説明

不可視情報の重畳された印刷物

【課題】 通常では目視で判読不可能な状態にあり、利用時には簡便な方法で目視可能となる秘密情報を搭載しながら、4色トナーを用いるような一般的なカラープリンタで作成可能となる不可視情報が重畳された印刷物を提供することを課題とする。
【解決手段】 蛍光材を含有する用紙上に元画像α5から生成される単色画像6を黄の色材で形成し、さらに元画像β14から視覚復号型秘密分散法により生成されるシェア画像A11を重畳して形成する。可視光の下では、元画像α5および元画像β14は不可視の状態にあるが、紫外光16を照射すると蛍光画像8が出現し、シェア画像B12を重ね合わせることにより復元画像15が視認可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に偽造防止分野に適用される印刷技術に関し、特に、通常では不可視状態にある隠し画像を、利用時には簡便な方法で可視化できる印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
物品の真正性を確認するための真偽判定手段としては、従来より多様な方法が提案されており、印刷技術によるものに限っても種々の手法が実用になっている。紙幣などは真偽判定を要する代表的なものであり、そこに投入される偽造防止技術としては、特殊インキを利用するもの、蛍光インキなど視覚効果を利用するもの、微細パターンを利用するものなど多岐にわたる。しかも、複数の手法を併用することで、より効果(すなわち偽造の困難性)の高いものとしている。
ところが、上記のような特殊な技術を利用するものは、コストや工程の負荷増を伴うことが難点である。特に、オンデマンド印刷あるいは無版印刷と呼ばれるプリンタ技術を用いた印刷分野では、特殊な材料やプロセスを使わずに適用可能な偽造防止技術が強く望まれる。
一方で、真正性を確認する際に、簡便にできることも重要な要素であり、特に目視で確認できること、すなわち「見てわかる」ことは広く流通するような物品や商品を扱う業界では極めて重視される。先に挙げた蛍光インキは、隠し画像を可視化する際に紫外光を要するものの、目視で判別できる簡便さが利点となる例である。
【0003】
また、「見てわかる」簡便さを持ちながら情報秘匿に優れた手法として、視覚復号型暗号技術がある。これは元となる画像情報を、不規則なパターンで構成される複数の暗号画像(シェア画像と呼ぶ)に分散させることによって目視認識できない状態の画像に加工し、これらのシェア画像を重ね合わせることによって元の画像情報を視認可能な状態に復元(すなわち復号)させる技術である。このように、視覚復号型暗号技術は、複数のシェア画像からもとの情報を復元するためシェア画像を記録した媒体も複数用いることになるが、復元に特段の器具も必要とせず、結果が見るだけでわかる簡便さが特徴である。
【0004】
例えば、特許文献1は、視覚復号型暗号技術の代表例であって、視覚復号型秘密分散法を用いて、隠蔽層等の手段によらずに情報を隠蔽する記録媒体の構成および製作に関する技術を開示している。
なお、視覚復号型秘密分散法やシェア画像の生成手段等については種々の方式のものが提案されているが、特に先駆的論文である非特許文献1に原理や生成法が詳しく述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−118122号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】M.Naor and A.Shamir,"Visual Cryptography", Proc. of Eurocrypt'94 May 1994
【0007】
このように、視覚復号型暗号技術は、元となる画像(元画像)から複数のシェア画像を生成することから、一つの元画像についてシェア画像の数の媒体が必要となるが、手操作と目視により復元が可能となる簡便さがあり、さらに、単なる真偽の判別でなく、文字数字を伝達する利点もある。
【0008】
図2は、視覚復号型秘密分散法を用いて暗号化および復元する過程を表わす図であるが、図2に示すように、暗号化の過程では、元画像10は不規則なパターンからなるシェア画像に分解される。このように生成したシェア画像A(符号11)およびシェア画像B(符号12)は、それぞれ単独では不規則パターンが視認されるのみで、有意な情報は判読できない。
【0009】
このように、通常の視覚復号型秘密分散法においては、シェア画像を構成する各画素は白と黒のセルの集合によって構成される。ここでシェア画像を印刷等で作成することを想定すると、白のセルとは何も塗布しない領域のことを指し、フィルム等の透明物体においては透明のままの領域となる。また、黒のセルとはインキ等の色材が塗布される領域を指し、図2では黒色で表わされているが、黒のセルに塗布される色材は黒色に限らず有彩色であってもよい。
【0010】
シェア画像から元画像を復元するにはシェア画像A(符号11)およびシェア画像B(符号12)を所定の位置で重ね合わせればよい。これにより復元画像13のようなパターンが現われ、図2に示すように、不規則パターンを背景部として、元画像の「T」の形状(背景部に対して「画線部」と呼ぶ)が判読できる。これは、背景部は黒白が混淆した不規則なパターンとなるのに対し、画線部は黒で塗りつぶされた状態となるため、濃淡の差により画線部が現れるからである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、通常では目視で判読不可能な状態にあり、利用時には簡便な方法で目視可能となる秘密情報を搭載しながら、4色トナーを用いるような一般的なカラープリンタで作成可能となる不可視情報が重畳された印刷物(以下、単に「印刷物」と呼ぶ)を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決する本発明の印刷物の第1の態様は、
紫外光の照射により可視光を発する蛍光材を含有する用紙上に、黄、赤、藍、および黒の色材を用いるカラー印刷機により画像情報が形成される印刷物であって、
前記画像情報は、前記黄の色材により形成される第1の秘密画像、および、前記赤または藍または黒の色材により形成される第2の秘密画像からなり、前記第2の秘密画像は、元となる画像から視覚復号型秘密分散法により生成される少なくとも2つの暗号パターンの一つであることを特徴とする。
また、本発明の印刷物の第2の態様は、
前記カラー印刷機は、熱転写方式、インクジェット方式、電子写真方式に代表される何れかのカラープリンタであり、前記印刷物は、前記カラープリンタにより形成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の印刷物は、蛍光を利用する秘密画像と視覚復号型秘密分散法による秘密画像の相乗効果により高度な偽造防止効果を発揮するとともに、汎用的な4色印刷機、あるいはカラープリンタで作成可能であるため、秘密画像に可変情報を組み込むことも容易になり、さらなる偽造防止効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の印刷物の模式図
【図2】暗号記録媒体の暗号パターンを示す図
【図3】色材の視覚特性を示す図
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本発明の印刷物の模式図である。ここでは、通常の観察条件における印刷物1の態様とともに、印刷物1の生成時の態様、および、秘密画像を復元する際の態様(判読時の態様)をあわせて示している。なお、通常の観察条件とは、可視光からなる光源の下で観察する状態を指す。
印刷物1は、用紙上に、後に詳述する単色画像6およびシェア画像A(符号11)が重畳して印刷により形成されたものであり、単色画像6には第1の秘密画像にあたる元画像α(符号5)の形状情報が、また、シェア画像A(符号11)には、は第2の秘密画像にあたる元画像β(符号14)の形状情報が隠し込まれている。また、印刷物1の用紙は、蛍光材を含有しており、所定の波長の紫外光を照射すると可視光を発色する構成となっている。
【0016】
<シェア画像Aについて>
シェア画像A(符号11)は、元画像β(符号14)から視覚復号型秘密分散法により生成される複数の暗号パターンのうちの1つである。
図2は、視覚復号型秘密分散法による暗号化および復元の過程を表わす図であるが、図2に示すように、暗号化の過程では、元画像β(符号14)は不規則なパターンからなるシェア画像に分解される。このように生成したシェア画像A(符号11)およびシェア画像B(符号12)は、それぞれ単独では不規則パターンが視認されるのみで、有意な情報は判読できない。なお、図2の例ではシェア画像は2つであるが、シェア画像の数は2以上の複数であってもよい。
【0017】
このように、視覚復号型秘密分散法においては、シェア画像は白と黒の小領域(以下、セルと呼ぶ)の集合によって構成される。ここでシェア画像を印刷等で作成することを想定すると、白のセルとは何も塗布しない領域のことを指し、フィルム等の透明物体においては透明のままの領域となる。また、黒のセルとはインキ等の色材が塗布される領域を指し、図2では黒色で表わされているが、黒のセルに塗布される色材は黒色に限らず有彩色であってもよい。
【0018】
<単色画像6について>
単色画像6は、元画像α(符号5)を単色の色材で印刷した画像であり、図1の例では元画像α(符号5)の形状情報である「A」の背景部に色材を塗布することにより抜き文字の形態で表わし、色材の部分に網掛けを施して示している。また、本発明の印刷物1では、単色画像6を形成する色材は、「A」の形状が目立たぬよう黄の色材としている。
【0019】
一般のカラー印刷に用いられる黄の色相を呈する色材は、400〜500nm付近に吸収を持つが、この帯域は光の原色の「青」に当たり、人間の目の視感度が他の原色に比し低いため、白地に置いた黄は視覚での判別が難しいという特性を持つ。単色画像6に黄の色材を用いるのはこの特性を利用したものである。
【0020】
これを、図3を用いて説明すると、一般の黄の色材は図3(A)の黄の色材の反射特性31に示すような分光反射特性を持ち、400〜500nmの反射率が他の波長帯における反射率に比べ低いという特性を示す。この特性は、理想的な黄の反射特性32を見るとより明確になる。
一方、人間の目の視感度は、図3(B)の比視感度曲線33に示すように、光の波長に対し、550nm付近にピークがあり前後は減衰する特性を持ち、前記の400〜500nmの範囲では相対的な感度が低くなるため、この帯域の色に対する識別能力が劣るということになる。
【0021】
さらに、印刷物1では、不規則パターンで構成されるシェア画像A(符号11)が重畳しており、シェア画像A(符号11)に黄以外の色材を用いることにより目隠し効果が発揮され、「A」の形状は通常の観察条件では不可視の状態となる。なお、図1の印刷物1では、説明の便のため、「A」の形状が視認できるよう表現している。
【0022】
<秘密画像の復元について>
まず、図1を参照しながら元画像α(符号5)の再現について説明する。
通常の観察条件における印刷物1は、単色画像6はシェア画像A(符号11)が重畳されていることもあり、「A」の形状は判読できないが、紫外光16を照射すると、蛍光画像8に示すように、黄の色材に隠蔽された部分は発光がなく、用紙が露出した部分が発光するため「A」の形状が明確に視認できる。
【0023】
また、元画像β(符号14)を復元するには、シェア画像Aとシェア画像Bを重ね合わせればよく、例えば、シート状透明フィルムに印刷等によりシェア画像B(符号12)を形成した復元用媒体を、シェア画像A(符号11)が印刷された印刷物1の上に、所定の位置で重ねれば、復元画像15に示すような「T」の形状が現われる。
【0024】
なお、単色画像6を黄の色材で形成し、さらにシェア画像A(符号11)による目隠し効果があるにしても、「A」の形状の部分(これを画線部と呼ぶ)と背景部との間では濃度の差が小さいほど好ましい。そこで、本願発明者は、通常の観察条件で不可視となり、かつ、紫外光の下で蛍光画像8が明瞭に観察できる条件を求めたところ、単色画像6の背景部を黄の色材で形成し、画線部を同じ黄の色材を用いた網点で形成し、網点が面積比で20〜40%において良好な結果を得た。
【0025】
以上説明したように、本発明の印刷物は、2種類の隠し画像を併せ持つことにより、高度な偽造防止性を発揮するとともに、簡便な手段により目視で真偽の判別が可能となる。
【0026】
印刷物1の作成には、一般のカラー印刷に用いるプロセスインキと呼ばれる印刷インキによる印刷方式を用いてもよいが、特殊な色材の導入が困難な電子写真方式やインクジェット方式なども利用できる。特に、プリンタ技術を基にする電子写真方式やインクジェット方式は、元画像α(符号5)および元画像β(符号14)を可変情報とした印刷物1を作成することが容易であるため、蛍光画像8および復元画像15を様々に変化させることも可能となる。
【0027】
なお、本発明の印刷物に用いる用紙には蛍光材が含まれるが、必ずしも特殊な用紙である必要はなく、一般に用いられる用紙には蛍光材を含有するものがあり、本発明の印刷物に適用することができる。
本願発明者の試行によれば、上質紙と呼ばれる用紙で印刷物1を作成し、ブラックライトを照射したところ、蛍光画像8が明瞭に視認できた。
【符号の説明】
【0028】
1 印刷物
5 元画像α
6 単色画像
8 蛍光画像
10 元画像
11 シェア画像A
12 シェア画像B
13 復元画像
14 元画像β
15 復元画像
16 紫外光



【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外光の照射により可視光を発する蛍光材を含有する用紙上に、
黄、赤、藍、および黒の色材を用いるカラー印刷機により画像情報が形成される印刷物であって、
前記画像情報は、前記黄の色材により形成される第1の秘密画像、
および、
前記赤、藍、および黒の色材の何れか1つにより形成される第2の秘密画像からなり、
前記第2の秘密画像は、元となる画像から視覚復号型秘密分散法により生成される少なくとも2つの暗号パターンの一つであることを特徴とする不可視情報の重畳された印刷物。
【請求項2】
前記カラー印刷機は、熱転写方式、インクジェット方式、電子写真方式に代表される何れかのカラープリンタであり、前記印刷物は、前記カラープリンタにより形成されたことを特徴とする請求項1記載の不可視情報の重畳された印刷物。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−66472(P2012−66472A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−212831(P2010−212831)
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】