説明

下限臨界温度及び上限臨界温度を同時に有する熱応答性高分子誘導体

【課題】ドラッグデリバリーシステム(DDS) 、各種分離剤、カテーテル、人工筋肉など応用範囲が格段に広い、下限臨界温度(LCST)及び上限臨界温度(UCST)を同時に有する熱応答性高分子を得る。
【解決手段】下限臨界温度を有するモノマー成分及び上限臨界温度を有するモノマー成分を共重合成分として含有する熱応答性共重合高分子であって、下限臨界温度を有するモノマー成分がN−イソプロピルアクリルアミドであり、上限臨界温度を有するモノマー成分がN−アセチルアクリルアミドであることを特徴とする、下限臨界温度及び上限臨界温度を同時に有する熱応答性共重合高分子。更に、親水性又は疎水性モノマーを共重合成分として含有することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はドラッグデリバリーシステム(DDS)、各種分離剤、カテーテル、人工筋肉などに利用できる、優れた刺激応答性高分子として好適な共重合高分子誘導体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、刺激応答性高分子はドラッグデリバリーシステム(DDS)、各種分離剤、カテーテル、人工筋肉、ケモバルブなどに広く応用され、その重要性は急激に増大している。例えば特許文献1には、刺激応答性高分子として、熱、pH、電位、光などにより高次構造が変化して水溶液中で膨潤したり収縮する高分子が記載され、水に対する上限臨界温度(UCST)又は下限臨界温度(LCST)を有し、温度変化に応答して膨潤−収縮する高分子として、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−イソプロピルメタアクリルアミドなどのアクリルアミドやメタアクリルアミドの誘導体類、ビニルメチルエーテルなどのビニル−エーテル類が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−103653号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これらの温度変化に応答して膨潤−収縮するとして公知の高分子化合物は、上限臨界温度(UCST)又は下限臨界温度(LCST)を有すると記載されるものの、実際には、いずれも下限臨界温度(LCST)を有する、即ち、可逆的にその温度以上において高分子間同士での凝集をおこし水に不溶化し、それ以下では水に溶解するという性質を有するものであった。例えば、現在DDS等で応用されているポリ−N−イソプロピルアクリルアミド(PNIPAM)は、水溶液中で32℃の下限臨界温度を有し、ポリマーをゲル化した場合、熱によりその温度で可逆的に膨潤収縮を繰り返す。
【0005】
下限臨界温度(LCST)を有する高分子化合物は、ある一定温度以上において収縮するものであるから、DDSや分離剤等に適用する際、収縮を低温(好ましくは体温以下)で行いたいという要請があった。
【0006】
これに対して、下限臨界温度(LCST)と上限臨界温度(UCST)を同時に有する熱応答性高分子材料が得られれば、上記調整が容易に行え、特に微調整が必要な分野において、熱応答性高分子材料の応用範囲が格段に広がるため、その出現が待望されていた。
【0007】
本発明の目的は、上記課題を解決することであり、下限臨界温度(LCST)及び上限臨界温度(UCST)を同時に有する熱応答性高分子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは前述の問題点を解決すべく鋭意努力した結果、下限臨界温度(LCST)を有するモノマー成分と上限臨界温度(UCST)を有するモノマー成分を共重合成分として含有する熱応答性共重合高分子誘導体とすることにより、驚くべきことに、下限臨界温度と上限臨界温度を同時に有する熱応答性高分子が得られることが見出されたものである。
【0009】
本発明は、下記の手段により前記の課題を解決することができた。
[1]下限臨界温度を有するモノマー成分及び上限臨界温度を有するモノマー成分を共重合成分として含有する熱応答性共重合高分子であって、下限臨界温度を有するモノマー成分がN−イソプロピルアクリルアミドであり、上限臨界温度を有するモノマー成分がN−アセチルアクリルアミドであることを特徴とする、下限臨界温度及び上限臨界温度を同時に有する熱応答性共重合高分子。
[2]更に、親水性又は疎水性モノマーを共重合成分として含有する前記[1]記載の熱応答性共重合高分子誘導体。
【0010】
更に本発明では、下限臨界温度(LCST)を有するモノマー成分として、下記一般式(1)〜(4)で表されるモノマーであることが好ましい。
(1)N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N-シクロプロピルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N-n-プロピルアクリルアミド、N-tert-ブチルアクリルアミド、N-sec-ブチルアクリルアミド、N-n-ブチルアクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、N-シクロプロピルメタクリルアミド、N-イソプロピルメタクリルアミド、N-n-プロピルメタクリルアミド、N-tert-ブチルメタクリルアミド、N-sec-ブチルメタクリルアミド、N-n-ブチルメタクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N,N-ジメチルメタクリルアミド、N,N-ジエチルメタクリルアミド、N-メチル-N-エチルアクリルアミド、N-メチル-N-イソプロピルアクリルアミド、N-メチル-N-n-プロピルアクリルアミド、N-メチル-N-エチルメタクリルアミド、N-メチル-N-イソプロピルメタクリルアミド、N-メチル-N-n-プロピルメタクリルアミド、N,N-ジイソプロピルアクリルアミド、N,N-ジ-n-プロピルアクリルアミド、N,N-ジイソプロピルメタクリルアミド、N,N-ジ-n-プロピルメタクリルアミド、
(2)メチルビニルエーテル、メトキシエチルビニルエーテル、
(3)N-ビニルアセトアミド、N-ビニルプロピオンアミド、N-ビニルブチリルアミド、N-ビニルイソブチリルアミド、
【0011】
(4)N-アセチルアクリルアミド、N-フルオロアセチルアクリルアミド、N-プロピオニルアクリルアミド、N-ブタノイルアクリルアミド、N-ペンタノイルアクリルアミド、N-ヘキサノイルアクリルアミド、N-イソブタノイルアクリルアミド、N-ベンゾイルアクリルアミド、N-(3-フルオロベンゾイル)アクリルアミド、N-(2,3-ジフルオロベンゾイル)アクリルアミド、N-ピリジルカルボニルアクリルアミド、N-ピリミジルカルボニルアクリルアミド、N-アセチルメタクリルアミド、N-フルオロアセチルメタクリルアミド、N-プロピオニルメタクリルアミド、N-ブタノイルメタクリルアミド、N-ペンタノイルメタクリルアミド、N-ヘキサノイルメタクリルアミド、N-イソブタノイルメタクリルアミド、N-ベンゾイルメタクリルアミド、N-(3-フルオロベンゾイル)メタクリルアミド、N-(2,3-ジフルオロベンゾイル)メタクリルアミド、N-ピリジルカルボニルメタクリルアミド、N-ピリミジルカルボニルメタクリルアミド、N-アクロイル-N′-メチルウレア、N-アクロイル-N′-エチルウレア、N-アクロイル-N′-フルオロメチルウレア、N-アクロイル-N′-ジフルオロメチルウレア、N-アクロイル-N′-トリフルオロメチルウレア、N-メタクロイル-N′-メチルウレア、N-メタクロイル-N′-エチルウレア、N-メタクロイル-N′-フルオロメチルウレア、N-メタクロイル-N′-ジフルオロメチルウレア、N-メタクロイル-N′-トリフルオロメチルウレア、N-アクロイルカルバミン酸メチル、N-アクロイルカルバミン酸エチル、N-アクロイルカルバミン酸-n-ブチル、N-アクロイルカルバミン酸イソプロピル、N-アクロイルカルバミン酸-n-ブチル、N-アクロイルカルバミン酸イソブチル、N-アクロイルカルバミン酸-t-ブチル、N-アクロイルカルバミン酸フルオロメチル、N-アクロイルカルバミン酸ジフルオロメチル、N-アクロイルカルバミン酸トリフルオロメチル、N-アクロイルカルバミン酸-2,2,2- トリフルオロエチル、N-メタクロイルカルバミン酸メチル、N-メタクロイルカルバミン酸エチル、N-メタクロイルカルバミン酸-n-ブチル、N-メタクロイルカルバミン酸イソプロピル、N-メタクロイルカルバミン酸-n-ブチル、N-メタクロイルカルバミン酸イソブチル、N-メタクロイルカルバミン酸-t-ブチル、N-メタクロイルカルバミン酸フルオロメチル、N-メタクロイルカルバミン酸ジフルオロメチル、N-メタクロイルカルバミン酸トリフルオロメチル、N-メタクロイルカルバミン酸-2,2,2-トリフルオロエチル。
【0012】
本発明では、上限臨界温度(UCST)を有するモノマー成分としては、(5)の群から選
択されたモノマーである。
【0013】
(5)N−アセチルアクリルアミド、N−フルオロアセチルアクリルアミド、N−プロピオニルアクリルアミド、N−ブタノイルアクリルアミド、N−ペンタノイルアクリルアミド、N−ヘキサノイルアクリルアミド、N−イソブタノイルアクリルアミド、N−ベンゾイルアクリルアミド、N−(3−フルオロベンゾイル)アクリルアミド、N−(2,3−ジフルオロベンゾイル)アクリルアミド、N−ピリジルカルボニルアクリルアミド、N−ピリミジルカルボニルアクリルアミド、N−アセチルメタクリルアミド、N−フルオロアセチルメタクリルアミド、N−プロピオニルメタクリルアミド、N−ブタノイルメタクリルアミド、N−ペンタノイルメタクリルアミド、N−ヘキサノイルメタクリルアミド、N−イソブタノイルメタクリルアミド、N−ベンゾイルメタクリルアミド、N−(3−フルオロベンゾイル)メタクリルアミド、N−(2,3−ジフルオロベンゾイル)メタクリルアミド、N−ピリジルカルボニルメタクリルアミド、N−ピリミジルカルボニルメタクリルアミド、N−アクロイル−N′−メチルウレア、N−アクロイル−N′−エチルウレア、N−アクロイル−N′−フルオロメチルウレア、N−アクロイル−N′−ジフルオロメチルウレア、N−アクロイル−N′−トリフルオロメチルウレア、N−メタクロイル−N′−メチルウレア、N−メタクロイル−N′−エチルウレア、N−メタクロイル−N′−フルオロメチルウレア、N−メタクロイル−N′−ジフルオロメチルウレア、N−メタクロイル−N′−トリフルオロメチルウレア、N−アクロイルカルバミン酸メチル、N−アクロイルカルバミン酸エチル、N−アクロイルカルバミン酸-n-プロピル、N−アクロイルカルバミン酸イソプロピル、N−アクロイルカルバミン酸-n-ブチル、N−アクロイルカルバミン酸イソブチル、N−アクロイルカルバミン酸-t-ブチル、N−アクロイルカルバミン酸フルオロメチル、N−アクロイルカルバミン酸ジフルオロメチル、N−アクロイルカルバミン酸トリフルオロメチル、N−アクロイルカルバミン酸-2.2.2-トリフルオロエチル、N−メタクロイルカルバミン酸メチル、N−メタクロイルカルバミン酸エチル、N−メタクロイルカルバミン酸-n-プロピル、N−メタクロイルカルバミン酸イソプロピル、N−メタクロイルカルバミン酸-n-ブチル、N−メタクロイルカルバミン酸イソブチル、N−メタクロイルカルバミン酸-t-ブチル、N−メタクロイルカルバミン酸フルオロメチル、N−メタクロイルカルバミン酸ジフルオロメチル、N−メタクロイルカルバミン酸トリフルオロメチル、N−メタクロイルカルバミン酸-2.2.2-トリフルオロエチル。
【0014】
更に、本発明では、第三成分として、更に親水性又は疎水性モノマーを共重合成分として含有することができる。これにより転移点の調整を行うことができる。
【0015】
上記モノマー群(5)で表されるモノマー成分は、ペプチド結合に代表される強い水素結合性と可逆的なケトエノール互変異性を示し、下記反応式Aに示すごとく、ケトエノールスイッチングにより、上限臨界温度(UCST)を有するものと推察される。
【0016】
【化1】

【0017】
即ち、高温時にエノール化して水和し、低温時にケト体に変換されて水素結合で凝集するように、コンピューターによる分子軌道計算の手法を用いて設計することにより、上限臨界温度(UCST)を発現するモノマー成分が得られる。より具体的には、上記ペプチド結合を有する部位が、熱力学的にケト体が安定なモノマー成分を合成することが望ましい。
【0018】
本発明の熱応答性共重合高分子は、各種物質の分離、固定化、検量、制御等に有効に適用することができる。特に、上限臨界温度(UCST)と下限臨界温度(LCST)とを同時に有することから、特に温度選定が難しい物質(例えばバイオプロダクト、酵素、抗体などの蛋白質)の分離・精製、固定化、検量、制御、あるいはケモバルブへ等に有効に利用できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、上限臨界温度(UCST)及び下限臨界温度(LCST)を有する熱応答性高分子を得ることができ、特に温度選定が難しい物質(例えばバイオプロダクト、酵素、抗体などの蛋白質)の分離・精製、固定化、検量、制御、あるいはケモバルブへ等に有効に利用できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
更に本発明について詳細に説明する。本発明によれば、上記の通り、下限臨界温度(LCST)を有するモノマー成分の少なくとも1種と上限臨界温度(UCST)を有するモノマー成分の少なくとも1種を共重合させて高分子とすることにより、下限臨界温度(LCST)及び上限臨界温度(UCST)を同時に有する熱応答性共重合高分子を得ることができる。
【0021】
本発明において、下限臨界温度(LCST)を有するモノマー成分として、下記モノマー群(1)〜(4)で表されるモノマー成分を用いる。
【0022】
モノマー群(1):N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N-シクロプロピルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N-n-プロピルアクリルアミド、N-tert-ブチルアクリルアミド、N-sec-ブチルアクリルアミド、N-n-ブチルアクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、N-シクロプロピルメタクリルアミド、N-イソプロピルメタクリルアミド、N-n-プロピルメタクリルアミド、N-tert-ブチルメタクリルアミド、N-sec-ブチルメタクリルアミド、N-n-ブチルメタクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N,N-ジメチルメタクリルアミド、N,N-ジエチルメタクリルアミド、N-メチル-N-エチルアクリルアミド、N-メチル-N-イソプロピルアクリルアミド、N-メチル-N-n-プロピルアクリルアミド、N-メチル-N-エチルメタクリルアミド、N-メチル-N-イソプロピルメタクリルアミド、N-メチル-N-n-プロピルメタクリルアミド、N,N-ジイソプロピルアクリルアミド、N,N-ジ-n-プロピルアクリルアミド、N,N-ジイソプロピルメタクリルアミド、N,N-ジ-n-プロピルメタクリルアミド。
【0023】
モノマー群(2):メチルビニルエーテル、メトキシエチルビニルエーテル。
【0024】
モノマー群(3):N-ビニルアセトアミド、N-ビニルプロピオンアミド、N-ビニルブチリ
ルアミド、N-ビニルイソブチリルアミド。
【0025】
モノマー群(4):N-アセチルアクリルアミド、N-フルオロアセチルアクリルアミド、N-プロピオニルアクリルアミド、N-ブタノイルアクリルアミド、N-ペンタノイルアクリルアミド、N-ヘキサノイルアクリルアミド、N-イソブタノイルアクリルアミド、N-ベンゾイルアクリルアミド、N-(3-フルオロベンゾイル)アクリルアミド、N-(2,3-ジフルオロベンゾイル)アクリルアミド、N-ピリジルカルボニルアクリルアミド、N-ピリミジルカルボニルアクリルアミド、N-アセチルメタクリルアミド、N-フルオロアセチルメタクリルアミド、N-プロピオニルメタクリルアミド、N-ブタノイルメタクリルアミド、N-ペンタノイルメタクリルアミド、N-ヘキサノイルメタクリルアミド、N-イソブタノイルメタクリルアミド、N-ベンゾイルメタクリルアミド、N-(3-フルオロベンゾイル)メタクリルアミド、N-(2,3-ジフルオロベンゾイル)メタクリルアミド、N-ピリジルカルボニルメタクリルアミド、N-ピリミジルカルボニルメタクリルアミド、N-アクロイル-N′-メチルウレア、N-アクロイル-N′-エチルウレア、N-アクロイル-N′-フルオロメチルウレア、N-アクロイル-N′-ジフルオロメチルウレア、N-アクロイル-N′-トリフルオロメチルウレア、N-メタクロイル-N′-メチルウレア、N-メタクロイル-N′-エチルウレア、N-メタクロイル-N′-フルオロメチルウレア、N-メタクロイル-N′-ジフルオロメチルウレア、N-メタクロイル-N′-トリフルオロメチルウレア、
【0026】
N-アクロイルカルバミン酸メチル、N-アクロイルカルバミン酸エチル、N-アクロイルカルバミン酸-n-ブチル、N-アクロイルカルバミン酸イソプロピル、N-アクロイルカルバミン酸-n-ブチル、N-アクロイルカルバミン酸イソブチル、N-アクロイルカルバミン酸-t-ブチル、N-アクロイルカルバミン酸フルオロメチル、N-アクロイルカルバミン酸ジフルオロメチル、N-アクロイルカルバミン酸トリフルオロメチル、N-アクロイルカルバミン酸-2,2,2- トリフルオロエチル、N-メタクロイルカルバミン酸メチル、N-メタクロイルカルバミン酸エチル、N-メタクロイルカルバミン酸-n-ブチル、N-メタクロイルカルバミン酸イソプロピル、N-メタクロイルカルバミン酸-n-ブチル、N-メタクロイルカルバミン酸イソブチル、N-メタクロイルカルバミン酸-t-ブチル、N-メタクロイルカルバミン酸フルオロメチル、N-メタクロイルカルバミン酸ジフルオロメチル、N-メタクロイルカルバミン酸トリフルオロメチル、N-メタクロイルカルバミン酸-2,2,2-トリフルオロエチル。
【0027】
一方、上限臨界温度(UCST)を有するモノマー成分として、下記モノマー群(5)で表されるモノマー成分を用いる。
【0028】
(5)N−アセチルアクリルアミド、N−フルオロアセチルアクリルアミド、N−プロピオニルアクリルアミド、N−ブタノイルアクリルアミド、N−ペンタノイルアクリルアミド、N−ヘキサノイルアクリルアミド、N−イソブタノイルアクリルアミド、N−ベンゾイルアクリルアミド、N−(3−フルオロベンゾイル)アクリルアミド、N−(2,3−ジフルオロベンゾイル)アクリルアミド、N−ピリジルカルボニルアクリルアミド、N−ピリミジルカルボニルアクリルアミド、N−アセチルメタクリルアミド、N−フルオロアセチルメタクリルアミド、N−プロピオニルメタクリルアミド、N−ブタノイルメタクリルアミド、N−ペンタノイルメタクリルアミド、N−ヘキサノイルメタクリルアミド、N−イソブタノイルメタクリルアミド、N−ベンゾイルメタクリルアミド、N−(3−フルオロベンゾイル)メタクリルアミド、N−(2,3−ジフルオロベンゾイル)メタクリルアミド、N−ピリジルカルボニルメタクリルアミド、N−ピリミジルカルボニルメタクリルアミド、N−アクロイル−N′−メチルウレア、N−アクロイル−N′−エチルウレア、N−アクロイル−N′−フルオロメチルウレア、N−アクロイル−N′−ジフルオロメチルウレア、N−アクロイル−N′−トリフルオロメチルウレア、N−メタクロイル−N′−メチルウレア、N−メタクロイル−N′−エチルウレア、N−メタクロイル−N′−フルオロメチルウレア、N−メタクロイル−N′−ジフルオロメチルウレア、N−メタクロイル−N′−トリフルオロメチルウレア、N−アクロイルカルバミン酸メチル、N−アクロイルカルバミン酸エチル、N−アクロイルカルバミン酸-n-プロピル、N−アクロイルカルバミン酸イソプロピル、N−アクロイルカルバミン酸-n-ブチル、N−アクロイルカルバミン酸イソブチル、N−アクロイルカルバミン酸-t-ブチル、N−アクロイルカルバミン酸フルオロメチル、N−アクロイルカルバミン酸ジフルオロメチル、N−アクロイルカルバミン酸トリフルオロメチル、N−アクロイルカルバミン酸-2.2.2-トリフルオロエチル、N−メタクロイルカルバミン酸メチル、N−メタクロイルカルバミン酸エチル、N−メタクロイルカルバミン酸-n-プロピル、N−メタクロイルカルバミン酸イソプロピル、N−メタクロイルカルバミン酸-n-ブチル、N−メタクロイルカルバミン酸イソブチル、N−メタクロイルカルバミン酸-t-ブチル、N−メタクロイルカルバミン酸フルオロメチル、N−メタクロイルカルバミン酸ジフルオロメチル、N−メタクロイルカルバミン酸トリフルオロメチル、N−メタクロイルカルバミン酸-2.2.2-トリフルオロエチル。
【0029】
本発明では、上記下限臨界温度を有するモノマー成分と上限臨界温度を有するモノマー成分の組成比は特に限定されず、目的に応じて適宜選択される。一般的には下限臨界温度を有するモノマー成分:上限臨界温度を有するモノマー成分は2:1〜1:5(重量比)の範囲が好ましい。
【0030】
また、本発明の高分子誘導体の分子量も特に限定されず、高分子誘導体の転移温度などの性質は、その分子量に殆ど依存しない。通常102 〜106 程度、好ましくは103 〜105 程度である。
【0031】
更に、本発明では、下限臨界温度を有するモノマー成分及び上限臨界温度を有するモノマー成分の他に、更に親水性もしくは疎水性のモノマーと共重合することにより、様々な温度範囲で下限臨界温度及び上限臨界温度を有する熱応答性高分子を得ることができる。
【0032】
親水性モノマーや疎水性モノマーとしては、特に限定されず種々のものを挙げることができ、例えば親水性モノマーとしては、アクリルアミド、アリルアミン、ヒドロキルエチル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレートなど、疎水性モノマーとしては、(メタ)アクリル酸エステル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、スチレンなどをそれぞれ挙げることができる。
【0033】
更に、スイッチング範囲(転移温度の範囲)は狭ければ狭いほどよく、本発明によれば、実用的な10℃以下のスイッチング範囲の熱応答性高分子を得ることができる。
【0034】
更に、本発明の新規な刺激応答性高分子誘導体は、温度調整が困難な物質の分離、固定化、検量、制御等に有効であり、例えば、ドラッグデリバリーシステム(DDS)、各種分離剤、カテーテル、人工筋肉、ケモバルブなどに有効に適用することができる。
【実施例】
【0035】
以下の実施例において、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0036】
実施例1
〔N-アセチルアクリルアミドとN-イソプロピルアクリルアミドとの共重合体の合成とその物性〕
【0037】
三口フラスコにN-アセチルアクリルアミド:1.0g及びN-イソプロピルアクリルアミド:200mg を加え入れ、エタノール5mlに溶解させた。AIBN:5mgを更に加え入れ、70℃で4 時間攪拌を行った。析出した高分子をエタノールで洗浄し、減圧下乾燥を十分に行い、780 mgの共重合体(重量平均分子量約7000)を得た。
得られた共重合体25mgを15%エタノール水溶液5mlに溶解し、上限臨界温度(UCST)を測定したところ、5℃であった。また、この同じサンプルで下限臨界温度(LCST)を測定したところ83℃であった。
尚、上限臨界温度(UCST)及び下限臨界温度(LCST)は可視光の透過率を用いて求めた。
【0038】
比較例1
〔ポリ-N-イソプロピルアクリルアミド(PNIPAM)の合成と物性〕
窒素ガス雰囲気下N-イソプロピルアクリルアミド:1.0g、AIBN:5mgをエチレングリコールジメチルエーテル5mlに溶解させフラスコ内に仕込み、75℃で3時間撹拌を行った。得られた反応液をシクロヘキサン/酢酸エチル=10/1の混合溶媒で再沈を行い0.6gの白色固体を得た。
このポリマー50mgを蒸留水5mlに溶解し、下限臨界温度(LCST)を測定したところ約30℃であった。この水溶液を1℃で1週間放置したが、高分子の析出は確認されなかった。この高分子では上限臨界温度(UCST)は存在しないことが判る。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明によれば、上限臨界温度(UCST)及び下限臨界温度(LCST)を有する熱応答性高分子を得ることができ、特に温度選定が難しい物質(例えばバイオプロダクト、酵素、抗体などの蛋白質)の分離・精製、固定化、検量、制御、あるいはケモバルブへ等に有効に利用できるので、ドラッグデリバリーシステム(DDS)、各種分離剤、カテーテル、人工筋肉、ケモバルブなどの分野に広く応用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下限臨界温度を有するモノマー成分及び上限臨界温度を有するモノマー成分を共重合成分として含有する熱応答性共重合高分子であって、下限臨界温度を有するモノマー成分がN−イソプロピルアクリルアミドであり、上限臨界温度を有するモノマー成分がN−アセチルアクリルアミドであることを特徴とする、下限臨界温度及び上限臨界温度を同時に有する熱応答性共重合高分子。
【請求項2】
更に、親水性又は疎水性モノマーを共重合成分として含有する請求項1記載の熱応答性共重合高分子誘導体。

【公開番号】特開2009−161771(P2009−161771A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−95000(P2009−95000)
【出願日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【分割の表示】特願平10−80582の分割
【原出願日】平成10年3月13日(1998.3.13)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000002071)チッソ株式会社 (658)
【Fターム(参考)】