説明

不焼成窯業建材の製造方法

【課題】 製造原料からVOCを効率的に除去しうる不焼成窯業建材の製造方法を提供しうる。
【解決手段】 不焼成窯業建材を製造する際に、揮発性有機化合物(VOC)を含む非アルカリ性製造原料を予め熱水処理してVOCを除去した後に、VOCを除去された該製造原料をアルカリ性製造原料と混合して不焼成窯業建材を製造することを特徴とする不焼成窯業建材の製造方法。熱水処理は50〜105℃の温度で、10分間以上行なわれるのが好ましく、さらに好ましくは蒸気吹き込みである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不焼成窯業建材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
不焼成窯業建材は、市場の要望に応えるために安価で大量に供給されうる原料を用いることが要請される。このために、天然原料、リサイクル資源、産業副産物を用いて、住環境に安全な製品を提供することが要望されている。しかしながら、天然原料は、自然環境に基づく揮発性有機化合物(VOC)の吸着、混入、さらには乾燥段階での燃料ガスによる汚染等のおそれを伴う。一方、リサイクル資源には、リサイクルする段階での処理剤、そして産業副産物には生産段階での汚染、混入のおそれを伴う。
【0003】
本発明者の知見によれば、これらの混入物を除去しないでセメント系建材等の不焼成窯業建材を製造すると、Ca、Mg等のアルカリ土類元素とケイ酸水和物は酸化触媒能を有するために、アルコールがアルデヒド、酢酸、ギ酸等の不溶性部分酸化物質を生じることがある。そして、常温での製造工程でアルカリ土類元素とアルデヒドの酸化物(ギ酸、酢酸等)が中和反応を生じ、塩が形成される。製造工程では、水を循環しながら利用するので、水に溶解、捕集できなかった微細原料に付着・吸着したVOCおよび反応生成塩は濃縮循環されることになる。そして、一旦塩が生成され、製品に混入すると、常温では少しずつ分解しアルデヒドを発生する。製品の表面は乾燥工程で加熱分解されるが、内部の塩は熱が伝わり難く密閉状態であり、飽和平衡状態が持続し分解反応が進まない。また、不飽和脂肪酸、油脂類等のVOCは、金属セッケンを形成するため、蒸気圧の低下を招き、系外に排出され難い。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記の難点を克服して製造原料からVOCを効率的に除去しうる方法を見出すために種々の検討を行ない、到達したものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の課題を解決するために以下の発明を提供する。
(1)不焼成窯業建材を製造する際に、揮発性有機化合物(VOC)を含む非アルカリ性製造原料を予め熱水処理してVOCを除去した後に、VOCを除去された該製造原料をアルカリ性製造原料と混合して不焼成窯業建材を製造することを特徴とする不焼成窯業建材の製造方法;
(2)不焼成窯業建材がセメント系もしくはケイ酸カルシウム系である(1)記載の不焼成窯業建材の製造方法;
(3)非アルカリ性製造原料がパルプ、珪藻土、ゼオライト、ハロイサイト、ワラストナイト、セピオライト、アタパルジャイト、バーミキュライト、炭酸カルシウム、タルクもしくはフラッシュアイを含む(1)もしくは(2)記載の不焼成窯業建材の製造方法;
(4)アルカリ性製造原料がセメント類および/または消石灰である(1)もしくは(2)記載の不焼成窯業建材の製造方法;
(5)熱水処理が50〜105℃の温度で行なわれる(1)〜(4)のいずれか記載の不焼成窯業建材の製造方法;
(6)熱水処理が蒸気吹き込みである(1)〜(5)のいずれか記載の不焼成窯業建材の製造方法;
(7)蒸気吹き込みが、処理槽の底面から液中に蒸気を導入してバブリングさせ、液表面に気散するVOCを系外に取り出すことにより行なわれる(6)記載の不焼成窯業建材の製造方法;
(8)蒸気が、1〜5気圧の飽和蒸気である(6)もしくは(7)記載の不焼成窯業建材の製造方法;
(9)不焼成窯業建材を製造する際に、揮発性有機化合物(VOC)を含む非アルカリ性製造原料を予め過酸化水素処理してVOCを除去した後に、VOCを除去された該製造原料をアルカリ性製造原料と混合して不焼成窯業建材を製造することを特徴とする不焼成窯業建材の製造方法;
(10)過酸化水素処理が、過酸化水素を0.1〜7wt%含有する溶液中で行なわれる(9)記載の不焼成窯業建材の製造方法;
(11)熱水処理に際して過酸化水素を0.1〜7wt%添加する(1)〜(8)のいずれか記載の不焼成窯業建材の製造方法;
(12)VOCを除去された該製造原料を冷却し、ついでアルカリ性製造原料と混合し、さらに成形し、常圧養生する(1)〜(11)のいずれか記載の不焼成窯業建材の製造方法;ならびに
(13)VOCを除去された該製造原料をアルカリ性製造原料と混合し、ついで50〜90℃に保持した後に冷却して成形し、さらにオートクレーブ養生する(1)〜(11)のいずれか記載の不焼成窯業建材の製造方法、
である。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、製造原料からVOCを効率的に除去しうる不焼成窯業建材の製造方法を提供しうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明においては、不焼成窯業建材を製造する際に、VOCを含む非アルカリ性製造原料を予め熱水処理してVOCを除去した後に、VOCを除去された該製造原料をアルカリ性製造原料と混合して不焼成窯業建材を製造する。不焼成窯業建材としては、セメント系もしくはケイ酸カルシウム系が好適に用いられる。
【0008】
VOCを含む非アルカリ性製造原料としては、珪藻土、ゼオライト、ハロイサイト、ワラストナイト、セピオライト、アタパルジャイト、未膨張バーミキュライト、炭酸カルシウム、タルクもしくはフラッシュアイ等が挙げられる。非アルカリ性製造原料にセメント類および/または消石灰に代表されるアルカリ性製造原料が含まれると、非アルカリ性製造原料中のケイ酸と上記のような反応物を形成するので、実質的にこれらのアルカリ性製造原料を含有しないのが好適であるが、後述する各種の配合材を含んでいてもよい。各種のVOCとしては特に制限されない。
【0009】
上記の熱水処理は50〜105℃の温度で、10分間以上行なわれるのが好ましく、さらに好ましくは蒸気吹き込みである。この場合、蒸気吹き込みを、処理槽の底面から液中に蒸気を導入してバブリングさせ、液表面に気散するVOCを系外に取り出すことにより特に効率的に行いうる。使用する蒸気は、1〜5気圧の飽和蒸気であるのが工業的に有利である。熱水処理は固形分濃度が5〜40wt%で行なうのが好適である。さらに、この熱水処理に際して過酸化水素を0.1〜7wt%、好ましくは1〜4wt%、添加することにより熱水処理の効果を過酸化水素の酸化力でさらに向上しうる。
【0010】
さらに、本発明方法においては、VOCを含む非アルカリ性製造原料を、熱水処理に代えて過酸化水素処理してVOCを除去した後に、VOCを除去された該製造原料をアルカリ性製造原料と混合して不焼成窯業建材を製造することこともできる。この過酸化水素処理は、好ましくは過酸化水素を0.1〜7wt%含有する溶液中で50℃未満、たとえば常温で行なわれる。
【0011】
このようにしてVOCを除去された該製造原料を冷却し、ついでアルカリ性製造原料と混合し、さらに成形し、常圧養生して不焼成窯業建材を製造する。この方法により、比較的かさ比重の大きい(たとえば1.0から2.0程度)製品を製造しうる。あるいは、もう一つの態様において、VOCを除去された該製造原料をアルカリ性製造原料と混合し、ついで50〜90℃に保持した後に冷却して成形し、さらにオートクレーブ養生することにより比較的かさ比重が小さく(たとえば0.70〜1.0程度)、強度の大きい製品を製造しうる。
【0012】
アルカリ性製造原料としてはセメント類および/または消石灰が挙げられる。セメント類としては、ポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント等のセメント類が挙げられる。これらのアルカリ製造原料に、さらに砂、砂利、等の細骨材もしくは粗骨材、および他の膨張バーミキュライト、パーライト等の軽量骨材、等の骨材を配合してもよい。また、補強用繊維を含んでいてもよく、補強用繊維としてはセメントの密着性向上のためのビニロン、靭性向上のためのレイヨン、疎水性向上のためのポリプロピレン、等の短繊維が挙げられる。これらの配合材は得られるセメント製品の目的に応じて他の混和材とともに適宜選定し得、それらの配合量は常法によることができる。
【0013】
本発明により不焼成窯業建材を製造するに際しては、上記のように、VOCを含み、非アルカリ性製造原料を予め熱水処理してVOCを除去した後に、VOCを除去された該製造原料をアルカリ性製造原料と混合することが必要であるが、成形(たとえば抄造、プレス等)、硬化、養生、乾燥自体は常法によることができ、たとえばフレキシブルボード等のVOCを効率的に除去しうる不焼成窯業建材を容易に製造することができる。
【実施例】
【0014】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらの実施例に限定されない。
実施例1
次の組成を有する非アルカリ性製造原料を配合、混練して調製した。
パルプ 70質量部;
フライアッシュ 240質量部;
セピオライト 15質量部;ならびに
加水ハロイサイト 50質量部
この組成物に固形分濃度30wt%となるように水を混合し、約3気圧の飽和蒸蒸気吹き込みを、処理槽の底面から液中に蒸気を導入してバブリングさせて行い、液表面に気散するVOCを系外に除去した。ついで、ポルトランドセメント650質量部、パーライト100質量部、ビニロン10質量部および膨張バーミキュライト70質量部を配合して、約70℃で15分間保持した後に、約35℃に加水(固形分濃度約5wt%)冷却し、抄造成形によりボード(900×1820×9.6mm)とした。ついで、オートクレーブ養生した(180℃、6時間)。得られたボードは、かさ比重 0.89、曲げ強度 130kgであり、VOCを実質的に含有していなかった。
比較例1
実施例1において、蒸気吹き込みを行なわないで、全成分を配合してオートクレーブ養生した。得られたボードは、かさ比重1.17、曲げ強度160kgであり、VOCが検出された。
【産業上の利用可能性】
【0015】
本発明によれば、製造原料からVOCを効率的に除去しうる不焼成窯業建材の製造方法を提供しうる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不焼成窯業建材を製造する際に、揮発性有機化合物(VOC)を含む非アルカリ性製造原料を予め熱水処理してVOCを除去した後に、VOCを除去された該製造原料をアルカリ性製造原料と混合して不焼成窯業建材を製造することを特徴とする不焼成窯業建材の製造方法。
【請求項2】
不焼成窯業建材がセメント系もしくはケイ酸カルシウム系である請求項1記載の不焼成窯業建材の製造方法。
【請求項3】
非アルカリ性製造原料がパルプ、珪藻土、ゼオライト、ハロイサイト、ワラストナイト、セピオライト、アタパルジャイト、バーミキュライト、炭酸カルシウム、タルクもしくはフラッシュアイを含む請求項1もしくは2記載の不焼成窯業建材の製造方法。
【請求項4】
アルカリ性製造原料がセメント類および/または消石灰である請求項1もしくは2記載の不焼成窯業建材の製造方法。
【請求項5】
熱水処理が50〜105℃の温度で行なわれる請求項1〜4のいずれか記載の不焼成窯業建材の製造方法。
【請求項6】
熱水処理が蒸気吹き込みである請求項1〜5のいずれか記載の不焼成窯業建材の製造方法。
【請求項7】
蒸気吹き込みが、処理槽の底面から液中に蒸気を導入してバブリングさせ、液表面に気散するVOCを系外に取り出すことにより行なわれる請求項6記載の不焼成窯業建材の製造方法。
【請求項8】
蒸気が、1〜5気圧の飽和蒸気である請求項6もしくは7記載の不焼成窯業建材の製造方法。
【請求項9】
不焼成窯業建材を製造する際に、揮発性有機化合物(VOC)を含む非アルカリ性製造原料を予め過酸化水素処理してVOCを除去した後に、VOCを除去された該製造原料をアルカリ性製造原料と混合して不焼成窯業建材を製造することを特徴とする不焼成窯業建材の製造方法。
【請求項10】
過酸化水素処理が、過酸化水素を0.1〜7wt%含有する溶液中で行なわれる請求項9記載の不焼成窯業建材の製造方法。
【請求項11】
熱水処理に際して過酸化水素を0.1〜7wt%添加する請求項1〜8のいずれか記載の不焼成窯業建材の製造方法。
【請求項12】
VOCを除去された該製造原料を冷却し、ついでアルカリ性製造原料と混合し、さらに成形し、常圧養生する請求項1〜11のいずれか記載の不焼成窯業建材の製造方法。
【請求項13】
VOCを除去された該製造原料をアルカリ性製造原料と混合し、ついで50〜90℃に保持した後に冷却して成形し、さらにオートクレーブ養生する請求項1〜11のいずれか記載の不焼成窯業建材の製造方法。

【公開番号】特開2006−188399(P2006−188399A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−2354(P2005−2354)
【出願日】平成17年1月7日(2005.1.7)
【出願人】(500520031)三菱商事建材株式会社 (12)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】