説明

下水汚泥処理方法

【課題】余分な燃料を必要とすることなく、脱水汚泥の含水率を焼却炉の自燃が可能なレベルまで低下させ、地球温暖化ガスの排出量を抑制できる下水汚泥処理方法を提供する。
【解決手段】下水濃縮汚泥に凝集剤を添加して脱水したうえ焼却し、焼却排ガスを集塵機3とスクラバ4を含む排ガス処理装置により処理する下水汚泥処理方法において、焼却廃熱を温水として回収し、その温水を脱水機1の汚泥投入前に設置した加温器8に供給し、下水汚泥を40〜90℃に加温することにより、汚泥に含まれる微生物の細胞壁を繊維状に変質させ、脱水性を2〜4%程度向上させ、自燃可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水処理場から発生する下水汚泥を脱水したうえ焼却処理する下水汚泥処理方法の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下水処理場から発生する下水汚泥の処理方法としては、特許文献1に示すように、脱水汚泥を流動炉などの焼却炉で焼却して焼却灰を取り出すとともに、焼却排ガスは集塵機とスクラバ(排ガス処理塔)を含む排ガス処理装置により処理する方法が、従来から広く知られている。
【0003】
また汚泥の脱水方法に関しても多数の開発がなされているが、基本的には下水処理場から発生した下水濃縮汚泥に高分子凝集剤や無機凝集剤などを添加してフロックを形成し、凝集性を高めたうえで脱水する方法が採用されている。
【0004】
ところが脱水機による脱水性能には限界があり、汚泥によっては脱水後の水分含有率を十分に低減することができないという状況がある。このために脱水汚泥を焼却炉に投入して焼却させようとしても水分が多いために自燃させることができず、都市ガスや重油等の補助燃料を焼却炉に供給しなければならなかった。地球温暖化防止が叫ばれている現在の状況下においては、本来は可燃物である下水汚泥を焼却するために新たな燃料を投入することは、単に水を蒸発させるために多くのエネルギを消費していることとなり、好ましくないことであった。
【特許文献1】特許第3821432号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって本発明の目的は上記した従来技術の欠点を解決し、余分な燃料を必要とすることなく、脱水汚泥の含水率を焼却炉の自燃が可能なレベルまで低下させ、地球温暖化ガスの排出量を抑制することができる下水汚泥処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するためになされた本発明は、下水汚泥に凝集剤を添加して脱水したうえ焼却し、焼却排ガスを集塵機とスクラバを含む排ガス処理装置により処理する下水汚泥処理方法において、焼却廃熱を温水として回収し、その温水を脱水機の汚泥投入前に設置した加温器に供給し、下水汚泥を40〜90℃に加温することにより脱水性を向上させることを特徴とするものである。なお、加温器の種類は特に限定されるものではない。
【0007】
なお、下水汚泥を50〜80℃に加温することが好ましい。また、焼却廃熱の回収方法としては、焼却排ガスの脱硫工程(スクラバ)で発生する温排水を、焼却排ガスの顕熱を回収することにより昇温することが好ましく、特にスクラバで発生する温排水を、焼却排ガスにより加熱された白煙防止用空気との熱交換により昇温するか、もしくは、清水をスクラバで発生する温排水との熱交換して昇温した後、焼却排ガスにより加熱された白煙防止用空気との熱交換により昇温することが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明においては、スクラバ排水を脱水機の汚泥投入前に設置した加温器に供給し、凝集剤が添加された下水濃縮汚泥を40〜90℃、より好ましくは50〜80℃に加温する。これによって下水汚泥の主体を占める微生物の細胞膜に熱的変質あるいは熱的破壊が発生し、細胞内水分が外部に移動できるようになるので脱水性が向上し、脱水機出口の脱水汚泥の水分を従来よりも2〜4%程度低下させることができる。これにより焼却炉における熱的負担が軽減され、補助燃料を供給しなくても自燃させることが可能となる。しかもスクラバ排水は50〜70℃程度の低温水であってエネルギ源としての利用価値に乏しいものであったが、本発明によればその有効利用が可能となる。
【0009】
なお、下水汚泥を高温高圧で加熱脱水する先行技術も存在するが、本発明は常圧で加温するだけでよいので耐圧装置は不要であり、機器を簡素化することができる。さらに、先行技術では、下水汚泥中の微生物の細胞膜が完全に破壊されるため、脱水ろ液の性状が極端に悪化するという問題があったが、本発明では加温温度が40〜90℃であって細胞膜を完全に破壊することがないため、脱水機から排出される脱水ろ液の性状の悪化も抑えられる。
【0010】
スクラバ排水または、スクラバ排水により昇温した清水はそのまま加温器に供給してもよいが、焼却排ガスの排熱を利用して昇温したうえで加温器に供給するようにすれば、スクラバ排水または、スクラバ排水により昇温した清水の温度が低い場合にも支障なく運転が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明の好ましい実施形態を示す。
図1は本発明の実施形態を示すブロック図であり、この種の下水汚泥処理システムにおいて従来から広く用いられている最も基本的な装置は、脱水機1、焼却炉2、集塵機3、スクラバ4、煙突5である。まず脱水機1は下水処理場から発生する汚泥を脱水する装置である。脱水機1の種類は特に限定されるものではなく、従来から汚泥の脱水に利用されている各種の脱水機を利用することができるが、この実施形態では出願人会社製の回転加圧脱水機を使用した。汚泥の固形分濃度は約3%(水分含有率97%)であるが、回転加圧脱水機によれば水分含有率が80%程度にまで脱水することができるとする。
【0012】
脱水機1により脱水された脱水汚泥は、焼却炉2に投入されて焼却される。脱水汚泥の焼却炉2にも各種の形式があるが、最近ではダイオキシンの発生防止や設備小型化の観点から、流動焼却炉が普及している。しかし脱水汚泥の水分含有率が80%のままでは自燃させることができず、補助燃料を要することは前述のとおりである。なお、焼却炉2の直後には熱交換器6が配置され、焼却炉2で使用する空気を高温の焼却排ガスによって予熱している。流動焼却炉の場合には熱交換器6は流動用空気を予熱する。
【0013】
焼却炉2から排出される高温の焼却排ガス中には、多量の焼却灰が含まれているとともに、SOXなどの有害成分が含有されているため、集塵機3により焼却灰を除去し、さらにスクラバ4により洗浄水と気液接触させてSOXなどを除去したうえで、煙突5から放出される。なおスクラバ4を通過した焼却排ガスは飽和濃度の水蒸気を含むため、そのまま煙突5から大気中に放出すると水蒸気の凝結による白煙を生じる。そこで従来から白煙防止用熱交換器7が設けられ、空気を加熱して煙突5に供給し、白煙を防止している。
【0014】
上記の構成は従来と同様であるが、本発明においては脱水機1の汚泥投入前に加温器8を設置し、スクラバ4から排出される温水をポンプにより加温器8に供給して汚泥を加温する。加温の温度は40〜90℃、より好ましくは50〜80℃とする。下水汚泥の主体は微生物の集合体であり、このような加温によって微生物の細胞膜に熱的変質あるいは熱的破壊が発生して脱水時に細胞内水分が外部に移動できるようになるので、脱水性が向上する。
【0015】
後記するデータに示すように、温度が40℃よりも低いと脱水性の向上が不十分となり、特に50℃以上で好ましい効果が得られる。逆に90℃を越えるような高温に加温すると、微生物の細胞膜が完全に破壊されて細胞液が流出し、脱水機1の脱水ろ液中の濁質濃度が上昇したり、細胞内に取り込まれていたリンの溶出が高まったりするなどの問題が生じるので好ましくない。
【0016】
設備によって多少のばらつきはあるものの、スクラバ排水は50〜70℃程度の温水である。そのためスクラバ排水をそのまま加温器8に供給することもできるが、図1に示すようにスクラバ排水用加温器9により焼却排ガスの排熱を利用して昇温したうえで加温器に供給するようにすれば、スクラバ排水の温度が低い場合にも支障なく運転が可能である。この実施形態ではスクラバ排水用加温器9は、白煙防止用熱交換器7により加熱された白煙防止用空気との熱交換により、80〜90℃にまで昇温されたうえで加温器8に供給されている。なお図2に示すように、熱交換器10によって清水をスクラバ4で発生する温排水との熱交換により昇温した後、焼却排ガスにより加熱された白煙防止用空気との熱交換により昇温することも可能である。
【0017】
このようにして加温された濃縮汚泥を脱水機1で脱水すれば、脱水性が向上しているため、従来よりも水分含有率が2〜4%低い脱水汚泥を得ることができる。本実施形態のように回転加圧脱水機によれば、従来は水分含有率が80%であったが、本発明によれば水分含有率が76〜78%程度の脱水汚泥を得ることができる。この程度の水分含有率となれば焼却炉2で自燃させることが可能となり、補助燃料が全く不要となるか、必要な場合にもごく少量で済むようになる。したがって余分な燃料を必要とすることなく、脱水汚泥の含水率を焼却炉の自燃が可能なレベルまで低下させ、地球温暖化ガスの排出量を抑制することが可能となる。
【0018】
本発明においては加温器8の前段において濃縮汚泥に凝集剤を添加するのであるが、汚泥の性状によっては、加温器の後段にて凝集剤を添加することも有効である。凝集剤の種類としては高分子凝集剤または、無機系の凝集剤または両者の組合せとなる。
【0019】
以下に本発明の作用効果を具体的な数値を挙げて説明する。ここでは焼却炉2の規模を100トン/日と設定する。従来は水分含有率が80%の脱水汚泥を焼却するために補助燃料として43m/hの都市ガスを必要としており、そのエネルギ原単位は464MJ/トン−汚泥であった。このときスクラバからは水温が50℃のスクラバ排水が無駄に放出されていた。
【0020】
これに対して本発明では、スクラバ排水を図1に示すスクラバ排水用加温器9により87℃まで昇温し、予め高分子凝集剤が添加された濃縮汚泥を20℃から60℃にまで加温したうえ、脱水機1に送り込んで水分含有率が78%の脱水汚泥とする。この脱水汚泥は補助燃料を使用することなく自燃させることができ、464MJ/トン−汚泥(1935MJ/h)の省エネルギが可能となる。しかも焼却炉2の能力が同一である場合、処理可能な濃縮汚泥量が従来の27.7トン/hから30.6トン/hにまで増加することとなる。また、上記の100トン/日の焼却炉を年間330日運転として、補助燃料由来の温室効果ガスの排出量に換算すると、従来システムの708トン−CO/年が本発明のシステムでは0トン−CO/年となり、大幅な削減が可能となった。
【0021】
また凝集剤の添加率が0.6%である濃縮汚泥を用い、室温のまま加温しない場合、40℃に加温した場合、60℃に加温した場合、80℃に加温した場合について実験室において脱水試験を行ったところ、表1のとおりの結果が得られた。このように加温温度を上げると脱水汚泥の水分含有率は低下するが、脱水ろ液中の濁質濃度が高まるため、90℃が限界であり、実用的には80℃以下とすることが好ましい。
【0022】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態を示すブロック図である。
【図2】本発明の他の実施形態を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0024】
1 脱水機
2 焼却炉
3 集塵機
4 スクラバ
5 煙突
6 熱交換器
7 白煙防止用熱交換器
8 加温器
9 スクラバ排水用加温器
10 熱交換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下水汚泥に凝集剤を添加して脱水したうえ焼却し、焼却排ガスを集塵機とスクラバを含む排ガス処理装置により処理する下水汚泥処理方法において、焼却廃熱により下水汚泥を40〜90℃に加温することにより脱水性を向上させることを特徴とする下水汚泥処理方法。
【請求項2】
下水汚泥を50〜80℃に加温することを特徴とする請求項1記載の下水汚泥処理方法。
【請求項3】
焼却廃熱の回収手段として、スクラバで発生する温排水を、焼却排ガスの顕熱を回収することにより昇温し、加温器に供給することを特徴とする請求項1記載の下水汚泥処理方法。
【請求項4】
スクラバ排水を、焼却排ガスにより加熱された白煙防止用空気との熱交換により昇温することを特徴とする請求項3記載の下水汚泥処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−214087(P2009−214087A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−63583(P2008−63583)
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(507214083)メタウォーター株式会社 (277)
【Fターム(参考)】