説明

三相単相直接電力変換器回路

【課題】 三相交流電源から単相交流出力を生成して共振形負荷を駆動する。
【解決手段】 共振形の負荷回路に電流を流す一対の出力ラインと、一対の出力ラインのそれぞれと三相交流電源の3つの電源ラインのそれぞれとの間における電気的接続状態を制御する6個のスイッチ部102、104、112、114、122、124を設け、スイッチ部それぞれの開閉を制御するために各スイッチ部S1〜S12の制御入力端子へ入力される制御信号を生成する制御回路を備える制御回路であり、一対の出力ラインが出力する単相交流における電流の位相を単相交流における電圧の位相からみて所定の範囲の位相遅れ量または所定の値の位相遅れ量となるように、単相交流の駆動周波数を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三相交流電源から単相の交流出力を得るために用いる三相単相直接電力変換器と、それを用いた誘導加熱装置用電源装置および共振形負荷の駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、三相交流電源を用いて他の周波数の交流電力を生成する電源回路においては、交流を一旦直流に変換し、その直流から所望の周波数の交流を生成することが行われている。交流の電源電力を直流にするためには、半導体素子、例えば、ダイオードやサイリスタ、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)を用いて、ダイオードマトリックスなどの整流回路またはコンバータ回路を用いて電源の交流電力から直流電力を生成する。以下、この部分をコンバータ部と呼ぶ。そして、直流電力から所望の周波数の交流電力を生成するためには、IGBTやMOSFETなどの素子を用いたインバータ回路によって目的の周波数を有する交流を生成する。以下、この部分をインバータ部と呼ぶ。以上のようなコンバータ部とインバータ部を有する回路(以下、「AC/DC/AC回路」という)では、2段階の電力変換を行なうため、変換効率を向上させるのが難しいという課題がある。また、AC/DC/AC回路では、入力と出力の瞬時電力が異なるため、原理的にエネルギー蓄積機器(コンデンサやリアクトル)が必要になる。このエネルギー蓄積機器として、AC/DC/AC回路では容量の大きな電解コンデンサが用いられる。
【0003】
しかし、電解コンデンサは、サイズが大きく、また、高温で連続動作させた場合には特に寿命が短く、メンテナンス、すなわち、電解コンデンサの定期的な点検や取替えが必要となる。さらに、AC/DC/AC回路では、電力線に供給周波数の高調波成分の電流(高調波電流)を生じてしまい、電力系統の進相コンデンサを加熱させるといった課題がある。以上のように、AC/DC/AC回路は、サイズが大きく、変換効率を高めることが難しく、定期的なメンテナンスが必要となり、電力系統に悪影響を及ぼす。
【0004】
従来のAC/DC/AC回路の上記課題のいくつかを解決するものとして、マトリクス・コンバータと呼ばれる回路が存在する。マトリクス・コンバータでは、三相交流電源から目的の周波数の三相交流電源を、直接、つまり、変換の途中で直流を生成することなく生成する。このため、マトリクス・コンバータでは、直流バス部分が用いられず、上記のような大容量のキャパシタも用いない。
【0005】
マトリクス・コンバータでは、三相交流電源の各相(R相、S相、およびT相)のライン(電源側ライン)それぞれと、目的の周波数の三相交流の各相(U相、V相、およびW相)のライン(出力側ライン)それぞれとの間にスイッチとして作用する要素(スイッチ部)を配置する。このスイッチ部は、各電源側ラインと各出力側ラインとの間を電気的に接続するか、遮断するかを制御するために用いられる。スイッチ部の開閉の動作は、出力側の電圧を目的の周波数で振動させ、電源側の電流の位相を電源側の電圧の位相と一致させて力率をできる限り1に近づけるようにされる。この際、電源の短絡やサージ電圧によるスイッチ部の素子(IGBT素子など)の破壊を防止するように制御しながら、電源電圧または負荷電流の符号に合わせて還流または転流(free wheeling、または、commutation)が行なわれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上のようなマトリクス・コンバータとしては、三相交流の電源から、その電源の周波数とは異なる周波数を有する三相交流の出力を生成する回路が知られており、モータ駆動電源回路などに適用される例がある。しかしながら、三相交流の電源から単相交流を生成するためのマトリクス・コンバータはこれまで注目されていない。これまで考えられた三相‐単相直接変換回路では、三相のうちの二つの相を接続して単相を作るので、接続されない一相のエネルギーのやり場が無く、入出力間の瞬時エネルギーに不整合が生じて、エネルギー蓄積要素無しには困難であると考えられてきたからである。すなわち、マトリクス・コンバータにおいては、エネルギーや電荷を蓄積するような大容量のキャパシタを用いないため、エネルギー保存則から、供給されるエネルギーと出力するエネルギーとが各瞬間において釣り合っているように保つ必要がある。ここで、三相交流を出力する場合であれば、電源および出力の両方が、共に瞬時電力の総量が交流の振動に合わせて変動(振動)しない三相交流であるため、電源の三相交流において力率を高く保ちつつ高調波を抑制するような制御に対してエネルギーの保存則は制約とはならない。しかし、単相交流を出力する場合には、電源側が瞬時電力が変動しない三相交流であるのに対し、出力側は瞬時電力が交流の2倍の周波数で変動する単相交流であることから、電源の三相交流において力率を高く保ち電源電流の高調波を抑制するような制御に加えて、出力の単相交流の瞬時電力が変動するように制御する必要がある。このような制御は、可能であるとしても負荷が抵抗成分だけの場合にとどまり、負荷にリアクタンス成分や、キャパシタンス成分が含まれるときには不可能であると考えられていた。
【0007】
本願明細書において、三相交流の電源から単相交流を生成するためのマトリクス・コンバータを、以下、三相単相直接電力変換器という。
【0008】
また、三相単相直接電力変換器を高周波誘導加熱に用いると別の課題が生じる。即ち、高周波誘導加熱装置(以下、誘導加熱装置)では、交流磁界発生用の誘導コイル(加熱コイル)とキャパシタとを接続し、その誘導コイルとキャパシタとの作る共振回路の共振周波数付近となるように出力の周波数を調整する。共振回路の共振周波数付近の出力を用いることにより、誘導コイルのリアクタおよび抵抗のみでは不十分な力率が改善される。しかしながら、このような動作においては、共振回路の共振周波数が被加熱物の温度変化や電流の変化によって変化すると、それに合わせて出力交流の周波数を調整しなくてはならない。
【0009】
本願は上記のマトリクス・コンバータの持つ課題のうちの少なくともいくつかを解決することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第一の態様によれば、小型でメンテナンスを省力化できるような三相単相直接電力変換器、または、それを用いた誘導加熱装置用の電源装置およびその制御方法が提供される。すなわち、本発明のある態様においては、共振形負荷に電流を流す一対の出力ラインと、該一対の出力ラインのそれぞれと三相交流電源の3つの電源ラインのそれぞれとの間における電気的接続状態を制御し、開閉用の制御入力端子を有するスイッチ部と、該スイッチ部それぞれの開閉を制御するために各スイッチ部の制御入力端子へ入力される開閉制御信号を生成する制御回路とを備えてなり、前記制御回路は、前記一対の出力ラインが出力する単相交流における電流の位相を該単相交流における電圧の位相からみて所定の範囲の位相遅れ量または所定の値の位相遅れ量となるように、該単相交流の駆動周波数を制御する、三相単相直接電力変換器が提供される。
【0011】
ここで、上記の共振形負荷とは、共振を生じさせる負荷を一般に含むものであり、例えば、リアクタL、キャパシタCおよび抵抗Rを直列に接続したLCR直列共振回路など、任意のタイプの共振を起こす回路を含む。
【0012】
上記のような態様においては、共振形負荷のもつ共振周波数に対して駆動周波数を適切に維持することができ、共振形負荷の駆動が効率よく行なえて変改効率および力率の高い駆動を行うことができる三相単相直接電力変換器が実現する。
【0013】
本発明の上記態様では、共振形の負荷に電流を流すときに、駆動するためのスイッチ部の動作条件のために、駆動周波数の電圧の位相と電流との間に必要な関係を考慮している。すなわち、負荷の共振周波数よりも低い周波数の駆動周波数では、負荷が容量性の負荷として振る舞い、スイッチ部に過大な電流が流れてしまってスイッチ部の電流容量を上回ってしまうことがある。このため、駆動周波数は負荷の共振周波数よりもある程度高い周波数とするのが望ましい。このとき、負荷の共振周波数は、各瞬間での負荷の受動素子の定数(リアクタンス、キャパシタンスなど)に影響されるが、その一方で、それらの値を常時得ることは難しい。そこで、本発明の上記実施態様では、出力の単相交流において、制御して出力される電圧と、その電圧によって駆動され、共振形負荷の状態を反映して流れる電流との間の位相を制御して、電流の位相を電圧の位相からある遅れ量だけ遅れるようにする。その制御においては、上記の遅れ量が、ある所定の範囲となる、あるいは、ある所定の値となるようにされる。
【0014】
本発明の上記態様において、遅れ量は、0度より大きく90度未満の範囲に含まれ、任意の角度に制御することができる。
【0015】
この遅れ量は、駆動周波数と共振周波数の相対的な関係を示している。出力の電流の位相が電圧の位相より0度より大きく90度未満の範囲または値となっていると、駆動賞端数が共振周波数よりも高くなっており、負荷が容量性負荷とはならない。また、角度が低ければスイッチング損失が低くなり、力率も1に近づくので、効率よく加熱ができる。しかし、位相が0度を下回ると負荷が容量性になり破壊を招く恐れがあるため、制御余裕を持ち任意の角度となるように制御される。
【0016】
また、本発明の上記態様において、前記制御回路が、キャリア信号の周波数を制御する周波数可変回路を有し、この制御回路が、該周波数可変回路によってキャリア周波数を変化させて単相交流の駆動周波数を制御するようにすることができる。ここで、キャリア信号は、パルス幅変調(PWM)において通常用いられるように、一例としては、三角波とすることができる。このキャリア信号を用いる場合に、本願の発明では、典型的には、その周波数の交流出力を生成したり、その周波数の整数分の1の周波数の交流出力を生成するのに用いられる。
【0017】
さらにこの態様において、スイッチ部それぞれが、電流経路の順方向の向きを反転させて互いに直列に接続された2つのスイッチ素子と、このスイッチ素子の逆電流をバイパスする向きになるよう各スイッチ素子に並列に接続された還流ダイオードとを備え、該スイッチ素子のそれぞれが、制御入力端子である開閉制御端子を有し、前記制御回路が、前記スイッチ部を制御するスイッチ部制御信号と前記キャリア信号とから、前記スイッチ素子の前記開閉制御端子に印加する開閉制御信号を生成するインバータ相当部を有するものとすることもできる。また、上記の態様において、制御回路が、三相交流電源の3つの電源ラインのうちの少なくとも二つの電圧測定値から、該三相交流電源の3つの電源ラインそれぞれの電圧値の位相にあわせた位相によって振動する電流指令値信号を生成する電流指令値生成部を有するとともに、該電流指令値生成部からの前記電流指令値信号と、駆動周波数と同じ周波数のキャリア信号との比較演算によって、駆動周波数と同じ周波数を有し、前記三相交流電源の電源電圧値に応じたスイッチ部制御信号を生成するコンバータ相当部を有するものとすることができる。このようなインバータ相当部やコンバータ相当部の構成を有する場合には、共振形負荷を共振に近い条件で動作させるために出力の単相交流の電圧を制御することが可能となる。
【0018】
また、本発明の上記態様において、三相交流電源の3つの電源ラインのそれぞれの間において三相交流電源の周波数より高い周波数の電流成分を低減させるフィルタを設けることができる。このフィルタは典型的には、リアクタとフィルムコンデンサとによるLCフィルタとすることができ、三相交流電源の各相の間に生じる電源周波数の高調波成分の電流ノイズを吸収することができる。さらに好ましくは、このフィルタが駆動周波数の成分を遮断するようにすることができる。電流や電圧の周波数で見れば、フィルタが吸収するのは2倍の周波数の成分ではなく、発振周波数の成分になる。このようにすれば、このフィルタが、本来は電源周波数の高調波成分の電流ノイズを吸収するように設けられていたものであっても、出力の単相交流の瞬時電力の振動(駆動周波数の2倍の振動)を吸収することができる。ここで、このような動作をするフィルタは、三相交流の電源ラインにおいて出力の単相交流の瞬時電力の変動に応じて電力を供給することができるため、三相交流と単相交流の間でのエネルギー保存則を満たす動作の助けとなる。このため、上記態様において、前記単相交流出力の周波数が前記三相交流電源の周波数の周波数よりも大きくする事は好適である。
【0019】
本発明においては、上記各態様の三相単相直接電力変換器を用い、前記共振形負荷として共振キャパシタと誘導コイルとを含んでいる誘導加熱装置に用いられる電源装置が提供される。誘導加熱装置では、負荷にリアクタンス成分が大きいコイルが用いられる。このため、リアクタンス成分によって低下する力率を可能な限り1に近づけるべく、負荷全体が共振形となるように補償キャパシタを付加するのが好適である。このような構成の共振形負荷とすると、上記各態様の三相単相直接電力変換器によって良好な駆動を行うことができる。
【0020】
本発明においては、上記の三相単相直接電力変換器のほか、三相単相直接電力変換器の駆動方法も提供される。すなわち、本発明のある態様においては、単相交流の一対の出力ラインに接続された共振形負荷を流れる電流を検出するステップと、単相交流の出力の電圧の符号または位相を定め、単相交流の電流と比較可能になっている指令信号と共振形負荷を流れる前記電流とを比較して、指令信号と電流との差を表わす差信号を得るステップと、この差信号を低域通過フィルタによって処理するステップと、低域通過フィルタによって処理された差信号に応じて、指令信号の周波数を変更するステップと、指令信号に応じて、一対の出力ラインのそれぞれと、三相交流電源の3つの電源ラインのそれぞれとの間における電気的接続状態を制御する少なくとも6個のスイッチ部の開閉を制御して、三相交流電源から出力ラインへの出力を生成するステップとを含む共振形負荷の駆動方法が提供される。
【発明の効果】
【0021】
本発明のある態様においては、三相交流の電源から単相交流を出力する場合に、リアクタンス成分や、キャパシタンス成分が含まれるような共振形負荷を駆動する際に、電源の三相交流において力率を高く保ち電源電流の高調波を削減するような制御ができる。加えて、出力の単相交流の瞬時電力を変動させる制御ができる。
【0022】
また、本発明のある態様においては、三相単相直接電力変換器を用いる誘導加熱装置において、共振形負荷の共振周波数が何らかの要因によって変化しても、変動する共振周波数に近い駆動周波数によって駆動することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明のある実施の形態による三相単相直接電力変換器の回路図。
【図2】本発明のある実施の形態による三相単相直接電力変換器の主回路を制御するための制御回路のブロックダイヤグラム。
【図3】本発明のある実施の形態における共振形負荷の動作を説明するための、共振形負荷が接続されている電圧型インバータを含む従来のAC/DC/AC回路の回路図。
【図4】図3の従来の電圧型インバータを含むAC/DC/AC回路を動作させるための制御波形およびそれによって得られる電流信号の説明図。
【図5】本発明のある実施の形態における共振形負荷の動作を説明するための、共振形負荷が接続されている電流型インバータを含む従来のAC/DC/AC回路の回路図。
【図6】図3の従来の電流型インバータを含むAC/DC/AC回路を動作させるための制御波形およびそれによって得られる電流信号の説明図。
【図7】本発明のある実施の形態における共振形負荷を駆動するための駆動周波数と位相角との関係を示すグラフ。
【図8】本発明のある実施の形態において電圧型スイッチを用いて共振形負荷を駆動するための電圧波形と電流波形の関係を説明する説明図。
【図9】本発明のある実施の形態において駆動周波数を制御するための制御回路の機能ブロックの構成を説明する説明図。
【図10】図9の制御ブロックによって駆動周波数が制御される態様を波形によって示す説明図。
【図11】本発明のある態様における三相単相直接電力変換器の実施例の主回路を含む部分の回路図。
【図12】本発明のある態様における三相単相直接電力変換器の実施例のコンバータ相当部を含む部分の回路図。
【図13】本発明のある態様における三相単相直接電力変換器の実施例のインバータ相当部を含む部分の回路図。
【図14】本発明のある態様における三相単相直接電力変換器の実施例の波形図。
【図15】本発明のある態様における三相単相直接電力変換器の実施例のシミュレーション結果を示す波形図。
【図16】本発明のある態様における三相単相直接電力変換器の実施例のシミュレーション結果を示す波形図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して、本願の発明の実施の形態について説明する。図面において、同様の要素には同一の符号を付してその説明を省略する。また、上述の説明では、電源側の各相をR相、S相およびT相としたが、以降の説明では、三相交流は電源側のみに現れるので、電源側の各相をU相、V相およびW相と記載する。
【0025】
[実施形態の説明]
【0026】
1.三相単相直接電力変換器の構成
図1は、本願のある実施の形態において用いる三相単相直接電力変換器1の回路図であり、図2は、三相単相直接電力変換器1の主回路10を制御するための制御回路のブロックダイヤグラムである。
【0027】
三相単相直接電力変換器1は、三相交流の電源Vの各相(U相、V相、およびW相)のライン(電源側ライン)それぞれから、主回路10によって、目的の周波数の単相交流の出力を生成する。このため、三相単相直接電力変換器1は、主回路10以外に、電源電流検知部12と、電源側フィルタ部14を備え、必要に応じて電流量を所望の値に調整する高周波トランス16を有する。
【0028】
制御回路20(図2)には、U相およびV相の電流値i、iと、電流指令値IREFと、U相、V相、およびW相の電圧信号v、v、vとが入力される。ここでの電流指令値IREFは、スカラー量であるが、U相、V相、およびW相の電流位相の制御信号を生成するために利用される。制御回路20の詳細は後述する。
【0029】
2.主回路
主回路10(図1)には、スイッチ部102〜124が備えられる。主回路10は、電源VのU相、V相、およびW相の3本のラインのそれぞれと、単相交流出力の正側および負側の2本のラインのそれぞれとの間にスイッチ部を配置しているため、主回路10には、6つのスイッチ部102、104、112、114、122、124がある。スイッチ部102〜124は、典型的には、スイッチ素子S1〜S12によって構成される。すなわち、スイッチ部102には、スイッチ素子S1とS8が含まれ、スイッチ部112には、スイッチ素子S3とS10が含まれ、というように各スイッチ部には、2つのスイッチ素子が含まれる。ここで、この実施形態では、各スイッチ素子は、図示したように互いに直列に接続されている。各スイッチ素子は、典型的には、制御する電流ラインにエミッタおよびコレクタを挿入するように接続されるIGBTなどのスイッチ素子を有しており、さらに、そのスイッチ素子に逆電圧が印加されて破壊するのを防止するための還流ダイオードがIGBTのエミッタおよびコレクタに並列接続されるものとすることができる。この典型例では、各スイッチ部が直列に接続された二つのスイッチ素子によって構成される。スイッチ部102、104、112、114、122、124は、この目的を達成する他の要素、例えば逆阻止IGBTなどによって構成することも可能である。
【0030】
2.1.主回路の動作
主回路10は、スイッチ部102、104、112、114、122、124の開閉状態の組み合わせによって、単相交流出力の正側および負側の2本に生じる電圧波形(出力電圧波形)と、三相交流電源の電流(電源電流)とを制御する。すなわち、出力側電圧の電圧と周波数とを制御して、一般にはインダクタLと、キャパシタCと、抵抗Rとを有する負荷100に印加される電圧波形を所望のものになるように制御し、その際に、三相交流電源のラインに、従来のAC/DC/AC回路によってしばしば観測されるような高調波ひずみ電流ができるだけ流れないようにする。電源電流の位相差は、三相交流電源からみた装置全体の力率が高まるように、三相交流電源の各相の電圧波形との間での位相差が可能な限り0となるように調整する。
【0031】
3.電流制御回路の構成および動作
上記の電源側の電流を制御するための構成について以下説明する。電流制御回路は、機能的に大別すると、コンバータ相当部22と、インバータ相当部24と、フリーホイーリングロジック部26とに分かれる。
【0032】
3.1.コンバータ相当部
図2に示したように、電源側の電流を制御するためには、電流検知部12(図1)からの測定値によって、U相、V相およびW相の電流信号I、I、Iを生成する。ここでは、三相交流の性質を利用して、U相、V相電源側の測定値I、IからW相の電流値Iを求めるように演算しているが、他の構成とすることもできる。そして、その各相の電流値I、I、Iから、電源側フィルタ部14(図1)の遅れ補償する演算をおこない、I、I、I各相の電流指令値を作り出す。ここでは、微分要素sTと、定数要素kpとによってその成分を生成している。
【0033】
また、図2の電流制御回路20には、電流指令値IREFと、U相、V相、およびW相の電圧信号v、v、vとが入力される。これらの値は,相ごとに掛け合わされて電源の電圧信号v、v、vと同位相で振動する交流電流指令値信号Iとされる。この信号は、各相の電流値との差を取り、比例積分レギュレータ220に入力される。このようにして、比例積分レギュレータ220によって電流量測定値が電流指令値信号と同じ値となるように制御される。ここで、交流電流指令値信号Iは電圧信号と同位相によって振動しているので、制御の結果最も望ましい状態は、電流量測定値も交流電流指令値信号Iと同位相で振動している状態となる。これにより、電流の位相が電圧の位相と同位相で振動するようにされる。
【0034】
比例積分レギュレータ220の出力は、三角波のキャリア信号との比較を比較部221によって行なってインバータ部へと出力される。ここで、この比較部221を用いた処理では、比例積分レギュレータ220の出力に応じたオン/オフ信号が生成される。このオン/オフ信号は、電源側の各相と出力側の正側および負側との間の接続を定めるものなので、6本の信号となる。
【0035】
コンバータ相当部22には、位相検出部222が設けられる。この位相検出部222は、電圧信号v、v、vの位相を検出した任意の信号を生成する。位相検出部222からの信号は、後述するフリーホイーリングロジック部26へ入力される。フリーホイーリングロジック部26は、電源の短絡および負荷の開放を避けるような経路を確保しつつ、スイッチ素子S1〜12を変化させるために設ける。スイッチ素子102,112,122,104,114,124が理想的なスイッチの場合、フリーホイーリングロジック部26は特に必要ない。しかし、実際のMOSFETやIGBTはオン/オフに時間が必要であったり、遅延を生じたりするので、フリーホイーリングロジック部26が必要になる。
【0036】
3.2.インバータ相当部
インバータ相当部24は,コンバータ相当部22の出力とキャリア信号とによって、各スイッチ素子を制御するための信号を生成する。したがって、典型的には、図1に示した主回路のスイッチ素子の数だけの信号を生成する。
【0037】
3.3.フリーホイーリングロジック部
そして、インバータ相当部24の出力は、フリーホイーリングロジック部26によって主回路の転流が適切に処理されるようにタイミングが調整される。このとき、位相検出部222による位相を利用する。ここでの転流の処理は主回路の構成に依存する。すなわち、図1に示したようなスイッチ部では、電圧を切り替えるためのスイッチ部(電圧型のスイッチという)を用いるため、電源の各相のライン間に短絡の生じるタイミングがないようにする必要がある。また、ここには図示しないが、電流を切り替えるためのスイッチ部(電流型のスイッチ部)を用いても本願の発明を実施し得る。このときには、電流の断絶によって高い電圧がスイッチ素子に発生するのを防止するために、電流の経路を確保しながらスイッチングする必要がある。以上のような転流の処理を行なうために、フリーホイーリングロジック部26では、インバータ相当部24からの信号に対して、タイミングを調整する処理を行う。
【0038】
以上のように、本願の発明においては、コンバータ相当部22、インバータ相当部24およびフリーホイーリングロジック部26として動作する部位が機能に合わせて用いられる。
【0039】
4.共振形負荷の作用
ここで、本発明の三相単相直接電力変換器によって駆動される負荷が共振形負荷である点について、その技術的特徴を詳細に説明する。図1においては、三相単相直接電力変換器1によって駆動される負荷は、キャパシタC、リアクタL、抵抗Rの等価回路の負荷100によって表現している。説明のために、ここでは、三相単相直接電力変換器ではなく、従来のAC/DC/AC回路によって共振形負荷を駆動する動作を説明する。
【0040】
4.1. 共振形負荷の作用(AC/DC/AC回路による説明)
従来のAC/DC/AC回路の例を図3および5に示し、それぞれの回路によって用いられる電流または電圧波形を図4および6に示す。AC/DC/AC回路は、上述のように、コンバータ部とインバータ部とによって構成される。
【0041】
ここで、共振形負荷を駆動する従来のAC/DC/AC回路では、共振形負荷を等価回路によって表現したときに抵抗RとインダクタLとキャパシタCとが互いに直列接続されている回路(RLC直列共振回路、図3)であるときには、
コンバータ部は蓄積キャパシタを有してDC電圧を生成して維持する回路とし、インバータ部をそのDC電圧から交流電力を生成する電圧型インバータ30とする。この回路によって用いられる電流または電圧の波形を図4に示す。
【0042】
これに対して、駆動される共振形負荷等価回路によって表現したときに抵抗RとインダクタLとキャパシタCとが互いに並列接続されている回路(RLC並列共振回路、図5)であるときには、コンバータ部はリアクタを用いてDC電流を生成して維持する回路とし、インバータ部をそのDC電流から交流電力を生成する電流型インバータ回路50とする。この回路によって用いられる電流または電圧波形を図6に示す。
【0043】
4.2.共振形負荷を駆動するAC/DC/AC回路の動作
共振形負荷を駆動する際のAC/DC/AC回路の動作を図を用いて説明する。図3の電圧型インバータ30に対してコンバータ部の動作は等価的に電圧源32として表現される。この蓄積コンデンサCdには、電荷によって静電的エネルギーが蓄積される。互いに直列接続された抵抗R316とインダクタL314とキャパシタC312とからなる負荷に振動電圧Vinvを印加するためには、トランジスタ302と304のゲート電位Gaを図4のGa波形となるように制御し、トランジスタ306と308のゲート電位Gbを図4のGb波形となるように制御する。なお、トランジスタ302〜308は、ゲート電位がHIのときにエミッタ−コレクタ間を導通させてONにし、ゲート電位がHIのときにエミッタ−コレクタ間を遮断してOFFにするIGBTとして説明する。Ga波形とGb波形には、同時にトランジスタをONにしないような期間を設けて、電源側から見た短絡を防止する。その結果、振動電圧Vinvは図4の電圧信号Vinvのようになり、また、負荷電流Iは、電流信号Iのようになる。ここで、負荷電流Iは、振動電圧Vinvよりもわずかに位相が遅れるように動作させる。この理由は後述する。そのため、電圧源32および蓄積コンデンサC34から流出する電流idcには、負荷電流Iの値が負になる期間、すなわち、蓄積コンデンサC34に向かって電流が戻る期間が生じ、力率が1とはなってはいない。この電流が戻る期間においては、電流は、トランジスタ302、304、306、308(IGBT)に並列に接続された還流ダイオードを流れる。
【0044】
4.2.1.負荷の性質と駆動周波数
上述のように若干の力率の低下を生じさせてまで負荷電流Irの位相を振動電圧Vinvよりも遅らせるのは、もし負荷電流Irの位相を振動電圧Vinvよりも進ませると、負荷全体のインピーダンスが容量性となってしまい、スイッチ素子がONになる各瞬間に、負荷が容量性つまり電流を呼び込むような動作をしてしまうためである。この場合、電圧型インバータのスイッチ素子が半導体素子である場合に、半導体素子に過大な突入電流が流入して破損する。これを防止するために、負荷電流Irの位相を振動電圧Vinvよりも遅らせる。
【0045】
上記説明は電圧型インバータ30によって説明を行なったが、図5に記載した電流型インバータ50においても同様に位相を調整する。なお、電流型インバータ50においては、電圧型インバータとは逆に、交流電流Iinvを反転させて負荷電圧Vを生じさせる動作となるので、負荷電圧Vを交流電流Iinvよりも遅らせる。この場合にもは、負荷全体のインピーダンスを誘導性負荷となるように維持する。電流型インバータでは、電流型スイッチとなるように、スイッチ素子502〜508がIGBTであれば、直列にダイオードを接続する。
【0046】
これらを駆動周波数の点からみると、電圧型インバータでも、電流型インバータでも、容量形負荷とならないように、負荷が持つ共振周波数よりも若干高い周波数の駆動周波数で駆動するのが適切である。
【0047】
4.3. 共振形負荷の作用(三相単相直接電力変換器の場合)
以上のAC/DC/AC回路における負荷の性質とその駆動周波数の関係は、AC/DC/AC回路ではなく三相単相直接電力変換器においても同様である。以下、その点について詳述する。
【0048】
4.3.1. 周波数制御の詳細
三相単相直接電力変換器においても、共振周波数よりも若干高い周波数になるように駆動周波数を調整する。以下、負荷をRLC直列共振回路として構成し、それに応じて三相単相直接電力変換器を動作させる場合を想定して駆動周波数の設定について説明する。
【0049】
図1に負荷100として示しているRLC直列共振回路のインピーダンスは、
【数1】


となる。これにより、電圧と電流の位相差(位相角)
【数2】


を得る。ここで、fは三相単相直接電力変換器が駆動する駆動周波数である。
【0050】
また、負荷の共振周波数は
【数3】


である。ここに、
【数4】


となるqを導入して式を整理すると、位相角
【数5】


を得る。以上のようにして得られた位相角を、qの値ごとに駆動周波数fに対してプロットすると、図7のようになる。
【0051】
4.3.2. 三相単相直接電力変換器の周波数の制御
本発明のある態様においては、三相単相直接電力変換器の負荷の状態を反映するように三相単相直接電力変換器の駆動周波数を制御する。その周波数制御装置について説明する。
【0052】
制御回路は、発振周波数(駆動周波数)を、負荷の共振周波数に近づけるように制御する。図7に示した関係から、インバータ相当部分の出力電圧波形と出力電流波形の位相差(位相角)が0(度)に近づくように駆動周波数を制御すればよい。ただし、上述のように、この位相角は実際には完全に0とするのではなく、0より大きな任意の角度になるように制御され、位相角がマイナスつまりf<fとなる条件で負荷を動作させないようにする。このためには、例えば、外部から何らかの指令値を与えて位相角が所望の値になるように制御する。
【0053】
三相単相直接電力変換器についても、図7に示した関係は成立し、位相角が駆動周波数の値の増加とともに増加する。このため、三相単相直接電力変換器についても、スイッチ部の構成が電圧型インバータのように動作するときには、駆動周波数を共振周波数よりも高くして、負荷電流の位相を負荷に印加する電圧の位相よりも遅らせる。また、制御回路の動作は、位相差を観測して周波数を変更するような周波数制御を行うこととなる。
【0054】
図8に、AC/DC/AC回路の電圧型インバータ回路に関して説明した上述の説明に引き続き、電圧型インバータ回路に関して振動電圧Vinvと負荷電流Iとの時間軸上での相対的な関係を示す。振動電圧Vinvの周期は、駆動周波数fの逆数となる。また、振動電圧Vinvと負荷電流Iの間の遅延時間tfbkは、位相角が増大すると増大する。このため、遅延時間tfbkを適切な値である遅延時間指令値tfbkとなるように、駆動周波数fを制御する。
【0055】
なお、三相単相直接電力変換器においては、振動電圧Vinvは、図8の電圧波形Vinvのようには必ずしもならない。というのは、出力の正側および負側の各ラインに現れる電圧が、振動している電源の三相交流の各相から選択されるためである。この場合であっても、単相交流出力の電圧信号のうち、基本波成分の周波数を駆動周波数とみなし、その基本波成分の位相と駆動電流の位相とに0度より大きい任意の遅れを持たせることによって、スイッチ素子の破損を防止することができる。
【0056】
4.3.3.誘導加熱装置への適用
上述の共振形負荷を用いる応用分野に誘導加熱装置がある。誘導加熱装置において共振回路を用いる必要性は、誘導コイルは、電流を流して対象物に渦電流を発生させるため、大きなインダクタンス成分を有して力率が低下するためである。すなわち、単に誘導コイルのみを用いると、誘導コイルがインダクタンス成分と抵抗成分とを直列接続した等価回路となる。その場合、インダクタンス成分が電流の位相を遅らせるため、インバータ部の出力電圧が反転しても、誘導コイルに流れる電流の位相が遅れ、出力側の力率が低下してしまう。このため、上記のように、キャパシタを用いてRLC直列共振回路またはRLC並列共振回路として、共振を利用して力率を改善する。
【0057】
ここで、誘導加熱装置加熱対象はさまざまなものがあるが、自動車部品などの焼入れの場合、対象物である炭素鋼(炭素を0.25〜0.55%程度含んだ鉄合金)の部材を、摂氏800度を超える温度まで加熱する。このように、対象物の電磁気的性質が常温において強磁性体である鉄であるような場合に加熱を行なうと、強磁性体の磁化は、加熱と共に小さくなって、キューリー点(鉄では、摂氏約770度)を越えるところで自発磁化を失う。この対象物の磁化状態の変化によって負荷のインダクタンス(図1における負荷100のL)の値が変化し、上述の数3にしたがって、共振周波数が変化する。そうすると、数5によって位相角も変化する。したがって、三相単相直接電力変換器によって誘導加熱装置の加熱用電流を生成するためには、加熱中に上記位相角を一定に保つように制御することが望まれる。
【0058】
4.3.4.制御回路の構成および動作
上記のような制御を行うより具体的な構成を図9に示す。図9には、発振回路部、周波数可変回路部、フィルタ部、および、位相比較部が記載されており、さらに、マトリクス・コンバータ部とそのマトリクス・コンバータ部によって駆動される共振負荷部が記載されている。なお、ここでのマトリクス・コンバータ部は、三相単相直接電力変換器のことである。
【0059】
共振負荷部は、上述の共振形負荷を用いる誘導加熱装置では、誘導コイルを含む負荷であり、その誘導コイルのインダクタンスの値が加熱対象物の透磁率の影響を受けて加熱対象物の温度上昇に応じて減少する。
【0060】
マトリクス・コンバータ部には、発振回路から発振電圧波形が入力される。この波形は、図2において、インバータ部24に入力されている矩形波の信号を生成するために用いられる。例えば、矩形波の信号は駆動電圧の周波数と同様の周波数を有する。図2においては、この矩形波のキャリア信号に同期した三角波のキャリア信号もコンバータに入力されている。この三角波のキャリア波形も図9の発振回路部からの発振電圧波形から生成される。
【0061】
図9の位相比較部には、遅延時間指令値tfbkも入力されて、駆動電圧波形と共振負荷部の電流波形との間における時間差を調整できるように、駆動電圧波形と共振負荷部の電流波形(誘導電流波形)のいずれかを時間的に遅延させることができるようになっている。
【0062】
図10に、図9の位相比較部、フィルタ部および周波数可変回路部によって行なわれる作用を信号波形によって模式的に示している。図10の最上段は、発振回路部に同期した信号であり、第2段目には、共振負荷部の電流波形が記載されている。この電流波形は、第3段に記載されているように、電流の正負の向きに応じるように二値化され、位相比較部において最上段の電圧波形と比較される。ここでの比較は、比較される二つの値の排他的論理和(XOR)の値を反転させた出力を用いる(第4段)。そして、この位相比較部の出力はフィルタ部に入力されて平滑化され(第5段)周波数指令値として用いられる。
【0063】
位相比較部の出力は発振回路部に入力されて発振周波数が調整され、マトリクス・コンバータ部の周波数がそれに合わせて調整される。上記の比較において、位相比較部の出力が大きいときには、周波数指令値は大きくなる。この周波数指令値は発信回路のVCO(Voltage Controlled Oscillator)に入力される。
【0064】
以上の制御においては、一致の程度が大きいとき、つまり、駆動電圧に対して発振電流の位相遅れが少ないときには、駆動周波数を高めて負荷がよりリアクタンス的な振る舞いとなるような調整が実現する。その逆の時は逆に調整される。
【0065】
なお、図9においては、発振回路部からの矩形波が直接マトリクス・コンバータ部に入力されているが、図2に示すように適宜三角波に変換することができる。
【実施例1】
【0066】
5.三相単相直接電力変換器の実施例
以下、上記実施の形態に係る実施例について、より具体的な回路構成および動作を説明する。この実施例は、回路シミュレータ(POWERSIM社製回路シミュレータ、製品名PSIM)によって特性を予測した結果を示している。
【0067】
図11〜13に、上記実施の形態の実施例にかかる回路図を示す。図11は、ほぼ図1に対応する回路構成を示しており、図12は、図2のコンバータ部分、図13は図2のインバータ部分を示している。
【0068】
5.1 全体回路
図11の全体回路は、電源1102が三相交流電源となっていて、その電圧値を電圧検出部1104によって測定している。この電圧検出部1104の出力は、図12のコンバータ相当部分に入力される。三相交流電源は、U相およびV相の電流量が測定部1108、1110において検出される。この電流の値は、減算器1114によって減算されたのち、電流測定値I、I、Iとしてから出力される。ここでの微分減算処理は、リアクタンス1118による位相遅れに合わせ、発振を防止するためのものである。なお、W相の電流測定値は、U相およびV相の測定値から差を演算して得ている。なお電流測定値の微分減算処理、および、W相の電流測定値のU相およびV相の測定値から差の演算の部分は、図2におけるコンバータ部分の一部として記載されている。
【0069】
U相、V相およびW相の電源ラインには、リアクタンス1118が直列に、また、キャパシタンス1116が並列に接続されていて、図1における電源側フィルター部14と同様のフィルタを構成している。このキャパシタンス1116は、例えばフィルムコンデンサなどの1〜100μF程度のものとすることができる。なお、この程度の容量のコンデンサは、寿命が通常問題とならないフィルムコンデンサを用いることができる。
【0070】
図1の主回路10に相当する構成も、スイッチ部1120〜1130によって実現している。各スイッチ部が、スイッチ素子であるIGBTと還流ダイオードとの並列接続の組を直列に二つ接続したものとなっている。各スイッチ部は、出力の単相交流の正側または負側のいずれかのラインに接続されている。この単相交流出力の正側負側のラインは、電流検出器1134によって電流値が検出されて、高周波トランス1136に入力される。このトランスによって電流を増した出力は、共振形負荷1138に加えられる。なお、単相電圧計1132は波形を観測するためのものである。
【0071】
5.2 コンバータ相当部
図12に示したコンバータ相当部は、電圧検出部1104(図11)からの電圧と電流信号部1114(図11)からの検出電流と、キャリア信号を受けて、インバータ相当部(図13)への出力を生成する。コンバータ相当部は、電圧値端子1202より三相交流電源の電圧値を受ける。ここで、乗算器1204では、電流指令値(図2のIref)の値に相当する電圧源の値を各相の電圧に乗じて、電流指令値を電源の周波数で振動させて交流電流指令値信号としている。そこから、図11の電流測定値I、I、Iを加算器1206によって減算した後、比例積分レギュレータ1208に通している。また、この比較は連続して行なわれるので、振幅の違いだけではなく位相の違いに応じても電源周波数に応じた出力が得られる。
【0072】
端子1210には、図13のインバータ相当部の三角波信号源1314によって生成されるキャリア信号が入力される。このキャリア信号は、遅れ要素1212によって90度分だけ位相を遅らせて、比較器1214に入力される。こうして、90度遅らせたキャリアに、電流の指令値と測定値との差分が重畳される。その信号は、そのまま、あるいは反転されて、遅れ要素1218との間で論理積が取られ、出力(Conv1〜6)が生成される。ここで、Conv1〜6は、それぞれ、図11のスイッチ部1120〜1130の制御のためのPWM信号を生成する。
【0073】
5.3 インバータ相当部
図13に示したインバータ相当部では、上述のように、三角波信号源1314によって生成されたキャリアが、キャリア出力1312からコンバータ相当部のキャリア入力1210に出力される。インバータ相当部は、コンバータ相当部の出力(Conv1〜6)を入力部1302によって受け、最終的には、スイッチ素子S1〜S12へのゲート信号を出力して各スイッチ部1120〜1130の各スイッチ素子を制御する。
【0074】
コンバータ相当部の出力(Conv1〜6)は、遅れ要素1304との間でOR1306によって論理和が取られる。コンバータ相当部の出力(Conv1〜6)は、スイッチ素子S1〜S6のためのゲート信号には、各OR1306の出力と三角波信号源1314からのキャリアとのANDを取って適当なバッファ1310から出力され、スイッチ素子S7〜S12のためのゲート信号については、各OR1306の出力と反転した三角波信号源1314からのキャリアとのANDを取ってバッファ1310から出力される。なお、係数要素1316は、定数を乗じる作用を持つが、ここでその定数は−1として上記の反転を行なっている。
【0075】
以上のようにして生成されたスイッチ素子S1〜S12のためのゲート信号は、図11のそれぞれのスイッチ素子のゲートに入力され、HIの際にスイッチ素子の電流を導通させ、LOのときに遮断させる。三角波信号源1314からのキャリアを用いたゲート信号によって制御されるスイッチ素子S1〜S6は、図11中において時計回りに流れる出力電流を制御するために用いられる。1316は信号を−1倍する演算器であり、三角波信号源1314を反転させる。反転した三角波信号源1314からのキャリアを用いたゲート信号によって制御されるスイッチ素子S7〜S12は、図11中において反時計回りに流れる出力電流を制御するために用いられる。論理和1306の出力から、三角波信号源1314との論理積1308からの出力S1〜6と、三角波信号源を反転した1316との論理積1308からの出力S7〜12を作成する。出力端子1318の信号S1〜12が主回路10のS1〜12の動作信号となり、共振形負荷100に任意の周波数で変化する単相の電圧を供給することができる。端子1312は、図12の端子1210に接続するものである。
なお、図12及び図13においては、図2にある位相検出部222とフリーホイーリングロジック部26につながる位相検出部222の出力に相当するものが記載されていないが、スイッチ素子102,112,122,104,114,124が理想的なスイッチの場合はこのフリーホイーリングロジック部が必要ないためである。
【0076】
5.4.波形の例
以上のような回路構成によって実現する電気的な波形を図14にまとめている。図14(a)は、電源の3相交流の電圧信号であり、図14(b)は、その電圧と位相差のない交流電流指令値信号である。この交流電流指令値信号は、乗算器1204によって生成される。ここでは、電源周波数よりも十分に大きい周波数のキャリアを用いるため、図14(c)には、図14(b)の一部を時間的に拡大し、三角波のキャリアを重ねて描いている。なお、電源周波数は、例えば、商用電源周波数(たとえは50Hzまたは60Hz)とし、駆動周波数は、例えば、誘導加熱装置を想定した、任意の周波数とすることができる。
【0077】
図14(c)においては、三角波キャリアの1周期中では変化しないものとして、3つの電流指令値信号が記載されている。図14(d)に示したように、コンバータ相当部(図12)においてそれらとキャリアとの大小関係が比較されてコンバータ相当部の出力Conv1〜6が生成される。つまり、コンバータ相当部においては、PWM変調動作を行っている。なお、図14(d)においては、同一の電流指令値信号から生成される出力、例えばConv1とConv2とは、互い反転した信号となっているが、実際には,図12の遅れ要素1218とAND1220の作用によって、Conv1を反転しても、Conv2と完全に重なるものではない。さらに、図12の遅れ要素1212の作用によって、コンバータ相当部のキャリアは、インバータ相当部のキャリア1312(図13)よりも位相が遅れている。この様子を図14(e)に示している。そこには、比較のためConv1も記載している。インバータ相当部では、コンバータ相当部の出力と位相の遅れがないキャリアとによってゲート信号を生成するが、そのとき、図14(e)に記載したコンバータ相当部の出力Conv1で説明すると、遅れ要素とOR1306とによってわずかにHIの幅が調整された後、キャリア1312との間でANDを取るため、図14(e)に記載したコンバータ相当部の出力Conv1とキャリアとの両者がHIのときのみHIの信号が生成され、ゲート信号s1を得る。反転させたキャリアとの間では、同じコンバータ相当部の出力Conv1から、ゲート信号s7を得る(図14(f))。同様に、コンバータ相当部の出力Conv2〜6から、ゲート信号s2とs8、s3とs9、s4とs10、s5とs11、そして、s6とs12が得られる。
【0078】
5.5.性能
以上の回路と同等の回路において、表1のような主回路のパラメータを用いて回路シミュレーションを実施して得られた誘導加熱用駆動回路の入出力の例を図15および16にまとめている。図15には、電源のほぼ2周期分の期間にわたって、三相交流電源のU相の電圧の波形v、同じくU相の電流波形i、出力の電圧波形vout、出力の電流波形iout、および、出力の瞬時電力波形Poutを示している。図15のように、電源側電流波形iは、ほぼ正弦波となり、位相も電圧波形vとほぼ一致していた。
【表1】

【0079】
また、図16には、出力の電圧波形voutおよび出力の電流波形ioutの約二周期分の波形を拡大している。出力の電圧波形voutは、上記のようなゲート信号s1〜12によって制御されたスイッチ素子が電源側の各相から電圧を選択的に出力するため、ゲート信号のタイミングによって、正側および負側の出力ラインが、U相、V相およびW相を選択するか、開放となる。よって、電圧としてはU相、V相およびW相のうちから2本を選ぶ3通りの組み合わせの電圧と、0Vとの合計4種の電圧のどれかを各瞬間に選ぶこととなる。このため、ここでの電圧波形は、図10に関連して説明したような典型的な矩形波の電圧波形となってはいない。
【0080】
このシミュレーションによって得られた性能は、電流指令値24A、駆動周波数(励磁周波数)15kHzでの出力は、5kWとなり、そのときの入力電流のTHD(第三高調波歪率)は、6.92%、総合負荷力率は90.2%であった。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明によれば、小型でメンテナンスを省力化できるような三相単相直接電力変換器、または、それを用いる誘導加熱装置用電源装置を実現することができる。
【符号の説明】
【0082】
1 三相単相直接電力変換器
10 主回路
12 電圧検知部
14 電源側フィルタ部
16 高周波トランス
100 負荷
20 制御回路
22 コンバータ相当部
24 インバータ相当部
26 フリーホイーリングロジック部
222 位相検出部
32 電圧源
34 蓄積コンデンサ
302〜308 スイッチ(トランジスタ)
316 抵抗R
314 インダクタL
312 キャパシタC
50 電流型インバータ回路
502〜508 スイッチ(トランジスタ)
516 抵抗R
514 インダクタL
512 キャパシタC

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共振形負荷に電流を流す一対の出力ラインと、
該一対の出力ラインのそれぞれと三相交流電源の3つの電源ラインのそれぞれとの間における電気的接続状態を制御し、開閉用の制御入力端子を有するスイッチ部と、
該スイッチ部それぞれの開閉を制御するために各スイッチ部の制御入力端子へ入力される開閉制御信号を生成する制御回路と
を備えてなり、前記制御回路は、前記一対の出力ラインが出力する単相交流における電流の位相を該単相交流における電圧の位相からみて所定の範囲の位相遅れ量または所定の値の位相遅れ量となるように、該単相交流の駆動周波数を制御するものである、三相単相直接電力変換器。
【請求項2】
前記所定の範囲が、0度より大きく90度未満の範囲に含まれるか、または、前記所定の値が0度より大きく90度未満の範囲にある、請求項1に記載の三相単相直接電力変換器。
【請求項3】
前記制御回路がキャリア信号の周波数を制御する周波数可変回路を有し、
前記制御回路が、該周波数可変回路によって該キャリア周波数を変化させて前記単相交流の駆動周波数を制御するものである、請求項1に記載の三相単相直接電力変換器。
【請求項4】
前記スイッチ部それぞれが、電流経路の順方向の向きを反転させて互いに直列に接続された2つのスイッチ素子と、該スイッチ素子の逆電流をバイパスする向きになるよう各スイッチ素子に並列に接続された還流ダイオードとを備え、
該スイッチ素子のそれぞれが、前記制御入力端子である開閉制御端子を有し、
前記制御回路が、前記スイッチ部を制御するスイッチ部制御信号と前記キャリア信号とから、前記スイッチ素子の前記開閉制御端子に印加する開閉制御信号を生成するインバータ相当部を有するものである、請求項3に記載の三相単相直接電力変換器。
【請求項5】
前記制御回路が、前記三相交流電源の3つの電源ラインのうちの少なくとも二つの電圧測定値から、該三相交流電源の3つの電源ラインそれぞれの電圧値の位相にあわせた位相によって振動する電流指令値信号を生成する電流指令値生成部を有するとともに、該電流指令値生成部からの前記電流指令値信号と、前記駆動周波数と同じ周波数のキャリア信号との比較演算によって、前記駆動周波数と同じ周波数を有し、前記三相交流電源の3つの電源ラインの電圧値に応じたスイッチ部制御信号を生成するコンバータ相当部を有するものである、請求項3に記載の三相単相直接電力変換器。
【請求項6】
前記三相交流電源の3つの電源ラインのそれぞれの間において該三相交流電源の周波数より高い周波数より高い電流を低減させるフィルタを有する、請求項1に記載の三相単相直接電力変換器。
【請求項7】
前記単相交流出力の周波数が前記三相交流電源の周波数の周波数よりも大きい、請求項1に記載の三相単相直接電力変換器。
【請求項8】
請求項1〜7に記載の三相単相直接電力変換器を用い、前記共振形負荷として共振キャパシタと誘導コイルとを含んでいる誘導加熱装置に用いられる電源装置。
【請求項9】
単相交流の一対の出力ラインに接続された共振形負荷を流れる電流を検出するステップと、
該単相交流の出力の電圧の符号または位相を検出し、前記単相交流の電流と比較可能な指令信号と、共振形負荷を流れる前記電流とを比較して、該指令信号と前記電流との差を表わす差信号を得るステップと、
該差信号を低域通過フィルタによって処理するステップと、
低域通過フィルタによって処理された差信号に応じて、前記指令信号の周波数を変更するステップと、
周波数が変更された前記指令信号に応じて、前記一対の出力ラインのそれぞれと、三相交流電源の3つの電源ラインのそれぞれとの間における電気的接続状態を制御する少なくとも6個のスイッチ部の開閉を制御して、前記三相交流電源から前記出力ラインへの出力を生成するステップと
を含む三相交流電源を用いた共振形負荷の単相交流駆動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−263702(P2010−263702A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−113072(P2009−113072)
【出願日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 〔発行者名〕 電気学会東京支部新潟支所 〔刊行物名〕 電気学会東京支部新潟支所研究発表会 予稿集 〔発行年月日〕 平成20年11月8日
【出願人】(000217653)電気興業株式会社 (105)
【Fターム(参考)】