説明

三相ブラシレスモータの制御装置

【課題】過渡的な負荷変動によるモータの停止をより確実に防止することができる三相ブラシレスモータの制御装置を提供することにある。
【解決手段】三相ブラシレスモータ(37)の各相に駆動電圧を供給する三相ブリッジインバータ回路(15)と、インバータ回路(15)のトランジスタに180度未満の導通角のPWM信号を印加して、三相ブラシレスモータを相補間欠通電駆動方式により駆動する相補間欠通電駆動手段(32)と、を備えることを特徴とする三相ブラシレスモータの制御装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三相ブラシレスモータの制御装置、特に、180度通電方式の利点を最大限生かすことができる三相ブラシレスモータの制御装置に関する。
また本発明は、電動アシスト自転車のアシスト制御において、180度通電方式の利点を最大限生かすことができる三相ブラシレスモータの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
三相ブラシレスモータの制御方法としては、120度通電方式と180度通電駆動方式(正弦波駆動)が一般的である。120度通電方式は、制御が簡易であり、汎用ICも多数市場に出ているという長所があるが、120度通電方式は180度通電方式に比較して、騒音や振動が発生し易く、効率の面で180度通電方式に劣るという問題がある。一方、180度通電方式では、120度通電方式と比較して効率が良く、静音性及び振動特性に優れるという長所があるが、過渡的な負荷変動に弱く、位置ずれが起こると制御不能となり、120度通電方式に比較して制御が複雑であるという欠点がある。
【0003】
120度通電方式及び180度通電方式ともに、モータに取り付けたホールIC等のセンサによりロータの位相を検出して制御を行うが、180度通電方式では、60度ごとに磁極位置を予測して制御を行うため、モータ回転中の過渡的な負荷変動等によって位置ずれが生じた場合、磁極位置を予測できなくなり、動作を停止しなければならない可能性がある。一方、120度通電方式では、センサで検出したロータ位置に基づいて相電流の切り換え制御を行い、予測して制御を行わないので、位置ずれが発生しても、センサからの位置情報に基づいて動作を継続することができる。また、180度通電方式では、トルク余裕が小さく瞬間的な負荷変動に対して位置ずれを起こし易いため、トルクを大きくせざるを得ずモータの小型化が困難である。
このように、180度通電方式及び120度通電方式には、それぞれ長所及び短所があるため、各通電方式を組み合わせて各々の長所を生かす制御方法が例えば、特許文献1及び2に提案されている。
【0004】
特許文献1には、180度通電駆動手段10と120度通電駆動手段11とを備え、必要に応じて180度通電駆動手段10と120度通電駆動手段11とを切換えて同期電動機1の駆動制御を行う電気自動車用制御装置が記載されている。この制御装置では、回転パルス発生手段9からの出力パルスに基づいて磁極位置θencを演算し、この磁極位置θencに基づいて180度通電駆動を行うが、回転パルス発生手段9が使用できない状態になると、相電圧V1に基づいて磁極位置θvを演算して120度通電駆動を行う。特許文献1記載の制御装置では、モータ回転数に基づいて180度通電方式から120度通電方式に切り換えるが、負荷状態によっては180度通電駆動において位置ずれが大きくなり、制御が不可能になる可能性がある。
【0005】
特許文献2には、間欠通電駆動部(120度通電駆動部)8と180度通電駆動部9とを備え、定常状態では180度通電駆動を実行し、電源電圧や負荷トルクの変動による外乱を検出した場合には、間欠通電駆動(例えば、120度通電駆動)を実行する同期モータの制御装置が記載されている。この制御装置では、例えば、外乱信号として直流電源電圧、同期モータの回転数、同期モータに発生する負荷トルク及びこれらに付随して変化するモータ電流、駆動電圧とモータ電流との位相差などを検出し、この外乱信号が閾値を超えた場合に、180度通電駆動から間欠通電駆動に切換える構成である。しかし、位置ずれの発生前に駆動方式を切換えることを前提としており、このように外乱信号を閾値と比較して駆動方式を切換える場合、制御対象が遅い場合には有効であるが、制御対象が速い場合には、外乱の有無を判断している間に位置ずれが発生して制御が不可能になる。従って、特許文献2の制御方法では、過渡的に急激な負荷変動が発生した場合にはモータの停止を回避できない。また、駆動電圧とモータ電流との位相差を検出するため、高性能マイコンが必要であり、コストダウンが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−341594号公報
【特許文献2】特開2001−245487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、過渡的な負荷変動によるモータの停止をより確実に防止することができる三相ブラシレスモータの制御装置を提供することにある。
本発明の目的は、180度通電方式の利点を最大限に生かすことができる三相ブラシレスモータの制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、三相ブラシレスモータの制御装置に関し、前記三相ブラシレスモータ(37)の各相(U,V,W)に駆動電圧を供給する三相ブリッジインバータ回路(15)と、前記インバータ回路(15)のトランジスタ(UH,UL,VH,VL,WH,WL)に180度未満の導通角のPWM信号を印加して、前記三相ブラシレスモータを相補間欠通電駆動方式により駆動する相補間欠通電駆動手段(32)とを備える。相補間欠通電駆動手段(32)は、3相のうち2相において各相の上下トランジスタに互いに異なるデューティ比のPWM信号を印加して当該2相のコイルを介して電流を流すとともに、3相のうち1相において上下トランジスタに互いに同一のデューティ比のPWM信号を印加して該1相のコイルに蓄積されたエネルギーによって上下トランジスタの何れかを介して電流を流し、これにより、各相において全電気角で電流を流して、前記三相ブラシレスモータを相補間欠通電駆動する。相補間欠通電駆動方式は、例えば、相補120度通電駆動方式である。
この制御装置は、例えば、起動運転状態又は過渡負荷状態の少なくとも一方において相補間欠通電駆動方式により前記三相ブラシレスモータを制御する。
ここで、過渡負荷状態とは、モータの負荷が急激に増加する過負荷状態であり、例えば過負荷状態を意味する。
過渡負荷対応に優れた相補間欠通電駆動方式による三相ブラシレスモータの制御によれば、過渡的な負荷変動によりモータが停止することを確実に防止できる。つまり、180度通電駆動方式によるモータ制御では、先を予測して制御するため、過渡的な負荷変動によって位置ずれを起こすとモータを停止する必要があるが、相補間欠通電駆動方式によるモータ制御では、センサからの情報のみに基づいて制御するため、過渡的な負荷変動によるモータ停止を回避することができる。また、相補間欠通電駆動方式によれば、静音性及び振動特性に優れたモータの運転を行うことができる。更に、相補間欠通電駆動方式により過渡的な負荷変動によるモータの停止を防止することにより、位置ずれを防止する目的でトルクを過度に大きくする必要がなくなり、モータ及びその駆動装置の小型化を図ることも可能である。
【0009】
本発明の一態様では、前記三相ブラシレスモータの起動運転状態又は過渡負荷状態の少なくとも何れか一方において相補間欠通電駆動方式により前記三相ブラシレスモータを制御する。
起動運転状態において相補間欠通電駆動方式によりモータを制御する場合、モータ起動時に過渡的な負荷変動があった場合にもモータの停止を確実に回避することができる。また、モータを確実に起動させた後には、例えば、180度通電駆動方式により通常運転を行うことにより、静音性、振動特性及び効率に優れたモータ制御を行うことができる。
また、過渡負荷状態において相補間欠通電駆動方式によりモータを制御する場合には、例えば、180度通電駆動方式でモータを始動し、過渡的な負荷変動があった場合に相補間欠通電駆動方式によるモータ制御に切換え、過渡負荷状態が解除されれば、180度通電駆動方式に復帰させる。また、例えば、モータ起動後の通常運転時に180度通電駆動方式でモータを制御し、過渡的な負荷変動があった場合に相補間欠通電方式に切り換え、過渡負荷状態が解除されれば、180度通電駆動方式に復帰させる。この場合、過渡的な負荷変動によるモータの停止を回避して効率良く制御することが可能であり、回転ムラを抑制し、振動特性及び静音性を高めることができる。更に、相補間欠通電駆動方式により起動運転状態又は過渡負荷状態におけるモータの停止を防止することにより、モータ及びその駆動装置の小型化を図ることも可能である。
【0010】
本発明の一態様では、前記インバータ回路(15)に導通角180度のPWM信号を印加して、前記三相ブラシレスモータ(37)を180度通電駆動方式で駆動する180度通電駆動手段(33)と、前記三相ブラシレスモータ(37)の起動運転状態において相補間欠通電駆動方式を選択し、前記三相ブラシレスモータ(37)の運転状態が通常運転状態となった場合に180度通電駆動方式を選択する駆動方式選択手段(31)と、を更に備える。
この場合、相補間欠通電駆動方式によりモータを確実に起動し、モータが通常運転状態となった場合には、180度通電駆動方式でモータを制御することで、静音性、振動特性及び効率に優れたモータの運転を行うことができる。
【0011】
本発明の一態様では、前記インバータ回路(15)に180度未満の導通角のPWM信号を印加して、前記三相ブラシレスモータ(37)を間欠通電駆動方式で駆動する間欠通電駆動手段(34)を更に備え、前記駆動方式選択手段(31)は、前記三相ブラシレスモータ(37)の過渡負荷状態が検出された場合に、間欠通電駆動方式を選択する。間欠通電駆動方式は、例えば、120度通電駆動方式である。
この場合、三相ブラシレスモータの通常運転時において、過渡的な負荷状態が検出された場合には、過渡負荷対応性に優れた間欠通電駆動方式によりモータを制御することにより、モータの停止を防止することができる。間欠通電駆動方式は、相補間欠通電駆動方式に比較して効率が良いため、過渡的な負荷状態が長時間継続する場合にも、効率の低下を抑制しつつモータ運転を継続することができる。
【0012】
本発明の一態様では、前記駆動方式選択手段(31)は、過渡負荷状態が検出されて間欠通電駆動方式を選択した後、前記過渡負荷状態の解除が検出された場合に180度通電駆動方式に復帰させる。
この場合、過渡負荷状態が解除された場合に、間欠通電駆動方式から180度通電駆動方式に制御を切換えることによって、静音性、振動特性及び効率に優れた180度通電駆動方式を最大限に利用することができる。
【0013】
本発明の一態様では、前記駆動方式選択手段(31)は、前記三相ブラシレスモータ(37)の回転速度が所定値以上となり、かつ、前記三相ブラシレスモータ(37)の正回転方向の回転回数が連続して所定回数以上検出された場合に、起動運転状態から通常運転状態に移行したと判断する。
【0014】
本発明の一態様では、前記駆動方式選択手段(31)は、前記三相ブラシレスモータ(37)の逆方向の回転が検出された場合に、過渡負荷状態にあると判断することを特徴とする。この場合、モータの逆方向回転を示すパルスエッジが1回でも検出された場合に過渡負荷状態にあると判断するので、過渡負荷状態を迅速に検出し、180度通電駆動方式から間欠通電駆動方式に切換えることができ、モータの停止を確実に防止することができる。
【0015】
本発明の一態様では、前記三相ブラシレスモータ(37)は、電動アシスト自転車のアシスト制御に使用され、前記駆動方式選択手段(31)は、前記三相ブラシレスモータ(37)の回転速度が所定値以上となり、かつ、前記三相ブラシレスモータ(37)の正回転方向の回転回数が連続して所定回数以上検出され、かつ、前記電動アシスト自転車の踏力範囲が所定値以下となった場合に、過渡負荷状態が解除されたと判断する。
【0016】
本発明の一態様では、前記三相ブラシレスモータ(37)は、電動アシスト自転車のアシスト制御に使用され、前記駆動方式選択手段(31)は、前記三相ブラシレスモータ(37)の回転速度が所定値以上となり、かつ、前記電動アシスト自転車の車速が所定値以上となった場合に、過渡負荷状態が解除されたと判断する。
【0017】
本発明の一態様は、三相ブラシレスモータの制御装置であって、前記三相ブラシレスモータ(37)の各相(U,V,W)に駆動電圧を供給する三相ブリッジインバータ回路(15)と、前記インバータ回路(15)のトランジスタ(UH,UL,VH,VL,WH,WL)に導通角120度のPWM信号を印加して、前記三相ブラシレスモータを相補120度通電駆動方式により駆動する相補120度通電駆動手段(32)とを備える。相補120度通電駆動手段(32)は、3相のうち2相において各相の上下トランジスタに互いに異なるデューティ比のPWM信号を印加して当該2相のコイルを介して電流を流すとともに、3相のうち1相において上下トランジスタに互いに同一のデューティ比のPWM信号を印加して該1相のコイルに蓄積されたエネルギーによって上下トランジスタの何れかを介して電流を流し、これにより、各相において全電気角で電流を流して、前記三相ブラシレスモータを相補120度通電駆動する。
【0018】
本発明に係る三相ブラシレスモータの制御装置は、相補120度通電駆動方式に限定されず、180度未満の導通角で駆動する任意の相補間欠駆動方式に適用可能である。
【0019】
本発明に係る三相ブラシレスモータの制御装置は、電動アシスト自転車の電動アシストユニットに適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係る電動アシスト自転車の概略図である。
【図2】図2は、図1に示す電動アシスト自転車の制御系を示す概略図である。
【図3】図3は、図1に示す電動アシスト自転車で使用される、本発明の実施形態に係るトルク検出機構を組み込んだ一方向クラッチの側面図である。
【図4】図4は、一方向クラッチの駒部及び該駒部で使用されるバネ棒の構成を示す図であって、(a)は、バネ棒が取り付けられた状態の駒部の斜視図、(b)は、バネ棒を取り外した状態の駒部の斜視図、(c)は、バネ棒の側面図である。
【図5】図5は、図1に示す電動アシスト自転車の踏力検出の原理を説明するため一方向クラッチ(ラチェットギア)の歯及び駒の嵌合状態を示す図である。
【図6】図6は、ドライブシャフトに対する駒部の相対回転を防止する回転防止手段の例を示す図であり、(a)はボールスプライン、(b)はスプラインキー、(c)はキー溝の概略構成を示す上面図である。
【図7】図7は、本発明の実施例に係る合力機構で用いられる動力伝達ギアの正面図及び側面図である。
【図8】図8は、180度通電駆動方式における各相の電流波形図である。
【図9】図9は、120度通電駆動方式における各相の電流波形図である。
【図10】図10は、120度通電駆動方式におけるPWM信号のデューティ比及び電流経路を示す図である。
【図11】図11は、相補120度通電駆動方式における各相の電流波形図である。
【図12】図12は、相補120度通電駆動方式におけるPWM信号のデューティ比及び電流経路を示す図である。
【図13】図13は、本発明の一実施形態に係るモータ制御装置による制御の流れを示すフローチャートである。
【図14】図14は、120度通電駆動方式と相補120度通電方式の制御互換を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。
〔第1実施形態〕
図1には、電動アシスト自転車1の概略が示されている。同図に示すように、この電動アシスト自転車1の主要な骨格部分は、通常の自転車と同様に、金属管製の車体フレーム3から構成され、該車体フレーム3には、前輪20、後輪22、ハンドル16、及びサドル18などが周知の態様で取り付けられている。
【0022】
また、車体フレーム3の中央下部には、ドライブシャフト4が回転自在に軸支され、その左右両端部には、ペダルクランク6L、6Rを介してペダル8L、8Rが各々取り付けられている。このドライブシャフト4には、車体の前進方向に相当するR方向の回転のみを伝達するための一方向クラッチ(後述する図3の99)を介して、スプロケット2が同軸に取り付けられている。このスプロケット2と、後輪22の中央部に設けられた後輪動力機構10との間には無端回動のチェーン12が張設されている。
【0023】
電動アシスト自転車1には、補助電動力を発生する電動アシストユニット11が取り付けられている。発生した補助電動力は、後述する合力機構を用いて駆動輪(後輪)22に伝達される。
【0024】
電動アシストユニット11に収容された電動アシスト自転車1の制御系の概略が図2に示されている。電動アシスト自転車1の制御系は、該自転車全体の電子的処理を一括して制御する1個のマイクロコンピュータ14と、PWM制御可能な電動モータ37と、マイクロコンピュータ14からの制御信号によって直流電圧を所定の電圧波形に変換してモータ37に供給するインバータ回路15と、を備える。インバータ回路15には、電動モータ37に電源供給するバッテリ17(電動アシストユニット11の外部)が接続されている。また、電動アシストユニット11には、モータの回転速度を減速するための減速ギア等が収容されている。
【0025】
電動モータ37は、例えば、三相ブラシレスモータである。電動モータ37には、磁極位置(ロータ位相)、モータ回転速度等を検出するために、例えば複数個のホールIC371が設けられている。ホールIC371は、電動モータ37に設けられた永久磁石が生成する磁場に対応するパルス信号を出力する。ホールIC371は、電動モータ37の回転軸周りに等間隔に例えば3個設けられるが、図2では1つのホールIC371のみを示す。マイクロコンピュータ14は、ホールIC371からのパルス信号に基づいて、磁極位置、モータ回転速度、モータ回転回数、モータ回転方向を検出する。
【0026】
インバータ回路15は、3相ブリッジインバータであり、6個の半導体スイッチング素子であるトランジスタUH,UL,VH,VL,WH,WUが3相ブリッジ状に結線されている回路である。これらのトランジスタは、マイクロコンピュータ14から供給されるPWM信号によって駆動され、バッテリ17から供給される直流電圧を変換して駆動電圧を生成し、電動モータ37の各相に供給する。
【0027】
マイクロコンピュータ14には、また、回転角センサ(後述)から、車体フレーム3に対してペダルクランク6R(6L)がなすクランク角度を検出するための磁場パルス信号が入力されるとともに、一方向クラッチの変形を検出するためのホールIC162(後述)から、踏力を演算するための磁場信号1、2、3が入力される。これらの入力信号を発生する手段については後述する。なお、電動アシストモード(例えばノーマルモード、ターボモード、エコモード等)を指定するための信号も入力されてよい。マイクロコンピュータ14(後述の駆動方式選択部31)は、これらの入力信号から走行速度(車速)、クランク角度及び踏力を演算し、所定のアルゴリズムに基づいてアシスト比(アシスト力/踏力)を決定する電子的処理を行う。次に、マイクロコンピュータ14は、決定されたアシスト比に対応するアシスト力を発生させるよう電動モータ37を指令するため、該アシスト力に応じたPWM指令を順次出力する。本実施形態に係るマイクロコンピュータ14によるモータ制御の詳細については後述する。
【0028】
以下、本発明の一実施形態に係る電動アシスト自転車の踏力検出機構、合力機構、並びに、クランク角度及び車速の検出機構について各々説明する。
【0029】
(踏力検出機構)
マイクロコンピュータ14に入力される磁場信号1、2、3を出力する踏力検出機構を、図3乃至図7を用いて説明する。この踏力検出機構は、踏力に応じた一方向クラッチ99の変形によって変化する磁場を検出する。
【0030】
図3に示すように、一方向クラッチ99は、駒部100及び歯部112を備える。
【0031】
駒部100は、図4(a)に示すように、ドライブシャフト4を受け入れるための駒部ボア106が中央部に形成された略円盤形状を有し、その周方向に沿って等角度毎に3つの剛性のラチェット駒102が、歯部112と相対する第2の係合面110側に配置されている。駒部100は、ラチェット駒102を各々収容するため、図4(b)に示すように、周方向に沿って3つの凹部170が形成される。かくして、ラチェット駒102は、凹部170にその回転軸部が収容された状態で回動し、この回転に応じてラチェット駒102は、第2の係合面110に対する角度を変える。
【0032】
再び図4(b)を参照すると、駒部100には、各々の凹部170に隣接して、バネ棒104を収容可能な直線溝171が各々形成されており、3つの直線溝171の両端部は、駒部100の外周エッジまで延在している。図4(c)に示すように、バネ棒104は、一方の端部Aが略垂直に折り曲げられ、他方の端部Bがコ字状に曲げられている。バネ棒104を駒部100の直線溝171内に取り付ける場合、図4(b)に示すように、バネ棒104を直線溝内を摺動させながら、コ字状のB部が駒部100をクリップ状に挟み止めさせるようにするだけで、バネ棒104を駒部100に容易に装着することができる。しかし、このままだと、B部から引っ張る力によりバネ棒104が抜け落ちる可能性があるので、垂直に折れ曲がったA部が駒部の側壁と係合することにより、バネ棒の脱落を防止している。
【0033】
バネ棒104を駒部100の直線溝171に取り付けた場合、ラチェット駒102は、外力が作用していないとき、その長さ方向が第2の係合面110に対して所定の角度をなす(図5の平衡方向160)ように立ち上がる。図5に示すように、ラチェット駒102が平衡方向160から上昇方向a又は下降方向bに偏倚するとき、バネ棒104は、その偏倚を平衡方向160に戻すようにラチェット駒102に僅かな弾力性を及ぼす。
【0034】
駒部ボア106の内壁には、軸方向5に延びる第1の回転防止用溝108が4個所に形成されている。駒部ボア106の内壁と摺接するドライブシャフト4の外壁部分にも、第1の回転防止用溝108と対面するように軸方向5に延びる第2の回転防止用溝140が4個所に形成されている。図6(a)に示すように、第1の回転防止用溝108及びこれに対面する第2の回転防止用溝140は、軸方向に沿って延びる円柱溝を形成し、各々の円柱溝の中には、これを埋めるように多数の鋼球150が収容される。これによって、駒部100は、軸方向に沿って摩擦係数最小で移動できると共に、ドライブシャフト4に対する相対回転が防止される。これは、一種のボールスプラインであるが、他の形式のボールスプライン、例えば無端回動のボールスプラインなどを、このような摺動可能な回転防止手段として適用することができる。
【0035】
また、駒部100のドライブシャフト4への取り付け方法として、図6(a)のボールスプライン以外の手段を用いることも可能である。例えば、図6(b)に示すように、軸方向に延びる突起部140aをドライブシャフト4に設け、該突起部140aを収容する第3の回転防止用溝108aを駒部100に形成する、いわゆるキースプライン形式も回転防止手段として適用可能である。なお、図6(b)において、突起部140aを駒部100側に、第3の回転防止用溝108aをドライブシャフト4側に設けても良い。更に、図6(c)に示すように、軸方向に延びる第4の回転防止用溝108b及びこれに対面する第5の回転防止用溝140bを駒部100及びドライブシャフト4に夫々設け、これらの溝が形成する直方体状の溝の中にキープレートを収容する、いわゆるキー溝形式も回転防止手段として適用可能である。
【0036】
図3に示されるように、皿バネ137が、駒部100と、ドライブシャフト4に固定された支持ディスク151との間に介在されている。皿バネ137の両端部は、各々、駒部100の裏面と支持ディスク151とに当接している。従って、皿バネ137は、駒部100の軸方向内側への摺動に対して弾性力で対向する。
【0037】
一方、歯部112は、図7に示されるように、動力伝達ギア200の表面である第1の係合面121上に形成されている。歯部112は、ラチェット駒102と係合するための複数のラチェット駒114を有する。ラチェット歯114は、図5に示されるように、歯部の周方向に沿って互い違いに周期的に形成された、第1の係合面121に対してより急な傾斜118と、より緩やかな斜面116と、から構成される。歯部112は、その第1の係合面121を駒部100の第2の係合面110に対面させ、ラチェット駒102とラチェット歯114とを係合させた状態(図5)で、ドライブシャフト4に摺接可能に軸支される。即ち、ドライブシャフト4は、ラチェット駒102とラチェット歯114との係合部分を介してのみ歯部112と作動的に連結される。
【0038】
図3に示されるように、歯部112を備える動力伝達ギア200は、固定ピン206を用いてスプロケット2と同軸に固定され、更に、ドライブシャフト4の先端にはペダル軸が取り付けられる。かくして、車体前進方向のペダル踏力による回転のみをスプロケット2に伝達するようにドライブシャフト4とスプロケット2とを連結する一方向クラッチ(ラチェットギア)99が完成する。
【0039】
更に、ラチェットギア99の駒部100には、ドライブシャフト4及び駒部100と同心に、リング状に形成された永久磁石161が取り付けられている。リング状の永久磁石161は、好ましくは、リングの一方の表面がN極、反対側の表面がS極となるように構成され、永久磁石161のリング軸方向とラチェットギア99の軸方向とが整列するように配列される。
【0040】
また、磁場を検出するための複数(本実施例では3個)のホールIC162が、ドライブシャフト4の軸線に対して垂直な平面内で、3箇所の所定位置に各々配置されている。好ましくは、ホールICが配置される3箇所の所定位置は、該軸線を中心として径方向に略等距離で周方向に略等角度毎の位置である。更に、ホールIC162が配置される所定位置は、リング状永久磁石161に近接した車体フレーム3の固定位置に相当する。これらのホールIC162は、マイクロコンピュータ14(図2)に接続される。3個のホールIC162から各々出力された磁場信号(磁場検出信号)1、2、3は、上述したように、マイクロコンピュータ14(図2)に入力される。
【0041】
代替実施例として、リング状永久磁石161の代わりに、鉄等の磁性体からなるリング部材163を用いることができる。この場合、磁石164を駒部100上のホールIC162に近接した位置に固定する。なお、リング部材163の材料は、磁石164の磁場を変化させることができる任意の材料、例えば反磁性体から作ることもできる。
【0042】
搭乗者がペダル8R、8L(図1)にペダル踏力を与え、ドライブシャフト4を車体前進方向に回転させると、この回転力は、ドライブシャフト4に対し回転不可能且つ摺動可能に軸支された駒部100に伝達される。このとき、図5に示すように、ラチェット駒102は、駒部100からペダル踏力に対応する力Fdを与えられるので、その先端部は歯部112のラチェット歯のより急な斜面118に当接し、この力をラチェット歯に伝達しようとする。ラチェット歯部112は、スプロケット2に連結されているので、ラチェット駒102の先端部は、駆動のための負荷による力Fpをより急な斜面118から受ける。その両端部から互いに反対向きの力Fp及びFdを与えられたラチェット駒102は、a方向に回転して立ち上がる。このとき駒部100は、ラチェット駒102の立ち上がりによって軸方向内側に移動し、駒部100と支持ディスク151との間に介在する皿バネ137を押し込む。皿バネ137は、これに対抗して弾性力Frを駒部100に作用する。この力Frと、駒部100を軸方向に移動させるペダル踏力を反映した力とは短時間で釣り合う。かくして、駒部100の軸方向位置はペダル踏力を反映する物理量となる。
【0043】
リング状永久磁石161を使用した実施例の場合、駒部100の軸方向位置に応じて、ホールIC162により検出される磁場強度は異なっている。即ち、ペダル踏力が増大すると、駒部100は軸方向内側に摺動し、永久磁石161がホールIC162に近接するため、ホールIC162により検出される磁場強度は増大する。逆に、ペダル踏力が減少すると、駒部100は軸方向外側に摺動し、永久磁石161がホールIC162から遠ざかるため、ホールIC162により検出される磁場強度は減少する。
【0044】
マイクロコンピュータ14の踏力範囲検出部40(図2参照)は、3個のホールIC162により検出された磁場信号1、2、3を平均演算(単なる加算を含む)して平均磁場強度を求め、平均磁場強度に基づいて踏力範囲を求める。本実施形態では、磁場強度の値を予め複数の範囲(踏力範囲)に区切り、踏力範囲に応じてアシスト比を設定する。つまり、磁場強度が属する踏力範囲に基づいてアシスト比を設定する。
【0045】
このように複数箇所の軸方向の磁場を平均化しているため、SN比を改善することができるだけでなく、駒部100の振れに起因する磁場強度のばらつきを相殺することにより、より正確にペダル踏力T(踏力範囲)を求めることができる。
【0046】
なお、磁性体又は反磁性体のリング部材163を使用した代替実施例の場合、リング部材163の軸方向位置に応じて、磁性体又は反磁性体の影響の変化により磁石164の磁場分布は変化する。従って、代替実施例においても、検出された磁場強度に基づいて、上述のようにペダル踏力T(踏力範囲)を求めることができる。
【0047】
上記では、駒部100(一方向クラッチ99)の軸方向変位をホールIC162によりを検出することにより踏力を検出したが、皿バネ137に歪ゲージを配置して、皿バネ137の歪を検出することにより、駒部100(一方向クラッチ99)の軸方向変位、ひいては踏力(踏力範囲)を検出するように構成しても良い。この場合、歪ゲージの値を予め複数の範囲(踏力範囲)に区切り、踏力範囲に応じてアシスト比を設定する。
【0048】
(合力機構)
図3には、上述されたように固定ピン206を用いてスプロケット2に同軸に固定された動力伝達ギア200が示されている。動力伝達ギア200は、図7に示すように、外周部に複数の歯204が形成されている。
【0049】
動力伝達ギア200の歯204は、図3に示されるように、電動アシストユニット11のアシスト力出力シャフト222の先端に設けられたギア220と嵌合する。従って、電動アシストユニット11から出力されたアシスト力は、シャフト222、ギア220を介して動力伝達ギア200に伝達され、該動力伝達ギア200からスプロケット2、チェーン12を介して駆動輪(後輪)22に伝達される。かくして、踏力とアシスト力との合力が達成される。動力伝達ギア200の歯204の数は、ギア220の歯数よりも多いので、動力伝達ギア200は、減速ギアとしても機能する。なお、アシスト力出力シャフト222は、上述した電動モータ37(図2)によって駆動される。
【0050】
(クランク角度及び車速の検出機構)
電動アシスト自転車1のクランク角度検出機構を、図3及び図7を用いて説明する。
図7に示すように、動力伝達ギア200の一方の板面側には、12個の永久磁石202が円周12等分に配置されている。これらの永久磁石202は、一方の磁極(N極又はS極)を当該板面の表面に出し、他方の磁極を該表面と反対側に向け、両磁極を結ぶ方向が、ドライブシャフト4の軸方向に整列するように配置されている。板面の表面に出ている磁極は、全て同一に揃えるのが好ましいが、隣接する磁石202の磁極が互い違いになるように配置することもできる。
【0051】
図3を参照すると、永久磁石202が配置された動力伝達ギア200の板面に隣接して、車体フレーム3に対して固定された位置にホールIC210が配置されている。このホールIC210のドライブシャフト4からの径方向距離は、永久磁石202のドライブシャフト4からの径方向距離と実質的に同一に設定されている。永久磁石202及びホールIC210が、クランク回転角センサを構成する。動力伝達ギア200は、ペダルの回転と共に回転し、一方、ホールIC210は車体に対して静止しているので、ペダルクランク回転によって、ホールIC210の検出範囲に永久磁石202の磁場が次々横切っていく。従って、ホールIC210は、ペダルクランク回転数に応じたパルス数の検出信号を出力する。この磁場パルス信号は、マイクロコンピュータ14(図2)の車速検出部41へと入力される。
【0052】
動力伝達ギア200は、ペダルクランク及びスプロケット2と一緒に回転するため、動力伝達ギア200の回転速度は、車速及びクランク角速度を反映している。かくして、車速検出部41は、単位時間当たりの磁場パルス信号のカウント数から、車速と、クランク角度とを演算することができる。
【0053】
(モータ制御装置)
次に、電動アシストユニット11の補助電動力を発生させる電動モータ37の制御装置について、図2、及び図8乃至図14を参照して説明する。
【0054】
図2に係るモータ制御装置は、前述したように、三相ブラシレス電動モータ37に駆動電圧を供給するインバータ回路15と、マイクロコンピュータ14と、3つのホールIC371(図2では1つのみ図示)とを備えている。3つのホールIC371は、電動モータ37において120度の間隔で等間隔に配置されており、検出する磁界強度に応じて図8、図9及び図11の上段に示すパルス信号Hu,Hv、Hwを出力する。
【0055】
以下では、説明の都合上、電動モータ37のU、V、W相に接続されるインバータ回路15のトランジスタをそれぞれU相のトランジスタ、V相のトランジスタ、W相のトランジスタと言及し、各相のトランジスタのうち、高電位側のものを上トランジスタ、低電位側のものを下トランジスタと言及する場合がある。
【0056】
マイクロコンピュータ14において、過渡負荷状態検出部36は、3つのホールIC371から出力されるパルス信号Hu,Hv,Hwを受け取り、このパルス信号Hu,Hv,Hwが、モータ回転が正方向(CW方向)の場合のパルス信号パターンと一致するか否かを常時監視する。過渡負荷状態検出部36は、受け取ったパルス信号Hu,Hv,Hwが正方向のパルス信号パターンと異なる場合、つまり、逆方向(CCW方向)のモータ回転を示すパルスエッジを検出した場合に、電動モータ37がハンチング運転状態(過渡負荷運転状態)であると判定し、過渡負荷状態検出信号を出力する。
【0057】
表1は、ホールIC371から出力されるパルス信号Hu,Hv,Hwの真理値表である。
【表1】

表1に示すように、磁極位置が現在0−60度の範囲内の位置にあり、ホールIC371によってパルス信号がHu,Hv,Hw=0,1,0が検出されたと仮定すると、次の60−120度の範囲で来るべき信号パターンは、Hu、Hv,Hw=0,1,1である。従って、マイクロコンピュータ14は、Hu,Hv,Hw=0,1,0の次に、Hu、Hv,Hw=0,1,1以外の信号パターンを受け取った場合には、即座に、モータの逆回転または位置ズレと判断する。
【0058】
モータ回転速度検出部38は、ホールIC371から出力されるパルス信号のパターンの切り換わり回数(パルスエッジの数)をカウントし、1分間当たりの電動モータ37の回転数(モータ回転速度rpm)を算出する。
【0059】
モータ回転回数検出部39は、3つのホールIC371から出力されるパルス信号のパターンの変化を監視し、モータ回転が正方向か逆方向かを検出(正方向又は逆方向のパルスエッジを検出)するとともに、パルス信号パターンの切り換わり回数をカウントすることにより、モータの正方向及び逆方向の回転回数を算出する。
【0060】
踏力範囲検出部40(図2参照)は、上述したように、3個のホールIC162により検出された磁場信号1、2、3を平均演算(単なる加算を含む)して平均磁場強度を求め、ルックアップテーブルを参照することにより、平均磁場強度から踏力範囲を求める。なお、アシストユニット11によるアシスト比は、踏力範囲を考慮して決定されるが、踏力Tに対応する磁場信号1,2,3の平均値が所定値未満である踏力範囲(踏力範囲=0)は、内部パラメータで無負荷を表し、この踏力範囲では、アシスト力を発生させない(アシスト比0)ように設定されている。
【0061】
車速検出部41は、ホールIC210から出力されるペダルクランク回転数に応じたパルス数の検出信号(磁場パルス信号)を受け取り、単位時間当たりの磁場パルス信号のカウント数から、車速と、クランク角度とを演算する。
【0062】
通電駆動方式選択部31は、モータ回転速度、モータ回転回数、モータ回転方向、踏力範囲、車速、及び過渡負荷状態検出信号に基づいて、180度通電駆動方式、120度通電駆動方式、及び相補120度通電駆動方式の何れかを選択し、通電駆動方式の選択信号を出力する。具体的には、通電駆動方式選択部31は、電動モータ37の始動時(起動運転状態)において相補120度通電駆動選択信号を出力し、電動モータ37の通常運転時(通常運転状態)において180度通電駆動選択信号を出力し、電動モータ37が過渡負荷運転状態にある場合(ハンチング運転状態)において120度通電駆動信号を出力する。
【0063】
各運転状態の検出は、一例として以下のように行う。「モータ回転速度が50rpm以上」かつ「正方向のモータ回転回数を連続して60回検出」の両方の条件を満たすまでを起動運転状態と判定し、両方の条件を満たした場合に通常運転状態になったと判定する。
【0064】
また、通常運転状態を検出した後、「逆方向のモータ回転回数を1回でも検出」すると、ハンチング運転状態(過渡負荷運転状態)にあると判定する。
【0065】
また、「モータ回転速度が126rpm以上」かつ「正方向のモータ回転回数を連続して240回検出」かつ「踏力範囲が0(内部パラメータで無負荷を表す)」の3つの条件を満たすと、ハンチング運転状態(過渡負荷運転状態)から通常運転状態になったと判定する。ここでは、「踏力範囲が0」を1つの条件とするが、「踏力範囲が所定値以下」としても良い。なお、ハンチング運転状態(過渡負荷運転状態)の解除の検出は、「モータ回転速度が126rpm以上」かつ「車速(内部速度)が6km/h以上」の2つの条件を満たす場合に、ハンチング運転状態(過渡負荷運転状態)から通常運転状態になったと判定しても良い。
【0066】
180度通電駆動部33は、電動モータ37に設置された3つのホールIC371から受け取ったパルス信号に基づいて磁極位置を算出し、算出された磁極位置に基づいて、図8に示すような駆動電流波形で電動モータ37を180度通電駆動する。具体的には、180度通電駆動部33は、通電駆動方式選択部31から180度通電駆動選択信号を受け取った場合に、車速、クランク角度及び踏力範囲から所定のアルゴリズムに基づいてアシスト比(アシスト力/踏力)を決定する電子的処理を行う。また、180度通電駆動部33は、決定されたアシスト比に対応するアシスト力を発生させるよう電動モータ37を180度通電駆動するため、ホールIC371による検出値に基づいて磁極位置を予測して通電タイミングを設定すると共に、アシスト比に応じてPWM信号のデューティ比の設定を行う。
【0067】
120度通電駆動部34は、電動モータ37に設置された3つのホールIC371から受け取ったパルス信号に基づいて磁極位置を算出し、算出された磁極位置に基づいて、図9に示すような駆動電流波形で電動モータ37を120度通電駆動する。具体的には、120度通電駆動部34は、通電駆動方式選択部31から120度通電駆動選択信号を受け取った場合に、車速、クランク角度及び踏力範囲から所定のアルゴリズムに基づいてアシスト比(アシスト力/踏力)を決定する電子的処理を行う。また、120度通電駆動部34は、決定されたアシスト比に対応するアシスト力を発生させるよう電動モータ37を120度通電駆動するため、ホールIC371により検出した磁極位置に基づいて通電タイミングを設定すると共に、アシスト比に基づいてPWM信号のデューティ比の設定を行う。
【0068】
相補120度通電駆動部32は、電動モータ37に設置された3つのホールIC371から受け取ったパルス信号に基づいて磁極位置を算出し、算出された磁極位置に基づいて、図11に示すような駆動電流波形で電動モータ37を相補120度通電駆動する。具体的には、相補120度通電駆動部32は、通電駆動方式選択部31から相補120度通電駆動選択信号を受け取った場合に、車速、クランク角度及び踏力範囲から所定のアルゴリズムに基づいてアシスト比(アシスト力/踏力)を決定する電子的処理を行う。また、相補120度通電駆動部32は、決定されたアシスト比に対応するアシスト力を発生させるよう電動モータ37を相補120度通電駆動するため、ホールIC371により検出した磁極位置に基づいて通電タイミングを設定すると共に、PWM信号のデューティ比の設定を行う。
【0069】
PWM作成部35は、180度通電駆動部33、120度通電駆動部34及び相補120度通電駆動部32による通電タイミング及びデューティ比の設定に基づいて、インバータ回路15のトランジスタ(UH,UL,VH,VL,WH,WL)を駆動するためのPWM信号を各トランジスタごとに作成し、出力する。
【0070】
インバータ回路15は、マイクロコンピュータ14から出力される180度通電駆動用、120度通電駆動用又は相補120度通電駆動用のPWM信号によって各トランジスタをスイッチングし、電動モータ37の各相に駆動電圧(駆動電流)を印加する。
【0071】
以下、相補120度通電駆動方式を120度通電駆動方式と比較しつつ説明する。
[120度通電駆動方式]
図9は、120度駆動方式において通電電気角(横軸)に対してモータ各相の電流波形(縦軸)を表す図である。図10は、120度通電駆動方式における各トランジスタに印加されるPWM信号のデューティ比及びモータの各相に流れる電流の経路を説明するための図である。これらの図において、<1>は電気角0〜60度、<2>は電気角60〜120度、<3>は電気角120〜180度、<4>は電気角180〜240度、<5>は電気角240〜300度、<6>は電気角300〜360度の各状態を示す。
【0072】
図10において、区間<1>では、U相の上トランジスタUH及びV相の下トランジスタVLに例えばデューティ比25%のPWM信号が印加され、他のトランジスタにはデューティ比0%のPWM信号が印加されて閉じられる。このとき、バッテリ17から出力される電流は、U相の上トランジスタUHを通って電動モータ37のU相のコイルに流れ込み、V相のコイルから流れ出てV相の下トランジスタVLを通ってバッテリ17に戻る。このとき、W相のコイルには電流が流れない。
【0073】
区間<2>では、U相の上トランジスタUH及びW相の下トランジスタWLにデューティ比25%のPWM信号が印加され、他のトランジスタにはデューティ比0%のPWM信号が印加されて閉じられる。このとき、バッテリ17から出力される電流は、U相の上トランジスタUHを通って電動モータ37のU相のコイルに流れ込み、W相のコイルから流れ出てW相の下トランジスタWLを通ってバッテリ17に戻る。このとき、V相のコイルには電流が流れない。
【0074】
区間<3>では、V相の上トランジスタVH及びW相の下トランジスタWLにデューティ比25%のPWM信号が印加され、他のトランジスタにはデューティ比0%のPWM信号が印加されて閉じられる。このとき、バッテリ17から出力される電流は、V相の上トランジスタVHを通って電動モータ37のV相のコイルに流れ込み、W相のコイルから電流が流れ出てW相の下トランジスタWLを通ってバッテリ17に戻る。このとき、U相のコイルには電流が流れない。
【0075】
区間<4>では、V相の上トランジスタVH及びU相の下トランジスタULにデューティ比25%のPWM信号が印加され、他のトランジスタにはデューティ比0%のPWM信号が印加されて閉じられる。このとき、バッテリ17から出力される電流は、V相の上トランジスタVHを通って電動モータ37のV相のコイルに流れ込み、U相のコイルから流れ出てU相の下トランジスタULを通ってバッテリ17に戻る。このとき、W相のコイルには電流が流れない。
【0076】
区間<5>では、W相の上トランジスタWH及びU相の下トランジスタULにデューティ比25%のPWM信号が印加され、他のトランジスタにはデューティ比0%のPWM信号が印加されて閉じられる。このとき、バッテリ17から出力される電流は、W相の上トランジスタWHを通って電動モータ37のW相のコイルに流れ込み、U相のコイルから電流が流れ出てU相の下トランジスタULを通ってバッテリ17に戻る。このとき、V相のコイルには電流が流れない。
【0077】
区間<6>では、W相の上トランジスタWH及びV相の下トランジスタVLにデューティ比25%のPWM信号が印加され、他のトランジスタにはデューティ比0%のPWM信号が印加されて閉じられる。このとき、バッテリ17から出力される電流は、W相の上トランジスタWHを通って電動モータ37のW相のコイルに流れ込み、V相のコイルから電流が流れ出てV相の下トランジスタVLを通ってバッテリ17に戻る。このとき、U相のコイルには電流が流れない。
【0078】
なお、上記では、導通させるトランジスタにデューティ比25%のPWM信号を印加する場合を例に挙げて説明しているが、デューティ比の値はアシスト比に応じて変更される。
【0079】
図9及び図10から分かるように、120度通電駆動方式では、U,V,Wの各相において、電気角120度の通電区間の間に電気角60度の範囲で電流が流れない区間(非通電区間)がある。
【0080】
[相補120度通電駆動]
相補120度通電駆動方式は、図14に示すように、120度通電駆動方式のPWM信号のデューティ比を理論上制御互換する通電駆動方式である。図14に示すように、120度通電駆動方式では、電流経路として選択しない上下トランジスタUH,ULともにデューティ比0%のPWM信号を印加するが、相補120度通電では上下トランジスタUH,ULにデューティ比50%ずつのPWM信号を印加することにより、モータに流れる電流をゼロとする。この原理を利用し、上下トランジスタUH,ULのうちデューティ比が大きい方によって導通するトランジスタが決定される。例えば、図14中段に示すように、上トランジスタUHのデューティ比を75%、下トランジスタULのデューティ比を25%とすれば、上トランジスタUHからモータに電流が流れ込む。逆に、上トランジスタUHのデューティ比を25%、下トランジスタULのデューティ比を75%とすれば、下トランジスタUHにモータから電流が流れ込む。相補120度通電駆動方式では、このような原理を利用し、電流経路として選択する2相の上下トランジスタでは、上下一方のトランジスタのデューティ比を他方のトランジスタのデューティ比よりも大きくし、電流経路として選択しない相では、上下トランジスタのデューティ比を同一とする。
【0081】
図11は、相補120度駆動方式において通電電気角(横軸)に対してモータ各相の電流波形(縦軸)を示す図である。図12は、相補120度通電駆動方式における各トランジスタに印加されるPWM信号のデューティ比及びモータの各相に流れる電流の経路を説明するための図である。これらの図において、区間<1>〜<6>は、図9及び図10と同様の通電電気角の区間を示す。ここでも、特定のデューティ比を例に挙げて説明するが、デューティ比の値はアシスト比に応じて変更される。
【0082】
相補120度通電駆動方式では、図12の区間<1>に示すように、120度通電駆動方式で電流経路として選択する2相U,V相(図10の区間<1>に対応)において、トランジスタUH、VLにデューティ比75%のPWM信号を、トランジスタUL、VHにデューティ比25%のPWM信号を印加することにより、120度通電駆動方式と同様に、トランジスタUH、VLを介して電流が流れる(実線矢印)。また、電流経路として選択しないW相の上下トランジスタWH,WLにはともにデューティ比50%のPWM信号を印加して理論上W相に流れる電流をゼロとしている。但し、相補120度通電駆動方式では、電流経路として選択しないW相において、モータのW相コイルに蓄積されていたエネルギーが、トランジスタWLがオンするタイミングで放電される(破線矢印)。これは、区間<1>の直前まで、先行する区間<5>〜<6>において、電動モータ37のW相コイルに電流が流れ込んでおり(実線矢印)、W相コイルにおいてインバータ回路15側が中性点より高電位になるようにエネルギーが蓄積されているためであり、そのエネルギーによって区間<1>で下トランジスタWLがオンしたタイミングでW相コイルから下トランジスタWLを通って、バッテリ17の低電位側に電流が流れ出る(破線矢印)。
【0083】
区間<1>以外の区間<2>〜<6>についても同様であり、区間<2>において、U相及びW相では、図10の区間<2>と同様に電流が流れる。一方、V相の上下トランジスタVH,VLには同一デューティ比(50%)のPWM信号が印加されるが、区間<2>の直前まで、先行する区間<6>、<1>においてモータのV相コイルからは電流が流れ出て、V相コイルには、中性点側がインバータ回路15側よりも高電位になる状態でエネルギーが蓄積されている。従って、区間<2>において、V相の上下トランジスタVH,VLにデューティ比50%のPWM信号が印加されると、上トランジスタVHにパルスが印加されるタイミングで上トランジスタVHがオンし、バッテリ17の高電位側から上トランジスタVHを介してV相コイルに電流が流れ込む(破線矢印)。
【0084】
区間<3>において、V相及びW相では、図10の区間<3>と同様に電流が流れる。U相の上下トランジスタUH,ULには同一デューティ比(50%)のPWM信号が印加されるが、区間<3>の直前まで、先行する区間<1>、<2>においてモータのU相コイルに電流が流れ込んで、U相コイルには、インバータ回路15側が中性点側よりも高電位になる状態でエネルギーが蓄積されている。従って、区間<3>において、U相の上下トランジスタUH,ULにデューティ比50%のPWM信号が印加されると、下トランジスタULにパルスが印加されるタイミングで下トランジスタULがオンし、U相コイルから下トランジスタULを介してバッテリ17の低電位側に電流が流れ出る(破線矢印)。
【0085】
区間<4>において、U相及びV相では、図10の区間<4>と同様に電流が流れる。W相の上下トランジスタWH,WLには同一デューティ比(50%)のPWM信号が印加されるが、区間<4>の直前まで、先行する区間<2>、<3>においてモータのW相コイルからは電流が流れ出て、W相コイルには、中性点側がインバータ回路15側よりも高電位になる状態でエネルギーが蓄積されている。従って、区間<4>において、W相の上下トランジスタWH,WLにデューティ比50%のPWM信号が印加されると、上トランジスタWHにパルスが印加されるタイミングで上トランジスタWHがオンし、バッテリ17の高電位側から上トランジスタWHを介してW相コイルに電流が流れ込む(破線矢印)。
【0086】
区間<5>において、U相及びW相では、図10の区間<5>と同様に電流が流れる。V相の上下トランジスタVH,VLには同一デューティ比(50%)のPWM信号が印加されるが、区間<5>の直前まで、先行する区間<3>、<4>においてモータのV相コイルに電流が流れ込んで、V相コイルには、インバータ回路15側が中性点よりも高電位になる状態でエネルギーが蓄積されている。従って、区間<5>において、V相の上下トランジスタVH,VLにデューティ比50%のPWM信号が印加されると、下トランジスタVLにパルスが印加されるタイミングで下トランジスタVLがオンし、V相コイルから下トランジスタVLを介してバッテリ17の低電位側に電流が流れ出る(破線矢印)。
【0087】
区間<6>において、V相及びW相では、図10の区間<6>と同様に電流が流れる。U相の上下トランジスタUH,ULには同一デューティ比(50%)のPWM信号が印加されるが、区間<6>の直前まで、先行する区間<4>、<5>においてモータのU相コイルからは電流が流れ出て、U相コイルには、中性点側がインバータ回路15側よりも高電位になる状態でエネルギーが蓄積されている。従って、区間<6>において、U相の上下トランジスタUH,ULにデューティ比50%のPWM信号が印加されると、上トランジスタULにパルスが印加されるタイミングで上トランジスタULがオンし、バッテリ17の高電位側から上トランジスタULを介してU相コイルに電流が流れ込む(破線矢印)。
【0088】
以上のように、相補120度通電駆動では、U、V、W相の何れの相にも全区間<1>〜<6>で電流が流れ、何れの相においても非導通区間が存在しない。このため、図11に示すように、各相の電流は電気角360度を通じて連続して変化することになり、120度通電駆動方式で発生し得る相切換え時の電気振動を抑制することができる。
【0089】
[制御フロー]
以下、図13のフローチャートを参照して、本実施形態によるモータ制御装置を用いたモータ制御の一例を説明する。
【0090】
ステップS11では、電動モータ37を相補120度通電駆動で起動する。
【0091】
ステップS12では、電動モータ37の回転速度が50rpm以上となり且つ電動モータ37の正方向(CW方向)の回転回数を連続して60回検出したか否かを判別する。何れかの条件を満たさない場合にはステップS11に移行して、相補120度通電駆動による起動運転を継続する。
【0092】
ステップS12の両方の条件を満たした場合にはステップS13に移行して、180度通電駆動方式によるモータ制御に切換える。
【0093】
ステップS14では、過渡的な負荷変動を検出したか否かを判別する。具体的には、「逆方向(CCW方向)のモータ回転を1回でも検出」したか否かを判別し、逆方向のモータ回転を検出しない場合にはステップS13に移行して、180度通電駆動方式によるモータ制御を継続する。
【0094】
一方、ステップS14において逆方向のモータ回転を検出した場合にはステップS15に移行して、120度通電駆動方式によるモータ制御に切換える。
【0095】
ステップS16では、過渡負荷状態が解除されたか否かを判別する。具体的には、「モータ回転速度が126rpm以上」かつ「正方向のモータ回転を連続して240回検出」かつ「踏力範囲が0」の3つの条件を満たす場合に、過負荷状態の解除を検出する。なお、「モータ回転速度が126rpm以上」かつ「車速(内部速度)が6km/h以上」の2つの条件を満たす場合に、過負荷状態の解除を検出しても良い。
【0096】
ステップS16において過渡負荷状態の解除を検出しない場合にはステップS15に移行して、120度通電駆動方式によるモータ制御を継続する。
【0097】
一方、ステップS16において過渡負荷状態の解除を検出した場合にはステップS13に移行して、180度通電駆動方式によるモータ制御に復帰させる。
【0098】
[通電駆動方式の比較]
表2は、180度通電駆動方式、120度通電駆動方式、相補120度通電駆動方式の各通電駆動方式の特性を示す。表中、二重丸の表記は3つの通電駆動方式の中で特に当該特性が良いことを示し、一重丸の表記は当該特性が良好であることを、三角の表記は当該性能にやや劣ることを示し、バツ印の表記は当該性能が劣ることを示す。
【表2】

【0099】
表2に示すように、180度通電駆動方式は、静音性、振動特性及び効率が特に良好である。一方、180度通電駆動方式では、先を予測して制御するため過渡負荷対応性に弱く、過渡的な負荷により位置ずれが起こると制御不能になる可能性がある。また、180度通電駆動方式は、120度通電駆動方式に比較して制御が複雑である。
【0100】
120度通電駆動方式は、モータのホールICで検出する磁極位置のみに基づいて制御し、予測して制御しないので、過渡負荷対応特性が特に優れている。このため、急激な負荷変動による過負荷状態の運転時にも制御を継続することが可能であり、モータの停止を回避することが可能である。また、制御が簡易であり、効率も良好である。但し、振動特性がやや劣り、静音性が劣る欠点がある。
【0101】
相補120度通電駆動方式は、モータのホールICで検出する磁極位置のみに基づいて制御し、予測して制御しないので、過渡負荷対応特性が特に優れている。過渡負荷対応特性が良好である。このため、急激な負荷変動による過負荷状態の運転時にも制御を継続することが可能であり、モータの停止を回避することが可能である。また、静音性、振動特性が特に良好である。一方、制御が複雑であり、効率が3方式中最も劣る欠点がある。
【0102】
上述した実施形態では、過渡負荷状態の生じ得る可能性があり且つ良好な静音性及び振動特性が要求されるモータ起動運転時には、相補120度通電駆動方式によりモータを制御することにより、モータ起動運転中に過渡的な負荷変動が生じた場合にもモータの停止を確実に回避して運転を継続し、騒音及び振動の少ない起動運転を可能としている。
【0103】
また、モータの回転速度及び回転回数が所定の値に達した通常運転時には、モータ制御を180度通電駆動方式に切換えて、騒音及び振動の少ない快適な運転を可能にするとともに、効率を高めて電力消費を抑制することを可能にしている。
【0104】
また、通常運転時に過渡的な負荷変動があった場合には、モータ制御を120度通電駆動方式に切換えて、効率の低下を抑制しつつモータの停止を確実に回避して運転を継続可能としている。
【0105】
また、120度通電駆動方式に切換えた後、過渡負荷状態が解除された場合には、180度通電駆動方式に復帰させることにより、静音性、振動特性及び効率に優れた運転を最大限に利用可能である。
【0106】
以上述べたように、本実施形態によれば、モータの起動運転時において相補120度通電駆動方式により騒音及び振動を抑制しつつモータの停止を確実に回避し、通常運転に移行後は、180度通電駆動方式により騒音及び振動が少なく効率の良い運転を最大限利用可能とするとともに、過渡的な負荷変動があった場合には、120度通電駆動方式により効率の低下を抑制しつつモータの停止を確実に回避することができる。
【0107】
[他の実施形態]
なお、上記実施形態では、通常運転に移行後に過渡負荷状態を検出した場合には、120度通電駆動方式に切換える制御を行ったが、効率の低下を許容可能である場合には、通常運転に移行後に過渡負荷状態を検出した場合に、相補120度通電駆動方式に切換えても良い。この場合、過渡負荷運転時においも騒音及び振動の少ない運転が可能になり、電動アシスト自転車の運転をより快適にすることができる。
【0108】
また、上記実施形態では、相補120度通電駆動方式によりモータの起動運転を行ったが、騒音及び振動を許容できる場合には、120度通電駆動方式によりモータの起動運転を行っても良い。この場合、モータの起動運転時の効率を向上させることができる。
【0109】
また、モータが通常運転状態になるまで相補120度通電駆動方式(又は120度通電駆動方式)を継続するモータ起動制御に代えて、モータを180度通電駆動方式でモータを起動し、過渡負荷状態を検出した場合に、相補120度通電駆動方式(又は120度通電駆動方式)に切換え、過渡負荷状態の解除を検出した場合に、180度通電駆動方式に復帰させるように構成しても良い。
【0110】
また、上記実施形態では、120度通電駆動方式及び相補120度通電駆動方式を例に挙げて説明したが、本発明は、180度未満でかつ120度以外の導通角で間欠通電する他の間欠通電駆動方式及び相補間欠通電方式に適用可能である。
【符号の説明】
【0111】
14:マイクロコンピュータ
15:インバータ回路
17:バッテリ
37:モータ
371:ホールIC

【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相ブラシレスモータの制御装置であって、
前記三相ブラシレスモータ(37)の各相(U,V,W)に駆動電圧を供給する三相ブリッジインバータ回路(15)と、
前記インバータ回路(15)のトランジスタ(UH,UL,VH,VL,WH,WL)に180度未満の導通角のPWM信号を印加して、前記三相ブラシレスモータを相補間欠通電駆動方式により駆動する相補間欠通電駆動手段(32)であって、3相のうち2相において各相の上下トランジスタに互いに異なるデューティ比のPWM信号を印加して当該2相のコイルを介して電流を流すとともに、3相のうち1相において上下トランジスタに互いに同一のデューティ比のPWM信号を印加して該1相のコイルに蓄積されたエネルギーによって上下トランジスタの何れかを介して電流を流し、これにより、各相において全電気角で電流を流して、前記三相ブラシレスモータを相補間欠通電駆動する相補間欠通電駆動手段(32)と、
を備えることを特徴とする三相ブラシレスモータの制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の三相ブラシレスモータの制御装置において、
前記三相ブラシレスモータの起動運転状態又は過渡負荷状態の少なくとも何れか一方において相補間欠通電駆動方式により前記三相ブラシレスモータを制御することを特徴とする、三相ブラシレスモータの制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の三相ブラシレスモータの制御装置において、
前記インバータ回路(15)に導通角180度のPWM信号を印加して、前記三相ブラシレスモータ(37)を180度通電駆動方式で駆動する180度通電駆動手段(33)と、
前記三相ブラシレスモータ(37)の起動運転状態において相補間欠通電駆動方式を選択し、前記三相ブラシレスモータ(37)の運転状態が通常運転状態となった場合に180度通電駆動方式を選択する駆動方式選択手段(31)と、
を更に備えることを特徴とする三相ブラシレスモータの制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の三相ブラシレスモータの制御装置において、
前記インバータ回路(15)に180度未満の導通角のPWM信号を印加して、前記三相ブラシレスモータ(37)を間欠通電駆動方式で駆動する間欠通電駆動手段(34)を更に備え、
前記駆動方式選択手段(31)は、前記三相ブラシレスモータ(37)の過渡負荷状態が検出された場合に、間欠通電駆動方式を選択することを特徴とする、三相ブラシレスモータの制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の三相ブラシレスモータの制御装置において、
前記駆動方式選択手段(31)は、過渡負荷状態が検出されて間欠通電駆動方式を選択した後、前記過渡負荷状態の解除が検出された場合に180度通電駆動方式に復帰させることを特徴とする、三相ブラシレスモータの制御装置。
【請求項6】
請求項3に記載の三相ブラシレスモータの制御装置において、
前記駆動方式選択手段(31)は、前記三相ブラシレスモータ(37)の回転速度が所定値以上となり、かつ、前記三相ブラシレスモータ(37)の正回転方向の回転回数が連続して所定回数以上検出された場合に、起動運転状態から通常運転状態に移行したと判断することを特徴とする、三相ブラシレスモータの制御装置。
【請求項7】
請求項4に記載の三相ブラシレスモータの制御装置において、
前記駆動方式選択手段(31)は、前記三相ブラシレスモータ(37)の逆方向の回転が検出された場合に、過渡負荷状態にあると判断することを特徴とする、三相ブラシレスモータの制御装置。
【請求項8】
請求項5に記載の三相ブラシレスモータの制御装置において、
前記三相ブラシレスモータ(37)は、電動アシスト自転車のアシスト制御に使用され、
前記駆動方式選択手段(31)は、前記三相ブラシレスモータ(37)の回転速度が所定値以上となり、かつ、前記三相ブラシレスモータ(37)の正回転方向の回転回数が連続して所定回数以上検出され、かつ、前記電動アシスト自転車の踏力範囲が所定値以下となった場合に、過渡負荷状態が解除されたと判断することを特徴とする、三相ブラシレスモータの制御装置。
【請求項9】
請求項5に記載の三相ブラシレスモータの制御装置において、
前記三相ブラシレスモータ(37)は、電動アシスト自転車のアシスト制御に使用され、
前記駆動方式選択手段(31)は、前記三相ブラシレスモータ(37)の回転速度が所定値以上となり、かつ、前記電動アシスト自転車の車速が所定値以上となった場合に、過渡負荷状態が解除されたと判断することを特徴とする、三相ブラシレスモータの制御装置。
【請求項10】
請求項1乃至9の何れかに記載の三相ブラシレスモータの制御装置を備える、電動アシスト自転車の電動アシストユニット。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−142721(P2011−142721A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−1106(P2010−1106)
【出願日】平成22年1月6日(2010.1.6)
【出願人】(305032254)サンスター技研株式会社 (97)
【Fターム(参考)】