説明

不具合解析装置

【課題】不具合の原因を明らかにして、その再発防止を図る。
【解決手段】不具合解析装置1は、複数の作業工程10を有し、かつ複数の作業工程10の下流側に検査工程20が設けられている製造ラインに設置されるもので、複数の作業工程10のうち、所定の作業工程10における作業状態を撮像する撮像手段(固定型カメラ60、小型カメラ70)と、撮像手段で得た複数の映像データを記憶する記憶手段80と、検査工程20で不具合が発見された場合に、記憶手段80に記憶されている複数の映像データの中から、不具合が発生したワークWの所定の作業工程における作業状態が映った映像データを選択する選択手段とを備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不具合解析装置に関し、特に、製造ラインに設けた検査工程で発見された不具合の発生原因を解明するための解析技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、下記特許文献1や下記特許文献2に示すように、製造ラインにおける作業工程には、通常、作業上の不具合(組付け不良や加工ミス、あるいは作業中に生じた傷など)の有無を検査するための検査工程(クオリティゲートとも呼ばれる)が設けられている。そして、この検査工程で上記不具合が発見された場合には、発見した不具合に関する情報を検査担当者がコンピュータ等に入力し、不具合情報として管理することとし、かつ、この情報に基づき不具合の補修・改善を行うようにしている。
【0003】
詳述すると、下記特許文献1には、車両の組立ラインにおいて、組立ラインを複数の機能別ゾーンに分割し、各機能別ゾーンの末端部に、車両の静的検査を実施する検査部と、この検査部で発見した不具合情報に基づいて補修を実施する補修部を付設すると共に、組立ラインの末端に、各機能別ゾーンの検査補修項目を複合的に検査する複合保証ゾーンを設けたものが記載されている。また、この際、各機能別ゾーン内の不具合情報や修理データ、および複合保証ゾーンの修理データがコンピュータLANネットワーク等を通じて補修部あるいは組立工程等を含む全ての生産関連部門にフィードバックされるようにすることで、不具合点の対策(修理内容)を直ちに組立てに反映して、生産の立ち上がりから早期に品質の安定化を実現できる旨が記載されている。
【0004】
また、下記特許文献2には、検査端末からの不具合項目(不具合情報)の入力が、不具合の発生した部品を示す部品用語と、不具合内容の現象を示す現象用語と、前述の不具合現象を補助する補助用語との組合せによって行われる不具合情報入力装置が記載されている。また、検査工程で入力された上記不具合情報は、搬送されてきた車両に対応して検査ホストコンピュータに記憶されると共に、製造ラインの検査工程より下流側に位置する手直し工程にて、適当な表示端末に表示される。手直し作業者はこの表示を確認して対応箇所の手直しを行う旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−90924号公報
【特許文献2】特開平7−149268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記不具合の再発を確実に防ぐためには、検査工程で発見した不具合情報をデータベース化するだけでは不十分であり、当該内容を実際に各作業工程の作業者にもフィードバックし、不具合発生時の作業状態や作業環境を考慮に入れた上でその発生原因を明らかにする必要があると考えられる。ここで、検査担当者から作業者にフィードバックする不具合の内容に関しては、上記特許文献1に記載されているように、検査担当者が不具合の内容をデータ入力装置に入力することで、データ化することができる。また、実際の不具合を見ながら入力できるので、上記特許文献2に記載のように、不具合内容を詳細にデータ入力することができる。しかし、検査工程からのフィードバックにより不具合があったことを作業者自身が知った時点では、実際に不具合が生じたと思われる作業を行ってから既に数分以上も経過している。そのため、当該作業者は、その作業内容ないし作業時の状態についてほとんど記憶していない(詳細に思い出せない)ことが多い。従って、従来の設備・方式を採用した場合には、不具合が生じた原因(例えば、ワークやツールの持ち方や作業手順などに不備があった等)を、不具合の種類に関らず確実に知ることは難しく、不具合情報のフィードバックによる不具合の改善(再発防止)を適切に図ることができていなかった。
【0007】
以上の事情に鑑み、不具合の原因を明らかにして、その再発防止を図ることを、本発明により解決すべき技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題の解決は、本発明に係る不具合解析装置により達成される。すなわち、この解析装置は、複数の作業工程を有し、かつ複数の作業工程の下流側に検査工程が設けられている製造ラインにおいてワークに生じた不具合の解析を行うための装置であって、複数の作業工程のうち、所定の作業工程における作業状態を撮像する撮像手段と、撮像手段で得た複数の映像データを記憶する記憶手段と、検査工程で不具合が発見された場合に、記憶手段に記憶されている複数の映像データの中から、不具合が発生したワークの作業工程における作業状態が映った映像データを選択する選択手段とを備えた点をもって特徴付けられる。
【0009】
上述のように、本発明では、予め、作業上の不具合が発生し易い又は発生する可能性のある作業工程にカメラ等の撮像手段を設けて、この撮像手段で得た複数の映像データを記憶手段で記憶しておくことで、不具合が発見された場合に、選択手段により選択した不具合発生時の映像データを閲覧することができる。そのため、閲覧のための表示装置(ディスプレイ)を検査担当者の近傍においておけば、具体的な不具合の内容と、その際の作業状況(作業の正確性や作業順序、作業用具の載置態様など)を併せて確認することで、従来に比べて遥かに高い割合で当該不具合の発生原因を解明することが可能となる。また、この際、具体的な不具合の内容をそのときの映像データと共にデータ化して保存しておくことで、不具合の発生要因を統計的に把握して、再発防止のためのより適切な対策を講じることも可能となる。
【0010】
この場合、具体的には、記憶手段は、映像データを一時的に記憶可能な一時記憶領域と、映像データを永久的に記憶可能な本記憶領域とを有するものであって、選択手段は、検査工程で不具合が発見された場合に、一時記憶領域に記憶されている複数の映像データの中から不具合が発生したワークの作業工程における映像データを選択し、これにより選択した映像データを本記憶領域に記憶するようにしてもよい。
【0011】
上述のように、不具合が発生した際の作業状態が映った映像データは、当該不具合の発生要因を特定するに当り非常に重要な情報となるが、この種の不具合は、当然ながら何時発生するのか分からないことから、基本的に撮像対象工程に流れてくる全てのワークの作業状態を撮像し、記憶する必要が生じる。しかしながら、撮像した全ての映像データを記憶していたのでは、その記憶容量は膨大なものとなり、保管が面倒である。また、撮像データのうち、不具合が発生していない作業状態が映っているものについては記憶しておく価値がないことから、容量確保のためにも、不要データと判断した時点で速やかに消去できたほうがよい。以上の点に鑑み、本発明では、上述のように、記憶手段を、一時記憶領域と本記憶領域の2つの領域から構成すると共に、必要に応じて、すなわち、不具合が発見されたワークについてのみ、対応する作業状態が映った映像データを本記憶領域に記憶するようにした。このようにすることで、不具合の発生要因を解明するために必要な映像データのみを選択して記憶することが可能となる。また、不要と判明した映像データは、随時消去していくことで、無駄かつ膨大なデータの蓄積を避けることができる。
【0012】
また、この場合、一時記憶領域は、所定の作業工程から検査工程までの工程数と同数の映像データを記憶可能であり、記憶手段は、撮像手段により最新の映像データを取得する度に、一時記憶領域に記憶されている工程数と同数の映像データのうち最も古い映像データを削除し、選択手段は、不具合が発見された場合に、最も古い映像データを選択し、これにより選択した映像データを一時記憶領域から削除する前に本記憶領域に記憶するようにしてもよい。
【0013】
このように、一時記憶領域には、撮像対象となる所定の作業工程から検査工程までの工程数と同数の映像データを記憶可能とし、一時記憶領域に記憶した映像データの数が所定数に達した場合には最も古い映像データを削除すると共に、必要に応じて本記憶領域に記憶するようにすることで、常に一時記憶領域には、本記憶領域に記憶する可能性のある映像データのみを残しておくことができ、かつ、必要な場合には、速やかに対応する映像データを永久的に記憶することができる。これにより、最小限の記憶容量で真に必要な映像データのみを選択して記憶することが可能となる。また、上記のように、一時記憶領域に記憶可能な映像データの数を、撮像対象となる作業工程から検査工程までの工程数と同数に制限することで、検査工程で不具合が発見された際、当該不具合が発生した際の作業状態が映っているであろう映像データは、必ず一時記憶領域に記憶されている複数の映像データのうち最も古い映像データである。よって、この時間情報さえ残しておけば、映像データの容量をなるべく小さくしつつも、不具合発生時の映像データを確実に選び出すことができる。
【0014】
選択手段は、上述のように、不具合発見時に、記憶手段に記憶されている複数の映像データの中から対応する映像データ、すなわち不具合が発生したワークの所定の作業工程における作業状態が映った映像データを選択するものであり、一時記憶領域の中から上記映像データを選択して本記憶領域に記憶する場合、当該選択記憶動作を記憶手段に指令するプログラムを含む。ここで、選択手段は、上記指令プログラムに加えて、不具合の発見時、上記指令プログラムに対してその実行命令を伝達するためのトリガーを備えるものであってもよい。なお、ここでいう「トリガー」は、所定の担当者(通常、検査工程の検査担当者)の単純操作により、上記指令プログラムの実行を指示(命令)するための信号を直接又は間接的に上記指令プログラムに送るための手段を意味し、その信号の伝達媒体は特に問わない。例えば、パーソナルコンピュータ等のキーボードや所定のスイッチ、ボタンのように、電磁波を通じてトリガーから離れた指令プログラムにその実行を命令するものであってもよい。あるいは、製造ラインに沿って設けられ、指令プログラムに対して所定の命令信号を発信する命令信号発信部に一端が連結されている紐状スイッチのように、作業者(検査者)の引張り力を入力信号として、間接的に指令プログラムにその実行を命令するように構成されたものであってもよい。
【0015】
このように構成することで、例えば不具合を有するワークが検査工程に流れてきて、検査担当者が当該不具合を発見した場合、検査担当者はトリガーを引く(操作する)だけの単純な操作で、自動的に当該不具合が発生したワークの作業映像データのみを選び出して本記憶領域に記憶することができる。そのため、検査者にとって本記憶領域への記憶操作が手間又は負担にならずに済む。
【0016】
また、検査工程で不具合が発見され、不具合が発生したワークの作業工程における映像データを本記憶領域に記憶する際、その環境与件も併せて記憶するようにしてもよい。なお、ここでいう「環境与件」とは、撮像対象となる所定の作業工程に何らかの形で関与する可能性のある環境要因一般を指し、例えば車種情報やコンベアの可動の有無などのワークおよび製造ラインに直接関係する情報のほか、担当作業者の年齢、そのとき(その日)の体調、あるいは習熟度などの実際に作業に携った者に関する情報などが含まれる。
【0017】
このように、不具合が生じた時の作業映像データを記憶すると共に、その時の環境与件も併せて本記憶領域に記憶しておくことで、不具合発生時の作業状況(作業環境)も考慮に入れて不具合発生時の作業映像を確認することができる。これにより、不具合発生の原因を即時かつ容易に解明することが可能となる。
【0018】
また、前記課題の解決は、本発明に係る不具合解析方法によっても達成される。すなわち、この解析方法は、複数の作業工程を有し、かつ複数の作業工程の下流側に検査工程が設けられている製造ラインにおいてワークに生じた不具合の解析を行うための方法であって、複数の作業工程のうち、所定の作業工程における作業状態を撮像すると共に、撮像により得た複数の映像データを記憶しておき、検査工程で不具合が発見された場合に、記憶しておいた複数の映像データの中から、不具合が発生したワークの作業工程における作業状態が映った映像データを選択し、選択した映像データに基づき解析を行う点をもって特徴づけられる。
【0019】
上記の解析方法についても、本欄の冒頭で述べた解析装置と同一の技術的特徴を有することから、上記による作用効果と同一の作用効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明に係る不具合解析装置及び解析方法によれば、不具合の発生原因を明らかにして、その再発防止を図ることができる。また、新規な工程を計画する際に予め不具合未然防止のための対策を講じておくこともでき、不具合発生時の作業状態が映った映像データを作業者に見せることで、作業品質改善のための教育に利用することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態に係る不具合解析装置の全体構成を概念的に示す図である。
【図2】不具合解析装置に具備される記憶手段の構成を概念的に示す図である。
【図3】記憶手段による映像データの記憶態様を概念的に説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る不具合解析装置の一実施形態を図面に基づき説明する。なお、この実施形態では、車両の組立ラインにおける不具合の発生要因を解析する場合を例にとって説明する。
【0023】
図1は、本実施形態に係る不具合解析装置1の全体構成を示している。この図に示すように、この不具合解析装置1は、複数の組立工程10と、これら組立工程10の下流側に位置する検査工程20とを有する組立ラインに対して設置されるものである。ここで、組立ラインは、隣接する全ての組立工程10、および検査工程20を通過するように吊下げ式の搬送コンベア30を配設していると共に、各組立工程10では、担当の作業者40が所定の組立作業を行うと共に、検査工程20では、検査担当者50が、上流側の組立工程10で行った組立作業に問題はなかったか、言い換えると、検査工程20に流れてきたワークWに生じた不具合の有無、について検査を行うようになっている。
【0024】
不具合解析装置1は、複数の組立工程10,10…のうち、所定の組立工程10における作業状態を撮像する撮像手段(固定型カメラ60,小型カメラ70)と、この撮像手段で得た複数の映像データを記憶する記憶手段80と、検査工程20で不具合が発見された場合に、記憶手段に記憶されている複数の映像データの中から、不具合が発生したワークWの所定の作業工程における作業状態が映った映像データを選択する選択手段とを備えている。
【0025】
撮像手段は、この実施形態では、2種類のカメラ(固定型カメラ60、小型カメラ70)からなり、固定型カメラ60は、所定の1つの組立工程10(図1で言えば、図中最も右側の組立工程10)の全体像を撮像できる位置に設置される。また、小型カメラ70は、主として作業者40の手元など詳細な作業状態を撮像するためのもので、例えば図1に示すように、作業者40の頭部(帽子)に装着して使用される。これら2種類のカメラ60,70は、基本的には組立ラインの稼動中、常に撮像動作を行うようになっている。そして、例えば所定の組立工程10に対応する作業エリアにワークWが搬送されて来てから、所定の組立作業を終えて、上記作業エリア外へと搬出されるまでの間の撮像データを、後述する記憶手段80の一時記憶領域110に一時記憶するようになっている。この実施形態では、搬送コンベア30に設けれたリミットスイッチ100を利用して、撮像データの区画および記憶を行うようにしている。すなわち、搬送コンベア30で搬送されるワークWが各組立工程10の下流端近傍に設けられたリミットスイッチ100に接触(もしくは通過)することで、所定の信号が記憶手段80に入力され、撮像手段(固定型カメラ60、小型カメラ70)で連続的に撮像された映像データがワーク単位の独立した映像データに区画されるようになっている。もちろん、カメラの構成は自由であり、必要に応じて、固定型カメラ60と小型カメラ70の一方のみ、あるいは一方のカメラを複数台設けるようにしても構わない。
【0026】
記憶手段80は、例えば図1および図2に示すように、パーソナルコンピュータで構成されるもので、この記憶手段80に固定型カメラ60と小型カメラ70とが電気的に接続されている。また、その内部に、所定の組立工程10から検査工程20までの工程数と同数の映像データを一時的に記憶可能なRAMなどの一時記憶領域110と、これら映像データを永久的に記憶可能なハードディスクなどの本記憶領域120とを有している。そのため、撮像対象となる組立工程10から最下流側に位置する組立工程10までN個の組立工程10が配置されると共に、これらN個の組立工程10のさらに下流側に1個の検査工程20が配置される場合、一時記憶領域110は、撮像手段(固定型カメラ60、小型カメラ70)により得たN+1個の映像データを一時記憶できるように構成されている。
【0027】
また、この実施形態では、図2に示すように、一時記憶領域110はN+1個の一時メモリ空間M1…MN+1からなっており、各一時メモリ空間M1…MN+1にそれぞれ1個の映像データが記憶されるようになっている。そして、詳細は後述するが、撮像手段により最新の映像データを取得する度に、各一時メモリ空間M1…MN+1に記憶された複数の映像データのうち、最も古い映像データが消去されるようになっている。また、必要と認められる場合には、上記最も古い映像データが消去される前に本記憶領域120に記憶されるようになっている。ここで、例えば図3に示すように、1番目の一時メモリ空間M1から順に撮像手段で得た映像データが記憶され、かつ、最新の映像データを取得する度に、隣合う一時メモリ空間M2…に映像データが書き換えられるようにした場合、N+1個の映像データが一時記憶領域110に記憶された状態では、常に、N+1番目の一時メモリ空間MN+1に最も古い映像データが記憶されるようになっている。
【0028】
また、記憶手段80には、予め、環境与件を入力しておいてもよい。具体的には、車種情報や吊上げナンバー(通しナンバー)などのワークWに関する情報、搬送コンベア30の稼動状態(稼動中又は停止の何れか)や稼動時間などのライン設備に関する情報、あるいは、作業者の年齢、経験年数、習熟度や、その日の体調、作業時間帯(作業を開始してからの経過時間)などの作業者に関する情報を環境与件として記憶手段80に入力しておくことが可能である。これら環境与件データは、一時記憶領域110に記憶された映像データと結び付けて本記憶領域120に記憶できるようになっている。
【0029】
選択手段は、この実施形態では、予めライン設備として組立ラインに具備されている紐状のトリガー90と、このトリガー90からの信号を受けて、記憶手段80に、一時記憶領域110に記憶されている複数の映像データのうち、最も古い映像データを一時記憶領域110から削除する前に本記憶領域120に記憶するよう指令するための指令手段(指令プログラム)とを備える。この実施形態では、紐状のトリガー90は、検査担当者50が、通常の検査作業位置の範囲内に居て操作できる位置に設けられており、その一端には、記憶手段80に設けた上記指令プログラムの実行を命令するための信号を発信する命令信号発信部(図示は省略)が連結されている。そして、ワークWに不具合を発見した場合、検査担当者50が紐状のトリガー90を引張ることで、引張り力(入力信号)が紐状のトリガー90と連結された命令信号発信部に伝達されると共に、この入力信号を受けた命令信号発信部が、記憶手段80に設けた指令プログラムにその実行を命令するための信号を発信するようになっている。
【0030】
以下、上述した不具合解析装置1を用いた場合の不具合解析方法の一例を説明する。
【0031】
まず、図1に示すように、所定の組立工程10における作業者40の組立作業状態を、固定型カメラ60および作業者40の頭部に装着した小型カメラ70で撮像する。そして、この組立作業が完了しワークWが作業エリア外へと搬送コンベア30で搬出される際、搬送コンベア30に設けたリミットスイッチ100からの信号により、撮像手段(固定型カメラ60、小型カメラ70)で得た撮像データを区切って、独立した1つの撮像データとして一時記憶領域110に記憶する。最初に記憶した映像データであれば、図3に示すように、対応する1番目の一時メモリ空間M1に、最初(1番目)に撮像したワークWの映像データW1が記憶される(図3の第1段階S1)。このように、2種類のカメラ(固定型カメラ60、小型カメラ70)により、1つのワークWに対して2個の映像データが同時に得られる場合、双方の映像データを対応する1番目の一時メモリ空間M1に記憶させてもよいし、一時記憶領域110を2つ設けて、各々の映像データを別個の一時記憶領域110に記憶させるようにしてもよい。
【0032】
続いて、後続の(2番目の)ワークWについても、撮像対象の組立工程10に搬入されてからの作業者40による作業状態を固定型カメラ60と小型カメラ70で撮像し、この撮像で得た映像データを一時記憶領域110に記憶する。この場合、最新の映像データを常に所定の(1番目の)一時メモリ空間M1に記憶するため、既に1番目の一時メモリ空間M1に記憶されている映像データW1を、隣合う2番目の一時メモリ空間M2に記憶する。そうしてから、1番目の一時メモリ空間M1に記憶された映像データを2番目に撮像した映像データW2に書き換える(図3の第2段階S2)。このようにして、3番目以降のワークWについても固定型カメラ60および小型カメラ70で組立工程10における作業状態を撮像し、これにより得た映像データW3…を上記書き換え作業を行いながら1番目の一時メモリ空間M1に記憶していく。以上の撮像作業および一時記憶作業をN+1回繰り返すことで、全ての一時メモリ空間M1…MN+1に撮像手段による映像データW1…WN+1が一時的に記憶される(図3の第N+1段階SN+1)。このとき、N回前に撮像したワークWは、ちょうどN個の組立工程10を通過して、その下流側の検査工程20に到達している。
【0033】
そして、検査工程20に至ったワークWの組付け状態を検査担当者50がチェックし、何らの不具合も発見しなかった場合、図3中の矢印2に示すように、N+1番目の一時メモリ空間MN+1に記憶されている1番目の最も古い映像データW1を、N番目の一時メモリ空間MNに記憶されている2番目の映像データW2に書き換えることで、上記最も古い映像データW1を消去する。同様にして、N番目の一時メモリ空間MNに記憶されている2番目の映像データW2を、N−1番目の一時メモリ空間MN-1(図示は省略)に記憶されている3番目の映像データW3に書き換える。このようにして、N+1番目の一時メモリ空間MN+1から2番目の一時メモリ空間M2までに記憶されている映像データW1…WNをそれぞれ直後に記憶した映像データW2…WN+1に書き換える。そして、図3中の矢印3に示すように、撮像手段により得た最新のN+2番目の映像データWN+2を1番目の一時メモリ空間M1に記憶させることで、全ての一時メモリ空間M1…MN+1における映像データの書き換えが完了する。
【0034】
また、検査工程20に至ったワークWの組付け状態を検査担当者50がチェックし、何らかの不具合が発見された場合、選択手段を構成する紐状のトリガー90を検査担当者50が引張ることにより、トリガー90の一端に連結されている命令信号発信部(図示は省略)に所定の入力信号が入力され、これにより、記憶手段80内に設けた上記指令プログラムに向けて、そのプログラムの実行を命令する信号が発信される。これにより、図3中の矢印1に示す処理、言い換えると、N+1番目の一時メモリ空間MN+1に記憶されている1番目の最も古い映像データW1を選択して本記憶領域120に記憶すべし、との指令が指令プログラムから記憶手段80に伝達される。これにより、一時記憶領域110に記憶されている複数の映像データの中から、検査担当者50の目の前で不具合を発見したワークWの所定の組立工程10における作業状態が映った映像データが選択され、ハードディスク等の本記憶領域120に永久的に記憶される。然る後、上記矢印2に示すように、2番目の映像データW2に書き換えることで、上記最も古い映像データW1を消去する。以後、上記と同様にして、N+1番目の一時メモリ空間MN+1から2番目の一時メモリ空間M2までに記憶されている映像データW1…WNをそれぞれ直後に記憶した映像データW2…WN+1に書き換えると共に、撮像手段により得た最新のN+2番目の映像データWN+2を1番目の一時メモリ空間M1に記憶させる(図3中の矢印3に示す記憶処理)。これにより、全ての一時メモリ空間M1…MN+1における映像データの書き換えが完了する。以降、ライン稼動の間、同様の方法により、一時記憶領域110における映像データの書き換え処理と、必要に応じて、本記憶領域120への映像データの記憶処理とが継続して実施される。
【0035】
このようにして、検査担当者50が不具合を発見した場合、選択手段により選択した不具合発生時の映像データを、適当な映像表示装置に表示することで、検査担当者50が閲覧することができる。これにより、具体的な不具合の内容と、その際の作業状況(作業の正確性や作業順序、作業用具の載置態様など)を併せて確認することで、従来に比べて遥かに高い割合で当該不具合の発生原因を解明することが可能となる。この実施形態のように、種々の環境与件を予め記憶手段80に入力しておき、これを併せて参照することで、不具合の原因究明をより早期に達成することが可能となる。また、この際、具体的な不具合の内容をそのときの映像データと共にデータ化して保存しておくことで、検査担当者50とは別の不具合解析担当者が、不具合解析を行い、当該不具合の発生原因を解明するようにしてもよい。この場合には、不具合の発生要因を統計的に把握して、再発防止のためのより適切な対策を講じることも可能となる。
【0036】
以上、本発明に係る不具合解析装置の一実施形態を説明したが、この解析装置は、上記例示の形態に限定されることなく、本発明の範囲内において任意の形態を採り得る。もちろん、上記解析装置を用いた不具合解析方法についても、同様に、本発明の範囲内において任意の形態を採り得る。
【0037】
例えば、上記実施形態では、撮像手段により、最新の映像データを取得する度に、一時記憶領域110における映像データの書き換え処理を行うと共に、所定の一時メモリ空間(N+1番目の一時メモリ空間MN+1)に記憶されている映像データを、不具合が発見された場合、本記憶領域120に記憶する処理を例示したが、もちろん、この処理方法には限定されない。例えば、映像データに時間情報(撮像時刻など)を付した状態で一時記憶領域110に記憶するようにすれば、検査工程20で不具合が発見された場合、所定時間前に記憶された(撮像された)映像データを一時記憶領域110に記憶されている複数の映像データの中から選択して本記憶領域120に記憶するようにしてもよい。要は、一時記憶領域110に記憶されている複数の映像データの中から、所定の組立工数前のワークWの映像データを選び出して、本記憶領域120に記憶すると共に、この映像データを削除して、最新の映像データを一時記憶領域110に記憶する、との一連の記憶処理が実行可能である限りにおいてその方式は特に限定されない。通常、この種の組立ライン(製造ライン)においては、各組立工程は一定のピッチ(間隔)で配置されており、搬送コンベア30による搬送速度も一定であることから、検査工程20から所定の工程前の作業(ここではN工程前の作業)が行われた時刻は常に、検査時刻から所定の時間前(例えば1工程2分であれば、2×N分前)となるためである。よって、この場合、一時記憶領域110を、図2や図3のように、さらに複数の一時メモリ空間M1…MN+1に区切る必要もないし、各一時メモリ空間M1…MN+1内での映像データの書き換え処理も不要となる。
【0038】
また、上記実施形態では、検査工程20からN個離れた位置に配設された組立工程10に撮像手段(固定型カメラ60、小型カメラ70)を設置した場合を例示したが、もちろん、これ以外の撮像形態を採るようにしてもよい。例えば、他に不具合の発生頻度が高い、又は不具合が発生する可能性のある組立工程10に上記撮像手段を設けてもよいし、これら複数の組立工程10にそれぞれ撮像手段を設けてもよい。あるいは、1工程に1つの撮像手段、との概念に囚われることなく、例えば1台のカメラ(撮像手段)で隣合う2工程の領域を広角に撮影するようにしてもよい。なお、複数の撮像手段を複数の組立工程10に設ける場合、同時期に撮像された2個の映像データを1単位として、上記と同様の映像データの記憶処理が可能である。
【0039】
また、上記のように、撮像手段を複数の組立工程10に設置する場合、この撮像手段の設置数に応じた数のトリガー90を設けることも可能である。あるいは、トリガー90を、撮像対象となる組立工程10の数に合わせて設けるのではなく、不具合を発見した内容(不具合の発生部位、不具合の種別)に応じて複数個用意することも可能である。この場合、内容によっては、一時記憶領域110に記憶されている1個の映像データを本記憶領域120に記憶することもあり得るし、当該不具合の発生に関連していると想定される2個以上の映像データを1まとめにして本記憶領域120に記憶することもあり得る。
【0040】
また、以上の説明では、車両の組立ラインに不具合解析装置1を設置した場合を例にとって説明したが、本発明に係る解析技術は、組立ラインに留まらず、製造ライン一般に適用可能であることはもちろんである。
【0041】
また、上記以外の事項についても、本発明の技術的意義を没却しない限りにおいて他の具体的形態を採り得ることはもちろんである。
【符号の説明】
【0042】
1 組立ライン
10 組立工程
20 検査工程
30 搬送コンベア
40 作業者(組立作業者)
50 検査担当者
60 固定型カメラ
70 小型カメラ
80 記憶手段
90 トリガー
100 リミットスイッチ
110 一時記憶領域
120 本記憶領域
W ワーク
1…MN+1 一時メモリ空間
1…WN+3 映像データ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の作業工程を有し、かつ該複数の作業工程の下流側に検査工程が設けられている製造ラインにおいてワークに生じた不具合の解析を行うための装置であって、
前記複数の作業工程のうち、所定の作業工程における作業状態を撮像する撮像手段と、
前記撮像手段で得た複数の映像データを記憶する記憶手段と、
前記検査工程で前記不具合が発見された場合に、前記記憶手段に記憶されている複数の映像データの中から、前記不具合が発生したワークの前記作業工程における作業状態が映った映像データを選択する選択手段とを備え、
前記記憶手段は、前記映像データを一時的に記憶可能な一時記憶領域と、前記映像データを永久的に記憶可能な本記憶領域とを有するものであって、
前記選択手段は、前記検査工程で前記不具合が発見された場合に、前記一時記憶領域に記憶されている複数の前記映像データの中から前記不具合が発生したワークの前記作業工程における映像データを選択し、これにより該選択した映像データを前記本記憶領域に記憶するようにしたことを特徴とする不具合解析装置。
【請求項2】
前記検査工程で前記不具合が発見され、該不具合が発生したワークの前記作業工程における映像データを前記本記憶領域に記憶する際、その環境与件も併せて記憶するようにした請求項1に記載の不具合解析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−154463(P2011−154463A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−14507(P2010−14507)
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】