説明

三酸化硫黄濃度連続測定方法および装置

【課題】 ガス中の三酸化硫黄濃度を簡便に連続的に測定でき、しかもガス中の水蒸気やSO2の影響を受けない三酸化硫黄濃度連続測定方法および装置の提供。
【解決手段】 ガスに照射した紫外線の吸収スペクトルを測定してガス中の二酸化硫黄濃度を算出する工程、加熱によりガス中の三酸化硫黄を二酸化硫黄に変換し、その加熱ガスに照射した紫外線の吸収スペクトルを測定して二酸化硫黄濃度を算出する工程、および前記各工程により算出した二酸化硫黄濃度の差から三酸化硫黄濃度を算出する工程を有する三酸化硫黄濃度連続測定方法およびその装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は排ガス内に含まれる三酸化硫黄濃度を連続的に測定する三酸化硫黄濃度連続測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
石油に代表される化石燃料の排ガス内には三酸化硫黄(以下「SO」という)が含まれているが、SOは水と激しく反応して硫酸となり鉄製品を浸食するため問題となっており、例えば、火力発電所においては排ガス中に数十ppmオーダで存在するSOは設備の主たる腐食原因となっている。
【0003】
従来のSOの化学分析手法による測定装置は、例えば、図5に示すごとく、採取管110により導かれたガスをスパイラル管130に導きSOを捕獲するものであった。しかしながら、この種の装置では、間欠的なサンプリングによる測定しかできず、測定に長時間かかる上、ガスの採取に熟練を要するため、連続測定に適していなかった。そのため、実働時間で連続的に測定する方法が求められていた。
【0004】
かかる問題を解決すべく、排ガス三酸化硫黄の露点よりも低い温度まで冷却して三酸化硫黄をミスト化するための冷却室を備え、ミスト化した三酸化硫黄の濃度を光学式濃度計により連続的に測定可能である三酸化硫黄濃度測定装置が提言されている(特許文献1)。
【0005】
また、SOを連続的に分析する手法としては、SOの200nm近傍の吸収スペクトルを測定し、ケモメリックスの手法で外乱を除去する方法がある(非特許文献1)。
【0006】
【特許文献1】特開2003−130768号公報
【非特許文献1】石川島播磨技報Vol.43 No.2(2003−3)52〜57頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1の装置は、結露して微粒子となったSOの量を粒子計数するものであるが、SOは水分があれば100℃以上の高温でも水蒸気と反応して硫酸(液体粒子)になってしまうため、ガス中に水蒸気が含まれている状態では原理的に正確な測定はできないという課題がある。
また、排ガスを加熱して気体化し、フィルタを通し、希釈しながら冷却してミスト化するという構造上、装置構成が複雑であり制御が複雑であるという課題がある。
【0008】
上記非特許文献1の手法では、SOの濃度が高い場合には、SOの干渉によりSO濃度を正確に計ることができなかった。
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明は、ガス中の三酸化硫黄濃度を簡便に連続的に測定でき、しかもガス中の水蒸気やSOの影響を受けない三酸化硫黄濃度連続測定方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者は、紫外線吸収分光法を用いて、排ガス中に含まれる種々の物質について吸収スペクトルを測定したところSOは波長190〜240nmにおいて吸収帯を有することを確認した(図1参照)。紫外線吸収分光法によりSO濃度を直接測定するには波長200nm付近を測定することとなるが、この際同じ波長域に存在するSOと、NO、NHなどの吸収による干渉の問題を検討する必要がある。
まず、NOについてはSOと吸収スペクトルが大きく異なるため、SO測定への影響は少ない。次に、SOを中和するために注入するNHについては、注入点の上流側で計測を行うことにより影響を排除できる。従って、特に考慮すべきはSOによる干渉である。SOとSOの吸光度を比較してみると、図2に示すとおりSOの吸収帯全域に渡ってSOの吸光度が勝っているため、SOが混在する場合にはSOの濃度測定が困難となる。一方、SOは300℃を超える温度で加熱するとSOに変換されることが知られており、また波長240〜320nmにおいても吸収を有し、他の成分の吸収とは重ならないことから正確な濃度測定が可能である。
そこで、発明者は排ガス中のSOを加熱によりSOに変換し、非加熱の排ガス中のSO濃度と比較することにより、SO濃度を測定することを可能とした。
【0011】
すなわち、本発明は、ガスに照射した紫外線の吸収スペクトルを測定してガス中の二酸化硫黄濃度を算出する工程、加熱によりガス中の三酸化硫黄を二酸化硫黄に変換し、その加熱ガスに照射した紫外線の吸収スペクトルを測定して二酸化硫黄濃度を算出する工程、および前記各工程により算出した二酸化硫黄濃度の差から三酸化硫黄濃度を算出する工程を有する三酸化硫黄濃度連続測定方法を要旨とし、好ましくは前記各工程で測定する紫外線の吸収スペクトルは240ないし320nmであり、および/または前記加熱は加熱管内にガスを通過させることにより行い、および/または前記加熱は600℃以上の加熱であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、煙道中のガスを導くための吸気口と、該吸気口から導かれたガスを加熱管と非加熱管とに分煙する分煙部と、前記分煙部と計測セルを連結する非加熱管と、
前記分煙部と計測セルを連結し、前記ガス中の三酸化硫黄を加熱して二酸化硫黄に変換する加熱管とからなり、前記計測セルにおいて、前記非加熱管または加熱管を通過したガスに照射した紫外線の吸収スペクトルをそれぞれ測定する三酸化硫黄濃度連続測定装置を要旨とし、好ましくは前記測定する紫外線の吸収スペクトルは240ないし320nmであり、および/または前記加熱管は石英ガラス製であり、および/または前記加熱管は600℃以上に加熱されることを特徴とする。
【0013】
さらに、本発明は、煙道中のガスを導くための吸気口と、該吸気口から導かれたガスに照射した紫外線の吸収スペクトルを測定するための第1の計測セルと、該第1の計測セルの下流に位置し、前記ガス中の三酸化硫黄を加熱して二酸化硫黄に変換する加熱管と、該加熱管を通過したガスに照射した紫外線の吸収スペクトルを測定するための第2の計測セルと、を備える三酸化硫黄濃度連続測定装置を要旨とし、好ましくは前記測定する紫外線の吸収スペクトルは240ないし320nmであり、および/または前記加熱管は石英ガラス製であり、および/または前記加熱管は600℃以上に加熱されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、排ガス中の三酸化硫黄濃度を水蒸気やSOの影響を受けることなく連続的に測定することができることが可能となる。しかも、装置構成は簡便で複雑な制御も必要なく、メンテナンスも容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の三酸化硫黄濃度連続測定装置の一実施形態は、図4に示すとおり、煙道中のガスを導くための吸気口1と、吸気口1に導かれたガスを加熱管4と非加熱管5とに分煙するバルブ3と、照射した紫外線の吸収スペクトルにより二酸化硫黄の濃度を測定する計測セル7と、分煙部3と計測セル7を連結する非加熱管4と、分煙部3と計測セル7を連結し、ガス中の三酸化硫黄を加熱して二酸化硫黄に変換する加熱管4と、測定セル7からガスを排気する排気口2とを備える。
【0016】
吸気口1は中和用に注入するNHの影響を排除するために、注入点の上流側に設ける。煙道内の排ガスは吸気口1により分煙部3に導かれる。加熱管4には下流部にバルブaが、非加熱管5には下流部にバルブbが設けられており、一方が開いているときには他方は閉じられる。
加熱管4を通った排ガス中のSOは加熱されてSOに変換される。加熱管4を通った排ガス中のSO濃度と非加熱管5を通った排ガス中のSOの濃度差を算出し、濃度差を変換効率で割ったものが排ガス中のSOの濃度となる。この際、加熱管4は400ないし500℃以上、好ましくは600℃以上に加熱する。図3に示すように、加熱温度に対しSOの変換効率は単調増加するため、排ガス中のSO濃度を計算により正確に測定することができる。火山性ガスなど、500℃を超える高温環境下ではSOは存在しないことが知られており、よって図3に示す変換効率曲線は500℃以上の高温においては100%に近づき、飽和すると考えられる。
なお、加熱管が金属製の場合には、腐食して変換効率が低下するおそれがあるため、石英ガラス製などの腐食しない材により構成するのが好ましい。
【0017】
計測セル7には、ランプ光源9から光ファイバ6を伝達した光が導かれ、その対向位置に設けられた光ファイバ6により伝達される透過光の強度を分光器10で測定する。
なお、紫外線吸収法以外のSO分析方法としては、大気中の二酸化硫黄自動計測器(JISB7952)を用いてもよい。理論的には赤外線の利用も考えられるが、高温での測定には適していないため、熱輻射の問題と検出器の冷却の点から、紫外線を利用することが好ましい。
【0018】
より装置構成を簡易なものとするためには、非加熱管5を設けずに、加熱管4の前後に計測セル7と分光器10を各1組設け、加熱前後のガスをそれぞれ測定する構成としてもよい。かかる構成では、分煙部3、非加熱管5およびバルブa,bが不要となる。この際、ランプ光源9から光を2分割して光ファイバすることで追加のランプ光源は不要となる。
【0019】
以下では、本発明の詳細を実施例により説明するが、本発明は何ら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0020】
1)装置構成
本実施例の装置は、図6に示すとおり、触媒11と、触媒11を加熱するための電気炉12と、加熱管4と、加熱管4を加熱するための電熱線13と、計測セル7と、計測セル7を加熱するための電熱線14と、紫外線を照射するランプ光源9と、分光器10と、真空ポンプ15とから構成される。
計測セル7は、ステンレス製の筐体の両側に合成石英製の窓を取り付けた構成であり、実効光路長は5cmである。計測セル7の内壁および窓へのSOの結露を防止するために、計測セル7および電気炉12との接続部分を電熱線14によって200℃に加熱した。その際、温度制御は熱電対を用いた温度コントローラで行った。
触媒11は、硫酸触媒(ハンダートプソーインターナショナル製VK38)を用いた。触媒11と計測セル7の間に加熱管4を設け、電熱線13により500℃まで加熱できるようにした。加熱管4は、内壁と内部を流れるガスの間に充分な熱交換が行われるよう、長さ1.5mのステンレス間をコイル状に巻いたものとした。SOの結露を防止するために加熱管4は常時200℃以上に保たれるようにした。
ランプ光源9には重水素ランプ(浜松ホトニクス製L7295)を用い、ランプ光源9の駆動にはヒータ用直流電源と陽極電源を用いた。
分光器10には回析格子(刻線数=1200lines/mm)を搭載したOcean Optics製HR2000を使用した。小型で持ち運びが簡易であり、光ファイバ結合型で入射スリットへ集光する光学系の調整が不要であるため、現場での測定により適している。
なお、測定に用いたSO混合ガスの体積比は、N:O:SO=89%:10%:1%である。
【0021】
2)SO吸収断面積の測定
本実施例におけるSOとSOの濃度変動は図7に模式的に示される。まず400℃に加熱された硫酸触媒により、ガス中のSOはほぼ全てSOに変換され(変換効率98%)、その後加熱管によってガス中のSOはSOに変換される。加熱管では全てのSOがSOに変換される訳ではないため、計測セル7中にはSOとSOが混在することとなる。
本実施例では、まず上記混合ガス中にSOが無い状態(触媒による変換を行わない状態)において、SOによる吸収のみが存在する波長280〜320nmにおいて測定を行った。触媒温度を25℃とし、加熱管温度を200℃とした場合の測定結果は、図8aに示すとおりとなった。この状態では触媒は機能せず、混合ガス中にはSOのみが存在することが分かる。吸光度から得られたSO密度は、1.47×1016cm-3(約600ppm)であった。
次に、ガス中にSOが無い状態(触媒による熱変換を行った状態)において、SOによる吸収のみがある280〜320nmの波長域の測定を行った。触媒温度を400℃、加熱管温度を200℃とした場合の測定結果は、SOがSOにほぼ完全に変換されたため、吸光度が0に低下した(図8b参照)。
【0022】
3)SO濃度の測定
続いて、ガス中のSOを加熱管によりSOに変換した状態において、SOによる吸収のみが存在する280〜320nmの波長域の測定を行った。触媒温度を400℃、加熱管温度を500℃とした場合の測定結果は、図8cに示すとおりであり、SOによる吸収を確認することができた。吸光度から得られたSO密度は7.1×1015cm-3(約290ppm)であり、触媒を通過したSO混合ガスの流量が変わらなかったと仮定すると、加熱管によるSOの変換効率は48%となる。
本実施例において、加熱管による高い変換効率が得られなかったのは、ガス流量が多く(140ml/分)、熱伝達が充分に行われなかったためだと考えられる。そこで、ガス流量を少なくしたところ、70ml/分では変換効率は80%となり、10ml/分では熱変換効率が84%と向上した。
また、熱伝達を向上させるためには、加熱管内にガラス玉を詰めて高温表面とガスが接する面積を増やすこと、電熱線ではなく赤外線電気炉を用いること等の改良が考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は、火力発電所、化学プラント、各種工場など化石燃料を燃焼する施設での利用が想定され、特に水蒸気やSOが含まれる高温の排ガス中のSO測定において顕著な効果を奏することが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】排ガス中の各物質の紫外線吸収波長である。
【図2】SOとSOの吸光度の説明図である。
【図3】SOの加熱変換温度の説明図である。
【図4】本発明に係る装置の構成説明図である。
【図5】従来の化学分析手法による測定装置の構成図である。
【図6】実施例1に係る装置の構成図である。
【図7】実施例1に係る装置を通過するガス中のSOとSOの濃度変動の模式図である。
【図8】実施例1に係る装置によるSOとSOの濃度測定結果である。
【符号の説明】
【0025】
1 吸気口
2 排気口
3 分煙部
4 加熱管
5 非加熱管
6 光ファイバ
7 計測セル
8 電源
9 ランプ光源
10 分光器
11 触媒
12 電気炉
13,14 電熱線
15 真空ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスに照射した紫外線の吸収スペクトルを測定してガス中の二酸化硫黄濃度を算出する工程、
加熱によりガス中の三酸化硫黄を二酸化硫黄に変換し、その加熱ガスに照射した紫外線の吸収スペクトルを測定して二酸化硫黄濃度を算出する工程、および
前記各工程により算出した二酸化硫黄濃度の差から三酸化硫黄濃度を算出する工程を有する三酸化硫黄濃度連続測定方法。
【請求項2】
前記各工程で測定する紫外線の吸収スペクトルは240ないし320nmである請求項1の三酸化硫黄濃度連続測定方法。
【請求項3】
前記加熱は加熱管内にガスを通過させることにより行う請求項1または2の三酸化硫黄濃度連続測定方法。
【請求項4】
前記加熱は600℃以上の加熱である請求項1、2または3の三酸化硫黄濃度連続測定方法。
【請求項5】
煙道中のガスを導くための吸気口と、
該吸気口から導かれたガスを加熱管と非加熱管とに分煙する分煙部と、
前記分煙部と計測セルを連結する非加熱管と、
前記分煙部と計測セルを連結し、前記ガス中の三酸化硫黄を加熱して二酸化硫黄に変換する加熱管とからなり、
前記計測セルにおいて、前記非加熱管または加熱管を通過したガスに照射した紫外線の吸収スペクトルをそれぞれ測定する三酸化硫黄濃度連続測定装置。
【請求項6】
煙道中のガスを導くための吸気口と、
該吸気口から導かれたガスに照射した紫外線の吸収スペクトルを測定するための第1の計測セルと、
該第1の計測セルの下流に位置し、前記ガス中の三酸化硫黄を加熱して二酸化硫黄に変換する加熱管と、
該加熱管を通過したガスに照射した紫外線の吸収スペクトルを測定するための第2の計測セルと、
を備える三酸化硫黄濃度連続測定装置。
【請求項7】
前記測定する紫外線の吸収スペクトルは240ないし320nmである請求項5または6の三酸化硫黄濃度連続測定装置。
【請求項8】
前記加熱管は石英ガラス製である請求項5、6または7の三酸化硫黄濃度連続測定装置。
【請求項9】
前記加熱管は600℃以上に加熱される請求項5ないし8のいずれかの三酸化硫黄濃度連続測定装置。

【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図1】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−317207(P2006−317207A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−138055(P2005−138055)
【出願日】平成17年5月11日(2005.5.11)
【出願人】(000144991)株式会社四国総合研究所 (116)
【出願人】(000180368)四国電力株式会社 (95)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】