手段542にてプローブ21の移動量が第1閾値以上であると判定された場合に、移動量取得部52にて取得されたプローブ21の移動量、及び駆動機構22の移動量を、補正パラメータAの算出に用いる情報として取得する。
補正パラメータ算出手段544は、情報取得手段543にて取得された補正パラメータAの算出に用いる情報(プローブ21の移動量、及び駆動機構22の移動量)に基づいて、補正パラメータAを算出する。
【0035】
〔拘束手段の構成〕
図4は、拘束手段6の構造を示す図である。
拘束手段6は、補正パラメータAを算出する際に用いられるものであり、定盤23(図2参照)上に設置される。
そして、拘束手段6は、図4に示すように、測定子211Aに当接する当接面611を有し、当接面611に測定子211Aが当接することで測定子211Aの回転変位を拘束することなく並進変位を拘束する。
【0036】
具体的に、拘束手段6は、図4に示すように、直方体状の部材において、上面から下面に向けて、平面視正方形状の凹部61を設けたものである。
そして、凹部61の内側面が当接面611として機能する。
すなわち、拘束手段6は、内面が当接面611とされる矩形断面の空洞を有する容器状に形成されている。
以上説明した補正パラメータ算出部54及び拘束手段6が本発明に係る補正パラメータ算出装置10(図1及び図4)に相当する。
【0037】
〔補正パラメータの算出方法〕
図5は、補正パラメータAの算出方法を説明するフローチャートである。
図6は、補正パラメータAの算出方法を説明するための図である。具体的に、図6は、プローブ21の移動量を縦軸とし、補正パラメータAの算出を開始してからの経過時間を横軸としたグラフと、当該グラフ中の各時間T1〜T7での測定子211Aと当接面611との位置関係とを示している。
【0038】
先ず、三次元測定機1の使用者は、以下に示す準備を行う。
すなわち、使用者は、図4に示すように、凹部61の四方の内側面(当接面611)がX軸及びY軸に対して直交するように拘束手段6を定盤23上に設置する。
また、使用者は、操作手段4を操作することにより、図4に示すように、測定子211Aを拘束手段6の凹部61内に位置付ける。
以上の準備を行った後に、補正パラメータAの算出を開始する。
【0039】
補正パラメータAの算出を開始すると、移動制御手段541は、指令部51を介して駆動機構22の動作を制御し、第1の方向R1(図4及び図6)へのプローブ21の移動を開始する(ステップST1)。
なお、第1の方向R1は、図4または図6に示すように、測定子211Aが当接面611に近接する方向であり、より具体的には、当接面611の法線方向に沿う方向(X軸方向)である。
第1の方向R1へのプローブ21の移動が開始されると、比較手段542は、移動量取得部52にて取得されたプローブ21の移動量と、第1閾値S1(図6)とを比較し、プローブ21の移動量が第1閾値S1以上となったか否かを判定する(ステップST2)。
なお、第1閾値S1は、測定子211Aを被測定物Wや当接面611に当接させていない状態で移動量取得部52にて取得されるプローブ21の移動量(ノイズ)の最大値よりも若干大きい値に設定されたものである。
【0040】
ステップST2において、「Y」と判定された時点から、情報取得手段543は、補正パラメータAの算出に用いる情報の取得を開始する(ステップST3)。そして、情報取得手段543は、取得した情報を順次、記憶部55に記憶させる。
例えば、時間T1の時点では、図6に示すように、プローブ21の移動量は、第1閾値S1未満である。言い換えれば、時間T1の時点では、測定子211Aは、当接面611に当接していない。そして、情報取得手段543は、時間T1の時点では、補正パラメータAの算出に用いる情報の取得を開始しない。
【0041】
一方、時間T2の時点では、図6に示すように、プローブ21の移動量は、第1閾値S1以上である。言い換えれば、時間T2の時点で、測定子211Aは、当接面611に当接したこととなる。そして、情報取得手段543は、時間T2の時点から、補正パラメータAの算出に用いる情報の取得を開始する。
なお、測定子211Aが球状に形成されており、凹部61が上述した形状を有している。このため、時間T2の時点では、拘束手段6は、当接面611にて測定子211Aと1点で点接触し、測定子211Aの回転変位を拘束することなく並進変位のみを拘束することとなる。
ここで、情報取得手段543による補正パラメータAの算出に用いる情報の取得開始後の当該情報の取得タイミングは、例えば、時間T2から一定時間毎で取得するように構成してもよく、あるいは、時間T2からの駆動機構22の移動量の一定変位毎で取得するように構成してもよい。
【0042】
ステップST3の後、比較手段542は、駆動機構22の移動量の変位と第2閾値(図示略)とを比較し、当該変位が第2閾値以上となったか否かを判定する(ステップST4)。
より具体的に、比較手段542は、時間T2の時点で移動量取得部52にて取得された駆動機構22の移動量と、現時点で移動量取得部52にて取得された駆動機構22の移動量との差分(変位)と、第2閾値とを比較する。
すなわち、上記比較により、測定子211Aが当接面611に当接してから、予め定められた設定値だけ駆動機構22の動作を制御して、プローブ21を当接面611に押し込んだか否かを判定している。
【0043】
ステップST4において、「Y」と判定された場合には、移動制御手段541は、指令部51を介して駆動機構22の動作を制御し、プローブ21の移動方向を第1の方向R1から第2の方向R2(図4及び図6)に切り替える(ステップST5)。
なお、第2の方向R2は、図4または図6に示すように、測定子211Aが当接面611から離間する方向であり、より具体的には、第1の方向R1の逆方向である。
【0044】
例えば、移動制御手段541は、時間T3の時点では駆動機構22の移動量の変位が第2閾値未満であるため、図6に示すように、第1の方向R1へのプローブ21の移動を継続している。
一方、移動制御手段541は、時間T4の時点で駆動機構22の移動量の変位が第2閾値以上となったため、図6に示すように、プローブ21の移動方向を第2の方向R2に切り替えている。
【0045】
ステップST5の後、比較手段542は、移動量取得部52にて取得されたプローブ21の移動量と、第1閾値S1とを比較し、プローブ21の移動量が第1閾値S1未満となったか否かを判定する(ステップST6)。
ステップST6において、「Y」と判定された場合には、移動制御手段541は、指令部51を介して駆動機構22の動作を制御し、第2の方向R2へのプローブ21の移動を終了する(ステップST7)。
同様に、ステップST6において、「Y」と判定された場合には、情報取得手段543は、補正パラメータAの算出に用いられる情報の取得を終了する(ステップST8)。
【0046】
例えば、時間T5の時点では、図6に示すように、プローブ21の移動量は、第1閾値S1以上である。このため、第2の方向R2へのプローブ21の移動、及び補正パラメータAの算出に用いられる情報の取得が継続される。
一方、時間T6の時点では、図6に示すように、プローブ21の移動量は、第1閾値S1未満である。このため、時間T6の時点で、第2の方向R2へのプローブ21の移動、及び補正パラメータAの算出に用いられる情報の取得が終了する。
【0047】
ステップST8の後、補正パラメータ算出手段544は、記憶部55に記憶された情報に基づいて、以下に示すように、補正パラメータAを算出する(ステップST9)。
なお、上記記憶部55に記憶された情報とは、情報取得手段543にて取得された情報(プローブ21の移動量、及び駆動機構22の移動量)であり、より具体的には、時間T2〜T6の間(測定子211Aの並進変位が拘束されている間)に情報取得手段543にて取得された情報(取得数n)である。
【0048】
ところで、測定子211Aの並進変位が拘束されている時には、拘束後の駆動機構22の移動量の変位と補正パラメータAによる座標変換後のプローブ21の移動量は、絶対値が等しく、符号が反転するはずである。すなわち、以下の式(4)を満たすはずである。
【0049】
〔数4〕


【0050】
また、式(4)を変形すると、以下の式(5)となる。
【0051】
〔数5〕


【0052】
上述した式(5)において、補正パラメータAの未知数は9個であるので、これらの未知数を算出することができる十分な数(n)のプローブ21の移動量、及び駆動機構22の移動量を情報取得手段543にて取得すれば、補正パラメータ算出手段544は、最小二乗法で演算することにより、補正パラメータAを算出することができる。
そして、補正パラメータ算出手段544は、算出した補正パラメータAを記憶部55に記憶させる。
【0053】
上述した第1実施形態によれば、以下の効果がある。
本実施形態では、補正パラメータ算出装置10は、拘束手段6と、移動制御手段541と、情報取得手段543と、補正パラメータ算出手段544とを備える。
そして、拘束手段6は、測定子211Aと一点で点接触する当接面611を備え、当接面611に測定子211Aが当接することで、測定子211Aの回転変位を拘束することなく並進変位を拘束する。
すなわち、当接面611は、測定子211Aに対して唯一、1点で点接触するため、測定子211Aを拘束する際に、回転変位を拘束することなく並進変位のみを拘束できる。
したがって、常に高精度な補正パラメータAを算出でき、当該補正パラメータAを用いることで、三次元測定機1による測定精度を十分に高めることができる。
【0054】
また、移動制御手段541は、駆動機構22の動作を制御することで当接面611の法線方向に沿って測定子211Aを移動させる。
このことにより、測定子211Aが当接面611に当接している間、プローブ21の接触力は、当接面611に垂直に作用することとなる。すなわち、当接面611からの垂直抗力によって、測定子211Aの並進変位を確実に拘束できる。
したがって、測定子211Aの回転変位を拘束することなく並進変位のみを確実に拘束でき、常に高精度な補正パラメータAを算出できる。
【0055】
さらに、補正パラメータ算出装置10は、比較手段542を備える。
このことにより、比較手段542にてプローブ21の移動量と第1閾値S1とを比較し、プローブ21の移動量が第1閾値S1以上となった場合に、測定子211Aの並進変位が拘束手段6にて実際に拘束されていることを判定できる。
そして、情報取得手段543は、比較手段542にてプローブ21の移動量が第1閾値S1以上であると判定された場合に、補正パラメータAの算出に用いる情報(プローブ21の移動量、及び駆動機構22の移動量)を取得する。言い換えれば、補正パラメータ算出手段544は、測定子211Aの並進変位が拘束手段6にて拘束されている時のプローブ21の移動量、及び駆動機構22の移動量に基づいて、補正パラメータAを算出する。
したがって、補正パラメータAをさらに高精度に算出できる。
【0056】
また、移動制御手段541は、駆動機構22の動作を制御してプローブ21を第1,第2の方向R1,R2に移動させる。
このことにより、情報取得手段543は、測定子211Aの並進変位が拘束手段6にて実際に拘束されている状態で、測定子211Aが当接面611に押し込まれている時(第1の方向R1へ移動時)の補正パラメータAの算出に用いる情報と、測定子211Aが当接面611から離脱される時(第2の方向R2への移動時)の補正パラメータAの算出に用いる情報とを取得できる。
したがって、補正パラメータ算出手段544は、上述したように取得されたプローブ21の移動量、及び駆動機構22の移動量に基づいて補正パラメータAを算出するので、補正パラメータAをさらに高精度に算出できる。
【0057】
さらに、拘束手段6は、内面が当接面611として機能する平面視正方形状の凹部61を有する。
すなわち、拘束手段6を上述した形状で構成することで、測定子211Aの回転変位を拘束することなく並進変位のみを拘束する当接面611を容易に形成できる。
【0058】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
なお、以下では、前記第1実施形態と同様の構成には同一の符号を付し、その詳細な説明については省略する。
図7は、第2実施形態における拘束手段6の構造を示す図である。
本実施形態では、図7に示すように、前記第1実施形態に対して、拘束手段6の構造が異なるのみである。その他の構成は、前記第1実施形態と同様のものである。
具体的に、第2実施形態における拘束手段6は、図7に示すように、直方体状の部材において、上面から下面に向けて、半球状の凹部61を設けたものである。
そして、凹部61の内側面が当接面611として機能する。
すなわち、拘束手段6は、内面が当接面611とされる円形断面の空洞を有する容器状に形成されている。
【0059】
上述した第2実施形態によれば、前記第1実施形態と同様の効果の他、以下の効果がある。
本実施形態では、拘束手段6は、内面が当接面611として機能する半球状の凹部61を有する。すなわち、拘束手段6を上述した形状で構成することで、当接面611を球面状に形成できる。
このことにより、当接面611の法線方向が無数に設定されることとなるため、移動制御手段541にて駆動機構22の動作を制御する際に、当接面611の法線方向に沿って測定子211Aを容易に移動させることができる。
【0060】
なお、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
前記各実施形態において、拘束手段6の構造は、前記各実施形態で説明した構造に限らない。例えば、拘束手段としては、直方体状の部材において、上面から下面に向けて、平面視多角形状(例えば、五角形状、六角形状等)の凹部を設け、当該凹部の内側面を当接面として機能させても構わない。
前記各実施形態では、プローブ21を第1,第2の方向R1,R2に移動させている際に取得した情報(プローブ21の移動量、及び駆動機構22の移動量)に基づいて、補正パラメータAを算出していたが、これに限らない。例えば、プローブ21を第1の方向R1に移動させている際に取得した情報のみに基づいて、補正パラメータAを算出しても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、被測定物に接触する球状の測定子を有するプローブと、プローブを保持するとともにプローブを移動させる駆動機構と、プローブの座標系を補正するための補正パラメータを算出する補正パラメータ算出装置とを備えた三次元測定機に利用できる。
【符号の説明】
【0062】
1・・・三次元測定機
6・・・拘束手段
10・・・補正パラメータ算出装置
21・・・プローブ
22・・・駆動機構
211A・・・測定子
541・・・移動制御手段
542・・・比較手段
543・・・情報取得手段
544・・・補正パラメータ算出手段
611・・・当接面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定物に接触する球状の測定子を有するプローブと、前記プローブを保持するとともに前記プローブを移動させる駆動機構と、前記プローブの座標系を補正するための補正パラメータを算出する補正パラメータ算出装置とを備えた三次元測定機であって、
前記補正パラメータ算出装置は、
前記測定子に当接する当接面を有し、前記当接面に前記測定子が当接することで前記測定子の中心を回転中心とする回転変位を拘束することなく前記測定子の並進変位を拘束する拘束手段と、
前記駆動機構の動作を制御して前記プローブを移動させることで、前記当接面に近接する方向に前記測定子を移動させる移動制御手段と、
前記プローブの移動量、及び前記駆動機構の移動量を取得する情報取得手段と、
前記情報取得手段にて取得された前記プローブの移動量、及び前記駆動機構の移動量に基づいて、前記補正パラメータを算出する補正パラメータ算出手段とを備え、
前記当接面は、
前記測定子が当接した際に前記測定子と1点で点接触する
ことを特徴とする三次元測定機。
【請求項2】
請求項1に記載の三次元測定機において、
前記移動制御手段は、
前記当接面の法線方向に沿って前記測定子を移動させる
ことを特徴とする三次元測定機。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の三次元測定機において、
前記補正パラメータ算出装置は、
前記プローブの移動量と所定の閾値とを比較する比較手段を備え、
前記情報取得手段は、
前記比較手段にて前記閾値以上であると判定された場合に、前記プローブの移動量、及び前記駆動機構の移動量を取得する
ことを特徴とする三次元測定機。
【請求項4】
請求項3に記載の三次元測定機において、
前記移動制御手段は、
前記比較手段にて前記閾値以上であると判定されてからの前記駆動機構の移動量の変位が所定値に達するまで、前記当接面に近接する方向に前記測定子を移動させた後、前記当接面から離間する方向に前記測定子を移動させる
ことを特徴とする三次元測定機。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の三次元測定機において、
前記拘束手段は、
内面が前記当接面とされる多角形断面の空洞を有する容器状に形成されている
ことを特徴とする三次元測定機。
【請求項6】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の三次元測定機において、
前記拘束手段は、
内面が前記当接面とされる円形断面の空洞を有する容器状に形成されている
ことを特徴とする三次元測定機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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