説明

不織布

【課題】液を保持しづらいとともに液流れが起こりづらく、かつ熱風の吹き付けによる嵩の回復性が高い不織布を提供すること。
【解決手段】不織布10は、加熱によってその長さが伸びる熱伸長性繊維と、融点の異なる2成分を含みかつ延伸処理されてなり加熱によってその長さが実質的に伸びない非熱伸長性の熱融着性複合繊維とを含む。該熱融着性複合繊維は親水化剤が付着したものであり、水との接触角が50〜75°である。熱伸長性繊維と熱融着性複合繊維との混合比率(前者/後者)は、重量比で20/80〜80/20であることが好ましい。熱伸長性繊維どうしの交点、熱融着性複合繊維どうしの交点、及び熱伸長性繊維と熱融着性複合繊維との交点がそれぞれエアスルー方式で熱融着していることも好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱によってその長さが伸びる熱伸長性繊維を含む不織布の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
加熱によってその長さが伸びる繊維である熱伸長性繊維を原料とする不織布に関し、本出願人は先に、構成繊維が圧着又は接着されている多数の圧接着部を有するとともに、圧接着部以外の部分において構成繊維どうしの交点が圧接着以外の手段によって接合しており、圧接着部が凹部となっているとともに該凹部間が凸部となっている凹凸形状を少なくとも一方の面に有する立体賦形不織布を提案した(特許文献1参照)。この不織布は、熱伸長性繊維を原料とすることで、特殊な製造方法を用いなくても、三次元的な凹凸形状を有し、また柔軟であり、低坪量でもあるという利点を有する。
【0003】
熱伸長性繊維を原料とする不織布について本発明者らが更に検討を重ねたところ、熱伸長性繊維は曲げ弾性率が、通常の熱融着性繊維のそれよりも低く、そのことによって、不織布をその厚み方向に荷重を加えると嵩が減じてしまい、繊維間距離が短くなる傾向にあることが判明した。そのような嵩が減じた不織布を例えば吸収性物品の表面シートとして用いると、繊維間距離が短いことに起因して液の透過性が損なわれ、排泄された液が不織布中に残り、不織布と当接している肌に液が触れやすくなることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−350836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、前述した従来技術が有する欠点を解消し得るべく、不織布の厚み方向に加わった荷重によって厚みが減少した場合の嵩回復性が優れた不織布を提供することである。また本発明の課題は、例えば吸収性物品の表面シートとして用いた場合に、液が速やかに吸収体に移行し、肌に液を残しにくい不織布を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、加熱によってその長さが伸びる熱伸長性繊維と、融点の異なる2成分を含みかつ延伸処理されてなり加熱によってその長さが実質的に伸びない非熱伸長性の熱融着性複合繊維とを含み、該熱融着性複合繊維は親水化剤が付着したものであり、水との接触角が50〜75°である不織布を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、不織布の親水性を制御することにより、不織布の液残りを低減化することができる。更に、例えば吸収性物品の表面シートとして用いた場合に、一度吸収された体液が着用者の肌と当接している表面側へ逆流することや、不織布表面上を体液が流れ落ちることを防止することができる。よって、本発明の不織布は、例えば吸収性物品の表面シートとして用いた場合に、該表面シートとして要求される液残り量低減や液流れ量低減といった吸収性能を満足するものとなる。また本発明の不織布は、熱風の吹き付けによる嵩の回復性が高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1(a)は、本発明に係る不織布の一実施形態を示す斜視図であり、図1(b)は、図1(a)に示す不織布の縦断面の要部拡大図である。
【図2】図2は、図1に示す不織布の製造に好適に用いられる装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。図1(a)には、本発明の不織布の一実施形態の斜視図が示されている。また図1(b)には、図1(a)に示す不織布の縦断面の要部拡大図が示されている。本実施形態の不織布10は、単層構造をしている。不織布10はその一面(図1(a)における裏面10a)がほぼ平坦となっており、他面(図1(a)における表面10b)が多数の凸部19及び凹部18を有する凹凸形状となっている。つまり立体賦形されたものである。凹部18は、不織布10の構成繊維が圧密化され接合されて形成された接合部を含んでいる。接合部の形成手段としては、熱を伴うか又は伴わないエンボス加工、超音波エンボス加工などが挙げられる。一方、凸部19は非接合部となっている。凹部18の厚みは凸部19の厚みよりも小さくなっている。凸部19は、不織布10の表面側(図1(b)における上面側)に向けて隆起した形状になっている。凸部19内は、不織布10の構成繊維で満たされている。凸部19においては、不織布10の構成繊維が、それらの交点において融着している。
【0010】
凹部18は、互いに平行に一方向へ延びる第1の線状部18aを有している。また凹部18は、第1の線状部と交差するように、互いに平行に一方向へ延びる第2の線状部18bを有している。両線状部18a,18bが交差することで、閉じた形状の菱形部が形成される。この菱形部が凸部19となっている。つまり凸部19は、連続的に閉じた形状の凹部18によって取り囲まれて形成されている。
【0011】
不織布10における凹部18と凸部19との面積比は、エンボス化率(エンボス面積率、すなわち不織布10全体に対する凹部の面積の合計の比率)で表され、不織布10の嵩高感や強度に影響を与える。これらの観点から、不織布10におけるエンボス化率は、5〜35%、特に10〜25%であることが好ましい。エンボス化率は、以下の方法によって測定される。まずマイクロスコープ(株式会社キーエンス製、VHX−900)を用いて不織布10の表面拡大写真を得、この表面拡大写真にスケールを合わせ、測定部の全体面積Qにおける、エンボス部分の寸法を測定し、エンボス部面積Pを算出する。
エンボス化率は、計算式(P/Q)×100、によって算出することができる。
【0012】
本実施形態の不織布10は、その構成繊維として、(イ)加熱によってその長さが伸びる繊維である熱伸長性繊維と、(ロ)融点の異なる2成分を含みかつ延伸処理されてなり加熱によってその長さが実質的に伸びない非熱伸長性の芯鞘型熱融着性複合繊維との少なくとも2種類を含むことによって特徴付けられる。熱伸長性繊維としては、例えば加熱により樹脂の結晶状態が変化して自発的に伸びる繊維が挙げられる。本実施形態の不織布10において特に好ましく用いられる熱伸長性繊維は、高融点樹脂からなる第1樹脂成分と、該第1樹脂成分の融点より低い融点又は軟化点を有する低融点樹脂からなる第2樹脂成分とを含み、第2樹脂成分が繊維表面の少なくとも一部を長さ方向に連続して存在している複合繊維(以下、この繊維を「熱伸長性複合繊維」という)である。熱伸長性複合繊維における第1樹脂成分は該繊維の熱伸長性を発現する成分であり、第2樹脂成分は熱融着性を発現する成分である。熱伸長性繊維は、第1樹脂成分の融点温度まで加熱することによって伸長する。一般に、熱伸長性複合繊維を用いた不織布の製造においては、第2樹脂成分の融点以上で、かつ第1樹脂成分の融点以下の温度で熱処理を行うことよって、伸長した状態の該熱伸長性繊維が含まれた不織布が得られる。また、この不織布を、前記の熱処理の温度以上で、かつ第1樹脂成分の融点以下の温度で加熱すると、該熱伸長性複合繊維は更に伸長することになる。すなわち、熱伸長性複合繊維は、不織布10中において、加熱によって伸長可能な状態で存在しており、この繊維は、加熱によってその長さがある程度伸長した状態の繊維となっていてもよい。
【0013】
先に述べた特許文献1に記載の不織布は、前記の(イ)の繊維を原料としたものである。本発明者らは、前記(イ)の繊維に親水化剤を付着させて不織布を作製し、この不織布を構成する繊維(加熱によって伸長した熱伸長性繊維)の親水性・疎水性の程度を、該不織布の凸部の頂部から裏面において調べたところ、意外にも、次のことが判明した。すなわち、図1(b)に示す凸部の頂部P1、中腹部P2、凹部近傍部P3及び裏面10aにおける凸部対応部位Bに位置する熱伸長性繊維の親水性・疎水性の程度を、水との接触角で評価したところ、その値はP1からP3に向けて漸次小さくなり、更にP3からBに向けて漸次小さくなることが判明した。一方、親水化剤を付着させた前記の(ロ)の繊維のみを原料として同様の不織布を製造すると、不織布の凸部の頂部から裏面において接触角はほとんど変わらないことが判明した。水との接触角はその値が小さいほど親水性が高いことを意味する。したがって、(イ)の熱伸長性繊維を用い、親水化剤を付着させた場合には、凸部における頂部から裾野へ向けて親水性が漸次高くなり、親水化剤を付着させた(ロ)の繊維を用いた場合には、凸部の頂部から裏面において親水性はほとんど変わらない。そして、吸収性能が良好でかつ不織布の嵩回復性に優れる不織布を得るためには、(イ)及び(ロ)の繊維を組み合わせて用い、かつ熱融着性複合繊維の親水性をコントロールすることが有効であることが本発明者らの更なる検討の結果判明した。
【0014】
具体的には、本実施形態の不織布10に含まれる熱融着性複合繊維は、水との接触角が50〜75°、好ましくは55〜75°、更に好ましくは65〜75°となるように該熱融着性複合繊維の親水性・疎水性をコントロールすることが有効である。水との接触角が50°に満たない繊維である場合、すなわち親水性が高すぎる繊維である場合には、例えば吸収性物品の表面シートとして用いた場合に、不織布表面上を体液が流れ落ちることを防止することはできるものの、所望の液透過性が得られないか又は一度吸収された体液が表面側へ逆流し、体液が不織布に残り易くなってしまう。逆に、水との接触角が75°を超える繊維である場合、すなわち疎水性が高すぎる繊維である場合には、液透過性が良好かつ一度吸収された体液が表面側へ逆流することを防止することはできるが、不織布表面上を体液が流れ落ち易くなってしまう。
【0015】
熱融着性複合繊維に対する水の接触角は次の方法で測定される。測定装置として、協和界面科学株式会社製の自動接触角計MCA−Jを用いる。接触角測定には蒸留水を用いる。インクジェット方式水滴吐出部(クラスターテクノロジー社製、吐出部孔径が25μmのパルスインジェクターCTC−25)から吐出される液量を20ピコリットルに設定して、水滴を、繊維の真上に滴下する。滴下の様子を水平に設置されたカメラに接続された高速度録画装置に録画する。録画装置は後に画像解析や画像解析をする観点から、高速度キャプチャー装置が組み込まれたパーソナルコンピュータが望ましい。本測定では、17msec毎に、画像が録画される。録画された映像において、繊維に水滴が着滴した最初の画像を、付属ソフトFAMAS(ソフトのバージョンは2.6.2、解析手法は液滴法、解析方法はθ/2法、画像処理アルゴリズムは無反射、画像処理イメージモードはフレーム、スレッシホールドレベルは200、曲率補正はしない、とする)にて画像解析を行い、水滴の空気に触れる面と繊維のなす角を算出し、接触角とする。なお、測定用サンプル(不織布から取り出して得られる繊維)は、図1(b)に示す凸部の頂部P1、中腹部P2、凹部近傍部P3及び裏面10aにおける凸部対応部位Bに位置する繊維を、最表層から繊維長1mmで裁断し、該繊維を接触角計のサンプル台に載せて、水平に維持し、該繊維1本につき異なる2箇所の位置で接触角を測定する。上述の各部位において、N=5本の接触角を小数点以下1桁まで計測し、合計10箇所の測定値を平均した値(小数点以下第2桁で四捨五入)を各々の部位での接触角と定義する。
【0016】
熱融着性複合繊維に対する水の接触角をコントロールするためには、該繊維に親水化剤を付着させればよい。親水化剤の付着は、繊維の表面に親水化剤を施す方法や、繊維を構成する樹脂に親水化剤を予め練り込んでおき、その樹脂を用いて紡糸を行う方法で達成される。親水化剤としては、当該技術分野において用いられているものと同様のものを用いることができる。そのような親水化剤としては、各種の界面活性剤が典型的なものとして挙げられる。熱融着性複合繊維に対する親水化剤の付着量は、疎水化しない部分の親水度を高める観点から、熱融着性複合繊維の重量に対して0.1〜0.6重量%であることが好ましく、より好ましくは0.2〜0.5重量%である。
【0017】
界面活性剤としては、陰イオン、陽イオン、両性イオン及び非イオンの界面活性剤等を用いることができる。陰イオン界面活性剤の例としては、アルキルホスフェート塩、アルキルエーテルホスフェート塩、ジアルキルホスフェート塩、ジアルキルスルホサクシネート塩、アルキルベンゼンスルホネート塩、アルキルスルホネート塩、アルキルサルフェート塩、セカンダリーアルキルサルフェート塩等が挙げられる(前記いずれのアルキルも炭素数6〜22、特に8〜22が好ましい。)。アルカリ金属塩としてはナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられる。陽イオン界面活性剤の例としては、アルキル(又はアルケニル)トリメチルアンモニウムハライド、ジアルキル(又はアルケニル)ジメチルアンモニウムハライド、アルキル(又はアルケニル)ピリジニウムハライド等が挙げられ、これらの化合物は、炭素数6〜18のアルキル基又はアルケニル基を有するものが好ましい。前記のハライド化合物におけるハロゲンとしては、塩素、臭素等が挙げられる。両性イオン界面活性剤の例としては、アルキル(炭素数1〜30)ジメチルベタイン、アルキル(炭素数1〜30)アミドアルキル(炭素数1〜4)ジメチルベタイン、アルキル(炭素数1〜30)ジヒドロキシアルキル(炭素数1〜30)ベタイン、スルフォベタイン型両性界面活性剤等のベタイン型両性イオン界面活性剤や、アラニン型[アルキル(炭素数1〜30)アミノプロピオン酸型、アルキル(炭素数1〜30)イミノジプロピオン酸型等]両性イオン界面活性剤、グリシン型[アルキル(炭素数1〜30)アミノ酢酸型等]両性イオン界面活性剤などのアミノ酸型両性イオン界面活性剤、アルキル(炭素数1〜30)タウリン型などのアミノスルホン酸型両性イオン界面活性剤が挙げられる。非イオン界面活性剤の例としては、グリセリン脂肪酸エステル、ポリ(好ましくはn=2〜10)グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等の多価アルコール脂肪酸エステル(いずれも好ましくは脂肪酸の炭素数8〜22)、及び前記多価アルコール脂肪酸エステルのアルキレンオキシド付加物(好ましくは付加モル数2〜20モル)、ポリオキシアルキレン(付加モル数2〜22モル)アルキル(炭素数8〜22)アミド、ポリオキシエチレンアルキル(炭素数8〜22)エーテル、ポリオキシアルキレン変性シリコーン、アミノ変性シリコーン等が挙げられる。特に、所望の親水性を得るための界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルアミド、ステアリルリン酸エステルカリウム塩、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリグリセリンモノアルキレート等が挙げられる。また、これらの好ましい組み合わせとしては、ポリオキシエチレンアルキルアミド及びステアリルリン酸エステルカリウム塩;グリセリン脂肪酸エステル及びポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンアルキルアミド及びアルキルベタイン等が挙げられる。これら好ましい界面活性剤及び好ましい界面活性剤の組み合わせは、これらの界面活性剤が含まれていればよく、更に他の界面活性剤等が含まれていてもよい。
【0018】
不織布10において、熱伸長性繊維と熱融着性複合繊維との混合比率(前者/後者)は、不織布10全体の親水性・疎水性に影響を与えるファクターの一つである。また不織布10に熱風を吹き付けたときの嵩の回復性しやすさのファクターの一つでもある。これらの観点から、不織布10中に含まれる熱伸長性繊維と熱融着性複合繊維との混合比率(前者/後者)を、重量比で20/80〜80/20、特に30/70〜70/30、とりわけ40/60〜60/40に設定することが好ましい。
【0019】
本実施形態の不織布10においては、上述した熱融着性複合繊維だけでなく、熱伸長性繊維に対する水の接触角もコントロールすることが、不織布10が一層液残りしづらくなる観点から好ましい。この観点から、不織布10に含まれる熱伸長性繊維に対する水の接触角が40〜90°、特に60〜75°、とりわけ65〜75°となるように該熱伸長性繊維の親水性・疎水性をコントロールすることが好ましい。接触角の測定方法は上述のとおりである。所望の親水性を得るために、熱伸長性繊維に界面活性剤等からなる親水化剤を付着させることができる。熱伸長性繊維に対する親水化剤の付着量は、疎水化しない部分の親水度を高める観点から、熱伸長性繊維の重量に対して0.1〜0.6重量%であることが好ましく、より好ましくは0.2〜0.5重量%である。
【0020】
界面活性剤としては、陰イオン、陽イオン、両性イオン及び非イオンの界面活性剤等を用いることができる。界面活性剤の例としては、熱融着性複合繊維に用いられる界面活性剤として前述したものが同様に用いられる。特に、2種類の界面活性剤の組み合わせを用いることが、所望の親水性を容易に得ることができる点から好ましい。界面活性剤の好ましい組み合わせとしては、ポリオキシエチレンアルキルアミド及びステアリルリン酸エステルカリウム塩;ポリオキシエチレンアルキルアミド及びアルキルベタイン;ポリオキシエチレンアルキルアミド及びポリグリセリンモノアルキレート;アルキルスルホネートナトリウム塩及びステアリルリン酸エステルカリウム塩;アルキルホスフェートカリウム塩及びアルキルスルホネートナトリウム塩;ポリオキシエチレンアルキルアミン及びポリグリセリンモノアルキレート;アルキルエーテルホスフェートカリウム塩及びポリグリセリン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンアルキルアミド及びジアルキルスルホサクシネートナトリウム塩;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン変性シリコーン及びジアルキルスルホサクシネート;ポリグリセリン脂肪酸エステル及びジアルキルスルホサクシネートナトリウム塩;ソルビタン脂肪酸エステル及びジアルキルスルホサクシネートナトリウム塩;ポリオキシエチレンアルキルアミド及びポリグリセリン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンアルキルアミド及びソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンアルキルアミン及びソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン変性シリコーン及びポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン変性シリコーン及びポリグリセリン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン変性シリコーン及びソルビタン脂肪酸エステル;ソルビタン脂肪酸エステル及びポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリグリセリン脂肪酸エステル及びソルビタン脂肪酸エステル;ポリグリセリン脂肪酸エステル及びポリオキシエチレンアルキルエーテル等が挙げられる。これら好ましい界面活性剤及び好ましい界面活性剤の組み合わせは、これらの界面活性剤が含まれていればよく、更に他の界面活性剤等が含まれていてもよい。
【0021】
特に、熱伸長性繊維に関しては、接触角が上述の範囲であることを条件として、凸部19において、その頂部P1から不織布10の裏面10a側に向けて、つまり図1(b)においてP1からP3に向けて、かつP3からBに向けて、該熱伸長性繊維の水との接触角が漸次小さくなっていることが好ましい。これによって、不織布10が一層液残りしづらいものとなる。このような接触角の勾配は、不織布10の製造方法として、後述する方法を採用することで達成される。
【0022】
一方、熱融着性複合繊維に関しては、熱融着性複合繊維と水との接触角が50〜75°の範囲であることを条件として、凸部19において、その頂部から不織布10の裏面10a側に向けて、つまり図1(b)においてP1からP3に向けて、かつP3からBに向けて、該熱融着性複合繊維の接触角が変わらないか、又は漸次大きくなっていてもよい。このことによっても、不織布10が一層液残りしづらいものとなる。このような接触角の勾配は、不織布10の製造方法として、後述する方法を採用することによって達成される。
【0023】
熱伸長性繊維及び熱融着性複合繊維の接触角に関し、これらを不織布10における同じ測定部位で比較した場合、不織布に液残りが起こりづらい効果を一層顕著なものとする観点から、両者の差が25°以内、特に20°以内、とりわけ15°以内であることが好ましい。このような差を設けるためには、例えば、使用する繊維の種類や、不織布の製造方法、親水化剤の種類及び付着量等を適切にコントロールすればよい。
【0024】
熱伸長性繊維として熱伸長性複合繊維を用いる場合、該熱伸長性複合繊維における第1樹脂成分の配向指数は、用いる樹脂により自ずと異なるが、例えばポリプロピレン樹脂の場合は、配向指数が60%以下、特に40%以下、とりわけ25%以下であることが好ましい。また、第1樹脂成分がポリエステルの場合は、配向指数が25%以下、特に20%以下、とりわけ10%以下であることが好ましい。一方、第2樹脂成分はその配向指数が好ましくは5%以上、特に15%以上、とりわけ30%以上であることが好ましい。配向指数は、繊維を構成する樹脂の高分子鎖の配向の程度の指標となるものである。そして、第1樹脂成分及び第2樹脂成分の配向指数がそれぞれ前記の値であることによって、熱伸長性複合繊維は、加熱によって伸長するようになる。
【0025】
第1樹脂成分及び第2樹脂成分の配向指数は、熱伸長性複合繊維における樹脂の複屈折の値をAとし、樹脂の固有複屈折の値をBとしたとき、以下の式(1)で表される。
配向指数(%)=A/B×100 (1)
【0026】
固有複屈折とは、樹脂の高分子鎖が完全に配向した状態での複屈折をいい、その値は例えば「成形加工におけるプラスチック材料」初版、付表 成形加工に用いられる代表的なプラスチック材料(プラスチック成形加工学会編、シグマ出版、1998年2月10日発行)に記載されている。
【0027】
熱伸長性複合繊維における複屈折は、干渉顕微鏡に偏光板を装着し、繊維軸に対して平行方向及び垂直方向の偏光下で測定する。浸漬液としてはCargille社製の標準屈折液を使用する。浸漬液の屈折率はアッベ屈折計によって測定する。干渉顕微鏡により得られる複合繊維の干渉縞像から、以下の文献に記載の算出方法で繊維軸に対し平行及び垂直方向の屈折率を求め、両者の差である複屈折を算出する。
「芯鞘型複合繊維の高速紡糸における繊維構造形成」第408頁(繊維学会誌、Vol.51、No.9、1995年)
【0028】
熱伸長性複合繊維は、第1樹脂成分の融点よりも低い温度において熱によって伸長可能になっている。そして熱伸長性複合繊維は、第2樹脂成分の融点より10℃高い温度、融点をもたない樹脂の場合は軟化点よりも10℃高い温度での熱伸長率が0.5〜20%、特に3〜20%、とりわけ5〜20%であることが好ましい。このような熱伸長率の繊維を含む不織布10は、該繊維の伸長によって嵩高くなり、あるいは立体的な外観を呈する。例えば不織布10の表面の凹凸形状が顕著なものになる。
【0029】
第1樹脂成分及び第2樹脂成分の融点は、示差走査型熱量計(セイコーインスツルメンツ株式会社製DSC6200)を用いて測定する。細かく裁断した繊維試料(サンプル重量2mg)の熱分析を昇温速度10℃/minで行い、各樹脂の融解ピーク温度を測定する。融点は、その融解ピーク温度で定義される。第2樹脂成分の融点がこの方法で明確に測定できない場合、この樹脂を「融点を持たない樹脂」と定義する。この場合、第2樹脂成分の分子の流動が始まる温度として、繊維の融着点強度が計測できる程度に第2樹脂成分が融着する温度を軟化点とする。
【0030】
〔繊維の熱伸長率〕
繊維の熱伸長率は次の方法で測定される。セイコーインスツルメンツ(株)製の熱機械的分析装置TMA/SS6000を用いる。試料としては、繊維長さが10mm以上の繊維を、繊維長さ10mm当たりの合計重量が0.5mgとなるように複数本採取したものを用意し、その複数本の繊維を平行に並べた後、チャック間距離10mmで装置に装着する。測定開始温度を25℃とし、0.73mN/dtexの一定荷重を負荷した状態で5℃/minの昇温速度で昇温させる。その際の繊維の伸び量を測定し、第2樹脂成分の融点より10℃高い温度、融点をもたない樹脂の場合は軟化点より10℃高い温度での伸び量Xmmを読み取る。
繊維の熱伸長率は、(X/10)×100[%]から算出する。
熱伸長率を前記の温度で測定する理由は、後述するように、繊維の交点を熱融着させて不織布10を製造する場合には、第2樹脂成分の融点又は軟化点以上で、かつそれらより10℃程度高い温度までの範囲で製造するのが通常だからである。
【0031】
不織布から繊維を取り出して繊維の熱伸長性を判断する場合は、以下の方法を用いる。まず、不織布の図1(b)に示す各部位に位置する繊維をそれぞれ5本採取する。採取する繊維の長さは1mm以上5mm以下とする。採取した繊維をプレパラートに挟み、挟んだ繊維の全長を測定する。測定には、KEYENCE製のマイクロスコープVHX−900、レンズVH−Z20Rを用いた。測定は50〜100倍の倍率で前記繊維を観察し、その観察像に対して装置に組み込まれた計測ツールを用いて行った。前記、測定で得られた長さを「不織布から採取した繊維の全長」Yとする。全長を測定した繊維を、エスアイアイナノテクノロジー株式会社製のDSC6200用の試料容器(品名:ロボット用容器52−023P、15μL、アルミ製)に入れる。前記繊維の入った容器を、予め第1樹脂成分の融点より10℃低い温度にセットされたDSC6200の加熱炉中の試料置き場に置く。DSC6200の試料置き場直下に設置された熱電対で測定された温度(計測ソフトウェア中の表示名:試料温度)が第1樹脂成分の融点より10℃低い温度±1℃の範囲になってから、60sec間加熱し、その後素早く取り出す。加熱処理後の繊維をDSCの試料容器から取り出しプレパラートに挟み、挟んだ繊維の全長を測定する。測定には、KEYENCE製のマイクロスコープVHX−900、レンズVH−Z20Rを用いた。測定は50〜100倍の倍率で前記繊維を観察し、その観察像に対して装置に組み込まれた計測ツールを用いて行った。前記、測定で得られた長さを「加熱処理後の繊維の全長」Zとする。熱伸長率(%)は以下の式から算出する。
熱伸長率(%)=(Z−Y)÷Y×100 [%]
これを不織布から取り出した繊維の熱伸長率と定義する。この熱伸長率が0より大きい場合、繊維が熱伸長性繊維であると判断できる。
【0032】
熱伸長性複合繊維における各樹脂成分が前記のような配向指数を達成するためには、例えば融点の異なる第1樹脂成分及び第2樹脂成分を用い、引き取り速度2000m/分未満の低速で溶融紡糸して複合繊維を得た後に、該複合繊維に対して加熱処理及び/又は捲縮処理を行えばよい。これに加えて、延伸処理を行わないようにすればよい。
【0033】
捲縮処理としては、機械捲縮を行うことが簡便である。機械捲縮には二次元状及び三次元状の態様がある。また、偏芯タイプの芯鞘型複合繊維やサイド・バイ・サイド型複合繊維に見られる三次元の顕在捲縮などがある。本発明においてはいずれの態様の捲縮を行ってもよい。捲縮処理には加熱を伴う場合がある。また、捲縮処理後に加熱処理を行ってもよい。更に、捲縮処理後の加熱処理に加え、捲縮処理前に別途加熱処理を行ってもよい。あるいは、捲縮処理を行わずに別途加熱処理を行ってもよい。
【0034】
捲縮処理に際しては繊維が多少引き伸ばされる場合があるが、そのような引き延ばしは本発明にいう延伸処理には含まれない。本発明にいう延伸処理とは、未延伸糸に対して通常行われる延伸倍率2〜6倍程度の延伸操作をいう。
【0035】
前記の加熱処理の条件は、複合繊維を構成する第1及び第2樹脂成分の種類に応じて適切な条件が選択される。加熱温度は、第2樹脂成分の融点より低い温度である。例えば熱伸長性複合繊維が芯鞘型であり、芯成分がポリプロピレン又はポリエステルで鞘成分が高密度ポリエチレンである場合、加熱温度は50〜120℃、特に70〜115℃であることが好ましく、加熱時間は10〜1800秒、特に20〜1200秒であることが好ましい。加熱方法としては、熱風の吹き付け、赤外線の照射などが挙げられる。この加熱処理は前述のとおり、捲縮処理の後に行うことができる。
【0036】
第1樹脂成分及び第2樹脂成分の種類に特に制限はなく、繊維形成能のある樹脂であればよい。特に、両樹脂成分の融点差、又は第1樹脂成分の融点と第2樹脂成分の軟化点との差が20℃以上、特に25℃以上であることが、熱融着による不織布10の製造を容易に行い得る点から好ましい。熱伸長性複合繊維が芯鞘型である場合には、鞘成分の融点又は軟化点よりも芯成分の融点の方が高い樹脂を用いる。特にポリプロピレン(PP)又はポリエチレンテレフタレート(PET)を芯とし、これらよりも融点の低い樹脂を鞘とする芯鞘型の熱伸長性複合繊維を用いることが好ましい。第1樹脂成分と第2樹脂成分との好ましい組み合わせとしては、第1樹脂成分をPPとした場合の第2樹脂成分としては、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)などのポリエチレン、エチレンプロピレン共重合体、ポリスチレンなどが挙げられる。また、第1樹脂成分としてPET、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などのポリエステル系樹脂を用いた場合は、第2樹脂成分として、前述した第2樹脂成分の例に加え、PP、共重合ポリエステルなどが挙げられる。更に、第1樹脂成分としては、ポリアミド系重合体や前述した第1樹脂成分の2種以上の共重合体も挙げられ、また第2樹脂成分としては前述した第2樹脂成分の2種以上の共重合体なども挙げられる。これらは適宜組み合わされる。
【0037】
熱伸長性複合繊維における第1樹脂成分と第2樹脂成分との比率(重量比)は10:90〜90:10%、特に20:80〜80:20%、とりわけ50:50〜70:30%であることが好ましい。この範囲内であれば繊維の力学特性が十分となり、実用に耐え得る繊維となる。また融着成分の量が十分となり、繊維どうしの融着が十分となる。また、伸長性を損なうことなく、カード機により製造される不織布の原料として用いた場合のカード通過性を良好にする観点から、芯となる第1樹脂成分の比率が大きい方が好ましい。
【0038】
熱伸長性複合繊維の繊維長は、不織布10の製造方法に応じて適切な長さのものが用いられる。不織布10を例えば後述するようにカード法で製造する場合には、繊維長を30〜70mm程度とすることが好ましい。次に述べる熱融着性複合繊維の繊維長についても同様である。
【0039】
熱伸長性複合繊維の繊維径は、不織布10の具体的な用途に応じ適切に選択される。不織布10を吸収性物品の表面シート等の吸収性物品の構成部材として用いる場合には、10〜35μm、特に15〜30μmのものを用いることが好ましい。次に述べる熱融着性複合繊維の繊維径についても同様である。なお熱伸長性複合繊維は、伸長によってその繊維径が小さくなるところ、前記の繊維径とは、不織布10を実際に使用するときの繊維径のことである。したがって、不織布10を使用する前に、これに熱風を吹き付けて熱伸長性複合繊維を伸長させ嵩を回復する工程を行う場合には、前記の繊維径とは、嵩回復工程を行った後の繊維径のことである。
【0040】
熱伸長性繊維としては、上述の熱伸長性複合繊維のほかに、特許第4131852号公報、特開2005−350836号公報、特開2007−303035号公報、特開2007−204899号公報、特開2007−204901号公報及び特開2007−204902号公報等に記載の繊維を用いることもできる。
【0041】
不織布10において、熱伸長性繊維とともに原料として用いられる非熱伸長性の熱融着性複合繊維は、融点の異なる2成分とを含み、かつ延伸処理されてなるものである。この熱融着性複合繊維は、熱を付与してもその長さは実質的に伸びない。不織布10の原料として、熱伸長性繊維と熱融着性複合繊維とを併用することで、後述する実施例の結果から明らかなように、不織布10に熱風を吹き付けたときの嵩の回復性が非常に良好になる。
【0042】
不織布10においては、少なくとも凸部19において、熱伸長性繊維どうしの交点、熱融着性複合繊維どうしの交点、及び熱伸長性繊維と熱融着性複合繊維との交点がそれぞれエアスルー方式で熱融着している。これによって、不織布10に熱風を吹き付けたときの嵩の回復性が顕著になる。また、不織布10の表面における毛羽立ちが起こりにくくなる。繊維の交点が熱融着しているか否かは、不織布10を走査型電子顕微鏡観察することで判断する。
【0043】
熱融着性複合繊維は、高融点成分と低融点成分とを含み、低融点成分が繊維表面の少なくとも一部を長さ方向に連続して存在している二成分系の複合繊維である。複合繊維の形態には芯鞘型やサイド・バイ・サイド型など種々の形態があり、いずれの形態でも用いることができる。熱融着性複合繊維は原料の段階で(つまり、不織布10に用いられる前の段階で)、延伸処理が施されている。ここで言う延伸処理とは、先に述べたとおり延伸倍率2〜6倍程度の延伸操作のことである。
【0044】
熱融着性複合繊維の融着温度は、熱伸長性繊維の融着温度に近いことが好ましい。それによって、熱伸長性繊維どうし、熱融着性複合繊維どうし、及び熱伸長性繊維と熱融着性複合繊維とを首尾良く融着することができる。この観点から、熱融着性複合繊維の融着温度をT1とし、熱伸長性繊維の融着温度をT2とした場合、T1とT2の温度差が20℃以内であることが好ましい。なお、繊維の融着温度を厳密に測定することは容易でないので、融着に関与する樹脂(すなわち低融点の樹脂)の融点をもって融着温度に代えることとする。融点はの測定方法は前述のとおりである。
【0045】
熱伸長性繊維と熱融着性複合繊維との融着を首尾良く行う観点からは、熱融着性繊維における低融点成分と、熱伸長性複合繊維における第2樹脂成分とが同種の樹脂であるか、又は異種の場合には相溶性を有することが好ましい。
【0046】
不織布10は、これまでに説明してきた熱伸長性繊維及び熱融着性複合繊維に加え、以外の繊維を含んでいてもよい。そのような繊維としては、本来的に熱融着性を有さない繊維(例えばコットンやパルプ等の天然繊維、レーヨンやアセテート繊維など)等が挙げられる。これらの繊維は、不織布の重量に対して5〜30重量%以下の量で含有させることが好ましい。これらの繊維は、不織布10を例えば吸収性物品の表面シートとして用いた場合に、液の引き込み性を向上させる目的で不織布10に含有される。
【0047】
上述の繊維を原料として製造された不織布10は、これを例えば吸収性物品の表面シートとして用いる場合には、その坪量が10〜80g/m2、特に15〜60g/m2であることが好ましい。同様の用途に用いる場合、不織布10における凸部19の厚みは、熱風による嵩回復後の状態において0.5〜3mm、特に0.7〜3mmであることが好ましい。一方、凹部18の厚みは0.01〜0.4、特に0.02〜0.2mmであることが好ましい。なお凹部18の厚みは、熱風の吹き付けの前後において実質的に変化はない。凸部19及び凹部18の厚みは、不織布10の縦断面を観察することによって測定される。まず、不織布10を100mm×100mmの大きさに裁断し測定片を採取する。その測定片の上に12.5g(直径56.4mm)のプレートを載置し、49Paの荷重を加える。この状態下に不織布10の縦断面をマイクロスコープ(株式会社キーエンス製、VHX−900)で観察し、凸部19及び凹部18の厚みを測定する。なお、不織布に凸部及び凹部が形成されている場合、「不織布の厚み」とは、凸部の厚みのことをいう。
【0048】
次に、不織布10の好適な製造方法について図2を参照しながら説明する。まず、カード機11等の所定のウエブ形成手段を用いてウエブ12を作製する。ウエブ12は、伸長する前の状態の熱伸長性複合繊維及び熱融着性複合繊維を含むものである。ウエブ形成手段としては、同図に示すカード機のほか、短繊維を空気流に搬送させてネット上に堆積させる方法(エアレイ法)などの公知の方法を用いることができる。
【0049】
ウエブ12は、熱エンボス装置13に送られ、そこで熱エンボス加工が施される。熱エンボス装置13は、一対のロール14,15を備えている。ロール14は周面に菱形格子状の凸部が形成されている彫刻ロールである。一方、ロール15は周面が平滑となっている平滑ロール(アンビルロール)である。各ロール14,15は所定温度に加熱可能になっている。
【0050】
熱エンボス加工は、ウエブ12中の熱伸長性複合繊維における第2樹脂成分の融点−20℃以上で、かつ第1樹脂成分の融点未満の温度で行われる。また、熱エンボス加工は、ウエブ12中の熱融着性複合繊維における低融点成分の融点−20℃以上で、かつ高融点成分の融点未満の温度で行われる。熱伸長性複合繊維と熱融着性複合繊維の第2成分の融点が異なる場合は、融点の低い方の温度範囲とする。更に、熱エンボス加工は、熱伸長性複合繊維が熱伸長を発現する温度未満で行われる。熱エンボス加工によってウエブ12中の熱伸長性複合繊維及び熱融着性複合繊維が接合される。これによってウエブ12に多数の接合部が形成されて、ヒートボンド不織布16となる。この接合部は、目的とする不織布とする10における凹部18となる。
【0051】
ヒートボンド不織布16の接合部においては、熱伸長性複合繊維及び熱融着性複合繊維が圧密化されて接合されている。接合部以外の部位においては、熱伸長性複合繊維及び熱融着性複合繊維はいずれも非接合のフリーな状態になっている。また熱伸長性複合繊維の伸長はまだ生じていない。
【0052】
次にヒートボンド不織布16は熱風吹き付け装置17に搬送される。熱風吹き付け装置17においてはヒートボンド不織布16にエアスルー加工が施される。すなわち熱風吹き付け装置17は、所定温度に加熱された熱風がヒートボンド不織布16を貫通するように構成されている。エアスルー加工は、ヒートボンド不織布16中の熱伸長性複合繊維が加熱によって伸長する温度で行われる。かつ、ヒートボンド不織布16における接合部以外の部分に存するフリーな状態の熱伸長性複合繊維どうしの交点、熱融着性複合繊維どうしの交点、及び熱伸長性複合繊維と熱融着性複合繊維との交点が熱融着する温度で行われる。尤も、斯かる温度は、熱伸長性複合繊維の第1樹脂成分及び熱融着性複合繊維の高融点成分の融点未満の温度に設定する必要がある。
【0053】
このようなエアスルー加工によって、接合部以外の部分に存する熱伸長性複合繊維が伸長する。熱伸長性複合繊維はその一部が接合部によって固定されているので、伸長するのは接合部間の部分である。そして、熱伸長性複合繊維はその一部が接合部によって固定されていることによって、伸長した熱伸長性複合繊維の伸び分は、ヒートボンド不織布16の平面方向への行き場を失い、該不織布16の厚み方向へ移動する。これによって、接合部間に凸部19が形成され、不織布10は嵩高になる。また、多数の凸部19が形成された立体的な外観を有するようになる。更にエアスルー加工によって、凸部19における熱伸長性複合繊維どうしの交点、熱融着性複合繊維どうしの交点、及び熱伸長性複合繊維と熱融着性複合繊維との交点がそれぞれ熱融着によって接合する。
【0054】
エアスルー条件を制御し、熱伸長性複合繊維が完全に伸長しきらないうちにエアスルー加工を終了させることで、以後の熱処理工程で更に伸長可能な熱伸長性複合繊維を含む不織布も得ることができる。したがって不織布10は、熱によって伸長可能な熱伸長性複合繊維を原料として製造されたものであり、かつ加熱によって伸長可能な状態で存在しており、加熱によってその長さがある程度伸長した状態の繊維を含むものである。
【0055】
予め親水化剤が付着している熱伸長性繊維を含むウエブに対してエアスルー加工を行い、該熱伸長複合繊維を伸長させる場合、熱風の通過量を低く制御することによって、図1(b)に示す不織布10の頂部P1からP3に向けて、かつP3からBに向けて加わる熱量が異なるようになる。そして、繊維に加わる温度が高い部位ほど伸長率が大きいとともに、親水性が低下することが、本発明者らの検討の結果判明した。したがって例えば図2に示す製造方法においては、熱風の吹き付け面側に位置する熱伸長性複合繊維ほど伸長の度合いが大きくなり、親水性の低下が大きくなる。熱風の吹き付け面は、不織布10における凸部19及び凹部18が形成される面なので、得られた不織布10について言えば、凸部19の頂部に向かうほど親水性の低下が大きくなる。親水性の低下は接触角の増大と同義なので、換言すれば、熱伸長性複合繊維は、凸部19において、その頂部P1から不織布10の裏面10a側に向けて、つまり図1(b)においてP1からP3に向けて、かつP3からBに向けて、該熱伸長性複合繊維の接触角が漸次小さくなる。
【0056】
このようにして得られた不織布10は、その凹凸形状、嵩高さ及び液透過性のしやすさを生かした種々の分野に適用できる。例えば使い捨ておむつや生理用ナプキンなどの使い捨て衛生物品の分野における表面シート、セカンドシート(表面シートと吸収体との間に配されるシート)、あるいは対人用清拭シート、スキンケア用シート、更には対物用のワイパーなどとして好適に用いられる。
【0057】
これらの用途に使用される前の状態の不織布10は一般にロール状に巻回された状態で保存されている。このことに起因して不織布10は、その嵩高さが減じられている場合が多い。そこで不織布10の使用時には、該不織布10にエアスルー方式で熱風を吹き付けて、減じられた嵩を回復させることが好ましい。嵩の回復においては、不織布10に吹き付ける熱風として、熱伸長性複合繊維における第2樹脂成分の融点未満で、かつ該融点−50℃以上の温度の熱風を用いることが好ましい。このような不織布の嵩回復方法としては、例えば本出願人の先の出願に係る特開2004−137655号公報、特開2007−177364号公報及び特開2008−231609号公報等に記載の技術を用いることができる。
【0058】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づいて説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば前記実施形態における不織布10の凹部は、菱形格子状をなす形状をしていたが、これに代えて散点状に分散配置されたドット状の凹部を採用してもよい。また正方形若しくは長方形の格子状や、亀甲模様をなす形状を採用してもよい。
【0059】
また前記実施形態においては、接合部(凹部18)の形成に熱エンボス加工を用いたが、これに代えて超音波エンボス加工によって接合部を形成することもできる。また、不織布10は単層の構造のものに限られず、不織布10に他の不織布を一層又は二層以上積層一体化した多層構造にしてもよい。
【実施例】
【0060】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。
【0061】
〔実施例1〕
図2に示す装置を用い、図1に示す単層の不織布10を製造した。図2に示す装置におけるエンボスロール14は、線の幅が0.5mmである菱形格子状の凸部を有するものであった。このエンボスロール14におけるエンボス化率(接合部率)は、14.1%であった。熱伸長性複合繊維及び熱融着性複合繊維として表1に示すものを用い、同表に示す条件で不織布を得た。得られた不織布においては、熱伸長性複合繊維どうしの交点、熱融着性複合繊維どうしの交点、及び熱伸長性複合繊維と熱融着性複合繊維との交点がそれぞれエアスルー方式で熱融着していた。また、得られた不織布に含まれる繊維について、先に述べた方法で熱伸長性の有無を判断したところ、熱伸長性を有する繊維が含まれていることが確認された。熱伸長性複合繊維は、引き取り速度1300m/分で溶融紡糸されたものである。溶融紡糸後に、熱伸長性複合繊維を親水化剤の水溶液に浸漬し、親水化剤を付着させた。次いで、機械捲縮を施した後、加熱処理を行うことで繊維を乾燥させ、切断して短繊維(繊維長51mm)を得た。親水化剤の付着量は0.4重量%であった。なお、該繊維を製造するに延伸処理は行ってはいない(以下の実施例及び比較例においても同様)。なお、ここでいう延伸処理とは、溶融紡糸後に得られる未延伸糸に対して通常行われる2〜6倍程度の延伸操作を意味する。
【0062】
〔実施例2ないし4及び比較例1ないし6〕
表1に示す繊維を用い、かつ同表に示す条件を用いた。これ以外は実施例1と同様にして不織布を得た。各実施例において得られた不織布においては、熱伸長性複合繊維どうしの交点、熱融着性複合繊維どうしの交点、及び熱伸長性複合繊維と熱融着性複合繊維との交点がそれぞれエアスルー方式で熱融着していた。また、各実施例で得られた不織布に含まれる繊維について、先に述べた方法で熱伸長性の有無を判断したところ、熱伸長性を有する繊維が含まれていることが確認された。
【0063】
表1中に示した親水化剤A〜Fは、それぞれ下記のとおりである。
〔親水化剤〕
A:ポリオキシエチレン(付加モル数2)ステアリルアミド(川研ファインケミカル株式会社製、アミゾールSDE)及びアルキルホスフェートジカリウム塩(花王株式会社製、グリッパー4131の水酸化カリウム中和物)を50重量%:50重量%で配合した親水化剤
B:ジグリセリンステアリン酸エステル(理研ビタミン株式会社製、リケマールS−71−D)及びポリオキシエチレンラウリルエーテル(花王株式会社製、エマルゲン102KG)を50重量%:50重量%で配合した親水化剤
C:ポリオキシエチレン(付加モル数2)ステアリルアミド(川研ファインケミカル株式会社製、アミゾールSDE)及びステアリルベタイン(花王株式会社製、アンヒトール86B)を50重量%:50重量%で配合した親水化剤
D:ポリオキシエチレン(付加モル数2)ステアリルアミド(川研ファインケミカル株式会社製、アミゾールSDE)及びジグリセリンラウレート(理研ビタミン株式会社製、リケマールL−71−D)を50重量%:50重量%で配合した親水化剤
E:ポリオキシエチレン(付加モル数2)ステアリルアミド(川研ファインケミカル株式会社製、アミゾールSDE)及びラウリルリン酸エステルジカリウム塩(東邦化学工業株式会社製フォスファノールML−200の水酸化カリウム中和物)を50重量%:50重量%で配合した親水化剤
F:ラウリルリン酸エステルジカリウム塩(東邦化学工業株式会社製フォスファノールML−200の水酸化カリウム中和物)及びジメチルシリコーン(信越化学工業株式会社製、KF−96L−0.65CS)を50重量%:50重量%で配合した親水化剤
【0064】
【表1】

【0065】
〔評価〕
実施例及び比較例で得られた不織布について、先に述べた方法で繊維の接触角を測定した。以下の方法で不織布における液残り量及び液流れ量を測定した。更に、熱風の吹き付けによる嵩回復性について評価した。それらの結果を前記の表1並びに以下の表2及び3に示す。
【0066】
〔液残り量〕
市販の生理用ナプキン(花王製、商品名「ロリエさらさらクッション ウィング付き」)から、表面シートを取り除いて、ナプキン吸収体を得る。また、測定対象の不織布をMD50mm×CD50mmに切断し、切断片を作製する。この切断片を、前記ナプキン吸収体における前記表面シートが存していた箇所(ナプキン吸収体の肌当接面上)に、図1(b)における不織布10の裏面10aが該ナプキン吸収体との対向面となるように接着剤で接合固定して、測定対象の不織布を表面シートとして用いた生理用ナプキンを得る。前記測定対象の不織布を用いた生理用ナプキンの表面上に、円筒状の透過孔を有するアクリル板を重ねて、該ナプキンに100Paの一定荷重を掛ける。斯かる荷重下において、該アクリル板の透過孔から脱繊維馬血3.0gを流し込む。脱繊維馬血を流し込んでから120秒後に更に脱繊維馬血3.0gを流し込む。合計6.0gの脱繊維馬血を流し込んでから60秒後にアクリル板を取り除き、次いで不織布の重量(W2)を測定する。そして、予め測定しておいた、脱繊維馬血を流し込む前の不織布の重量(W1)との差(W2−W1)を算出する。以上の操作を3回行い、3回の平均値を液残り量(mg)とする。液残り量は、装着者の肌がどの程度濡れるのかの指標となるものであり、液残り量が少ないほど高評価となる。
【0067】
〔液流れ量〕
前記〔液残り量〕と同様にして、測定対象の不織布をMD150mm×CD50mmに切断し、該不織布を表面シートとして用いた生理用ナプキンを得る。試験装置は、ナプキンの載置面が45°傾斜している載置部を有している。この差一部に、表面シートが上方を向くようにナプキンを載置する。試験液として、着色させた蒸留水を1g/10secの速度でナプキンに滴下させる。初めに不織布が濡れた地点から試験液が吸収体に初めて吸収された地点までの距離を測定する。以上の操作を3回行い、3回の平均値を液流れ距離(mm)とする。液流れ距離は、液が装着者の肌をどの程度伝うのかの指標となるものであり、液流れ距離が短いほど高評価となる。なお、液流れ距離が100mmを超えたものに関しては、>100と表記する。
【0068】
〔嵩回復性〕
不織布10を外径85mmの紙管に巻き長さ2700mでロール状に巻回し、常温で2週間保管する。この保管後の不織布を、直径500mmより外側で、かつ直径で600mmより内側の範囲において、150m/minの搬送速度で繰り出し、処理温度115℃、処理時間0.20秒、風速2.8m/秒で該不織布に熱風を吹き付けることにより、不織布厚みを回復させる。不織布の嵩回復性は、不織布をロール状に巻きつける前の不織布の凸部の厚み(保存前厚み)をCとし、熱風吹き付け後の不織布の凸部の厚み(回復後厚み)をDとしたとき、以下の式(2)で表される。熱風吹き付け後の不織布厚みの測定は、熱風吹き付けから1分〜1時間後に測定する。不織布の厚みは、先に述べた方法で測定する。
嵩回復性(%)=D/C×100 (2)
式(2)で算出した嵩回復性が60%未満の場合を×、60%以上〜70%未満の場合を△、70%以上〜80%未満の場合を○、80%以上の場合を◎と評価する。嵩回復性の値が高いほど高評価となる。
【0069】
【表2】

【0070】
【表3】

【0071】
表2に示す結果から明らかなように、各実施例で得られた不織布は、液残り量が少なく、かつ液流れ距離が短く、吸収性能が非常に高いものであることが判る。また、熱風を吹き付けた後の不織布の嵩回復性に優れていることも判る。これに対して、表3に示す結果から明らかなように、熱伸長性複合繊維のみからなる比較例1の不織布や、熱融着性複合繊維のみからなる比較例2〜4の不織布、更に熱伸長性複合繊維と熱融着性複合繊維からなる比較例5〜6の不織布は、液残りしやすいものであるか、液が流れ易いものであるか、又は不織布の嵩回復性に劣るものであることが判る。
【符号の説明】
【0072】
10 不織布
11 カード機
12 ウエブ
13 エンボス装置
14 彫刻ロール
15 平滑ロール
16 ヒートボンド不織布
17 熱風吹き付け装置
18 凹部
19 凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱によってその長さが伸びる熱伸長性繊維と、融点の異なる2成分を含みかつ延伸処理されてなり加熱によってその長さが実質的に伸びない非熱伸長性の熱融着性複合繊維とを含み、該熱融着性複合繊維は親水化剤が付着したものであり、水との接触角が50〜75°である不織布。
【請求項2】
前記熱伸長性繊維と前記熱融着性複合繊維との混合比率(前者/後者)が重量比で20/80〜80/20であり、
前記熱伸長性繊維どうしの交点、前記熱融着性複合繊維どうしの交点、及び前記熱伸長性繊維と前記熱融着性複合繊維との交点がそれぞれエアスルー方式で熱融着している請求項1記載の不織布。
【請求項3】
前記熱伸長性繊維は親水化剤が付着したものであり、その接触角が40〜90°である請求項1又は2記載の不織布。
【請求項4】
一方の面に多数の凸部及び凹部を有し、該凸部においてはその頂部から不織布の他方の面側に向けて、前記熱伸長性繊維の水との接触角が漸次小さくなっている請求項3記載の不織布。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の不織布を用いた吸収性物品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−127258(P2011−127258A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−288241(P2009−288241)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】